NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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ペイン襲来編、その前篇です。
どうしても文章量が増えまして分割することにしました。


第87話 ペイン襲来 前篇

 ペイン襲来 その発端

 

 茶釜ブンブクの口寄せ動物である安部見加茂之輔、通称カモは「根」の隠れ家の中でわが世の春を満喫していた。

「うへ、うへへ、うへへへぇ…」

 木の葉隠れの里に多数放った己の影分身、その1体は火影の執政室付近に配置、更に1体その周囲に配置しているのだが。

 カモは1体の影分身を「お楽しみ用」として様々な収集活動に使っていた。

 何に使っていたかといえばカモの顔の緩み、まるでセクハラおやじ同然の恍惚とした表情を見れば丸分かりではないだろうか。

 散々やらかした後に影分身を消し、その情報を楽しんだ後にまた放つ。

 最低である。

 さて、駄目野郎の典型のような顔をしていたカモの表情がいきなりきりりとしまった。

 彼はするりとそこを出て、火影の執政室に急いだ。

“どうかしたのか?”

 そう念話にて声を掛けてくるのは山中フー。

「根」の長にして茶釜ブンブクの上司である志村ダンゾウの子飼いである。

“郊外に放っていた影分身の1体がやられやした。

 こっちにまるで気付かせない動きっす。

 かなりの手練れでさあ”

“了解した。

 ダンゾウさまに伝える”

“へえ、お願いしやす”

 カモが収集した情報をフーが「根」に伝達するこの流れはブンブクが作り上げていった。

 元はブンブクが収集した情報を一刻も早くダンゾウに伝える為のネットワークであったが、その過程でフーとカモは会話を交わし、それなりに親しくなっていた。

 カモのいい加減な所をフーが注意するところから始まり、口論を経てある程度の相互理解へと繋がったようだ。

 元々、フーは「根」の中でも特にダンゾウに傾倒している所があるが、同時に「根」を統治する技量は自分にないとも感じていた。

 自分は二番手、三番手であることを理解し、その立ち位置がブンブクの右腕としてのカモと重なっている事を感じ取っていたのかもしれない。

 そう言う訳で、意外なほどにカモとフー、及び油女トルネとの関係は良好であった。

 

 カモが分身と入れ替わりで現火影・千手綱手に状況を報告した。

「…なるほど。

 シズネ、『暗部』の者達に警戒を強めるよう通達!

 広報室に里全体に警報を放つ用意を!」

「は、はい!」

 火影の執政室はにわかに騒がしくなっていった。

 

 同じ頃。

「暗部に所属しているものは火影の命に従え。

 残りは一部を除き集結せよ」

「はっ!」

「根」の長官であるダンゾウも、己の私兵である「根」を動員していた。

 普段の行動が()()でも、カモはすぐれた斥候である。

 その分身に気取られる事無く仕留めるだけの実力を持った何者かが、里に接近している。

 十分に警戒すべき事態だとダンゾウは考えていた。

 

 その頃、木の葉隠れの里の郊外の森の中。

 ペイン六道が1体、女性型のペイン畜生道が体に突き刺さった黒い槍のような得物を引き抜いて投げつけ、鼬の様な生き物を突きさした。

 それはボフン、という音と煙と共に消えうせた。

「…木の葉の忍の影分身か。

 こちらを発見された、と考えるのが妥当だろう。

 計画を早める必要がありそうだ…」

 ペイン天道がそう言い、脇に立っていた小南、その紙影分身を見た。

 小南の分身は首肯した。

 

