緋弾のアリア 不屈の武偵   作:出川タケヲ

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アドシアード 3

 

 

 

 ケースD7が発令されたという周知メールが来る前から、俺は狙撃科棟を飛び出して志波を捜しまわった。

 ジュリアが志波が行きそうな場所を捜しているので、俺は志波を隠しそうな場所を捜していた。

 つまり、人気(ひとけ)が少なくて、物を隠す場所が多い場所。

 

 これだけ捜索範囲を限定すれば、ひょっとしたら見つかるかもしれない。

 

 いや、そうじゃない。見つけるんだ。絶対に。

 

 

 

 ――俺はまず、第2グラウンドの体育倉庫に向かった。だが、そこには誰も居なかった。

 次に、車両科(ロジ)の倉庫の中を調べた。だが、そこにも志波はいなかった。

 

 残り時間は――あと、15分。

 

 ここの他に体育倉庫や用具入れは、まだ4つ以上ある。狙撃科のヤツらや龍達にも捜してもらっているが、まだ連絡は入ってきていない。

 

 

 となると、学園島にはもう、志波はいないのかもしれない。

 

 

 

 

(いや……まだ捜してない場所が、残っている)

 

 

 

 それは、俺の足の下。つまり地下。

 

 

 

 『地下倉庫(ジャンクション)』だ――――。

 

 

 

 武偵高には、3大危険地域と呼ばれる、生徒は滅多な事が無い限り近寄りたくない地域(エリア)がある。

 鬼の巣窟こと教務科(マスターズ)。地獄の1丁目である強襲科(アサルト)。そして、もう1つが……俺が今から行こうとしている火薬貯蔵庫、地下倉庫。

 

 幸い、この車両科の第3備品倉庫には地下倉庫直通のエレベーターとハシゴがある。

 だが、この先は合計7階層にもなる巨大な地下空間だ。エレベーターで行った先に志波がいるかどうかなんてわからない。

 

 俺はエレベーターを使わず、ハシゴを使う事を決意する。

 

 マンホールの様になっているハシゴ用の扉は、浸水時の隔壁の役割も果たしており、パスワード認証、カードキー、非接触(コンタクトレス)ICを使って扉を開け、俺はすっかり錆びついたハシゴを滑るように降りて行った。

 

 降り立った地下1階はボイラー室で、志波が隠れられるようなスペースは無かった。

 俺はそこをスルーし、同じように扉を開け、地下2階へと降りていく。

 

「志波ー! いるんなら返事しろー!」

 しかし、志波の返事は無かった。気絶させられているのかもしれないが、生憎捜しまわれる時間はない。俺は地下3階へと降りて行った。扉を開けるのが面倒くせぇ。

 

 だが、地下3階、4階、5階にも、はたまた地下6階にも志波はいなかった。

 

 

「ってことは、あそこしかねえか…………」

 このだだっ広い地下空間の最下層。3大危険区域、地下倉庫の指す、本当の危険区域。

 

 地下7階……火薬庫だ。

 

 

 俺はH&K P2000の安全装置(セーフティ)を確認し、志波を捜しに行く。

 

「志波ー! いるかー!?」

 俺がフロア全体に響くくらい大声でそう叫んだ時、

 

 

「ンーー! ンーーーー!!」

 志波の声が、確かに聞こえた。

 

 俺はその志波の叫びを頼りに、火薬庫の中を駆け回った。【DANGER】やら【KEEP OUT】やらの警告が、赤い非常灯に照らされている。恐ろしい光景だよ。

 

 そんな火薬庫の隅に、大きめの棚でカモフラージュされていた志波を見つけた。

 志波は口をガムテープで塞がれていて、手足を縛られて動けなくされていた。

 

「ちょっと我慢しろよ」

 俺は志波の口に貼られていたガムテープを一気に引き剥がした。

 

「志波、急いでここから出るぞ。競技開始まであと5分しかない」

 志波の手足に巻きつけられたロープを、俺はナイフで切り裂いた。

 

 そして志波の手を持ってエレベーターの前に向かった。

 

「あ……ありが、とう…………」

 志波は弱っているのか、その声に力は無かった。

 

「礼を言うのはまだだ。こっから狙撃科棟まで間に合うかどうか……。それに、お前ライフルはどうしたんだよ」

 今の志波は、何も武器を持っていない。丸腰だ。

 

「犯人に盗られちゃったみたい……。でも、狙撃科にある銃で出場するから大丈夫よ」

「お前、それじゃあ…………」

 たとえ間に合っても、出場できても…………結果なんて、目に見えてるじゃないか!

 

 今日のために、念入りに整備してきたはずだろう。なにより中学時代から使っていた自分の相棒だって言っていたくらいだ。いくらAランクといっても、今更他の銃なんて使っては本来の力の1割も発揮できないだろう。

 

 

 ……そんなのって、ねェだろ…………!

 

 

 ガンッ!

 

 思えば俺は、エレベーターの分厚い扉を殴っていた。

 

 

 自分のことじゃない。しかし怒りが沸いてくる。理不尽すぎる現実に、無性に腹が立つ。

 

 

 

 手の痛みが伝わってきた時、エレベーターが到着した。

 

 

 その扉が開いた時、俺は自分の目を疑った。

 

 

 

 ――幻覚じゃないか? 目の錯覚じゃないか?――

 

 

 

 しかし、目の前にいた『彼女』は間違いなく本物で、現実にそこにいた。

 

 

 

 

 

「…………なんで、お前がここにいるんだ――――!?」

 

 

 エレベーターに乗っていたのは、俺の幼馴染だった。

 

 

 

 

 

 

 ――――2年前に、死んでしまったハズの――――。

 

 

 

 

 


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