NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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今回はサスケ対イタチの戦いの最中に起きたことを書いております。



第86話 イタチとサスケ

 その時何が起こったか イタチとサスケ/介入する者

 

 物音ひとつ立てず、木の葉隠れの里の上忍・メイキョウは森の中を疾走していた。

 小鳥が止まっていた枝の数センチ脇を疾駆する。

 しかし、小鳥はその事に気付かない。

 メイキョウの通り過ぎた後に風が巻く、それを不思議そうに首を捻ったのみ。

 メイキョウは置いてきた部下達を心配しつつも、この先にいるであろううちはサスケ、そして。

「まだくたばるなよ、イタチ…」

 彼はそう呟いて更にその速度を上げた。

 

 うちはの隠し拠点の1つ、その前で干柿鬼鮫、そして。

「くあぁあっ! やっぱり先代は強い、かあっ!」

 今は「蛇」を称する一団の鬼灯水月が戦っていた。

 いや、戦いと呼ぶにはちと稚拙かもしれない。

「ふむ、だんだんと振りが鋭くなっていますね、感心感心」

「ちっくしょお~っ!

 甘く見てくれちゃってまあ!!」

 水月の振り回す「断刀・首切り包丁」を己の持つ「大刀・鮫肌」で受けるまでもなく、時に避け、時にその拳で刀身を叩いて受け流す鬼鮫。

 明らかに格の違いが分かる試合である。

「試合じゃないっての!」

「そうですね、ただの稽古です」

「だーかーらー!!」

 鬼鮫に完全に遊ばれている水月。

 とは言え、鬼鮫のアドバイスを確実にモノにしつつある所はさすが天才児と言えるのではないだろうか。

 彼らがそうしているおかげで。

「オレはこうも易々とアジトに入りこめる訳だが」

 感知役の香燐はなんだかんだいって水月を気にしている為メイキョウに気付かない。

 メイキョウは彼らを置いて、アジトの中に入っていった。

 

 中ではサスケとイタチの壮絶な死闘が続けられていた。

 今は体術合戦。

 いましもサスケの仕掛け手裏剣がその刃を打ち出し、イタチの足を抉った所だった。

(あの馬鹿が…!)

 メイキョウはあまりにも鈍いイタチの動きに、今のイタチの状況を悟った。

 今のイタチは死に体だ。

 予想はしていたものの、

(あいつは死ぬ気か…)

 メイキョウには彼の考えが分かってしまった。

 一言で言うならば。

(写輪眼の使いすぎだな…)

 写輪眼には欠点がある。

 視覚から入ってくる情報が膨大すぎて脳への負荷が大きいのだ。

 うちは一族の場合、脳への負担を軽減する身体強化の術もあるのだが、常時使用するとなるとまた状況は変わる。

 チャクラが尽きる可能性もある危険な行為である。

 だが。

(アイツ、うちはの禁術を使ったな…)

 うちはには写輪眼を使う為の身体強化の内、危険を伴う為に禁術指定をしている術がある。

 脳の負担をチャクラで軽減し、軽減できない部分を身体への負担と入れ替える術である。

 負担分は大概軽いものであり、その為に手軽にこの術を使用し、気がつくと手の施しようがないほど身体が傷んでいる事例がかつてあり、その為禁術に指定されたのだ。

 しかし、それでもイタチは禁術を使用してまで写輪眼を使い続けた。

 それは。

(写輪眼を「成長」させる為、か…)

