レモン   作:木炭

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 遠めに複数の建物が見える辺りに到達。

 

「アレ、どうする?」

「後ろの人?」

「うん。港からずっとだろ」

 

 クラピカもどうやら気付いているようで、小さく頷いている。

 

「おそらく、同じ受験者だろうな。気にはなるが仕方あるまい」

「レオリオ、あっちあっち」

 

 レオリオはどこだどこだとキョロキョロしている。

 ゴンが気配のする方向を指差す。

 目を細めるレオリオは方角を示されてもその気配は感じ取れないようだ。

 

「クラピカにオレも賛成かな。気にしても仕方ないよ」

「オッケー」

「……オメェら」

 

 レオリオは不満顔というか困惑顔を浮かべている。

 それでも大人しく皆と歩調を合わせ、道を進む。

 

 窓や戸に鉄板や木の板を打ち込んだ異様な建物が並ぶ集落。

 遠めには無人に見えるそこには、多くの人が潜んでいる。

 ゴンは当然気付いているようではあるが、気にせずズンズン歩を進める。

 

「うすっ気味悪いところだな。人っ子一人、見あたらねーぜ」

「でも……いっぱい人いるよね」

「うむ。油断するな」

 

 ゴンはともかくクラピカも気付いているようだ。

 足運びからして警戒している様子が伝わってくる。

 レオリオはそんな二人の言葉にキョロキョロと忙しない。

 

──ぞろぞろ ぞろぞろ

 

──シュー シュー シュー

 

「ドキドキ……」

 

 奇妙なマスクにボロを纏った集団が道を塞ぐようにして現れる。

 集団と共に姿を見せ、先頭に陣取り、杖を持つ皺だらけの顔を晒す老婆。

 この状況、一人きりであれば悲鳴を上げていたかもしれない。

 

 レオリオも含めてゴン、クラピカはじっと老婆と奇妙な集団を見やり無言だ。

 彼らも心の中で悲鳴を上げているのだろうか。

 

「ドキドキ……ドキドキ二択クイ~~~~~~~~~~~~ズ!!」

「ィ」

 

 危なかった。

 少し、ほんの少しだけ悲鳴が漏れた。

 ビックリさせるんじゃねぇ!

 この、クソババァめ。

 

「お前達……あの一本杉を目指してんだろ? あそこにはこの町を抜けないと絶対に行けないよ。他からの山道は迷路みたいになっているうえに、凶暴な魔獣の縄張りだからね」

 

 ここ、町なのか。

 ババァを見るのを止め、視線を周囲に向ける。

 雨風は凌げるかもしれないが、街灯一つないこれが町、ねぇ。

 ついでに付近に凶暴な魔獣が縄張りにしているとくると……うーむ。

 

「──これから一問だけクイズを出題する。考える時間は五秒だけ。もし間違えたら即失格」

「なるほど。これもハンター試験の関門のひとつか」

「①か②で答えること! それ以外の曖昧な返事は全て間違いとみなす」

 

 ふむふむ。

 なるほど、出題されるクイズはまったく思い出せない。

 

「オイ、待て! もしこいつらが間違えたらオレまで失格ってことだろ!?」

 

 レオリオがクラピカにまた絡んでいる。

 クラピカは軽く言い返しているものの、本気ではない。

 どこまでも仏対応を見せるクラピカ。

 

 ついつい手を合わせて拝みたくなる。

 が、そうも言ってられない。

 

「ゴン」

「うん」

 

 背後から近づく気配。

 ゴンに一声掛ける。

 

「オイオイ、早くしてくれよ」

 

 ようやっと姿を現した男。

 眉はないが履いている靴はカッコイイ。

 

「何なら先にオレが答えるぜ?」

「どうするかね?」

「……」

 

 ババァが俺達に対して問い掛けてくる。

 クラピカを見やると、思案顔を浮かべている。

 

「譲ろうぜ……それで問題の傾向もわかるしな」

「お先に」

 

 レオリオが四人を代表して答えてしまう。

 先ほどまで一緒にされたくないような口ぶりであったはずだが……どういう風の吹き回しなのやら。

 

「お前の母親と恋人が悪党につかまり一人しか助けられない。①母親 ②恋人 どちらを助ける?」

「……」

 

 眉なしへと老婆から早々に問題が出される。

 不自由な二択というやつだろう。

 自分であればどちらを選ぶだろうか。

 

