NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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五影会談篇始まります。


第4章 五影会談篇
第89話


 どうも、茶釜ブンブクです。

 いま、僕は火影の執政室に来ている所です。

 今までの経緯を直接報告する為ですね。

 で、僕の前に居るのは六代目火影・千手綱手さま、ではなく。

「さて、報告をせい、ブンブク」

 志村ダンゾウさまの前にいるのです。

 と言うのも、今綱手さまはペインさんとの戦いの中、力を使い果たして入院中なのです。

「百豪の術」によって綱手さまの体にはあの干柿鬼鮫さんを超えるチャクラが蓄えられていた筈ですが、それすら空になってしまっていたとの事。

 ダンゾウさまの周囲の護衛の方々も、無事な方はほとんどいらっしゃいません。

 みんな大なり小なり傷を負ってます。

 

 さて、僕が報告を終えると、

「そうか、自来也は蝦蟇の里か…」

 ダンゾウさまがそう呟きました。

「本音を言えば、6代目を支える人材として鍛え直す気であったのだが。

 さすがにあの世代は消耗が激しい。

 それとも、アスマを鍛えるほうが早いか…」

 まあそのうちに自来也さまなら復帰してくると思いますよ。

 …間に合うかどうかはさておき。

「…おそらくそう時の経たぬ内に次の動きがあるだろう。

 こと、尾獣の力を使った何か、と言うのが気になる所だ。

 トルネからの報告にもあった強力な忍びと言うのも気になる…」

 まだまだ「暁」には出玉が多い様で。

 そうなると、やっぱり雨隠れの里からの情報はどうしても必要、と。

「ふん、そうなるな」

 で、やっぱり連絡係は僕、と。

「その通りだ。

 故に、だ」

 …なんでしょうか?

「貴様に上忍の資格を与える。

 これ以上に励め」

 …は?

「…僕下忍なんですけど」

 うん。

 前回中忍試験に出られなかった僕は、未だ下忍の立場なのですよ。

 ですから、中忍になっていない僕は上忍になれる筈もないんですが。

「馬鹿者。

 中忍からしか上忍になれぬと誰が決めたのだ?」

 へ、いや、でも…。

 うーむ、そう言う事なのだろうか。

「まあ、中忍は中忍試験を抜けないとなれないけれど、上忍はそうではない。

 極端な話、下忍にならなくてすら上忍となる実力があればいい、そう言う事なんでしょうか」

 ダンゾウさまは眼だけで肯定を表しました。

「そもそも、里の主戦力たる上忍の数を他の里に把握できるような機構(システム)にしておく訳がなかろう。

 あくまで中忍試験は他の里への示威行為、そして国に対する実績作り(パフォーマンス)に過ぎん」

 ま、そうですよね。

 上忍、特別上忍の数って里の戦力に直結してましたからね、かつては。

「ほう、かつて、か…」

 ええ。

 今回の事で準忍者資格が有効な事がはっきりしましたしね。

 ただの戦力としてだけでなく、様々な場面で僕たち忍が有効であることを証明できたんですから。

「ふん、言うようになった…」

 そう言いながらもダンゾウさまは満足そうです。

 でもそうか、上忍かあ…。

 負担が大きくなりそうだなあ…。

「安心せい」

 ダンゾウさまがそう言います。

 ! と言う事はお仕事が楽に…。

「しっかり給金は出してやる。

 その分働けい」

 あっはいそうですよね、ええ分かってましたとも。

 あ、その前に経費払ってください。

 今回いろいろ使いすぎて苦しいんです。

「いかほどだ?」

 大体…位ですが。

 あ、ダンゾウさまの眉がしかめられた。

 

 その後、僕は里から離れていた間の話を聞く事になった。

 左近さんたちが「暁」のデイダラさんを撃破した事とか、うちは兄ちゃんがうちはイタチさんを倒して本懐を遂げたとか。

 特に重要だったのは、

「八尾の人柱力が『暁のうちはサスケ』に仕留められた」

 と言う事。

 …は?

