NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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第93話

「くっそ、寒みいぃぃ…。

 なんでウチらはこんなクソ寒いとこで待機で、ブンブクの奴はぬくぬくあったかな会議室なんだよ!」

「…何言ってるんですか?

 あの会議室に比べたら、この極寒の警備の方がよっぽどあったかいですよ。

 あんな伏魔殿であの権力の権化ども相手取る方が良いんですか、多由也さん」

「…やっぱりこっちで良い。

 でもさあ、もうちょっとあったかくしてくれても良いんじゃないんですかね、メイキョウ隊長!」

 鉄の国において、警備の一端を担っている忍達。

 その中に、木の葉隠れの里の童多由也、ドス・キヌタ、そしてメイキョウ上忍の顔があった。

 多由也はひどく着ぶくれており手にはミトンの様な手袋をしているが、それでもがたがたと震えていた。

 一方、キヌタとメイキョウは平然としたものだ。

 熟練の忍であるメイキョウはともかく、キヌタは多由也とそれほどキャリアは変わらない。

 いぶかしむ多由也に、

「ああ、響遁で振動させた石をカイロ代わりにしていますからね、あなたも使いますか?」

 そうキヌタはつらりと言い放った。

「なっ…、んならさっさと寄こせよてめえ!

 さっきから指がかじかんで…」

 寒いのが苦手らしい多由也は半泣き状態でキヌタの作ったカイロを受け取る。

「ああ、あったかい…」

「ちなみに結構簡単に冷めるので、冷めたら返して下さい、また温めますので」

 最初からカイロを渡していないのをすっかり誤魔化されている多由也であった。

 

 

 

 さて、もんの凄く居心地が悪い茶釜ブンブクです。

 ボクは今「五影会談」の席におります。

 この会談は各影の皆さまとその護衛が2名付くことが許されています。

 火影としてダンゾウさま、そしてその護衛として山中フーさんと僕・茶釜ブンブクがその場にいる訳です。

 油女トルネさんが本来は出る事になっていたのですが、なぜか急きょ僕と入れ替えになったのです。

 僕は知っている。

 内心トルネさんがホッとしていたのを。

 重い。

 重いんですよ空気が。

 こと雷影さまのご機嫌最悪です。

 この人の怒りは物理的な力に変換されやすい(沸点が低い)ので、この会議室がいつまで形を保っていられるのかとても心配です。

 それに比べて風影さま、我愛羅さんは落ち着いたものです。

 今回の会談では「五代隠れ里忍び連合軍」の結成を呼び掛ける、というのが事前会談で決まっています。

 ここでこじれたのが誰をその長、連合軍の大権とするかでした。

 最後まで会議は紛糾しましたが、最終的には火影さま、この場合は綱手さまが復帰した場合を想定してまして、その代理としてダンゾウさま、という事になっています。

 …まあ良くダンゾウさまを担ぐ気になったもんです。

 消去法で、なんですけどね。

 本来一番ふさわしいはずの雷影さまは弟のビーさんが仕留められたショックでえらい感情的になってます。

 これはあまりに危険すぎる。

 土影さまは残念な事に「暁」を自領のために使いすぎた。

 いちばん暁とのつながりが強いと見られてしまったんですね、そうでなければ雷影さまと同じく十分トップを張れる人なんだけど、もったいない。

 水影さまは、というより霧隠れの里は暁が最初に出来た所、という事らしく同じく繋がりが太そうなのが排除理由。

 ついでに里の距離が離れているのと前長まで鎖国気味に動いていた秘密主義が響いて各国とのパイプが細い。

 風影さまも年の若さが響いて各国との繋がりが細く、取りまとめには無理がある。

 ってことでうちという訳。

 まあダンゾウさまが居ると、こと政治関係は最強と言っていいだろうしね。

 …忍の影にいた男に何やらせてんだ、って気もしますが。

 忍五大国の隠れ里だけじゃなく、広く忍界から人材を集めればまだまだ使えそうな人がいると思うんですけどね。

 音隠れのカブトさんとか、滝隠れのシブキさまとか。

 湯隠れの長さまなんてダンゾウ様以上のやり手だって飛段さんから聞いたなあ。

 

