エピローグ
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大輔君と由紀ちゃんは20歳で結婚し今年で結婚45年目。
4人の子供に恵まれ、長女と長男も結婚。もうすぐ孫もできるそうだ。
同じころに葛西君も彩未ちゃんと結婚して、幸せに暮らしている。
中沢君と香苗ちゃんと唯ちゃんも30歳までには結婚していた。
中沢君は女性を好きになれて無事に結婚できたことにホッとしている。
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30歳を過ぎたころ
母「本当に結婚しないつもりなの?お見合いの話も断るなんて」
彩花「私、大輔君以外の人と結婚するなんて考えられない。それをしたら、大輔君を好きだったことを否定することになるから。」
母「なんて頑固なの。ちょっと、お父さんも説得しなさいよ。」
父「素晴らしいじゃないか。たとえフラれても、幼馴染の男の子を一生好きでいたいだなんて。」
父「自分の娘がそんな一途な子でよかったよ。」
母「何言ってるのよ。これではあなたも私も孫に会うこともできないのよ。」
父「それがどうした。どこの馬の骨かわからない男に彩花をやれるか。」
母「まさか、彩花が婚約相手を連れて来ても結婚に反対するつもりだったんでしょ?」
父「そんなことしねえよ。彩花が好きな相手なら喜んで結婚に賛成する。」
父「だが彩花は一生独身でいいって言ってるんだ。俺は彩花の意思を尊重する。」
母「彩も達也も結婚しないつもりよ。三兄弟揃って生涯独身なんて、こんな親不孝ある?」
父「独身のどこが親不孝だ。親不孝とは働かずに親の金で生きてるニートのことだ。」
父「しかし彩花はちゃんと働いている。むしろ生涯独身なら俺やお母さんを老後まで養ってくれると思うぜ。」
父「そうだろ?」
彩花「うん。そのつもりでいる。」
結局母も首を縦に振るしかなかった。
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50歳を過ぎたある日、3ヶ月も生理が来てないことに気づく。もちろん妊娠なんてあるわけない。
つまり終わったんだ。閉経したことを意味した。私が子供を産める可能性が完全になくなった。
むしろ子供を産むことはもうないのに50歳まで無駄な生理が続いたことのほうが苦痛だった。もっと早く生理が終わればよかったのに。
そしてあれから50年が経った。
私は今年65歳、処女で独身のまま定年を迎えた。
同期入社で独身のまま定年退職した女は私1人だけだった。
同期の女性のほとんどは結婚して会社を辞め、私の他にもう1人定年まで働いた女性も結婚して子供も孫もいる。
私の人生は本当にこれでよかったのか。そりゃ幸せだったと言ったら嘘になるかもしれない。
小さい頃からずっと大輔君と結婚することを夢見ていたから。
でも大輔君にフラれたあの日から、ずっと大輔君を好きでいようと決めていた。
大輔君以外の男性と結婚することなんて考えられない。ならばずっと独身でいようと決めていた。
私はその中学生のときの言葉通り、最後まで大輔君を好きでいれてよかったと思う。
お見合いの話もあったがすべて断った。
ラブコメのお約束、ヒロインは決して主人公以外の男性と付き合ってはいけない。
負けたヒロインは一生独身でいなければいけないのだ。
なんてことはない。たとえ幼馴染は報われないことはわかっていても、生まれてからずっと大輔君が好きだった私は大輔君以外の人と結婚するなんて考えられないのだから。
両親は既に亡くなっている
あや「私たち、独身のまま生涯を終えるんだね。」
彩花「これでいいんだよ。できれば大輔君と結婚する人生が一番よかったけど。」
彩花「大輔君以外の人と結婚して長続きするわけないと思ってたから。」
彩花「何より、大輔君のことをずっと好きでいる。そのことを否定したくなかった。」
あや「私も。初恋の彼のことを今でも好きでいたい。そのためにずっと処女で、独身でいれてよかったと思う。」
彩花「三姉弟揃って独身。高梨家の子孫を私たちで途絶えさせちゃったことになるね。」
あや「父さんと母さんに、孫の顔も見せてあげられなかったし。」
彩花「仕方ないよ。お父さんとお母さんもわかっていたこと。」
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それからさらに25年。90歳。
あやちゃんと達也君も亡くなり、残るは私1人だけ。その私の寿命ももう長くない。
私の長い独身人生がもうすぐ終わる。前世で彩未ちゃんの気持ちがあらためてわかった。辛く長い一人ぼっちの人生、経験して始めて今までの彩未ちゃんの辛さがわかった。
今病院に入院している。その病院に勤めている医師は荒川大輝。大輔君と由紀ちゃんの息子である。
大輝「僕の父親は何年も前に亡くなってしまったんですが、父の古い友人である高梨さんを担当できたのは何かの縁なんですかね。」
彩花「そうですね。」
彩花「医者か。あなたのお父さんじゃ想像もできなかったな。小学校のときいつも学年最下位だったし。」
大輝「そうだったんですか?」
彩花「でもそれでもある人のおかげで、中学校では中の中くらいの成績にはなってたな。」
彩花「大輝君はいつも学年トップだったのかな?」
大輝「そうでもないです。上には上がいました。」
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遺言書を書いた。遺産の受け取り人だが、両親も兄弟も既に他界し、旦那も子供もいない独り身の私に受取人などいない。
このままだと恐らく税金という扱いになるのだろう。
だから遺言書にはこう書いた。「遺産は医療の役に立ててほしい」。
小学生のとき、白血病になった。あるドナーの女性のおかげで私は救われた。
私にとってこれは小さな恩返しのつもりだ。
私の人生はいたって平凡なものだった。普通の学生生活を送り、普通に就職し、代表取締役まで出世して、定年退職まで勤めることができた。
これ以上の目標はない。
しかしそんな私でも叶わなかった夢。それは結婚。
どんなに充実した人生を送っていても、やはりこの夢が叶わなかったのだけは心残りだ。
でもそれは来世にとっておこう。
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そして最期の日
大輝「高梨さん・・・」
彩花「わたしが言うのもなんだけど、家族と幸せにね。」
大輝「はい。」
彩花「旦那も子供もいなくて、一人で寂しく人生を終えることになると思ってたけど、最期に見たのがあなたでよかったです。」
彩花「できれば大輔君と結婚したかったけど、大輔君のお子さんに見送ってもらえるなら、いい人生の最後だったな。」
彩花(もし生まれ変われるなら、今度こそ結婚したいな・・・)
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こうして高梨彩花の長くて短い人生は終わった。誰に見守られることもなく、強いてあげれば幼馴染の息子医師に見送られるだけだった。
高梨さんには身内がいないため、葬儀と火葬は病院内で済まされた。
最後は俺に見送られていい人生だったと言っていた。その意味が今でもわからない。
本当は荒川大輔、すなわち俺の父親と結婚して幸せな家庭を築きたかっただろうに。
それだと俺の母親は高梨さんということになって、それはそれで複雑だが。
生涯独り身で、最後にかつて自分を振った幼馴染の、その息子に見送られることだけで幸せなんて、どんな幸せなんだろう?
俺にはそんなことでいい人生だったなんて言えるわけがない。
きっと高梨さんだって、生涯独身の人生に満足してるはずがないんだ。
俺にできることはただ一つ。
神様、どうか高梨さんが生まれ変わったら、今度こそ彼女が幸せな結婚生活が送れますように。