 僕の最初の感想です。

 あり得ない。

 そう思ってしまいました。

 少なくとも僕の知ってる範囲では、うちは兄ちゃんが1対1だと絶対に無理と言いきれます。

 八尾の人柱力ってビーさんなんだよね。

 あの人、正面切っての戦いが得意なのに、更に小技裏技にも精通、そして八尾さんの力をかなり引き出せる人なんだよね。

 というか、八尾さんが気に入って力を貸してる、今の世界においては稀有な人であると言って良い。

 正直言ってうずまき兄ちゃん一度あの人に弟子入りして、九尾さんと仲良くなる秘訣を教わった方が良いんじゃないかと思うくらい。

 …どうも僕は九尾さん苦手なんだけどね。

 それはさておき。

 うちは兄ちゃんがビーさんと戦った場合。

 …真っ向勝負を挑んでぶちのめされる。

 …小技を活用して、…ないな。

 …仲間の連携を、…残念だけど即席じゃ逆に連携の隙を突かれて()される。

 …一発逆転のうちはの秘技、これが一番なりそうだけど。

「う~ん…」

 僕は首を捻った。

 確かにうちはの秘術なら、とは思う。

 でも、それを使うなら、多分一撃必殺、そう、「必殺」であると思うんだよね。

 ビーさんて兄ちゃんが殺しにかかって何とか勝負になるんじゃないか、ってくらい強い。

 それはつまり、「万全状態のビーさんを殺して、その上でチャクラの衰えていない八尾さんを捕える」って離れ業をしなきゃなんないって事。

 実質上ボス戦2連発。

 うずまき兄ちゃんみたいなスタミナの塊ならばともかく、うちは兄ちゃんでは体力が尽きそうだ。

 また、周囲で八尾さんが暴走したって情報もないらしい、となればビーさんが兄ちゃんに殺されたのではなく、捕えられたってことなんだろう。

 だから、正直言って信じられない。

「それ、確定情報なんですか?」

 僕がそう聞くと、

「雲隠れの忍が直接サスケからそう聞いているそうだ」

 …嘘くさい。

 と言うか、

「敵へのフェイク、まず味方からフェイク♪

 情報のシェイク、それ敵のウィーク♪」

 とか言いそうなあの人だからなあ。

 少なくとも自分が死ぬ前に八尾さんは逃がしていそうだ。

 …なんかまたひと波乱ありそうだなあ。

 

 僕は一旦家に帰るためにダンゾウさまの前を辞した。

 ダンゾウさまは一時的に五代目火影として復帰し、里を纏めるんだそうだ。

 緊急事態として「根」の長官と兼任で。

 正直言って不満の様です。

 表と裏の長の兼任は、まあ碌な事が起きないだろう事は予想がつくね。

 ただでさえ、「根」は評判悪いし、実際必要悪として碌でもない事はしているからね。

 今回は「悪役」としてこの際だから色々とダンゾウさまがひっかぶることで木の葉隠れの里に有利な政治状況に持っていってしまおう、と考えているようでした。

 …最悪、僕たちがダンゾウさまの断罪をしなくちゃいけないのだろうか。

 正直気が重いです。

 早い所綱手さまが復帰してくれないかしらん。

 そう考えていた時です。

 ごすん、ごすん。

 ?

 なんの音でしょうか?

 そう思って覗いてみると、

 雲隠れの里のカルイさんがうずまき兄ちゃんをぼこってる所でした。

 …これはまずい。

「ちょ、ちょっとストップ!!」

 僕はその場に乱入したのです。

 

 うわ、派手にやったなあ…。

 サイさんが止めに入って無かったら、もっとひどい事になってたんじゃないだろうか。

 それが僕の感想。

「止めんな狸!

 いくらやってもウチらの気は晴れねえ!

 サスケの事を言うまで永遠に続ける!!」

 オモイさんに止められながらそうカルイさんが言ってます。

 カルイさんは普段はホントに軽くて、同時に明るい人だ。

 それがこんな鬼気迫る表情をしてるってのは、ちょっときついなあ。

「それでも止めますよ!

