彼女は僕の黒歴史 作:中二病万歳
突然の自己紹介になってしまうが、ボクこと二宮飛鳥は『無駄な馴れ合い』というのをあまり好まない。
なんとなくで作り上げた人間関係に縛られ、特に行きたい理由も見当たらないのに友人に付き合ってあちこち出かけたりする。そういう他人の顔色をうかがうようなことはしたくないのである。
逆に言えば、無駄ではない馴れ合いなら特別拒む理由はない。
たとえば、自分と同じ志を持つ仲間と腹を割って話し合ったりするのは歓迎できる。そうすることで、今まで見えなかったモノが見えるようになったりするかもしれないから。
『かんぱーい!』
そういうわけで、飲み会のようなノリで始まった今回の『女子会』も、ボクにとっては断る要素はなかった。
「デビューしてから半年。本当にいろいろあったにゃ」
クリームソーダのクリームの部分を切り崩しながら語るのは、喫茶店でのアイドル同士の交流会を提案した張本人・
彼女の発案で、だいたい同時期にデビューを果たし、かつ今日暇な人間を集めてお茶をしようという流れになったのである。
346プロダクション内には品ぞろえの良い喫茶店があるので、交流会の会場とするには非常に適していたらしい。
「最近は現場の人にもみくの猫キャラが浸透してきてるからやりやすいにゃ」
今のセリフの内容通り、彼女はアイドル活動をするにあたって猫キャラを演じている。学校などでは普通に過ごしているそうだが、猫になりきっている際の彼女はとても個性的で、これは十分売りになるだろうと予想できるものである。
今は勤務時間外だが、プロダクション内にいるのでまだ猫キャラを通しているということだろうか。
「あー、わかるわかる。私のロックなところもだんだん知られてきたっていうか」
「えー、本当かにゃ?」
「なんだよ、なんで私のことは疑うわけ? ロックだよロック!」
ボクの向かい側に座る前川さん。その左隣が、ほぼ常にヘッドホンを持ち歩いていることで有名な
座右の銘はロック。今年の目標もロック。将来的な夢はロックなアイドルになることらしい。とにかくロックが好きな人、というイメージをボクは抱いている。
ただその割に、彼女が具体的にどういうグループの曲が好みだとか、そういう話を一切聞いたことがないのはなんとも不思議だ。一部では『実はたいしてロック詳しくない説』が流れているようだが……まあ、ボクはノーコメントで。
「皆さん羨ましいですね。私なんてなかなか超能力アイドルであることを認識してもらえなくて困っています」
「いや、それはある意味当然なんじゃないか」
思わずツッコミを入れてしまったが、李衣菜さんの隣に座る超能力大好き少女が
スプーン曲げなどの超能力に憧れていて、本人は『エスパーユッコ』を自称している。果たしてそれが真実なのかそうでないのか。これもノーコメントとさせてもらおう。まだまだモノを知らないボクが判断できる事柄ではない。
「ククク、戦場に見えるは我が眷属達の姿! (私も最近話が通じる人が増えてきました!)」
そして、ボクの右隣に座る蘭子。以上、5人で喫茶店のテーブルを囲んでいた。
自分自身を含め、なかなかにイロモノ揃いの面子だと感じる。
「猫といえば、どうにもボクは猫の真似を要求される場面が多い気がする。以前水着で写真撮影を行った時も、カメラマンに猫のポーズをするよう頼まれた」
「ええーっ、なんかそれ羨ましいにゃ! みくは一度もそんなこと言われてないのに」
「そりゃみくちゃんは自分から猫キャラ推しまくってるんだし、いちいち向こうが頼むまでもないんじゃないの?」
「……言われてみればそうかもしれないにゃ」
李衣菜さんの指摘を受け、納得した様子でうなずく前川さん。
ふと思い出した話題をボクが振ったことで、会話の中心が猫キャラに移っていく。
「でも、確かに飛鳥ちゃんは猫耳とか似合いそうですね。一度つけてみたらどうでしょう。サイキックな未来が切り開かれるかもしれません」
「だ、ダメにゃダメにゃ! 猫キャラはみくと被るから! ……飛鳥チャン適性高そうだし」
「魔法使いの相棒……(黒猫、似合うんじゃないかな)」