 さて、ミフネさまが会談の開始を宣言した。

 口火を切ったのは風影さま。

 周囲に改革の必要性を示しつつ、若干の皮肉を交えながら話していく。

 まあ、集結が必要な事を一番最初に言い出したのが風影さまだからなあ。

 実際、砂と木の葉の連合はうまく行ってるし。

 これを五大国の全体に広めたいと思ってもおかしい事はない、っていうかそれを成せれば風影さまとしてもかなりの功績になるしね。

 権威というものは磨いておいて損はないですから。

 で、それに対して不満げなのはやはり土影さま。

 この人は元々野心家、というよりはまあ雷影さまと同じ身内大事の人ですから、ここぞとばかりに岩隠れ(のみ)の利益誘導に走る可能性が否定できないんですよね。

 それにそもそも人柱力の力のコントロールが難しいからこそそれを秘伝として他の里から隠さないといけなかった訳で、それ故に尾獣の力を手に入れようとする「暁」の行動に対して慎重にならざるを得ない。

 それも分かります。

 水影さまも同じスタンス。

 水影さまの場合は、風影さまと同じく、対外的な功績がない故に慎重にならざるを得なかったというのもありますが。

 で、木の葉隠れの里(うち)は風影さまの所と協調路線をとっているが故に風影さまより、と。

 言うようなことをオブラートにくるみながら話していたんですが、ここで雷影さまが切れた。

 影の皆さまの護衛についていた者が一斉に動く。

 雷影さまが、

「ぐだぐだと! いいかげんしろ!!」

 と目の前の机に腕を叩きつけると同時に僕も動きました。

 八畳風呂敷くんを糸状に展開、雷影さま以外の影の方々の前に蜘蛛の巣状に張り巡らし、いざという時の防御陣形を取りました。

 フーさんは僕の後ろで印を組み、その他の護衛の方々は雷影さまの護衛のダルイさんとシーさんに対峙しています。

 …とは言え、ここで皆さんとやりあう訳もなく。

「ここは話し合いの場でござる。

 礼を欠いた行動は慎んでもらいたい」

 そう言うミフネさんの言葉もあり、皆は一斉に手を引きます。

 …とは言え不満そうな雷影さま。

 雷影さまの主張は予想通りであり、且つ予想外でもあった。

 というのも、既に責任者会議ではこの話は論じ切られていて今更蒸し返す事じゃないはずだったんだ。

 今ある「暁」という傭兵団体、今じゃテロリスト集団だけど、には実働隊として、

 ペイン(雨隠れ)

 小南(同上)

 大蛇丸(元、元木の葉)

 うちはイタチ(元木の葉)

 干柿鬼鮫(元霧隠れ)

 飛段(元湯隠れ)

 角都(元滝隠れ)

 デイダラ(元岩隠れ)

 サソリ(元砂隠れ)

 ゼツ(?)

 トビ(?)

 これだけの面子が居た。

 で、忍五大里のうち、雲隠れの里の忍のみが入ってないんだ。

 これを「雲」以外が暁というテロ集団を利用し、雲隠れを攻撃してきた、と雷影さまは言いたいのだろう。

 それに対して強く出たのが土影さま。

 雲隠れは相互安全条約を締結したにも拘らず、自軍の増強に力を入れてきた。

 その動きこそが信頼を損ね、「暁」の台頭を許したのだという論だ。

 …まあテロリストを雇う方も、真偽を損ねかねない形で目見見える軍事強化をするのもどっちもどっちなんだけどね。

 そこいら辺をつっつきまわされたくないから事務方での会議でそう言った部分をなるべく出さないようにしよう、って話し合いだったんだけど。

 どうやら雲隠れでは事務方の力が弱いようだ。

 下手をすると軍備の強化のためにいろんな所がほころんできている可能性も考えたほうが良いかもしれない。

 水影さまからは先代の水影さまが何者かによって操られていた可能性、その黒幕が暁であるかもしれない、との暴露がなされ、そして。

「『暁』のリーダーは、おそらく」

 

 うちはマダラだ。

 

 その言葉に会場が凍りついた。

 それはそうだろう、忍五大里にとって、マダラという名前は恐怖の代名詞として有ったのだから。

 他の里にとってもそうだろうけど、うちにとってもそう。

 初代火影・千手柱間さまと共に木の葉隠れの里を作り、その支配者の座を狙って柱間さまと対立、追放されただけに収まらず、九尾さんを従えて里を襲撃、そこで初代さまに打ち取られた、はずの人。

