「――何っ!? 侵入者だと!!」
時雨沢組の組長、時雨沢景義(しぐれさわかげよし)は2人の側近の報告に耳を疑った。
深夜ということもあって深い眠りに着いていたのを、大慌ての側近に叩き起こされてつい先程まで不機嫌だったのだが、そんな事はもうどうでもよくなっていた。
徐々に近くなってくる銃声と組員の断末魔が、時雨沢の不安を煽ってくる。
「見張りは何をしていた!?」
「どうやら全員気絶させられたようで……応戦している組員からも連絡は一切ありません」
「くぅ……そうだ、雅(ミヤビ)はどうした!?」
時雨沢が怒鳴る。側近はとても言いにくそうに、
「ね、寝ております……」
と、答えた。
「――だったら早く起こしてこい!」
「っは!」
側近の1人は一目散に部屋の襖を開けて、雅を起こしに行った。
「何のために金を払って用心棒をやらせていると思っとるんだ……!」
歯を食いしばりながら、時雨沢は柱を殴った。
「おい! 敵は何人だ!?」
「確認できたのは1名だけですが、相手は武偵という報告があり、伏兵が隠れている可能性もあります」
「武偵……ッ!?」
時雨沢がその単語を反芻した、その時……!
バタンッ! と襖を蹴り倒しながら、彼らの目の前に人影が現れた。
「その通り、俺は武偵だ。テメェら全員、武器密輸及び麻薬売買の容疑で逮捕する。大人しくしていれば怪我しなくて済むぜ?」
その人影の正体は、朱葉響哉だ。NVDを額に上げ、LAM付きのH&K P2000を時雨沢らの方に向け、その引金には人差し指が掛かっている。
「――侮るな、若造がァ!」
時雨沢は着物の中から自動式拳銃……『SIGARMS GSR』を抜こうとした。
「甘ェ!」
『第六感』でそれを察知していた響哉が、P2000の引き金を引き時雨沢の手から拳銃を弾き飛ばす。銃声に萎縮した側近は「ヒィッ!」と短い悲鳴を上げて身を竦ませ、時雨沢は撃たれた手を庇いながら響哉を睨んだ。
「無駄な抵抗はやめろ!」
響哉は投降を促す。
(ここまでか……!)
時雨沢は諦めかけ、その目を硬く閉じた。
「それは困るわ」
スゥっと襖を開け、その奥から姿を見せたのは……15、6歳程に見える、上下黒い服を着た少女だった。
その少女は響哉と時雨沢の間に立ち、冷たい瞳で響哉を見据えた。
「女……!?」
「み、雅! そいつを殺せ! 殺すんだぁ……ッ!」
「分かった」
抑揚のない声で答える雅。そんな彼女の背後では、時雨沢とその側近が部屋から出て行こうとしていた。
「待ちやがれ!」
「あなたの相手は私」
雅は床を蹴り響哉との距離を詰めた。一瞬だけ気が時雨沢の方に向いていた隙を突かれたが、先に攻撃したのは響哉だった。
響哉はP2000を正面に向けていたため、即座に引金を引くことができた。銃声とともに発射された9ミリパラベラム弾は雅の脚に目掛けて飛んでいく。
しかし、雅は響哉が撃った瞬間、横に跳んで銃弾を躱した。その動きを『第六感』で予測できなかったことは大きい。
彼女はその直後、響哉の側頭部に回し蹴りを繰り出し、響哉の身体を吹っ飛ばした! 家の柱に頭を強くぶつけ、響哉は頭部から血を流している。
(なんて動きだ……反射神経は銭形並みか?)
響哉は畳に唾を吐き捨てながら、素直に彼女に感心していた。
立ち上がる時にコンバットナイフを取り出し、右手に拳銃、左手にナイフを構え、大きく息を吐いた。
すると、響哉の視線が鋭くなり、威圧感が増していく。
「…………」
何かを感じ取ったのか、雅は響哉が立ち上がる間に自動式拳銃『ベレッタM8045 クーガーF』とナイフを取り出し、互いに一剣一銃(ガンエッジ)の構えとなり対峙した。
一時の静寂が辺りを包み込んだ後――――響哉と雅は、同時に駆け出した。