NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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そろそろ露骨に伏線を露出してみたり。


第83話 ブンブク/暁/ブンブク

 ブンブク 自分考察

 

 大体うずまきナルト兄ちゃんが妙木山(こっち)に来てから2週間ちょっと、というところでしょうか。

 やっぱり兄ちゃんハンパないね。

 元々チャクラの制御を自来也さまから教わっていたせいもあるんだろうけど、実際なら何年もかかりそうな修行をものすごいスピードでこなしていくんだ。

 多重影分身の効果は絶大みたいだ。

 前にも言ったと思うけど、兄ちゃんの成長は階段型だ。

 ある程度経験が溜まるとそれが一気に形になる。

 だからこそ、とにかく経験を積む事、それが兄ちゃんの力になる。

 経験をスムーズに吸収して、それを参考にさらに上の理解を得るうちは兄ちゃんとは全く違う成長の仕方をするんだ。

 まあ、全く違う2人だからこそ、惹かれる部分があるんだろうけどね。

 で、僕はと言えば、ここんとこ落ち着いた時間が全く取れなかったもんだから、この際じっくりと自分の経験をかみ砕いて自分ものにしようと思索中。

 ちなみに里の方にはカモくんを口寄せしてメッセンジャーとして行ってもらっている。

 その後は分身して里の様子を監視してもらっていたりするんだよね。

 いつペインさんたち「暁」が侵攻してこないとも限んないし。

 なお、里の方には僕の生存はアンコさんが伝えていてくれたらしく、心配もされていなかったとの事。

 ただ、そろそろフクちゃんに忘れられていそうで怖い。

 カモくんが尻尾を掴まれて悲鳴を上げながら遠話をしてきたのが感慨深かった。

 

 さて、僕はいったい何者なんだろうか。

 ペインさんとの戦いのとき、僕のチャクラは完全に餓鬼道さん、卍丸さんの前身ですね、に持っていかれた。

 普通、生きている人間であれば、チャクラを全部吸い取られたら生きていくことはできない。

 生命活動が止まってしまうんだ。

 でも、僕はチャクラ全部を持っていかれても死ななかった。

 肉体の方は休止状態になっていただけだし、それも暫くしたら生命活動を再開していた。

 で、引っぺがされたチャクラは「外道魔像」の中でも感情や知識を失う事無く知的活動をしていた訳だ。

 これから引き出される推論は、

 

 僕は肉体と精神、2つの生き物が重なって存在している、そんな生き物じゃないか。

 

 という事なんだよね。

 もうちょっと言うならば、

 チャクラを必要としていない生命体の僕。

 チャクラそのものである僕。

 という2つの僕が存在していて、その意識である僕は2つの僕と完全にリンクしている、そんな感じなんだろうか。

 忍術的なイメージだと、影分身と本体で重なり合って存在し、全く同じモノを見聞きしてその価値観を完全共有していると言うところか。

 こんな考えをするようになったのも、ここしばらくで僕の中に2つの「前世の知識」がある事が分かってきたからだ。

 1つは「文福狸の過去の記憶」。

 これはヒルゼンさまなんかと語り合った歴史の話でもある。

 もう1つは「異常な科学や政治経済なんかの知識」。

 かつて、この世界にはチャクラを使う技術はなかった。

 代わりに物理や化学の知識を応用した文明があったのは分かっている。

 文福さんの知識の中にもそれらしいのあったし。

 で、チャクラを扱う技術、まあ忍術の事なんだけど、が発達して、一部そう言った技術は廃れてしまった。

 特に自動車なんかの移動に関する技術なんかは顕著だ。

 でも、僕の中にある知識はそれを軽く追い越したものがたくさんある。

 そのほとんどは理解できない。

 重力を制御して星の彼方へと移動する技術らしいものもあるんだけど、これは全く僕の理解の範囲外だったりする。

 そう、僕にとって知識がある事と理解できる事はまた別なんです。

 多分だけれど、2つの僕がかい離、分裂しない為の安全策みたいなのがあるんだと思われます。

 本体と影分身があんまりにもかけ離れないようになっているんでしょう。

 それに、先の重力制御の技術とやらだと、僕が死ぬまでそれに没頭した所でどうにもなんないでしょう。

 どんだけの基礎技術を覚えれば良いのか見当もつかない、それだけ膨大な知識の集大成の様です。

 の割にはそこまでじゃないけどやっぱり必要な基礎技術がたくさんある航空力学系は「感覚で」扱えるんだけどね。

 