 戦いにおいては初代さまとタメを張る強さを誇った「最強忍者」の1人だ。

 そんな人が敵の衆会、というダンゾウさまの発言を聞いて、一気に連合構想が真実味を帯びてきた。

 とは言え連合のトップを誰がはるか、でまた紛糾。

 そこで議長のミフネさまが発言。

 今、五大里で人柱力が居るのは九尾の人柱力たる兄ちゃんだけ。

 そこで、だ。

「火影忍び連合軍の大権を任せてみてはいかがか?」

 一瞬の静寂。

 その後の怒号。

 まあそうだよね、今まで忍界において外道非道と言われてきた二代目火影さまの直系といっていいダンゾウさまに全権を渡すのは抵抗があるだろう。

 しかし、ここにトリックが1つ。

 あくまでもダンゾウさまは火影()()なのですよ。

 本来の火影である綱手様は療養中とはいえ、そう時が掛からず回復なさるはず。

 そうなれば実質権限があるのは千手の直系であり、人格的にも信用されている綱手さまという事になる。

 あくまでダンゾウさまはその繋ぎにすぎないって事になるのですが。

 そこで動いたのは霧隠れの青さん。

 ? どういうことかな?

 一応周囲に警戒をしていた方が良い、そう思った時です。

「火影殿、その包帯の下の右目を見せていただこう!」

 青さんがそう言いました。

 なんだ?

 そう思って動こうとした時です。

 すっとダンゾウさまの左腕が動きました。

 僕の動きを封じるように。

 …どうやらダンゾウさまにはこの動きが規定のものとして予想されていたようです。

 これも策の内、という事ですか。

 僕はいざという時に動けるようにだけしていれば良いだけですか。

 どう言う事かと皆の代表として尋ねる土影さまに、青さんが答えます。

「その右目…。

 うちはシスイの目を奪って移植したようですな…」

 うちはシスイさん。

 かつて「瞬身の」と讃えられた凄腕の暗部。

 その右目がダンゾウさまに移植してある、というのです。

 うちはイタチさんの事を調べた時に出てきた情報だと、シスイさんは特別な写輪眼、今だと「万華鏡写輪眼」であろうと予想できますが、によって幻術だと決して悟られない幻術を使用できたとありました。

 確か「別天神」の術。

 それを使っていたというのでしょうか。

「火影、いやダンゾウ!

 まさかミフネを…」

 疑いの目をダンゾウさまに向ける雷影さま。

 まだ「待て」は解かれていない。

 緊張が最高潮に達した時。

 

「ハロォゥ~~~~!」

 

 なんか変なのでて来た!

「次から次へと、何だ!」

 雷影さまが咆え、

「暁か」「じゃな」

 ダンゾウさまと土影さまがそう呟いた直後。

 その変なのが、

「うちはサスケが侵入してるよぉ~。

 さあてどこに隠れるのでしょうかあ!」

 特大の爆弾を落としてくれやがりました!

 は?

 なんでまた!?

 どう言うことだってばよ!?

 いやいや、考えろ狸、じゃなくて僕。

 この変なのは暁、ならなんでうちは兄ちゃんを売る?

 …想定するなら撹乱。

 この状況でそう言えば…。

 変なのの首根っこをむんずと掴んだ雷影さまが、

「うちはサスケはどこだ!?

 ハッキリ答えろ!!」

 そう咆えます。

 それに変なのがふざけた態度を取ろうとした瞬間、

 ゴキン!

 鈍い音がして辺なのの力が抜けました。

 首の骨をへし折られたのです。

 さすが雷影さま容赦なし。

 そのまま雷影さまは()()()()して外に飛び出して行きました。

 なんだかなあ。

 あの短絡さえなければ忍連合軍の総大将は雷影さまで決まりだったのに。

 

