NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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今回はサスケと「鷹」の話となります。
若干サスケに対して厳しいお話になりますのでファンの方はご容赦を。


第92話 サスケ惑乱

 三狼山と呼ばれる異形の山、その中腹にある「鉄の国」の都。

 そこに今、3人の男が辿り着いた。

 甲冑姿の男たちが彼らを出迎え、

「お待ちしておりました。

 火影さま」

 そう言った。

 火影、正確に言えば5代目火影にして現火影代理・志村ダンゾウは、

「うむ」

 と一言。

 そのまま城門を潜り抜けて都の中へと入っていった。

 

 それを見ている者達が居た。

 右半身が溶けたような白い体が異様な存在、ゼツと呼ばれていた者の左半身だ。

 彼は城門のへりに姿を隠し、目下の男たちを監視していた。

「あいつだよ、中央のじじい」

 彼は周囲にいる者達にダンゾウを示して見せた。

 それに答えるものが1人。 

「アレがダンゾウか…」

 憎しみを湛えているようで、その実なにもない虚無を抱えた目をしたうちはサスケ。

 そして彼が率いる「蛇」いや、その名を変えて「鷹」を名乗る忍の集団がそこには居た。

 

 何故ここにサスケが居るのか。

 それはサスケがうちはイタチを討ち果たして後の事である。

 サスケはその後気を失い、仮面の男、トビと名乗った、に保護される事となる。

 彼はサスケに様々な事を教えた。

 吹き込んだ、といっても良い。

 なぜならトビは、イタチにとってはサスケに知られたくない内容を次々に話していったからだ。

 イタチはサスケの目に対して幻術を仕掛けていた。

 イタチの真実を知る、その言葉をキーワードとして決して消す事の出来ない黒い炎〝天照(あまてらす)〟を発動するようにして有ったのだ。

 イタチの目論見通りなら、トビは焼き尽くされているはずだった。

 しかし、どう言う手妻(てづま)を使ったのやら、平然と彼はサスケの前に再び現れ、イタチの真実とやらをその口から吐き出した。

 それはサスケにとって到底受け入れ難いものであった。

 

 実はイタチの一族殺しは木の葉の里の上層部から受けた任務であり、その後木の葉を出て抜け忍になることまでも任務であった事。

 このときの一族殺しはトビと手を組んだ事。

 当時、サスケ達の父であるうちはフガクが木の葉隠れへのクーデターを企てていた首謀者であったこと。

 その際、フガクはイタチをスパイとして木の葉の里の暗部へ送り込んでいたつもりだったが、イタチは二重スパイであり、逆に木の葉にうちはの情報を流していた事。

「何で兄さんはそんな事を…」

 呆然とするサスケに、トビはさらに言葉を重ねた。

 イタチは4歳の時から地獄の第三次忍界大戦を経験していた、その為に戦争とういうものに大きな忌避感を持っていたようだ。

 うちは一族がクーデターを起こすことで各国のパワーバランスが崩れ、戦争の火種になることを防ぐための一族殺しであった。

 本来であればクーデターそのものを未然に防ぐつもりであったイタチだがそれは敵わず、一族を排した、しかし。

「…イタチはその任務を全うした。

 ただ一点の失敗を除いてはな…」

 トビは言葉を繋げる、まるで謡うように。

 

 弟だけは殺せなかった、と。

 

 トビからはサスケの表情は見えない、しかし、トビにはそれが手に取るように分かった。

 イタチはサスケの身の安全を確保する為ヒルゼンと交渉、ダンゾウら上層部を脅迫して里を出奔した。

 その後も危険を冒してまで木の葉隠れの里に侵入していたのもサスケの身の安全を確かめる為。

「特に、あの狸小僧にはたまに接触していたようだ」

 ブンブクや空区の猫バア、そして「暁」の角都などにも情報を提供させていたという。

 そして、

「里を抜けた時より、お前と戦い死ぬことを心に決めていたのだ。

 その時、お前に新しい力を与える為…」

 これがうちはイタチの真実だ、とトビは締めた。

 

