閑話スタートです。
第一弾はデイダラのお話。
かなり捏造しております。
第85話 デイダラ対メイキョウ班
その時何が起こったか デイダラの戦い
複雑な文様の彫り込まれた牢獄。
その中に男は座り込んでいた。
「…これはこれで、うん」
男は一心不乱に手元の粘土をいじりまわしていた。
1塊りほどの粘土とへらを使いこなし、彼は非常にシンプルながらも完成度の高い何かを作り上げていた。
「…しかし、まさかオイラがこうなるとはなあ、うん」
男、「暁」のデイダラは暫く前を回想していた。
彼、デイダラは怒り狂っていた。
木の葉隠れの里の忍チームであろう者達。
彼らは上忍であろう覆面の男に、「デイダラの相手は自分達がするから先に行け」と
つまりは中忍如きが3人でこのデイダラの相手をする、と言う事。
これが怒らずにいられようか。
「…いい度胸だ。
ここで綺麗に消滅させてやる、うん」
デイダラは凶暴な笑みを浮かべた。
初手は木の葉隠れの里の忍達が取った。
葛城鬼童丸が「蜘蛛粘金」によって森の中にデイダラ達を引きずり落としていた為である。
デイダラの戦術は今までナルト達が集めてデータと音隠れに手解析されていたデータ、この2つによりかなりの部分が解析されていた。
彼の恐ろしい所は、まず広域殲滅能力。
頭上からの範囲攻撃は大概の者を滅ぼすだろう。
また、小型の対尾型爆発忍術も恐ろしい。
追いかけて来て、取り付くと爆発。
至近距離で爆発されると大きな隙が出来る。
その他に様々な爆発に関する小技を使い、あの風影、砂瀑の我愛羅すら倒している実力者だ。
故に、戦うのであれば自分達の有利な戦場を選ぶ。
その為に広域破壊を行い辛い森の中を選んだのである。
それに、だ。
「んじゃ行くぜよ! 蜘蛛粘金!」
鬼童丸が口から糸を吐き出した。
辛うじて目に映る細い糸。
それは森の中に縦横無尽に張り巡らされてデイダラの移動を妨げる。
なるほど。
オレの動きを封じて、ならば次は。
「ふうぅっ…!」
比良山次郎坊が突進してくる。
体格の割に、かなり素早い動きだ。
とはいえ、それを喰らってやるデイダラではない。
その攻撃をいなしつつ、手元から細かく起爆粘土を砂の様に撒き、仕込みを行う。
こいつら如きに芸術は必要ない。
そう考えていたデイダラであった。
「…兄貴」
「ああ、ったくかったりい…」
その仕草は宿儺左近・右近の兄弟に既に見切られていた。
「ああ言うのはなあ」
「だな、ブンブクの得意技だしな」
左近達はその
また、訓練に関してもブンブクとの手合わせはそれなりにある訳だ。
そして言ってしまえばブンブクは「小技のおもちゃ箱」である。
とにかく使えそうな小技を様々試してくる。
その度に結構な確率でひどい目に合うのは双方同じ事。
こと、未熟な作戦でブンブクは色々痛い目を見ている。
とは言え、それが功を奏する事も度々だ。
未だ忍としては左近達の方が強い、と言って良い。
ところが、練習試合での左近達の勝率は6割。
単純なスペックではほぼ負ける事がないはずの試合で6割である。
この勝率は結局の所戦術の差なのだろう。
その為、左近達はどうしても意識を改革せざるを得なかった。
ブンブクを見て、そして自分達も考えた数年。
その経験がデイダラの弄している策を気付かせた。
左近が移動を担当しつつ、左近に「双魔の攻」で融合した右近が印を組む。
そして放たれる術は…。
「雷遁・地走り…」
その術は地面を伝い、デイダラと次郎坊のいる地面を帯電させていった。
「ちっ、読んでたか、うん!?」
デイダラの起爆粘土は土遁の性質変化を持っている。
そして土遁は雷遁に弱い。
その為、起爆させていない粘土は、雷遁のチャクラを受けるとその力が散じてしまう、つまりは爆発しなくなるのだ。
雷遁による対策はデイダラも予想済みだ。
故に、このような小技を使ったのだが、
「さすがに通じねえか、うん…」
デイダラはこいつらと「きちんと」戦うことを決めた。
「がはあっ!!」
爆音と共に次郎坊が弾き飛ばされ、地面に何度かバウンドした後に動かなくなった。
遊びを「始めた」デイダラは強かった。
C1型を無数に放ち、それがそれぞれ異なる軌道で左近達に迫る。
左近達と鬼童丸は己の防御の身に精いっぱいになり、次郎坊への支援が遅れたが故であった。
「次郎坊! くっそ、対処が遅れたぜよ!?」
張り巡らされた糸を蹴り、辛うじてC1型爆弾を空中で回避する鬼童丸。
余裕などと
本気になった暁、それがどれだけの手練れなのか、把握はしていたつもりだった。
だが、実際に対峙してみると桁が違う。
とにかく、この起爆粘土と言う奴があまりにも厄介だ。
クナイなどの飛び道具と違い、元の大きさと、実際の攻撃範囲が違いすぎる。
爆破による爆風の範囲が大きすぎるのだ。
豪火球の術なども、その範囲は目に写る。
感じとしては不可視の刃などを使う風遁に近いか。
その為、想定より大きく回避をしなければならず、体力を消費させられる。
右近の雷遁は確かに起爆粘土その物を起動不可能にする。
しかし、その為に右近はチャクラを使い続けていた。
デイダラの秘技、爆遁による起爆粘土の利点。
それは事前にチャクラを練り込んでいる事。
つまりは、チャクラを練り込んだ起爆粘土を使いきるまでは己のチャクラを温存できるという事でもある。
チャクラはスタミナに直結する。
右近達と鬼童丸は確実に体力を消費させられていた。
「…やるしかねえか!
