NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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あけましておめでとうございます。
今後とも黒羆屋及び狐狸忍法帖をよろしくお願いいたします。
さて、これにてペイン襲来編終了でございます。
分量が普段の1.5倍ほどになっております。

次回以降は五影会談編を執筆いたします。

その前に、短編をいくつか書くかもしれませんが。


第88話 ペイン襲来 後篇

 ペイン襲来 木の葉忍軍奮戦

 

 民間人の避難は進んでいた。

 だが、だからと言って被害者が出ないという訳ではない。

 ペイン畜生道の召喚した大量の巨大口寄せ動物。

 既に通常の動物と言っていいのかどうかも分からない奇怪な生き物が里を蹂躙しようとする。

 

「しゃーんなろーっ!」

 気合の入った掛け声とともに、巨大な百足状の生き物に春野サクラの拳が叩きこまれる。

 彼女の腕力そのものはそう強いものではない。

 しかし、そう多くはないがチャクラの込められた拳、そしてチャクラの効率的な運用を得意とするサクラによって、打突の瞬間に解放されるチャクラの破壊力。

 それらが合わさり、大百足は弾け飛び、宙に浮いた後に土煙を上げて地面に叩きつけられる。

 百足の襲来時に怪我をした人達を治療しながら、サクラはこんな時にうずまきナルトがいてくれたら、と思う。

 なんだかんだと言って、サクラはナルトを信頼の置ける相棒として見ていた。

 とは言え、ここで泣きごとを言っても始まらない、どころか下手をすると自分を含めた里が終わる。

 サクラはぱーんと自分の頬を張り、気合を入れて里の人たちの誘導をおこなっていった。

 

「うっし、さすがサクラおっかねえ…」

 そう感想を漏らすのは犬塚キバ、その影分身。

 さすがに一撃では巨大な百足を撲殺する事は出来ず、百足は衝撃から立ち直ろうともがいている。

 それにキバは手に持っていた袋を投げつけた。

 袋はオオムカデの足に引っ掛かり、簡単に破れる。

「おし、任務完了っと」

 キバの影分身はボフン! という煙と共に消え去った。

 

 キバの影分身は別の所にも表れていた。

「おいおいマジかよ…」

 それは正に、

「螺旋丸!!」

 木の葉隠れの里の次代を担うであろう猿飛一族の少年、猿飛木の葉丸が多重影分身を以って超高難度の術である「螺旋丸」を練り、ペイン地獄道へと叩きつけた所だった。

「アイツもかなりの実力者だったんだけどよお…」

 それを不意を突く事ができたとはいえ、ただ一撃で沈めてのけた木の葉丸。

 着実に木の葉隠れの次の黄金期は迫っているのだろう。

「里の名を授かった猿飛一族の下忍!

 姓は猿飛!! 名は木の葉丸!!

 覚えとけ コレェ!!」

 木の葉丸はそう咆哮し(ほえ)た。

 

「おい、大したもんだな、木の葉丸!!」

「あ、キバさんだ。

 オレやったぜ、コレ!!」

 ドヤ顔をする木の葉丸に苦笑を浮かべるキバ。

 キバは持っていた袋をペイン地獄道に投げると、

「ま、一応な。

 さてっと、木の葉丸、みんなを回収して一旦避難すんぞ。

 もうちょっとするとこのあたりに大物が集結するかんな」

 そう言った。

 キバは魂を抜かれて死んでいる木の葉の忍達を封印術の巻物に封印し、倒れていたエビスに肩を貸した。

「ほれ、掴まんな」

「あ、ああ、感謝する…」

 呆然としているエビス。

「なんだよ、アンタの生徒が大金星だぜ、少しは喜んだらどうだよ」

 茶化すように言うキバ。

 それに、

「…いえ、彼は自分自身で強くなったんです。

 そうしたのは、多分ナルト君の影響でしょう。

 私の教えなんて些細なものですよ」

 そう悔しそうに、しかし、嬉しそうにエビスは言った。

 エビスは木の葉丸がナルトの背を追いかけていた事を知っていた。

 それ故に、彼は彼とナルトの同じ点、違う点を折を見て教え込んでいた。

 ナルトの真似は普通の忍びにはできない。

 しかし、同時にナルトは非常に論理的な行動が苦手だ。

 一方木の葉丸は感情的なようでいて理論的な理解も苦手ではなかった。

 その為、多重影分身におけるチャクラの運用や、螺旋丸を形成する際のチャクラの動かし方などをエビスは研究した。

 彼は論理一辺倒である自分を知っており、また、己の才能の限界も知っていた。

 その分析能力を以って、彼は「木の葉丸が使う影分身、螺旋丸の効率化」を研究分析していったのだ。

 そしてそれはこの一戦で花開いた。

 エビスは木の葉丸という最高の素材、そして最高の意志を持つ忍をプロデュースしたと言えよう。

「…そうかよ、でもな、それでもあんたは凄いとオレは思うぜ」

 キバの影分身はそう言うと、エビス、木の葉丸と共にその場から離れていった。

 

 

 

 火影宅、木の葉隠れの里の最高決定機関の住まう場所は襲撃を受けようとしていた。

 ペイン天道、そしてペイン畜生道の口寄せ動物達が、火影の屋敷に迫っていた。

 この時、ペイン天道と単独で戦っていたはたけカカシは火影から一定以上疲労したなら撤退するよう命を受けていた。

 本音を言えば倒してしまいたいところであったが、ペイン天道、更には追加でやって来たペイン修羅道との戦いで予想以上に消耗していた。

 仕方なしに、カカシは「天道・神羅天征」を受けた所でその斥力によって生じた場を足場とし、大きく後方に飛んで撤退していたのである。

 カカシという障害が無くなったペイン天道はナルトの行方を確実に知っているであろう火影の館へと足を向けた。

 そしてそれに突き従うのは修羅道ら残りのペイン達。

 千手綱手に危機が迫っていた。

 

「くそがあぁっ!