 写輪眼は大きく分けて2つの部位に分類される。

 1つは言うまでもなく眼球。

 そしてもう1つは目からの情報を受信し、また眼の中に蓄えられるチャクラに指令を出す脳の部位である。

 視神経と繋がる脳は、それほど大きな変化をする事はない。

 瞳術の強化・制御程度のものだ。

 うちは一族として先天的に写輪眼を持っているサスケは写輪眼を自在に起動、休眠させる事が出来るが後天的に取得したはたけカカシは写輪眼を休眠状態にできない。

 それはカカシの脳に写輪眼のオン・オフ機能が備わっていない為である。

 眼球は違う。

 使えば使うほど眼の中に集まるチャクラが増え、また効率も良くなる。

 使えば使うほど瞳術が強化されるのだ。

 無論それによって脳に入ってくる情報は桁外れのものとなり、負担は増加する。

 しかし、それだけに育ち切った写輪眼は効率化され、移植者に負担を与える事が少なくなる。

 今のイタチの状態は写輪眼を「成長させきる」為に払われた代償なのだろう。

 こうなる前に誰かしらの「写輪眼」を移植しておけばここまでの負担にはならなかったろう。

 一度持ち主と切り離された写輪眼はそこで成長を止め、今度は使用者への負担を減らす方向に成長を始めるのだ。

 使えば使うほど使用者の必要とする情報を脳から読み取り、不必要な情報を削減するようになっていくのだ。

 メイキョウは知らなかったろうが、「永遠の万華鏡写輪眼」のカラクリがそこにあった。

 シスイの目を手に入れていたイタチならば、少なくとも片目を移植しておけばここまでの体調の悪化にはならなかっただろうに。

 それは一重に家族への愛情、うちは一族の業によるものなのかも知れない。

 写輪眼を極限まで育て、それを弟に捧げる。

 そうする事でうちは一族は残るし、弟は大罪人の兄を倒した英雄として里に迎えられる、と。

 あまりにも愚かしく、あまりにも純粋すぎる考えだ。

 だからこそ、イタチは忍の世界でやっていけたのかもしれない。

 最後に全ての罪を背負って死ぬために。

 メイキョウは戦い続ける2人に割り込もうと考え、そして、足を止めた。

 丁度サスケの「千鳥」を大きく後方へと飛ぶ事でそのダメージを軽減したイタチが、

「豪火球の術!」

「くっ!」

 火遁によって攻撃をし、それをサスケが「呪印」の身体変化で防御した所だった。

 壁際に、奇妙なオブジェが存在した。

 白と黒の顔を持つ男のオブジェ。

 それはぐにゃりと歪み、ずりずりとその頭部を壁から突き出していた。

 アレは、確か、ゼツ、といったか。

 大蛇丸の作成した音隠れの資料の中にもあった、ハエトリソウのような意匠の白と黒の男。

(アレが見ているのか…、厄介な…)

 下手に介入すると、「暁」の総大将に色々と厄介な事を悟られかねない。

 メイキョウは慎重に動くしかなかった。

 

 うちはイタチはここまでの経過に十分満足していた。

 サスケの最高の術である「麒麟」を受け、サスケの成長を知った。

 サスケの中にいた「大蛇丸」を排除する事もできた。

 後はまあおまけのようなものだ。

 心行くまで、は無理だとしても、体の持つ限りサスケの成長を見てやろう。

 お互いにチャクラはほとんど切れていると言っていい。

 ならば後は体術合戦。

 今のイタチの体力ではまずサスケに敵うまい。

 それで良い。

 後は全力で当たるのみ。

 イタチは笑みを押さえると、残る力を全て注ぎ込んで戦いに挑んだ。

 

 サスケは追い詰められていた。

 イタチの状態など理解していない。

 今の自分ではイタチに勝てない、その事だけが頭にうずまいていた。

 これで終わりなのか?

 …それだけは認められない。

「アイツ」はどうだった?

 あまりにも巨大な敵に敢然と立ち向かったアイツは。

 …負けられない。

 アイツにだけは負けられない。

 元々必要とはしていはないつもりであった。

 仲間、里、人との繋がり。

 全てを捨てて音隠れの里のに走ったののはなぜだったか。

 全てはこの一戦のためだ。

 その為に全てを捨てた。

 音隠れの里にて得たもの、サスケは意識していないのだろうが、それらを全て捨ててきたのはこの一戦のためだ。

 己を慕ってくれたものを見限り、恩師を、弟分を殺してきたのはこの一戦のためだ。

 ここで立ち上がらなければ、前に進まなければ、

アイツ(うずまきナルト)に笑われる、な」

 サスケは無意識に、そう呟いた。

 足に力が入る。

 砕けていた腰が落ち着く。

 震えていた呼吸が安定した。

「こおおぉぉ…!」

 呼吸法により爆発的な力を捻りだす技術。

 体の捻じれを利用して打撃を打ち出す技術。

 各関節から少しずつ力を伝道して威力を増強する技術。

 そして、はたけカカシから伝授された雷遁の形態変化を使い、雷遁のチャクラを左手に集める。

 掛け値なしに今のサスケにできる最大級の攻撃手段。

「行くぞイタチ、これがオレの…」

 そう言うと、サスケはイタチに向けて走り始めた。

 