 そんな事を考える時点でこの問題の答えは出せないのはわかる。

 眉なしもフンフンと少し考えた後、したり顔で口を開く。

 

「①!」

「何故そう思う」

「そりゃあ……母親はこの世にたった一人だぜ? 恋人はまた見つけりゃいい」

 

 不意にエッダの顔が浮かぶ。

 何故だろう、浮かんじゃいけない。

 消えろ消えろと頭の中のエッダの顔を払いのける。

 

「はぁ……」

 

 前の世界では母親はいなかった。

 だからこそ、俺にとっての母親はエッダのみなわけで……。

 母イコールエッダとなっている自分に自己嫌悪して、溜息が零れ落ちる。

 

 眉なしの男は老婆とボロの集団に町を通る事を許され、歩を進め始める。

 ちらりとこちらを窺う眉なしの表情には余裕がある。

 右手をポッケに差し込み、左手を少し掲げる眉なしは意外と律儀な性格なのだろうか。

 

 

 

 

 

「ふざけんじゃねェッ! こんなクイズがあるかボケェ!」

 

 レオリオがクワっと器用に顔を変形させて絶叫する。

 

「……情緒」

 

 咄嗟に呟きが零れ落ちたが、レオリオには聞こえていないようだ。

 レオリオおばさんは生理中なのかもしれない。

 隣に立つゴンがちらりと見てくるので、首を左右に振って答える。

 

 大丈夫、たぶん。

 おばさんにデフォルト装備されているヒステリーよ、あれは。

 

「──ここの審査員も合格者も全部クソの山だぜ! オレは認めねーぞ! オレは引き返す! 別のルートから行くぜ!」

 

 くるんと踵を返してレオリオは引き返そうとする。

 

「クイズを辞退するなら即失格とする」

「……」

「ハンターになる資格はないね」

 

 レオリオの背に向けて老婆が告げる。

 その言葉を聞き、クラピカの目が見開かれる。

 はて?

 

「レオリオ!」

「何だよ!」

 

 若干、萩原〇行っぽいレオリオ。

 

「待ちな! これ以上のおしゃべりは許さないよ!」

 

 ジェスチャーはあり?

 ゴンに向かってクラピカの方を指差し頷いてみせる。

 腕組みをして小首を傾げるゴン。

 オイ。

 

「ここからは……余計な言動を取れば即失格とする! そこのボウヤもいいね? さぁ答えな。①クイズを受ける ②受けない」

「①だ!」

「……」

 

 おしゃべりじゃなくて言動全般を禁ずると宣言する老婆。

 やはりジェスチャーの類も“余計”な行動に含まれるようだ。

 クラピカが老婆の最後通告にすぐさま答えるも、レオリオが睨みつけている。

 

 クイズの正答に気付かずとも、クラピカが何かを察したという事に気付けレオリオ。

 こんな出来損ないの俺の頭脳でもさすがにわかる。

 レオリオなら俺より頭は良いはずなんだ、おばさん装備を外すんだ!

 

「それじゃ問題だ。息子と娘が誘拐された。一人しか取り戻せない。①娘 ②息子 どちらを取り戻す?」

 

──5

 

 出題された途端にクラピカを睨みつけていたレオリオが動き出す。

 

──4

 

 てくてくと板材や角材が置かれた一角へと足を運び、手頃な棒きれを拾い上げ、ブンブンと素振りする。

 

──3

 

 オイオイ……まさか、それを何に使う気だ。

 

──2

 

 クラピカはやや焦りの色を浮かべ動かない。

 

──1

 

 ゴンは……ダメだ。

 

「ぶ~~~終~~~了~~~」

 

 老婆のそのふざけた口調と同時、レオリオが駆ける。

 振り上げられた棒きれは、老婆の顔面へと直撃コース。

 

──バイィィィン

 

 レオリオの暴挙に立ち塞がるクラピカ。

 

「なぜ止める!」

「落ち着けレオリオ!」

「いーや、激昂するね!」

 

 一つ息を吐いて、クラピカやレオリオ達のやり取りを眺める。

 やはり“沈黙”する事が正解であったようで、クラピカと老婆から合格した事を説明される。

 レオリオは落ち着きを取り戻し、老婆に謝罪している。

 

