NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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今回はチャクラに関する大きなねつ造、独自解釈がります。


第95話

 うわ、やらかした。

 いや、だってさ、あんまりにも意味のないプレゼンなんだってばよ!

「説明する」とか言うからもうちょっと実のある話をすると思ってたのに!

 オレは世界に幻術を仕掛けて思想統一をする、従え。

 マダラさん(仮)はそれしかいってない。

 それで五影の面々が納得する訳ないじゃん!

 最初から戦争をするつもりで挑発したとしか思えな…、あ、そういう事か。

「いや、失礼しました。

 あなたが本気で五影のみなさんを説得してるもんだとばかり勘違いしてまして」

 僕はそう謝った。

「…なんの話だ?」

 あれ?

「いやだって、あれでしょ?

 説明するとか言って実質挑発で、『話を聞かなかった五影が悪い』っていう因縁をつける為だけのお話でしょ、今の」

 土影さまとか頷いている。

 この人とか、雷影さまとかよく使う手だろうしね。

 ところが、だ。

 マダラさん(仮)は声に苛立ちを含めてこう言ったんだ。 

「…このうちはマダラがせめてもの誠意を込めて説いてやっているというのに、やはり忍は愚かなものよ」

 …どうやら、マダラさん(仮)は弁論というのが苦手らしい。

 少なくとも小さいながらも精強な一族を率いていた長であった人が、だ。

「ええっとですね、さっきのお話を要約すると、『オレは無限月読を使う、無条件で従え』としか言ってません。

 にも関らず、あなたは自分自身が初代さまとの戦いで大きく疲弊しており、かつての強さが無いと言いました。

 土影さまの言われた通り本来の自分の強さをアピールすれば十分な脅しになったにもかかわらず、です。

 そのちぐはぐさが奇妙だという訳です。

 こちらが愚か、というのであれば、僕に質問タイムを設けてもらえないですかね?

 そうすれば少しは五影の皆さまへの説得材料になると思いますが、どうでしょうか」

 まあ僕みたいの小物の意見を飲む訳はないだろうが、時間稼ぎと状況把握の判断材料くらいにはなる筈。

 そこで援護射撃が飛んできました。

「うちはマダラ、話を聞いてやったらどうだ?

 オレ達は貴様に聞いた。

 だが、木の葉隠れの者達からのは何も聞かれていないだろう?」

 我愛羅さんがそう言ってくれました。

 雷影さまは弟のビーさんが生きていたという情報を得てうちの里への敵対心を削ってますし、水影さまは特に言う事もないようです。

 眉を顰めて胡散臭げにしているのは土影さまですが、さてマダラさん(仮)はどう出ますかね。

「…良いだろう、オレは人間だからな、言葉の通じない獣ではない。

 構わん、(さえず)って見ろ、狸」

 だから僕は狸じゃないと…もう良いです。

 

「さてそれではお伺いします」

 僕は机の上でそう切り出しました。

「まて」

 いきなり止められましたが。

「何か?」

「その変化を解け。

 この場を喜劇の舞台にするつもりか…」

 何が…、あ。

「これは失礼」

 ぼうん! と煙が上がって、僕は本来の姿である人型へと戻りました。

「改めて。

 木の葉隠れの里の火影代理・志村ダンゾウさまの随員として参りました茶釜ブンブクです、どうぞよしなに」

 さて、ここからが僕の戦いだろう。

 

 まずは。

「まずは十尾という存在の信憑性についてです。

 今の所マダラさんの側の根拠としてはうちは一族の文献だけですが、それだけだと信憑性がありません」

「…うちはに伝えられたものが信じられんとでも?」

 殺気の濃くなるマダラさん(仮)。

 それに対して、土影さまが言います。

「当り前じゃぜ。

 ワシら忍は騙す騙されるが常套。

 欺瞞情報なぞ当たり前じゃぜえ?

 信頼されたけりゃそれなりの情報ソースを明かすべきって事だ」

 そういうことですね。

「ちなみに、その情報の精査に関しては忍宗を頼るべきかと」

「なに?」

 そりゃそうでしょ。

 忍宗は六道仙人さまが開いた宗教コミュニティですから。

 マダラさん(仮)の説を裏付ける様なものもあった筈。

 そこを持ちだせなかったのは問題ではないかと思います。

「…」

 …その発想がなかったのかな?