左近、右近、一気に押すぜよ!」
鬼童丸がそう言った。
「…仕方ねえ!」
「…疲れんの嫌なんだがなあ」
相も変わらずだらりとした物言いの左近達。
それに構わず、
「いくぜよ!!
『鬼子母流秘伝変化・三面六臂、ナタク変!』」
その瞬間、鬼童丸の外見が大きく変化した。
頭部の側面、その両側に鬼童丸のものと同じ顔が浮き出たのである。
更には背面から腕が2対4本。
「ぷぅっ!」
更に鬼童丸は「蜘蛛粘金」により即席の鎧を身に纏った。
「瞬身・風火輪の術!」
その速度にC1はついていけない。
デイダラの周囲を縦横無尽に動きまわり、攻撃を絞らせない。
更に、
「蜘蛛粘金・
蜘蛛粘金で作り上げた大型の投擲武器を投げつけてくる。
円輪がデイダラに迫る。
とは言え、威力そのものは凄まじいがデイダラにとっては、
「遅いな、うん」
C1型起爆粘土で十分に対処可能だ。
爆風によってあっさりと弾かれる円輪。
しかし、
「なにっ!?」
円輪はその軌道を変えると、速度を増しつつデイダラに迫った。
「…なるほど、操手裏剣か、うん」
デイダラはそのカラクリが読めた。
円輪にあらかじめ極細の鋼線を固定し、それによって円輪をある程度制御する。
うちはサスケ、そしてその手裏剣の師匠であるイタチの得意技だったはずだ。
それ故に、イタチの術を研究していたデイダラには分かり易かった。
「なら、これでどうだ、うん!」
C1型に命令を出し、円輪と鬼童丸を繋ぐ空間に連鎖的な爆発を起こす。
その瞬間、カランと円輪が地面に転がった。
鬼童丸の操っていた糸が切れたのだ。
デイダラはにやりと笑い、その笑みが凍りついた。
「甘いぜよ!
その程度で乾坤圏は止まりはしねえ!!」
鬼童丸が操っているようにも見えないのに、円輪はふわりと浮きあがり、そして元の速度を取り戻すとデイダラに襲いかかって来た。
「く、どういうことだ!?」
何らかのカラクリがあるはず、デイダラは左目のスコープで周囲の解析を始めた。
しかし、その一瞬の集中、その際に、
「がっ!」
円輪が脇腹を掠める。
今の角度なら、鬼童丸が操っているなら確実にデイダラに体に糸が引っ掛かるはず。
しかし集中の必要な念力型の技ではない。
鬼童丸が術に専念している様子はなかった。
ならばなぜ?