 尾獣のみなさんの物言いだと、茶釜の一族には定期的に僕みたいなのが現れるらしい。

 とは言え、僕みたいに「前世」を持っている人間がどれくらい生まれていたのか…。

 後から家の記録を調べてみる必要があるだろうなあ。

 でもそうか、僕みたいな「人として必要な情報を持たないで生まれる」子どももたまに出るから、そう言う子どもを育てる心構えがうちにはあったんだろう。

 だから僕はきちんと育ててもらえた。

 茶釜の家に生まれて良かった、そう思える。

 僕を人間に育ててくれたのだから。

 

 

 

 暁 第2次木の葉崩し・出征

 

 ペイン天道が周囲を見回す。

 そこにはペイン六道の残り5体、正体不明の老人・果心居士を名乗る者ときらびやかな衣装の青年・時貞、「天秤の」イリヤ、小南、そして、雨隠れの精鋭達20人。

 小南が口を開く。

「皆の者、今まで良く耐えてくれました。

 雨隠れの里における対抗勢力は完全に消滅、これによって私達はやっと外へと目を向ける事が出来るようになったのです」

 雨隠れの者達は小南を「御使いの天使」として崇めている。

 その為、小南に対して熱い尊敬のまなざしを注ぎ、その言葉を一言たりとて聞き逃さないよう耳をそばだてていた。

「思えば、私達は常に『(いくさ)の痛み』に晒されてきました。

 ここにいる皆も少なからず何かを失った痛みを覚えているはずです…」

 雨隠れの忍達は涙を浮かべている。

 当然だろう。

 彼らの側から見れば、「山椒魚の半蔵」は圧政者だ。

 彼らの一族は半蔵、つまりは執政サイドから切り捨てられ、それどころか不穏分子に仕立て上げられた上で抹殺されそうになったと言う事なのだから。

 …それが真実かどうかはさておき。

 実際に反乱、下剋上を企んだものは確かにこの里にはもういない。

 そう、「もう」いないのだ。

 半蔵に反乱を企んだ者、一族は確かに存在した。

 その末裔は今の雨隠れの里(このなか)にも存在する。

 彼らは父母から半蔵の残酷さを伝え聞いてはいるものの、自分たちの親が何をしたかは知らない。

 半蔵の変節は、確かに反乱者達の動きのせいである。

 そしてそれがなぜ起きたのか、今、それを知る者はいない。

 歴史の闇に消えたのだ。

 そしてここに、ペインに忠実な者達のみが集まっている。

 半蔵からすれば妬ましかろう。

 半蔵の求めて手に入らなかった「忠実な手駒」がここにあるのだから。

 それも、半蔵の圧政がなければペイン達は生まれず、このペインに忠実な忍達も生まれる事はなかった。

 歴史の皮肉と言えよう。

 

 …はたしてそれはそうなのか。

 