 呆然としながらサスケが言った。

「でたらめだ」

 サスケからしたらそうだろう。

「オレは何度も殺されかけた」

 それをトビの言葉が否定する。

「イタチが本気なら、そうなっていただろう。

 …確実に、な」

 その言葉を否定しようとして出来ないサスケ。

 当然だろう、その頃はそれだけの実力差があったのだから。

 何故そんな事をイタチがしたのか。

 決まっている、サスケのためだ。

 取り込んだ大蛇丸、その妄執からサスケを解き放つためだ。

 呪印から解放はイタチの「十拳の剣(とつかのつるぎ)」と呼ばれる封印剣にて成され、そして己が死によってサスケの「万華鏡写輪眼」の完全なる開眼も成った。

 そしてイタチを討伐したサスケは木の葉隠れの里へ英雄として凱旋できる。

 そこまでがイタチの策であった。

 ご丁寧にトビへの対策まで施して。

 それをトビは時折入るサスケの疑問、反論に答えつつ冷徹に語っていった。

「奴はお前のことを何より…」

「やめろぉっ!!」

 ついにサスケは叫んだ。

 どうでもしなければ今まで自分がやって来た事が。

 無為であった、そう理解しなければならない。

「嘘だ!!

 そんなもの全て…」

 サスケの絶叫を。

「ならば何故お前は生きている!!」

 そうトビは一刀両断に叩き切った。

 サスケはあの戦いを思い出した。

 そして呆然とする。

「お前の眼はイタチの事を何一つ見抜けていなかった。

 イタチの作りだした幻術(まぼろし)を何一つ見抜けていなかった」

 そう言いつつ、トビは立ち上がり、サスケに近付いた。

 そして、こう語った。

「あいつにとって、お前の命は里よりも重かった」のだと。

 彼は死ぬ間際まで、いや、死んでもなお、サスケのために、サスケに新しい力を授ける為に、サスケに倒される為に。

 病に蝕まれ、己に近付く死期を感じながら、薬で無理にでも延命し。

 最愛の弟のために。

「お前と戦い、

 お前の前で死なねばならなかった」

 

 今、サスケの背後には五人の男女が居る。

 鬼灯水月、天秤の重吾、うずまきの香燐、名張の四貫目、そしてトビ。

「我らは〝蛇〟を脱した」

 そう、忍のチームである「蛇」はその目的を達した。

 うちはイタチの抹殺という目的を。

「これより我ら小隊は、名を〝鷹〟と改め行動する」

 サスケは虚空を見つめ、

「『鷹』の目的はただ1つ、我々は、

 木の葉を 潰す 」

 サスケの両目には六芒星の様な「万華鏡写輪眼」の文様が浮かび上がっていた。

 

 それを見ながらトビは(わら)う。

 うちはサスケ、我が手に堕ちたり。

 

 サスケは写輪眼を開眼した、うちはの直系といって良い。

 それがトビの手駒となったのだ。

 何故イタチが真実を語らなかったのか、そしてトビを始末してまでその真実を隠そうとしたのか。

 すなわち。

 イタチの真実をトビが語る、その結果がどうなるか、イタチには理解できていたのだろう。

 イタチは余りにも優秀で手駒に出来ない。

 しかし、天賦の才による忍としての強さはあっても、精神的に未熟であるサスケなれば。

 イタチを使い潰す事でサスケを手に入れる、それがトビの策。

 サスケはトビの策に嵌り、まんまと木の葉隠れの里への武器として覚醒してくれた。

 これはイタチには仕掛けられない事であった。

 いくらイタチが優秀でも、彼は散々目にしてきた戦場で、極端な平和主義へとその心を傾けてしまった。

 大を活かすために小を切り捨てる。

 その例外がサスケである。

 サスケを活かすためにトビを利用し、その結果トビにサスケを利用される、皮肉であった。

 ここでさらにもうひと押ししておこうか。

 トビは仮面の下で下卑た笑いを浮かべていた。

 

 

 

