寝静まった住宅街をアーチャーと合流した凛と士郎が駆ける。
「アーチャー、間違いはないんだな?創名の目的地は。」
「ああ、間違いなく、創名は『衛宮の家』を目指して移動している。」
隠れる気が有るのか無いのか分からない、中途半端な隠密性で行動しているがな。と付け加え、二人に速度を会わせながらも鷹の目で監視を行っていたアーチャーが報告を続ける。
「む、創名達が着いたようだ。家の中に入っていくな。凛、私は先行する。」
「ええ、私たちが着くまでの足止め、任せたわよ。」
「承知したマスター。」
一言を残してアーチャーはその姿を消し、気配が遠ざかる。
「士郎、急ぐわよ。時間はアーチャーが狙撃なり、口先なりで稼いでくれるでしょうけど、無限じゃないわ。」
「分かってる!」
身体強化の魔術を行いながら、それなりの距離を全力で走ることは行使に慣れていない士郎には至難のようだが、それをやめさせて普通に走るほどの時間は無い。アーチャーの性能は高い、それこそ創名が入った家ごと吹き飛ばす気で全力の狙撃による攻撃を行えば、確実に深刻なダメージを与えることが出来るだろう。しかし、アーチャーにはそれが出来ない。正しい意味で『正義の味方』に祭り上げられた今の彼には、
会話もなく、二人は走り続けてやがて目的地が見えてくる。士郎にとって慣れ親しんだ家の門には赤い弓兵が背中を見せ、なにかを小脇に抱えた創名とその傍らに立つギルガメッシュと対峙していた。
「・・・ッ!創名ァ!!」
「ん?あぁ、士郎も来たんだ。」
士郎の叫ぶ様な声に創名は答える。どこか予定が狂ったと言いたげに眉がしかめられ、表情も曇っている。
「士郎からも言ってくれない?アーチャーってばそこを通してくれないんだ。戦う気は今のところ無いってのにさ。」
「そんな理屈が通ると思っているのか?悪いが、そちらには戦う気が無くともこちらにはお前達を止めなければならない理由が有る。」
士郎に向けられた言葉をアーチャーが皮肉げに笑いながら返す。
「酷いなぁ、こっちは忘れ物を取りに来ただけなのにさ。」
「貴方の忘れ物なんてロクでも無い物でしょ?」
「心外だな、と言いたい所だけど確かにロクな物じゃないね。」
言いながら創名は抱えていた物を士郎達に示す。
それは、一見すれば液体で満たされた大きな瓶だ。中には黒い紋様が刻まれた肉塊が浮いている。士郎には其れが何なのか分からなかった。凛とアーチャーは其れが何か理解していた。
「
衛宮の家に伝わって来た魔術刻印、持ち主である衛宮切嗣が死亡したことで失われた筈のものだ。其れを創名はどんな手段を取ったのか、存在させていた。
「・・・其れをどうするつもりだ?」
「別に悪用する気は無いよ。自分が持っているより相応しい持ち主がいるから届けようかなと思ってね。」
「・・・」
悪戯っぽく笑う創名をアーチャーは睨み付けるが、意に介した様子もなく言葉を続ける。
「まぁ、戦う気はなかったけど、敵サーヴァントが一体なんて自分達に有利な状況だし、戦力を削るぐらいしとこうかな?