 小南の演説は続く。 

「これから、私達は『聖戦』に入ります。

 二度と忍として圧政を受けない、私達が人として生きられる、苦痛の無い世界を作らなければなりません。

 私達が受けてきた苦痛、それを他の者達は知りません。

 世界は痛みを知りません。

 故に、世界は『痛み』を知らなければならないのです」

 その言葉に忍達は頷いた。

 …彼らは理解していない。

 彼らの感じてきた苦痛。

 それはすなわち、忍界で起きていたごく当たり前のものであることを。

 それが正しいか、間違っているか、ではない。

 千手綱手は戦いの最中、愛する弟を失い、目の前で愛する人を失った。

 大蛇丸は親を失い、己が手塩にかけて育ててきた弟子を失い、そして狂った。

 自来也とて弥彦、長門、小南が死んだと聞かされた時どう思っただろうか。

 はたけカカシは尊敬する父の自殺、同期のうちはオビト、野原リンを10代の若さで失っている。

 うずまきナルトはどうか。

 彼ですら、両親を九尾襲来で失っているのだ。

 ペイン達はそれを「己の痛みの方が強い、お前達の痛みは弱い、だから世界は変わらない」そう言っているのだ。

 それは正しいのか。

 少なくとも、ペイン達はそれが正しいと考えているのだろう。

 それを「神意」としているのだ。

 故に、ペインは自身を「神」と称する。

 我が言葉は絶対、我が意志は間違えない。

 そう「規定」することで彼は己に絶対的なカリスマを「付与」した。

 ペインは己が正しいと規定する事によって「不惑(まよいがない)」を手に入れた。

 これによって彼は「完全なるリーダー」である事が出来るようになった。

 迷わず、即座に判断し、決定できるカリスマたりえるようになった。

 ブンブクなれば「サイコパスのカリスマ方式」とでも言っただろうか。

 小南は最後に号令をかける。

「さあ行きましょう。

 世界から『痛み』を消す聖戦に!

 これが世界にとって最後の『痛み』となるのです!

 ここからが世界の『再誕』となるのです!

 痛みの無い世界へ!」

 その瞬間、20人の忍が爆発したように拳を突き上げ、「神!」と唱和する。

 彼らはペインの意志の元、1つになった。

 

