緋弾のアリア 不屈の武偵   作:出川タケヲ

12 / 96
カルテット 2

 

 

 教務科が指定した俺達の競技は――――『毒の一撃』。試験の相手は幸いにも女子4人の班に決まった。時任は男に触れたくないらしいので、相手が男ばかりだったらどうしようかと思っていた。

 

 この試験の勝利条件は、『毒虫(ハチとクモ)』の攻撃フラッグを相手の『目』の描かれた防衛フラッグタッチすること。

 試験場は武偵高第11区に指定されている区画全域。そこにある物なら何を使っても構わない。開始場所は、俺達は北端の工事現場側、相手は南端の公園側から開始となる。

 

 ルール自体はシンプルだが無数の作戦が立てられ、様々な能力を試される試験となっている。

 

 ちなみに使用弾薬は万が一のことを考えて全てゴム製の非殺傷弾。それでも頭部に着弾すれば死ぬこともあるという。

 

 

 ――この試験、戦闘能力に差があってもフラッグさえ盗むか破壊すれば攻撃ができなくなるので、相手が誰であろうと一分の油断はできない。

 

 

 

 そして――――カルテット当日――――。

 

 

「フラッグはここに埋めよう」

 工事現場の砂山に穴を掘り、俺はフラッグを埋めて隠した。そことは別の所にも、旗の捜索を撹乱させるために穴を掘っては土を被せておく。

 

「……こういう形式の試験は始めてだな。緊張してきた」

「今さら何を言っているんだお前は。この程度、レクリエーションにしか過ぎないぞ」

 山吹は眼鏡をクイッと上げながら言う。コイツに言われるとムカつくが、正論なので言い返すことができない。言い返せても疲れるだけなのでやらないと思うが。

 

 

「しっかりしろ響哉。お前がそんな調子では、勝てる試合も勝てなくなる」

「私達も援護するから、頑張って」

「お、おう……」

 時任と志波に激励を送られ、余計にプレッシャーが増したような気がするが……何とかベストを尽くすことだけを考えていこう。

 

「スー、ハー……よし、行くぞ!」

 大声を出すことで不安を振り払い、俺はライトの付いたP2000を携えながら工事現場のマンホールから下水道に降り立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時任ジュリアは単身で、南端の公園に行く駐車場側のルートを走っていた。その白魚のような美しい手には、ロシアの自動式拳銃『マカロフ拳銃』が携えられている。

 

 だが、彼女は基本的には非戦闘員である。そもそもこの班は攻撃手として活躍できる戦闘員が響哉しかおらず、狙撃科の志波ヰ子は後方火力支援が基本。SSRのジュリアと尋問科の山吹進一郎は論外である。

 

 さらに不運なことに、相手は4人のうち3人が強襲科、もう1人は諜報科の、超攻撃的な人員となっている。

 相手の行動を先読みできる響哉ならまだしも、戦闘訓練すらほとんど受けていないジュリアが勝てるわけがなかった。

 

 

 

 一般人も普段通りに往来する武偵高第11区で、ロシア人の血を半分継ぐジュリアは目を引くような美人というのも相まって、否応でもこの場所で目立っていた。なのであまり隠れるようなことはせず、逆に堂々と歩道の真ん中を歩いていた。

 

 

 バンッ!

 

 銃声が轟く。音源はジュリアの後ろからだ。銃弾はジュリアの脹脛に命中するが、ゴム弾なので銃弾は貫かない。しかし、代わりに鈍痛が身体を走る。

 

 銃を撃ったのは強襲科の女子。どうやら一般人に変装し、背後から不意打ちを仕掛けたものと思われる。

 

 

「っく……!」

「もらった!」

 顔を顰めるジュリア。しかし彼女を発砲した相手はすぐさま変装を解き、ジュリアのフラッグを強奪しようと手を伸ばす。

 

 

 ――が、その手がジュリアに触れることは叶わなかった。

 

 

「きゃ……!?」

 超高速で飛来した物体に手を弾かれ、強襲科の女子は小さな悲鳴を漏らす。

 

 

 

『目標、右手甲に命中。続けて狙撃します』

 インカムから入ってくる、女性の声。その直後、乾いた破裂音がインカムを通してジュリアの耳に届いてくる。

 

 それとほぼ同時に、ジュリアを襲った女子は右膝を狙撃され、衝撃でバランスを崩し転倒してしまう。

 

 

「動くな!」

 ジュリアが倒れた女子生徒の頭部にマカロフの銃口を向ける。

 

「銃を捨てて手を頭の後ろに置きなさい」

 女子生徒は言われた通り、拳銃を地面に置き、言われた通りホールドアップ(戦う意志がない姿勢)した。

 

 

 

 

 ――響哉達が出発した北端付近にあるビルの工事現場。その屋上に、2人の人影があった。

 

 匍匐状態で二脚で固定した狙撃銃のスコープに目を当てる志波ヰ子と、彼女の隣で観測手(スポッター)をしている山吹進一郎だ。

 

 志波が使っている狙撃銃は、米のレミントン・アームズ社製対人狙撃銃『M24』である。日本の陸上自衛隊が使用している物と同一だ。

 

 志波から狙撃地点までの距離はおよそ50メートル。Cランク以上の武偵ならば、足場さえ安定していれば放り投げられたテニスボールだって撃ち抜くことができる。

 

 

「時任様、お怪我はありませんか?」

 山吹がジュリアにインカムで訊く。

 

 

『脹脛を撃たれたが問題ない。……ところでその「様」というのは何なんだ?』

「時任様は時任様であります」

『…………』

 

 声も出ないジュリア。何かを察したのか、彼女はこれ以上山吹に何かを尋ねることはなかった。

 

 

『――こちら朱葉。たった今地上に出た』

 インカムから入ってきたのは、響哉の声だった。

 

 

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。