 トビは雨隠れの里の隠し砦の1つにサスケを案内した。

 そこには「蛇」いや今は「鷹」の面子、そして、

「鬼鮫先輩…」

「暁」の精鋭であり、イタチの相棒でもあった干柿鬼鮫がそこには居た。

 彼を交えて「暁」と「鷹」の交渉が始まった。

 トビは嗤う。

 サスケは木の葉の上層部のみを潰すつもりらしい。

 …笑わせる。

 里の上層部を潰すという事は、行政の中枢を潰すという事。

 つまりは里の全機能が死ぬという事だ。

 そうなった場合どうなるか。

 火の国は他の国から侵略され、人が大量に死ぬだろう。

 忍ももれなく。

 個々の忍がいくら強いといっても、国の国防を司っていた組織の壊滅だ、情報など入ってくるまい。

 どこを救えば良いのか、そんな情報が入らずに上忍達は罠にはめられて殺されるだろう。

 そうすれば火の国にある弱小の忍里が動きだし、ここぞとばかりに火の国の覇権を取りに行くだろう。

 さあ楽しい第4次忍界大戦、いや、世界大戦に突入だ。

 トビとしてはとても都合が良い。

 誰もかれもが大事な人を失うだろう。

 だがそれがどうした。

 死者を嘆く人間なぞその後に()()()()()()()()()()()だけで良かろう。

 それにしても、戦争を極度に恐れたイタチが最も大事にしたサスケが世界大戦の引き金か。

 愉悦な事この上ない。

 などと頭の隅で考えながらトビは交渉を進める。

「鷹」は木の葉隠れの里を落とすには戦力が足りない。

 それに関して「暁」は尾獣を戦力として貸し出す。

 代わりに鷹は八尾の人柱力を捕える事でその代価とする、そう言う取り決めが決まった。

 そして。

「兄さん、お茶持って来た…」

 その声に、サスケの顔色が変わる。

「なっ…!」

 そこに入って来たのは、

「ブンブク…?」

「はずれ。

 オレの妹の『聖杯のイリヤ』ちゃんです!」

 トビが「暁」でのテンションでそう紹介した。

 サスケ以外はトビのいきなりの変貌ぶりにあっけにとられていた。

「兄さん、『鷹』の人たちが呆れてる。

 折角威厳を醸していたのだからそれを維持すべきでは?」

「…言うねえ君、無表情がたまんないね」

 そしてサスケはそれどころではない。

 茶釜ブンブクは己が焼き殺したはず。

 それが何故こんな所にいるのか。

 サスケにとっては喜びと困惑と恐怖が入り混じった、何とも奇妙な感覚を味わう事になった。

 

「トビ! これはどう言う事だ!!」

 サスケが動揺を隠す事もなくそう喚く。

 サスケの形相に驚いた「鷹」の面々がサスケに「どうした!?」と尋ねるが、サスケに返答を返す余裕はない。

 トビもトビでサスケの動揺が面白いらしく、なかなか話さない。

 そこに、

「兄さん、いい加減にする。

 彼らとは協調する予定、あまりいじわるをするとへそを曲げられる」

 そう、イリヤの裁定が入った。

「ああ、はいはい。

 じゃあ、サスケ、彼女がなんなのか、話そうか」

 トビの言葉に首を傾げるサスケ。

「彼()? それはどう言う…」

「はっきり言うならばな、彼女、聖杯のイリヤは茶釜ブンブクとは同じ存在であり、全く違う存在でもある」

 トビは回りくどい言い方をした。

「兄さん、それで理解できる人間はそうそういない」

 イリヤからの突っ込みが入る。

「…同じであり、違う存在。

 しかし、影分身なら性別も同じくなるはず…」

「…そうそういない」

 だが、忍術に関してサスケは粉う事無き天才だ。

 トビの言葉から真実を救いあげるべく思考する。

「さすが、うちはの天才。

 これだけの情報から真実に近づくとは。

 そう、彼女はブンブクの影分身より作られた人形!

 ヤツのチャクラたる影分身を封じた依り代を加工して作り上げた存在よ」

 トビの言葉に眉を顰めるサスケ。

「なぜそのような顔をする?

