10年以上好きだった相手にフラれたのはあまりにもショックだった。ひどく傷つき、今でもその傷は癒えない。
これは私が失恋したバレンタインデー直後のこと。
葛西君が誰かからチョコをもらったそうだった。
・・・
彩未「圭一君、これあげる・・・。」
彩未「私、あなたのことが好きです。」
彩未「でもいいの。圭一君は私のこと好きじゃなくても。ただこの気持ちだけは受け取って。」
圭一「・・・」
彩未「これは義理チョコだから。別に本命チョコあげるほど好きじゃないけど、どうせもらえないから可哀想だと思って。」
・・・
圭一「高木さんからチョコをもらったんだけど、どう返事をすればいいかわからなくて。」
隣のクラスの、高木彩未。
中沢「それを俺に聞くか」
圭一「他に相談する人いないんだよ。荒川くんとはああなっちゃったし、高梨さんは荒川君にフラれて今傷ついてるし。」
中沢「お前はホモなんだろ? だったら女子に告白されてもはっきりと断れば・・・」
圭一「いや、ホモじゃない。ただ女の子の裸とか水着を見るのが苦手なだけだ。だから今までは男を好きになろうと思ってたんだ。」
圭一「だけど高木さんのこと意識してないわけじゃない。前から気になる存在だった。」
圭一「高木さんとは、従兄弟の関係なんだよね。」
圭一「しかも同じ日に、同じ病院で生まれた。ほとんど兄弟みたいなものだった。」
中沢「それって荒川君と高梨さんの関係と同じじゃん。あの2人は確か誕生日1日違いだけど、同じ病院だった。」
圭一「家が隣同士の幼馴染であるあの2人と違って、僕と高木さんは血のつながりがある親戚だからね。」
圭一「1人の女の子として見るのは難しかったな。」
中沢「俺は恋愛相談にはできない。高梨さんのほうがそういうことには詳しいだろう。」
圭一「いや、女の子に相談するのはなんか照れる。」
圭一「チョコのことなんだけど。まあ渡すときに義理だ、別に好きじゃないって言われたんだよな。」
中沢「なんだ。じゃあ返事も何もないだろ。」
圭一「手作りだった。高梨さんが荒川君にあげたチョコ並に豪華な。」
圭一「最初は好きだって言われた。その後に義理だと言われたけど、あれが義理なわけないよ。」
・・・
彩花「あの、高梨さん」
圭一「あ、葛西君」
圭一「実は高木さんからチョコをもらったんだけど、どう返事をすればいいかわからなくて。」
彩花「そうなの?」
圭一「僕も高木さんのこと、前から気になる存在だったんですけど、僕は女性アレルギーだから、今まで男を好きになろうと思ってた。」
圭一「女の子を好きになったら、相手を傷つけちゃうんじゃないかと思って。」
圭一「チョコのことなんだけど。まあ渡すときに義理だ、別に好きじゃないって言われたんだよな。」
彩花「義理だったの?」
圭一「でもびっくりしたことに手作りチョコだった。高梨さんが荒川君にあげたチョコ並に豪華な。」
圭一「最初は好きだって言われた。その後に義理だと言われたけど、あれが義理なわけないよ。」
圭一「・・・そう思いたいんだけどね。義理チョコだったらショックだな。」
彩花「僕は高木さんのこと好きだったから、義理ってことはフラれたことになるからな。」
彩花「葛西君は彩未ちゃんのこと好きなの?」
圭一「そりゃ・・・、好きだ。」
彩花「だったらちゃんと思いを伝えようよ。」
彩花「葛西君は大丈夫。もう女性アレルギーは大分克服したから。」
圭一「わかった。」
圭一「高木さんのことが好きだと認識できたのは、高梨さんのおかげなんだ。」
圭一「女性アレルギーを治してくれて、バレンタインの日に高梨さんの荒川君への想いを見せてくれたから、自分も本当の気持ちに向きあおうと思えた。」
彩花「そう。役に立てたなら嬉しいな。」
圭一「あの、高梨さん。」
圭一「もしかして、僕が現れなかったら高梨さんは荒川君と付き合えてたのかな、と思って。」
圭一「僕が高梨さんの邪魔をしちゃったんじゃないかと責任感じて、そうだったら僕だけが幸せになるのは申し訳ないと思ってるんです。」
彩花「何言ってるの。葛西君は悪くない。」
彩花「やっぱり、幼馴染は恋人にはなれないんだよ。」
彩花「言ったでしょ。わたしは大輔君が幸せならそれでいいって。」