それはデイダラのスコープが教えてくれた。
「…ちっ、そう言う事かよ、うん」
カラクリはまたもや糸。
周囲に張り巡らされた鬼童丸の糸、その煌めきが軽い幻術の導引となっていた。
そしてその糸から円輪に糸が伸びていた。
鬼童丸は己の吐き出し、周囲に張り巡らした蜘蛛の巣の様な糸からなら自在に円輪へを糸を伸ばし、それを操作する事が出来たのだ。
幻術はそれをカモフラージュする為のもの。
つまりは、
「この蜘蛛の巣を排除しない限り、この輪っかは襲ってくる、と言う訳だ、うん」
何とも厄介な。
こうなれば多少強力な奴で吹き飛ばして、と考えていると。
「水遁・水弾!」
「風遁・冷夜風…」
左近と右近が別々の性質の術を行使する。
そして、
「双魔の攻・擬似血継限界、氷遁・風雪地獄!!」
2つの性質のチャクラは混じり合い、擬似的な血継限界を生み出した。
無論、完全に融合して発生する血継限界の術には及ばない。
しかし、その術の多様性は純粋な血継限界に勝るであろう。
なんとなれば、血継限界は1家系につき1つ。
しかし双魔の攻を応用した擬似血継限界ならば、五遁の組み合わせである血継限界全てを劣化版とは言え使用できる事になる。
それがどれだけの効果をもたらすか。
実際、左近右近の発動した術は直撃こそしなかったものの、デイダラを焦燥させていた。
「くっそ、手が思うように動かねえ、うん…」
デイダラの強さはそのモチベーションに大きく左右される。
そして手先の器用さは起爆粘土を使った造形の出来に直結する。
満足する出来の粘土細工でなければデイダラは爆破するにしてもそのモチベーションが上がらない。
それは術の精度に繋がってしまう。
単純にいえば、粘土細工がうまく作れないと、デイダラは弱体化するのだ。
左近・右近の繰り出した忍術による局地的な暴風雪は急速にデイダラの体温を奪い、手足をかじかませていた。
動きの鈍ったデイダラに円輪が迫る、そして。
「…オレをなめんじゃねえ! うん!」
デイダラは自身の周囲に起爆粘土での障壁を作った。
それは塔にも、人にも見える奇矯な代物。
象徴美術の結実とも取れるそれを、左近は鼻で笑った。
「無駄な事を…、兄貴!」
「わあってる、雷遁・雷弾の術!」
起爆粘土でつくられ、広範囲に爆発の衝撃を伝えるであろうそれ、しかし土遁で作られた起爆粘土は雷遁に弱い。
それが分かっている右近は、起爆粘土を雷遁で貫こうとし、次の瞬間。
ぐわぁぁんっ!!
障壁は内側から炸裂し、まるで陶器の様に硬化し、鋭く尖った粘土が周囲にぶちまけられた。
地面に倒れ伏した左近右近と鬼童丸を眺めながら、泥まみれになったデイダラは肩で息をしながらもにやりと笑って見せた。
この術は、「天秤のイリヤ」から聞かされた、大蛇丸の戦術を模倣したもの。
先の障壁は二重構造となっていた。
表面の粘土には十分な土遁のチャクラを。
そして、内側のものはいったん形成した後に、チャクラを抜いたものを。
その間には水遁のチャクラを含ませた揮発しやすい水を
右近の打ち出した雷遁は土遁のチャクラを貫通、吸収しながら内側の水へと到達。
本来のものよりも大量のチャクラを保った術は内側の水へと吸収、炸裂した。
雷遁のチャクラは内側の水へとその膨大なエネルギーと伝え、そのエネルギーによって瞬時に蒸発した水は一気にその体積を増加させた。
いわゆる水蒸気爆発である。
そして土遁のチャクラを吸収されつくし、ただの粘土となっていた外殻はそのエネルギーによって瞬時に硬質化、更には一気に膨張した水によって弾け、その鋭い破片を周囲にぶちまけたのである。
「なかなかに上手くいったな、うん。
これは、『爆遁・爆応装甲』とでも付けるか、うん」
さて、後はこいつらをきれいさっぱり爆破して終わりに…、そう思ったデイダラだが。
「…ほう、まだ立ってくるか」
「…当然、ぜよ」
「わりいなぁ、鬼童丸」
「助かったぜ…」
爆風と破片を受ける直前の右近・左近の間に体を割り込ませたのは鬼童丸。
超硬度を誇る硬化した蜘蛛粘金はその役割を十全に果たしていた。
ほとんどの破片は金属質のその鎧に弾かれ、鬼童丸へとダメージを与えていなかった。
しかし。
「む、ぐうっ…!!」
鎧と言うものは関節部がもろい。
それは鬼童丸の造ったものとて同じ。
不幸な事に鬼童丸の両ひざ、その側部に外殻の破片が突き刺さっていた。
「へっ、これで身動きがとれねえなあ、6本腕、うん」
これであと…1人?