 なんでウチは逃げなきゃなんねえんだよォっ!」

「文句言わないでください。

 今回の防衛線の鍵は貴方とボク、そして油女一族に掛かってるんですから」

 不満を隠そうともしない童多由也に、ドス・キヌタはなだめるように言った。 

「さ、綱手様達が時間を稼いでくれている間に皆さんと合流しますよ」

 ぐちぐちとまだ続けている多由也をなんとかなだめながら、キヌタは合流ポイントへと急いだ。

 

 妙木山のコウスケは、蝦蟇仙人のフカサクの命によって火影の執政室にとどまっていた。

 火影たる綱手の要請によってナルトを呼びに里へ帰るのがその使命。

 綱手からナルトの呼び返しを指示されたコウスケは、今しも妙木山へと帰ろうとしていた。

 その背後に立つのは志村ダンゾウ。

 手に持った仕込み杖から忍刀を引き出し、その刃がギラリと光った。

 

 

 

 その頃、シズネは危機に陥っていた。

 分析班からの説明を受け、一通りの調査が完了したという事で彼らの撤収を護衛していた。

 分析班の忍は確かに有力な者達であるが、同時に戦闘能力は低い。

 分析に長け、且つ戦闘能力も高い者は山中イノイチ、イノ親子くらいのものであろうか。

 山中親子がフォローしきれない部分をシズネがカバーしているのだが。

「くっ!」

 最悪の状況だ。

 ペインの1体、ペイン人間道と鉢合わせしてしまったのである。

 情報では頭部への接触で相手を即死させるとのことだ。

 掴まれればまずい。

 とはいえ、

「私の専門は『毒』なんですよね…」

 そう、シズネの攻撃手段は毒を伴うもの。

 毒矢、毒の霧などである。

 それは呼吸をしない死体であるペインとの相性が最悪であることを示していた。

「精々使えて『溶解毒』くらいしかないかな…」

 分析班の2名を背後に庇いながら、シズネと護衛の暗部の戦いが始まった。

 

「うあっ!」

 シズネは暗器を中心に戦いを進めていた。

 しかし、単純な体術勝負ではペイン人間道の方がはるかに上手(うわて)であった。

 シズネの暗器は全て回避されるか受け流されるか。

 特に、一撃必殺の溶解毒を仕込んだ千本はかすりもしない。

 それを実力確かな暗部の精鋭の攻撃を捌きつつペイン人間道は行っているのだ。

 ならば、と近接戦を挑み、チャクラメスで内部を切断しようとしても、相手は死人。

 通常の人間のチャクラの流れが違う為かその組織そのものが人間のものと違うのか、チャクラメスでの切断がうまくいかない。

 そして、

「げふっ!」

 腹部に蹴りを入れられ、とうとうペイン人間道に捕まってしまう。

 力が入らない。

 シズネはペイン人間道の腕1本で宙吊りにされてしまった。

 

 その光景を見ていて、ペイン人間道に突貫したモノがいた。

「ぷぎいぃっ!」

 シズネのペットであるトントンだ。

 ご主人の危機、それにいち早く反応したトントンは、ペイン人間道に体当たりを敢行した。

「ぶぎいいぃっ!」

 しかし。

 ぺんっ。

 トントンの体当たりは元々対ブンブク用の「弁慶の泣き所アタック」である。

 つまりは、痛覚の無いペインには効かない。

 あっさりと蹴っ飛ばされて転がるトントン。

 しかし彼は諦めない。

 即座に起き上がると突貫を再開する。

「ふっ、無駄な事…、 !!」

 鼻で笑い、けりをくれようとするペイン人間道であったが。

 

 ごっ!!

 

 とてつもない質量に、弾き飛ばされ、シズネを手放した。

 慌てて彼女を受け止める暗部の者。

 何が起こった?

 暗部の上忍は見ていた。

 シズネのペットであったトントンが巨大化し、猪頭の獣人へと変化するのを。

 

 トントンは猪神の里で鎮西の乙事主という巨大な猪神の師事を受けていた。

 彼から教わったのは保有チャクラの増強、身体強化であった。

 シズネは正面切って戦うタイプではない。

 ならば、とトントンは彼女の盾になる戦い方を学んでいたのだ。

 それが、今のトントンの姿。

 彼は変化の術により、長大な牙を持つ猪頭人身の妖魔へと姿を変えていた。

 

 弾き飛ばされたペイン人間道が空中でくるりと回転し、地面へと降り立とうとする。

 ここが攻め時。 

 トントンは数少ない攻撃法のうち、最も威力の高いものを選び、そしてペイン人間道にぶちかました。

 ペイン人間道が地面を踏む、その直前。

 どうしてもバランスを取ろうと意識がそちらに向く、その瞬間を狙って、トントンが突進した。

「!」

 今のトントンの全体重を乗せた体当たり、それを猪の頭部から繰りだして、

 ごっ!!

