うずまきナギサ物語~姉の愛は世界を救う~ 作:レイリア@風雅
イタチは宣言通り、毎日迎えに来るようになった。
勝手に迎えに来ては一方的に話しかけて、そこまでしてなんで私にこだわるのか、私には全く理解出来なかった。
「ナギサ、今日からはいよいよ実技に入るな」
「……」
「楽しみだな」
無邪気に笑みを浮かべるそいつの顔をチラリと見る。
イタチは、アカデミーが始まってたった三日でたちまちモテるようになった。
今では毎日のように告白されては断るという光景が日常的だ。
……つか、お前、本当に3歳児かよ。
どんだけ精神的に成熟してんの。
いや、私も人のこと言えないけどさ。
「?どうした?オレの顔に何かついてるか?」
「……いや、何も」
あえて言うなら整い過ぎなんだバカヤロー
気になりだすと止まらないのか、必死に顔を拭く姿に柄にもなく可哀想、なんて思ってそう答えてしまった。
するとキョトンとされ、嬉しそうに。微笑まれた。
……なんか悔しいなチクショー。
その日の授業は最悪だった。
教師に見本として私が立たされ、普通の餓鬼じゃよけることなんざ不可能な体術をボロボロになるまで、立てなくなるまでかけられた。
それでも耐えていたらクラスの連中にも教師のヤローにも嘲笑われた。
ふざけんな、ホントはかわせんだよ。
ただ、かわしたら、絶対に今よりひどい目に合うと分かってるから。
ひたすら唇をかみしめて悔しさを押し殺す私を見ていたイタチに気づかずに……。
授業のあと、医務室に教師がいないのを確認して、私は応急処置のみして勝手にベッドに寝転んだ。
ミシリと体に響く傷に、惨めに思えてくる。
「ホント、なんでアカデミーなんかに通ってるんだろう」
少し仮眠とったら、また頑張ろう。
そう心に決めて、目をとじようとしたその時、誰かが医務室に入ってきた。
気配は二つ。
そのうちの一つは私がよく知ってる、イタチのものだった。
「ねぇ、イタチ君」
「なんなんですか。オレはついて来ないで欲しいと言ったはずですが」
刃物のように冷たいイタチの声にビックリする。
こんなイタチ、はじめて見たからだろう。
「もう、そんなに邪険にしなくてもいいじゃない?
あのさ、あのナギサって子と付き合ってるの??」
思わずベッドから落ちそうになってしまった。
な、なんて低次元な話しを始めるんだコイツ……。
お前こそなぜアカデミーに通ってんだそれでホントに真面目に忍目指してるなんて信じられないってーの……。
「あなたには関係ないでしょう」
「関係あるわよ?だってわたし……イタチ君のことが好きなんだもの」
ドクリと、心臓がはねた。
女子生徒がイタチに抱きついたのが気配で分かる。
「ねぇ……イタチ君。キスしよ?」
あーーーー面倒くせぇ!!
シャッと思い切りカーテンを引けば、イタチを押し倒す女子生徒の図。
なんだこれ本当に意味分かんない。
人が寝てる傍でイチャつきやがって……腹立つ。
「な、なによアンタ!!」
「はぁ?こっちが先にここで寝てたんだけど。
先輩、そーゆーことは教育上よろしくないんで、せめて学校外でやってくれません?」
「っアンタ、生意気なのよ!
対して可愛くもないクセにわたしのイタチ君にベタベタして……ッ!!」
「勝手なこと言わないでくださいよ。ンなくだらねぇことしか考えられないなら、忍にならない方がいいんじゃないの?
死ぬぞ、ホントに。
まぁ、私としてはどっちにしろどうでもいいんで、どっちだって構わないけど」
ねぇ、センパイ?
とわざとらしくニヤリと笑ってやる。
彼女はぐっと唇を噛みしめてから私を睨みつけて荒々しく出ていった。
「……はぁー、やっと寝られる」
「ナギサ……悪い、ありがとう」
助かったよ、と微笑を浮かべて私を見るイタチに別に、とそっけなく返して横になる。
正直、体限界だったし。
「こちとらこんなとこで見せつけられても迷惑だっただけだ」
「それでも、ありがとう」
嬉しかった、と本当に嬉しそうに言うものだから、照れてしまう。
だけど、一瞬とてつもない不安に駆られ、今まで聞かなかったことを聞いてみることにした。
「あのさ、お前すっごくモテるのに、なんで私に構うわけ?