右近と左近を見てデイダラは首を捻った。
「まあ良い、綺麗に吹き飛ばしてやる、うん」
とは言え、相手は雷遁使い。
自分にとっては鬼門であった。
「吹き飛べ! C1!」
デイダラは昆虫のようなC1型起爆粘土を数体左近右近に投擲した。
自律行動をとるそれらはあるものは地を這い、あるものは空中で軌道を変え左近達に襲いかかった。
「このっ! 雷遁!」
「…雷遁」
2人の雷遁はまるで蜘蛛の巣のように広がり、C1を捕え、そして。
どうっ!
「なっ!」
「ぐふっ!」
通常の起爆粘土の爆発をはるかに超える爆炎が立ち上り左近達を大きく吹き飛ばした。
「これぞ爆遁・火球封印起爆粘土だ、うん!」
確かに雷遁は起爆粘土を捕えていた。
性質変化の相克を考えるなら雷遁は土遁に勝り、起爆粘土は起動しなかったはず。
なのに何故。
答えは「起動したのは土遁ではなく火遁」であるからだ。
そもそも、デイダラの元々持つチャクラ形質は土遁であるものの、水遁、火遁にも造詣が深い。
元が粘土造形師であったデイダラは、卓越した戦闘技術を活かす事無く、造型の道をひた走っていた。
その際に、「質の良い粘土を入手する為」に土遁と水遁を、「作品を効率よく乾燥、焼きを入れる為」に火遁を習得していた。
元々、芸術として形を残す為に習得した忍術。
デイダラは初期には失敗の無い火遁による焼き入れを至上としていた。
しかし、窯によって焼かれ、失敗して砕けた陶器。
これに芸術を感じたデイダラは次第に「永遠に残る美」から「儚く散りゆく一瞬の美」へと傾倒していく。
そして通常の破壊に限界を感じたデイダラはついに岩隠れの里に伝わる禁術に手を染める。
禁術を習得した為に里を追われたデイダラ。
彼を殺す為の追い忍に向けて起爆粘土を放った時、デイダラにとっての転機が訪れた。
人の爆散に、デイダラは大きな感動を得たのだ。
生きて、動いて、考えて、この先数十年をそうして活動するはずだった相手。
それが一瞬にしてその可能性を燃やしつくし、消滅する。
それにデイダラは大きな「美」を感じたのだ。
ここにデイダラの「儚く散りゆく一瞬の美」への執着が始まったのである。
その為、デイダラは起爆粘土に拘った。
最初にデイダラに「美」を感じさせてくれた技。
これのみがデイダラを更なる「美」へと誘うものだとして。
しかし、デイダラはイリヤとの会話を通じて更なる「美」への発展を遂げる為、あえて起爆粘土に火遁を取り込むことを試みた。
これが「爆遁・火球封印起爆粘土」である。
通常、起爆粘土には土遁のチャクラが練り込まれ、デイダラが命令を送るとそれが爆発する。
しかし、この火球封印式は、土遁のチャクラが練り込まれた粘土は、中に封じられた火遁のチャクラの外殻として存在する。
デイダラの命令、または外殻になっている土遁のチャクラが消失すると、中に封じられた火遁のチャクラが起動、豪火球の術クラスの破壊力を周囲にばら撒くのである。
「…火遁の爆発も良いもんだな、うん」
久し振りにみた火遁の炎によって吹き飛んだ左近右近と鬼童丸を見ながら、デイダラは感慨深げに言った。
火遁の爆発。
水遁の水蒸気爆発。
そして起爆粘土による土遁の爆発。
デイダラの芸術は常に爆発である。
しかし、その表現方法は様々あっても良いのだろう。
デイダラはそう思うようになっていた。
「…ん?」
しかし、その感慨をぶち壊すように、
「まだ死んでねえっつうの…」
「全くだ…」
「ま、だまだ、ぜよ…」
左近右近と鬼童丸は立ち上がってきた。
己の芸術の完成を妨げるこいつら。
ならば。
「てめえら大したもんだ、うん。
…これはイタチ用のとっておきだったんだがな、見せてやる!」
デイダラの言葉に畏怖すら感じる左近達。
「おい、アイツ程の奴がそう言うって…」
「確かにまずいな…」
(仕込みは終わってんかよ、どうなんぜよ!?)
