D.GrayMan~聖剣使いのエクソシスト~   作:ファイター

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全話の???誰かわかるかな?


社交界

 

 

 

あぁ、空が青いなぁ。インテグラから貰った葉巻をコートから取り出して火を点ける。甘い。だが、いい香りだ。高くなくて低くもない丁度いい気温で、今日は絶好の昼寝日和と言えるだろうがその権利は俺には無い。任務として世界各地を旅している時は気ままに昼寝をしていたのだが、今の状況はそれを許してはくれないらしい。まぁ、それを承知でここまできたのだから仕方のないことなのだが。

 

 

 

インテグラとのちょっとした会談から二日後、俺はとある社交界に出ていた。何時もの団服ではなく、この華やかな場に相応しい恰好でだ。現代人なら、中世の社交界と言えばヒラヒラの服を着て無駄に多い装飾で如何にも動きにくい恰好を想像するだろう。現に、俺もそうだった。だが、実際は違った。男性はタキシードなど、装飾も少なくダンスのしやすい恰好だ。ただ、それに帽子や杖が付いてくる程度。女性は様々なドレスを着ていた。華やかなドレス、匠が造った耳飾りに髪飾り、明らかに一財産はありそうなネックレス等々。あと香水を少々。

 

 

 

そして俺も他の男性陣に漏れることなくタキシードを着ていた。他と違う所を言うならば胸に教団のクロスが縫っていることと金色のラインが所々に刺繍されているくらいだった。髪型も、何時もは何も手を付けていない状態なのだが、今日に限っては後ろで青いリボンで結っている。まぁ、それなりに髪は長いからな、俺。流石にクロスには負けるが。

 

 

 

社交界となっている会場を見渡せば、大人数の男女は合奏団が奏でる軽快な音楽にのって踊っている。俺の様に立食をしているのは少数派だった。単純に踊れない者、相手がいない者と様々だが、こうしているのは男性が圧倒的に多い。え、どうして誘われないのかって?ははっ。そんなの、誰も誘ってこないからじゃないか。最初に会場に入った時は色々と誘われたりしたのだが、コムイから貰ったメモに書かれた人物の元に挨拶に向かう為にやんわりと断っていたのだ。多分、それが理由で誘われなくなったんだと思う。

 

 

 

少し情けない。そんな事を頭の隅に追いやり、手に持ったフォークを一口サイズに切り分けられたケーキを刺そうとしたが、それは横から出てきたフォークに阻まれた。あぁっ、狙っていたケーキなのに!

 

 

 

「むぅ、じゃあ上げる」

 

 

 

え?と声を上げるのが先か口にケーキを入れられるのが先か、どちらかわからなかったが口の中が甘くなる。と同時に、どこかで複数の息を呑む声が聞こえた。で、男なら喜ぶ「あ~ん」の状況を創り上げた犯人の方を見ると、そこには小さな少女が立っていた。

 

 

 

色が抜け落ちた白髪ではなく、白銀の髪の毛。可愛らしい鼻に、少し垂れ目の少女。全体的にスレンダーで、まるでその手の職人が創り上げた一種の人形とも言えるような少女が、そのアホ毛を揺らした。

 

 

 

「アホ毛は、アーサーも同じ」

「俺のは勝手に立つんだよ」

「私も同じ」

「そうか」

「うん」

「久しぶり、サーシャ」

「久しぶりアーサー」

 

 

 

軽い衝撃は、彼女が成長したと証明してくれる十分な証拠だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

社交家の会場となっている大部屋からテラスへと移動した二人を待っていたのは、暖かな日差しと青く澄み渡った空だった。

 

 

 

「ペンドラゴン様、シェスチナ様。どうぞこちらへ」

「ありがとう」

「……ん」

 

 

 

