一生着ることはないと思っていたドレス。
どれもこれもキラキラと輝いている。
それは宝石なようで。
とても杏には手が届くものではない。
でも、今。
杏は鏡に映った自分の姿を見つめる。
自分の背丈ではとても見窄らしい。
こういうのはモデル体型の人が着るべきだ、と思ったりするが──
コンコンとドアをノックされる。
慌てて顔を引き締める。
「はい、どうぞ」
そこに入ってきたのは、プロデューサーとかな子と智絵里。
かな子と智絵里もドレスに身を通し、杏なんかよりよっぽど花嫁らしかった。
「杏ちゃん、可愛い……」
智絵里がそう言うが、杏にとっては智絵里のが何倍も可愛いように思う。
「お兄さんには連絡した?」
「してない」
「え?してないんですか、その、せっかくの機会なんですから」
かな子と智絵里が残念そうにしているが、杏にとって構わない。
こんな姿恥ずかしくて見せられない。
だから、杏は今回の仕事は一切兄には伝えてない。
とプロデューサーが申し訳無さそうな声で申し訳ない事をした、と小声で呟いた。
杏は特に気にも止めなかったが……。
◆
そして、聖堂へ赴く。
ステンドグラスから差し込む日差しが、神秘的に辺りを照らしている。
この光に祝福されながら、愛を誓い合うのだ、と考えたら杏の顔が少し赤くなる。
首を横に振り、撮影に入ろうとした、その時。
聖堂の扉が開く。
「杏!!俺は!!まだ結婚は許さんぞォ!!……あれ?」
辺りが静まり返り、次に笑い声が。
杏は持ってたブーケで顔を隠す。
かな子と智絵里は「いいお兄さんだね」なんて言ってくる。
慌ててプロデューサーが事情を説明している。
兄は必死に頭を下げ、プロデューサーに促され、端っこに座る。
どうやら見学していくみたいだ。
◆
仕事も終わり、杏は兄の元に行く。
「バカおにぃ」
「うっ、すまん。プロデューサーさんから杏のウェディングドレスが見れますので、良かったら見学しに来ませんかって、連絡が来て……。早とちりした、ほんと申し訳ない……」
杏はため息をつき、顔を引き締め、意を決したように兄に尋ねる。
「に、似合ってる?」
兄は杏を見つめ、何か考える素振りを見せるが……。
「すまん、こう、かっこ良く褒めようと思ったけど、何も浮かばない」
「はぁ……。別にかっこ良く言う必要ないじゃん」
「そうだな。じゃあ、綺麗だ」
杏は、それを聞くと満面の笑みで──
「当たり前」
ピースしながらそう兄に言い返した。
兄は、杏のいつかの未来に思いを馳せ、少し寂しさを覚えながら、嬉しくもあった。
ジューン・ブライドです。
6月ぎりぎりセーフ。
月刊まるごと杏ちゃん。
次回7月更新…かな?
これだけ期間空いた割には短くて申し訳ないです。