弟くんがラスボスルート   作:潤雨

21 / 48
創名の工房2

 

 

「ふ〜ん、なるほどね」

創名の工房は、彼の部屋の地下にある。その工房を調べる為、創名の部屋に入った時、凛は納得の声をあげた。

魔術師にとって、部屋とは個人の心を表す物だ。パズルのピースに埋まったこの部屋は、あの破片の砂漠を思わせる。

「創名の工房はここの地下だ。昨日、魔力炉を壊すために入ったけど、罠とかは無かったぞ。」

士郎がそう言いながら地下へ入って行く。その後を、セイバー、バゼット、凛、アーチャーの順で追う。

工房は広く、様々な魔術品や刈った魔術師から奪った研究を纏めたファイルを収めた本棚等が並んでいるが、狭く感じない。

入ってすぐにある破壊された魔力炉を見て、凛の顔が引きつる。魔力炉の値段を正確に弾き出した結果である。

凛とバゼットは本棚に調べ始め、気になるファイルをパラパラと見ていく。

「これは生きる屍(リビング・デッド)の作り方。こっちは聖火を使って聖人を殺す研究」

「このファイルは死体にルーンを刻んで活用する方法、他は魔術による延命。どうやら、ハーヴェストが奪った研究を纏めた物のようです。」

「こんなに有るなら、どれを応用して礼装を作ってるか分からないわね。……さすがに死体関連は使ってないでしょうけど。」

外道を刈っているから、奪った研究が外道なものなのは必然なのだが、これ等を活用してきたらと思うと溜め息が出る。それが出来るほど創名の魔術師としての位階が高く無いのが救いだ。

「……そうか、この時には既に有ったのか。」

魔術品を見ていたアーチャーは、あるものを見て、絶望するように呟く。その視線の先には少女の顔が象られた頭部がついた、鉄製のカプセル。つまり、鉄の処女(アイアン・メイデン)だ。カプセルの前部が開くように出来ていて、その内に鋭い棘があり、中に入れられた者に流血を強いる恐ろしい物だ。中世ヨーロッパで拷問や刑罰に使われたと言われるが、フィクションであると言うのが最も有力な説である。

そんな鉄の処女だがアーチャーの目の前にあるのは気狂いな貴族一族が、鉄の処女の伝承を鵜呑みにして、婦女暴行の罪人の刑罰に使っていたと言う曰く付きの一品だ。

長いこと使用され、概念を纏い、立派な礼装となっている。その効果は、使用されると周囲の、女性としたことのある男に激痛が走ると言うもので、しかも経験が多いほど痛みが強くなる。

アーチャーは世界では創名が親友と呼んだサドマゾシスターの手に渡り、アーチャーにトラウマを作った恐怖の礼装だ。

すぐさま破壊したくなるが、調査中にやるのはマズイと思い踏みとどまる。

「(あの時は何故か分からなかったが……)」

当時は、創名と彼女の縁を不可解だと思っていたが、今なら納得出来る。傷付いた人間を慈愛で抱きしめ、抱きしめる為に人間を傷付ける彼女と、魂から傷だらけの創名が引かれ合うのは必然だったのだろう。それで、恋愛に発展しなかったのもあの二人らしい。

アーチャーが感傷に浸っていると、凛から念話で呼ばれる。行ってみると、作業台とその上に置かれているアーチャーが着けるガントレッドによく似た物が有った。

「お前のソレ、創名が造ったのだったのか。」

「あぁ、そうだ。成人祝いだと言ってな。まったく、どこの部族だと思った物だ。」

士郎の言葉に、何かを思い出すように目を細めながらアーチャーが答える。

「ふむ、コレがここまで出来上がっているなら…」

何かに思い至ったようで、卓上の銀のガントレッドを士郎に渡し、装備するように言う。

「む、少し大きいぞ。」

「成長が終わった時に最適になるようにしているのだろう。そのまま、ここに手をつけ。」

アーチャーが指した作業台の近くの壁にガントレッドを着けた方の手で触る。

すると、壁に魔方陣が浮かび、自動ドアのように開く。

そこには、一振りの剣が在った。幻想のように美しい鋼の剣、形は普通の両刃の西洋剣だが、その内包する神秘は凄まじい物だった。

調和する誓いの剣(チューニング)。衛宮創名の最高傑作だ。」

「……あぁ。」

アーチャーの言葉に、士郎は頷くがその視線は鋼の剣から動かない。

「見事な出来ね。宝具級じゃないのコレ?」

「現存する宝具の破片等が材料らしい。最も、宝具の持つ神秘を保ったまま、別の剣にするなんて芸当は創名しかできないだろうがね。」

「……封印指定確実ですね。」

凛に言われて、少し自慢気に笑うアーチャー、バゼットは呆れたように呟くが、創名の事は士郎も含めて協会に報告するつもりは無い。バゼットは助けられた恩義を忘れるような人間ではなかった。