 今度は、ただ弾け飛ぶだけでは済まなかった。

 ペイン人間道にぶつかった瞬間、トントンは体全体を使い、ペインにその長大な牙を引っ掛け、相手を高々と上方に吹き飛ばしたのだ。

 更に、牙を引っ掛ける事でただ上に吹き飛ばすのではなく、強烈なスピンを掛けて。

 それで終わりではなかった。

 ご存知であろうか、猪とは存外器用なもので、猪突猛進、などではなく華麗にステップを踏み、猛スピードで走っている時でも方向転換をしてのける、という事を。

 トントンは、ぎゅん! という擬音さえ入りそうなほどに急速なターンをし、更にペイン人間道に捻りを加えた体当たりを加えていく。

 ごっ!

 1回、

 ごっ!!

 2回、

 ごがっ!!

 3回とぶちかます度にぎゅりぎゅりと回転が鋭く、強烈になっていく。

 この回転のまま地面に叩きつけられようものならペインとて無事ではいられまい。

 しかし。

 とどめとばかりに最後のぶちかましを敢行するべく突進したトントン。

 その鋭い牙が、がっちりと掴まれた。

「ペインに対して大したものだ、子豚。

 しかし、今1歩ペインには届かない」

 その左手でトントンの牙を掴み、それだけで完全に体に掛かっていたスピンを止めたペイン人間道。

 残った右手がトントンの頭に伸びる。

 ペイン人間道は相手の頭部を掴む事により、その記憶を除き見ることが可能だ。

 同じような事は山中一族でも可能であるが、その速度は桁が違う。

 人間の記憶というごちゃごちゃした情報の塊から、1秒もかからず必要な情報を見つけ出す。

 その上で相手のチャクラを引き抜き、即死させるのだ。

 トントンの様なチャクラの影響を色濃く受けた生き物も同様。

 絶体絶命のその時、トントンは。

 

 変化を解いた。

 

 ただの子豚に戻ったトントン。

 もちろん牙などはないし、サイズも通常の枕サイズだ。

 いきなり足場(手だが)の無くなったペインは地面に器用に降り立った。

 しかし、さすがにトントンの「はりけえんみきさあ」を受けたダメージは色濃い様だ。

 ふらりとバランスを崩した。

 トントンはそのまま走り去り、シズネの腕の中に飛び込んだ。

「あぁ、トントン、無事で何より…」

 能天気な事を言っている場合じゃない。

「ぶきぃ! ぶひぶきいぃ!」

 トントンは必死に、シズネに撤退を促す。

「? 何を…、あ!」

 シズネはいまさらながらに状況を把握した。

 とうの昔に分析班の者達は撤収を完了している。

「あひぃ!? て、撤退ですぅ!!」

 必死になってこけつまろびつ、シズネと暗部の上忍はその場から逃げだした。

 

 

 ペイン襲来 チャクラ塔攻略戦

 

 木の葉隠れの里の郊外。

 そこに、巨大な尖塔がその威容を現していた。

 これはペインの為の電波塔の様なものだ。

 ペイン本体の命令を増幅してペイン六道それぞれに送る為の送信台。

 今、そこは血戦場の1つとなっていた。

 

「うおりゃああぁっ!」

 秋道一族の忍がその強化された拳で奇っ怪な形の門を()()ぶち破る。

「くそうっ、やっと1つか!」

 彼の殴りつけた門は、まるで人の顔のようにも見える代物だった。

 羅生門。

「口寄せ・羅生門」の術にて召喚される、絶対的な防御を司る異形である。

 その圧倒的な防御をその拳のみで破壊した秋道の忍。

 何故故に彼が厳しい顔をしているのか。

 それは目の前の光景に合った。

 

 無数の羅生門が尖塔を取り囲む光景。

 

 羅生門が空中に浮き、塔の周りを螺旋を描きながら周回していた。

 先ほど撃破したのはその羅生門の1つ。

 秋道の肉弾戦攻撃を持ってしても一度に破壊するのは難しい、その代物が幾つも存在する。

 しかも、その羅生門の間からは。

「水遁・大砲弾!」

「土遁・土流槍!」

「雷遁・大雷撃!」

 雨隠れの忍、その精鋭が忍術による攻撃を仕掛けてくる。

 攻撃に集中する事が出来ない木の葉隠れの忍達は思わぬ苦戦を強いられていた。

 

「ほおほっほっほっほう、なかなかに壮観なもんじゃのお、でかいというのはそれだけで凄まじいもんじゃわいのお!