 奴はお前にとってその万華鏡写輪眼を開く為の贄に過ぎなかろうに」

 その言葉にサスケの顔がゆがむ。

「ちがう! オレは…」

「何がどう違う?

 お前は万華鏡写輪眼の力の覚醒と茶釜ブンブクの命を天秤にかけ、血継限界の開眼を取っただけだろうに。

 なにも悪くはない、ただお前がそう選択しただけだろう?」

 実の所、トビの言葉には欺瞞がある。

 サスケが自分で選択した、と思い込んでいる事。

 それはトビが誘導したからでもあるのだ。

 トビは永い年月を掛けて仕掛けられたとある術を使ってサスケに接触、その意識を誘導する事に成功している。

 そう強力ではない術だ。  

 であるが故に気取られない。

 無論、トビが仕掛けた術ではない。

 そのずっと前、うちはが千手と木の葉隠れの里を作り上げた時からのものだと()()()()()

 うちは全体に仕掛けられた幻術。

 それは地雷の如くひっそりと、そして必殺の意志を以って仕掛けられた巨大な忍術。

 それがトビにサスケという操り人形をもたらした。

 今サスケは動揺の真ん中にあるだろう。

 これでさらにサスケは術に絡め取られていく。

 サスケ(あやつりにんぎょう)トビ(くりて)のもの。

「オレは…」

 追いこもうとするトビに、周囲の者からきつい視線が飛ぶ。

「てめえぇっ! サスケに何吹き込んでやがるっ!」

 香燐が怒りを露わにしながらそう叫んだ。

「香燐といったっけ。

 落ち着く。

 兄さんは事実を述べているだけ」

 それに冷や水を掛けるのはイリヤ。

 香燐は怒りを持ち、水月は興味深そうに、重吾はどこかで見た様な、と考え、四貫目は感情の見えない目をイリヤに向けていた。

「どう言う意味さ!?」

()()()()()は音隠れにおいて写輪眼を万華鏡写輪眼に開眼する為の方法を知った」

 サスケが顔を歪めるのを気付いたか気付かずか、イリヤが話を続ける。

「その条件として、最も親しい者を殺す、というのがあった」

 実際の所は、その条件を述べたのはうちはイタチであり、それを思い出させたのはトビ、もしくはその指示を受けたものであったのだが。

 その言葉を聞き、サスケの顔がまた歪む。

「その生贄として選ばれたのが茶釜ブンブク。

 そして彼は木の葉隠れの里に影分身を置いていた」

 その事は「鷹」の面々は知らなかったのだろう、サスケの顔が思わずイリヤの方を向いた。

「茶釜ブンブクは大蛇丸すら気にかける発想と異様な知識を持っていた。

 その分身を誘拐し、依り代に固定して、人格を抹消してから改めて兄さんに従順な人格を刷り込んでブンブクの持つ異常な知識を『暁』で利用できるように作られたのがボク、『聖杯のイリヤ』だ。

 人格の洗浄の際に大元と違う方がやりやすいという意味、そして異常知識の中から『聖杯』の元になった存在が女性格であった事からボクは女性の体を与えられた、それだけの事」

 イリヤはない胸を張って自慢げに言った。

 無表情で。

 鷹の面々は言葉もない。

「だから兄さんには何もやましい所はない。

 ボクは唯の廃品利用というだけの話」

 がくりとサスケが崩れ落ちた。

 あわててサスケの周囲に集まる高の面々。

 それを尻目に、イリヤはトビをちらり、と見た。

(これでよかった?)

 トビは鷹の者達に見えないよう、親指を突きあげた。

 サムアップ、というやつである。

(完璧!!)

