NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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今回はドス・キヌタにオリジナル忍術の記述があります。


第94話

「せあっ!」

 一見無造作に、うちはサスケの剣が振り回される。

 ただ腕で振り回しているようでいて、サスケの件は的確にドス・キヌタの急所を狙い続ける。

 剣とは、刃をまっすぐに打撃面に振り当てるなら、そうするだけで後は遠心力と剣の重量で自然と切れるようになっている、という。

 しかしその「まっすぐに当てる」が難しい。

 少しでも左右にぶれれば力は十全に伝わらず、むしろ刃が欠ける羽目にもなるだろう。

 故に剣を志すものはそのぶれをなくすために一日千、万の素振りをするのだ。

 己の体に「正しい斬り方」を馴染ませるために。

 その為に剣術には「型稽古」がある。

 縦一文字、左右の横一文字、右左袈裟、逆右左袈裟、そして刺突。

 これを飽くるまで繰り返し、剣を振るう時に意識せずに繰り出せて一流である、という。

 だが、稀にそれが必要ない人間が居る。

 天才と呼ばれる者達だ。

 彼らは剣の刃をどう当てれば切れるか、を体感的にしろ、理論的にしろ、完全に理解し、それを実践できるのだ。

 そういった天才の剣は天衣無縫。

 剣術の術理に縛られる事無く繰り出され、そして的確に敵の命を奪う事が出来るのだ。

 しかし、

「しっ!」

 キヌタはその斬撃をある時は受け流し、ある時は回避していく。

 その姿勢は崩れる事無く、だ。

 これが正統派の剣術。

 いかなる時も己の積み重ねたものを崩さずに対処する、それは正統派剣術の基本にして極意。

 キヌタはそれを実直に積み重ねていた。

 サスケの剣はその体格に見合わず剛剣の威力を秘めていた。

 受け止めていたなら、チャクラ刀とてへし折れる。

 それをキヌタは威力を削ぐ形で受け流し、更にはサスケの体勢を崩す為に利用していた。

 無論サスケとキヌタでは資質に大きな差がある。

 しかし、それをキヌタは血を吐くほどの努力によって埋めようとしていた。

 

 唐竹割り、胴凪、籠手切りと連続して打ち込むサスケ、しかし、その全てをキヌタは捌いてのけた。

 サスケの表情に苛立ちと焦りとを認め、キヌタは皮肉気な笑いを浮かべた。

 メイキョウ班、そのチームメイトであるブンブクならばそうしたであろうから。

 笑え。

 危険な時、不利な時ほど笑え。

 相手に何かあると思わせろ、とはあの狸の言。

 正直更に押し込まれたらまずい、という所であった。

 キヌタの不敵な笑いに何かある、そう感じたサスケは一歩下がり、体制を整えようとする。

 ここが好機!

 キヌタは前に出、そして袈裟がけに斬り込んだ。

 サスケは受け流そうと草薙の剣を構え、

 ジュイン!

 異様な振動と剣から伝わる衝撃、打ち合った刃から飛び散る火花に動揺した。

 火打ち石ではあるまいし、剣と剣を打ち合った程度ではこのような火花は飛び散らない。

 ギャイン! ジャリン!

 連続して切り込む毎に、派手な火花と衝撃、音が周囲に響く。

 一瞬は動揺したサスケであるが、あくまで音は音。

 サスケに危害を加えてくる訳ではない、ならば…。

「そういう、事かっ!」

 サスケは己のチャクラを剣に纏わせた。

 ギンッ!