「お見事です、小南さん」

 優しげな眼をした時貞がそう小南に声をかけた。

 この演説の草案を作り上げたのはこの男・天草四郎時貞。

 イリヤの呼びだした「天秤の八使徒」の中で最も力の弱い使徒であった。

 しかし、彼にはこう言った「扇動者」の才能があった。

 正確にはそう言った能力を「付与」されていると言った方が正しいか。

「…」

 小南は彼の言葉を無視した。

 どこかこの男の言葉は危険を感じる。

 まるでいつまでも聞いていたい、そう思わせるような響きがあった。

 彼は小南の警戒を感じ、肩をすくめながらも、

「そう警戒しなくとも、アナタに術など掛けませんよ。

 私のチャクラの保有量では、アナタに幻術を仕掛けられるほどの力にはなりはしませんから」

 そう言った。

 イリヤの口寄せ、聖杯八使徒では、その人間を詳細に復元すればするほど必要とされるチャクラが増える様だ。

 故に、他の使徒達は、戦闘・諜報・暗殺などと言った忍の行動に特化し、他の情緒的な部分を除外(オミット)する事により、強大な力を振るえるよう調整されていた。

 その例外が一泥なる外道・復讐者天草四郎時貞であった。

 彼は他の七使徒を制御する為に、より人間らしい人格をイリヤに付与されて創造されていた。

 その為、感情、情緒も存在し、こうして他の者達に話しかける事も受け答えする事も可能なのであった。

「まあ若干時間も掛かりましたけどね、その分、忍達の結束も深まったのですから問題ないでしょう。

 ペイン六道も仕上がり十分でしょうしね」

 自来也との戦いの後、ペイン六道の死体傀儡は予想以上の損耗を強いられた。

 餓鬼道、人間道、地獄道、畜生道は1体ずつ廃棄する羽目になり、予備のペインを起動しなければならなかった。

 更にその予備すら死に際の自来也の術により多かれ少なかれ破損した。

 その破損を修繕するのに約3週間。

 その間に計画は大きく変更されていた。

 本来ならばペイン六道のみで出陣し、木の葉隠れを落として九尾、七尾を奪う計画であった。

 しかし、自来也の活躍により、そのままでは作戦が失敗する可能性が高くなった。

 ペイン六道の内、天道、畜生道、餓鬼道、修羅道の能力が敵に知られている可能性が高くなったためである。

 また、ペインの体に埋め込まれた金属、これの特性も理解されている可能性がある。

 ペインのみでの出陣は無謀である、そう小南及び時貞が提言したのである。

 計画は変更された。

 ペインは本体からの指令を受けて動く。

 その指令は電波のように、近ければ近いほど的確に、早く届き、またその力も強くなる。

 雨隠れの里の中であれば尖塔と雨雲が指令増強の触媒となる為、ほぼ最強の力を発動する事が出来る。

 しかし、木の葉隠れの里の中では、そうもいかない。

 故に、ペインの本体は木の葉隠れの里近郊の小高い山の上に内密で陣を張り、そこから指令を下す予定だった。

 それでは足りない可能性が出てきたのだ。

 ペインを主戦力とする事に変わりはない。

 だが、それでは戦力が足りない。

 ならば。

 時貞が上層してきた案の内、ペインが何とか認められてのがこれ。

 ペインの指令を増強する尖塔を木の葉隠れの里の近郊に立て、これを守護するのに雨隠れの里の忍を用いる。

 本来は忍達に前線に出ることを提案していた時貞であるが、ペインはこれを棄却していた。

 結局の所ペインは情が深いのやもしれない。

 己の配下たる雨隠れの忍達を死なせたくない。

 故に、死体であるペインを使う。

 そして対抗勢力出る忍を殺す。

 そのやり方は半蔵のものと変わらない。

 そしてそれをペインは理解していなかった。

 

 雨隠れの里を忍達が出征していく。

 このうちどれほどの者が里へ戻る事が出来るのか。

 暗く低い雲は、この混沌とした戦いがどうなるのか、それを暗示しているようにも見えた。

 

 

 

 ブンブク  第2次木の葉崩し・乱入

 

“兄貴ぃ”

 おんや、カモくんからの遠話通信です。

“何かあった?”

“森にはなっていたオイラの影分身がやられました。

 ダンゾウさまには伝えてありやす”

 …なるほど。

 カモくんは偵察において取っても優秀なんだ。

 彼を捉えるのは野生動物ではまず無理。

 口寄せ動物でもそれなり以上の実力が無いと、まず不可能だろう。

 忍ならば捜索の得意な中忍から上忍以上。

 しかもそこから仕留めるなり捕えるなりするなら体術がやはり中忍上位から上忍以上でないと無理だろう。

 総合して上忍でも一定以上の実力が無いと無理な話なんだよね。

 それがカモくんに正体を悟られずに仕留める、となるとかなりの腕の持ち主。

 …来たかな。

“カモくん、今からそっちに帰るんで、何か変わった事が起きたらまた連絡ちょうだい!”

“了解っす!”

 僕は一旦フカサク様の家に寄りました。

 お家にはフカサクさまとシマさまがいらっしゃいます。

 どうやら今日は自来也さまが兄ちゃんの師事をしてらっしゃる様子。

 僕はお2人に、

「里の方で動きがあったかもしれません。

 万が一、という事もありますので僕はこれから木の葉隠れの里へと向かいます」

 そう告げた。

 お2人は驚いた顔をしていたけど、

「気ぃ付けていってくるんじゃぞ」

「ほれ、これ持っていきぃ」

 と送り出してくれた。

 お2人の好意を無にしないためにも頑張ってみましょうかね。

 …まあこの行動自体が無駄であってほしい所なんだけどさ、本当は。

 

 

 

 兄ちゃんの策敵範囲から出る為に妙木山にある里からある程度離れた所まで来てから、僕は離陸(テイクオフ)しました。

 ここは良い風が吹いています。

 これに乗っかればそうそう時間もかからずに火の国までたどり着けそうです。

 …なんて優雅に考えている時間はそう多くありませんでした。

 ペイン六道の襲撃が始まっていました。

 