放っておけばいいじゃんか」
里の、他の奴らのように……。
言葉には出来なかったが、ずっと疑問だった。
木ノ葉の嫌われ者にくっついていたって良いことなんてなにもないだろうに。
しかもあのエリートであるうちは一族の倅だ。
もっと他の人と仲良しになった方が得に決まっている。
人間、そんなものだろう。
それなのに、コイツは私と一緒にいるときのこの笑顔はアカデミーではどこへやら、いつも冷たい表情でクールに装うものだから、男子とは絶賛仲が悪い。
同じクラスになってしまったので、そういうところはすぐに分かってしまう。
そんなイタチが私にくっついて歩いているのはアカデミーでは有名になりつつある。
それが、疎ましくもあり、嬉しくもあり……なにより恐怖でもあった。
もう一度上半身を起こし、天井を睨み付ける。
「ナギサ……?」
「ほら、私はこんな風に疎まれて迫害されてる存在じゃん?良いことなんて一つもお前にないわけ。
私のとこなんかより絶対楽しいぞ?他の奴らのとこは」
「ナギサ、それ、本気で言ってるのか?」
顔もみずにそう告げたら、いつもの何倍も低い声で返ってきて思わずびくりと体を震わせてしまった。
どうしよう……怖いと思っている自分がいる。
そんな感情、とっくに捨てたはずなのに……。
バレたくないから抑えようとするのに、小さく震える体は止められない。
「あ、す、すまない……。」
「……っはぁ?何急に謝ってっ……!?」
突然抱きしめられる。
息ができなくなって、苦しくて、でもどこか安心する自分がいて……。
ああ……これは、まずい。
「オレはお前の、ナギサの傍にいられればそれでいい。
オレが友達でいたいと思うのはナギサだけだ」
「っお前、意味わか……」
「オレはナギサの友達でいたい。
オレのこと、信じてくれないか……?」
ドン、と勢いよくイタチを突き飛ばした。
勝手に体が動いて、ガタガタと震えが止まらない。
軽いパニック状態になってしまった。
冷たく、イタチを睨み付ける。
あー、何やってんだろう私。
こんなことがしたかったわけじゃないのに。
「信じられないよ……」
「ぁ……」
「今更、信じろって……?
ふざけるなッ!!
お前だって本当は里の奴らと一緒なんだろう?!」
フラつこうが、おかまいなしにイタチの胸ぐらを掴む。
もう、どうでもよかった。
何も、考えたくなかった。
ただ、勝手に口が動いてしまうのだけは止められなかった。
「私がやられてるとこ見て、他の連中と一緒にあざ笑って、楽しんでたんだろう?!
いい気味だって、そう思ってたんだろうッ?!
今日の授業だってそうだったもんなぁ?!
なのに今度は信じろって?
ふざけるな!!!」
荒くなっていく呼吸。
頭の冷静な部分が、必死に制止をかけるけど止まってくれない。
ああ、こんなのなんて情けない。
悲劇のヒロインなんて気取りたくないのに……!
「……いらないんだよ……ッ。
同情も中途半端な優しさも全部全部ッ!!!
テメェら人間なんて……人間なんて大ッ嫌いだッ!!!」
引き留める声が聞こえたけど、逃げるように駆けだした足は止まらなかった。
だが、すぐに視界がブレ、暗転した。
誰かが泣きそうな声で、私を呼んだ気がした……。
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「ナギサ!!」
突然体制を崩したナギサを地面にぶつかる前に支える。
幾筋もの涙の跡に胸がしめつけられた。
きっと、ナギサは気付いてないだろう。
大粒の涙を零しながら必死に叫んでいたことに。
「でも、どうしよう……」
先生なんかに渡したら、確実にヒドイ目に合うのはナギサだ。
暫く考えた末にイタチはナギサをおぶり、駆けだした。
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「ん……」
体に痛みが走って意識が覚醒する。
見慣れないベッドの上に横たわっていた。
あれ……、私、いつのまに……?