 しかし、それでもワシの『口寄せ・二十重羅生門(はたえらしょうもん)』を攻略するのは無理の様じゃわいのお!!」

 手を叩いて喜んでいるのはご隠居風の忍術気違い、聖杯八使徒が1人、唱手の果心居士。

「で、大丈夫なんでしょうね、果心。

 ここで連中に突破されるというのは契約としても問題が…」

 金襴緞子な服装と派手目の美系の外見、そして話す内容はまるで問題芸能人のマネージャーの様な中間管理職じみた中身の同じく聖杯八使徒・復讐者の天草四郎時貞。

「さあのお、連中の実力次第ではそれも十分にあるんじゃなかろうかのお、わしゃ知らん」

「そんな無責任な…」

 しかめっ面をする時貞に、果心はにやりと笑いかけた。

「大声じゃあ言えんがの、別に全力を出すようにはあ奴からは指示されとりゃせんからのお」

「…なるほど」

 トビさんからはそう言う指示が出てますか。

 この戦い次第ではペインを切る、そう考えているという事であると時貞は理解した。

 ならばこの戦い、勝負がつけば…。

「本格的にひと暴れして良い、という事じゃのお」

 いや違うから。

 つい手の甲で突っ込みを入れたくなる衝動を押さえて、時貞は言った。

「違います、とっとと撤収します」

「何故に!」

「これからさらに面白くする為でしょうね」

 トビの性格的に。

「…ならばしょうがないのお、あ、その時が来たならあの相撲取りみたいな連中はワシが潰すでなあ、楽しみじゃわいのお」

 ぬたあっとした恍惚の笑みを浮かべる果心。

 もう好きにすればいいと呆れる時貞だった。

 

 戦いは一進一退の様相を呈していた。

 秋道一族を中心とした木の葉隠れ忍軍は、羅生門を破る事が出来ていなかった。

 秋道の突貫力を持ってすれば、羅生門1枚は破壊できる。

 しかし、1つの羅生門が破壊されると即座に別の羅生門がそこを埋めるのだ。

 そして別の羅生門が生成される。

 これが果心の術、「口寄せ・二十重羅生門」であった。

 100を超える羅生門を一時に破壊せねばこの防衛網を突破できない。

 そしてその防衛線の後方から雨隠れの精鋭達が忍術を打ち込んでくる。

 戦力的には数倍の差があれども、それをカバーしているのが果心の術であった。

 お互いにチャクラを削られる消耗戦。

 とはいえ、防衛の要である二十重羅生門を呼び出している術者、果心は全く疲弊した様子がない。

 木の葉忍軍のチャクラ塔攻略の指揮をしている奈良シカマルはこの状態を打破する策を思いつけないでいた。

「はあぁ、手駒が足んねえ…」

 彼にとって問題点はそこであった。

 この塔を攻略するにはどうしてもあのやたらめったらある防衛装置(らしょうもん)を排除しなければならない。

 しかし、1つを破っても即座に周囲にある別の門がそのカバーに入り、更には破壊された分を追加で口寄せされてしまう。

 となれば、だ。

「全体を攻撃する術が必要なんだがなあ…」

 秋道の一族は物理攻撃力に優れ、また身体の巨大化によって範囲攻撃にも対応する優れた戦闘能力を持つ。

 しかし、今必要なのは「塔の周囲にある門に対して一度にある程度のダメージを与える事の出来る術」だ。

 秋道の攻撃では塔の一側面からの攻撃しかできないだろう。

 それでは多の場所からのカバーにより、ダメージが散らされてしまう可能性が高かった。

「塔全体を包むような術がありゃあなあ、さすがに無理か」

 そんな術が使えるのはそれこそ「伝説の三忍」と言われた自来也、大蛇丸、綱手の内、自来也と大蛇丸、3代目火影猿飛ヒルゼンくらいなものか。

「後は…、アイツは別作戦があるからなあ…」

 友人の1人の顔を思い浮かべて、シカマルは首をすくめた。

 彼ならばこの状況を確実に打破するだろう。

 とは言え、彼は里を守るペイン一網打尽作戦の要だ。

 こっちに来てもらうのは不可能。

 せめて一族の者を何人か派遣してもらおうかと随従してきている山中いのに心伝身の術での伝言を頼もうか、そう考えた時である。

「苦戦してんじゃん」

 そう声が掛かった。

「! …なんだ、キバかよ」

「何だはねえだろうがよ、折角手が空いたんで手伝いに来たってのによ」

 そこに居たのは、赤丸に跨った犬塚キバであった。

「キバ君、来るんならこっちにも伝えといてよね、なんのためにアタシが居るのよ」

 イノも若干不機嫌気味だ。

「あのよお…」

「向こうの()()はしっかりして来たっての。

 しっかし、なんだありゃあ…」

 牙の視線は尖塔、というよりはその周囲の羅生門に注がれている。

「見てりゃ分かんだろ。

 とにかく殴れば硬い、壊したら復活する。

 手の出しようがねえ…」

 後は捜索班がペインの本体の場所を特定してくれるのを待つしかない…、そう考えてシカマルは友人の顔をまじまじと覗き込んだ。

「ん? …なんだよ?」

「そう言やあお前がいたっけな…」

 キバと赤丸はそろって首を捻った。

 

「…了解だ。

 どうやらオレが来たのは間違いなかったみてえだな」

 キバが不敵に笑う。

「チョウジには連絡を。

 ちょっと無茶させるかもしんねえ」

「了解。

 心伝心の術!」

 いのがシカマルの作戦をチョウジに伝える。

 現場ではチョウジが後退し、戦線が若干不利に傾いている。

「んで、いつ仕掛けるんだ?」

 キバが待ちきれない、という風にシカマルに尋ねる。

「もうちょい待てって。

 多分もうすぐ状況が動く。

 その時に一気に…」

 その時だ。

 里の方で途方もない質量が動く気配がした。

「来た!」

 シカマルが叫んだ。

 