 今度は火花が飛ばず、大きな音もしなかった。

「やはりそうか。

 お前の目的はこの『草薙の剣』の破壊か…」

 先ほどまで打ち合っていた草薙の剣の刃、その一部がわずかなりとはいえ欠けていた。

 あのまま打ち合っていたら、数合で致命的な亀裂が剣におきていただろう。

 キヌタが刀に注いでいたチャクラの為、彼のチャクラ刀は非常に微細な振動を発していた。

 その為、彼が切りつけると刀身は超高速で振動し、この振動によって物体を切削する。

 その名も「高周波振動剣(命名ブンブク)」。

 この超高速振動であわよくば草薙の剣を破壊しようとしたのだ。

 それを予想し、草薙の剣の周囲に雷遁のチャクラを纏わせることで直接の接触を防いだサスケ。

 だが。

「それは失策ですよ、と!」

 キヌタががっちりと鍔迫り合いの状態から刀を押しこんだ。

「いくらやっても…なに!?」

 押し込んでいくと、草薙の剣に纏わせた雷遁のチャクラが、ジワリとキヌタのチャクラ刀に浸食され、刀身がどんどんと喰い込んでいく。

「どう言う…、くそ! そうか『風遁』か!?」

 サスケは確かに失策であったと臍を噛む。

 五大性質変化。

 その相克により雷遁は風遁に弱い。

 サスケはそれに気付いた事でこの「高周波振動剣」で使われているチャクラが風遁の者であることを看破したのである。

 とはいえこの術は風遁だけではない。

 ドス・キヌタの血継限界である「響遁」は風遁と雷遁のチャクラの性質変化を同時に行う事によって発現する。

 故に、もしサスケが草薙の剣に火遁のチャクラを込めていたとしたらどうなっていたか分からない。

 しかし、サスケが現状不利なのは変わらなかった。

 このままでは草薙の剣を折られるかもしれない。

 それはこの後志村ダンゾウを殺す為には大分不利になることを覚悟しなければならない。

 サスケはここで切り札の1つを切る事にした。

 都合のいい事に相手の顔、つまり目はサスケの目の前にある。

 サスケは顔を上げ、キヌタの顔を覗き込んだ。

「な!? その眼は…!!」

 キヌタの目にはサスケの眼球の文様までがしっかりと見えた。

 六芒星のようにも見える、赤と黒の文様。

 万華鏡写輪眼だ。

「まずい…」

 キヌタが目を逸らそうとするが、

「遅い! 幻術眼だ!」

 サスケの瞳術が一瞬で発動する。

 これでキヌタは動けない。

 サスケは悠々とキヌタから離れ、その胸に草薙の剣を突き込もうと…。

「終りだ…、なに!?」

 不意にキヌタがにやりと笑うと、サスケの突きを払いのけた。

 体勢の崩れたサスケをキヌタが怒涛の攻めで追い詰めていく。

「くっ、何故…、幻術眼は完璧だったはずだ!」

 うちはの瞳術を破られて動揺するサスケ。

 これには仕掛けがあった。

 先ほどから流れている笛の音、これは多由也のものだ。

 彼女は笛の音を通してキヌタの状態を監視(モニター)していた。

 そしてキヌタが幻術に掛かったと見るや幻術の破術をやはり笛の音を通して行った。

 幻術は掛けられた本人が破幻の解印を結んで解くか、他者からの刺激なりは術なりで解除が出来る。

 幻術は仕掛けたことが気取られないのが最良だ。

 どれだけ強力な幻術でも傍から見て幻術がかけられていると分かれば解除は可能なのだ。

 少なくとも、そのカラクリが術者に見破られない限りは。

 