 さて次です。

「あなたは『無限月読』を展開する事で全ての人を幻術に掛ける、という話ですが、それは可能ですか?」

「無論だ」

 即答です。

「この周囲の国、僕らの『火の国』や『土の国』など、忍五大国及びその周辺にある国々の人口は大体1億人オーバーってとこでしょう。

 その全員にそんな高等忍術を仕掛けることが出来る、と」

「その通り、十尾のチャクラにはそれだけの力がある」

 そうは言うけどね。

「いや、力はともかく制御をするマダラさんの方なんですけど。

 この周辺の国々だと大体1億人ですけど、その他の地に住んでいる人たちの人数って把握してるんですか?」

「何だと?」

 前にうずまき兄ちゃんに聞いた話だと、この周辺とは異なる文化圏があるのが分かっている。

 異形に変身してチャクラなのか、それ以外なのか不明の「ゲレルの結晶石」なる石を媒体として力を操る連中。

 そもそも僕らの名前ですらどう見ても他の文化圏の影響を受けているような節がありますし、ないと言い切るのがむしろ不自然です。

 そしてたまに掘り出される古代遺跡。

 これなんかはもう異質としか言いようのないもので、僕の知識の中にあるものもあれば、ないものもある。

 …どうも僕の記憶から出てくる知識って段階的になってるようなんだよなあ。

 それはさておき。

 下手をすると想定の10倍以上の人数を1人で制御するつもりなんでしょうか。

「『暁』においてペインさんは数千人の意識を誘導する為に幻術を使っていました。

 高々その程度の人数、さらには誘導という幻術としては比較的軽いものですら、ペインさん並みの能力で問題が出る直前だったという話です。

 何十年にもわたる長期の幻術、しかも完全制御を10億人以上。

 それを考えると、どれだけチャクラがあったとしてもマダラさん、あなた1人では世界を制御するのは不可能だ」

 僕はそう言い切ったのです。

 

 

 

「ねえ、まずいんじゃない?

 あの狸、論理的に攻めて来てるし。

 このまんまだとマダラ(笑)が壊れちゃうかもしれないよ」

「仕方アルマイ。

 若干ノ操作デナントカスルシカナカロウ。

 忍ドモニ有益ナ情報ヲクレテヤルノハ惜シイガ」

「そだね。

 んじゃ胞子からコントロール入れるよ」

「ウム」

 

 

 

 しばし考え込んだマダラさん(仮)。

 ふっと顔を上げました。

「…それに関しては説明が不足していたか。

 …貴様らごときにくれてやるにはあまりにも惜しい秘儀だったのでな、少し悩んでしまった。

 しかし、制御に触れてきたブンブク、貴様の聡明さに敬意を表して、チャクラの秘儀を教えてやろう」

 何かでっかい話になってきました。

 雷影さまも首を捻りつつ、

「キサマ、なんの話をしている!」

 と、どやしてきます。

 お願いですから怒らないでくださいって、体が縮みあがっちゃいますから。

 ダルイさんが手を合わせてきますが、そんな事するくらいなら止めて下さい、駄目ですか、そうですか。

 マダラさん(仮)はそんな雷影さまを見下ろすと、言葉を続けました。

「いいか。

 貴様らがチャクラと呼ぶもの。

 これは何だ?」

 何だと言われましても。

 手順を踏むことで通常では考えられない力を発揮する為の燃料みたいなものでは?

 皆さんも大体おんなじ考えの様ですが。

「だから貴様らは阿呆なのだ。

 チャクラという存在の偉大さにまるで気付いていない。

 哀れなものだ…」

 顔が見えない分、手振りでその感情を表すマダラ(仮)さん。

 雷影さまが既に沸騰寸前、土影さまもいらだちを隠せない様子。

「挑発はもういいでしょう。

 マダラ、先を続けて下さらない?」

 冷静な水影さまがそう先を促しました。

「うん、影の中にもましな者はいるようだ。

 いいか、貴様らは『穢土転生』という術を知っているだろう?」

 その言葉に土影さまはとても嫌なことを聞いた、というような顔をしました。

 雷影さまもそうです。

「あれは言ってしまえば浄土から死者を一時的にせよ復活させる術だ。

 まあ、その依り代に仕掛けを施していればその相手の支配もたやすい訳だがな。

 所でこの浄土とはいったいどこなのだろうな」

 何が言いたいのやら。

 今の話の流れからすると、…そういうことなのかな?