 

 

 ペイン襲来 油女の秘術

 

 6代目火影・千手綱手はペイン六道とその口寄せ動物の襲撃を受けていた。

 滑空する巨鳥に巨大な百足、異形の牛、犀、蟹とペイン修羅道、ペイン人間道そしてペイン天道。

 ペインの術、「口寄せ輪廻眼」により地獄道、餓鬼道も呼びつけられているものの、彼らは大きく損傷しており、すぐに動かす事は出来ない状態であった。

 一方、綱手はカツユを呼び出し、可能な限りの忍、里人にカツユの分体を接触させていた。

 カツユは高度な回復能力を持つ口寄せ動物だ。

 彼女が傍にいるだけで、負傷による死亡の確率がぐんと低下する。

 

 綱手は愕然としていた。

 自来也よりの情報があったとはいえ、

「お前は…」

「お久し振りです、綱手様。

 三忍ももはやアナタだけだ…」

 そう言うペイン天道の顔、それはかつて自来也の弟子であった少年、弥彦のものであったからだ。

 やはり、そうなると敵の首魁は…、そう言う事なのだろうな。

 自来也は悲しむだろう、綱手はそう考えた、しかし、綱手は火影である。

 火影である以上、優先するのは木の葉隠れの里の安定。

 彼をここで仕留める。

 綱手は自分の命を掛けてここに居た。

 

 志村ダンゾウの仕込み刀が閃光を発した。

 飛び散る血飛沫。

 ぼとぼとと落ちる欠けた前足、後ろ足、そして頭。

「…無事か?」

 ダンゾウはそう尋ねた。

「あ、あい、助かりました」

 そう言うのは妙木山のコウスケ。

 周囲に散らばるのは鼠の様な生き物。

 それらは息絶えるとともに、

 ぼん!

 という音と共に消えうせた。

「…こりゃ一体」

 疑問を呈するコウスケに、

「うずまきナルトの居場所が露見した、という事だ。

 お前を殺す事で、うずまきナルトに妙木山の襲撃を察知されん為だろう」

 そうダンゾウは告げた。

 つまり、うずまきナルトの居場所はペインに知れたという事。

「お前は急いで里に帰り、ナルトにこの事を… !!」

 その瞬間、火影の執政室のあちらこちらから輪廻眼を持つ小動物が雲霞の如く湧いて出てきた。

 その処理に、ダンゾウは時間を取られ、コウスケは里に戻るのが若干遅れる事になる。

 

「ナルトの場所を言え」

 ペインは綱手にそう言った。

 周囲にはペイン六道が脇を固め、巨大な口寄せ動物達が暗部の上忍達とやりあっている。

 綱手の護衛をする暗部の者が言う。

「何者です?」

 それに綱手ではなく、ペイン天道が答えた。

「秩序を正す神だ」

 どうやら普通ではないようだ。

 そう思う暗部の者達であるが、そう言わせるだけのチャクラもペイン達からは感じるのだ。

 ペインは語る。

「人柱力はほぼ狩り終えた。

 尾獣による忍里のパワーバランスは今や均衡を保ってはいない」

 それは全て「暁」にある、そう彼は言っている。

「今、九尾を庇ったところで無意味だ。

 時期に争いが始まる。

 戦争の火種はあちこちに燻っている」

 そう、「暁」は火種をばら撒いた。

「そして我々がそれら戦争を制御(コントロール)する。

 我々に協力すれば助けてやるのも吝かではない。

 この状況…、我々の力も分かったハズだ」

 ペインの語りに綱手は答えた。

「…確かにな。

 ()()()力はけた外れだ、それは認めよう」

 その言葉にピクリと反応するペイン天道。

 綱手がペインに迎合するとは思っていなかったのだろう。

 しかし。

「だがな、貴様の力は認めたが、()()()を認めた訳ではない。

 言っている意味が分かるか?」

「言葉遊びを止めろ、神に対して不敬である」

 ペインの言葉に右のこめかみを親指で押さえる綱手。

「…分からんか、私はお前(ペイン)の圧倒的な力を認めた。

 同時に、お前の組織(あかつき)が上手く事を成すことができると思っていない、そう言っているんだ。

 それぐらいは把握してもらいたいものだな、え、神よ」

 皮肉気にそう言う綱手。

「何故そう言うか、分かるかペイン。

 これでも火影だ、政治(まつりごと)という奴もある程度分かっているつもりだ。

 この政治という奴は厄介でな。

 単純な力があればどうにかなる、というもんでもないのさ。

 この何カ月かで本当にそれを思い知らされた」

 正確に言うなら、火影候補として先代・志村ダンゾウについて火影の執政を学んで居た時からであり、それなれば彼女は3年ほどの歳月を政治に費やした事になる。

「ペイン、お前は力さえあれば全てを従えられると思っているな。

 そいつは間違いだ。

 もう少し時間があればお前も気がついたかもしれないけどね、今のお前のやり方ではほどなく反乱が起きるだろうよ」

「それはあり得ない。

 神の統治に間違いなどない故に」

「いいや、確実におきるだろうさ。

 お前は幻術によって雨隠れの里の民の意思決定を誘導している。

 それは、里民にとってはちょっとしたストレスになるんだよ。

 普段は大したことがないだろうねえ、しかしね、絶対にそう言った事はどこかにしわ寄せが来てるんだよ。

 そう言った事をちゃんと調査しているかい?

