閉じられた山門を見て、アーチャーは舌打ちする。創名が逃走した。それはいい、問題は創名の表情だ。慎二が乱入する直前の表情は、自分の勝利を確信した表情、つまり、今の逃走は昨日の衛宮家からの逃走と違い、策の内だと言う事だ。追うべきか、追わざるべきかの判断に迷う。すでに自分が知る第五次聖杯戦争と異なる展開になり、創名の策が読みきれない。まさか、あれだけ清々しく逃げておきながら、山門の前でサーヴァントの召喚を行っているとは思わず、召喚の為の魔力もキャスターの結界によって察知することができなかった。創名なら逃げ切る用意をしていて追撃は無駄だと判断し、意識を戦場に戻した。
キャスターが自らのマスターの元へ地を這い、近付いていく。慎二の一撃は致命傷だったのだろう、現界を保つのに手一杯で空中浮遊の魔術も使えないのだ。
「……宗一郎様。」
愛した者に尽くし、あらゆる裏切りを重ね、しかし、愛した者に裏切られ、愛した者を裏切り、自らの子供さえ手にかけた裏切りにまみれた人生。英霊になった後も、裏切りによって愛した者と引き裂かれる。
そんな彼女が地を這ってでも宗一郎の元へと行こうとするのを、誰も止められなかった。
「あぁ、貴方と共に……」
裏切りの魔女は幸せな夢から醒めてしまうのを惜しむような表情で、愛した男の顔に触れ、指先から消えていった。
「……キャスターは倒した。これで桜を探せるわね。」
「そうだな。」
何かを振り切るような凛の言葉に士郎が頷いた時、山門が轟音をたて爆発する。
「な、なんだよ!?」
「創名が山門に爆薬を仕掛けていたようだな。セイバーが開けて起爆したのだろう。」
慎二の悲鳴じみた声に、アーチャーが答える。事実、万が一召喚の詠唱中に追いつかれないように創名が仕掛けたトラップだった。
爆風が全て柳洞寺側へ向くように仕掛けていたあった為、セイバーは爆風による被害はなかった。
「セイバー、無事か!?」
「えぇ。それよりも、キズナがサーヴァントを召喚しました。」
「なんですって?どういう事か説明して。」
セイバーがアサシンを媒体にサーヴァントを喚び、そのサーヴァントがアサシンの体を奪ったように見えた事を話す。
「その宝具で、創名が召喚したというならば、それは私が経験した第六次聖杯戦争で創名が従えたアサシンと同じアサシンだろう。
十二代目ハサン。個を捨てている十九のハサン達の中でさえ、無貌のハサンと呼ばれる変装に特化した暗殺者で、自らが殺した者の皮を剥ぎ、それを持って殺した者に成り代わる秘技を持っていたそうだ。」
「その秘技が宝具化したのが、セイバーが見た体の乗っ取りね。」
「ああ、厄介な事にサーヴァントに成り代わると、ステータスまで成り代わられたサーヴァントの物になる。
その上、どういう訳か創名の目的に賛同していた。自身を犠牲にしてでも創名を勝たせに来るはずだ。」
アーチャーは忌々しそうに創名のサーヴァントの説明を行う。
「早く対処したいが、逃げられたなら今から追っても追い付けん。今は、間桐桜の救出を優先するべきだ。」
「そうね。早く見つけてあげなきゃ……」
「桜の居場所なら、このメモに、て返せよ!」
アーチャーの言葉に頷いた凛は、慎二が見せたメモを奪い取り、それが創名の書いた物だという事に気づいて眉をひそめた。
「……罠かしら?」
「罠だろうな。しかし、創名は、罠の餌を惜しむ奴ではない。間桐桜はメモ通りの場所に居るだろう。」
「なら良いわ。罠なんて食い破って、さっさと桜を助け出すわよ。」
メモが示す本堂へ、凛は歩き始めた。
「あちゃー、やられた。」
「どうした。マスター?」
深夜の冬木の街を、隠れ家に向かって歩いていた創名が溜め息と共に呟く。
「キャスターがやってくれた。自身の魂を小聖杯じゃなく、大聖杯にくべた。聖杯を完成させないつもりだったみたいだ。」
霊体化したアサシンが問いかけに答える。聖杯は、七体分のサーヴァントの魂を持って器を造り、そこに大聖杯の魔力を注ぎ完成する。サーヴァントが足りなければ、聖杯戦争は瓦解するのだ。
「ま、良いか。どうせ結末は同じなんだし。」
笑みを浮かべながら創名はいい放つ、キャスターの最後の一手は見事だったが、実は創名には意味が無いものである。なぜなら、この冬木には八体目のサーヴァントが存在しているのだ。それも、英霊の魂に換算して二三体分の魂を持つ英霊が。
キャスターはそれを知らなかった、創名は知っていた。ただそれだけの事だった。
自身のサーヴァントをどう使うかを考えながら、創名は冬木の夜を歩き続ける。
そこは、虎なししよーやロリでブルマな弟子が居る道場の真上から2つ隣の教室。今日も赤毛白衣な先生と、やる気の無い学ランなアヴェくんがいた。
「アンリ´Sきゅーあんどえー!!」
「いえーい。」
「さて、キャスターが何かしたみてぇだけど、どういう事だ?」
タイトルコールもそこそこに、アヴェくんが先生に尋ねる。
「二つある聖杯の内、大聖杯と呼ばれる方に自分をくべたんだよ。聖杯戦争は小聖杯にサーヴァントの魂が満たされて終了する。ただの願望器として使うなら、サーヴァント全てを小聖杯にくべる必要性は無いけど、創名の目的の規模を考えると万全の聖杯じゃ無いと完全には叶わないだろうね。」
「あー、なるほど、意地でも邪魔する気なのか。」
「そう言うこと。次回、
夢2
お楽しみに」