「お前の言い方は回りくどくていかん。

 もっとはっきり言ってしまえば良いんじゃぜ」

 土影さまがじれてきました。

「ややこしい事は良い! 結論を言え!」

 ちなみに雷影さまは既に切れてます。

「分かるか、茶釜ブンブク?」

 ここで僕に話を振る訳ですか。

「ああっと、つまり、魂は『チャクラ』の形でどこかに保管されており、穢土転生の術を使用するとそこから故人のチャクラが吸い出されて来る、って感じですかね?」

 マダラさん(仮)は大袈裟に腕を広げ、

「その通りだ。

 貴様らも知っての通り、チャクラは体から取り出す『身体エネルギー』と、修行や経験によって蓄積した『精神エネルギー』の二つから構成される。

 そして肉体のチャクラをとは身体に備わった生命力そのもの、そして、精神のチャクラとは経験により蓄積される…、これは何かに似ていないか?」

「記憶、ということですか?」

「その通り!

 この手の話は医療忍術に明るいもの以外はとんと縁の無い話しかもしれんがな、記憶というのは頭の中、脳に蓄積されると同時に、その体内に存在する『精神エネルギー』、つまりは精神のチャクラにも蓄積されるのだ。

 言ってしまえば、人間とは物理的な存在である肉体に、精神的寄生存在であるチャクラが二重に重なって存在しているものであるといっても良い」

 えらい大きな話になってきました。

 …まあ、僕自身、何とも納得の出来る話ではあるんですけどね。

 僕、という存在と、元が文福狸であった存在とが二重で存在しているのであれば、前世の記憶何ぞというものがあるのが納得できます。

 そして、文福狸が持っていないどこから来たか分からない記憶と知識は、多分…。

 その間もマダラさん(仮)の話は続きます。

「今の所仮説にすぎない、しかし、確実にその存在は示唆されている。

 浄土とは、我らの魂の行きつく場所、つまりは精神のチャクラが集まる場所が存在する、ということだ。

 人類の記憶の集合する所、集団意識の座とでも言おうか、それがこの世界には存在するのだよ」

 そこに集まった人類の記憶、その「座」と呼ばれる所から再構成された記憶情報が穢土転生に使用される、と。

「そうなると穢土転生で同じ人が一度に何人も出てこないのって…」

「『座』による個の同一性の維持の為であろうな。

 何人もの同一人物が現れることを『座』が拒否しているのだろう」

 何とも大げさな話だ。

 しかし、そうなると、だ。

「尾獣を統合し、十尾という巨大なチャクラの塊を支配する事で、その『座』とやらに接触する事も出来る、という事なのかな?」

 マダラさん(仮)はテンション高く(多分演技ですねあれは)大げさな身振りで僕の言を肯定する。

「その通り、その通りだ茶釜ブンブク!

 確かにオレは千手柱間との戦いで大きくその力を減じた。

 特に、肉体のチャクラは枯渇寸前であるといっても良い。

 しかし、十尾の人柱力になる事でそのチャクラを取り込むことが出来る。

 そうする事でオレの精神のチャクラも増強される。

 そうする事で人として肉体に頼った処理能力をチャクラによって拡充させることもできようし、『座』にアクセスすれば更にそれは大きくなるだろう。

 それがオレの完全統一体、完全体だ。

 人など完全に超えた数万、数億人分の処理もやってのけることが可能になる、それがチャクラだ。

 無限月読の維持などたやすいことなのだ」

 マダラさん(仮)はそう言って、僕たちの方を見据えた。

「さて、ここまでオレに語らせたのだ、改めて答えを聞こうか」

 

 

 

「しかし、助かったねえ」

「全クダ。

 茶釜ぶんぶくガ話ヲ先読ミシテクレタオカゲデぼろヲ出サズニ済ンダ。

 ツイデニ元カラノ考エダト勘違イモシテクレタシナ」

「そうだね、これで『マダラ(笑)』も壊れなくて済むしね」

「デキレバ今回ハ上手ク行ッテ欲シイモノダ。

 我々トシテモ費ヤシタノハ決シテ短イ時間デハナカッタカラナ」

「さて、オレ達も準備しようか、本当の『月の目計画』を、さ」

「ソウダナ」

 

