うずまきナギサ物語~姉の愛は世界を救う~   作:レイリア@風雅

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8話 決意新たに

 

 

「ふむ……」

 

 

エロ仙人は顎に手をやり、考え込む。

どくん、どくん、と緊張に飛び出しそうな心臓を抑え、縋るようにエロ仙人を見つめた。

もし、もしこれが本当に”鬼神”の記憶なら……。

エロ仙人は私を、どうするんだろう。

殺される?

それとも……どこかの牢獄にでも入れられて、それで……それからは?

 

 

「……やはり、まずは”鬼神”のことについて話をしておいた方がいいかもしれんな」

 

「え……?」

 

 

少し、肩透かしを食らったような気分だった。

 

 

「”鬼神”ってのがなんなのか……そもそもお前は知っているか?」

 

「そんなの、名前しか知らない。里の奴らが話していたのも、封印されているこいつの名称とかしか分からなかったし……」

 

 

そもそも聞いたって誰も答えてくれやしないのだから、詳細なことなんて何も知らない。

ただコイツが化け物と恐れられていて、どういう経緯でそうなったのかは知らないが、私に封印された。

だから私は父さんと母さんと離れて暮らさなきゃならなくなったし、里の奴らにも迫害されている。

私が知っているのなんて、そんなもん。

大雑把なあらすじ程度のものだ。

 

 

「じゃあまずはそこからだのォ。

”鬼神”ってのはな、大国同士の戦場で必ず現れた女鬼……妖魔のことだ。」

 

 

昔から、大国同士のいざこざがある度に、”それ”はやってくる。

流れるような長く、絹糸のように艶やかな銀髪に、息をのむような輝きを放つ金色の瞳。

その容姿は額についた角なんて気にならない位、なんともいえんほど妖艶で、女男関係なく魅了する。

それほどその女鬼は恐ろしく美しかった。

 

 

「エロ仙人も、見たことがあるのか?」

 

「まあ、な……。二度ほどその姿を目にしたが、どちらとも死にかけた。

生き残れたのは運が良かったとしか言いようがないのォ」

 

 

それはさておき。

”鬼神”は戦場にフラリとやってくるなり、文字通り血の雨を降らせた。

それこそどちらの国の忍かなんて関係なく、その命を貪り尽くした。

時折息絶えた忍の身体を引き千切り、ワシらに見せつけるように頬張った。

凍り付いてしまいそうな美しい笑みを浮かべたまま、まるで舞いを披露しているかのように踊り狂いながら。

命からがら撤退したもんだ。

誰もがソイツの目の前では怖気づき、立ち向かうことは勇気ではなく無謀なのだと理解しちまうからな。

まぁ若かったワシは仲間の静止も聞かずに突っ込んでいこうとして綱手に遥か遠くへ殴り飛ばされたりしたが……。

撤退しながらも、射程範囲内にいる者には躊躇することなく攻撃するが、射程範囲外の者には追いかけることはしない。

そして、陣営に戻ったワシたちが救援隊を連れ、仲間の元へ戻った時には……。

 

 

「もう、なんにも残っちゃいなかった」

 

「……残って、なかったって……」

 

「死体も、身に着けていたはずの道具さえ、何もかも”鬼神”が掻っ攫っていっちまったんだよ」

 

 

その場に残っていたのは血の海と、噎せ返るような鉄の臭いだけ。

戦場に現れるのは基本、最初の襲撃の一回。

それ以降、戦場には一度も姿を現さなかった。

気味悪く思う者、今のうちにと意気込む者……さまざまな捉え方をするものがいた。

しかし、妙なことが起こり始めてのォ。

 

 

「妙な、こと……?」

 

「”鬼神”は戦争中、戦場以外のあちこちで目撃されるようになったのさ。

それこそ里に、それぞれの陣営に、またある時は誰かの隣に」

 

「……どーゆーことだよ?」

 

「分からんか?”鬼神”は、殺した忍と関わりの深い者の前に現れたんだよ」

 

「!?」

 

 

これは憶測にすぎんが……。

”鬼神”は、喰らった者の”記憶”や”経験”などを自分の物に出来るのだろう。

そうでなければ、どうしてアイツが里まで行ってわざわざソイツの姿や声まで真似して、その家族を喰らうことが出来る?