 一方でゴンは腕組みして悶々と考え込んでいるようで、一言も発しない。

 クイズの真意に関する説明にはまったく興味がないようだ。

 

「──どちらを選んでも本当の正解じゃないけど、どちらかを必ず選ばなくちゃならない時が……いつか来るかも知れないんだ」

 

 本当にクイズで出題されたような状況に陥った場合、どうすべきか。

 その事をずっと考え続けていたようだ。

 

「……」

 

 ゴンならノータイムで趣旨選択を取れそうではある。

 こいつは子供ながらに自分の手の長さをよく知っている気がする。

 俺なんかよりもずっと。

 

 それでも考え続けるゴンはまだまだその手を伸ばすだろう。

 先を歩み続けるゴンの頭の後ろを何となく小突く。

 

「イテッ」

 

 

 

 

 

 満月が浮かぶ夜空の下、魔獣注意と書かれた看板を通り過ぎ森へと踏み入る。

 あの老婆によれば二時間ほどの道のりらしいが、道を間違えたのだろうか。

 疲れはしていないが、眠く眠くて足元がおぼつかない。

 

「歩いて二時間だぁ~? 二時間なんて二時間前に過ぎちまったぞ! クソ!」

「ねむー」

「テメェは相変わらずマイペースだな、オイ!」

 

 レオリオの顔を見上げると、怒気はそこまでないようだ。

 おばさんの影はない。

 

「──見えたぞ」

 

 月明かりのみでもその輪郭が主張する巨大な影。

 大きな一本の大樹はまるで作り物のようで、夜空をシルエットにして佇む姿は恐怖を覚える。

 大樹の足元にはコテージがあり、そこにナビゲーターが居るのだろうか。

 

──コンコン

 

 レオリオが先頭に立ちノックする。

 建物内からの返答はなく、物音一つ立たない。

 

「留守?」

「んなわけねーだろ。入るぜ──」

 

──キルキルキルキルキルキル

 

「魔獣!」

 

 女性を片手に抱えた狐のような手足の長い魔獣が散乱した室内に立ち、こちらを威嚇する鳴声あげる。

 散乱した家財の奥に倒れ伏す男性を確認。

 

──ガシャン

 

 状況を頭で整理し終える前に、魔獣は女性を抱えたままこちらへと突進してくる。

 勢いをそのままに窓を割り、外へと飛び出す。

 あれ? 逃げたのか?

 

 魔獣って個体差はあるにしろ、臆病な性質だっけ?

 たった今、人間を襲ったであろう魔獣が逃げる?

 こちらはどう見ても強そうには見えない、ただの子供二人と大人二人なのに、はて。

 

「助けなきゃ!」

「レオリオ、ケガ人を頼む!」

「任せとけ!」

 

 ばばっと音を立てて駆け出すゴンとクラピカ。

 すぐに俺も二人の後に続く。

 

「森に逃げ込んだぞ! どっちへ行ったんだ」

「あっちあっち」

 

 月明かりだけでも十分。

 少しだけ目を凝らせば魔獣の姿はすぐに捉える事が出来た。

 というより、あえてこちらに姿を見せるように動く魔獣はいよいよ以って怪しい。

 魔獣の走り去った方を指差すのと同時、ゴンが既に走り始めている。

 

「ゴン」

「うん」

 

 人命優先。

 そういう意味を含めて名前を告げれば、意を汲んだであろうゴンが頷きつつ答える。

 くじら島の野生動物と比べて、随分と緩慢な動きの魔獣にはすぐに追いついた。

 

 木の上を器用に走るゴン。

 島では木の上も重要な逃げ場であったので、俺もそれほど苦にせず移動し続ける。

 並走するクラピカもこの移動の仕方を苦にする素振りはない。

 

「その人を放せ!」

 

 ゴンが叫び、魔獣がこちらへと顔を向けて歯を剥き出しにして睨みつけてくる。

 

「腕ずくで取り返してみな! ケケェッ!」

「すごいや! アイツ喋ったよ!」

「人語を操れる獣を総称して魔獣と言うんだ!」

 

 魔獣に関してはこの世界特有でもあるので調べたかったが、その手の本が手に入らなかった。

 ここへ来てクラピキアさんからの高説はためになる。

 

「へぇー」

「……奴は凶狸狐(キリコ)と呼ばれる変幻魔獣だ! 人に化ける事も出来る!」

「言葉が通じるなら話が早いや!」

 

──やいコラ ヘッポコキリコォーッ!