「ではそろそろ、こちらから仕掛けさせてもらいますよ!」

 右の義手で剣を保持しつつ、キヌタは左の指で右腕を軽くはじいた。

 キヌタの右腕は中空になっており、管楽器の様にその中で音を反響させる構造になっている。

 その反響音を増幅する事でキヌタの得意とする「響遁・響鳴穿」等の術に使用するのだ。

「せっ!」

 キヌタはしっかりと両手で剣を保持しつつ、サスケに斬り付けた。

 サスケも戦いにおいては天才的な才を持つ。

 正面から打ち合うのではなく、キヌタの剣を受け流し、草薙の剣を痛めないような戦い方にシフトしていた。

 しゃん! という音を立てて振り切られる剣を弾き、返す刀でキヌタに斬りつけようとしたサスケ。

 その切っ先が何かに引っ掛かって剣閃が乱れた。

「くうっ! 何が…、何だと!?」

 なにもないはずの空間、草薙の剣が引っ掛かったのは不可視の壁だった。

 しかし、チャクラの流れを見る事の出来る写輪眼を持つサスケにはそれが見えていた。

 先ほどキヌタが振った斬撃の軌道、それが宙に残っていた。

 キヌタは血継限界・響遁で音を操る。

 そしてキヌタは先ほど右腕の響鳴器に音を蓄え増幅し、それをチャクラ刀の斬撃に合わせて空中に放った。

 その結果完成したのが、

「宙に残る斬撃、下手に触れればざっくりと切れますよ!」

 響遁・残響斬舞(ざんきょうざんぶ)である。

 周囲に鋭利な鉄線が張り巡らされている様なものだ。

 キヌタは素早く体を入れ替えて、サスケの周囲に残響斬撃の檻を形成していく。

 茨の檻、といったところか。

 本来ならばこれで王手(チェック・メイト)! というところだろう。

 しかし、

「なめるな!」

 やはりサスケは天才であった。

 咄嗟に状況を判断し、最適な対抗手段をとったのである。

 サスケの目が写輪眼から万華鏡写輪眼へと切り替わり、

 ごうっ! という音と共にサスケの周囲に「黒い炎」が纏わりついた。

「天照…」

 サスケの切り札の1つ、天照。

 何者も燃やしつくす黒い炎が「残響」を燃やし尽くしていく。

 キヌタの響遁、つまりはチャクラで固定されていた音はそのチャクラが黒い炎に焼きつくされると同時に唯の「空気の振動」へと還元されていく。

「おや、仕切り直しですか…」

 軽口をたたくキヌタ。

 内心はともかく、余裕を見せつけている。

 その態度に苛立ちが増すサスケ。

「遊びは終わりだ、とっとと死ね!」

 サスケの怒涛の攻撃が始まった。

 

「さすがにっ! きついっ! ですねっ!」

 剣戟の中に黒い炎での術攻撃が混じるサスケの攻撃を、キヌタは何とか凌いでいた。

 既に全身には浅くない刀傷がそこかしこに見られる。

 更に、本来ならば必殺の天照、それに狙われた時点で敗北は必至、な筈なのだが。

「くそっ、天照っ!」

 サスケの黒い炎がキヌタを焼く、かに見えた。

 一旦着火すれば消す事の出来ない天照の炎は一撃必殺の力を持つ。

 しかし。

「響遁・響鳴装甲!」

 キヌタに上がった黒い火の手は、またたく間に体全体に燃え広、がらなかった。

 キヌタの術による空気の振動が壁となり、炎とキヌタの体の間に空気の壁を作っていた。

 燃えているのはその空気の壁。

 空気の壁は燃え上がりつつも黒い炎を押しやり、キヌタに触れるのを防いでいた。

 サスケは「天照」を使用できるようになって時間がそれほどたっていない。

 その為、他の瞳術と比べると、剣術から天照に攻撃を切り替える際に未だ若干の切り替え時間のラグがあった。

 その為、その隙を突く事でキヌタはサスケの天照を凌いでいるのであった。

 とは言え、それはキヌタのチャクラを確実に削り、疲労させていた。

 たかが十数分とは言え、既にキヌタは丸1日も戦っている様な疲れを感じていた。

「…お前は元々木の葉の者じゃないだろう?

 木の葉に肩入れをする必要はないんじゃないのか?」

 サスケが切り結びながらそう言ってきた。

 キヌタは腕に掛かる圧力に辟易しながらも苦笑しつつ答えた。

「なかなか笑わせてくれますね。

 自分はそのきずなを全部捨てたから関係ない、とでも言うんですか?

 はっ、これだから視界の狭い人は困る」

 キヌタの言葉に目つきがきつくなるサスケ。

 キヌタの腕に掛かる圧力がさらに強くなった。

 それに対抗するようにキヌタがさらに言葉を重ねる。

「そもそもっ、あなたがたうちはとて木の葉隠れの里の庇護下にあったんでしょうがっ!」

「ふざけんなっ!

 うちはが木の葉に庇護されてたんじゃねえ!

 うちはが木の葉()守ってたんじゃねえか!」

 激昂して口調が幼い事に戻りつつあるサスケ。

 本人はその事に気付いていない。

「くくっ、笑わせる…。

 ではなんですか?