 小南の本体はそこから数キロ程離れた位置にいた。

 そこには雨隠れの忍達、ペイン畜生道、そして。

「…つまらん仕事じゃのお、もちっと血沸き肉躍る任務に回してもらいたいものなんじゃが」

「アナタの場合、血が沸騰し、肉が飛び散る惨劇の現場でしょうに。

 ほらサクサク仕事しましょう。

 どうせかなり目立つんですから、向こうから切りかかって来るでしょうし、そうしたら出番じゃないですか」

 ご隠居風の狂人・果心と金襴緞子の着物を羽織った美青年・天草時貞が居た。

 彼らは大量の資材をそこに持ち込み、凄まじい速度で何かを造り上げていた。

 土遁により土台が形成され、作業用の足場が造られる。

 そこに解体されたいた金属の塊が身体強化された忍によって運び込まれる。

 火遁によってそれは接合され、雷遁によって回路が形成される。

 またたく間に巨大な塔、それも1キロ以上の高さを誇る鉄塔がそこに現れた。

 風遁と水遁を以ってその前には巨大なスクリーンが形成され、幻術を使ってそこに光学迷彩が施された。

 これは言ってしまえば電波の受信塔だ。

 ペインの本体からペイン六道に送れられる命令とチャクラ、それを増幅してペイン六道に送り届けるのがこの鉄塔の役割。

 木の葉隠れの里の侵略をペイン六道が担当し、そして雨隠れの里の忍がこの鉄塔の防御を行う、そういう段取りとなっていた。

 そして防衛の要となるのが、

「守りかあ、めんどくさいのお、ワシぁ忍者でなあ、忍者は攻めてこそと思うんじゃよ」

 うだうだと愚痴を言う老人、果心であった。

「果心、先ほどからうるさいです。

 イリヤからの許可は得ています。

 攻めてこそ忍、というのなら、『任務を果たしてこそ忍』という言葉を返しましょう」

 そうバッサリと小南に切り捨てられる果心の言葉。

 その言葉に顔を歪める果心。

 痛い所を突かれた、という顔の果心に、時貞がなだめるように言う。

「果心、この任務はアナタでなければこなせません。

 アナタの術で雨隠れと木の葉隠れの度肝を抜いてみるのも一興でしょう。

 今回の仕事はそれだけ派手なものです。

 これで八使徒に果心居士あり、を広く知らしめることもできましょうに」

 その言葉に、

「…ふむ、まあしょうがないのお、やるしかないか」

 しぶしぶなれども了承の意を見せた果心。

「…アナタも大変ね」

「それが仕事ですから」

 小南のいたわりの言葉に肩を竦め、皮肉気な笑みを浮かべる時貞であった。

 

 

 

 ペイン襲来 ペイン天道対はたけカカシ

 

 ペイン修羅道・餓鬼道とペイン畜生道の口寄せした奇っ怪な妖物の陽動により、木の葉隠れの里は混乱に陥った。

 そう、混乱だ、大混乱ではない。

 修羅道の打ち出すミサイルもどき、それを受けた建物が倒壊し、

「土遁・土流壁!」

 忍の土壁によって倒壊を免れる。

 いや、彼は木の葉の忍の制服を着ていない。

 彼はかつて忍を目指し、対人戦に耐える事が出来ず挫折した者。

 志村ダンゾウが5代目火影になり、準忍者資格を得た彼は、里の中においてその習得した土遁を土木作業などに使用していた。

 その経験が建物の倒壊を防ぎ、下敷きになろうとしていた里の者達を救ったのである。

 彼の目に木の葉忍軍の事務所広報室よりの情報が伝わる。

 彼ら準忍者資格を持つ者は通常の忍と同様に木の葉の忍として登録され、このような非常事態においては予備役として周囲の救助活動、避難支援を行う事になっている。

 その為にこうやって広報室、と呼ばれる情報伝達の能力のある忍から情報を受け取るのだ。

 なお、広報室の室長は山中家の優秀な忍が務める事が5代目火影の時代に決定されている。

「…みんな、落ち着いて避難してくれ!