 里の出生率、犯罪の増加率、細かい事故の発生率、そう言ったもんに対してちゃんとガス抜きはさせてるかい?

 お前の力は大したもんだ、だからこそ、それが出来ていない、違うかい?」

 綱手の言葉に言葉を返さないペイン、いや返せないのかもしれない。

「そう言った事は組織が巨大になればなるほど難しくなるもんだ。

 お前は大した力を持ってるけど、それでホントに細いはじっこまで面倒を見る事ができるってのかい?

 力が大きいほど、組織がでっかいほどそれはとてつもなく難しい事だよ」

 そう、組織を大きくしていった結果、忍五大国ではどうしても制御できない部分が出てきてしまった。

 その結果、不幸、惨劇が発生してしまう。

 例えば、雨隠れの里の郊外に住んでいた長門という忍びの家系ではない少年の両親が、雨隠れに侵入しようとしていた木の葉隠れの里の忍びに殺されてしまった、そう言う事などが。

 ペインは知らない。

 大きな組織を運営した事がない故に、末端まで己の意志が通じない事がある、そう言った事を。

「驕るな」

 その言葉をペインが遮る。

 そうして組織が肥大化した事に伴うリスク、それを理解しようとしない所が、ペインの本体の組織の長としての限界なのだろう。

 彼は神を名乗った。

 その時点で己の考えも変える事がなく、他者を理解する事もしない、出来なくなっているのかもしれない。

 

 

 

 その頃、里の一角に多由也、キヌタ、比良坂次郎坊、そして。

「…準備は」

「…万端だ、父さん」

 油女シノ、シビの親子だった。

 いや、油女トルネなど油女一族の者達が勢揃いしていた。

 彼らが一斉に印を結ぶ。

 かなり複雑であり、複数人で行わなければならない大技であることが予想できた。

「ではこちらも」

「ウチに任せとき!」

「じゃあ行くぞ!」

 そして、次郎坊も印を組む。

 多由也が愛用の笛を取り出し魔曲を奏でだした。

 その曲は、その曲を聞く者からチャクラを奪い、他者へと譲渡する幻術。

 本来であれば無差別に周囲の者からチャクラを奪う術であるが、そこでキヌタの出番だ

「響遁・集束響鳴穿」の応用で、多由也の奏でる魔曲を次郎坊のみに聞かせるよう、音を絞っているのだ。

 次郎坊は事前に準忍者資格の者達から少量づつチャクラを供給していた。

 今次郎坊の中にあるチャクラは本来の保有量の数10倍。

 呪印形態2にも匹敵するチャクラを抱えている状態である。

 そこからチャクラが抜け出した、その先には、油女の一族が居た。

 膨大な量のチャクラが油女一族の皆に注がれている。

 そして、

「…いくぞ!」

「…往ッ!!」

「油女秘伝…」

 その瞬間、里が黒い津波に包まれた。

 

 

 

 ぴくりとペインが動いた。

「そうか、妙木山、か」

 なに!?

 綱手はここで初めて動揺した。

 どうやらどこからかナルトの居場所が漏れたらしい。

 そこへブンブクの口寄せ動物、安部見加茂之輔が現れた。

「火影様ご注進!

 コウスケの存在が気取られました!」

 なるほど、妙木山のガマが居る事からナルトの場所が気取られた、とそう言う訳か。

「妙木山…、確か蝦蟇の隠れ里だったな。

 どうやら此処に居ても無駄なようだ…」

 ここで奴に動かれては厄介なのだが。

 綱手は若干の焦りを感じた。

 その焦りを余所に、

「最後に1ついいか…」

 ペインはそう綱手に尋ねた。

「その足のチャクラ…、オレの術に対応するためか。

 どうやらオレの能力は知られてしまってるようだが、圧倒的な力の前では全てが無力。

 …お前達大国が証明してきた事だ」

 ペイン天道は綱手達に背を向ける。

お前達(たいこく)は、この世界の主役だと思いあがり、死を遠ざけて考える。

 平和ボケして浅はかだ」

 ペインはまるで舞台俳優でもあるかのように語る。

「人を殺せば人に殺される」

 故に、彼は神たらんとしたのか。

 己の殺しは人によるものではない。

 神の裁きなのだと。

「憎しみがこの2つを繋ぎ合わせる」

 なるほど。

「お前は圧倒的な死を想起させる力を持つ事で、この世界の殺意の抑止となるつもりなのだな」

 綱手の言葉に振り向くペイン。

「しかしな、ペイン。

 それでは駄目なんだよ。

 お前は神を名乗った。

 ならば、お前の痛みは人に理解されない。

 人の痛みは人にしか分からないんだ…」

 綱手は悲しみを感じながらそう言った。

「戯言だ。

 戦いとは、双方に死を、傷を、痛みを伴うものだ。

 痛みを感じろ。

 痛みを考えろ。

 痛みを受け取れ。

 痛みを知れ」

 ペインがそう言い、動こうとした瞬間。

 

 どっ!