 

 

 結局、話しあい(なのかな? あれ)は物別れに終わり、

「オレには力はないが、今まで集めた尾獣の力がある。

 お前達に勝ち目はないぞ」

 そうマダラさん(仮)が言う。

 それに対して、風影さま、我愛羅さんが言います。

「希望は捨てない」と。

 そして始まるのです。

「良いだろう…。

 第四次忍界大戦。

 ここに宣戦を布告する」

 淡々と、マダラさん(仮)が宣言しました。

 

「で、開戦時期は決めますか?」

「なに?」

 僕の発言にマダラさん(仮)が首を傾げます。

 他の五影さまもですね。

「ブンブク、それはどう言う意味だ?」

 代表して我愛羅さんがそう聞いてきます。

「ああ、単純な話でして。

 マダラさんは人死にが多い方がいい、という訳ではないようでしたから。

 であるなら開戦の場所はまあ攻め手なんで公言はしないかと思いましたけど、実際に戦う時期なんてのは想定してるのかなって。

 どうせなら決戦1回で片がついた方が双方犠牲は少ないですしね」

 第3次忍界大戦は始まりから終わりまでグダグダと始まって各里が疲弊しきるまで続いた代物でした。

 あれで忍びの数は恐ろしく減りましたし、その反動で今いる忍ってかなり平均年齢が低いんですよね。

 世界の制御、とか言ってるなら無用な死はむしろマダラさん(仮)の力を削ぐものでしかないはずです。

 それに対してマダラさん(仮)は、暫し首を捻って、

「良いだろう、一月後だ。

 オレは一月後に大きく動く。

 それまでお前達は精々戦力を纏めておくと良い」

 そう言う言いました。

「マダラよ、貴様正気か!?」

 土影さまがそう問います。

 それにマダラさん(仮)は、

「冗談でこんなことを言い出すほど馬鹿でもない。

 今度は戦場で会おう」

 そう言って、まるで空間に現れた渦に飲み込まれるように消えていきました。

 

 マダラさん(仮)が消えていった後です。

「さて…、どうしたもんかの…?」

 土影さまがそう言いました。

「忍連合軍を作るしかない。

 6体もの尾獣の力に対抗するにはな」

 我愛羅さんがそう返しました。

 雷影さまが黙り込んだままです。

 彼に話しかけたのは水影さま。

「雷影様は反対してましたが? どうお考えですか?」

 さすがに年長者に対する態度でお伺いする水影様、この辺りは年の功ですよね。

「!?」

 …なんでしょうか?

 今水影様から凄い殺気が…。

 ま、まあそれはさておき。

 雷影さまもこれ以上「暁」というかマダラさん(仮)に振り回されるのは嫌なのでしょう、忍連合軍を作って一気に叩く案で決まりの様です。

「木の葉はどうするんじゃ?

 火影が逃げたままじゃぜ」

 と、土影さまが言いました。

 一斉に僕の所へ視線が飛びます。

 え、なに? 僕がここで発言する流れ!?

 僕はダンゾウさまの懐刀の1人として数えられてますし、別に発言しなくても良いんじゃ。

「良い訳ないじゃんブンブク。

 ダンゾウってのが何考えてお前を置いてったのかは知らんけど、それなりの考えがあるからじゃん。

 今お前以外じゃ木の葉の代理は出来ねえんだから、さっさと腹括るじゃんよ」

 カンクロウさんにそう言われては仕方ありません。

 んじゃ、ま。

「ここに来ていてハッキリとダンゾウさまの派閥でない人と言いますと…」

 そう言いかけた時、

「…はたけカカシか?」

 そう我愛羅さんが言った。

「はい、左様です。

 彼であれば火影『代理』のダンゾウさまではなく、6代目火影・千手綱手様との繋がりの方が深いですし、また同世代の火影候補の方々とも友好関係を結んでおられますが故に」

 まあ僕の言なんて信用はされないだろうけど。

 でも我愛羅さんなら話は別だ。

 どうやら近所にうずまき兄ちゃんたちと一緒に来てるらしいから我愛羅さんに伝えてもらう事になった。

 で、この後はうずまき兄ちゃんとキラー・ビーさん、フウちゃんの処遇についての話し合いがもたれた。

 …まあ、2人とも言ったら悪いけどこういった集団、しかも大集団においてはトラブルメーカーだからなあ。

 フウちゃんはまあ大丈夫そうだけど。

 最終的に3人纏めて匿う形になりそうだ。

 