 うちはマダラは忍界を守ってやるために木の葉隠れの里を作ったとでも?

 なかなか楽しい冗談ですね、そこで頭を張ることが出来なかったから九尾を引き連れて里を襲撃、挙句に一族からも見限られた、と?

 うちはマダラがそんなおバカなら、周囲の忍たちがそこまで恐れるものですかっ!」

 そう言ってキヌタは全力でサスケを突き放した。

 数メートルの距離を置いて再び対峙する2人。

「うちはマダラは自分だけでは一族を守れないが故に千手と手を組んだんですよ。

 取りまとめた連中を支配すれば一族は安泰だろう、ってね。

 しかし、マダラは里のとりまとめに失敗して放逐された。

 結局の所、力はより強い力に勝てなかった、それだけの話ですね」

「黙れ! うちはは最強だ!!」

「ならば何故マダラは千手と手を組んだ!?

 一族というこの力では潰される、だからこそ木の葉隠れの里という集団の力を頼ったんでしょうが!?

 それを理解せず、里に溶け込もうとしなかったのはうちは一族なんじゃないですか!?」

「黙れ!」

 当時サスケは幼く、里の事情に詳しくはなかった。

 ただ漠然と、里の他家の子どもと遊ぶ事がないなあ、などと考えているだけだった。

 一族が滅ぼされて後はそういった事に興味を持つ事無く、唯ただひたすら復讐に燃えて修行に耽溺する日々。

 今更ながらに、サスケは一族の者達が何を考えてクーデターを画策しただろうかと考えた。

 その間にもキヌタへ切り込む事は忘れない。

 とは言え、その剣筋は若干の濁りを見せていた。

 その為に疲弊しきっているキヌタはかろうじて生き延びているといっても良い。

 すでにキヌタは手持ちの札をほぼ使い切った状態だ。

 対してサスケには切り札を増やす手段としての写輪眼がある。

 写輪眼で忍術を分析すれば、それだけで使える術が増えていく。

 そういう強みがうちはにはあるのだ。

 その為、うちは一族は天才、最強の一族とされてきた。

 それを使いこなせる者がどれだけいたのか。

 与えられた写輪眼という力、それを使いこなせていたのがどれほどいたのだろうか。

 本当にうちはが天才の一族であるならば、千手とわざわざ手を組む必要はなかっただろう。

 千手と手を組んだとして、その他の忍の一族を取り込む必要がどこにあったのか。

 千々に心がちぎれながらも、サスケの剣閃は勢いを増していった。

 荒々しいその剣撃はじわりじわりとキヌタを押しこんでいく。

 そしてついに。

 ギャリン!

 という大きな音と共に、キヌタの両腕が上へと跳ね上げられた。

 まるで万歳をするようにキヌタに大きな隙が出来る。

 すかさずサスケはキヌタの顔に向けて必殺の突きを繰り出した。

 その剣先がキヌタの目へと突き進み…。

 りぃん!

 キヌタの()()を掠めた。

 彼の右目は義眼であり、それに当たって剣の軌道がずれたのである。

 しかしサスケの攻撃は終わらなかった。

 その状態から必殺の、

「天照!」

 黒い炎がついにキヌタを捉えた。

 キヌタの右手が燃え上がる。

 これで仕舞いだ。

 サスケがそう考えた時だ。

「まだだ!」

 キヌタがそういうと同時に燃え上がる右手をサスケに向けた。

 キヌタの術は基本的に音を増幅して相手にぶつけるものが多い。

 故に、音を発生させ、そして増幅する時間が必要になるのだ。

 そして起点となる音、それはサスケが用意してくれた。

 右の義眼に仕込まれた音響装置。

 一般的にオルゴールボールと呼ばれる澄んだ音を出す楽器と構造は一緒のものだ。

 先ほど剣によって打撃を受けた義眼は澄んだ音を奏でた。

 それをキヌタは全身の骨格、肺、そして服の装飾全てを使って増幅、その振動を右腕の響鳴器に収束した。

 そのほんの少しの間にサスケは剣を引き、そして、

「いや、終わりだ!」

 深々とキヌタの腹を切り裂いた。

「かっ…」

 血反吐を吐き、倒れ込むキヌタ。

 しかし。

「響遁・集束共鳴『観音砲(かのんほう)』…」

 燃え上がっていた右手を最後の力で切り落とし、中空になった中身をまるで銃の如くサスケに突きつけたキヌタ。

 その切っ先から。

 轟!