 

 周囲に黒い水が湧いた。

 いや、これは。

「蟲、だと!?」

 ペインの周囲、ペイン人間道、ペイン地獄道、ペイン修羅道、ペイン餓鬼道、そしてペイン畜生道の口寄せ動物。

 更には綱手や暗部の者たちの周囲からも。

「これは、油女の奇壊蟲か!!」

 そう、湧きだしたそれは油女一族の使う蟲、奇壊蟲であった。

 それは周囲から水の如く湧き出していた。

「馬鹿な、こんな数を用意できるはずが…」

「出来るんだよ、それが!」

 ペイン天道の言葉に、返答を返す綱手。

「出来るんだよ、それが。

 ここに居るのは今までの奇壊蟲じゃないんだからね!」

 そう、ここに居るのは特別製の奇壊蟲だ。

 数年前からブンブクによって集められた文献。

 油女一族ではその文献を解析し、奇壊蟲の特別変異体を育成する事に成功していた。

 それは。

 

 影分身をする変異奇壊蟲。

 

 奇壊蟲は相手のチャクラを吸い取る性質を持つ。

 油女一族の生み出した奇壊蟲は、相手のチャクラを吸い取り、それが飽和すると影分身を行いチャクラを消費、そして更にチャクラを吸い取るのだ。

 相手のチャクラが膨大であればある程増殖する奇壊蟲。

 それを扱うこの術、その名を。

「油女秘伝、黒津波だ!

 ペイン、アタシと心中してもらおうか!!」

 恐るべし、千手綱手。

 彼女は己の額の白毫に封じられたチャクラを開放してまで、油女の術を強化しているのだ。

 あっという間に綱手、そして周囲に居た暗部の者達は奇壊蟲の群れに飲み込まれた。

 そう、綱手と護衛の暗部達は己の痛み、己の死を以ってペインと戦う、それを体現して見せたのである。

「くっ、口寄せ輪廻が…」

 焦るペインは輪廻眼の能力、口寄せ輪廻眼によって他のペインを安全圏に移動させようとし、それが無駄である事を思い至った。

 天道以外のペイン達、そして口寄せ動物達には実の所、ある特徴があった。

 皆、一度は犬塚キバと接触しているのである。

 キバは影分身に油女の変異奇壊蟲をくっつけて移動していた。

 キバと接触したペイン達はその変異奇壊蟲をその体に付けられていたのである。

 その状態では口寄せした所で変異奇壊蟲がついてくるのみ。

 結局はこの蟲の津波に飲まれるだけなのである。

「やむを得ん!」

 唯一奇壊蟲の付いていないペイン天道は唯一の逃げ場、頭上へと「神羅天征」の斥力を使って逃げのびた。

 しかし、ペインへの攻撃はそれだけにとどまらなかったのである。

 

 

 

 ペイン襲来 チャクラ塔攻略戦、終結

 

 油女一族の秘術がさく裂した時、シカマルも塔への攻撃を命じていた。

「今だ、キバ!」

「応さ!

 いっくぜ赤丸ぅっ!!」

「うおおぉん!!」

 キバが懐から赤丸専用の兵糧丸を取りだした。

 赤丸がそれを喰らう。

「があああぁぁっ!!」

 赤丸が兵糧丸のエネルギーを吸収、深紅に輝きだした。

「いっくぜえ、擬獣忍法・人獣混合変化!!」

 キバと赤丸のチャクラが融合していく。

 擬獣忍法の真髄、人獣混合変化である。

 そして、

「獣人分身!!」

 赤丸を分身体としてキバが2人になる。

 さらに、

「多重影分身!!」

 普段から大量のチャクラを蓄え、更には犬塚秘伝の兵糧丸からすさまじい力を得た赤丸のチャクラを使い、一気に100人に影分身をするキバ。

「まだまだあぁっ!!」

 そこからキバの軍団は塔に向かって走り出す。

「四足の術!!」

 腕を前足とし、凄まじい勢いで走りだすキバ達。

 さらに、彼は「体術の瞬身」「忍術の瞬身」「幻術の瞬身」を重ねる。

 体術によりキバの数は倍、忍術により更に倍、幻術により更に倍の数に増えたキバの影分身。

 そこに「分身の術」を自分用に突きつめた「分身の術」を使う事で更に倍の数に。

 塔を守る雨隠れの忍達にとっては災難であっただろう。

「う、うわああぁぁぁっ!!」

 1600人の犬塚キバが、凄まじい勢いで突貫してくるのだから。

「さあ行くぜぇ!

 犬塚体術・『竜巻通牙』ぁ!!」

 そして、チャクラ塔の周囲に突風が巻きあがった。

 犬塚の突進技である通牙。

 1600に増えた所で、実体のあるのは100である。

 しかし、実体を持つ影分身たちはただぶつかるのではなく、その腕でもう1体の影分身を捕まえ、軌道を変えてまるでドリルの様に羅生門を削っていった。

 忍術での加速エネルギー、体術でのスピードチェンジによるかく乱、幻術によって羅生門の防御を崩し、ダメージをより与えるキバの攻撃は、塔の最下層から最上部までまるで竜巻が昇っていくかのように全ての羅生門に均等にダメージを与えていった。

 この時より犬塚キバに「群狼」の二つ名が付く事となる。

 

「今だ、総攻撃だ!」

 シカマルの指示が更に飛ぶ。

「ずおりゃああぁぁぁ!