テラスにも、ごく少数だが人はいる。少し踊り疲れたご婦人たちが使用人の淹れた紅茶を飲んで思い思いに羽を伸ばしているのだ。俺たちに話しかけてきた使用人も、例にもれず休憩しにきたのだと思いテラスに設置された椅子に座る。椅子もテーブルも、日除けのパラソルも白で統一されているものだから、清潔感があり益々清々しい気分になる。俺も、少し食べ過ぎて休憩がしたかったのだ。

 

 

 

座って暫くすると、使用人が紅茶と少しのお菓子を持ってテーブルに置いて行った。紅茶を音を立てずに飲む。俺はストレートで飲むが、サーシャはミルクをタップリと砂糖を一掴み淹れて飲んでいる。うん、子供は甘党でよろしい。

 

 

 

「アーサーも人の事は言えないでしょ」

「そ、そんなことはない」

「その手のクッキーは何よ?」

「……ぬ」

 

 

 

無意識のうちにクッキーを手に取っていたようだ。無意識怖い。けど折角あるのだし、食べた方がいい。

 

 

 

「あ、美味しい」

「私も」

 

 

 

二人してクッキーを食べる。甘さ控えめで美味しい。こういう、のんびりとした雰囲気は大好きだ。暖かな気温。聞こえてくる音楽。美味しい紅茶にクッキー。目の前には可愛い女の子。

 

 

 

「ありがと、アーサー」

「ん?……あぁ、そういえばそうだったな」

 

 

 

胸元から葉巻を取り出し、火を点ける。やっぱり美味しい。けど、目の前のサーシャは煙たそうに息を吐いた。それが少し面白くてサーシャに向けて煙の輪っかを造って吹きかけると、サーシャは頬を膨らまして息を吹き続けた。なにこれ可愛い。しかし、息を吐けば苦しくなるのが当然であり、体力のないサーシャの息はすぐにきれた。

 

 

 

「げほっ……むぅぅぅ」

「ごめんごめん」

 

 

 

唸り声を上げて睨みつけてくるが、随分と可愛らしいものだ。これがソカロだったりした日にはエクスカリバーを開放しているかもしれない。全力で。全力全壊、的な。

 

 

 

「すたーらいとぶれいかー」

「あれ、核弾頭が何発分だったけ?」

「地球が割れちゃうね」

 

 

 

ここまで元の世界の話を出来るのはサーシャだけである。この話を他の誰かに聞かれたら、どうなるのか解らない。解りたくもないし、知られたくもない話だ。この世界が、元は漫画で、しかも俺は元々は力を持たない一般人で、この物語を読んでいた一人で未来を知っているなど。誰にも知られたくないし言いたくもない。けど、サーシャは別だ。サーシャ・S・ペンドラゴン。彼女と出会ったのは……そう、一万二千年前だったか。

 

 

 

「え……?」

 

 

 

目の前でサーシャが目を大きくして驚いているが、それは置いておく。

 

 

 

「……え~」

 

 

 

まぁ、詳しい話は置いておくがサーシャを拾ったのだ。文字通り、拾ったのだ。そこで色々とあり、本当に色々とあり俺が保護して今に至る。保護した一番の理由は、色々と危なかったからである。次いでイノセンスを発現していたから。そして、そのイノセンスが戦闘向き(対AKUMA)ではなく対人であったこともある。サーシャの持つイノセンスの能力とは何か?

 

 

 

それは、心を読むことである。寄生型イノセンス、ラビットメモリー。常時発動型のイノセンスであり、相性がよかったのか体力の消費も少ない特殊なイノセンスである。効果範囲は不明。ただ、強力な能力であるが故に危うい場面も多々あった。だけど、それは過去の話であり今現在は制御もちゃんと出来ていて読む対象を選ぶこともできる人間相手なら反則の能力だ。インテグラがよく外交の場に連れて行ってるのもわかってしまう。汚い。流石フロイライン汚い。

 

 

 

「……あ」

「ん?」

 

 

 

サーシャが俺の後ろに視線を移して固まっている。その視線を辿る様に後ろを見ると、そこには視界いっぱいの白が写っていた。

 

 

 

「は?」

「アッ―サー!」

 