 カモくんからの情報によれば、予想以上に里は混乱していないとの事。

 どうやらダンゾウさまが進めていた「準忍者資格」および忍術学校の定員増が予想以上に効果を発揮していたみたいだ。

 今まで忍として落第とされていた人たちに準忍者資格を認め、C・Dランクの任務を請け負ってもらう。

 その際、緊急時の予備役として一般の人たちの避難誘導を行ってもらう、ってことにしておいたんだけど、それが効果を表したということらしい。

 避難誘導を準忍者の人たちがすることで、本職が防衛任務に当たる事が出来るって形ができたみたいだ。

 そもそも、ペインさんたちの狙いは尾獣及びその人柱力。

 兄ちゃんは妙木山だし、実の所七尾のフウちゃんは今「滝隠れの里」に戻ってるんだよね。

 向こうの里の守護神である「蟲骸巨大傀儡・鋼」の修繕の為に。

 だから、木の葉隠れの里で勝利したとしてもペインさんたちには得るものが無いんですよね。

 しばらくして、カモくんを通して「金遁・千里鏡」が使えるようになっていた僕は里の状況が意外に良い事が見てとれた。

 どうやら油女一族の超秘術がさく裂し、相手方をほぼ一網打尽にできた様子。

 シノさん、あの術完成してたんだね。

 いやあ僕も苦労したかいがあったと言うもの。

 さてこれで急がなくても良いかな、そう思った時だ。

 里の上空に奇妙なものが見えた。

 里の頭上に()()されているように見える人型。

 …ペイン天道、だったかな?

 相手を突き飛ばしたり、ひきつけたりする力を持ったペインさんだ。

 イメージとしては「天」の通り、斥力とか引力とかの術なのかな…。

 ん?

 ! まさか!?

 いくらなんでもそんな事が出来る…訳…、できそうだな。

 まずい!!

“カモくん、まずい!

 悪いけど口寄せを止めるよ!”

“兄貴、どうしたんすか!

 何が…”

 少しでもチャクラを温存しなきゃ。

 口寄せを停止し、消費したチャクラを取り戻すために戦術の呼吸をします。

 今の僕は滑空しているだけです。

 体そのものを動かさない事も可能ですから。

 そして、十分なチャクラに満たされた僕は全力で飛ぶことのできる形態に変化しました。

 両腕を翼に、肩口のあたりに吸気口、頭部には八畳風呂敷くんで透明な防風天蓋(キャノピー)を作ります。

 背中にはバランスをとる為に垂直尾翼をつけて。

 両足は巨大な2基のジェットエンジンに。

 …はあ。

 これはダンゾウさまにボーナス弾んでもらわないと割に合わないなあ。

 なんて考えながら、

「…ジェットエンジン、点火!!」

 直後、とてつもない轟音と共に僕はものすごい速度で突進していったのです。

 

 

 

 ペイン天道、その操り手は苛立っていた。

 木の葉隠れの里にあまり有効な損害を与えていない。

 ペインの見立てでは木の葉隠れの里はとうの昔に壊滅していてしかるべきであった。

 それが蓋を開けてみればむしろペイン六道が押されており、更にはどうやら相手の策に嵌ったようだ。

 ペイン天道の視界の下ではペイン畜生道が口寄せした怪物達がチャクラを蟲に喰いつくされ、力尽きて消えていった。

 他のペイン達も近郊の森に潜伏させてある畜生道を除けば大量の蟲の海に埋もれ、下手に「万象天引」で引きずりあげれば天道にすら被害が及びかねなかった。

「仕方ない…」

 天道はぼそりと呟いた。

 

 ペイン畜生道と一緒にいた小南は、戦況を唖然として見ていた。

 信じられない、ペインが出陣してこの有り様とは。

 確かに、ペインの秘密の一旦は自来也の活躍もあり、木の葉隠れの里に伝わっている。

 しかし、聖杯八使徒の1人、果心の力と20名の雨隠れの忍達によって守られている尖塔によってペインの力は十全に発揮できているはずだ。

 それが木の葉隠れの里を滅ぼしきれていない。

 それどころか有効な被害を与えそびれている。

 これは想定外だ。

 その時だ。

 ペイン畜生道が「口寄せ輪廻眼」の術によって天道以外のペインを呼び戻した。

 かなりボロボロの状態で、特に修羅道はスクラップと言っていいほどのダメージを受けている。

 ペインの本体は少なくない量のチャクラをペインに注ぎ、そのチャクラで地獄道の秘術を以ってペイン達の傷を修復した。

 ペイン地獄道は他者の魂、つまりは精神のチャクラを幻術によって引き剥がす事が出来る。

 引き剥がしたチャクラは蓄えておく事ができ、それを以ってペインの修復が出来るのだ。

 とは言えその術を発動させる際にもチャクラが必要。

 修復タンクでの修理の方が時間はかかるもののよほど効率が良い。

 ペインにとってこの方法は戦場での緊急回復手段、つまりは苦肉の策でもあるのだ。

 そこまでする予定はなかった。

 小南はペイン畜生道を通してペイン本体に尋ねる。

「どう言う事?」

 それに答えてペイン曰く、

「あれをやる」

 その言葉に小南の顔色が変わった。

「そんな…! だめよ!」

 焦りすら含んだ小南の言葉。

「あの術はアナタの命を縮める事になる!」

 しかし、それに返る答えはなかった。

 ペイン六道の内、5人、天道を除いたペインが地面に倒れ伏したのだ。

 5人分の制御に割いていた力をカットし、天道のみに集めたのである。

 小南はため息をつき、

「どうしてもやるのね、長門」

 そう呟いた。

 

