もし青銅が黄金だったら   作:377

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第一話 襲来!白銀聖闘士

  かつてギリシャの地において、戦女神アテナと共に地上の平和を守り闘う少年達がいた。

 彼らは常に素手で闘い、その蹴りは地を砕き、その拳は空を割いたと伝えられている……もはやギリシャ神話にもその名が残っていない伝説の闘士……彼らの名を、聖闘士(セイント)という……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 極東の国・日本のとある海岸、そこに妙な人影が見える。

 遠目からは数人の男達――四人の少年達と一人の青年か――がなにやら言い争っているようだ。

 

 すると、突然少年達の中の一人が叫んだ。

 

 「くっ、誰だお前は!? 一体俺達に何の用だ!?」

 

 そう叫ぶ少年はある意味異様と言ってもいい姿だった。

 少年の全身は血にまみれ、着ている薄手のシャツとズボンはたった今戦争から帰ってきたのかと思う程にズタズタになっている。

 更に見れば、他の少年達三人もまた同じような状態であり、今叫んだ少年と共に、その相手を警戒しているのか鋭い目付きで睨み付けている。

 だが彼ら四人と対峙する青年はさも当然、と言った口調でゆっくりと口を開いた。

 

 「フッ………愚か者が。聖闘士同士の私闘は禁じられていると知らぬはずはあるまい。お前達は聖闘士であるにも拘わらす、その掟を破ったのだ。故に教皇の勅命により、この私がお前達を抹殺する! この白銀(シルバー)聖闘士、蜥蜴星座(リザド)のミスティがな!」

 

 「な……何だって!?」

 

 青年はミスティと名乗った。

 だがそれ以上に、少年達はミスティの口から発せられた白銀聖闘士という言葉に息を呑んだ。

 

 聖闘士。

 

 それはギリシャ神話からも忘れ去られた伝説の戦士。

 その聖闘士同士が今、砂浜で向き合っている。

 そう、ミスティだけではない、少年達もまた聖闘士なのだ。

 真っ先に叫んだのが天馬星座(ペガサス)の星矢、そしてその周囲に立つアンドロメダ星座の瞬、龍星座(ドラゴン)の紫龍、白鳥星座(キグナス)の氷河。

 彼らは皆、先日行われたあるイベントに参加するため日本に集まっていたのだ。

 

 突如として現れた男の抹殺宣言に当惑する四人。

 しかし、ミスティが言ったことは決して間違いではなく、星矢達はその時確かに掟を破り私闘を行なっていたのだ。

 もちろんそれぞれに事情はあった。

 だが、目の前の相手が到底それを聞いて退いてくれるような男ではないことは、その佇まいを見れば明らかだった。

 

 ミスティの全身は光輝く白銀の鎧に覆われている。

 その鎧こそが聖闘士の証――――その名も聖衣(クロス)。

 武器を用いず地上の平和を乱す邪悪と闘う聖闘士にとって、聖衣とは己の身を守る至高の防具。

 それを纏うのは、聖闘士として戦闘態勢で臨むということに他ならないのだ。

 

 無論、星矢達も聖闘士として己の星座の聖衣を授かっている。

 だがアテナを守る聖闘士の中にはいくつかの階級が存在する。

 まず聖闘士としての最低限の力を身に付けた青銅(ブロンズ)聖闘士が最も下級であり、それ以上の実力を持ち、ある程度の強さに達した者は白銀(シルバー)聖闘士と呼ばれるのだ。

 星矢に瞬、紫龍や氷河は一番下の青銅聖闘士だ。

 だが一口に青銅聖闘士と言ってもその強さには幅があり、彼らは青銅の中でも強い部類に入るのは間違いない。

 しかしリザドのミスティ、彼は白銀聖闘士の中でもかなり上位の実力を持っているのだ。 その力は、なんと掌底ひとつで山一つを大きく揺るがすことも可能な程の凄まじさ。

 それは本来なら青銅聖闘士が四人集まった位で覆すことが出来るような差ではない。

 同じ聖闘士といえども、青銅と白銀の間にはそれほどの強さの差がある。

 

 だがそんな相手に対して、最初に啖呵を切った星矢が真っ先に前に出た。

 