 

 真横で爆発する大音響。

 ビックリして足を踏み外しそうになった。

 ゴンめ、大声を出すなら合図をしろ!

 

 罵声にイラついた凶狸狐が振り向く。

 前方の凶狸狐に向けてピョイーンと跳躍。

 一気に距離を詰めるゴンは釣竿を振りかぶる。

 

──バキ

 

 既にゴンの振り下ろされた釣竿の射程内であり、凶狸狐は回避出来ずに頭に強かに打ちぬかれる。

 不意の攻撃に女性を手放す凶狸狐。

 女性の落下地点を予想して、加速する。

 

「無茶する奴め」

「ナイス」

 

 木の枝に手を掛けた状態で女性を受け止めるクラピカ。

 いやはや、地面に先回りして受け止めようとした俺よりアクロバティックに受け止めるクラピカはやはりイケメンだ。

 小さく拍手しつつ頭上のクラピカを褒め称えるも、完全なるスルーである。

 

「ギ……このガキ……覚えてろよ!」

「待て!」

 

 お。

 今度はかなりの速さで逃げ去っていく凶狸狐。

 女性を抱えた状態では本来の速度での移動は出来なかっただけか?

 

 ゴンが間髪入れずに後を追い、森に消える。

 女性を介抱するクラピカに視線を向けると、思わず舌打ちを漏らしそうになる。

 

「──彼は一体、どうなったの?」

 

 見詰め合うクラピカと女性。

 ええい、このイケメンめ!

 完全に空気と化している俺は何の役には立ちそうにない。

 

 森へと駆け入る。

 

 

 

 

 

 少し開けた場所に一人佇むゴンを発見。

 ギリギリ、後を追うのが間に合ったようだ。

 おそらく、俺とはぐれる事を嫌い、あえて気配は消さずに移動していたのだろうゴン。

 

 こうゆう所、ゴンはさすがで頭の回転が早い。

 機転の利くゴンの長所と言える。

 

「見失った?」

「ううん、増えた、かな?」

「あー、あっちとあっちか」

 

 指差しはせず、視線だけを向ける。

 潜んでいるにしては月の光に反射された細長い凶狸狐の目を、容易に見つけ出す事が出来る。

 潜んでいるというか、こちらを窺いたいという方が勝っているようで、何とも珍妙な行動だ。

 

──ザッ

 

 現れた凶狸狐に視線を向ける。

 こいつが増えた方の凶狸狐だろうか。

 俺には判別はつかない。

 

「ガキの割にはすばやいな。このオレ様に一撃を喰らわすとはな」

 

──メキメキ

 

 右手、鋭く伸びる大きな爪を奇怪な音と共に更に凶悪な形へと変えていく凶狸狐。

 

「だが、その代償は……高くつくぜ!」

 

 身構える様子を一切見せないゴンを見て確信する。

 この凶狸狐は違う。

 加えて、こいつには敵意がない。

 

「ねェ、キミ誰?」

「……」

 

 ゴンの顔に伸ばされた大きな爪をピタリと止める凶狸狐。

 やはり、ゴンの見立ては正解であったようだ。

 

「もしかしてさっきの奴の友達?」

「何で……別だとわかった?」

「えー!? だって顔が全然違うじゃん! 声だってキミの方が少し高くて細い感じだし」

 

 えー!

 顔は言われてみればわかる気もするけど、声までわかるんかい。

 さすがは元オラウータン、森の賢者は鋭いようだ。

 

「くっくっ……わっはっは! オイ、トーチャン! すぐ来な! 面白いもんが見れるよ!」

 

 凶狸狐に頭をポンポンと撫でられるゴン。

 これを面白いと感じる凶狸狐もやはり獣ゆえか。

 すぐに現れた凶狸狐のトーチャン。

 

 先の襲われていた男女と共にクラピカとレオリオも姿を見せる。

 どうやら凶狸狐の二匹は夫婦であり、ナビゲーターでもあるらしく、男女はその夫婦の息子と娘であるらしい。

 この茶番も試験の一環であり、各自の行動から資質を見極めていたようだ。

 

 ここへ来て焦りを覚える。

 ゴン、クラピカ、レオリオに対する評を口にする凶狸狐の言葉は概ね好評で合格であると告げている。

 だが、俺はほとんど何も出来ずにいた。

 

 ただ、ひたすらにゴンを追い続けていただけだ。

 これはもしかして、俺だけ不合格か!