 

 

幼い少女の声が聞こえたと思えば、首が曲がってはいけない方向に嫌な音を立てて曲がった。

ちょっ

 

 

 

「あははー!アーサー、元気ー?」

「むぅ、アーサー大丈夫?」

「お、おぉう」

 

 

 

首の位置を戻し、突撃してきた少女を見れば、ニコニコと笑うロードの姿があった。白いワンピースの様なドレスを着て、腰には大きなリボンを付けている。頭には白色のカチューシャを付けてコンパクトに髪を纏めていた。褐色の肌に良く似合っている。しかし、どうしてロードがここにいるんだろう?

 

 

 

「どうしてアーサーがいるの?」

「それは俺の台詞」

「んーとね、ボクはティッキーに着いて来たんだ」

 

 

 

そう言うとロードは膝に座ってきた。目の前で座るサーシャの目が怖い。いや、可愛らしい。

 

 

 

「ティッキーって、ティキ・ミック?」

「うん。そのティッキーだよ。よく知ってるね」

「ハハ、知ってるも何も、なぁ?」

「うん」

 

 

 

サーシャが頷く。そんな俺とサーシャを見ているロードは何だか面白くないみたいで、置いてあった紅茶を飲んだ。

 

 

 

「むうぅぅぅ!」

「ふふん」

 

 

 

唸り、笑い、苦笑い。三者三様の表情だけど、この二人は気づいているのかな?周りから暖かい目で見られていることを。ご婦人方があらあらとか、仕方ないのねとか。おい、どうして頬を赤らめているんだ。流石に一回り離れている女の子には手は出さないぞ!?そう、そうだ。覚悟せよ。俺は手を出さない!

 

 

 

「おっ、なにやってんのロード」

「ん?あ、ティッキー」

 

 

 

助けてサーシャ!手は出さないけど手は貸して欲しい。

 

 

 

「んげ、ペンドラゴン元帥じゃないの」

 

 

 

ティキが使用人に何かを頼んだと思えば、椅子が二つ用意され紅茶も出てきた。テラスで休んでいたご婦人方も、なんだか続々とテラスから出て行ってるし。え、なに?ここに座るの?俺とサーシャ、エクソシストなんですけど。ていうか、さっきから違うエクスカリバーがムズムズするんだけど、これって気のせいだよね?そうだよね!?

 

 

 

「気のせい」

「うん、気のせいだよね」

「うわ、ちょっと~なにするの」

「貴女はここに座るべき」

 

 

 

サーシャがロードを膝の上からどかして、使用人が新しく持ってきた椅子に座らせた。そしてサーシャは当然の様に俺の膝の上に。ブルータス、お前もか。

 

 

 

「で、どうしてペンドラゴン元帥がここにいんのよ?」

「それも俺の台詞なんだが、ミック卿がどうしてここにいるんだ?」

「俺は千年公のご命令でな。時々こうして表に出て資金を稼いでんだよ。そっちは?」

「俺も似たようなもんだな」

「お互い様だなぁ」

「苦労してんだな、そっちも」

 

 

 

ポケットから普通の煙草を取り出し、火を点ける。ティキも同じように煙草を取り出して火を点けた。よく見ると同じ銘柄だ。視線を横にずらせば、サーシャが紅茶を飲みロードがクッキーを頬張っている。

 

 

 

「でさ、いきなりで悪いんだけどちょっと付き合ってくれない?」

「なにに、だ?」

「まぁ、苦労ついでだと思ってさ―――」

 

 

 

身体の底から力が湧いてくる。感覚が研ぎ澄まされていく。

 

 

 

「そうそう、そうでなくては。さァ」

 

 

 

ティキが顔を愉悦に歪める。戦いの、殺し合いの愉悦に。

 

 

 

「チッ」

 

 

 

虚空から黄金に光る聖剣が出現し、手に収まる。

 

 

 

「殺し合おうぜ」

 

 

 

ティキから黒い蝶が舞い上がった。


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