提督ニ捧グ巡恋歌   作:サッドライプ

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 砲火誤ティータイム()

 けいおんもいい加減昔のアニメだよなあ………。



金剛vs鈴谷vs曙

 

 

 曙と鈴谷は仲が悪い。

 

 それは当人も含めたこの鎮守府の全員(ただしポンコツ五航戦を除く)が当たり前に持っている認識だ。

 戦闘では極力相手に対して口を利かないことでお互い支障がないようにしているけれども、他で顔を突き合わせたなら十中八九口論に発展する。

 

 この日、それがよりによって私と提督のtea timeに居合わせてはち合わせた。

 

…………準備の手間は大して変わらないし、他の艦娘がこのひとときに混ざるのは構わない―――毎日提督と確実に過ごせる時間の枠を確保しておいてその独り占めに固執する程狭量ではないし、それをしたが最後二十四時間奇襲を警戒しなければならなくなる―――のだけれど、流石に勘弁して欲しい組み合わせの一つが何故いるのか。

 

「ほらほらてーとくっ、あーんしてあげる、あーん」

 

「やめなさいよ行儀の悪い。ただでさえ品性の無いクソ提督に余計にみっともない真似させて、旗下の艦娘(わたしたち)の品位まで下げるつもり?」

 

 わざとらしく曙、とついでに私を無視して提督の口にクッキーを運んでいく鈴谷。

そしてその腕をはたき落とす曙。

 clothを引いた机に焼き菓子が落ちて、粉が散らばる。

 邪魔をされた鈴谷が眼を細め、身長差から曙を見下した。

 

「ふうん?『提督』の前に下品極まりない言葉くっつけてるどっかの艦娘に品位なんてあるんだ?わー鈴谷びっくりー」

 

「なによ。クソ提督はクソなんだからクソくっつけて何が悪いの」

 

「それが悪いんだなー。……スカトロ趣味はあんただけなんだよ、曙」

 

「「ぶーっ!!?」」

 

 鈴谷のトンデモ発言に紅茶を吹き出したのは、提督と私。

 まったく、飲食中に何を言い出すのかこの子は。

 

「………流ッ石にソイツは御免だなぁ?」

 

 珍しく提督の笑みも引き攣っている………想像しちゃったのかナー?

 

 そして曙はというと、あまりの衝撃に口をぱくぱくさせて固まった後、顔を真っ赤にしてheat up。

 

「は、はあっ!?何言いだすのよ頭腐ってんじゃないの!!?」

 

「えーだってどうしても提督にくっつけたいんでしょその汚いの。なんて言うかー処置なしって感じー?」

 

 

「――――言ってくれんじゃない。文脈ってものも読めない程根腐れしたのかしらその売女(ビッチ)思考は?」

 

「…………失礼しちゃうなあ。こちとらあんたと違ってそんな下品な言葉口に出せない程度には乙女なんだけどなあ?」

 

 

 そのまま煽り続ければ鈴谷優勢で終わるのだけれど、実は彼女、振る舞いや雰囲気から予想されるほど口喧嘩が上手い訳ではない。

 むしろ相手の悪口を言いながら自分のvoltageも高めていく、残念なタイプ。

 ていうか乙女はそんなabnormal playの単語言わないネー。

 

 で、ちりちりと互いに睨みあって一触即発の空気を演出する。

 

 この通り相性最悪な二人なのだ。

 

 

…………そもそも仲が良い艦娘同士なんていないに等しいのだけれど。

 

 愛したい。愛させて。愛してる。

 艦娘が求めているもの、艦娘が欲しがるもの、艦娘の存在意義そのものとも言える根源の感情。

 その行き先が数少ない〈提督〉を対象にする以上、需要に追い付かない供給に対する競争が発生する。

 

 ただでさえ同種族に興味の薄い艦娘。

 寧ろ、親愛を抱いている相手が同じ提督を恋い慕おうものならばそれは反転して深い憎悪へと変わる。

 

『大事な姉妹なのに、大好きな友達“だった”のに…………なんで私の邪魔をするの?』

 

 ウラギッタナ、と。

 

 有名なのは北上と山城、大井と扶桑がタッグを組んで互いに全力で殺し合った事件か。

 どうもその提督がそんなシチュエーション<自分の為に容易く大切だった相手を憎み傷つける女の子>に興奮するどうしようもない変態だったらしく、四隻ともケタケタ笑いながら最終的に深海棲艦と三つ巴になった挙句何故かその海域を平定していたという珍事だった。

 その後その提督や艦娘達がどうなったのかは誰も知らない。

 案外楽しく幸せに過ごしているんじゃないか、というのが個人的な予想。

 

 

 話を戻すと、鈴谷と曙なんてまだまだ可愛い方だということ。

 むしろこんなに“健全に”仲の悪いのは逆に珍しいとすら言える。

 何より、瑞鶴や夕立みたいにこちらの正気とか精神とかそういうものをごりごり削ってくるような手合いでないだけでも遥かにましだ。

 