 イリヤはサスケ達に一礼を、するように見せかけつつトビに礼をし、

(感謝の極み)

 そして退出していった。

 非常に悪趣味といっていい茶番劇であった。

 

 グロテスクな人形劇は続いていく。

 鷹の面々が休んだ後、サスケとトビは会談を持っていた。

 そこで吐き出される黒々としたサスケの憎悪。

 木の葉の里の全てを焼き尽くす、と。

 トビは仮面の奥でそれを嘲笑う。

 1人己の不幸に酔う人形が1つ。

 とっても使い勝手が良い人形。

 笑わせる。

 自分すらその憎悪の対象であることを理解していない無様な子ども。

 うちは一族がどれだけの憎悪を受けていたのか、幼い貴様は知るまい。

 木の葉隠れでうちはは迫害を受けていた。

 あり得ない。

 うちは一族こそ木の葉隠れの里において保護されていた側面がある事をこ奴は知らない。

 木の葉隠れの里が形成される前、うちはがどれだけ恐れられ、恨まれていたかサスケは知らない。

 もしもうちはのクーデターが成功していたとしたら、どうなっていたか。

 木の葉隠れの里は割れ、うちはとそれ以外の一族が対立しただろう。

 そして勝つのはうちは、な訳がない。

 あの当時、イタチ以上の上忍はうちはにいなかった。

 それがどう言う事か、分かっているのか。

 うちはが中央から排斥されたのではない。

 暗部の上忍となれる忍がイタチともう1人しかいなかったのだ。

 実力の問題だ。

 それにどれだけ実力があろうとも、里をないがしろにする奴が上忍となれるわけがない。

 あの日向ですら、里のために当主の弟を犠牲にしているのだ。

 その覚悟は当時のうちはにはなかった。

 かつてのうちはにはそれがあった。

 長であるうちはマダラを排斥した事だ。

 マダラは圧倒的な強さがあった。

 しかし、同時に慢心がひどかった。

 己がいれば一族は安泰だという慢心が。

 マダラは確かに強かった、が同時に厄介な敵をも育てる天才だった。

 岩隠れの里の長、土影・オオノキなどはその典型だろう。

 完膚なきまでに彼を叩き潰した結果、オオノキは岩隠れを精強な戦士集団へと育て上げ、どのような手段を取ろうとも相手を殲滅する血も涙もない手段をとるようになった。

 そうでなければ全てを奪われる、そうマダラが歪めたのだ。

 それを憂いた者達により、マダラは里を追われた。

 

 …とはいえ、それがマダラ本来の姿であったのかどうか。

 

 覚悟がない状態でうちは一族が万一にもクーデターを成功させ、里を割っていたとしたら。

 嬉々として力の落ちたうちは一族を弱小の忍の一族が襲撃し、その目を抉りだそうとするだろう。

 そして日向、奈良、山中、秋道ら忍の名家はうちはを見捨てるだろう。

 うちはこそ、木の葉隠れの里においてその身を守られていた、それを理解できない子ども。

 だからこそ、千手とうちはが手を組み、忍里という各家の互助団体を作ったというのに、その末裔が、その事をしっかり理解していた兄の代わりに里を滅ぼすという。

 素晴らしい。

 その憎悪は本当にお前のものなのか。

 そもそもそのセリフすら陳腐だ。

「もし俺の生きざまを否定するような奴らが居るなら、

 そいつらの大切な人間を片っ端から殺してやる!

 そうすれば少しは理解するだろう…、

 このオレの憎しみを!」

 そんなもの、あの戦い(さんどのにんかいたいせん)を経験した者ならいくらでも知っている。

 愚かなサスケ。

 彼の師匠であるはたけカカシ、大蛇丸、いずれもそんなことは経験済みだ。

 カカシはそれを乗り越え、大蛇丸はそれから逃れるために術研究に没頭した。

 サスケの様に復讐に燃えるものなどどこにでも居よう。

 ここにも、そこにも。

 良く分かる、良く分かるぞ。

 陳腐であり、あまりにも下衆であり、そしてあまりにも純粋だ。

 トビにはそれが分かる。

 なぜならトビと呼ばれる男は…。

 トビはそこまで考えて、サスケに必要以上に感情を移入している事に気付いた。

 しょせんオレもサスケと同じ穴のムジナか。

 苦笑いを仮面の奥で浮かべるトビ。

 違いは既にトビがこの世界に愛想を尽かしている事だけか。

 サスケよ、踊るが良い。

 そして絶望しろ。

 お前の力では木の葉隠れの里を壊滅させることなど不可能だ。

 確かにお前は強い。

 しかし、お前の強さは同時に脆さに通じているのだ。

 必ずお前はへし折れる。

 その時が楽しみだ、お前がオレの同志となる時が。

 トビは毒を吐き続けるサスケと、その毒を精製するように語らっていった。

『人は愛情を知った時、憎しみのリスクを背負う』

 愛情の裏返しである憎しみを毒に変えて、その言葉の通りに。

 