 さて、雷影さまが飛び出して言った後、会談室は何やら白けた雰囲気が漂っております。

 まあこの分だと会談はやり直しになりそうですけどね。

 ミフネさまがダンゾウさまをやんわりと糾弾しています。

 信用を欠いてしまった、と。

 それに対してダンゾウさまは、この世界は1つになるべき、忍び世界を1つにまとめる契機にするべきだと語った。

 話し合いではまとまらない、一気に纏める為にはどんな手段をもとる、と。

 それに対して土影さまは理想の実現は時間が掛かる、理想はしょせん理想と語る。

 理想を理想として実現不可能とする土影さまと万難を排して強硬に理想を推し進めようとするダンゾウさま。

 そこに、

「分かち合う事、信じる事。

 それを止めたら世界に残るのは恐怖だけだ」

 一石を投じたのが、風影さま、我愛羅さんだった。

 我愛羅さんはさらに言う。

「道徳を考慮しないやり方や諦めは今のオレにとって受け入れ難いものになった」と。

 それを何も知らぬ子どものたわごと、と切り捨てる土影さま。

 この方も、ダンゾウさまも、理想の壁の前に膝を屈した事が何度もあったのだろう。

 それゆえの言葉なのだろうが。

「ならば1つだけ問う」

 我愛羅さんの質問は、

「ああ、何でも答えてやるぞ若僧」

「アンタ達はいつ()()()()()?」

 お2人の心を揺さぶったようだ。

 さすがです、我愛羅さん。

 僕が返答をしかねているお2人を見ていると。

 みにょうん…。

「…はにをふるんれふは(なにをするんですか)!」

「顔がゆるんでるんでな、お仕置きだ」

 フーさんが僕のほっぺを引っ張ったのです!

 みにょーっとボクの方を引っ張ってはムニムニとするフーさん、やめてくださいって!

「やかましい!

 お前はダンゾウさまの傍仕えとしての威厳を何だと思っている!

 もう少しその緩んだ顔と根性をだなあ…」

 ボクの受けているお説教で、若干雰囲気は緩んだ感じですが、そうすると周囲では影の護衛の方々が今後をどうするか話し合っていました。

 どうせ僕らは動けませんが。

 だからトルネさんが外にいる訳でして。

 後はキヌタさんと多由也さん、メイキョウ先生が対応してくれるはずです。

 そして。

「後はここに誰が来るか、ですよね…」

 油断は大敵なのです。

 

 

 

 時間は少し巻き戻り、雷影が会談室を飛び出していく前に遡る。

 警備に当たる侍達の上司であるウラカクから内はサスケ侵入の一報を受けたメイキョウ班、彼らはサスケの捜索に加わっていた。

「多由也さん、いざという時は手筈通りにお願いします、あ、これはアンカの追加です、指を温めておいてください」

「ウチに任せておきな。

 メイキョウさんはどうするんですか?」

「オレはトビ、いやマダラを警戒する。

 さすがに五影を潰されるのは不味いからな。

 いいか、交戦したとしても相手を倒す必要はない。

 殺されないように時間を稼ぐのがお前たちの仕事だからな!」

 メイキョウはブンブクからの情報とイタチとの戦いの観戦からサスケの戦闘能力をある程度把握していた。

 それを鑑みるに、キヌタではかなり不利だろうとメイキョウは考えていた。

 しかし防戦と主体とした戦い方なればキヌタにも勝機はあるだろう、その為には先ず死なない事だ。

 死なず、損耗せずに戦うならば気の長い方でなく、精神的にも脆いサスケには必ず隙が出来る。

 それを突く事が出来れば、あるいは。

 蜘蛛の糸ほどの細い勝機かもしれないが、今はそれに頼るしかない。

 さすがにマダラほどの怪物と戦わせる訳にはいかないからだ。

 メイキョウは後ろ髪を引かれる想いでその場を辞した。

 

 サスケは数多くいる侍の警備に苛立っていた。

 自分は唯ダンゾウの首さえ上げられれば良いのに。

 とは言え、それは侍の側からすれば国賓待遇の者を国内でテロリストに殺傷されるのと同義であり、少なくともサスケの行動を義だと思う者はいまい。

 しかしサスケにとってはそれこそが正義なのであり、それを邪魔するものはどのような物でも彼のなかでは悪なのだ。

 このあたり、本来の清廉潔白な性格が復讐という感情で歪められているのが良く分かる。

 今のサスケは独善という言葉が良く似合う、危険な男と化していた。

 そして、あろうことか侍たちの前に同道とその姿を現した。

 彼はひどく冷徹な目をして侍達に言った。

「オレは今、苛立っている。

 来るなら手加減はできそうにない…」

 こう言う事で、侍達に掛かって来るな、そう言っているのだ。

 しかし警護という任務を受けている侍達にそれが通じるはずもない。

 警護頭の侍がその腰から二本の小刀を抜き放った。

「はっ!」

 気合と共にその刃が伸びる、いや、それはチャクラの刃。

 侍は刀での戦いに特化したチャクラの運用をする。

 彼らはチャクラ刀に己のチャクラを乗せる事で強力な力を発揮するのだ。

 それを双方横に構え、

「!」

 まるでカマイタチの様に打ち出した。

 サスケに迫るチャクラの飛斬。

 しかしそれをサスケは己のチャクラ刀、草薙の剣で迎え撃った。

 刃と飛斬がぶつかり、そして。

 ぎゃん! ががががががっ!