 ペイン天道は木の葉隠れの里の上空で力を溜めていた。

 ペイン全ての力を集めて打ち出す「神羅天征」。

 打ち出せば確実に木の葉隠れの里、その生活区画である街はきれいさっぱり消滅するだろう。

 そこにいる人、忍、それも根こそぎに。

 それこそがペイン天道の成すべき事であった。

 木の葉隠れの里という忍の頂点に位置する組織を完膚なきまでに叩き潰す。

 そうすることでペインと雨隠れの里に逆らう意志を叩き折る、それが成せると考えていた。

 茶釜ブンブクならばそれを世迷い事と断じるだろう。

 弾圧をすればするほど、それに反発する勢力は小さくなり、そして深く、怨み辛みを育てるものだ。

 そしてそれはテロリズムという形で力無き民衆に振り下ろされるのだ。

 それをペイン、その本体は理解していなかった。

 己に力がある故に。

 

 ペイン天道は力を溜めていた。

 彼の優秀な耳にはしばらく前に甲高い音を捉えていた。

 彼はその音に聞き覚えがあった。

 茶釜ブンブクの変化。

 飛行する変化が出していた音だ。

 ならば、多分こちらに何らかの形で攻撃を仕掛けてくるのだろう。

 しかし遅い。

 どのような速度であろうともこちらに近づく頃には既に術は打ち出し終わっている。

 その時にはブンブクは「神羅天征」の斥力と自身の推進力で押し潰されるであろう、そうペインは予想していた。

 彼の耳はその接近を感知できなかった。

 ブンブクが音の速さ、その2倍の速度で近付いている事に、彼は気付いていなかった。

 

 

 

 ときにのお、うちのひいひいひいまごが、さとのためにあのかいぶつにぶちかましかけようとしとるんよ。

 おうおう、ちっこいのにげんきなこったのお。

 いやいや、とうちゃん、あのまんまだとあのこつぶれっちまうよお。

 そりゃいちだいじだ、ちゃがまのいちぞくのひぞっこがしんじまう。

 いかんのお、まだまだおいさきというにゃちっこすぎるでのお。

 そうじゃのお、んじゃあみなのしゅう、ちからをかしてやるかのお。

 そうじゃのお、こんなときのためのわしらじゃもんなあ。

 んではいくぞみなのしゅう。

 

「金遁・身代わり地蔵」

 

 木の葉隠れの里、その郊外にある茶釜一族の家。

 その仏間に飾られている食器は、茶釜一族の寿命の来た者達が変じたモノである。

 それらの食器、什器のいくつかに、「ピシリ」とひびが入った。

 からりからりと砕け、そのまま消滅していく食器達。

 