 とはいえ、愛する提督との憩いのひと時は私のかけがえのない大切な時間であり、その中でこれはおいたが過ぎる。

 

 

 

「――――いい加減stopよ二人とも。それ以上ふざけた口を叩くようなら……」

 

 

 

「「………チッ」」

 

 親指で首を掻き切る動作をすれば、舌打ちしつつも二人とも矛を収めた。

 仮にもこの身は金剛、歴戦の戦艦が駆逐と重巡二隻程度にそうそう劣りはしない。

 

「…………はー。ちっと出てくる」

 

 そう言って溜息を吐いた提督が席を立った。

 その目に浮かんでいたのは、“退屈”。

 

 何か疲れたように頭を振って部屋を出て行く提督。

 艦娘の醜態の殆どを笑って見守る彼の目にも、今の喧嘩は琴線に触れなかったらしい。

 いや、当たり前のような“普通の”言い争いだからこそ、まるで人間みたいでつまらないと感じたのだろうか。

 

 戦闘が大好き。

 痛みを、死をもたらす存在をねじ伏せて叩き潰すのが大好きという提督の精神性。

 それは、もう少し視点を広く持つと、要するに攻撃性と共に刺激を欲しがっているという分析が出来る。

 

 平穏よりも異変を、受動で呑みこまれるよりも能動で食らい味わうのが望ましい。

 

「…………泣けてくるネー」

 

 そう認識する度に、なんだか自分が情けなくなる。

 だってこの鎮守府の中で一番普通の“女の子(にんげん)”に近いのが私だ。

 

 提督のことが大好きで、普通に触れ合いたくてそわそわして、普通にやきもちを焼いて悲しくなって、普通に結ばれる夢を見て幸せになる。

 “この二人”の様に歪んだ好意の表現をしないし、瑞鶴や夕立のように外れた精神もしていない。

 好きな人の役に立ちたいというそれ自体は普通の気持ちを、昇華させて別の何かにカワッタ榛名や雷のようにもなれない。

 

 普通すぎて、提督に一番愛されないのはこの鎮守府の中で、きっと私。

 提督を好きな気持ちなら、誰にも負けないつもりなのに。

 

 

 

――――そう思いながら、提督の飲み干したティーカップの底、“血の様に真っ赤な”紅茶の残り痕を見やる私は。

――――提督と、愛する人との“合一願望(ぜんぶとけあってひとつになりたい)”という当たり前の恋する乙女のユメしか持っていない私は。

――――そしてそんな概念的過ぎて自分でもそれがどんな状態か言えないようなものが実現出来る可能性は、まったく無いとも理解出来てしまっている私は。

 

「私だけnormalって………やっぱり辛いカナー」

 

 当たり前の様に精一杯“愛を込めた”紅茶を提督が“飲んで(からだのなかにまぜて)”くれたことを、せめてもの慰めとするしかなかった。

 

 

「「………」」

 

 

 そしてそんな私を、鈴谷と曙が何故か物凄く生ぬるい目で見ていた。

 

 

 

 

 

…………。

 

 戦艦・金剛は頭が悪い。

 

 それは当人を除いたこの鎮守府の全員(ただしポンコツ五航戦を除く)が当たり前に持っている認識だ。

 少なくともこの鎮守府の中で最も変態性の高い真似をしておきながら、良識と常識を気取っている様はむしろ指摘されるのを待っているとしか思えない。

 

 まあ、藪をつついてどういう仕組みが隠されているか分からない艦娘の性質を暴走させる真似、わざわざしたがる馬鹿はいないし、提督も面白がって放置なさっているから、誰も触れないけれども。

 

 ただ、そんなことよりも。

 

 提督が退屈されていた。

 それだけが、問題だ。

 

 

「――――――この、ド下手が」

 

 

「………ふん」

 

 曙を睨みつける。

 憎らしくもこの生意気な駆逐艦は、僅かに鼻を鳴らしたのみで流す。

 それだけで視界が赤く染まったと一瞬錯覚するほどに私は怒りに包まれた。

 

「何偉そうにしてんの欠陥品。あんたそんな風な態度でいられる身分なわけ?」

 

 言い募っても、神妙にする様子もなくふてぶてしい仕草に、どうしても収まらない。

 “欠陥品”と分かっているなら、それこそさっさと見切りを付けていればいいものを…………そうなれないのを含めて。

 分かりきったことが、改めて口をついて出る。

 