 オレが誘導する!!」

 彼は声を張り上げ、周囲の里民にそう言った。

 そして広報室の指示に従って避難誘導を行っていった。

 そういった光景が、里のかしこで見られたのである。

 

 ペイン六道の内、情報収集に回った者の内、ペイン天道は早々に厄介な相手と当たっていた。

「カカシさん!」

 今まさにペインの餌食とならんとしていたうみのイルカがそう言う。

 イルカを貫こうとしていた暗器を左手でしっかりと掴んでいるはたけカカシ。

 カカシの写輪眼とペイン天道の輪廻眼がお互いをしっかりと見据えた。

 

「ぐわっ!!」

 至近距離からの「雷切」を見切られ、更に不可視の障壁に弾き飛ばされたカカシ。

(なるほどね、確かに「見えない場」で弾き飛ばされた、か)

 カカシにはペイン天道の攻撃が彼を中心に球状に斥力場が形成されているのが見てとれた。

(そして周囲には無数の「眼」と)

 ペインは「口寄せ輪廻眼」によってペイン同士、および畜生道の口寄せした口寄せ動物の視界を共有できる。

 今回、受信塔の存在によって外道魔像からの力を十二分に受け取ることができる状態になっているペインは、畜生道に若干力を多く配分し、その余剰分で小型の口寄せ動物を多数呼び出していた。

 その数1000以上。

 これら全てがペインの目となるのだ。

 無論本体への負担は大きい。

 だが、これを使いこなさずして「木の葉落とし」は成らぬであろう、そう本体は考えていた。

 その為の無茶であった。

 しかし。

「…それもこちらの想定の内、ってね!!」

 

 茶釜ブンブクの口寄せ動物であるカモはじっくりと獲物を狙っていた。

 目の前には鼠のような小動物。

 しかし、その目は同心円状、つまりは「輪廻眼」。

 輪廻眼を持つ自然動物は存在しない。

 周囲に同じ目を持つ動物がいないことを確認し、カモはイタチの本能のままに目の前のネズミに襲いかかった。

「!」

 気がついたネズミ、しかし、カモの方が動きが早い。

 首根っこをガブリと噛み切り、カモは野生を堪能した。

 

「…忍法・超獣偽画」

 木の葉隠れのサイは、己の得意とする絵画から立体的な口寄せ動物を召喚する秘術を用いて、大量の鼠を生み出していた。

 生み出された鼠は輪廻眼を持つ小動物を襲い、その数を減らしていく。

「ナルト君が戻って来るまでに何とか方を付けたいけど…」

 ペインが狙っているのはナルトと滝隠れのフウである。

 彼らは里の危機を知れば飛んでくるだろう。

 出来ればペインと彼らを鉢合わせにするのは避けたい。

「それに、ボクにも意地があるからね。

 たまにはナルト君の役に立ちたいしね」

 サイは、いつもの表情を読ませない笑みの中、その瞳に強い意志を感じさせながら言った。

 

「…見つけた!

 トルネ、民家の軒下だ」

「分かった…。

 奇壊蟲!」

 暗部の者たちもまた、ペインの斥候である口寄せ動物の駆除に動いていた。

 山中フーはその秘伝忍術で周囲の昆虫などに憑依、小型の輪廻眼を持った動物を発見していく。

 それを排除するのは油女トルネの蟲達だ。

 斥候動物達は自身の防御を考えていない。

 本来ならばあまりにも小さな存在だ、目に留まる事もあるまい。

 しかし、今の木の葉隠れの里には自来也が命がけで入手してきたペインの情報がある。

 戦術分析チームが結成され自来也とブンブクの戦いを詳細に分析した結果、ペイン六道のみならず、口寄せ召喚された動物の輪廻眼を通じて視界の共有している可能性を突きとめたのである。

 そこからは対策、だ。

 油女一族や小型の口寄せ動物を扱う忍達が招集され、輪廻眼持ちの駆除を行う事でペインの視角を奪う作戦が組まれ、今まさにそれが実施されているのだ。

 奇壊蟲がわさわさと輪廻眼持ちの小動物に押し寄せ、その体を覆っていく。

 暫くもがいていた小動物だが、やがて動きが止まり消滅していく。

「…次に行くぞ」

「おう」

 フーとトルネは一体の小動物を駆除しきり、次のエリアへ向かうのであった。

 