全体的な意見として、どうやらボクは猫キャラが合うタイプの人間らしい。正直実感はわかないけど、みんなが言うのならそうなのかもしれないとも思う。実物の猫が見せる気難しさには、時々共感できることもあるしね。
「猫耳が駄目なら、ウサギの耳なんてどうでしょう?」
声がした方を振り向くと、ウェイトレスの服装に身を包んだひとりの女性が立っていた。
「ナナ、ちょうどよくウサミミ持ってますし。飛鳥ちゃんつけてみます?」
「いや、遠慮しておくよ。ウサギならボクより蘭子の方が似合いそうだ」
「えっ? わ、私?」
「ああ! なるほど、そうかもしれませんね。じゃあ蘭子ちゃん、試してみましょう」
どこから取り出したのかわからないウサミミを蘭子に突き出す菜々さん。ウサミン星人だからなのか、その瞳は好奇心に満ちている。
「ウサギならオッケーだから、ちょっと見せてほしいにゃ」
「結構イケそうだしね。ロックに決まりそう?」
「ささ、どうぞどうぞ」
「わ、私に未知なる属性を付与しようとするか(う、ウサギさんですかぁ……?)」
周囲の押しに飲まれかけている蘭子は、助けを求めるような瞳でボクの顔を見る。
しかし、この個性的なメンバーが団結して作り上げた流れというのはいかんともしがたい。
「蘭子」
「アスカちゃん……」
「時には諦めが肝心なこともあるらしいよ」
「そんな~」
1分後、白いウサミミを頭につけたウサギ蘭子が誕生した。
本人は恥ずかしがっていたが、周りは可愛い可愛いと興奮して写真を撮りまくっていた。
「我が友、哀しき裏切りなるぞ……(アスカちゃんひどい……)」
「すまない」
ボクだって抵抗することは嫌いじゃないが、それも時と場合によるんだ。
抵抗がそのまま自縛につながってしまうような状況だって、世の中には存在するのだから――なんてそれらしいことを言ったとして、ただの言い訳にしか受け取ってくれないんだろうね。
「菜々さん。以前から気になっていたんだけど」
結果、ボクは蘭子から目を逸らして他の人間に話しかけることにした。
「なんでしょうか?」
「菜々さんは、アイドルデビューから2年経過している」
「はい」
「デビュー当時、あなたは17歳だった」
「ええ」
「……今、年齢はいくつですか」
「17歳です♪」
「………」
輝くような笑顔で自信満々に答える菜々さん。
まるでボクの思考が間違っているのかと錯覚させられるほどである。
しかしそれはあくまで錯覚にすぎず、ボク以外の4人もボクと同じような反応をしていた。
そのうちのひとり、李衣菜さんが彼女に向けて手を挙げた。この2人、一応同年齢である。
「菜々さん菜々さん」
「なんですか、李衣菜ちゃん?」
「去年は何歳だったの」
「17歳です♪」
「今年は?」
「17歳です♪」
「よしんば本当は27歳だとしたら?」
「……17歳です♪」
一切笑みを崩さず17歳を連呼する彼女を見ていると、なぜか人間の意思の強さというものを感じられるような気がした。
「なるほど。菜々さん、あんた最高にロックだよ」
「サイキックパワーで年齢を維持しているんですね! わかります」
「まさに刻の叛逆者! (すごいです!)」
「……え? こういう流れなの? 無理があるでしょって思ったみくがおかしいの?」
素直に称賛する蘭子達3人。意外と根が真面目な前川さんは、困惑気味にボクを見る。
「飛鳥チャン、どう思うにゃ」
その問いかけに対し、ボクはあらかじめ用意していた回答をすぐさま返した。
「ノーコメントで」
ほんの少し砂糖とミルクを混ぜたコーヒーをすすりながら、外の景色を眺める。
あぁ。そういえばもともと、ボクに猫キャラが似合うかどうかという話から始まったんだった。
……プロデューサーなら、なんと答えるだろうか。
騒がしくもどこか心地の良い仲間達の喧騒をBGMに、ふとそんなことを思うのだった。
ハッピーバースデーみくにゃん(1日遅れ)。
せっかくなのでみくにゃんを登場させました(1日遅れ)。
たまには他のアイドルとの交流シーンもいいかな、と。全員アニメに登場している(ユッコはまともに出ていたのが5話のワンシーンのみなので印象薄いかも)ので、原作未プレイの方でもだいたい理解してもらえるかと思います。