彩花「葛西君もわたしの分まで幸せになってくれたら、とても嬉しいな。」
・・・
彩花「隣のクラスの、彩未ちゃんだよね?」
彩未「高梨さんでしたね」
彩花「彩花でいいよ。」
彩花「葛西君のこと好きなんだよね?」
彩未「うん、10年以上前からずっと。」
彩未「でも圭一君は男の子が好きだから、多分私じゃ駄目だろうなって。」
彩未「私の圭一くんへの想いはずっと届かないと思ってる。でも私は一生圭一君を好きでいたいと思ってるよ。」
彩未「たとえ圭一君に好きな人がいても」
彩花「葛西君は女の子の裸とか苦手なのは知ってるの?」
彩未「うん」
彩花「葛西君のそのアレルギーは私と、私の友達のおかげで克服したから。」
彩花「それまでは男の子を好きになるしかなかったけど、今は彩未ちゃんのこと好きだって言ってたよ。」
彩未「本当?」
彩未「そうだったら嬉しいな」
彩花「わたしはバレンタインデーに10年以上片思いしてた幼馴染の男の子に告白して、見事にフラれちゃったんだよね。」
彩花「その人には好きな人がいて、付き合い始めた。もうわたしにはチャンスない。でも一生その人のことを好きでいたいと思ってる。」
彩花「好きな人に好きな人がいても、好きでいたい。」
彩花「でも彩未ちゃんの恋はきっと叶う。」
彩花「ねえ、これからもわたしたちは友達でいようね。同じ名前に『彩』とつく者同士で。わたしのお姉ちゃんもそうなんだけど。」
彩未「はい。」
そのとき、私は彩未ちゃんから妖怪の波動を感じた。圭一君のときとはまた別の秘密のようなものを。
その日、私は唯ちゃんにも相談した。彩未ちゃんのことで。
彩花「彩未ちゃんと葛西君に恋愛相談されて、どうやら2人は両思いみたい。」
彩花「それはいいんだけど、どうやら彩未ちゃんにも何か妖怪が取り付いてるみたいなの。」
唯「あたしもそれを感じて、今日わかったわ。」
唯「高木さんに取り憑いてる妖怪は、転生蜘蛛。」
唯「芥川龍之介の小説、蜘蛛の糸にちなんだ名前の妖怪。」
唯「不幸な人、生前報われなかった人に取り憑いて、何度でも転生させる。」
彩花「それってつまり、彩未ちゃんは誰かの生まれ変わりってこと?」
唯「そう。前世で報われた人生を送れなかったために、この妖怪に取り憑かれたってこと。」
唯「これを解決するには、高木さんの前世のことを聞く必要がある。」
翌日
彩花「あの、彩未ちゃんって、もしかして前世の記憶があったりするの?」
彩未「前世?そんなの高梨さんには関係ないでしょ」
彩花「わたしはある能力があって、彩未ちゃんに妖怪が取り憑いてることがわかったの。」
彩花「それは、彩未ちゃんが前世で報われた人生を送れなかった人が、転生する妖怪。」
彩花「彩未ちゃんには前世からの悩みがあるみたいだから、わたしはその相談に乗りたいの。」
彩未「生まれ変わったのはこれが7回目になるわね。」
彩花「7回目?」
それはびっくりした。
彩未「私は今までの人生で、いつも好きになった人にフラれちゃうの。」
彩未「好きになる相手は決まって幼稚園のころに知り合った幼馴染。」
彩未「ずっといるうちに好きになっていくんだけど、相手の男の子には気づいてもらえない。ようやく相手と両思いになりかけたと思ったら、別の女の子に取られちゃうの。」
彩未「勇気を出して告白するんだけど、好きな人がいるって言われてフラれちゃう。」
彩未「あるときには実は好きになった人はホモで、男の子に取られちゃったこともあった。好きな男を男に取られるなんて、ショックだった。」
彩未「失恋したあと、新しい恋を探そうと思っても、私は一生に1人しか人を好きになれないみたいで、生涯独身のまま人生を終えていく。」
彩未「私は何度も独身で、処女で、一人ぼっちのまま80年以上の人生を送ってきた。」
彩未「人生80年~90年、それが6回だから、記憶では既に500年以上一人ぼっちだったってことになるわね。」
彩花「そうだったんだ。500年も・・・」
彩未「今回の人生で好きになった圭一君も、他に好きな人がいることが分かって、やっぱりこの恋は叶わないんだろうなって思った。」
彩未「だからもう傷つくのは嫌だから、バレンタインのチョコを渡すとき、圭一君には好きにならなくていいから気持ちだけは受け取ってって言ったの。」