 これが今のサスケの最大か。

 視力が大幅に失われつつあるイタチは、微笑みたくなるのを押さえて構えた。

 イタチが狙うのは交差法。

 つまりはカウンターだ。

 今のイタチは視力が衰え、身体能力も低下している。

 既に写輪眼を維持するだけのチャクラはなく、無論のこと「須佐能乎(すさのお)」も維持は出来ない。

 しかし、視覚以外の感覚は研ぎ澄まされている。

 死の迫る中、危機感を覚えた体が急速に周囲の情報を取り込んでいるのだ。

 聴覚、嗅覚、味覚、そして触覚。

 五感の内1つが使い物にならなくなると他の感覚器が強化されるとは聞くが、それを自身で体験する事になるとは思わなかった。

 イタチは、うちはの一族に伝わる基本的な体術の構えをとった。

 正面を向き、胸の前で手を合わせる形。

 右にも、左にも「開く」事の出来る体勢。

 この体勢からどちらに開いたとしても最速で相手を貫く事の出来る貫手を放つ。

「突いて」来る事の分かっているサスケに対し、イタチのとった構えがこれだ。

 とても万全とは言い難い状態であるが、イタチも今の己に出来得る最大限を以ってサスケと対峙する事になった。

 

 壁とほぼ同化し、サスケとイタチの戦いを監視している者、「暁」のゼツというそれは、ざあざあという雨に打たれながらどちらかの、あるいは2人共の死という形で勝負がつく、その瞬間を見ようとしていた。

「ねえねえ、どっちが勝つと思う?

 体力的にはサスケの方が有利かなあ?」

 能天気な言葉を放つ、半身の白い方・白ゼツ。

「ドウカナ?

 経験的ニハ圧倒的二いたちノ方ガ有利ダロウ。

 シカシ、先程カラ血を吐イテイルノガ気ニナル…」

 そして冷静な物言いをする、発音のイントネーションがが微妙に違うのが黒ゼツ。

 彼らの目の前で、2人が構える。

 1人は全速力を以って敵に当たり、もう1人はそれを捌き、交差の一撃を見舞おうとしている。

 サスケが走り出した。

 最初の走りだしはそれほど速い様に感じない。

 しかし、

「…ねえ、なんかサスケがぶれてない?

 僕の気のせいなのかなぁ?」

「実際ソウ見エテイル。

 アレハ体ヲ揺ラシ、自分ノ重心ヲ相手二悟ラセナイ歩キ方ノ応用ダ。

 アレダケ完成サレタモノハソウナイダロウガ」

 サスケは大蛇丸との決闘以来、「捻じり千鳥」の精度を更に高めていた。

 木の葉隠れの里においてナルトと病院の屋上で戦った時より、サスケは自分に足りないものは信頼に足る「術」だと考えていた。

 己の命を任せるに足るだけの術、イタチに叩きつける精神的主柱としての最強の技、それを「捻じり千鳥」に求めた。

 その為、サスケは習得した忍術、体術の要諦を組み入れる事が出来るだけねじり千鳥に組み入れていた。

 それはまさに天賦の才能を持つ者だけが許される領域に達していた。

 ナルトであれば不可能なほどの細かな調整をされた、正に芸術的な体術であった。

 それ故、よほど体術を極めたものでなければ「サスケの体がぶれて見える」状態になるのである。

 忍びの中においてサスケのこの捻じり千鳥の価値を理解しきれるものは極一部であろう。

 木の葉隠れにおいてはマイト・ガイ、志村ダンゾウ、後は師であるはたけカカシ程度のものであろうか。

 あまりにも組み入れられている要諦が多すぎてブンブクでは把握しかねるだろう。

 まるで分身でもするかのようにサスケは上下前後左右とぶれながら突進し、ある時、

「消えた!」

「ムウッ!!」

 一瞬にしてイタチの懐に飛び込んだ。

 その瞬間、ゼツの視界にあり得ないものが映り込んだ。

 