 このまんまじゃ木の葉と雲の抗争にまで行っちゃいかねないんですって!」

 そう、今の兄ちゃんは里の英雄になっちゃってる。

 それを「私怨」でぼこぼこにしちゃったら、後々こじれるのが目に見えている。

 それに、だ。

「カルイさん、自分の手を見て下さいって!」

 カルイさんの手は少しずつ腫れあがってきている。

 感情に任せて拳骨を固めてパンチを打っていた為に、無理な力が加わって拳の骨を痛めているんだ。

 このまま拳骨を打ち込んでいると、兄ちゃんの前にカルイさんの拳骨が壊れちゃう。

 オモイさんはその辺りを見越して止めに入ったんだろう。

 ちらりとオモイさんを見ると、首をちょっと動かして首肯していた。

 分かってるなあ。

 時々とんでもない方向へと思考がすっ飛ぶ癖はあるものの、オモイさんはカルイさんを押さえる事の出来る優秀な相棒だ。

 この人たちと上忍のサムイさんはとってもいいチームだったから良く覚えてるんだ。

 そう言っていると、

「オモイ、カルイ、情報収集はどんな感じ?」

 サムイさんの登場だ。

 サムイさんは雲隠れの上忍で、いつも冷静な判断を下す、忍の鏡のような人。

 上忍としてダンゾウさまと会見して来たんだろう。

 どうやら独断でうずまき兄ちゃんをぼこったカルイさんを咎めている様子です。

「それにだ、うずまきナルトからよりは茶釜ブンブク、お前から話を聞くと良いと火影殿が言っていたしな」

 まあ、そうでしょうねえ。

「? どう言う事、だってばよ…?」

 兄ちゃん、まだ話す気力があるのね、相変わらずタフだなあ。

「ちょっと待ってね」

 僕は周囲を見回すと、「根」の構成員(どうりょう)を探した。

 あ、発見、と言うか姿を見せてくれている。

 彼は仮面越ししながら、首を首肯してダンゾウさまからの許可を伝えてくれていた。

「まあ、僕のここしばらくの任務って、『音隠れの里』への潜入だったから。

 だから、う、ちはサスケさんの情報はそれなりに持ってるよ?」

 危ない危ない、「うちは兄ちゃん」なぞと言ったらカルイさんにサンドバッグにされてしまう。

「…へえ、じゃあアンタがうちはサスケの情報を寄こすってのかい?」

 カルイさんが僕を睨みつけてくる。

 普段軽い人がこうも本気で睨んでくるんだ、本当にカルイさんはビーさんを尊敬していたんだろう。

 ボクはひょいと肩をすくめると、

「そこいら辺は上の判断です。

 上が話して良い、と判断するなら話しますよ。

 サスケさんの情報は木の葉隠れの里としても最重要機密の1つなんですから」

 何と言っても今生きているのが分かっている写輪眼、しかもその上位である万華鏡写輪眼持ちの唯一の人なんですから。

 しかもそれだけじゃなく、イタチさんを仕留めたって事は、そのイタチさんの目、「万華鏡写輪眼」を入手している可能性すらある訳で。

 忍であれば誰でもその命を狙うであろう人であり、彼を仕留める事が出来れば忍界3大瞳術の1つを手に入れられるんですからね。

「さすがに今回は下手な交渉をすると冗談抜きで木の葉対雲の戦争になるでしょうね。

 写輪眼()()()が木の葉の里から流出する事になれば、ですが」

 この言葉で上忍であるサムイさんの表情がピクリと動いた。

 嘗て雲隠れの里では3大瞳術の1つ、「白眼」を手に入れる為に当時同盟を組んだばかりの木の葉隠れの里に言いがかりに近い形で日向の忍の死体の引き渡しをさせた事がある。

 日向ネジさんのお父上である日向ヒザシさんだ。

 当初日向の当主の首を、という話だったんだけど、その罪を引っ被ったのがヒザシさんだったとの事だ。

 ヒザシさんの遺体は雲隠れの里に引き渡されたんだけど、当然その目は死んだ際に分家の人たちに刻まれている「日向の呪印」によって使用不可能な状態になっていたし、向こうはばれてないと思っているだろうけどその遺体が角都さんによって強奪されている事もこっちでは掴んでいる。