「潜影多蛇手!」

 みたらしアンコの周囲からウゾウゾと大量の蛇が湧き出し、民家の軒下、瓦礫の隙間に入り込んでいく。

 アンコは口寄せした大量の蛇によって輪廻眼持ちの小動物を駆除して回っていた。

 本来、アンコの使用できるチャクラでは「口寄せ・潜影多蛇手」は使用できなかった。

 保有できるチャクラの量、ではなく、それを「天の呪印」の制御に回さなくてはいけなかった為である。

 しかし、限定的にではあるが仙人モードを使いこなすようになったアンコにとって、呪印を抑え込むのは難しい事ではなくなっていた。

 その分術に使う事の出来るチャクラ量が増え、こうして高等忍術である潜影多蛇手も使いこなせるようになったのだ。

 とは言え。

「アタシも暴れたぁ~い…」

 ペインを相手取っているであろう上忍達と共に、ペインをぶちのめしたかったというのがアンコの本音だ。

 それを止められたのは一重にアンコの性格…ではなく、その広域殲滅能力だ。

 ペインほどの相手と戦うとなればアンコも本気で戦うだろう。

 その結果、里が消失でもしようものなら本末転倒だ。

 あくまで今回は里の「防衛戦」なのだから。

「暴れたぁ~い…」

 蛇たちをコントロールしつつ、アンコはブチブチと愚痴を呟いていた。

 

 ペインは輪廻眼による「眼」が急速に減らされつつあるのを把握していた。

 このままではまずい。

 ペイン天道はまずこの目の前の障害(はたけカカシ)を排除することを第一と考えた。

「吹き飛べ、『天道・神羅天征』…」

 カカシを己の秘術で弾き飛ばし、更に追撃を加えようとする。

 しかし、相手は天才と謳われた当代随一の忍だ。

 上手く受け流され、逆に追撃を受けそうになる。

 元々カカシは体術が得意だ。

 マイト・ガイという体術の権化のような非常識な男がいなければ、体術においても里一番であったであろう。

 忍術と体術を組み合わせ、近距離にては体術、距離をとると忍術が飛んでくる。

 とはいえ、それに対応しているペイン天道もバケモノと言えよう。

 その攻撃を全て捌いているのだ。

 何合かの打ち合いの後、カカシとペイン天道は大きく後ろに飛び退った、

 カカシの手には父のチャクラ刀、ペイン天道の手には漆黒の短槍のような暗器。

 ここが好機!