 サスケは加速に入った。

 今までの動きでため込んだ加速のためのエネルギーを一気につぎ込み、複雑な軌道を描きながらサスケはイタチに迫った。

 イタチは写輪眼を使用していない。

 にもかかわらず、イタチの目はサスケの動きを捕え、左足を後方に、右の腕を前に突き出し、右の貫手をサスケに打ち込まんとしている。

 なにか神々しさすら感じられるその佇まい。

 燃え尽きる寸前の灯が一瞬燃え上がるそのさまにも似て。

 それは美だった。

 デイダラの感じた、滅びゆく者の放つ一瞬の強き光、それをサスケも感じていた。

 さすがだ、兄さん。

 サスケは声に出さず、そう呟いていた。

 しかし、だからと言ってサスケは止まらない。

 イタチの体の中心に、この腕を叩きこむ、その為にここまで生きてきた。

「その為に! ここまで来たんだあっっ!」

 その時、ほんの半瞬、その更に10分の1ほどの瞬間、イタチの視線がそれた、ような気がした。

 これが好機(チャンス)

 サスケの全身全霊を込めた左の突きがイタチを襲った。

 その背後に何かいたような気もするが、イタチに集中していたサスケが意識する事はなかった。

 

 サスケの近づいてくるのをイタチは感じていた。

 視力はイタチの予想通り、じわじわと低下していた。

 今まで写輪眼に力を注いでいたその結果が、イタチの体を蝕んでいた。

 しかし、今まで写輪眼のみに注力していた部分を他の感覚、特に触覚、に回した結果、なんとかサスケの気配を感知する事は出来る様だ。

 それなら、サスケと「きちんと」戦ってやれる。

 イタチはそれが嬉しかった。

 イタチの知る限り、うちはの一族で生きているのはイタチ、サスケの兄弟と…。

 最後に残るであろうサスケには、その後の一族を盛りたててもらわなければならない。

 もう1人には痛烈なお返しを既に仕込んである。

 

 イタチには、サスケの加速が認識は出来なかった。

 ただ、今まで年齢に似合わぬ修羅場を数多く潜って来たイタチの経験則が、サスケの攻撃を予測させた。

 体を開き、相手に向けた体表面積を減らし、必殺の一撃を打ち込んでくるサスケの攻撃に合わせ、右の貫手をカウンターとして打ち込む。

 …勝てないだろう。

 だが、それで十分。

 そう考えた時だ。

 視界の端に()()が映った。

 …まあ良い、…いや。

 奴、ゼツの視線はどこにある?

 自分達、ではなくその後ろにあるような。

 意識が一瞬サスケから離れ、イタチは己の敗北を悟った。

 しかし、意識は敗北を理解していたとしても、経験に縛られたその体は貫手をサスケめがけて繰り出していた。

 2人の腕が交差し、げきと

 

 

 

 

 

 

 壁とほぼ同化して戦いを監視している者、「暁」のゼツは、雨に打たれながら勝負がつく、その瞬間を見ようとしていた。

「ねえねえ、どっちが勝つと思う?

 体力的にはサスケの方が有利かなあ?」

 白ゼツがそう言う。

「ドウカナ?

 経験的ニハ圧倒的二いたちノ方ガ有利ダロウ。

 シカシ、先程カラ血を吐イテイルノガ気ニナル…」

 黒ゼツがそれに対して冷静に切り返す。

 彼らの目の前で、2人が構える。

 1人は全速力を以って敵に当たり、もう1人はそれを捌き、交差の一撃を見舞おうとしている。

 サスケが走り出した。

 最初の走りだしはそれほど速い様に感じない。

 しかし、

「…ねえ、なんかサスケがぶれてない?