 ちなみに元ヒザシさん、現化け狸の卍丸さんに関しては僕は日向家に報告を入れていない。

 卍丸さんは「私は死んだものです、私が存在しているのは生きているもの達の負担にしかならない」と言って、日向に自分の事を伝えないよう僕に頼んできました。

 化け狸として十分な実力を付けるまではこのままにしておいて欲しいんだそうで、僕もその意向を組んだ訳です。

 それはともかく。

 その辺りの事情をちょこっと加えた形でサムイさんにジャブをかましてみた訳です。

 まあ、「うちのボスがオッケイ出すなら話してやんよ」って感じです。

 兄ちゃんは不審な顔をしてますね、結構ブラックで裏話的なものですからして。

「兄ちゃん、なんなら後から説明するよ。

 結構ごちゃごちゃしためんどくさい話だけど」

 あ、兄ちゃん顔しかめた。

 これは聞いてこないな。

 これはもう終わった事。

 木の葉にとっても、雲にとっても。

 そして多分日向ネジさんにとっても。

 兄ちゃんと戦った3年前、ネジさんにとってはその事はきちんと自分の中で整理ができた事なんだと話してもらった事がある。

 兄ちゃんと接触した事が、ネジさんにとっては良かったのだろう。

 詳しく話したとして、ここから兄ちゃんがどうこう出来る話じゃないんだし。

 それよりはウチは兄ちゃんの話だ。

「…ならば、これよりの話は火影殿を交えて、という事だな」

 そう言う事です。

「…おい、ブンブク。

 大丈夫なのか?」

 そう兄ちゃんが言ってきますけど、それよりも、です。

「兄ちゃんはまず、治療受けてきなよ。

 あと、カルイさんも」

 全く拳で語る人たちはこれだから。

 もうちょっと自分の体を大事にしてほしいもんです。

 

 カモくんを呼び出してダンゾウさまへの先触れをお願いします。

 何せ今現火影の綱手さまはチャクラ切れで入院中なので、ダンゾウさまがその代理をなさっている、もの凄く忙しい立場なんですから。

 …という形にしておいて、カモくんを媒介にダンゾウさまと協議。

 雲隠れの人たちに話して良い事と悪い事を確認しておかないとね。

 木の葉隠れの里には写輪眼、白眼があり、つい先だっては輪廻眼を持つ人と戦った訳です。

 つまり、忍界における3大瞳術の情報が集まってる訳ですね。

 これって忍にとっては結構重要でして。

 いざ敵対した時には相手の情報があるっていうのが有利なのは言うまでもなく、味方になっても情報があるとないとじゃその活用に大きな差が出ます。

 そもそも輪廻眼なんて伝説と言われていたものが存在する、その情報だけでも忍術の研究には意味のある事なんですから。

 …後から大蛇丸さんあたり根掘り葉掘り聞いてくるんだろうなあ。

 それはさておき、どうやらダンゾウさまはかなりの譲歩を雲隠れから既に引き出している様子。

 僕の持っている程度の情報であれば公開して良い、との事でした。

 それならば、という事で、火影の執政室に。

 

 その中では「外交」が行われました。

「サムイ殿、うちの里の者が何やら非礼を働いたようですな」

「!」

「誰とは聞いておりませんが、そちらの部下の方に手ひどくあしらわれたとか」

「…」

「…あう」

(カルイがナルトをブン殴った事で木の葉との関係がこじれて、それで戦争が起きて最前線に送られて、サムイの婚期が遅れたのをオレのせいにされたらどうしよう…)

 なんか、サムイさんの鉄面皮がカルイさんとオモイさんの百面相で無駄になっちゃってます。

 どうやらこの戦い(こうしょう)はうちの勝ちの様です。

 

 いろいろとふっかけたダンゾウさま、で、サムイさんはその案件を雲隠れに持ち帰るという事で話は付きました。

 それで、今度はこちらの情報提供、と。

「うちはサスケの事ならば、こ奴が一番詳しかろう。

 ブンブク、雲隠れの方々に話して差し上げよ」

「はい。

 お見知りな方もいらっしゃいますでしょうが、改めてご挨拶させていただきます。

 木の葉隠れの里の『上忍』茶釜ブンブクです」

 …あれ?

 あれ? 突っ込みは?

「いつの間に上忍になったんだよ!」って突っ込みがないです。

 動きの止まった僕を見て、サムイさんが首を傾げます。

「どうかしたのかしら、ブンブク君。

 何かおかしかったのかしら…」

 いえ何でもないっす。

「あれ? そういやブンブクって下忍じゃなかったっけ?」

「ああ、そう言えば」

「やっと昇進したんですか、ブンブク君おめでとう御座います。

 これからさらにこき使われるんですね、過労死しないように」

 …へこむ。

 