 闘うつもりだ。

 

 周りにいる星矢の仲間達であるドラゴンの紫龍や、キグナスの氷河、アンドロメダの瞬はそれに気付き、相対する二人の姿を固唾を呑んで見守っている。

 

 聖闘士が闘う時は、一対一であることを重視する。

 だからこそ、白銀聖闘士という格上の力を持つミスティに対しても星矢はたった一人で挑むのだ。

 その意志を汲んでか、他の三人はやや後方へ下がり手を出す様子は見せない。

 

 「確かに俺達は掟を破ったかもしれない……でも……ここで命を落とすわけにはいかないんだ! 俺にはまだやらなければならないことがある! そのためなら、あんたとだって戦ってやる!」

 

 星矢の叫びに応えるかの如く、その身体から目に見える程の力強いオーラが立ち上った。

 常人には考えられないような強大な力を振るう聖闘士の強さの根源、それは小宇宙。

 全ての人間は、自らの中に内なる宇宙を持っているとされる。

 それを感じ取ることで、小宇宙と呼ばれる力を発揮するのだ。

 それは、本質的には誰にでも備わっている力。

 だがその力を自覚出来る人間はそうはいない。

 聖闘士とは、己の身体の中の小宇宙を感じ取り、爆発させることで奇跡を起こす力を生む。

 小宇宙を発揮出来なければ聖闘士にはなれず、謂わば小宇宙とは聖闘士にとって基本であり真髄でもあるのだ。

 

 ミスティに向かって小宇宙を高める星矢。

 しかし、それを見ていた瞬が堪えきれずに叫んだ。

 

 「星矢! 無茶だよ! 僕達はたった今まで兄さんと闘ってたんだ! それに聖衣もないのに!」

 

 そう、星矢達はついさっきまで瞬の兄であり、青銅聖闘士の中でも最強といわれた鳳凰星座(フェニックス)の一輝とその手下の暗黒(ブラック)聖闘士達と、富士山の地下深くで闘っていたばかりなのだ。

 辛うじて一輝に勝利した星矢達は、突然襲ってきた地震と激闘の疲労で遂には意識を失った。

 そして気がつくと、この海辺に倒れていた所にミスティが現れたのだった。

 纏うべき聖衣も、失ってしまっている。

 そんな状態で格上の白銀聖闘士と闘うなど、自殺行為と呼ばれてもおかしくはない。

 しかし星矢は瞬の言葉に従う様子も無く、臨戦態勢を崩さない。

 それを見たミスティは呆れたように言った。

 

 「フッ……お前達の事情など知ったことではない。いずれにせよそんな裸同然の身でこの私と闘うというのか……ならば、この場で死ぬがいい!」

 

 言うと同時に、ミスティは星矢に向けて拳を放った。

 聖闘士の拳は、小宇宙を習得したばかりの最下級の青銅聖闘士でさえマッハ1の速さに達する。

 増して白銀聖闘士ともなれば、その速さはマッハ2~5に至るとさえ言われている。

 星矢はその拳を見切ることが出来ずに、空中に大きく吹き飛ばされてそのまま強烈な勢いで地面に叩きつけられた。

 

 「グハァッッ!」

 

 『星矢!』

 

 いきなり吹っ飛ばされ、空高くから大地に激突した星矢に他の三人が驚愕する。

 だがその衝撃によろめきながらも、星矢はゆっくりと立ち上った。

 

 「クッ……これが白銀聖闘士か……俺達青銅聖闘士とは実力が違いすぎる……」

 

 マッハ1の拳を放ち、それを見切る星矢ですら受け身を取ることも出来ない一瞬の出来事だった。

 

 だが結果的にその一撃にも耐えられたのだ。

 負けられない、そんな強い想いが星矢の身体を突き動かしている。

 生き残るために、大切な目的のために、星矢は気合を込めて――――叫ぶ!

 

 「だが! たとえどれだけ勝ち目がなくても、俺は負けるわけにはいかないんだ! くらえ! ペガサス流星拳!!」

 

 こうして星矢とミスティの絶望的な闘いが始まろうとしていた……

 

 

 

 

 


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