 強烈な不可視の弾丸がサスケの胴に叩き込まれる。

 響鳴器の中の空気を響遁によって圧縮、響鳴器を砲身に見立てて打ち出す忍術。

 それが響遁・観音砲。

 空気の砲弾がサスケの胴体に叩き込まれたのを確認し、キヌタは意識を失った。

 

 

 

 雷影さまがすっ飛んで行った後、状況は油女トルネさんからカモくん経由で確認しています。

 うちは兄ちゃんは雷影さまと交戦中、その配下の人たち2人は取り押さえた、との事です。

 雷影さまは左腕を黒い炎で焼かれたそうですが、トルネさんが奇壊蟲を使って燃えている表皮を引き剥がす事で何とか腕を落とさずに済んだそうです。

 …ってかさすが雷影さま、腕が燃やされるのにもかかわらず逆水平チョップを叩きこみましたか。

 良く首がもげなかったなあ兄ちゃん。

 更には先ほど行った我愛羅さんたち砂隠れの3人も雷影さまに合流。

 さて、大分追い詰められたようですけど、そう考えた時です。

 フーさんがピクリと動きました。

「どうやら敵には感知型の忍がいるようです。

 いずれここに来るかも知れませんが、どのように?」

 そうダンゾウさまに耳打ちします。

 ダンゾウさまは無表情に、

「このままでいい。

 そいつらが来たらその混乱に乗じて外へ出る。

 ブンブク、貴様は今のうちに狸に変じておけ。

 今だ貴様は死んだ事になっていた方が有効だ」

 了解です。

 ボクが、ぽへん! という煙と共に準省エネモードになると、青さんが警戒を強めました。

「オレは感知タイプだ。

 どんな(なり)になろうと無駄だぞ…」

 まあそうですね。

 それは分かってますんで。

 ボクが警戒しているのは、と。

 …どうやらうちは兄ちゃんが来たようです。

 さて、兄ちゃんがここに殴りこんで生き残れるのか、そして僕がそれを静観できるのか。

 …自信がない。

 そして第3者が現れるのかどうか。

 兄ちゃんを操っている黒幕、まあ存在するかどうかも含めて、の見定めのために僕はこの姿に化けてる訳です。

 今の所の黒幕最有力候補のうちはマダラさんがどう出るのか。

 ほんとにマダラさんなのか。

「ぐるぐるマスク」を付けているとの事ですが、それを外して見せるのか。

 後は、可能であればうちは兄ちゃんを回収して行きたい所。

 そう考えていると。

 気配!

 僕たちは頭上を見上げました。

 そこには、チャクラの操作によって天井にその足を張り付け、逆さに立っているうちは兄ちゃんの姿がありました。

 その顔には、虚無。

 そうとしか言いようのない感情が張り付いていたのです。

 あの顔は以前にも見ていたものです。

 数年前、うちはイタチさんに伸された時の顔、僕が音隠れに始めていった時もあんな虚無感を醸していましたけど、今回はそれがひどい。

 もしかして兄ちゃんは子どもの頃から前に進めていないんじゃないのか、そんな心配が心をよぎります。

 イタチさんを殺せれば前に進める、その筈が、なんか目標を達成したらその先がありませんでした、って状態なんじゃないかって。

 そういう精神状態って他人が操るのにちょうどいいですからね、ダンゾウさまもそういう状況を作り出して他者を支配下においてっていうのをやってたみたいですし。

 とはいえ、僕にとっても身内なのですよ、兄ちゃんは。

 その人があんな目をしているのは、ちょっと、辛い、ですね。

 そんなことを考えていると、兄ちゃんとミフネさまが激突しました。

 兄ちゃんの草薙の剣と、ミフネさまの刀が火花を散らし、

 ばぎん!