その間にも、デイダラは懐から一塊もある起爆粘土を口に含み、咀嚼し、のみ込んで、
「うぷっ、うぶ、うぉぉぉぉっ!」
猛烈な勢いで吐き出した。
それはすさまじい勢いで形を成して行き、
「なんだ…!?」
木立の上に頭が出るほどの巨大なデイダラの姿を模した。
「でかっ!?」
そして、
「おい、やべえぞ、あんなのが爆発したら…」
「うわ!? 膨らんで…!!」
破裂した。
強烈な風が周囲に吹きすさぶ。
しかし、
「…ふん、土流壁か。
そんなもんでオレのC4が止められると思うなよ、うん」
左近達の周囲に、ドーム状に土の壁が現れていた。
デイダラはそれを爆風を避ける為の盾だと考えた。
しかし、でいだらの奥義、C4カルラ。
それはどんな微細な隙間をも入りこむ、なのサイズの超小型爆弾の集合体。
動物の体の中に呼吸と共に入り込み、そして。
「喝!」
デイダラの号令と共に、爆発、細胞を破壊する、「爆発なき爆発」である。
生物はまるで砂が崩れるように消滅していき、後には塵が残るのみ。
見えていたとしても回避のしようの無い攻撃だ。
当然このような土壁なども貫通して中の忍の体内に入りこむ。
C4の入りこんだ動物、植物は塵となって消滅し、周囲には埃が舞っているのみになっている。
がらんとした空間となった森の中で、デイダラはドームに近付いていった。
「これで終わり。
あっけないもんだな、うん…、うん?」
デイダラは違和感に気がついた。
周囲に舞っているのは塵ではなく、霧、水蒸気であった。
なんだこれは?
そう思った時、
「っく!? 耳が!?」
耳に痛みを覚えた。
周囲の気圧が下がっている。
霧はまるで極小の氷の冷たさを示しており、どんどんその濃度を増して行っていた。
「なんだ!? 一体何が起きている!?」
その時、声が聞こえた。
「水遁」「風遁」
「双魔の攻・擬似血継限界、雲遁・積乱!」
ガラガラと崩れたドームの中にはC4の影響を受けた様子の無い右近・左近と鬼童丸、そして…。
「…なるほど、最初に
地面にその両手を付いている次郎坊であった。
次郎坊の術である土遁結界・
土を媒体に相手のチャクラを吸い取るこの術で、次郎丸はC4を構成する起爆粘土からチャクラを吸い取ってしまった。
確かにC4はこのドームを貫通して中に入る事は可能だ。
しかし、このドームに触れた瞬間、C4の名のサイズの起爆粘土はその保有するチャクラを吸いつくされ、ただの粘土となっていた。
結果、ドームの中にいる4人にはC4は届かなかったのだ。
そして、左近と右近はドームの中で双魔の攻による擬似血継限界を発動した。
先と同じく水遁と風遁のハイブリッド。
しかしその効果は、気圧の調整と水蒸気の摩擦による「地表における積乱雲の創造」である。
非常識な事に、本来であれば地上5km以上で発生する積乱雲、入道雲を地表で再現してしまったのだ。
そしてその周囲では静電気が渦を成して紫の光を放っていた。
「アンタの術は恐ろしいもんだった」
「んじゃあ次はオレ達の術をお披露目するぜ」
左近・右近はデイダラに向かってそう言うと、
「雷遁」「雷遁」
「双魔の攻・擬似血継限界、
雷遁を重複で発動し、さらに周囲にある静電気、つまりは稲妻の元を集束して対象に叩きつける大技。
奇しくも大蛇丸の元でうちはサスケが完成させた「麒麟」と原理が同じものである。
天然の雷雲を利用する麒麟と違い、鳴神は雷雲の発生、雷遁の使用とチャクラが多く掛かり、威力としては麒麟に劣る。
しかしある程度の空間さえあれば発動可能な簡易さは鳴神に軍配が上がるだろう。
「!!?」
紫電の一撃を受けたデイダラは、ぐらりと崩れ落ち、そして、
「ま、だ、だあっ!」
踏みとどまった。
「ただで負けてやる訳にはいかねえ、うん!
これでも『暁』の一員だからなあ…」
デイダラはそう言い、服の胸元を破り捨てた。
そこには、
「口…?」
デイダラの両の手にある異形の口が、そこにはもう1つあった。
デイダラはそこに粘土を押しこんだ。
粘土を咀嚼し、げふっと息を吐き出す口。
そして、異様なチャクラの高まりを左近達は感じ取った。
粘土を喰らった口、その周辺に黒い筋が生まれた。
黒い筋はざわざわとデイダラの体に添って伸びていった。
まるで力を吸い取るかのように。
どくりどくりと蠢動する黒い筋。
それと共に胸部に黒い円が描かれ、またたく間に丸い眼、ぎざぎざの口を模した「顔」になっていった。
「これがオイラの究極芸術だ…」
デイダラは唖然とする左近達に向かって言った。
「これからオイラは自爆する!!」
「なに!」
「死んでオイラは芸術になる!
今までにない爆発はこの地に今までにない傷跡を残し、そして!!