 

「──最後にナップ殿、君は……すこぶる目が良いようだ。我々が潜んでいた場所を正確に見抜いていたようだしね。……ところであの一本杉のてっぺんにある物が見えるかい?」

「へ? あの大きな木だよね?」

「ああ」

 

 目を凝らして月夜にそびえ立つ大樹のてっぺんを見る。

 ここからではかなり距離がある上に、月明かりでは頼りない。

 いつもよりも気合を入れて目を凝らす。

 

 ここで間違えれば不合格まったなし。

 島に帰れば死。

 

──気合だ気合だ気合だ

 

「……んーっと、矢?」

「……素晴らしい。君も合格だ。会場まで君達四人を案内しよう」

「は? オイ、オメェあんな遠くのもんまで見えるってのか?」

 

 普段はさすがに見えない。

 今はアニマルを降ろしたから見えているだけだ。

 そして、アニマル降ろしの反動で凄まじく眠い。

 

「にわかには信じ難いが……確かなようだな」

 

 驚きを持った顔でクラピカからの視線を受ける。

 ついつい手を合わせて拝んでしまう。

 どういう訳か、今の彼は月を背にして神々しい。

 

 観音様がおわす。

 

 

 

 

 

※レオリオ視点

 

 空の上、凶狸狐の手にぶら下り、その高さにも慣れた頃。

 玉の所在が落ち着きを見せ、ようやくオレも先の一件について冷静に考えられるようになってきた。

 はっきりと言える、ゴンはとんでもねぇガキだ。

 

 んだが、隣でおまけのようについてくるナップも相当なもんだ。

 聞くところによると、遠い親戚でもあるらしく、なるほどその血が為せる業なのかもしれん。

 馬鹿みたいに遠く離れた木の上にあるって言う、飾りを見抜くその目は異常だ。

 

「オメェ視力、いくつなんだ?」

「2.0だよ」

「んなわけあるか! ゼロが一個足りねぇよ!」

 

 絶対に違う。

 いや、待てよ。

 こいつらはくじら島っつう、ド田舎で育ったと言ってたな。

 

「オレも2.0だけど、ナップはオレより目は良いね」

「ほれ見ろ。実際、オメェは俺の見立てじゃ冗談抜きで視力の数値は二桁はいってんぞ」

「わかるのか? レオリオ」

 

 さっきから黙りこくってやがったクラピカが聞いてくる。

 こいつはこいつで、やはり先の一件は気にしてたってこったな。

 

「当たり前だ。この暗闇ん中で、あの距離を見通すなんて、眉唾もんの千里眼とかそういう類の御伽噺でしかありえねぇがな」

「ふむ。確かに……だが、単純に視力によって見通したわけでは──」

「──あ? そりゃ、どうゆう意味だ?」

 

 視力以外でものを見る?

 ありえねぇな。

 仮にもこちとら医者の卵だ、そんな御伽噺は信じねぇ。

 

「いや、何でもない」

「はぁ? とにかく、ナップよ。オメェは一度、しっかり視力を測ってみるべきだな。何かしらその目の良さの理由ってもんが見つかればよ、目の不自由な奴らの治療にも──」

「寝るー」

 

 こいつは向こうに着いたら一発ぶん殴ろう。

 このオレ様の大人としての言葉を無視して、寝るだと!?

 ありえねぇ、こいつマジでありえねぇ。

 

「オイ! 起きやがれ、ガキ! オレ様の話を最後まで聞きやがれ、オイ!」

「あまり、ココで暴れんでくれよ。手を滑らせるとオレ達でもさすがに拾えんぞ」

「……くっ! 着いたらナシつけっからな!」

 

 ゼッテー落とし前つけてやる。

 こいつも目上のもんに対する振る舞いを知らねぇガキだ。

 

「あ、レオリオ。一度寝るとさ、この事覚えてないかも……ナップだし」

「ハァ!?」

「ごめんね」

 

 まともな野郎は、もしかするとオレだけかもしれん。

 いや、ゴンはまだ辛うじてまともか。

 やや、向こう見ずな所にさえ目を瞑れば……うむ。

 

 


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