 僕の気のせいなのかなぁ?」

「実際ソウ見エテイル。

 アレハ体ヲ揺ラシ、自分ノ重心ヲ相手二悟ラセナイ歩キ方ノ応用ダ。

 アレダケ完成サレタモノハソウナイダロウガ」

 サスケは大蛇丸との決闘以来、「捻じり千鳥」の精度を更に高めていた。

 それはまさに天賦の才能を持つ者だけが許される領域に達していた。

 それ故、よほど体術を極めたものでなければ「サスケの体がぶれて見える」状態になるのである。

 まるで分身でもするかのようにサスケは上下前後左右とぶれながら突進し、ある時、

「消えた!」

「ムウッ!!」

 一瞬にしてイタチの懐に飛び込んだ。

 

 サスケは加速に入った。

 今までの動きでため込んだ加速のためのエネルギーを一気につぎ込み、複雑な軌道を描きながらサスケはイタチに迫った。

 イタチは写輪眼を使用していない。

 にもかかわらず、イタチの目はサスケの動きを捕え、左足を後方に、右の腕を前に突き出し、右の貫手をサスケに打ち込まんとしている。

 なにか神々しさすら感じられるその佇まい。

 燃え尽きる寸前の灯が一瞬燃え上がるそのさまにも似て。

 それは美だった。

 デイダラの感じた、滅びゆく者の放つ一瞬の強き光、それをサスケも感じていた。

 さすがだ、兄さん。

 サスケは声に出さず、そう呟いていた。

 しかし、だからと言ってサスケは止まらない。

 イタチの体の中心に、この腕を叩きこむ、その為にここまで生きてきた。

「その為に! ここまで来たんだあっっ!」

 サスケの全身全霊を込めた左の突きがイタチを襲った。

 

 サスケの近づいてくるのをイタチは感じていた。

 視力はイタチの予想通り、じわじわと低下していた。

 しかし、今まで視力に注力していた部分を他の感覚、特に触覚、に回した結果、なんとかサスケの気配を感知する事は出来る様だ。

 それなら、サスケと「きちんと」戦ってやれる。

 イタチはそれが嬉しかった。

 イタチの知る限り、うちはの一族で生きているのはイタチ、サスケの兄弟と…。

 最後に残るであろうサスケには、その後の一族を盛りたててもらわなければならない。

 もう1人には痛烈なお返しを既に仕込んである。

 

 イタチには、サスケの加速が認識は出来なかった。

 ただ、今まで年齢に似合わぬ修羅場を数多く潜って来たイタチの経験則が、サスケの攻撃を予測させた。

 体を開き、相手に向けた体表面積を減らし、必殺の一撃を打ち込んでくるサスケの攻撃に合わせ、右の貫手をカウンターとして打ち込む。

 …勝てないだろう。

 だが、それで十分。

 

 2人の腕が交差し、激突した。

 

 …暫しの間、周囲を雨音のみが支配していた。

 立ちすくむサスケ。

 地に伏しているのはイタチ。

 勝敗ははっきりしていた。

 イタチの胴体は消し飛んでいた。

 その顔には安どの表情が刻まれたまま変わる事はない。

「…イタチ、兄さん」

 もはやその声に答える者はない。

 震える手でサスケはイタチの顔に手を掛けた。

 その瞬間。

 イタチの手足から黒い炎が立ち上がった。

 イタチが最後に仕掛けておいた「天照」の全てを焼き尽くす炎だ。

 サスケはしばし考え、イタチからその目を抉りだした。

 そして()()()()()()()()()小瓶にその目を保存した。

 今ある中で最強の写輪眼。

 それをサスケは手に入れた。

 サスケはそれを己の封印術の陣の中にしまい、そして、全てを使いつくしたその反動で、糸が切れるように倒れた。

 その光景を見ていたゼツは、トビに報告。

 トビは彼を回収し、「暁」のアジトへと保護したのである。

 

 

 

「メイキョウ上忍、お疲れ様です」

「こっちは何とかなったぜよ…なりました」

「で、メイキョウさん、そちはどうだったんすか?」

「首尾の方はどうです…」

「任務は完了した。

 里へ帰還する。

 しかしお前ら、…良くやったな。

 帰ったら焼肉おごってやる」

 

 

 

 閑話 暗躍する者 木の葉隠れの里にて

 