オイラの芸術は今までにない称賛を受けるだろう!」
デイダラは死ぬ気であった。
デイダラほどの忍の死の間際の気迫。
それに左近・右近と鬼童丸は完全に飲まれていた。
デイダラにも余裕がある訳ではない。
話している間にも己の最終奥義C0はデイダラのチャクラを喰らっている。
故に、その集中力は術の行使に向けられていた。
「半径10キロが爆発範囲だ!
逃げ切れやしねえぜ、うん!」
デイダラは咆えた。
「さあ怯えろ! 驚嘆しろ! 絶望しろ!! 泣き喚け!! オイラの芸術は…、 !?」
爆発だ、そう言おうとした時、背後に気配を感じた。
振り向いたデイダラ。
その胸部に浮き出た「顔」に、
「ぜいやっ!」
背後から忍びよった次郎丸の右手が突きこまれた。
胸にできた口の歯を叩きおり、胸元に突きこまれた右手、そこから、
「な、なんだ!? オレのチャクラが『喰われて』いく…!?」
次郎坊のチャクラ吸引の秘術がデイダラのチャクラを吸収していく。
しかし、今にも臨界を迎えんとするC0の力と、デイダラからチャクラを吸収していく次郎丸の術の力が拮抗し、そして。
結果として、チャクラを吸収されつくしたデイダラは敗北し、捕えられた。
実の所、これには訳があった。
デイダラは気づいてはいなかったが、本人のチャクラの保有量が大幅、とは言わないまでも結構な量減っていた為である。
戦っている間は体力の消耗によるものであろうと考えていただろうが、それは違う。
カラクリは戦闘の初期に倒された次郎坊にあった。
次郎坊は戦闘の初期、デイダラのC1爆弾で弾き飛ばされた後、倒されたふりをしながら機会を窺っていた。
次郎丸は地面に己のチャクラを染み込ませ、マーキングを施していたのだ。
それを左近・右近と鬼童丸を囮にして十分な範囲にマーキングを施した。
マーキングした地面を通して次郎坊は土遁の術を行使できるようにしてある。
それを以って、次郎丸は地面を通じてデイダラ本人のチャクラをジワリジワリと吸収していったのである。
デイダラの自爆奥義、C0の発動が鈍ったのもそのせい。
デイダラが自分で思っていたよりも保有しているチャクラが少なかったのが災いしたのである。
「…とは言え、まあ死に損なったのは仕方ねえよな、うん」
デイダラは久し振りに己の手で粘土を捏ねていた。
「やっぱり土遁で作るよりは、自分の手、だよな、うん」
捕えられたデイダラの牢屋には床、天井、そして牢屋の策に至るまでびっしりと封印術の法陣が書き込まれている。
この中ではチャクラを使った術の行使は叶わない。
この中でデイダラに与えられたものは2つ。
一抱えほどの粘土と粘土ベラが一組。
これが差し入れられた時、
「へえ、意外に話が分かるんだな、うん」
そうデイダラは喜んだものだ。
無心に粘土を弄っていると、初心に帰った気がする。
「初心に帰るってのも、良いもんだな、うん」
何時までここにいるのか、それとも2度と出る事はないのか。
さすがにもう2度と爆破が出来ないのは残念だが。
それも含めて「爆発は芸術」なのだから。
2度とないというのも、また爆破が芸術であるという所作でもあろう、そうデイダラは考える。
芸術は至高にして思考、芸術を考える事、感じる事もまた良い。
ここしばらく無心になれる時間がなかったなあ、そうデイダラが考えていた時である。
「…おい」
デイダラがふと顔をあげると、そこには。
「旦那?」
デイダラが「旦那」と呼ぶのは「暁」において1人だけ。
「久しいな、デイダラ」
ツーマンセルの相方であった「赤砂のサソリ」であった。
「…なるほどねえ、旦那らしいっちゃらしいな、うん」
サソリはデイダラに自分の現状を話した。
「…まあそう言う訳で、こっちとしてはお前からの情報が欲しい、と言う事だそうだ。
何が出る訳でもないとは思うが」
「言うなあ旦那、あんただって似たようなもんだろうが、うん」
「似たようなもんだからこそ、必要な情報はもうないんじゃねえかと考えるんだがな、オレは」
「違いねえ、うん」
デイダラはにやりと笑った。
「で、旦那、それがオイラに言いたい事じゃねえんだろ?」
デイダラはそう切り出した。
一介の囚人であるデイダラと、元囚人とはいえ、砂隠れの里の重鎮となりつつあるサソリだ。
立場が違いすぎる。
そうそう会いに来られるような状況でもなかろうに、わざわざ足労して貰った訳だ。
時間もそうあるまい。