 先ほどまでの激戦で何とか持たせていた草薙の剣が中ほどからへし折れました。

 皆さんの視線がそこに釘付けになります。 

 その一瞬で。

「先に行く。

 後から来い」

 その指令を残し、ダンゾウさまとフーさんが雷影さまが開けた穴から撤収しました。

 兄ちゃんも含め、周囲の人たちはダンゾウさまが逃げた、という事実に心を持っていかれてます。

 ボクがここにいる事も意識してないでしょう。

 だからこそ僕はここに残った訳ですが。

 

 兄ちゃんと影さまたち、そしてその護衛の方々とが戦い始めました。

 特に気張っているのが水影さま。

 どうやら「暁」と霧隠れの里は因縁があるようで、4代目水影を操ったと話していますね。

 なるほど、うちはの瞳術があればそれも可能であろう、と。

 だからこそ、うちはマダラが頭目と疑われているのか。

 九尾さんを絡め取った瞳術があれば、それも可能だと。

 …どうも胡散臭いんですよね。

 この世界において、尾獣は孫う事無き最強生物です。

 不思議な事に、歴史の節目節目でその尾獣を従える(すべ)を持つ人間が現れる。

 かつて守鶴さんを捕えた封印法を編み出した連中然り、尾獣全てを捕え、各里に配備した初代火影・千手柱間さま然り、そして九尾さんを従えて木の葉隠れの里を襲ったうちはマダラさん然りです。

 つまりはうちはの瞳術だから人柱力の4代目水影さまを操れたとは限らない訳ですが、それが既定の事の様に思われてるんですよね、奇妙な事に。

 正直言って、うちはマダラの名を利用した策略じゃないのかとも思うんですよね。

 …などと言っている間に兄ちゃんピンチです!

 かなり動きが悪いです。

 まあ雷影さまの攻撃もろ喰らいしたらしいですし、水影さまの酸の攻撃でかなりの疲労と負傷を負ってます。

 周囲に纏ったあばら骨? のようなものがほとんどのダメージを消してますけど、それでもしんどそうです。

 そうしてると兄ちゃんに支援が飛びます。

 雷影さまにくびり殺されていたとばかり思っていた変なのです。

 まるでカビの様にみなさんに纏いつき膨れ上がり増殖する変なの。

 のみならず、どうやらチャクラを吸収する能力があるようです。

 ぼくはまあ今準省エネモードですから、発するチャクラもほとんどない為でしょうか、あの変なのに纏いつかれる事もありません。

 とは言え、

「土遁・加重岩の術!」

 土影さまが自分の体に纏いついていた変なのに、術で岩をへばりつかせ、更にその岩に加重を掛ける事で体から引き剥がしていきます。

 さすが影のお1人、対処が的確です。

 どうやってか、ふわりふわりと空中に浮いている土影さまが、

「お前にうらみはないが、忍の皆が死を望んどる」

 そう言い、そして、胸の前で掌を合わせました。

 それを開いていくと手のひらの間に奇妙な立方体が。

 介入どころは此処かな?

 僕が動こうとした時、兄ちゃんの背後の空間が歪み、そして。

「塵遁・現界剥離の術!!」

 土影さまの術が発動すると同時に、兄ちゃんがまるで吸い込まれるように歪みに消えて。

「サスケ!!」

 兄ちゃんの部下でしょうか、お姉さんが悲鳴を上げました。

 兄ちゃんの居た空間は、大きな立方体型に切り取られ、そこにあったものは消滅しています。

 塵遁と言うからには、埃とか、もしくは分子段階まで分解されたのでしょうか。

 土影さまがお姉さんを睨みつけている間に、雷影さま、我愛羅さんが会談室に戻ってきました。

 雷影さまが土影さまに文句を言ってます。

「ヤツを仕留めるのはワシの役目だった! 何を勝手な!!」

 いやいや、襲われたら普通反撃しますっての。

 なんて考えていたら。

 

「そのチャンス、まだ残っている。

 そう喚くな雷影」

 

 さて、黒幕の登場、かな?

