弟くんがラスボスルート   作:潤雨

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本日2回目の更新です。



キリツグの仔1

キリツグの仔

 

「初めまして、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。切嗣の娘。」

創名は雪の妖精のような少女に笑みを浮かべながら言った。

「えぇ、初めまして、エミヤキズナ。キリツグの息子。」

イリヤスフィールはどこか機械めいた少年に同じく笑みを浮かべて言った。

月光差し込む冬の城で、二人のマスターが微笑みながら対峙していた。少女の笑みには少年と会えた喜びと少年に対する殺意が同時に存在し、少年の笑みには少女への親愛と温度を感じさせない不透明な何かがあった。

創名は衛宮邸から向かったのはアインツベルンの森に聳える城だった。結界効果のある森を空を行くことでショートカットし、奇襲とも言うべき速度でイリヤの居城へとやって来のだ。だが、創名にとっては奇襲ではなかったし、イリヤも創名を当然のように城へと迎い入れた。侵入者(客人)城の主(招待者)はホールを挟み向かい合ったのだ。

「士郎には会ったの?姉さん。」

「ええ、会ったわよ。とってもイイコだった。」

創名の言葉に無邪気な笑顔を少し大人びさせてイリヤは答える。

「シロウは知らなかったけど、アナタは知っているのね。私がアナタ達のきょうだいだって。」

「うん、自分は切嗣の後継者だからね。」

自分を裏切った男の後継者、目の前の少年は臆す事なく言い切った。イリヤの中で釣り合っていたきょうだいに出会えた喜びと、切嗣に復讐したいという思いが殺意に傾いた。

「良かったぁ。」

「ん、何が?」

「わたし、キリツグにフクシュウに来たの。けど、キリツグが死んじゃってたからどうしようかと思ってたんだ。」

イリヤは綻ぶように笑いながら言う。愛しい者を見つけたように、けれど言葉の中の殺気はひたすらに膨らんでいく。

「キリツグの後継者がキズナなら、キズナを殺せばフクシュウになるよね?」

嬉しそうなイリヤの言葉と共に巨大で、圧倒的な力を持った英霊が現界する。狂戦士(バーサーカー)、ヘラクレス。ギリシャ随一の英雄にして狂乱の鎖に絡めとられた破壊者。

それに対して、創名の後ろに控えていたアサシンが剣を取り出しながら前に出る。世界最古にして最強の英雄王、それに成り代わった暗殺者。

両者の武器は激しい音をたてながらぶつかり合い、その衝撃に紛れて創名はイリヤへと近づいていく。

「自分を殺したい?」

「ええ、アナタはキリツグの後継者で敵マスターなんだもの。」

サーヴァント達の戦闘が別世界の出来事であるかのように穏やかな問いかけ、それに答える声もその場にそぐわない弾むような声だった。

「うん、その感情は正当だ。キミを、イリヤスフィールを救うことが出来なかった自分と切嗣はその怒りを、殺意を向けられるに足る悪だからね。」

「・・・救えなかった?」

「結界に阻まれて越えられなかった。会いに行けなかった。力が無かった。謝ることさえ出来なかった。」

創名の言葉に違和感を感じながら、イリヤは何かに怯えるようにあとずさる。

「切嗣はアインツベルンを裏切った。けれど、イリヤスフィールとアイリスフィールを愛していた。前回の聖杯戦争の後、何度もキミに会いに行った。時には一人で、時には自分も連れて、けれど、ユーブスタクハイトの怒りは冷めず、アインツベルンの城にたどり着くことは出来なかった。」

「嘘よ、嘘だわ!だっておじい様はキリツグはお母様とわたしを捨てたって・・・!?」

穏やかな口調のままに告げられる言葉をイリヤは否定する。そうしなければ、切嗣を、大好きだった父親を憎んだ時間が無意味だったことになってしまう。一度はシロウを殺しかけたことが、目の前の微笑む少年を殺したいと思ったことが、どうしても許せない罪になってしまう。

耐えきれないように叫ぶイリヤとそうさせている敵マスターをバーサーカーが認識し、イリヤを助けるべく動こうとするが、いつの間にか周辺に張り巡らされた金の鎖に拘束される。

己のサーヴァントがバーサーカーを止めたことさえ気にした様子も無く、創名は言葉を続ける。

「切嗣から伝言だよ。『約束を破ってごめん、迎えにいけなくてごめん、謝ってばかりでごめん、けどアイリとキミを愛している。許されるなら、キミの幸せを祈らせて欲しい。どうか元気で、僕達のお姫様。』」

「・・・キリツグ。」

創名の言葉は確かに切嗣の温もりがあった。切嗣の真意の欠片に触れ、イリヤの切嗣への憎しみがわずかに緩む。

しかし、それはバーサーカーの絶叫で遮られた。

バーサーカーは、ギルガメッシュが所持していた宝具の一つである天の鎖(エルキドゥ)によって拘束され、そこにAランク以上の宝具の原典が降り注ぎ、バーサーカーの命のストックを確実に削っている。

「バーサーカー!・・・ッ!?」

イリヤがバーサーカーへと向いて叫ぶ、その後、言葉を続けようとしたのは令呪を使用しようとしたのか、別の何かを言おうとしたのか、それはイリヤにしか分からなくなった。

バーサーカーに気を取られた一瞬、創名がイリヤに近づきながら右手を突き出した。アーチャーによって切り落とされた右腕、現在は投影した『人形の腕』で代用しているものだ。

人の腕よりも高い性能を持った作り物の腕は、ホムンクルスの少女の胸へと突き刺さり、その心臓を鷲掴みにした。

左腕で抱き留めるようにしながら右腕を引き抜く。鮮血が散り、雪の少女を赤く染めた。

「聖杯、貰っていくね。姉さん。」

少女の血を浴びながら創名は穏やかに宣言した。





文章を書くのをキーボードに変えたら予想外に早く書ける様になりました。明日にでも続きは上げられそうです

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