緋弾のアリア 不屈の武偵   作:出川タケヲ

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文化祭 1

 

 

 

 武偵高の文化祭は、10月30日と31日の2日間に渡って催される。

 世間一般では文化の日(11月3日)に文化祭をするのだが、それと被らないように日をずらしているからだ。

 

 今はまだハロウィンが定着しきっていない現代日本では、この武偵高の文化祭にも割と多くの人が集まってくる。たとえそれが、平日でも。

 好きな人なら仕事を休んででも来るし、マスコミも集めて報道番組で特集を組む。中にはサクラもいるので、武偵のイメージアップには大きく貢献できるのだ。

 

 尤も、警察関係者や武偵関係の仕事に就いている人なんかはお忍びで毎年大勢来て良いコメントをしてくれているので、あまりサクラは必要ないのだが。

 

 

「人が多いなぁ……」

「まあ文化祭だし、こんなもんだろ」

 校門で来場者の誘導をさせられている俺と龍は、駄弁りながら後ろの賑わっている空間を横目で見ていた。

 

 この文化祭は生徒が楽しむのではなく、来場した外部の人間が楽しまなくてはならない。

 

 なので、俺達生徒の中でも最も力のない1年生が前日までの片付けから当日の仕事、さらには後始末まで全てやらされる羽目になるのだ。

 

 その1つがこの役割。やってきた一般人が道に迷わないように、こうして入り口までの道順を丁寧に教えながら一緒に地図も配っているのだ。

 

 

 しかし、来場者の数には波があって、猫の手も借りたい時もあれば暇過ぎて眠たくなってくる時間帯もある。今がその退屈な時間帯だ。

 

 

「おい、響哉。そろそろ教えてくれよ」

「何をだよ」

「時任さんと久我さん、どっちが本命だ?」

「はぁ? 何馬鹿なこと言ってんだよ。2人とも、ただの友達だ」

 

 時任は元々男嫌いだし、雅は言わずもがな。そういう、彼氏彼女の関係にはなっていない。本当にただの異性の友達というやつで、それ以上でもそれ以下でもない。

 

 

「案外、そう思ってんのはお前だけかもしれねえぞ?」

「寝言は寝て言うから許されるんだぜ」

「……ま、当人がそうまで言い切るんだから、本当に俺の勘違いかもな」

「当たり前だろ」

 

 などと、パイプ椅子に座りながらその後も俺達はダラダラと何気ない会話をしていた。戒と春樹は今頃何をさせられているのやら。

 

 

(そういや、諜報科の仕事は何なんだ……?)

 

 もし雅が仕事を終わらせて自由行動をしているのだと思うと、不安になってくる。アイツはいい歳なのにお菓子か何かで釣られてしまいそうな性格だから、変な問題を起こしてしまわないか心配なのだ。

 

 以前、アイツと飯を買いにコンビニに入ったときは、レジを通さずにその場でパンやらおにぎりやらを食い始めたことがある。包装も破かずに。そういう常識が、欠落しているのだ。

 

 『仕事が終わって自由になったら、真っ直ぐ入り口の俺の所まで来い』と昨日のうちに何度も言い聞かせておいたが、大丈夫だろうか。

 

 

 

 と、そんなことを考えていた時だった。俺の携帯に電話が入り、着信音が鳴る。

 着信は、志波からだった。

 

 

「俺だ。どうかしたか、志波」

 席を立ちながら、龍に背を向けて俺は電話に出た。

 

『あ、響哉くん? ちょっと時任さんの所まで行ってくれない? SSRの校舎に、久我さんがいるらしいんだけど』

「はぁ? 何で雅がS研なんかにいるんだよ」

『それが、道に迷ったらしいのよ』

 

 どこの世界に自分の学校で道に迷う高校生がいるんだ……! 確かに武偵高は広いが、1つ1つの建物が大きくて特徴的だから、そこまで道に迷うような構造じゃないはずだぞ。

 

 

『今、時任さんが面倒見てるって。私は狙撃科棟から出られないから……』

『志波ぁ! 手が空いてるなら手伝ってくれ!』

 電話の向こうから、志波じゃない男の声が入ってくる。確か狙撃科では実際の射撃レーンを使って射的をやっていたはずだから、それの仕事が忙しいんだろう。

 

『分かりましたぁ! ――じゃあ響哉くん、お願いね!』

「あ、おい! ……切りやがった」

 俺は電話を耳から離し、通話を切断して携帯をポケットに仕舞った。

 

「3人目は狙撃科の志波ヰ子かー。あの子も可愛いよなー」

「お前が思ってるような間柄じゃない。それより、龍。ここ任せてもいいか?」

「報酬は?」

「学食で奢ってやるよ。1000円分な」

「2000円」

「……オーケイ、それでいい。任せたぞ」

 

 余計な所で嫌な出資の約束をしてしまったが、待ちくたびれた雅が変な気を起こさないうちに迎えに行かないと、さらに大きな出資をする羽目になるかもしれない。

 2000円は大きいが、仕方あるまい。装備の維持費も含めて、来月の頭には民間の依頼を受けておこう。

 

 そう心に決め、俺は急いでSSR棟へ走った。

 

 

 

 


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