彩花/恋と魔法の物語   作:khiro

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7話 幼馴染は恋人にはなれないんだな

・・・

2月14日

 

目が覚めた。

今日、私は傷つくかもしれない。

だって、ずっと好きだったもの。怖いよ。

フラれるのは――恐い。

 

朝は早く起きて、シャワーを浴びた。

今日は少しでも可愛い自分でいるために。制服も、埃一つ見逃さない覚悟で綺麗にする。

今日は一番お気に入りの下着を着けてきた。自分にとっての勝負下着かもしれない。

 

 

――鏡を見る。

完璧だ。

完璧な私。今日の私は最高に可愛い。

 

冷蔵庫からチョコレートを忘れずにカバンに入れる。今日は教科書を全て忘れても、こればかりは忘れられない。

 

あや「彩花、今日はこっちをつけて行きな」

 

それは赤いリボンだった

 

あや「今日は彩花にとって勝負の日だからな」

 

母「そう、それがいいね。」

 

彩花「え~。派手過ぎない?」

 

あや「それぐらいでいいのさ。女は外見でナメられたら終わりだからね」

 

あや「ん、いいじゃん」

 

あや「完璧だ。今日の彩花は最高に可愛い。」

 

あや「どうしたんだ達也?」

 

達也「なんていうか、恋してる女の子って素敵だなって」

 

あや「ほほう。あんたも女のよさがわかったか。」

 

・・・

彩花「おはよう」

 

唯「お?可愛いリボン」

 

彩花「そ…そうかな?派手過ぎない?」

 

唯「勝負の日だからってリボンからイメチェンですかな?」

 

唯「可愛いなー!そこまでしてモテたいか。でも今日は許す。」

 

唯「でも今日は許す!行ってこい!」

 

香苗「これは義理なんだからね! って渡しちゃだめだよ。」

 

彩花「うん、ありがとう。」

 

私は魔法少女の卵だけど、恋に関しては魔法でもどうにもならない。

私の恋は実るのか。それとも儚く散るか。

 

 

通学路は、いつもとは違う雰囲気だった。

 

私と同じく誰かにチョコを渡して告白するのか、ドキドキしてる女子生徒。

チョコをもらえるかドキドキしてる男子生徒。

今まで特別に意識しなかったからだろう。

バレンタインデーという日が、ここまで思春期の男女を惑わすなんて。

 

 

その日、隣の席の中沢君、そして葛西君と話した。

 

祐樹「今日、荒川に告白するんだってな。」

 

彩花「うん。でもフラれるのが怖い。」

 

祐樹「大丈夫だよ。高梨さんは誰が見てもとても可愛い、必ず上手くいく。」

 

圭一「僕はたかなしさんと出会ってから本当に色々と救われてんだ。君の言葉、一つ一つに。どこまでも優しい君に。そんな高梨さんが振られるなんてあるはずがない。」

 

圭一「僕はたかなしさんに負けた。高梨さんじゃ負けても仕方ないと思えた。」

 

祐樹「俺はたかなしさんだから荒川のことをあきらめたんだ。だからたかなしさんと荒川君が幸せになってもらわなきゃ俺も困る。」

 

彩花「ありがとう。」

 

圭一「僕はバレンタインデーに同級生の女子にチョコをもらったことなんてない。まあ別に欲しくないさ。今まで荒川君一筋だったからね。」

 

祐樹「俺もだ。男以外好きになったことない。」

 

 

 

彩花「大輔君、放課後体育倉庫裏に来て。」

 

大輔「わかった。」

 

・・・

放課後

 

 

ドキドキする。心臓が最高潮に達した。

 

大輔「彩花、お待たせ」

 

大輔「何の用だ? ってなんとなく想像つくけど」

 

そこにはあこがれの人がいた。

体育倉庫に大好きな2人きり・・・

 

彩花「あの、これわたしの本命チョコ・・・」

 

大輔「本命チョコ?」

 

彩花「わたし、大輔君のことが好き。」

 

彩花「幼馴染とか、兄弟ではなく、もっと別の意味で・・・」

 

彩花「男の子として、あなたのことが好きです。」

 

勇気を振り絞って言った一言。

 

沈黙。

永遠にも思える、沈黙。

聞こえるのは帰り道の生徒の声と、部活動に生徒たちの喧騒だけ。

それすらも、私には聞こえなかった。

 

顔をあげて、彼の顔を見るのが

 

「・・・」

 

