うずまきナギサ物語~姉の愛は世界を救う~ 作:レイリア@風雅
うずまきナギサ物語をこれからもどうかよろしくお願いします。
ミコトがナギサをうちは家に泊まりに誘ったのには目的がある。
もちろん、ミコトの親友であるクシナの娘であり、尚且つ息子の友達というのも理由の一つである。
だが、一番の目的はというと……。
「……母さん、味噌汁おかわり貰ってもいいか?」
「ええ、勿論よ」
「母さん」
「はいはい」
お分かり頂けただろうか。
父と息子の間で全くと言っていいほど会話がないのである。
それこそ、ミコトにポツリポツリと話しかけるくらいだ。
それも今日の魚は美味しいだとか、明日は朝から朝会があるとか、そういうとても些細かつ続かない話ばかり。
別に食事中に話してはいけない、なんてルールはうちは家に存在しない。
しかし、この空気ではミコトとて話しかけ辛い。
今日も今日とて静かな食卓に思わず苦笑いが零れた。
(……あら?)
よく見てみれば、フガクはじっとイタチを見つめ、口を開いては閉じ、開いては閉じて結局食事に戻るという不可解な行為を繰り返していた。
(はぁ……お父さんったら……)
話しかけたくても話しかけられない……というかただ単にどんな話をしていいのか分からないのだろう。
イタチはイタチで幼い頃からこれが当たり前だから、話してはいけないと思っているに違いない。
……もしかしたら話す必要がないと思っているのかもしれないが……。
それにしたって、まだイタチは四つになったばかりなのだ。
思春期真っ只中で声をかけ辛い、複雑なお年頃ではないはずなのである。
だというのに今からこれではどうするのだろうか。
頭を抱えたくなったミコトの目に、もう何度目かも分からぬ葛藤を繰り返し、結局諦めるというヘタレな旦那の姿が映った。
(あー!もう!!じれったい!!)
ミコトはその日、食事の後にフガクへと話しかけた。
「ねぇ、あなた……。イタチにもっと話しかけてもいいんじゃない?あの子、食事中は口をきいたらいけないと思ってるわよ、きっと」
「む……だが何の話をしていいのか分からなくてな」
予想的中。
ミコトは思わずため息をついた。
「そんなの、何でもいいのよ?アカデミーはどうだった、とか、今日はどんなことをしたんだ、とか……。」
「ああ……」
「じゃあ明日、早速話しかけてみてくださいね?」
「……」
「あなた?」
「!あ、ああ……」
ミコトの剣幕に肩を震わせたフガクだったが、その返事は非常に弱弱しかった。
翌日。
結局フガクはイタチに話しかけることも出来ず、どんよりとした空気を纏って落ち込んでいた。……親しい者にしか分からないくらいの変化だったが……。
やれやれとミコトは首を振った。
いつも警務隊を引っ張っている堂々とした彼はどこへ行ってしまったのだか。
「たまには我が子に対して素直な想いを告げたらどうですか?四代目みたいに!」
言葉の刃がグサッとフガクの胸に突き刺さる。
「はぁ、もう少し柔らかくなればイタチだって懐くでしょうに……四代目みたいに!」
グサグサッ。
微かに震えているフガクを見て大きなため息をつくと、ミコトは眉を下げた。
「ねぇ、あなた……。クシナたちはどんなに伝えたくても伝えられないのよ?
どんなに抱き締めてあげたくても、どんなに想いを伝えたくても……ひと月に一度しか」
どんなに必死に言葉を紡いでも、きっとそれは足りないのだ。
彼らのことを思うとフガクの不甲斐なさが余計に腹立たしくなってくる。
ナギサのことも思うと尚更だ。
「……ん?」
その時、ミコトの中で妙案が浮かんだ。
「そうよ、ナギサちゃんよ!」
「何がだ」
「あなた、ナギサちゃんを見てイタチとの接し方を学べばいいのよ!」
「は?」
我ながらナイスアイディア、ミコトはうんうんと頷く。
母に似て物腰が柔らかく、けれど父に似て人を寄せ付けないイタチ。
そんなイタチが友達だと嬉しそうに笑顔を見せるのが、ナギサなのである。
あの夫婦の間に生まれた、笑顔の可愛い少女。
二人から受け継いだものが、イタチのピリリとした空気をやわらげてくれているのだろう。
そんなナギサが家に来れば、この状況を打破することが出来るかもしれない。
いや、高望みはするまい。
というかたまに夕飯に来てくれたら最高である。
ミコトだって楽しい食卓を味わいたいのだ。
「そうと決まれば決行よ!」
ノリノリなミコトを止められるわけでもなく、フガクはただ深く溜息をついた。
+++++
作戦決行日。
これから三日間は楽しい食卓になると思うと、ミコトは朝から上機嫌だった。
今回の目的を知るのはミコトとフガクだけ。
何も知らない子供二人は子供らしくない話をしたり、将棋をしたりして遊んでいる。
そして、いよいよ夕食の時間がやってきた。
「……」
ニコニコとナギサを見つめると、気まずそうにナギサは目を逸らす。
ええ、おばちゃんも分かるわ。
この空気気まずいわよね、とミコトは内心うんうんと頷く。
ちらりとフガクを見てみると、やはり口を開いては閉じ、開いては閉じるを繰り返していた。
まったく、とミコトは内心溜息をつく。
(さぁ、ナギサちゃん!この現状を打破するのよ!!)