 

 

 サスケ達はその後、八尾の人柱力である雲隠れの里のキラー・ビーを襲撃した。

 大きく苦戦するも、殺す事無く人柱力を捕える事に成功した、と思っている。

 その要因として、消えない炎「天照」を制御できたことが大きい。

 燃やすも消すも自由自在。 

 この力があれば、尾獣の力なぞ不要。

 そう思わせるだけのものがあった、という事だろうか。

 確かに天照の力は絶大だ。

 しかし、面白い事に決して消えず、また燃やせないものはないと言いながらもその燃焼速度は遅い。

 まるで線香のようにじわじわと燃え広がっていくのだ。

 その状況で、尾獣が燃え尽きるまでに被害を受けない、そう判断する要素がない。

 例えるなら、痛覚を無視する丸薬があるなら、天照の炎に焦がされつつもサスケに反撃するものもあるだろう。

 いや、サスケになら良い。

 彼は天才だ、避ける事も出来るだろう。

 しかし、天照の炎を纏ったまま、例えば重吾に抱きついたとしたらどうか。

 炎は重吾に燃え移るだろう。

 そして天照を押さえようとするサスケ、そこに隙は出来ないのか。

 そして尾獣をサスケは甘く見過ぎている。

 あの巨体、燃え尽きるまでに確実にサスケ達は狙われるだろう。

 八尾は言ってしまえば膨大なチャクラの塊だ。

 それがいくらうちはとは言えたった1人の瞳術で倒し切れると思う方が甘い。

 八尾が焦っていたのはあくまで「形代(かたしろ)のキラー・ビー」の命が危険であったが故だ。

 人柱力であるビーの中に八尾は封印されている、つまりは天照で燃えているのは実際の所ビーなのだ。

 それが死んだらどうなるか。

 尾獣の力が完全に解放されるのだ。

 それを押さえ切れると認識しているサスケは甘い。

 人では幻術や封印術などの搦め手でしかどうにか出来ないからこその尾獣、古来から災厄を招く怪物として畏怖されてきたものなのだから。

 暁で唯一尾獣としてとらえる事の出来た三尾・磯撫(いそぶ)ですら、実際の所トビが裏から散々手を回して弱体化させての捕獲であった。

 ましてや八尾はビーと友好関係にあり、ビーは八尾を酷使しなかった。

 つまりはかなりの力を蓄えた状況でサスケ達と戦う可能性があったのだ。

 

 四貫目は眉を顰めてサスケを見ていた。

 危険な兆候だ。

 力に振り回されているようにも見える。

 復讐は構わない。

 そう言った感情に振り回される若者はいつの時代もいた。

 問題はその感情と、サスケの気質が余りにもちぐはぐな事だ。

 サスケは強力な力を持ち、それを制御するだけの才能がある。

 それは四貫目にはないものだ。

 彼の能力はほぼ全て努力で培ったものだ。

 単純な才能でいえば、ただ1つを除いてないに等しい。

 それですら「4貫目(大体15kg)の飯を食い溜め出来る」という忍としてはとんと意味の無い代物だ。

 若いころから必死に鍛え、またそれを人に気取られず、そうしてどんな任務からも「生きて帰る」ことで今の四貫目がある。

 確かにサスケの才能は復讐にも役に立つだろう。

 しかし、サスケの気質、潔癖であり、正々堂々を旨とするサスケの性格はその復讐には邪魔なものだ。

 確かにサスケは強い。

 だがそれだけでこの忍界を生きていけるなら、そもそも四貫目はとうの昔に死んでいる。

 四貫目の戦った者達の中には千手柱間、うちはマダラすらいたのだ。

 本来ならばであった瞬間に殺されかねない超人達。

 彼らから四貫目はその経験と努力によって手に入れた技術で逃げおおせているのだ。

 今のサスケでも、四貫目は殺そうと思えば殺せる。

 それはサスケが弱い訳ではない。

 四貫目が強い訳でもない。

 サスケを観察できる者ならば、それこそ下忍程度の力があればサスケは殺せてしまうのだ。

 それだけの隙が彼にはある。

 それをどうにかしなければ、サスケを戦場に出す訳にはいかんだろう、四貫目はそう考えているのだが。

 