やれ、
創名の声に応じて、アサシンが創名の前に進み、背後に宝具を呼び出してアーチャー達を狙うのと、士郎が声を上げるのはほとん同時だった。
「来い!セイバー!!」
「・・・!?」
士郎の令呪が一画欠け、遠坂邸の守備に回っていたセイバーを空間を越え呼び出した。それも、創名とギルガメッシュの間の位置にだ。手にはアーチャーが投影した諸刃の名剣があり、自身が回るように振るうことで創名の腹を、アサシンの背中を切り裂かんとする。
これが、アーチャーの言っていた『考え』ギルガメッシュと創名が手を組んでいる場合に備え、セイバーを拠点の守備に回し、ギルガメッシュがアサシンに成り代わられていることが分かれば士郎が令呪を使ってセイバーを転移させて、不意を突く。令呪を一画と、代償は大きいがそれに見合うだけの効果はあった。剣は創名の腹を裂き、
「チィ、やってくれるじゃないか!」
アサシンが舌打ちしながら剣を振るうが、セイバーは其れを掻い潜りながら聖剣を呼び出し応戦する。創名も再生効果によって傷を修復し、戦闘に参加しようとするが、再生のタイムラグは必ず存在する。その間にアサシンを倒すことこそ、この策の狙いだった。アーチャーを始め、誰もがこの策の成功を確信した。
創名が口を開くまでは・・・
「ダメージを確認・・・・修復完了。一部権限の委譲を確認。戦闘を開始します。」
それは、人間らしさを一切感じさせない
「敵個体4、内訳はサーヴァント2、魔術師1、保護対象1。危険度がもっとも高い個体、サーヴァント2体を優先。」
その瞳はもはや光を刺激として受けとるためだけのセンサーであり、そこには何の感情も宿していない。
セイバーや凛は勿論、士郎とアーチャーも見たことの無い創名の姿に思考を巡らし、行動に僅かな隙が出来る。それは、今の創名にとって十分過ぎる好機であった。
「展開せよ。骸の砂。」
1小節の詠唱で、銀の砂が空間を包むように投影され、全員の視界を包み、姿を覆い隠す。
「あっちゃー、リソースが修復に回っちまったからか?不味いな。」
突然の目眩ましに、それぞれが対応しようとする中でアサシンの愚痴るような声がした。その直後
「
それは詠唱だった。創名の音声によって紡がれる呪文。目眩ましからの攻撃にアーチャーと士郎が警戒するなか、セイバーと凛は頭の中で危険を告げる警報がなり続けている。セイバーは直感のスキルによって、凛は、優れた魔術師として感じた違和感によってである。
「
凛が感じた違和感の正体は詠唱の長さだ。今まで創名の魔術は固有結界を除いてその多くが1小節の短い詠唱で発動する物だった。一概には言えないが、詠唱の長さと魔術の効果は比例する。その考えに至った時点で凛の令呪は赤い光を発していた。
「アーチャー、私達を連れて魔術の効果範囲から離脱しなさい!」
令呪を使用した命令に従い、アーチャーが後退、凛と士郎を抱えて限界を超える速度で家の敷地のから飛び出そうとする。見えないながらも直感で察したセイバーもそれに続く。それを追い掛けるように、あるいは阻止するように詠唱の終が紡がれる。
「
世界が燃え上がった。
そう錯覚する様な業火が沸き上がり、炎が触れた存在を一瞬で焼き尽くした。
「これは・・・」
令呪によって離脱し、道を挟んだ向かいの家の屋根に着地したアーチャー達はその光景に言葉を失う。呼び出されたのはただの炎ではなく、禍々しい物に満ちた呪いが、炎として発露しているだけのモノだと一目見ただけで理解させられた。その炎の名は
「投影の砂を媒介に自身と契約しているモノを召喚したのね。なんてデタラメな威力・・・」
「私たちの投影は固有結界から零れ落ちるものだ。つまり、固有結界にまであの呪いが侵食しているという事だ。」
手遅れ、そんな言葉がその場の全員の頭に浮かび、それを肯定するかの様に創名が小さく音声を吐き出し続ける。
「対象の消滅、確認出来ず。敵個体全生存を確認。令呪による限界突破を確認。引き続き、排除を行います。」
炎の中から、再び音声が流れる。当然の様にそこには、仕留められなかった悔しさなど一切含まれていない。
「殲滅方法の検索、該当『天よ我が罪を裁け』、半径1キロを殲滅します。
殲滅範囲に保護対象が存在、却下」
「前提条件を変更、戦闘方法を検索、該当102件、条件を追加し再検索。」
創名の形をしたナニカが炎より現れ、士郎達に向き合う。改めて見たその姿に、士郎は吐き気をおぼえた。敵対し、武器を向け合っても創名の瞳に有った、創名らしさとでも言うべき茶化しながらも人を思う意思さえ消え、ただ空虚のみを示す瞳は剥製のようであり、見ているだけで人を消耗させる痛ましさが有った。
「該当、『起源覚醒:輪廻』発動。
戦闘を開始します。」
人形の宣告と共に再び銀の砂が舞い上がった。
信じられるか?1年以上掛けて書き溜めたのこれだけなんだぜ(
次回の更新もしばらくお待ちくださいm(_ _)m
この前ほどは間があかないはずです