杏ちゃんのお兄ちゃんは今日も大変です   作:わか

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杏ちゃんお兄ちゃんの笑顔のために働きます(一日限定)

プロデューサーとおじさんが話しながら廊下を歩いている。

 

「こう、身長が低くて、十代後半がいいんですけど」

 

「はぁ……。だったら一人適任者が」

 

プロデューサーは応接室へと案内する。

部屋に入ると、そこには人っ子一人いない。

 

「いないみたいですけど?」

 

「えーここに」

 

物陰に隠れていた一人の少女。

すーすーと寝息を響かせながらソファーで寝ている。

 

「この子なんですが……」

 

「おお、これは!!素晴らしい!!この丸っこい童顔、この愛くるしい髪型、この神がかった体型!!うん、いい!!気に入った」

 

プロデューサーはこくりと頷き、寝ていた少女、双葉杏を起こす。

 

「双葉さん、起きて下さい」

 

「う~ん、んーなぁに、プロデューサー」

 

「お仕事です」

 

杏はビクっと身体を動かし、ぬいぐるみで顔を隠し、さっきまでの寝息とは違い、大きく寝息をたてる。

 

「寝たふりしないでください」

 

「やらない」

 

杏は考える素振りを見せず断る。

 

「双葉さん。これもアイドルの仕事の内です」

 

「お断りします」

 

杏の有無を言わせない硬さにプロデューサーは困り果てる。

 

「すみません。彼女は気難しい性格でして」

 

「そうですか。えーと、双葉さんでいいのかな?名刺だけでも受け取ってくれないかな?」

 

杏は起き上がり、「じゃあ、それだけなら」と言い、名刺を受け取る。

 

「cute&cool&passion編集部編集長?」

 

「はい、水屋と申します。双葉さんには欠員が出たモデルをやっていただきたいと思いまして」

 

「モ、モデル!?やらないよ!?」

 

「双葉さん。とりあえず、自己紹介をお願いします」

 

プロデューサーに怒られた、厳密には怒ってはないが、杏に自己紹介を促す。

 

「うっ。双葉杏です。十七歳です」

 

「おお、年齢もちょうどいいですね。どうですか、やってみませんか?今月号だけでいいんです」

 

「や、やらない」

 

今月号だけの一回だけでも、やはりやりたがらない杏。

 

「明日もう一度来ます。その時にもう一度お聞きしますので、それまでに考えてくれませんか?」

 

水屋編集長はそれだけ言うと、プロデューサーと一緒に部屋をあとにする。

 

 

「あ、おにぃ」

 

杏が社内から外に出ると、兄が待っていた。

 

「おつかれ」

 

「なにしてるの?」

 

「いや、ちょうど帰る時間が杏と被るなぁって思って、ここに来てみたんだけど。ちょうど帰るみたいだな」

 

「うん。じゃあ、帰ろ」

 

 

「今日はなんかあったか?」

 

「何も。あ」

 

「どうした?」

 

杏は思い出す、モデルの話を。

しかし、これを言うと絶対怒られると思う杏だが、つい兄に聞いてもらいたくなる。

 

「その……モデルの仕事が来た」

 

「あ、杏がモデル!?ど、どうなったんだ?」

 

「断った」

 

「どうして!!お前だって、それ……」

 

嫌だ、働きたくない。杏はその言葉が出そうになるが、兄の一言で一変する。

 

「給料貰えるぞ?」

 

「え?」

 

杏の目的は印税。そう自分に言い聞かせ、やはり断ろうと思う杏だが、再び兄の言葉で揺れる。

 

「印税貰うには歌わなきゃいけないだろ?で、それが売れなきゃいけない。その近道って、こういう場で少しでも目立つ地道の作業も必要なんじゃないか?」

 

「い、嫌だ。働きたくない」

 

しかし、それでも働きたくない杏。

 

「そうか……。まぁ、変にプレッシャーはかけないけど。でも、俺は杏のモデル見たかったなー」

 

「…………。やっぱり、嫌だ」

 

「そっか」

 

 

「プロデューサー」

 

「双葉さん。昨日の話考えてくれましたか?もし、断るなら──」

 

「やるよ」

 

「え?ほ、ほんとですか?」

 

「今回だけだからね」

 

 

「何か自分を表現できる表情くださーい」

 

カメラマンが杏に向かってそう言う。

自分を表現できるという無茶な言葉に、杏は果たしてどう答えるのか。

悩んだ末、出た表情は──

 

「ドヤッ!!」

 

「いいね!!いいドヤ顔だよー!!あ、顎の下に逆ピースやってみてー。おーいいよーすっごくいい!!」

 

そうして、杏の初のお仕事は無事終わった。

 

 

346プロに戻る道中、プロデューサーに今日の仕事はどうだったかと聞かれる杏。

 

「んー。まぁ、た」

 

「た?」

 

「たのしかった……」

 

「そうですか。それは良かったです」

 

プロデューサーはこれで杏にもアイドルとしての自覚が芽生えたかと安心したが、後日応接室で寝ている杏を見て、絶望するのは別の話。

 

 

「あ、おにぃ」

 

「迎えに来たぞ」

 

「うん」

 

二人で帰宅する。

その途中兄に今日の仕事はどうだったかと聞かれる。

 

「うーん。別にーだるかった」

 

杏は気づいていない。しかし、兄は杏の表情を見逃さなかった。その微笑みに。

 

「そうか、楽しかったか」

 

「な!?そんなこと言ってない!!」

 

「言ってない、言ってない」

 

「う~~~~~~」

 

「でも、これで給料出るだろうなー良かったな」

 

「きゅ、給料!?」

 

さっきまでとは打って変わって、目を金のマークにして、喜ぶ杏。

それを現金なやつだなと笑う兄。

 

「早く印税貰って、隠居したい」

 

「隠居早いな!!」

 

本日も双葉兄妹は仲が良いです。




おまたせしました。
ちょっといろいろ忙しいので次回も未定です、すみません。
アナスタシアの短編小説を投稿しましたので、そちらもよろしくお願いします(宣伝)


杏とは関係ないのですが。
アーニャ最初期普通にしゃべっとるやんけ!なんで日本語下手になったん?そもそもなんでロシア語話してから→日本語変換なん?もう勘弁してくださいよーどんどん好きになっちゃいますよ。

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