「ん、実はうちの里の長なのだがな、お前が協力するのであれば、岩隠れの長とお前の刑の執行の延長、刑期を短縮する交渉しても良いと言っている。
岩隠れとしてもお前ほどの腕の忍を無駄に死なせるのは惜しいと思うだろうし…、どうかしたか?」
デイダラはむくれていた。
「どうかしたのか、デイダラ?」
「…オレはあのジジイ、好かん、うん」
サソリはその体を絡操傀儡に変えている。
故に表情はない、が、今のデイダラの台詞でサソリは間違いなく呆れていた。
とは言え、どうしても折れる事の出来ないものがあるのが芸術家、と言うものだ。
「自分の造ったものを
なら分からんでもない。
かつてデイダラは現土影である岩隠れの里のオオノキに師事していた。
デイダラ自身は粘土彫刻家、陶芸家として生計を立てたかったのだが、時代と才能がそれを邪魔した。
デイダラはあまりにも忍として優秀であった。
若くして五遁の内3つを使えるようになり、体術忍術幻術共に並みの上忍を超える実力を示した。
こと、火遁と土遁の精妙さは他を圧倒するほどであった。
デイダラは忍としての実力を見せつけることで、「忍と芸術家」の両天秤を釣り合わせようとしたのだ。
だが。
「ふざけてんじゃねえ! お前の才能はそんな遊戯に使うもんじゃないんじゃぜ!?
忍としての本分をわきまえやがれ、
オオノキはそれを認めなかった。
オオノキは古い思想を持つ忍だ。
時代的にいえば3代目火影・猿飛ヒルゼンや5代目火影・志村ダンゾウなどと同じだ。
3度の忍界大戦を潜り抜け、忍は力である事を体感してきた世代。
彼の世代にとって、「強い事」以上の価値はあまりに薄かった。
芸術とは一般的に「必須のものではない」と考えられている。
…実際の所、どんな時代、どんな世界においても芸術は絶える事がなかった訳だが。
実用一辺倒のオオノキの説教に、デイダラは反発する。
その時であった。
デイダラが「爆発」という芸術を見出したのは。
これならば。
「美」であり「武」である爆発。
これを極めれば、オオノキの言う「力=武」とデイダラの「美」が両立する。
そう考えたデイダラは爆発と突き詰め、とうとう禁術である「起爆粘土」に行きついてしまった。
その頃にはデイダラにとってはオオノキは「俺の芸術をバカにしくさったジジイ」でしかなくなっており、いつか見返す対象にすぎなくなっていた。
その後は禁術を手に入れたデイダラに追い忍が仕向けられる日々。
それは「暁」に入るまで続いた。
暁に入ってから追ってが来なくなったのは暁と岩隠れで何らかの協定が結ばれた為であったが、岩隠れに興味の無くなったデイダラはそれを気にする事もなかった。
それは本心からなのか。
それはともかく、気の無いデイダラに対しサソリは、
「生きているとおもしろい事もある。
少なくともオレにとっては、な。
…今、オレは砂隠れのガキ共に、操演を教えている」
「…は?
旦那、冗談?」
「本気だ」
サソリの言葉にデイダラは唖然となった。
デイダラは呆然とした。
あのサソリが。
自分を完全なものとし、他を不完全なものであるとするサソリが。
コミュ障を疑われるあのサソリが弟子。
しかも子どもの弟子。
…デイダラは自分の耳を疑いたくなった。
「…何を考えているかは知らんが、オレはこの里において操演をガキ共に教えている。
別にオレがオレでなくなった訳ではない。
ただ、な…」
「ただ、なんなんだ、旦那、うん」
「ただ、技術は継承されるものだと、そう知ったからにすぎん。
ならば、受け継がれる技術は、それは永遠と呼べるのだろう、そう考えただけだ」
…なるほど。
永遠を求めるサソリなればの言葉だろう。
刹那の瞬間を史上とするデイダラとは違うが、それもまた芸術なのかもしれない。
自分の目指す「儚く散りゆく一瞬の美」とは違うが、そう考えたデイダラは、やはり話を断ろうと考え。
「お前の言う所の一瞬の美、その技術を継承するものを育てるのであれば、一瞬の美は永遠の美にも繋がるかもしれんが、な…」
その言葉に言葉を止めた。
デイダラに継承させる技術などない。
そもそも起爆粘土の術は危険である為に封印されていた禁術である。
この技術を継承しようものならとてつもなく厄介な事になるのは目に見えている。
デイダラはそれ故に、自分の身に付けたものは書に残す事もなく一代で途絶えさせるつもりであった。
その自分に何故サソリはそう言ったのか。
サソリは懐から奇妙な箱を出した。