 ペイン天道は必殺の「天道・万象天引」を使った。

 絶対に逃れる事の出来ない引力による引き付け、そしてその先にはペインの持つ暗器。

 このまま串刺しにして終わりにしよう。

 そう考えたペインであるが。

 にやり。

 カカシが笑ったような気がした。

「かかった!『時空間忍術・虚空斬破(こくうざんぱ)』!」

 カカシの剣の切っ先が弧を描く様に振るわれた。

 その切っ先で切り取られるように、空間に黒い三日月形が生まれる。

 それは剣に斬り飛ばされるようにペインに向かって飛んでいった。

 ペイン天道はそれを弾く為に暗器を突き出し、そして。

「!」

 いきなり大きく横に飛び退った。

 収支の空気を()()しつつ進んだ三日月形は暗器を削り、ペイン天道の髪を掠めて背後の壁に当たり、壁を三日月形に削りながら消滅した。

「…なるほど、空間を切り裂いたのか」

 ペインはこの術の厄介さに即座に気がついた。

 元々、カカシは左目の写輪眼の力により、「万華鏡写輪眼・神威」を使う事ができる。

 神威は他任意の範囲内の物質を視界内に展開させた「結界空間」へと転送する技だ。

 その範囲はそれなりの大きさのもので、自爆しようとしていたデイダラの泥分身の爆発を丸ごと飲み込んでしまうほど。

 しかし、一方その為に使われるチャクラは膨大なもので、決して少ないとは言えないカカシですら、神威を使用した時には倒れてしまうほど。

 その神威の限定的な使用が「虚空斬破」である。

 神威程の範囲はない、大体1分(いちぶ)以下だ。

 それだけに、消費されるチャクラはとても少なく、また術への集中も軽く済む。

 そしてこの術は空間を切り、その断裂面を飛ばすという性質上、

「お前の術では『虚空斬破』は妨害出来ないってことだ!」 

 引力、斥力は物質に作用する力。

 空間そのものに作用する時空間忍術に対しては効果が薄い。

 ペイン天道ははたけカカシ1人に釘付けにされる事となった。

 

 

 

 ペイン襲来 それぞれの戦い

 

「…了解だ、シカマル。

 分身26番、27番を向かわせる」

 犬塚キバとその相棒である赤丸は火影の館の庭に座り込み、そう言った。

 キバと赤丸は相互に念話での意思疎通が可能になるまで擬獣忍法を突き詰めた。

 その結果として、キバと赤丸の影分身は本来不可能であるはずの影分身への相互情報伝達が可能となったのだ。

 キバの影分身にはキバ本体との遠話能力はない。

 しかし、赤丸との遠話能力はあるのだ。

 赤丸を通じてキバは影分身に即座の情報通達が可能となっていた。

 

 キバと赤丸の影分身26番は指定されていた場所に向かった。

 そこには既に数人の忍を倒しているペイン餓鬼道の姿があった。

「ペインの1体を確認。

 最重要撃破目標の奴だ。

 これより攻撃を開始する…」

 そう言うと、キバはペイン餓鬼道へと凄まじい勢いで駆け寄った。

 

 ペイン餓鬼道は、忍の1人からチャクラを吸いつくすと頭陀袋の様にそれを無造作に投げ捨てた。

 次の獲物は、そう思った時だ。

 ぱぁん!

 ペイン餓鬼道の首が揺れた。

 キバの拳の一撃だ。

 ペイン餓鬼道はキバが近付いて来ていたのには気付いていた。

 この周囲にはまだペインの「眼」が多数ある。

 しかし、「視る」事ができたとしても、反応できるかどうかはまた別の話だ。

 キバは己の特性を生かすために「速さ」を追求してきた。

 その速度にペイン餓鬼道が反応できなかったという事だ。

 キバの影分身は装備を最小限に抑え、手裏剣、忍刀、寸鉄も帯びずに餓鬼道に襲いかかった。

 辛うじて目にとめることができた餓鬼道、彼はキバを仕留める為、黒い暗器を体から引き抜き、振り回した。

 今、キバの影分身は一切の防具(プロテクター)を身に付けていない。

 その状態で掠めでもしたら、消滅間違いなしだ。

 しかし。

 ぱぁん!

 またペイン餓鬼道の顔がゆがむ。

 キバの拳がペイン餓鬼道に叩き込まれた。

 速度はのっているものの、速度重視で体重を乗せる事の出来ていないその拳では痛覚の存在しない死体であるペイン餓鬼道には微々たるダメージにしかならない。

 だが。

 ぱぁん!

 1撃。

 ぱぁん!

 また1撃。

 ぱぱぁん!

 今度は2撃。

 ぱぁんぱぱぁん!!

 ぱぱぱぱぱぱぱぱぁん!!

 ぱぱぱぱぱぁぱぱぁぱぁぱぱぱぱぱぱぁん!!