『肉弾戦車』ぁぁぁぁぁっ!!」

 数10人の秋道の忍による回転攻撃「肉弾戦車」。

 それもまた、キバの攻撃に勝るとも劣らないものであった。

 キバの攻撃で傷ついた羅生門には耐えられず、がりがりと削られて破壊されていく。

 しかし足りない。

 それでもまだ羅生門は多数あるのである。

 だが。

「チョウジぃ! とどめだ!」

 シカマルの最後の指令が飛ぶ。

「いっくよおぉっ!」

 チョウジが真の全力を尽くす。

「はあああぁぁぁぁっ!」

 チョウジの体形が変わっていく。

 己の体に蓄えたエネルギーを全てチャクラに変換する、これが秋道チョウジの最終手段、蝶チョウジモード。

 それを発動させ、チョウジは天高く舞い上がった。

 複雑な軌道を描き、空気を蹴りながら力を溜めていくチョウジ。

 チョウジはシカマルからの信頼を感じていた。

 元々チョウジは自分に自信のない少年だった。

 その自分に信じることを教えてくれたシカマル。

 彼の信頼に答えたい。

 その思いが必殺の一撃を生み出す。

 

 天高く舞い上がったチョウジ。

 そこから一気にチャクラ塔に向かって足から突貫する。

 鋭く。

 鋭く。

 剣の如く鋭く。

 秋道の一族は己の身を削って力を捻りだす。

 それは正に砥石で磨く事で切れ味を増す妖刀の如く。

 そして生まれる最高の切れ味の一撃。

 その名を。

「流星・胡蝶・剣!!」

 その切れ味は。

 

 余りのチャクラの奔流に、羅生門の危機感知能力が動き出した。

 振り落ちてくるチョウジの一撃を受け止めんと、羅生門が何重にも重なる。

 そして激突。

 一瞬にして、あの秋道の男達が叩き割るのに苦戦していた羅生門が1枚、砕け散る。

 チョウジの勢いは止まらない。

 更に1枚、簡単に、あまりにも簡単に羅生門が消し飛ぶ。

 更に1枚、更に!、更に!!、更に!!!。

 立て続けに羅生門が消し飛んでいく。

「うわ、これは不味い!

 総員撤収です!

 撤収ぅぅぅっ!」

 あわてて時貞が撤収を促し、脱出用の札を破る。

「我々はまだっ…」

 まだ戦うという雨隠れの忍達を無理やりに忍術で脱出させ、

「我々も逃げま…」

 自分達も脱出しようとした所で、最後の羅生門が砕け散った。

「うわ…」

 時貞達の頭上から、光の粒子を纏ったチョウジが垂直に降って来た。

 ごうん!!

 そして、チャクラ塔は完全に沈黙したのである。

 

 

 

 ペイン襲来 そして、ブンブク吶喊

 

「仕方ない…」

 ペインはぼそりと呟いた。

 小南はペインに尋ねる。

「どう言う事?」

 それに答えてペイン曰く、

「あれをやる」

 その言葉に小南の顔色が変わった。

「そんな…! だめよ!」

 焦りすら含んだ小南の言葉。

「あの術はアナタの命を縮める事になる!」

 しかし、それに返る答えはなかった。

 ペインの本体は天道のみに力を集めたのである。

 小南はため息をつき、

「どうしてもやるのね、長門」

 そう呟いた。

 

 ペイン天道は木の葉隠れの里の上空で力を溜めていた。

 ペイン全ての力を集めて打ち出す「神羅天征」。

 打ち出せば確実に木の葉隠れの里、そこにいる人、忍、それも根こそぎに、きれいさっぱり消滅するだろう。

 それこそがペイン天道の成すべき事であった。

 木の葉隠れの里を完膚なきまでに叩き潰す。

 そうすることでペインと雨隠れの里に逆らう意志を叩き折る、それが成せると考えていた。

 

 彼の優秀な耳にはしばらく前に甲高い音を捉えていた。

 彼はその音に聞き覚えがあった。

 茶釜ブンブクの変化。

 飛行する変化が出していた音だ。

 ならば、多分こちらに何らかの形で攻撃を仕掛けてくるのだろう。

 しかし遅い。

 どのような速度であろうともこちらに近づく頃には既に術は打ち出し終わっている。

 その時にはブンブクは「神羅天征」の斥力と自身の推進力で押し潰されるであろう、そうペインは予想していた。

 彼の耳はその接近を感知できなかった。

 ブンブクが音の速さ、その2倍の速度で近付いている事に、彼は気付いていなかった。

 気がついた時には、

 

 どんっ!!

 

 強烈な横からの衝撃と共に、

 

 どおぉぉん!!

 

 地面に叩きつけられていたのである。




話の展開上カットしましたはたけカカシと父親のサクモの邂逅は、展開を変えて後で入ってまいります。
なお、天草と果心は塔の崩落に紛れて脱出しているわけです。

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