杏ちゃんのお兄ちゃんは今日も大変です   作:わか

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杏ちゃん今日からそこそこ少し時々頑張ります

「おにぃ……開けるよ」

 

「おう」

 

二人は夕日が差し込む部屋で向かい合う。

間にある机の上には茶色い封筒が置かれている。

 

杏の緊張で震える手で開け放たれた中身は──

 

「お、おおおお、印税キターーーー!!!!」

 

どんな喜び方だと兄は肩を竦めるが、まぁ、そういうことなんだろうと察する。

 

「よし、お祝いのケーキを買いに行こう。杏の好きなもの買っていいぞ」

 

「うん。じゃあ、よろしく」

 

そう言い残すと、杏は二階へと駆け上がる。

 

「待て、杏!!面接行ってからほとんど外に行ってないだろ!!たまには外に出ろ!!」

 

兄は部屋に入る寸前の杏の首根っこを掴む。

 

「わかったよ、おにぃ」

 

「お、行く気になったか?」

 

「じゃあ、着替えるから外に出てて」

 

「わかった」

 

兄は閉め出され、外で待つ。

しかし、いくらたっても、杏は出て来ない。

 

「おい、まだかー?」

 

「まだー」

 

「そうか」

 

兄は再び、待つ。

女の子の着替えは長いからな、と納得し五分ほど待ってみる。

 

「杏まだかー」

 

「うーもうちょっと」

 

もうちょっと、と不思議な返しに疑問を持つ兄。

もうちょっとかかるという意味だろう。

そう納得しもう少しだけと待つ事に決める。

 

しかし、いくらたっても出てこない杏に痺れを切らした兄は、ノックをしてから突入する。

 

「おい、杏いいかげんに──」

 

そこにいたのは、何も着替えず、ベッドの上で腹を出しながら寝ている杏がいた。

つまり、杏の言うもうちょっととは、熟睡できるまでもうちょっと、と言う意味だったんだろう。

 

兄は大きくため息をつき、杏のシャツ直し、布団をかける。

 

「まぁ、今日だけは、な。おめでとう杏」

 

兄はそれだけ言い、部屋をあとにする。

 

 

帰ってきた母親と父親が吉報を聞き、家族で外食しに行こうとしたら、杏が二度寝したのは別の話。

 

 

「杏、いつから346プロに行くんだ?レッスンとかあるのか?」

 

「えー知らない」

 

「なんか送られて来なかったか?」

 

「んーそう言えば、なんか来た」

 

杏はゆっくりとした動作で部屋へ行き、封筒を取ってくる。

しかし、途中で力尽きたのか階段で倒れてる杏から封筒を取る。

 

「おい、これ開いてないぞ。見てないのか?」

 

「だって、めんどくさい」

 

兄はやれやれといった感じで封筒を開けるが、すぐにその表情は一変する。

 

「お前!!これ、今日じゃねぇか!!」

 

「へー」

 

「へーじゃないよ!!今すぐ着替えろ!!」

 

「へっ」

 

「なんだその顔!!!!」

 

嫌そうな顔をしながら渋々着替える杏。

杏を連れ、急いで346プロへと赴く。

 

受付の人に杏のことを言うと、伺っておりますと返され、部屋の場所を教えられた二人。

杏は覚える気はないみたいで、仕方なく事情を説明し、兄も一緒に同行する。

そして、教えられた部屋の前までやって来る。

 

「よし、杏。頑張ってこいよ」

 

「え?おにぃも一緒に来てよ」

 

「俺は一般人だ。そもそもここまで来たのも、受付の人がIDを発行しくれたからだ。俺の役目は終わりだ」

 

「えー」

 

「いい仲間、見つけてこいよ」

 

「まぁ」

 

杏は兄に背を向けドアノブに手をかける。

 

「そこそこ少し時々頑張るよ」

 

「ああ、行って来い」

 

そうして、杏はアイドルの世界へと飛び込んだ。


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