声を聞いて、顔をあげる。

 

「──────」

 

なにも、聞こえない。

聞きたくない。

 

大輔「気持ちは嬉しいけど、俺、他に好きな人がいるんだ。」

 

大輔「俺、福原さんのことが好きなんだ。だからごめん。」

 

大輔「俺にとって彩花はパーフェクトな存在だった。俺も彩花のことは好きだ。だけど・・・幼馴染じゃなかったら、君を女の子として好きになってたんだろうな。

 

大輔「本当ごめん。でも、俺のことを好きになってくれてありがとう。」

 

そんな声聞きたくない・・・。

 

それからの帰り道は、覚えていない。

泣いていたのか。

笑っていたのか。

否、笑ってはいないだろうな。

悲しいことが、あったんだから。

 

唯「あやちゃん」

 

彩花「唯ちゃん」

 

唯ちゃんと会った私は、自然と眼から涙が溢れてきた。

そっと眼を閉じるとさらに大粒の涙が溢れてきた。

 

彩花「う・・・うえーん」

 

そして唯ちゃんの前で泣いた。

 

唯「よしよし。大丈夫だよ。あやちゃんをフったなんて荒川君もったいないことしたね。」

 

唯「大丈夫だよ。私がいる。」

 

私は唯ちゃんに抱きついて泣いた。

 

・・・

由紀「荒川君。これ受け取って。」

 

大輔「ありがとう。」

 

由紀「私、荒川君のことずっと好きでした。」

 

由紀「でも荒川君は高梨さんが好きだから、私の思いはきっと届かない。」

 

由紀「でもいいの。荒川君、これからもずっと友達でいてね。」

 

大輔「・・・」

 

大輔「あの、俺も福原さんのことが好きだったんだ。」

 

由紀「え?」

 

大輔「今の言葉が本当なら、俺と付き合ってくれ。」

 

由紀「嬉しい・・・」

 

由紀「でも高梨さんにも告白されたんだよね?」

 

大輔「うん。正直に言った。俺は福原さんが好きだって。」

 

大輔「実は恥ずかしいけど一目惚れだったんだ。福原さんが転校してきた最初の日から、ずっと片思いしてた。」

 

由紀「私も一目惚れだったな」

 

 

・・・

家に帰ってからも部屋で1人で泣いていた。

こんなに泣いたのは生まれて初めてだった。

 

・・・幼馴染じゃなかったら、君を女の子として好きになってたんだろうな

 

彩花「なんでわたしを振った理由がよりにもよってそんな理由なの・・・」

 

母「今日は彩花のの好きなもの作ってあげるからね・・・」

 

夕日が沈み、もうすぐ夜になっていた。

 

食欲もなかった。

そんなとき

 

達也「そっとしておいてあげたほうがいいのかもしれないけど、僕は女の子が泣いてるのを見ると放っておけないんだ。」

 

達也「今日は僕がそばにいてあげるよ。」

 

あや「私もそばにいていいかな?」

 

達也「お姉ちゃんはいつかきっと幸せになれると思うよ。」

 

達也「泣かないで、お姉ちゃん。」

 

彩花「優しいね」

 

達也「僕の大好きな人が悲しんでいると僕も悲しいから。」

 

私は弟に慰められた。

 

あや「あたしも彩花ちゃんが泣いてるところ見るの悲しいよ。」

 

あや「だから泣かないで」

 

あや「でも本音を言うと・・・」

 

あや「あたしも一緒に泣いていいかな?」

 

あや「だって、彩花の恋ずっと応援してたから、自分がフラれたときより辛いの。」

 

彩花「うん、一緒に泣いてくれる人がいたらいいな。」

 

あや「うえーん。」

 

そこには私以上に涙を流している姉の姿があった。

サッカー日本代表が負けて選手以上に泣いているサポーターとか、高校野球で自分の学校が負けて球児以上に泣いている女子生徒みたいなものかもしれないけど、

私のために私と一緒に泣いてくれてる彩ちゃんが心地よかった。

 

・・・

その日は久しぶりに姉と一緒に寝た。

 

彩花「あやちゃんもう寝たのかな?」

 

あや「彩花、まだ起きてたんだ」

 

彩花「あやちゃんも起きてたんだ」

 

あや「なんだか眠れなくて」

 

彩花「わたしも」

 

あや「ねえ、悲しい?」

 

彩花「時間が経ったからそれほど」

 

あや「泣きたい?」

 