 まるで嵐の雨だれの如くすさまじい勢いで撃ち込まれる拳。

 キバは一定間隔を取りながら、ペイン餓鬼道の周囲を弧を描くように凄まじい速度で移動する。

 これは「瞬身」だ。

 瞬身の術は一瞬で距離を詰める、長距離を移動するなど様々あるが、キバのそれは「極短距離を移動する」瞬身の術だ。

 忍術学校において忍者の初歩の初歩として学ぶ「分身の術」などにも使われる技術の応用である。

 忍術において基本中の基本、しかし、実戦においてはとても使用できるものではないと言われた術を、キバは徹底的に見直し、自分専用の術として構築しなおした。

 相手がキバを認識し、攻撃を打ち込んだ時には既にそこにいない程、その術は完成された。

 相手にとっては攻撃がキバをすり抜けているようにも見えるかもしれない。

 それだけの動きをし、そこから繰り出される最速の打撃。

 一撃一撃は弱いかもしれない。

 しかし、「雨垂れ石を穿つ」の故事通り、それが千、万であるならばどうか。

 比喩抜きでペイン餓鬼道に撃ち込まれた拳は千を下らない。

 それだけの打撃で体を揺らされているのだ。

 確かにペインは死体である。

 故に、痛覚による体の動きの麻痺は起こらない。

 しかし、弱い打撃であろうともダメージは蓄積されていく。

 既にペイン餓鬼道の顔はひしゃげつつある。

 その最大の武器である輪廻眼もそのひしゃげの中に埋没していっている。

 とはいえ。

「…無駄だ!」

 さすがにペインは神を名乗るほどの優秀な忍だった。

 キバの動きをタイミングから読み取り、捕えるべくその腕の伸ばしてきた。

「っとぉ!」

 攻撃に集中していたキバの影分身は、その腕を己の腕で何とか抑え込む。

 餓鬼道に掴まれるのはまずい。

 ここにいるキバは影分身。

 つまりはチャクラの塊だ。

 餓鬼道のチャクラ吸引術の餌食になれば、あっさりと消滅してしまう。

 キバとペイン餓鬼道の力比べとなり、

「今だ!」

「うぉん!」

 赤丸の回転攻撃「通牙」を避ける事が出来なかった。

 側面からの攻撃を受け、異様な形に腕が曲がる。

 ペイン餓鬼道は大きく弾き飛ばされた。

「とどめだ!

 喰らえ『通牙二連』!」

 擬獣忍法で赤丸の特性を取り込んだキバ、そして赤丸の分身が同時に「通牙」での攻撃を連続で行う。

 通牙の直撃を受け、動きの鈍ったペイン餓鬼道ではさばききれないはず。

 そう、彼1人ならば。

「なに!」

 ペイン餓鬼道とキバ達の間に割り込んだ者がいた。

 それは、キバ達の通牙二連をものともせず弾き飛ばす。

 ペインの1体、ペイン修羅道。

 ペイン修羅道の頭部が開き、中から金属光沢のドーム状の頭蓋骨、のようにも見えるものが現れる。

 そこから。

 どっ!

 強烈な光が漏れだし、周囲を破壊の渦に巻き込んでいく。

 その力の本流に、牙と赤丸の影分身が飲まれていく。

 その光のせいで、ペイン達には見えなかった。

「へっ、任務完了」

 そうキバの分身が行っているのを。

 

 

 

 火影の執政室。

 そこで綱手は全体の指揮をとっていた。

 次々に寄せられる情報。

「一般住宅地区、避難完了!

 商業地区は逃げ遅れたものがいます! 現在予備役の者達が捜索中です!」

「ペインの一体の能力確認!

 質問をする形で幻術を仕掛けるようです!

 質問に対して虚偽を言うと死亡させられる様子!

 接触の必要があるようです!」

「同じく接触による即死攻撃のある個体を確認!

 攻撃時に記憶を吸い取られる模様!」

「ペインチャクラ吸引型の腕を破壊!

 マーキング完了!」

「同じくペイン広域殲滅型、マーキング完了!」

「ペイン首魁型の能力判明!

 斥力、引力を行使し、自身を中心とした球状に効果を及ぼす様子!