 さて、僕も聞いておいた方がいいね。

「あ、そうだ、土影さま」

「なんじゃ、狸小僧」

 …まあそれはさておき。

「お伺いしたい事が」

「…何をじゃ?」

「…先ほどの方、ほんとに『うちはマダラ』だと思いますか?」

 僕はそう尋ねた。

 ここにはかつて直接戦った事のある土影さまが居るんです。

 ならばあの面を外して見せれば「うちはマダラ」であることを確実に証明してのけた筈なんですけどね。

 その辺りが奇妙なんですよ。

「ん、そいつはどういう…」

 土影様は陰謀家であり、さらに言えば防諜の専門家でもあります。

 うちの里ではそこいら辺をダンゾウさまがやってた訳ですけどね。

 さて、マダラが生きているのかそれを悩ませる為の作戦なんですかね。

 しかし、

「マダラのやり方にしては迂遠が過ぎるんじゃぜ…」

 ですよねえ。

 調べてみると、うちはマダラという人は力で他者をねじ伏せるような戦い方をする人です。

 まあ、「忍として」ではありますので、例えば侍からしたらば小手先の技を使う、と思われるかもしれませんが。

 で、僕や土影さまが使うような「心理的な細かい攻撃」なんてのはあまり好まないようでした。

 …まるでうちは兄ちゃんの様だ。

 やっぱり親族って似るのかしらん。

 まあ体にガタが来てるからこそ、そういう若いころの戦い方が出来なくなったとも言えますが。

 どうもちぐはぐな感じが否めません。

 

 などと考えていると。

「ブンブク」

 我愛羅さんから声を掛けられた。

「はい」

 なんだろうね。

「お前の前に使った術の事だが」

 どの術の事やら。

「口寄せ・猩々寺(しょうじょうじ)狸囃子(たぬきばやし)の事だ」

 はいはい、アレですね。

「何だその怪しげな術は?」

 雷影さまがそう胡散臭げに言います。

 口寄せ・猩々寺狸囃子。

 僕の使える中でも最も強力と言える術。

 まあ、「死んだ狸の復活」にしか使えない訳だけど。

 …ああ、なるほど。

「あの術を他の人柱力の方にも使えるよう応用が利かないか、って事ですか?」

 僕の言葉に頷く我愛羅さん。

 僕らだけで分かっている状態に、

「くぉら狸坊主! きちんと説明せんか!」

 そう雷が落ちました。

 はい! 承知です!

 

 とは言え、あれ、他の方々には対応してないんですよね。

 眷属同士のネットワークというものもある事はあるので、守鶴さんの眷属である化け狸からいろんな種族に伝手はあるっちゃあるんですよ、僕。

 犬神さまとか猪神さまとか。

 でもねえ。

 まず、八尾さんの眷属って神農族(有角の偶蹄目系)か海の軟体動物系なんですけど、そっちの方に伝手がありません。

 次に七尾さんですが、化け狸って雑食で昆虫類を食べるもんですから向こうから嫌われてます。

 んで、九尾さんですが、狸と狐は頭である一尾さんと九尾さんが仲悪いせいで下も仲悪いんですよね。

 かく言う僕も、というか僕の精神の元になった文福狸も妖狐嫌いなんですよねえ。

 そんな訳で、あの蘇生のための術は他の尾獣の人柱力に適用するのはまず無理なんですよ。

「そうか…」

 我愛羅さんは残念そうです。

 あ、でもですね。

「我愛羅さんならばまた出来ますよ!