彩花「うん。・・・ちょっと、泣きたいかな?」

 

あや「ねえ、泣いてるよね?」

 

彩花「・・・そう、かな・・・」

 

あや「彩花ちゃん、泣かないで…。」

 

彩花「涙が止まらないの・・・」

 

あや「彩花ちゃんが泣いてるところはみたくないよ」

 

彩花「毛布、かぶってるから・・・」

 

あや「やだ、にこにこしてない彩花ちゃんなんていやだよ。」

 

あや「うわーん」

 

彩花「あやちゃん・・・泣かないで・・・」

 

彩花「あやちゃん・・・ごめんね・・・」

 

「・・・」

 

あや「私より、彩花ちゃんの方が辛いのに…ごめんね」

 

彩花「いいの。ありがとう。」

 

・・・

それでも数日間落ち込んでいた。

 

唯「あやちゃん、フラれちゃったみたいね。」

 

香苗「元気出して」

 

彩花「ありがとう。」

 

唯「初恋は儚いものね」

 

彩花「わたし、もう人を好きになることないかもしれない。」

 

香苗「今は、失恋した直後はそう思うかもしれないね。でもいつかまた新しい恋に巡りあえるよ。」

 

彩花「小さいころからずっと一緒だった大輔君の代わりなんているかな・・・」

 

こうして中学2年生の、高梨彩花の初恋は失恋した。

 

私はもう泣かない。いつかあいつを後悔させてやるんだと。

私をフッたことを。

 

私はいつか、大輔君以外の人を好きになるだろう。

大輔君以外の誰かと恋に堕ちる日がきっとくる。

 

 

1ヶ月後の3月14日

 

大輔「あの、これバレンタインデーのお返し」

 

1つの飴玉だった

 

彩花「ありがとう」

 

大輔「一応もらったんだからお返しはしないとと思って」

 

彩花「でもあれだけはっきりフラれたんだから、わたしは大輔君のことは諦めるよ。」

 

 

由紀「荒川君は私を選んだの。この勝負は私の勝ちってことね。」

 

彩花「そうだね。由紀ちゃんの勝ち。」

 

由紀「彩花ちゃん、荒川君はこれから私と付き合うことになったの。だから今後一切荒川君には手を出さないでくれる。」

 

彩花「え、そんな・・・」

 

大輔「ああ、俺たちの邪魔はしないでくれ。」

 

彩花「大輔君まで・・・」

 

・・・

物語にはどんでん返しがつきもの。スポーツには大逆転や番狂わせがつきもの。

最後の最後まで何が起こるかわからないのだ。

 

この物語におけるどんでん返し、番狂わせというのは、メインヒロインである彩花が恋愛面で負けてしまったことだろう。

 

オラフ「やっぱり本命が負ける波乱ってあるんだな。少女漫画で主人公がフラれるなんて未だかつてあっただろうか。」

 

彩花「波乱なんかじゃないよ。最初からわかってたこと。」

 

オラフ「わかってた?」

 

彩花「やっぱり、幼馴染は恋人にはなれないんだな。」

 

ウェスターマーク効果。

幼少期から同一の生活環境で育った相手に対しては、長じてから性的興味を持つ事は少なくなる、とする仮説的な心理現象である。(wikipedia抜粋)

つまり、幼馴染は好きになれない、ってこと。

 

全員が全員とは言わないが、大輔君は間違いなくそうだ。ウェスターマーク効果で、彼は私のことは恋人としては見れない。

そういうことだった。

 

 

・・・

大輔「バレンタインの日、香苗から言われたんだ。」

 

大輔「彩花を酷い振り方した、10年以上も一緒だった幼馴染を泣かせた、それでも彩花の幼馴染かって。」

 

大輔「彩花からバレンタインのチョコをもらったのは10度目くらいだけど、手作りなんて初めてだったからな。」

 

大輔「それを見て、彩花の俺への想いは本気だったんだなと思った。彩花は本当に俺を好きになってくれたんだ。俺は気づいてやれなかった。」

 

大輔「彩花には可哀想なことをしたと思ってる。」

 

大輔「でも仕方ないんだよ。俺は福原さんのことが好きだ。それにどうしても彩花を彼女として見ることはやっぱりできない。」

 

由紀「私もクラスメートから、高梨さんの幸せを奪っていいのかって責められた。でも仕方ないじゃない。私は荒川君が好きなんだから。」

 

大輔「お前は悪くないさ。全部俺の責任だ。」


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