 さて、ここでうちは兄ちゃんことサスケさんに関する情報を整理しよう。

 戦闘能力は木の葉隠れの中ではトップクラス。

 体術、忍術、幻術と高いランクで粒がそろってます。

 体術で言うならはたけカカシ上忍とほぼ五分、幻術ならばうちはイタチさんの居ない今なら確実にナンバーワン。

 忍術に関しても写輪眼による補正を除いたとしても暗部の精鋭の平均以上、写輪眼の解析能力を含めればやはりトップクラス。

 という感じで隙がない。

 諸元(スペック)的には。

 というのも、兄ちゃんはとにかくぶれる。

 精神的に脆いのか、それとも他に原因があるのか。

 元々の学習能力はケタ違いで、必要な事はバンバン取り込んでいく。

 でも、人間的成長、って言うのかな、そう言うのがある時を境にリセットされている気がするんだ。

 僕の覚えている中だと、木の葉隠れを里抜けした後とか。

 後は、その、僕を殺した、と思ったその後とか。

 見た目クールに見えるけど、その実はうずまき兄ちゃんとどっこいの感情型。

 本来だったら見た目通りの冷静沈着な人に育ったのかもしれないけど、どこか子どもっぽい癇癪を抱えたような歪な成長をした人だ。

 故に、本来の性能(スペック)を引き出せていない。

 戦う人間には2種類いると思う。

 感性で戦う人間と理性で戦う人間だ。

 完全にどっちかによる人はいないから、どちら寄りかってことなんだけど。

 特に感性に寄ってるのがうずまき兄ちゃん。

 で、うちは兄ちゃんは理性にかなり寄っている。

 それがどう言う事か、というと、癇癪を起して視界が狭くなっている兄ちゃんは、その実力を完全に発揮できていないだろう、という事。

 それが出来ているのならビーさんとてどうなるか。

 でも、イタチさんを倒した、つまりは殺したのであろうその後であれば、おそらく兄ちゃんの精神状態はかなり不安定なはず。

 本願を成就したのなら、木の葉隠れか音隠れに戻っていてもおかしくはないのに、その足で尾獣の人柱力と戦いに行っているのであれば、正直安定してるとは思えないんだよね。 

 正直、人柱力と戦うメリットがどこにあるのか。

 可能性として「暁」にスカウトされたって考えがあるけど、暁の理念と兄ちゃんの考えって全然噛み合わないと思うんだよね。

 あの人、妙に清廉潔白な所があるから。

 暁のやってる事は、大蛇丸さんのやってる事と方向性は違えども、その外道性は対して変わんないしね。

 とは言え、そうでなかったら人柱力を狙う意味が分からない。

 まさかとは思うけど、うずまき兄ちゃんと戦う為の訓練とか言わないだろうなあ。

 今ならまだまだビーさんの方が兄ちゃんより強いし。

 ともあれ。

 うちは兄ちゃんは都の格真っ向勝負を好む。

 忍なんだけどね。

 忍びの戦いは剣を交える戦いとは違う。

 搦めて搦めて一撃必殺。

 術を相手に見られる前に仕留める、が基本なんだけど、うちは兄ちゃん、まあうずまき兄ちゃんも一緒なんだけど、まるでお侍さんの様に真っ向勝負を好む。

 まあ確かに心理戦とか交えると不利になるのは目に見えてるけどね。

 それでも相手からの小細工とかは音隠れで訓練した成果なのか、はたまた元々の優秀さなのか、結構あっさり見抜くようになってるし、相手を真っ向勝負に引き込むのはとっても得意になってる。

 故に、だ。

「うちはサスケさんを倒すには、純粋に技量で上回る必要があるかと思われます」

 僕はサムイさんたちへのプレゼンをそう纏めた。

 

 サムイさんたちにうちは兄ちゃんの事を話す際に、若干時間を貰って大急ぎでプレゼン用の資料を造ったんだけど、結構うまく行った。

 お手伝いいただいた暗部の皆さんに感謝です。

 さて、サムイさんたちの質疑応答と行きますかね。

「…ブンブク、君の話を総合すると、キラービー様は無事である可能性が高い、という事になるのだが」

「まあそう考えて良いかと思ってます」

「では何故ビー様は姿を現さないのだろうか?