 

 

「奴はそうやって、数え切れんほど人々の命を、その存在を喰らった」

 

 

戦争など、とてもじゃないがやっている場合ではなかった。

両国とも手を引いて、国に戻った瞬間にはパタリと”鬼神”はまた姿を見せなくなった。

まるで幻術にでもかかっていたのではないか?

そう思うほどに、何の音沙汰もなくなったのだ。

しかし、それでは戦争の度に大勢の命が奴に喰われてしまう。

そこで、砂と木ノ葉で手を組んである作戦が行われることとなった。

 

”鬼神掃討作戦”

 

わざと両国の間で戦争を起こし、戦場へやってきた”鬼神”を消滅させる作戦だ。

 

 

「そんな、無茶だろ……。そもそも戦争なんてしなきゃいいじゃんか!」

 

「ワシも正直、そう思った。だが、問題は戦争じゃなかったんだよ」

 

「!……かたき討ち、か……」

 

 

そうだ。

肉親を、恋人を、仲間を……。

肉片一つ残さず貪り尽くした”鬼神”に恨みや憎しみを持たない者の方が少ない。

ワシとて思う所がねェと言ったら嘘になる。

……そんな顔をするな。

だからと言って別にナギサのことが憎いわけじゃねーよ。

 

他国が戦争をしなくなってから大分経っていたから、恐らく”鬼神”の力も多少落ちているはずだと推測され、作戦は決行された。

大々的な規模の小競り合いを始めたワシらの前に……”鬼神”は姿を現した。

死に物狂いで抑えかかったもんだよ。

突然結託したワシらにいつも微笑を浮かべていた”鬼神”が少しだけ驚いたような顔をしていた。

結局消滅させるのではなく、封印するのが手一杯だったがな……。

それでも思ってたほどの被害もなく、”鬼神掃討作戦”は幕を下ろした。

 

 

「これが、”鬼神”が木ノ葉と砂によって封印され、管理されるまでのワシが知りうる限りでの流れだのォ」

 

「……」

 

 

腹に触れる。

ここに、それだけ多くの人間を死に追いやった元凶が居る。

そりゃ、里の奴らにあれだけ迫害されても仕方がないような気がした。

 

でも、なんか……違和感がぬぐえない。

本当にこいつはただ、何の考えもなく人間たちを惨殺しまくったのか?

戦争の最中にしか、現れなかったってのに?

単純に戦争中の方が大量に獲物が手に入るから?

……それとも……

 

とりあえず、そっちの方は後でゆっくり考えよう。

今はエロ仙人の方が先だ。

 

 

「つまり、その話からエロ仙人が言いたいことってのは……私のさっきの”記憶”は、”鬼神”の記憶というより……」

 

「”鬼神に喰われた者たちの記憶”、そういうことだのォ」

 

 

ズシっと胃に重たいものが落ちる。

私の中に、死者の記憶がある?

それも、”鬼神”に喰われた奴らの……

 

 

「……笑えねーな……」

 

 

本当に、笑えない。

 

 

「ってことはなに?確か、”経験”もって言ったよな……。

つまり、それも喰らっちまっていて、更には私ともリンクしているから私の精神やらなにやらは異常な成長を遂げちゃってるってこと?」

 

 

流石に自分でも『可笑しい』って自覚していた。

けど、それは今おかれた環境のせいなんだと思ってた。

そうしなきゃ生き残れなかったってのも本当だし、それに自分が順応してきただけなのだと……。

……でもそれ……それってさ……。

 

 

「じゃあ私は?”うずまきナギサ”ってなんなんだよ!?

どっからどこまでが”ナギサ”でどこからが”鬼神が喰らった人間たち”なんだ!?」

 

 

頭を抱えながら顔が歪むのを感じ、俯く。

だってそうだろ?

この考え方も、この性格も、もしかしたらこの存在でさえ私じゃなくて……”うずまきナギサ”の物じゃなくて、名も知らない誰かの物かもしれないんだろう!?

 

 

「意味わかんねぇ!じゃあなんだ?エロ仙人も端から私を”ナギサ”だなんて見てなかったってわけ!?

”ナギサ”じゃなくて”鬼神”の力を活用する方法でも考えてたってか!?」

 

「おい、落ち着け。誰もそんなことは……」

 

「うるせーんだよクソジジイ!!」

 

 

結局、みんなそうだ。

”ナギサ”としてなんて誰も見てくれない。

誰も認めてくれない!