「で、コイツどうすんのよ」

 水月が舌なめずりをしている。

 八尾の人柱力を捕えた後、アジトの周囲を嗅ぎまわっている雲隠れの忍を捕えたは良いが、さてどうするか、という所。

「好きにすればいい」

 そうサスケは言う。

 …ここの長はサスケだ。

 本来であれば捕虜をどう使うか、それを長が決めねばならない所なのだが。

 無論、ここで水月の気分転換に殺させるのもありだろう。

 しかし、それは「部下の気分転換、ガス抜き」という目的を持って長が決めなければならない事だ。

 サスケの言う「好きにしろ」はリーダーとしての思考を放棄しているに等しい。

 故に、四貫目は、

「無駄な殺しだ、生かしておく方が意義がある」

 そう反論した。

 水月は不満そうだ。

「折角戻って来た『首切り包丁』が帰って来たって言うのに…」

 それでもサスケは何も言わない。

「…サスケ、あなたの裁定は?」

 四貫目の言葉に、

「…だから好きにすればいい、オレは知らん」

 そう言いきってしまうサスケ。

 四貫目は溜息をついて、

「まず、ワタシの意見を言おう。

 こいつは幻術で惑乱し、雲隠れの里を混乱させる要因として使うのが良いかと思う。

 どうせこのアジトは遅かれ早かれ見つかるだろう。

 ならば、その後の足取りを掴ませぬように動くのが上策だ」

 そう言う。

 そして反論を待った。

 …なにもない。

 水月は「まあ不満だけどそう言う理由があるんなら」と受け入れ。

 重吾は元より人死には好まない。

 香燐はサスケ次第だ。

 そしてサスケは、

「オレは知らん、と言ったはずだ。

 そうするのであれば術を掛ける」

 それは長の言い分ではないのだが。

 とは言え、それをサスケに言った所で通じる精神状態ではあるまい。

 今のサスケは復讐心とそれを成し遂げることが出来る力を得て舞い上がっている様なものだ。

 部下である自分の声は届くまい。

 落ち着くまでは逆らうのを止めておくべきだ。

 そう四貫目は判断した。

 

 その判断は誰のものか。

 

 更に人形劇は加速する。

 (うら)(つら)みを練り込んで。

 

 

 

「ダンゾウって奴だよ」

「鷹」の前に突如現れたトビ、そして奇妙な衣装を身にまとった白黒の男、ゼツがそう言った。

 ゼツは火影が綱手からダンゾウに戻った旨をトビに伝えてきた。

「ダンゾウ…、火影、だと…?」

 サスケとてダンゾウの名前は知っていた。

 志村ダンゾウ。

 木の葉隠れにおいて裏の組織を纏める男。

 そして木の葉隠れにおいてもう上層部の一角を占めるサスケの敵。

 それが火影に返り咲いた。

「一体木の葉で何があった!?」

 サスケの疑問にトビが答える。

「オレの部下、ペインが木の葉を襲撃した、失敗したようだがな。

 お前もペインも派手にやりすぎたせいでついに五影も動き出したようだ」

 他人事の様にトビがそう言う。

 眉を顰めるサスケ。

「…五影達が」

 さすがに五影及びその配下の忍軍全てを敵に回すのは無謀である事を悟る。

 さらにトビは、

「五影会談が開かれる」

 そう告げた。

 五影会談。

 最強の五大忍里の長が終結する、忍界の最高議会だ。

 そこでサスケの排斥が決まれば、サスケと「鷹」は全ての忍の敵となる。

 それだけの権威を持つ会議なのだ。

 そしてサスケにとって、特に重要な情報がゼツによってもたらされた。

 