「最低。鈴谷は、あんたのこと大ッ嫌い。いらない、消えて?なにもかも中途半端で愚図の道化。しかもそのくせ提督を楽しませることも出来ないなんて、本当に生きてる価値ないんじゃない?恥ずかしくないの?うざい。うざすぎる。人の神経を引っ掻くのだけは一丁前で、足を引っ張ることしか考えられない――――曙、あんたごときがもし提督の邪魔になると、いや提督の御足を汚す可能性があると考えただけで今すぐばらばらに引き裂いてやりたいんだけど。ああ、でもそれはそれで提督の鎮守府が汚れるわね。ほんと害悪。死んで?今すぐ海の底突っ込んで。誰にも迷惑かけないように。ねえ沈んでよ。死んで。死ね、死ね、死ね死ね死ね死ね――――――、」

 

 

「――――鈴谷」

 

 

「っ、………チッ」

 

 金剛が再度私の憎悪を呼び止める。

 ただ今回は怒ったのでも窘めたのでもない。

 

 無駄だと。

 曙は私が何を言おうと意に介さないのだから。

 分かっている癖にぺら回すなと。

 

 

「で?言いたいことはその程度?」

 

 

 気だるそうに、毒を含んで曙が今度は雑言を連ねる。

 

「クソ提督を楽しませることが出来なかった?それは私じゃなくてあんたの目的でしょうが、役立たずって評価は全部あんた自身に跳ね返るのも分かんないのねあーかわいそ。それと鈴谷、――――本性が覗いちゃってるわよ?そんなあっさり剥がれる薄っぺらい皮にも問題があるんじゃないの。必死でクソ提督に媚売って、でもそれすら出来てない。

………売女にすらなれないなんてもはやメスとして致命的なんじゃない?」

 

 好き勝手に言ってくれるが、その内容自体は私の心を揺らさない。

 こんな奴に何を言われたって、何の痛痒も無い。

 ただこいつが何かを喋っているという事実それだけが、私をこんなにも苛立たせる。

 

 

「…………どーぞくけんお。自分のidentityを提督に丸投げしてる割に真っ当な思考能力を残してる同士だから、要は互いに自分の場所が取られないかって不安の裏返しなだけなんだけど。まったくどうしようもなく幼稚ネー」

 

 

「「あ?金剛今何か言った?」」

 

「ノー、nothing special(べつに)。それより提督もいないし、さっさと解散したらどうデスカー?」

 

「…………そーする」

 

 こんな奴と顔を突き合わせていてもいいことなど何もない。

 そのまま私も席を立った。

 

 

 

 その判断は正しかったらしい。

 提督はさほど遠くにいった訳ではなかったらしく、廊下の角でばったりと出くわした。

 

「てーとくっ」

 

 ああ、世界が変わる。

 いつものことだ。

 

 凛々しい提督の御姿、呼吸音や足音、におい、体温といった物質的なものから、存在感や雰囲気、艦娘(わたし)との魂のつながりの残滓といった精神的なものまで、全てが輝いている。

 否、輝くなどという陳腐な表現を使うことが躊躇われる程に、心も体も提督の存在を認識出来ることの喜びに震えている。

 素晴らしい、次から次へと高揚感が湧いてふわふわする気持ち。

 

 嗚呼、なんと素敵な方なのだろう。

 何十万回目の感想と共に、頭を下げ、身を伏し、跪きたい衝動がどうしようもなく沸き起こる。

 その鈴谷のユメの為に、そこにいるだけで蕩けそうになる思考で、私は――――。

 

 

「うふふ、てーとく、どうする?ナニする?」

 

 

 はしたなくも提督に足を絡め、貞淑を投げ捨て、下品に発情し赤らめた表情から上目づかいに視線を送る。

 うまくできているだろうか、それだけが不安で―――それでも他の選択肢は取れない。

 

 提督は自分の信者を必要としていない。

 盲目につき従い、全てを投げ出して我が身を捧げる、意思無き絶対服従の存在をつまらないとすら思っている。

 近いのは榛名だが、あれはあれで別のナニカだし、私のユメはあれじゃない以上参考にすらならない。

 

 だから私は演じる。

 馴れ馴れしくも提督にじゃれつき、みっともなくも提督の寵愛をねだり、身分不相応にも提督が愛してくれると信じて疑わない頭と腰の軽い馬鹿女を。

 

 仮に今演じている様な態度の女が提督に近付いたのを私が見かけたなら、曙以上に殺したくなるのは間違いないだろう。

 けれど満足そうに笑う提督のご意思ならば、是非も無い。

 

 私は提督を信仰している。

 存在、私の全てを懸けて信仰している。

 “だから”、提督がそんな私をつまらないと思うならば私はその信仰をゴミ同然に捨てる。

 矛盾など全くしていない。

 

 “神格尊崇(あなたがすべてただしいの)”、――――つまり、こういうことだった。

 

 

 





 女の子同士の汚い言い争いとか飲食に体液混入とか勝手に神格化とかヤンデレじゃありきたり過ぎですよねー!

 ってことでまとめて突っ込んでみた。
 正直瑞鶴と夕立がアレ過ぎて残りメンバーのキャラ立たせられなかったとも言う。

 次回かその次くらいで曙ともう一人やって最終回かなあ。
 ではまたその時に。


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