 チャクラのカマイタチが弾け、周囲に大きな傷を幾つも穿った。

「なんと! 弾いたのか!」

「我らの剣技と似ている…」

 それもそうであろう、忍の剣術は元をただせば侍の剣術に源流がある。

 元々対人戦を想定し、型稽古というシミュレーションを数多くこなす事で一定以上の強さを得るのが剣術だ。

 それを簡易化し劣る部分を忍術やチャクラの身体強化で補うのが、戦いを専門とせず調査や隠ぺいなど様々な技術を学ぶ忍の為の剣術だ。

 しかし、サスケはこと戦いに関しては明らかに天才だ。

 様々な技術を極短時間で吸収する事に長けている。

 無論、剣術の型についてもだ。

 その肩がどのような意味を持つか、それを説明されればすんなりと理解できてしまうのがサスケだ。

 そして彼には剣術という戦いの技術が肌にあっていた。

 それらがあいまって、今のサスケは熟練の剣士に匹敵しかねない技量を持つに至っていた。

 サスケの危険さに気付き、身長になる侍達。

 時間を掛けたくないサスケはそれに更に苛立ちを覚え、彼らに向かって走り出した。

「くっ、変則的な動きをしおって!」

 侍は剣による体術の専門家といっていい。

 その侍をして、サスケの精妙な足さばきは感嘆とするものであったようだ。

 その動きに惑わされ、手元が狂う侍。

 その隙をサスケは逃さなかった。

 すれ違いざまにその脇腹に草薙の剣が吸い込まれ…。

 ぎんっ!

 横合いから突き出された別のチャクラ刀に弾かれた。

「皆さん、交代です。

 彼は一対多の得意な方です。

 忍の相手は忍にまかされた方がいいかと。

 それより彼の仲間が居るはずです。

 半数はそちらの捜索に入った方がよろしいでしょう…」

 ドス・キヌタがサスケの剣を弾いていた。

 

 サスケとキヌタ、2人の剣士が対峙していた。

 サスケはうちはに伝わる剣術をベースに音隠れの里において独自に吸収した技術を加味した半我流剣術。

 キヌタは正統派木の葉流剣術の免許皆伝。

 サスケが一見構えを取らない、剣をだらりと垂らした構え。

 これは自然体でいる事により、どんな攻撃にも対処できる形ではある、それだけの判断力、反射神経があれば、の話だが。

 一方キヌタは正眼。

 いわゆる両手で構える中段の構えであり、切っ先を相手の喉もとへ突きつける構えで、剣術の基本とも言える構え方だ。

 ここから千変万化の切り込みを見せるのが「正統派」の木の葉流である。

 最も、あまり忍はその構えを使わない。

 剣士と忍の差であろうか。

 忍びは剣を使う時でも片手を開けておくものだ。

 いざという時は剣を捨て、忍術の印を結ぶ為である。

 キヌタには印を結ぶ事が出来ず、また印が不要でもあるためだ。

 彼の右腕は義手であり、これで印を結んだとしてもチャクラが正確に起動し難い。

 彼の血継限界である「響遁」以外の忍術は発動が不可能であるか、出来たとしても非常に効果が低く、その割に時間が掛かるものばかりなのである。

 それを補うためにキヌタは木の葉流剣術を極めようとした。

 それが、

「むう、あの若いのもかなりできる」

「忍であそこまで剣の道を極めつつあるとは…」

 キヌタは侍たちですら認める実量を身に付けつつあった。

 サスケもキヌタの実力を認めたのだろうか、その動きを止め、キヌタを警戒し始めていた。

 それに。

「…笛の音、か?」

 周囲にかすかに、ほんのかすかにではあるが笛の音らしき音が響いていた。

 侍には分かるまい。

 忍びであるからこそ気付いたと言っていい。

 忍びには幻術があり、それは何も視覚からの導引とは限らない。

 聴覚からもそれはあるのだ。

 故に、幻術に関しても天才であるサスケにとってはこの音も注意の対象ではあった。

 それがまたサスケの意識を苛立たせる。

 目の前の奴が木の葉の額当てをしている以上、こいつは木の葉の忍(おれのてき)なのだろう。

 さくりと目の前の忍を仕留めて火影たるダンゾウを殺す。

 その為にいるというのに、周囲から邪魔が入る。

 何故オレの邪魔をする!

 その怒りがサスケから術の繊細さをほんの少しずつ削り落していく事にサスケは気付いていない。

 怒りのまま、サスケはキヌタに向かって切り込んでいった。


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