「こいつは映像記録用の媒体だ。
今からお前にこいつに記録された映像を見せる。
興味があるんなら言ってくれ」
つまりはここに写っているものにはデイダラを動かすほどの情報が映っている、という事か。
にわかに湧いた興味を表に出さないようにしつつ、デイダラは先を促した。
「これは…」
映像を見た当初、デイダラはこんなものか、とそう感じていた。
映像にはどこかの村の花火大会の様子が映っていた。
この世界において、花火に使う火薬は、主に火遁の触媒としてそれなりの量が作られていた。
過去には火薬を使った武器も存在していたが、今では既にすっかり廃れてしまっていた。
何故か。
忍術の方が強いからだ。
確かに下忍、中忍の下のあたりまでであれば火器の方が有効だというのは分かる。
しかし、その下忍レベルにしても十分なチャクラの練りがあれば火器の飛ばす銃弾を致命傷にならない程度に喰いとめる身体強化は使えてしまう。
それならば重量があり、チャクラによって投擲の威力を強化できる手裏剣の方が強いのだ。
残念ながら火薬で弾丸を飛ばす火器はチャクラによる強化が出来ない。
そして大型火器に至っては、中忍の使う豪炎球レベルの攻撃の方が効果が高い。
火器で武装した軍隊は、少数の忍に駆逐されてしまったのである。
その為、火薬は専ら花火という娯楽に提供される事が多かった。
火薬が武器として発達しなかった事で、花火の発色は「赤」に限定された。
しかも、忍の幻術などの方が派手である事が多い為、花火は打ち上げられた後に、幻術を得意とする忍が着色を加工するのが最近の大きな花火大会での流行であった。
デイダラもこの映像はそう言った加工されたものであろう、そう考えていた。
しかし、
「旦那、この映像、おかしくないか? うん…」
デイダラは仕切りに映像を気にしていた。
周囲の状況を見る限りこれは火の国の様だが、しかし。
「ここまで派手な色を付けられるほど金のある村には見えねえんだよなあ、うん」
ちょっと大きめの村、程度だと花火に色を付けられるだけの幻術使いを雇うのは難しい。
この場合の幻術とは、色を誤認させるような術ではなく、忍術を以って光学的なフィルターを張る代物だ。
花火を見ているであろう何10人からの人間に向けてその精神に訴えるような術は難しい。
花火そのものに仕掛けをしておいて、赤以外の色が付いているように見せかける方法もあるが、それは花火の作成から携わらなければならず、それが出来るのはそのような秘伝の幻術を使うごくごく一部の忍の名家のみである。
この記録媒体に色つきの花火が映っている以上、それは光学系の術を使ったものであるはずなのだが。
「ああ! これはあまりにもタイミングが合いすぎてんだ、うん!」
そう、幻術を使用するという事は術者が花火の広がるタイミングを見計らい、術を使用しなければならないという事。
そのため、幻術使いがどう頑張っても、若干のタイミングのずれ、というものが存在するのだ。
また、幻術を使った花火の着色は、変わり種も多く、かつて木の葉隠れの里で行われた花火大会では歴代の火影の顔が花火によって描かれたという。
その影響か、幻術を使う花火大会では必ず犬や猫、花などが大空に綺麗に映し出されるのが常であった。
この映像にはそう言った演出はない。
という事は…。
「そうだ。
これは実験的に行われたものでな。
火の国の片田舎の村で行われた花火大会だ。
忍びの里で一般的に使われている毒薬の原料を混ぜ込んでみての発色実験だそうだ」
やはり。
デイダラも爆破、そして刹那の美を追求する者だ。
すぐにこの花火が気になっていた。
「忍術、チャクラを使わない技術ってのもこの世の中にはある。
実際、オレも操演の中にそう言ったものを組み込んでいるからな。
デイダラ、これはお前に新しい世界を見せていないか?
オレは永遠、お前は刹那を求めるが、美に対して歩みを止めないこともまた重要だろう。
気が変わったなら声を掛けろ。
それまでこの
そう言うと、サソリは外へと出ていった。
後に残されたデイダラは、食い入るように映像を見続けるのであった。
江戸時代までは赤以外の発色の花火はなかったんだそうです。
明治以降に海外からさまざまな発色剤が入ってきて、一気にカラフルになったとか。
ゆえに、「狐狸忍法帖」のワールドにおいては花火は基本「赤」、カラフルなのは忍者が着色しているためとしました。
次回はイタチの話になるかと。