「…はい、これで良いですよ、お大事に」

「ありがとうございます」

 ペインによる襲撃で怪我人の溢れる木の葉隠れの里にて、負傷者の救済に当たる美青年が1人。

 ちと時代遅れの「薬売り」の姿をしたその青年は、民家の一角を借り受けて襲撃の被害者の治療をほぼ休みなしに行っていた。

 無論のこと、医療忍術などは彼は使用できない。

 昔ながらの骨接ぎと薬草による痛み止め、傷の洗浄と縫合によって治療を続けていた。

 青年の仕事は丁寧だ。

 極力痛みなく、骨折した骨を綺麗に寄せ、傷口に異物などが絶対にない状態で縫い合わせていく。

 本来ならば医療忍者の出番であろう複雑骨折をした負傷者も、今はあまりにも数が多い。

 後に「第2次木の葉医療忍軍デスマーチ」と呼ばれるこの惨状において、この青年の行った施術により健康体へと回復した里の民、忍はかなりの数に上った。

 確かに青年は医療忍術が使えない。

 しかし、医療忍術を使用する事前段階として傷の悪化、骨折の無理な癒着が起きなかったのは彼のおかげでもあったのである。

 

 また、青年は大きな人災に巻き込まれた一般市民の不安相談なども行っていた。

 まあ、治療の合間に患者からの相談を受けて、そこから評判になって彼に相談する人が増えていった、という事なのであるが。

 治療の合間を縫って相談する者達はやってくる。

 それを嫌な顔もせず、青年は彼らの相手をしていた。

 

「…今回の事で、私、どうしたら良いか分からなくなったんです」

 今目の前にいる女性の悩み、というか不安を青年は聞いていた。

「なるほど。

 彼氏さんは木の葉の中忍なんですね。

 それで、このまま付き合っていて、彼が死んだらどうしようか、と考えている、と。

 確かに今回の事は大きな事件でしたよね。

 それで心配になるのは分かりますよ、私だって不安ですしね」

 青年は彼女へのいたわりを乗せてそう声を掛けた。

「はい。

 彼の事は好きです。

 でもそれだけに、戦いで彼が死んでしまったら、そう思うと…」

 女性は辛そうだ。

「…そうですね。

 まずは彼氏さんと話し合う所から始めるべきでしょう。

 お互いをお互いがどう思っているのか、それ次第ですよ。

 大丈夫、彼氏さんだってこんなかわいらしい彼女さんを置いて死にたいとは思わないでしょうし、守るものがあるからこそ頑張れる、というのも事実なんですから。

 まずお話して来なさい」

 青年はそう言って女性を送りだした。

「先生、ありがとうございます」

 彼女はそう言って出ていこうとした。

「ああ、すいません。

 その『先生』というのは面映ゆいので、やめてもらえると…」

 青年は照れ臭そうにそう言った。

「あ、すいません。

 じゃあ…」

「私の名は『シロウ』と言います。

 出来ればそちらで…」

「じゃあシロウ先生ですね!」

 彼女は元気にそう言うと、診療所代わりに借りている民家から出ていった。

「いやだから先生はやめてほしいなって…、聞いてないかあ」

 彼は何とも情けない顔をして、そう呟いた。

 

 シロウという彼から助言を受けた女性は、中忍である彼氏と話をした。

 その話は長く掛かった。

 一晩語り明かし、彼氏彼女の愛情はより深いものとなったようだ。

 その結果、気合の入った彼は特別上忍に昇格する。

 生活は安定し、1月後には籍を入れ、彼氏彼女は夫婦となった。

 彼氏であった夫は家庭を得、それを守るためにより一層任務に力を入れ、そして妻を愛した。

 さて、特別上忍、上忍というのは前にも語ったかと思うが意外なほど独身が多い。

 夫となった特別上忍を羨む者も多かった。

 そういった者達の中には焦りと共に見合いを設定してもらい、結婚することを前提の付き合いを始める者達もいた。

 彼らは異性との付き合いを通じて、今までになかった考えを持ち始めていた。

 すなわち、

「死にたくない」

 である。

 その考え方はじわり、じわりと上忍達の中に浸透していった。

 上忍達の中には中忍、下忍の担当を行う「担当上忍」である者も相当数いた。

 その考え、思いは中忍・下忍達へも伝わる。

 じわり、じわり、と木の葉隠れの里の忍たちの士気が落ちていた。

 里の長である火影、陰謀を旨とする「根」の長である志村ダンゾウ、「暗部」の精鋭達、そしてうずまきナルト達、これから里を背負っていく若い世代の者たちにも気づかれないままに。




次回はペイン襲来時の木の葉隠れの里を書きます。
もしかしたら何回かに分けて書く破目になるやもしれません。

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