 その時、音速の2倍、マッハ2で体当たりを掛けてくるブンブクを、ペイン天道は回避する事が出来なかった。

 人間の感覚は視覚が最も情報量が多い。

 しかし、他の感覚も重要なのだ。

 人間はそれらの感覚から総合的に情報を収集、理解する。

 ペイン天道、その操り手は視覚の情報と聴覚の情報よってブンブクの位置を推測していた。

 しかし、音速を超えたブンブクの速度、つまり、この場合ブンブクの位置を特定するのに聴覚は使用できない。

 何せ音よりも速い速度で移動しているのだから。

 その為、ペインはブンブクの位置を誤った。

 その結果、

 50kg程度の物体が音速の2倍で突っ込んでくるのを避ける事が出来なかった。

 その威力はいかほどのものか。

 斜め上から突っ込んできたブンブクに押しつぶされるように、ペインは斜め下方向に一直線、木の葉隠れの里の郊外に轟音と共に激突した。

 本来ならばどれだけチャクラによる防御を固めたとしても、ブンブク程度の忍であれば即死は免れなかった。

 音速に耐えうる肉体とチャクラの強化、それが出来るのは木の葉隠れの里においてはマイト・ガイなどごく一部。

 ブンブクにそれは望むべくもなかった。

 彼のほぼ自殺と言える特攻を支えたのは彼の先祖達。

 彼を死なせまいとする茶釜一族の仏壇に飾られた先祖の変じた什器達。

 彼らの忍術、「金遁・身代わり地蔵」の術によるものだった。

 本来は主の危機の際、自身を盾にして守る事ができない場合、主の負傷を自分が引き受ける、その為の術だ。

 それを彼らはブンブクに向かって使用したのである。

 ブンブクが超音速でペイン天道にぶつかり、ひしゃげる。

 天道を超音速で押す時に、音速の壁にぶつかり潰れる。

 猛スピードで天道と一緒に森の木にぶつかる。

 ぶつかる。

 ぶつかる。

 そして地面に激突する。

 ペインから弾き飛ばされて地面に叩きつけられる。

 地面にバウンドし、木立に激突する。

 全て致死レベルのダメージだ。

 それら全てを茶釜の先祖達は引き受けた。

 そして、ブンブクは辛うじて死を免れたのだ。

 

 一方ペイン天道。

 超音速の体当たりを受け、クレーターが出来るほどの衝撃で地面に叩きつけられた。

 ()()()()、だ。

 超一流の忍にとっては、その程度、でしかない。

 ブンブクの己の安全を全く顧みない全力の攻撃。

 それですらペイン天道という怪物にはある程度のダメージを与える、程度のことしかできなかった。

 彼を倒すのはブンブクに非ず。

 ブンブクはあくまで介添え人。

 英雄はここから現れるのだ。

 

 

 

 さすがに体が痛い。

 無茶なこと極まりない事をしたもんだ。

 しかも、ご先祖様に助けてもらうとは。

 そんな事を考えていると、首根っこを掴まれて吊りあげられた。

「よくもやってくれたものだ、茶釜ブンブク」

 感情の無い目でペインさんに睨まれた。

 まあ、ペインさんに対して良くここまでできたもんだと自分でも思う。

 ペインさんが音速の概念を持っていなかった事が幸いしたんだろう。

「お前は神に向けて不敬を放った。

 その罰をお前は受けなければならない」

 ペインさんはそう言う。

 でもね。

「ペインさん、僕を甘く見るからですよ…。

 窮鼠猫を噛むって言うでしょ…。

 アナタは神じゃない…。

 神を名乗るのは自分の限界を見た、そう言っているのと同じですよ?

 それじゃあ、うずまき兄ちゃんには勝てませんよ…。

 弟分《ぼく》が保証しちゃいます…」

 僕はそう言ってにやりと笑うのだ。

 僕にできる事は時間稼ぎくらいのもの、そして…。

「消え去るが良い、茶釜ブンブク。

 神羅天…」

 その瞬間。

 横合いからすっ飛んできた拳骨がペインさんをしこたまぶっ叩いた。

 水平にすっ飛んで行くペインさん。

 そして、

「待たせたな!

 うずまきナルト、見参だってばよ!」

 不敵な笑みを浮かべ、拳骨を振り抜いたうずまき兄ちゃんがそこに立っていた。

 お見事兄ちゃん。

 これ以上ないくらいのタイミングです。

 その兄ちゃんの勇姿を見ながら、僕は白目をむいてぶっ倒れたのでした。

 

 

 

 No.111、121、31A、31E、8DE、8DFヨリノ信号途絶。

 あくせす権限ヲ301C二移行。

 個体番号301C二権限集中。

 まざーヨリぱるかい二提案

 提案内容「301Cに第一アクセス権限を付与」。

「パルカイ1・デキマ:保留。

 パルカイ2・ノーナ:保留。

 パルカイ3・モルタ:条件付き賛成。

 パルカイはマザーの意見を保留し、再考する」




ペイン襲来時の木の葉隠れの里の話は後日閑話にて。

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