 術使用の間隔有り、5秒程度の様子です!」

「ペイン口寄せ型は確認できず!

 どこかに潜んでいるようです!」

 眉を顰める6代目火影・千手綱手。

 そこに、分析班からの情報が舞い込んだ。

 

「…なるほど。

 つまり奴らは体に埋め込まれた黒い暗器によって命令を受けて動いている人形、という事か。

 それ故に、武器として体に突きこまれた時に自身のチャクラが乱れるのか…」

 綱手はこれで相手のあらかたの手段が理解できた。

「つまりは電波による遠隔操作に近い、か…」

 ならば。

「どこかにペインの本体、もしくは中継基地がある、という事だな」

 綱手は外に出ているシズネの代わりとした暗部の忍に、指令を出した。

 

「来たな…。

 赤丸、気張るぜ!」

「うぉん!」

 キバ達の居る火影体の庭先にはキバ、赤丸の他2人の忍がいた。

「キバ君、赤丸君、こちらの準備は万端です」

 ドス・キヌタと、

「くっそ、雨隠れの連中、ぶっ潰してやる!!」

 やたらいきりたっている童多由也である。

「…なあ、キヌタよお、なんで多由也あんなんなんだ?」

「…さっき報告が入ったんですが、イルカ先生、ペインと鉢合わせしたそうで」

「うぇ!? 先生大丈夫なのかよ!?」

「ええ、カカシさんが割って入ってくれたそうで傷1つないとの事です」

「そっか、良かった…。

 ああ、んであの有り様か…」

「そう言う事です。

 下手な事言うと八つ当たりされますよ…」

「何か言ったか、てめえら…」

「いえ別に」「何も言ってねえよ!」

 そうしている間にも周囲に法陣が書かれ、大規模な術の準備が済まされていた。

「んじゃキヌタ、多由也、頼んだぜ」

「お任せを」

「分かってるって」

 そう言うと、多由也は愛用の笛を取り出し、曲を奏でだした。

 抑揚のついたおっとりとした曲調。

 暫くすると、今度はキヌタが術を使う。

 響遁・山彦。

 周囲にある音を拡張し、広範囲に音を広げるだけの術だ。

 しかし、多由也の術と組み合わせることで、その音は里の外へと広がっていく。

 多由也の笛は決して大きな音ではない。

 それが里の周囲5里(20km)以上に広がっていく。

 そして多由也の曲が里とその周辺をすっぽり覆った所で。

「赤丸! 今だ!!」

 擬獣忍法でキバが同調、調整を行った赤丸の咆哮が、

 

 轟っ!!

 

 里全体に響き渡った。

 多由他の術はこの赤丸の咆哮を、その特性ごと広範囲に伝える為のものだった。

 多由也の笛によりチャクラを運び、更にそれをキヌタの術で広範囲に広げる。

 その巨大なチャクラの網に乗って赤丸の咆哮が周囲を貫いた。

 

 赤丸はのりにのっていた。

 忍犬の隠れ里におけるシャレにならない修行の日々。

 それもこれも今日この為にあると思えばつらくも…やっぱり辛いけど。

 それでも己の実力を里全体に誇示できる機会だ。

 しっかり務めさせてもらおうか。

 そうして赤丸は自分の力を開放した。

 彼の力、それを見出したのは大口の真神を名乗る狗神。

 彼女は赤丸の中の血に「疾平」を見出していた。

 それは狗神の英雄の血。

 嘗て有った狗神と猿神との抗争において最強を誇ったモノの血脈。

 彼の血族には人に於ける血継限界の様な、特殊な忍術を行使する能力があった。

 それが疾平の破幻。

 赤丸の咆哮にはそれだけで幻術を破棄する能力があった。

 その力が多由也の笛の音に載って里の外まで拡散する。

 そして。

 

 ぱきいぃぃんん……

 

 まるでガラスが砕けるような音と共に。

 木の葉隠れの里の郊外に、巨大な尖塔が姿を現した。


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