 僕は身構えました。

 

「オレの名前はうちはマダラ。

 お前達に、ある説明をする。

 それを理解してもらった上で聞きたいことがある」

 …やっぱり仮面は付けたまま、か。

 うちはマダラさん本人であることをはっきりとさせるにはあのお面を取るのが一番なはずだけど。

 なにせここには実際に戦った事がある土影さまが居る訳だし。

 雷影さまがマダラさんを睨みつけます。

「何だ!?」

 それに、マダラさんは言いました。

「オレの目的。

『月の目計画』についてだ」

 何かかなり壮大そうな計画名です。

 マダラさんは五影の面々と質疑応答をしていきました。

 まず、うちは兄ちゃんをここに送り込んだのはマダラさんの考え。

 己の手駒として兄ちゃんに経験を積ませる為だとか。

須佐能乎(すさのお)」を開眼する写輪眼はまれだそうで、使える眼をとっておきたいのだそうです。

 兄ちゃんを使って五影を疲労させ、人質とする目的もあるとか。

 計画の為の人質にしたかったようです。

 ここで土影さまが言いました。

「本当にあのマダラが生きていたとは驚きじゃが…。

 お前ほどの男が何故こんな回りくどいことをする?

 お前の力ならどんな計画も思い通りの筈じゃぜ?」

 まあ力さえあれば何とかなるような代物じゃないんだとは思いますが。

 土影さまもどっちかっていうと単純な力(にんじゅつ)の信奉者だしなあ。

 それに対して、マダラさんは、自分は初代火影様との戦いでボロボロである事を明かした。

 …だったらその仮面を外した方が信憑性は増すと思うんだけど。

 そして「月の目計画」について彼が言及しました。

「全てがオレと一つになる!

 全ての統一を成す完全体だ」

 そうです。

 …色々言いたい事はあるのだけれど。

 まずは聞きましょう。

 マダラさんはまず「尾獣を1つにする」のだそうです。

 最強の「十尾」を復活させ、彼がその人柱力となる。

 そして巨大幻術「無限月読(むげんつくよみ)」を以って地上に存在する全ての人間に幻術を仕掛け、マダラさんがその幻術で全ての人間をコントロールして世界を1つにする、と。

 …ううん?

「わだかまりも争いもない世界だ。

 全てがオレと一つになる全ての統一。

 それがオレの『月の目計画』」

 そう彼は閉めました。

 それに対して五影の面々から罵声が飛びます。

「ふざけるな! お前などに世界は渡さん!!」

「幻の中の平和などごまかしだ。

 現実の世界で成し得てこそ意味がある」

「そんな物の中に何があるっていうの!

 希望も夢もない!

 逃げているだけよ!」

「世界を1つにするか…。

 確かダンゾウも同じようなことを言っとったが…、

 お前のは世界を1つにするというより世界を自分1人のものにしたいとしか聞こえん」

 それに対し、マダラさん(そろそろ仮をつけようかしらん)は、今までの五影の努力は全て無駄であったことに言及します。

 既に希望などないことを理解しているはずだと。

 そして、

「残りの七尾、八尾、そして九尾を差し出し、オレに計画に諸々協力しろ。

 でなければ戦争になる」

 そう言い切りました。

 あ、やっぱりビーさんご無事なのね。

 まあそれはいいとして。

 このマダラさんを名乗る人、「アホじゃなかろか」。

 

 

 

 トビはその声に、その方向へと目をやった。

 そこには、小動物が一匹。

 僕小動物ですよ~、人語解してませんよ~、という白々しい態度をとるその子狸、in茶釜を睨みつけつつ、

「貴様が居たか、木の葉隠れの茶釜ブンブク」

 そう唸るように言った。

 トビのその言葉に五影とその護衛たちの目がそちらに向く。

 茶釜狸は汗をだらだらとかきながら眼を泳がせていたが、諦めたのか覚悟を決めたのか、仕方なし、といった風体で会談室の未だ無事であった机の上に飛び乗った。

「で、先ほどの発言、『アホ』とはどういう意味か、言え」

 殺気の籠って目で、トビはブンブクを()()けた。




ちなみにキヌタさんは死んでません。

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