 化け狸の里の皆も我愛羅さんになら喜んで力貸すって言ってましたし」

 そういう僕に。

 ぽんぽん。

 我愛羅さんは僕の頭を軽く叩くと、はたけカカシ上忍に今の事を伝える為、そして戦いに備える為に部屋を出ていったのでした。

 さて、僕も帰りますか。

 ここから忙しくなるでしょうしね。

 そろそろ綱手さまも復帰できる時期でもあるかと思いますし。

 そういう訳で、僕は会談室のある鉄の国の居城、そこの窓からテイクオフするのでした。

 

 そして僕が飛行をし始めてしばらく後。

 ダンゾウさまに追従しているカモくんから連絡が入った。

「サスケとぐるぐるから襲撃を受けた」と。

 

 

 

 閑話 瞬身対鷹ノ眼 緒戦

 

 目の前には何人もの忍、侍が倒れていた。

 いずれも傷は小さい。

 途轍もなく高速の(つぶて)を受けたのだろう、そうメイキョウは判断した。

 本来、礫は小さな石などを相手にぶつける技術だ。

 大概の場合は牽制以上のものではない。

 例外として鉄菱等ある程度の重量と刺を持つ場合には毒を仕込んでそれを以って致命の一撃とする場合もあるが。

「これは違うな、何が起こっている?」

 メイキョウはそう呟いた。

 ここに倒れている忍は五影会談の事前交渉の為に送り込まれた人材だ。

 影の随員としては選ばれなかったものの、実質的な護衛として送り込まれた腕利き達。

 それが、たった1か所の傷、主に頭部への一撃を受けて即死している。

 どれだけの手練れだ!?

 メイキョウが眉を顰めた時だ。

 ぞくり!

 背筋にとてつもない悪寒が走った。

 全力で「瞬身の術」を使い、メイキョウは柱の影に飛んだ。

 その瞬間だ。

 ぱすっ。

 軽い音と共に、メイキョウが立っていた、丁度その頭部のあたりの壁に何かが食い込んだ。

 さく、さく。

 鉄の国はほとんどの季節で雪が降る。

 雪を踏みしめて近付く足音がした。

 メイキョウが覗いてみようと頭を上げた瞬間。

 ぱすっ。

 慌てて頭を引っ込めたメイキョウ。

 多分ほんの一刹那でも躊躇っていたなら、メイキョウはそこいらに転がる者達と同じ運命をたどっていただろう。

 さく、さく。

 近付いてくる足音。

 メイキョウは覚悟を決めた。

 ここには他の者の目もない。

 全力を以って仕留めなければならない相手だろう。

 メイキョウは全身にチャクラを行きわたらせ、両手で印を結び、そして。

「瞬身」

 凄まじいスピードで相手に向けて飛び出した。

 そして。

「くうっ!?」

 凄まじい数の礫がメイキョウに向かって突き進んできた。

 メイキョウの動きをまるで最初から理解していたような弾幕。

 メイキョウは体勢を崩し、そりかえり、地面に手を付けながらもその弾幕を回避していく。

 そしてメイキョウは見た。

 敵の姿を。

 色が白く、雷の国の北方民のようにも見える。

 服は自分達の着ている様な「軍服」にも近い代物。

 そして左顎のあたりの大きな傷。

 まるで口の左側だけ開いているようにも見える独特な傷だ。

 手には奇妙な杖。

 それほど長くない杖の中央部分には円筒形の機関がくっついている。

 どうやらその杖から礫を打ち出しているようだ。

 背中には更に長い杖を背負い、飄々と歩いてくる。

 瞳術は使えない。

 へたにここで瞳術による幻術を使用するとしたら、このとてつもない礫の弾幕から回避を仕切るのは深網だろう。

 メイキョウは回避の際の体勢の崩れ、それを利用して手裏剣を幾つも放つが、

 キン!

 という甲高い音を立てて全てが叩き落とされる。

「ええい! 遠距離攻撃は全て無駄か! それならば!!」

 近接攻撃による一撃を見舞うしかない。

 しかし、接近は至難だ。

 一旦物陰に隠れて再度の決戦を挑もうとするメイキョウ。

 しかし。

 さくり、さくり。

 足音が遠のいていく。

 相手は去っていったようだ。

 メイキョウは膝をついた。

 たかだか1分にも満たない攻防。

 それにメイキョウの体力は大きく削られていた。

「多分、暁、なんだろうなあ…」

 地面に腰を落とし、息を整えるメイキョウ。

 あれは危険すぎる。

 メイキョウは先の人物を、己の敵、と認識したのであった。


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