彩未「はっきりフラれる前に、自分から身を引こうと思って。」
彩花「大丈夫。圭一君、彩未ちゃんのこと好きって言ってたから、きっと今回こそ彩未ちゃんの恋は叶うよ。」
彩花「それに一生独身で一人ぼっちなんて、耐えられないよ。それを5回も、400年なんて。」
彩花「わたし、彩未ちゃんを500年の独身生活から救ってあげたい。」
もしかしたら、大輔君にフラれた私も、これから前世の彩未ちゃんのような人生を送るかもしれない。
そう思ったら他人事だと思えなくなった。
彩未ちゃんは、別のところである人とあった。その人とは
大輔「よう、高木彩未。いや、日向杏さんと呼んだほうがいいかな?」
彩花「なんでその名前を」
大輔「俺は、前世で君の幼馴染だった者だ。いや、そいつの恋人だったほうかな?」
大輔「よく覚えてねえや。前世のことなんか。」
大輔「前世の君は好きだった男を男に取られた。ホモだったってことだな。」
大輔「ついてないよな。今回も好きになった幼馴染がホモだったなんて。おそらくまた君の恋はむくわれない。」
大輔「まあ悲しいのはわかるが、一歩ずつ勝利に近づいてると思うぞ。君も学習してきたのかな。想い人との距離は今までで最も縮まった。」
大輔「あと1回生まれ変わればもっと恋人に近づくだろう。また来世でチャレンジしな。」
大輔「まあ他にアドバイスをするとすれば、幼馴染を好きにならなければ両思いになれるんじゃないかな。」
彩未「そんなに待てません!」
彩未「もう嫌です。好きな人にフラれて、一生独身生活なんて。今回こそ好きな人と恋人になって、結婚したい。」
彩未「来世じゃない、今勝つんだ!」
大輔「そうか。まあ今の俺には関係ないことだ。」
彩未(お願い。今度こそ、私を好きになって!)
そしてついに葛西君が答えを出す
圭一「バレンタインの日、僕のこと好きって言ったよね?まだ返事を言ってなかったな。」
圭一「やっと気づいたんだ。自分の気持ちに。」
彩未「やめて。まだ心の準備ができてないの・・・」
圭一「そうか。じゃあ待つよ。」
数秒の沈黙
彩未「言って。」
彩未(いいんだ。私、フラれる準備はできてる。圭一君が誰を好きになってもいい。)
圭一「僕は高木さんのことが好きです。付き合って下さい。」
彩未「え?」
圭一「今まで君の気持ちに応えられなくてごめん。でもやっと、自分のアレルギーを治せたから。」
彩未「ごめんなさい。好きだけど、付き合うのは無理かも。私、もう傷つきたくないの。好きな人が別の人を好きになるの。」
圭一「僕は他の人を好きになったりしない。彩未ちゃんのことだけを好きでいる。」
彩未「本当?」
圭一「うん。だから僕と付き合ってくれ。」
彩未「無理だよ。私たち、従兄弟だもん。」
圭一「従兄弟は結婚できなくないぞ。」
圭一「親や周りのみんなが反対したって僕が説得する。」
圭一「世界が僕たちが愛しあうことを許さないなら、それは世界が間違ってるんだ。僕は何があっても、彩未ちゃんのことを愛する。」
彩未「なにそれ、プロポーズみたい。ぐすっ・・・」
圭一「泣いてるのか?」
彩未「そうだけど、これは嬉し涙だから。」
彩未「ありがとう。そして、よろしく。」
パチパチパチパチ
彩花「おめでとう」
彩未「見てたの?」
彩花「うん。見ないほうがよかったかな?」
圭一「なんか申し訳ないな。僕は高梨さんの恋を応援すると言ったのに、逆に自分の恋を後押ししてもらっちゃって。」
彩花「いいの。むしろ大輔君に振られてからの傷が癒えた感じ。」
彩花「わたし、昔からそうだったから。誰かの幸せを見てるのが好きなんだ。」
彩花「だから恋のキューピッドになれるのが一番好きなんだ。」
圭一「そうなんだ。」
彩未「高梨さんには感謝しなきゃいけないね。」
圭一「そうだな。」
圭一「ありがとう。高梨さんがいなかったら、僕は彩未ちゃんに告白する前に失恋してた。」
彩未「私も。高梨さんがいなかったら、自分から圭一君のことあきらめてた。また寂しい人生を送るとこだった。」
彩未「本当にありがとう。私、7回目の人生でやっと幸せになれた。」
彩花「500年も、ずっと一人ぼっちで頑張ってきたんだね。辛かったよね。」
彩花「これからは圭一君と幸せにね」