「チューニングは、本来のクラスで喚び出された時に私が持つ宝具の原典だ。衛宮士郎()なら扱えるだろう。」

「アーチャーは使えないのですか?貴方の宝具の原典なら、投影して使えるのでは?」

セイバーの問いにアーチャーは苦笑する。

「出来るが、しない。私にとってあの剣は、私が正義の味方に成る為に創名がくれた物だ。私がここにいるのは、私の願いを叶える為、言ってしまえば己れの我儘だ。その為に、これを使うのは許す事が出来ない。」

「……すみません。不粋でした。」

「構わないさ。自分でも馬鹿な事だと思っている。」

セイバーの謝罪を流し、いまだに、剣を見つめる士郎に声をかける。

「工房の調査は、凛達(マスター達)に任せて道場に行くぞ。その剣の扱い方を教えてやろう。」

「あぁ!」

アーチャーは祈る。美しき剣が、この世界では創り手(創名)を殺す剣と成らない事を……

 

「キャスター、ただの散歩に監視は良くないと思うな。」

『あら、そういう事は今の状況で出歩く神経を直してから言いなさい。』

創名は柳洞寺から出て、ぶらぶらと歩いていた。キャスターは、正気とは思えないその行動を止めようとしたが、暗示類は全て防がれ、しょうがなく使い魔を同行させていた。

「暗示も無駄だから止めてね。聖骸布着けてるから魔力の無駄遣いになるよ。」

『誰の聖骸布かしら?』

聖骸布とは、聖人の遺体を包んだ布の事で、聖人によって効果は違うが身に付けるだけでその加護が得られる聖遺物だ。

「ん?ウァレンティヌスの聖骸布。」

恐らく日本で一二を争う知名度の聖人の名に、キャスターは絶句する。聖ウァレンティヌス、英語読みならば、聖ヴァレンタイン。彼は、結婚が法によって禁止されていた時、それに逆らい、ある夫婦の結婚式を挙げた聖人であり、その聖骸布は、身に付けた者への暗示や命令(ギアス)を完全に防ぐ効果を持つ。

キャスターが、絶句している間にも創名は歩き続け、

「あ!き、創名ぁ!!」

間桐慎二に発見された。

「あ、慎二…」

言葉と同時に、アンコールを取り出し発砲する創名、慎二は倒れて動かなくなる。

「やべ、つい……」

『つい、で撃たないでくれるかしら?』

「あ、しかも勿忘草のラストだった。」

慎二に撃ったのが、最後の弾丸だったらしく、創名は溜め息をついた。

勿忘草、記憶に関する魔術品に多く使われる薬草で、勿忘草のせいで自分が何者かさえ忘れてしまうお伽噺もあるほどだ。

創名の弾丸は、その効果を高めた忘却の弾丸であり、神話クラスの勿忘草と言う高価な原材料のせいで少ない数しか無かった物だった。

「前、コレで撃たれた魔術師は、人間だってことを忘れてゲロゲロしか言わなくなったけど、慎二は大丈夫かな?」

『そんなのを、つい、で撃たないでちょうだい!』

キャスターに怒鳴られながら、創名は慎二に近付いて治療を始める。その際、ある事を書いたメモを慎二のポケットに入れ、簡単な暗示をかける。

その後、近くの公園のベンチに寝かせ、創名はその場を後にしようと歩き出す。

この時間、慎二がこの場所を通る事は予想していた。外れても構わない程度のお節介、コレはありがた迷惑みたいな物である。

慎二は道化だ。だが、道化とは劇に欠かせない物である。

魔術師の家系に産まれながら、魔術師に成れない劣等感を抱き、ソレを桜にぶつける程歪んでいたが、ソレが慎二の全てでは無いことを創名は知っていた。

「君に光あれ。」

創名は首だけ後ろに向けて囁いた。

間桐慎二と言う舞台が、喝采を受けるか、嘲罵を受けるかは、 間桐慎二次第なのだから……

 




そこは、虎なししよーやロリでブルマな弟子が居る道場の真上から2つ隣の教室。今日も赤毛白衣な先生と、やる気の無い学ランなアヴェくんがいた。

「アンリ´Sきゅーあんどえー!!」
「いえーい。」
「前回の???は、慎二の災難でした。」
「災難じゃ済まなくね?友達に出会い頭に撃たれるとか、しかも、口ではつい、とか言いながら狙ってたみてーだし……」
アヴェくんの言葉を先生は咳払いで誤魔化す。
「遂に出た、アンコールの弾丸、後は切り札のみです。」
「アレが、切り札じゃないとか切り札どんだけえげつないんだよ……」
アヴェくんの言葉は先生を見て小さくなる。決して、先生がちらつかせた銃とは無関係では無いだろう。
「後は、鉄の処女か?」
「アレはね、婦女暴行の裁判に使われてた、て作者が聞いて考えてた礼装なんだけど、後から調べたらフィクションだったらしくて、ボツにしたんだけどシスターとの組み合わせを思い付いたら、どうしても出したくなったんだって。」
「恐ろし過ぎるから、その組み合わせ……」
アヴェくんが頭を抱えるのを、先生はニヤニヤと見ていた。
「次回、
魔術の英雄
お楽しみに」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。