 

 

「どいつもこいつも私を”鬼神”として見ている、私に”鬼神”を重ねてる!

”鬼神”なんて知らねーっての!!私に違う存在を勝手に重ねてんじゃねェエエ!!」

 

 

それで憎しみを押し付けられて、憂さ晴らしに使われるなんて御免だ。

でも、この考えも、想いも、もしかしたら私のものじゃないかもしれなくて……っ。

じゃあ私ってどこにいんの!?

私ってなんなんだよ!?!?

 

 

「いい加減にしろ!!」

 

 

怒鳴り声に一瞬、身体がビクッと震えた。

それに負けじと怒鳴り返そうとした時、エロ仙人は溜息をついて私の頭に手を乗せる。

 

 

「確かにワシは、この間初めてお前を見たときそう思った。

”ナギサ”ではなく、”ナギサ”の姿かたちをしただけの”鬼神”なんじゃねーかってな……。」

 

 

ズキッ。

自分で言ったことのはずなのに、エロ仙人の口から言われるとすげぇ胸が痛い。

意地でも涙なんて零したくなくて、唇を噛みしめてやり過ごす。

 

 

「……だがな……。さっき確信したことがある」

 

「……確信、したこと……?」

 

「そうだ。お前、言ったな。

強くならなきゃ、守りたいって思った時に守れねーって」

 

 

目を見開く。

 

 

「お前の両親の傍には居たいけど、このままじゃ居させてなんてもらえねーんだって。

だから火影を守れるくらい強くなってやるんだって。

……それも、お前の意思ではないのか?」

 

「……それ、は……」

 

 

父さんと、母さんの傍にいたい。

これも、他人の感情や想いの記憶から形成されたもの?

 

 

「ちが、う……」

 

 

そんなはずない。

だってあの二人は私の父さんと母さんなんだ。

確かに、寂しいと感じた、あの気持ちは……傍にいたいと思ったあの心は、私の……。

 

 

「それにお前は友達のイタチってやつのことも守るんだと言っていたな。

強くなればいいこと尽くしだ、なんてアホみたいなこと言って笑ってのォ……

それを聞いて、ワシは安心した。

多少なりとも”鬼神”の影響こそ受けちゃいるが、お前は確かに”ナギサ”なのだと。

……少なくとも、”ナギサ”の意思はそこにあるのなら、それでいいんじゃねーか?」

 

「……」

 

 

イタチと友達になりたいと思ったことも、私のはずだ。

 

前に進んで、信じる道を歩いていく。

その方がきっと、いつか……私の願いに届くって信じてる。

そう信じたのも私のはずだろ。

 

 

「どうやら答えは出たみたいだのォ」

 

「……ごめん、エロ仙人」

 

 

何腐ってたんだか……。

今更こんなことで揺れるほど、優しい扱われ方なんてしてなかっただろうに。

 

 

「……それだけ”私”の部分があるなら、それでよかったんだよな」

 

 

何ネガティブになってたんだ、バカらしい。

性格や考え方なんて、もう定着してしまってるもんはしょうがないじゃないか。

”記憶”については……まぁ今後なんとかするとして。

それにさ。考えようによってはチャンスじゃないか。

 

 

「その能力を上手く自分に活用することが出来るようになれば……きっともっともっと強くなれる。

それこそ、父さんを守れるくらいに」

 

 

努力を怠らなければきっと結果はついてくる。

今は、嘆いて蹲ってる時じゃない。

 

 

「エロ仙人」

 

「なんだ?」

 

「……ありがとう」

 

「な、なんだよ、急にしおらしくなりおって……」

 

「よーし、気合入れ直すために一発殴らせろ」

 

「なんでそうなるんだお前はァー!!」

 

 

怒鳴られながらも、私は思わず笑ってしまった。

エロ仙人はなんだかんだ言って、ちゃんと私を見てくれてる。

それが分かったから、嬉しかったんだ。

 

 

「うし!これから修行よろしくな、エロ仙人!」

 

「全くお前は……まぁ、いい。明日からビシバシ鍛えてやるから、覚悟しとけのォ」

 

「オッス!!」

 

 

前に進もう。

進んだ先に、きっと大好きなあんたたちを守れるような自分が居るって、そう信じてるから。





どうして続いた鬱パート……。
し、しかしこれで取りあえずしばらくはシリアスない!予定です!!
閲覧ありがとうございましたー!

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