ベッドの匂いに安心感を覚えてしまって、うまく思考が働かない。
どうしようか、と柄にもなくのんびり考えていたらドアが開いた。
「あら、目が覚めたのね?」
良かった、そう微笑んだ女性はどこか見覚えがあり、はて誰だったかと思考を巡らせる。
長い黒髪、優しそうな瞳……。
「あ、入学式の時の……」
「覚えててくれて嬉しいわ、ナギサちゃん」
「う、わ……」
ふわり、と頭を撫でられ硬直してしまう。
慣れない、んだけど……こういうの……。
なんだか、ツンと鼻の奥が熱くなって俯く。
「あなたに会わせたい人がいるの。今連れて来るわね」
最後までニッコリ微笑んで部屋を出て行った。
……相変わらず変な人だ……。
つか、私イタチに最低なことをしたのに。
だって、私がやったことは里の奴らが私にしてるのと同じ事で……。
「ナギサ!!」
「かあ、さん……?」
「こんなに怪我して……ッゴメンね、ナギサ」
ギュウっと抱きしめてくれるその人、は……。
本来なら今日会ってはいけない人で……。
でも、普通の子供には常に傍にいてくれる存在で……。
溢れそうになる涙を唇を噛み締めてじっと耐えた。
「母さん……って呼んでもいい、の……?」
「ナギサ……当たり前、だってばね」
コツンと額と額を合わせてくれて、優しさに溢れたそれにもっととワガママしそうになるのを堪えた。
だって、一度味わったら、知らなかった頃には戻れないのと一緒で、今まで以上に孤独を感じることになると、分かっていたから。
控えめにキュッと母さんの袖口を握って、何度も名前を呼んだ。
「母、さん……ッ母さん……!!」
落ち着くまで、ずっとそうしていてくれた母さんは、突然私を正座させた。
いつの間に幻術でもかけられたのか、母さんの背後には鬼が見える。
「え、あの……母さん?」
「ナギサ、私がなんで怒ってるのか、分かってるってばね?」
~ってばねって言ったぁああああ!!!
冷や汗をダラッダラ流してしまう。
え、何今日の私。
カッコ悪ッ!!
「は、はい……い、イタチにヒドイことを言ったから、です、よ、ね……?」
「その通り。ナギサがやったことはね?」
「分かってるよ、私に暴力をふるう大人と一緒でしょ?」
ゴツン!!
「話を遮るのは関心しないってばね?」
「ご、ごめんなさい……」
こえええええ!!!
必死に土下座をした。
すると、母さんは少し安心したように微笑む。
何故に今微笑んだ?
どこにそんな要素が……。
「ナギサ、実は母さんそんなに怒ってないの」
「え……?」
「少し、ホッとしたよ。ナギサ、私たちには絶対に弱音とか、辛い、助けてなんて言わないでしょう?
それがどんな形であれ、誰かに吐き出すことができて、とても嬉しい」
「かあ、さん……」
「だから、お友達は大切にしなさい」
「……うん」
「ヒドイ事をしてしまった時はどうするの?」
「え?……つ、償う??」
私の中ではそんな答えしか出せなくて、首を傾げて問いかけた。
すると、しょうがないなぁ、とほほえみながら頭を撫でてくれる。
「もっと簡単なことなんだよ?素直にごめんなさいって謝れたら、それでいいの」
「謝る……?」
「うん。ナギサならできるよね?」
「う、ん……」
小さく頷いた私の背中を、そっと押してくれた。
私は、イタチのお母さんから場所を聞き、イタチの部屋へと向かった。
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来てみたはいいものの……。
こういう時、なんて言ってドアを開ければいいんだ?
とりあえずノックしようと手を伸ばす、それと同時に部屋のドアが開いた。
「~~~!?!?」
「ナギサ……?」
どうしようどうしよう!?とパニックになってるとふわりと抱きしめられた。
「良かった……ッ!!ゴメンナギサ、オレ、ナギサの気持ちも考えずに……!!」
「え、わ、私の方こそ……ゴメン、なさい……。
あんたにヒドイ事を言ってしまった。
どんな理由があっても、あんな事言うべきじゃなかったのに……。
本当にゴメン」
そう謝ると、イタチは驚いたように私を見つめる。
照れくさくなってそっぽを向いた。
「じゃあ、これで仲直りだな。
ナギサ、オレはお前がなんと言おうがお前の味方で有り続けるよ。
これから先も、ずっと信じてもらえなくても」
「……信じる、よ」
「……え?」
「イタチのこと、特別に信じてやる。」
その後しばらくイタチは上機嫌だった。
だから私もなんだか嬉しくて、初めて距離を縮められた気がした。
そして同時に、誰にも負けないくらい強くなりたいと本気で思った。
イタチを、イタチの大切な人を、母さんと父さんを、まもれるくらいに……。
それは、私が暗部に入るため、修行を始める切っ掛けになったのだった。
……すみません。
めっちゃ久しぶりの更新になってしまいました。
あんまり原作前の話とか書いたことなかったんで、中々展開が書きづらくて……。
今回は一人称視点にしてみましたが、いかがだったでしょうか?
結構ナギサ視点は書きやすかったですww
別連載の絆道のヒロイン視点は妙に書きづらくて……。
結局あっちは三人称視点でずっと進めています。
そしてそしてクシナさんの口調が定まらない気がする……。
まぁこちらも頑張って進めてまいりますので長ーい目で応援していただけたら嬉しいです。
感想などなどお待ちしております。