うずまきナギサ物語~姉の愛は世界を救う~   作:レイリア@風雅

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13話 朝食パニック

 

「ナギサ、お前はそこを動くな。オレがやる」

 

「……いや、慣れてねー奴が包丁使うなよ」

 

 

ツッコミも虚しく、イタチはざっくざっくと人参を切り始めた。

いやいや太すぎだから! しかも皮剥いてねーじゃねーか!

そもそも何を作ろうとしてるんだ、この坊ちゃまは。

 

 

「ここはオレの家で、お前はお客さんだ。分かるな?」

 

「それはバカでも分かるけど……」

 

「と、いうことはオレに朝食を作る義務があり、お前はそれを食べる権利があるということだ。分かるな?」

 

「……それも、分からないでもないけど……って待て待て待て待て! 指切れる! 危ないから、マジで!!」

 

 

包丁を振り落とす前になんとか止め、溜息をついた。

頭を抱えたい気分だ。

 

 

「……イタチってさ、クナイとか手裏剣の扱いはピカイチなのにこっちはてんでダメなのな……」

 

 

と、いうかそれが普通なのだろう。たぶん。

親が居て、作って貰える家の子供は、自分で調理する必要なんてねーんだから。

だからこそ……。

 

 

「あー! だから無理に切ろうとすんじゃねぇえええ!!」

 

 

慣れてない奴が包丁使うような料理するなって話なんだよな……!

 

 

+++++

 

そもそも、事の発端は昨夜。

フガクさんとミコトさんがうちは一族の会議? みたいなのに急遽出席しなければいけなくなったことにある。

どうやら何かあったらしく、その会議も突然決まったらしい。

何やら泊りがけになり、帰りは翌日の昼頃になるとのことで、ミコトさんは頬に手をあてて困り果てていた。

 

 

「せっかくナギサちゃんが来てくれているのに会議なんて……」

 

「申し訳ありません。ですが、今すぐ来ていただく……」

 

「うむ……仕方がない。すぐ支度をしよう」

 

 

フガクさんも難しい顔……はずっとしているけど、多分、もっと難しい顔になって渋々といった感じで頷いた。

そしてこちらをギロっと睨んでくるものだから、「ひっ!」と悲鳴をあげてしまった。

不覚……! だがしかしフガクさん怖い……!!

 

 

「……イタチ、戸締りをしっかりしておけ。もしもの時は……分かっているな?」

 

「! ……ああ。もしもの時は、オレが何とかする。ナギサのこと、ちゃんと守るよ」

 

「……ああ」

 

 

いや、そんなキリッとした顔しなくていいから。

どっちかっていうと「てめぇ、分かってんだろうな? オレがいない間に余計なことすんじゃねーぞ、ああん?」って張りに睨んでくるフガクさんから守って欲しい。切実に。

 

 

「ごめんね、ナギサちゃん。せっかくお泊りに来てくれたのに……」

 

「い、いえいえ! そんなの全然大丈夫ですよ! 会議、頑張ってきてください」

 

「ありがとう。でも、どうしようかしら……。朝ごはん作り置きする時間もないみたいだし……」

 

「ああ、そこは私がなんとか……」

 

「オレがなんとかするよ」

 

 

え、と振り返ればまたもやキリッとした顔でミコトさんを見据えているイタチ。

何だそのオレってやればできるんだぜオーラ。

 

 

「でも、イタチあなた料理したことないじゃない。大丈夫なの?」

 

「心配ないさ。いつも母さんの料理、手伝っているから、要領は覚えている」

 

「うーん……じゃあ、今回はイタチにお願いしようかな」

 

 

不安を隠しきれない表情で微笑むミコトさんに、イタチは真剣な顔で頷いた。

何やらフガクさんから指令を受けているイタチを横目に、ミコトさんがこそっと耳元で囁いてきた。

 

 

「あの子、一人で料理したことないの。だから、もしもの時はお願いね?」

 

「はぁ……。まぁ、イタチは器用な奴だから杞憂だと思いますが、いざって時は任せてくださいよ! 私、ちゃんと自炊してるんで!」

 

 

グッと親指を立ててみせた私に、ミコトさんはようやくホッとした顔で頷いてくれた。

 

 

+++++

 

 

あの時、なんであんな「私に任せてくれ!」みたいなことを言ってしまったのか。

完全に失敗だったわ。

 

 

「……そもそもさ、何作ろうとしてるの?」

 

「決まっているだろう。朝食といえば……目玉焼きだ」

 

 

そんな何をいまさら、みたいな顔をされても困るんだが……。

じゃあ、と目の前でざっくばらんに切り捨てられた人参を見下ろす。

 

 

「それは何に使うつもりだ?」

 

「目玉焼きに添えるための野菜に」

 

「……皮付き人参、しかもオンリーで?」

 