 こちらとしてはビー様の無事を確認しない以上、サスケを追い詰める事は止めないつもりなのだが」

 …でしょうね。

 それに関しては僕は何も言えません。

 本音を言えば、もう一度うちは兄ちゃんに会って話をしてみたいのですけど。

 ただそれをすると更に不安定になりそうなんだよなあ、兄ちゃん。

 ビーさんとやりあってからまたチームで行動してるみたいだから「暁」に降った訳じゃなさそうなんだけど、とにかくその行動が読めない。

 迷走しているようにも見えるし、何らかの目的があるのかもしれないし。

 だからと言って、

「それは構いませんが、果たして追い詰めることができるのか、という事です。

 むやみに突っかかって死人を大量に出すだけになる可能性を考えた方がいいと思いますよ」

 その時、空気がさっと冷え込んだ。

 サムイさん、カルイさん、オモイさんからかなり濃厚な殺気が噴出してきます。

「それは私達ではうちはサスケを討ち取る事が出来ない、という事ですか?」

「その通り。

 今の雲隠れにおいて、正面切ってサスケさんを仕留められるのは雲隠れのユギトさん、ビーさんが居ない今、雷影さま以外に居ないでしょう。

 そして雷影さまに出てもらう訳にもいかない。

 今、サスケさんは最強級の瞳術を手に入れてます。

 万一にもあの『黒い炎』を受けてしまったら雷影さまでも危険ですから。

 一方皆さんで襲撃したとしても現在の4人1組(フォーマンセル)で奇襲するとしても返り討ちですね。

 多分、大規模な部隊を編成して対策本部を設置し、相手の消耗を強いる形で少しずつ体力を削っていかないとしんどいかと。

 フォーマンセルを大規模戦術なしにいくらぶつけても犠牲者が増えるだけでしょう。

 皆さん忘れていますけど、今あなた方が狙っているのは『キラービーを倒した忍』であるうちはサスケさんなんですよね。

 ならば、ビーさんを倒せるだけの陣営を整えられないのであれば無駄死にになるかと思います」

 僕はそう言い切った。

 …サムイさんが思案を始めた。

 どうやらサムイさんもビーさんが討ち取られた、という事に動揺していたらしい。

 僕程度が気が付くことをスポン、とすっ飛ばしていたのだから。

「…陣容が整うまでは下手にうちはサスケの関わらない方がよさそうですね。

 キラービー様は雲隠れの里中で慕われていました。

 …ワタシは冷静なつもりでしたが、予想以上に動揺していたようです。

 こんな有様ではビー様の仇を討つなど夢のまた夢でしょうね。

 ワタシはこれでも人よりは冷静なつもりでした。

 他の者達がどれだけ動揺しているか、それが理解できたように思います。

 確かにこのまま事に当たれば犠牲者が出るだけかも知れません。

 …腰を据えて当たる必要がありますね」

 そうして下さい。

 僕の心情としてはうちは兄ちゃんが討ち取られるのもきついんですけど、同時に兄ちゃんが僕の見知った人たちを殺す、というのも痛いんですよね。

 カルイさんとオモイさんだとほぼ勝ち目がない様に思いますし、とは言え会えば確実に兄ちゃんを殺しにかかるでしょうし。

 

「…では火影殿、確かに『うちはサスケ抹殺許可』お伺い致しました。

 その他の案件は雲隠れの里に持ち帰り、検討した後にご返答いたします」

「承知。

 暫し後にそちらに使いを出そう。

 雷影殿に宜しく伝えてくれい」

 会談は終了しました。

 ふう、これでやっとの事で休みが取れる、というもの。

「ブンブク」

「はっ!」

「3日後に雲隠れに飛んでもらう。

 それまで体を休ませておけ、お前の上忍としての初任務だ」

 そう、それは僕にとっての上忍初任務。

 …弱ったなあ、今まで「伝令の下忍だから」って逃げが使えてたんだけどなあ、今後それが使えないんだよね。

 本格的に「政治」に首を突っ込む羽目になるのでしょうかね、はあ…。

 しかも他の方々も優秀なんだけど、よりによって「雷親父」の雷影さまがしょっぱなかあ。

 あの方、どうも最初の出会いがなんだったのでどうも僕は苦手意識があるんですよねえ。

 …あんときはビーさんと一緒に拳骨貰ったんだっけ。

 無事でいてくれると良いなあ、ビーさん。

 僕は政治とか利害関係一切ぬきでビーさんの無事を祈るのでした。

 

 

 

 閑話

 

 どことも知れない場所、いや、()()ですらない場所。

 その存在は嘗ての己が残したモノ、それを通じて世界に接触した。

 そして知った。

 世を騒がすものがある事を。

 まどろみから目覚めつつある自分を。

 そして己が子ども達、その生まれ変わりたる者達に悪意あるモノが接触している事を。

「何と言う事よ…、彼の者達、今だ滅びずか。

 この状況に動けぬは己が不徳か、あな悔しや…。

 奴ら、許されぬぞ、『介入者』、そして、『監視者』よ…」

 その存在は、あるのであれば途轍もなく厳しい目をしていたであろう。

 虚空を睨みつける者。

 その光景を()()()()者が居たならば驚いたであろう。

 その存在には、2本の短い角が存在していた。


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