ミコトの願いは幼い少女に託された。
そしてナギサはまるで願いは聞き届けたとばかりに口を開く。
「え、えーっと……」
気まずそうな声。
フガクとイタチも彼女を見れば、彼女は顔を引きつらせる。
しかし、意を決したようにイタチへ顔を向け、笑みを浮かべた。
「い、イタチさ、今日すごかったよな!手裏剣術の実習でイタチだけ全部的に当てられてさ!しかも全部真ん中なのな!いやー、さすがイタチだわ!」
(いいわよナギサちゃん!)
そうなのだ。
こういうアカデミーの話などをふるだけで会話に繋がるのだ。
しかもさりげなくイタチを褒め、認める言葉をかける。
完璧だ。最高だ。
「へぇ、すごいじゃないイタチ!ね、お父さん?」
「あ、あぁ……。そうだな」
内心大絶賛でテンション上がりまくりのミコトに気付いていたフガクは、面には決して出さず普通に会話につなげてしまった彼女に肩をびくつかせた。
女性というものは恐ろしいものである。
しかし、そのフガクの反応をバッチリ見てしまったイタチは何か勘違いしたようで、瞳を伏せた。
「別に、大したことじゃないさ。父さんに教わったことを実践したまでだ」
(あー、もう!あなたがややこしい反応するから……)
先程までの柔らかな空気から、ピンと張りつめたものに変えてしまったイタチに内心嘆く。
フォローしなくては、とミコトは口を開いた。
「そんなことないわよ。それも中々出来ることじゃないもの。ねぇ?」
「……そうだな」
(……あなた……バカなの?)
せめて「そうだな、さすがオレの子だ」まで言ってあげれば伝わるというのに。
溜息を吐きかけたミコトは、ふとナギサが笑みを浮かべているのに気付いた。
それも先程まで恐怖の対象だったフガクを見て、である。
(……ナギサちゃん、鋭いのね)
微かに和らいだ空気を敏感に感じ取ったのだろう。
しかし、それはフガクがナギサへ視線を移した途端、笑みが強張り、さっと顔を逸らしてしまった。
それに地味にショックを受けているフガクに気付き、ミコトは苦笑を浮かべる。
「そ、それだけじゃないんだぜ!イタチってば変化の術一発で成功させてさー、あれもすごかったよな!完璧だし印結ぶの早いし!」
「一発で成功させたのはナギサもだろう。オレが凄いのであればナギサもすごいさ。」
「……」
こうなってしまったイタチはとことん冷たい。
きっと平素であれば、「それを言ったらナギサだって……」くらいから始まり、もう少し会話が続いたであろうに。
全てはフガクのせいである。
夫の不手際は妻がなんとかしなくてはならない。
ミコトは「まぁ!」と両手を合わせた。
「二人そろって優秀なのね!すごいじゃない!」
「い、いや私はそんな優秀なんかじゃ無いッスよ!変化の術だってまぐれですって!」
「そんなことはない。変化の術をその歳で成功させられただけで十分だろう。
さすがあいつらの子だ……」
「!」
驚いたのはきっとナギサだけではない。
ミコトはもちろん、イタチも驚いているようだった。
(……言えるじゃないの)
イタチにも、そういう事を言ってあげればいいのに。
そう思っているとじわじわと頬を赤く染めたナギサが笑う。
とても可愛らしい、年相応の……あの二人と同じ温かい笑顔。
「じゃあイタチはさすがフガクさんとミコトさんの子ですね!」
ミコトは思わず目を見開いた。
「私、父さんにフガクさんがどんなにスッゲー忍なのかいつも聞かされてた!イタチと友達になってからは特に!
フガクさんは絶対に大切な人を見捨てない強い忍なんだって!言葉は少ないけど、それでもきちんと家族を思い遣る父親だって!
オレも父親としてフガクさんを見習いたいっていつも……?」
ナギサがぴしりと固まる。
それは、恥ずかしさからかいつもよりもっと怖い顔をしたフガクがいるからで……。
フガクに名前を呼ばれた途端、絶叫して逃げ出してしまったナギサにミコトは思わず笑ってしまった。
「ナギサちゃん、最高!」
楽しい食事が出来てミコトは上機嫌に笑っていたのだった。
と、いうわけで12話の裏側的なお話でした。
ナギサに素直に伝えられたことがきっかけで、少しずつイタチにも話しかけられるようになっていくフガクさんだったら面白い。
閲覧ありがとうございました。