「……」

 

「……」

 

「「……」」

 

 

いや、黙り込むなよ。

黙ってないでなんか答えろよ。

お前の頭ん中で何を考えてコイツをこんな無残な姿にしたんだってばね。

おっと、また母さんの口癖が……ってちゃうちゃう、こんなん考えている場合じゃなかった。

 

 

「……じゃあ、私がなんか作るから、イタチはお茶を淹れてくれ」

 

「……だが」

 

「また客人がどうのこうの言うようならハッ倒すぞコラ! その努力は認めるがな、料理初心者が無理に包丁使ってんじゃねーよ!! この馬鹿!!」

 

「……悪かった」

 

 

しょぼんと肩を落としてしまうイタチにちょっと罪悪感。

別に、イタチが悪い訳じゃない。

腹が減っているからか、イライラしてついキツイ物言いになってしまった。

 

 

「……悪い。言い過ぎた。でも、お前が指切るんじゃねーかとか思ったらさ……ハラハラしちまって……。

ハハ、手裏剣やクナイは使いこなしてるのに、包丁は使えねーんだな、お前って」

 

「母さんの手伝いはしているが、基本的に簡単なことしかしてこなかったからな……。料理とは難しいものだ」

 

「そーだな。ま、今回は料理に慣れてる私が作ってやんよ! その代わり、お前がなんか作れるようになったらそれを御馳走してくれよな」

 

 

そう言って笑いかければ、ようやくイタチも少し微笑んでくれた。

うんうん。やっぱりむっつりしてるより笑ってる方がいい。

なんとなく嬉しくなって、でも気恥ずかしくて、私はイタチを居間の方に追いやって調理を開始した。

 

 

「ほい」

 

「!」

 

 

イタチの前にお膳を置くと、イタチは目をぱちぱちと瞬かせた。

朝飯ということで、イタチが作ろうとしていた目玉焼きと、豆腐の味噌汁、それから無残な姿にされていた人参を使い、野菜炒めを作ってみた。

ミコトさんから使っていい食材は予め聞いておいて良かった。

中々反応のないイタチを不思議に思いながら自分の分もテーブルに置き、イタチの正面に腰掛ける。

 

 

「ほら、食べようぜ」

 

「これ、本当にナギサが作ったのか?」

 

「何言ってんだよ、当たり前だろ? 私とイタチ以外、今この家にいないんだからさ」

 

 

おかしなことを言うやつだな、と笑っていると、イタチは恐る恐る手を合わせ、小さく「いただきます」と言った。

箸を取り、野菜炒めに変身した人参をパクリ。

もくもくと無言で口を動かすイタチに、不安になった。

口に合わなかったんだろうか。

しかし、口の中の物を飲み込んだイタチは、少し微笑んで、私を見る。

 

 

「美味い……。美味いよ、ナギサ」

 

「! そ、う……かよ……」

 

 

ぶわぁああっと頬が熱くなっていくのを感じ、私は俯いた。

今顔をあげたら、この髪と同じように真っ赤になっているに違いない。

今もこちらを向いて微笑んでいるだろうイタチを思うと、顔の熱は冷める所かますます上昇していくようで、中々顔をあげられなかった。

 

 

「……あのさ」

 

「ん?」

 

「誰かに自分が作った飯、食べて貰うの……初めてなんだ」

 

「! そうか……」

 

「……誰かに食べて貰うってのも、悪かねーもんだな」

 

 

母さんが、飯を食ってる父さんをあんなに優しい目で見ている理由が、初めて分かったような気がする。

食ってもらう誰かに「美味い」と笑顔で言われたら、嬉しいから。

その誰かが、自分の大切な人なら、もっと嬉しいから。

その姿を想像して、美味いって言ってもらえるようにって頑張って……そんで、実際にこうやって笑ってくれたら……。

それは、幸せ、というのだろう。

 

 

「……うん。いいな」

 

 

少なくても、私にとってはこれはこれで幸せなことらしい。

私はニカっと笑みを浮かべ、顔をあげた。

 

 

「おかわりたくさんあるから、いっぱい食えよ!」

 

 

大変だったけどさ。

こんな朝も悪くないよな。

 

 

「待て、落ち着け、イタチ……頼むから! 包丁は私が洗うから……危ないってばね!!」

 

 

……いや、やっぱりこんな忙しない朝は勘弁だ。

寿命が縮む。

 





お久しぶりです。
なんとか更新……!
ごめんね、イタチ、完全なネタキャラにしてしまって……!
イタチが一生懸命サスケの為に完璧な目玉焼きを焼こうとする某特典アニメを思い出しつつ書きました。
ところどころクシナの口調が混ざるナギサ。
普段はあの独特な口癖は出ないのですが、ふとした時に出ます。
これからも度々出てくると思います。
閲覧ありがとうございました。

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