「…なるほどねえ、そのナルトってのがペインを1人でやったのか?」

 木の葉隠れの里の襲撃、「第二次木の葉崩し」の顛末をゼツは語った。

「そうだよ、もの凄く強くなってる。

 たぶん今やったらサスケより強いと思うけどね」

 その言葉にサスケは、

「フッ、そんな事はどうでも良い…。

 問題は五影会談だ」

 そう言い切った。

 とは言え、四貫目にはサスケがナルトを気にしている事が見て取れた。

 昨今すっかり見なくなったサスケの鼻で笑うしぐさ。

 眼だけをぎらぎらとさせた復讐以外の感情を切り捨てたような状態から、幾ばくかなりとも感情が動いている。

 それはやはりナルトを意識している証拠なのだろう。

 そこで水月が言った。

「で、どーすんのさ。

 木の葉に行く?

 それともそのダンゾウとか言うのの首を取りに五影会談に乗りこむっての?」

 面倒事を嫌う香燐は水月を睨みつけた。

「え!? な、何!? ボク間違ってる!?」

 こう言う聞き方をするなら、サスケは間違いなく困難な方を選ぶだろう。

 五影会談において各影の居る前で火影を弾劾する。

 それこそが正義だと信じているのだから。

 事実、

「オレ達『鷹』は五影会談で火影の首を取る。 行き先変更だ」

 そうサスケは告げた。

 五影会談へはゼツの半身、向かって左側の「白ゼツ」が案内する事となった。

 

 木々を渡っていくゼツとそれに追随していくサスケら「鷹」の面子。

 それを眺めながら表情を麺の下に隠し、トビは思索していた。

 それに黒ゼツが話しかける。

「ウマクイッタナ」

 それにトビは苦々しく答えた。

「いや、長門にしてもオレの為の輪廻天生(りんねてんせい)の術をあんな風に使うとは思ってもみなかった。

 裏切るとは、な…」

 ペインの操り主であったペイン外道こと輪廻眼の長門はその最後の術「輪廻天生」を最後に使い、木の葉隠れ襲撃で死んだ者達を全て蘇生していた。

 本来であればその術はトビの計画に生かされるはずだったのだが。

 サスケも同じくうまくコントロールできれば長門と同じく外道魔像へリンクさせて上手く使うつもりだ。

 しかしサスケは未だ完全に操れているとは言えない。

 長門が死ぬシナリオはあくまで副次的なものだった。

 うずまきナルトのせいで修正を加えざるを得なくなった計画。

 それにサスケをどう組み込むか。

「ドウスル?

 動クノカ?」

 そうゼツの片割れ、「黒ゼツ」が尋ねる。

 それに対してトビはきっとその仮面の下で愉悦の表情を浮かべているのだろう。

「虎視眈々と行くのはここまでだ…」

 

 さあ、「月の眼計画」を急ぐとしよう。

 

 そう言った。

 

 

 閑話 花鳥風月

 

 どうだ、目の調子は。

 ああ、問題ない、しかし、よくもダンゾウさまが残しておいてくれたものだ。

 そりゃそうだろう、移植は血が近いほど成功しやすい、お前だってそう思ったから弟にくれてやったんだろうが。

 そうだな…。

 まあ、そう落ち込むなって、弟の事はオレたちで何とかするしかないだろう?

 そうだな、それがオレの償いだ。

 それに、意外とアイツが何とかしちまうかもよ。

 うずまきナルト、だな。

 ああ、そう言う事だ。

 …ならば、まずは体調を戻さんとな。

 そうそう、ほれ、お前の好きだった街道沿いの店の団子だ。

 フッ…、すまんな。

 時に、お前名前どうする?

 そうか、今のお前は「メイキョウ」だったな。

 そう、そう言う事だ。

 …ならば、今のオレは「フウゲツ」、「かちょうフウゲツ」とでも名乗るか。

 了解だ、改めてよろしくな、フウゲツ。

 オレもだ、よろしくメイキョウ。




ある意味トビアンチ。

次回から五影会談が始まります。

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