ブンブク 妙木山にて 昆虫食なしバージョン
「自来也さま、わがまま言わないでください」
「嫌だっ!
ワシは絶対に嫌だっ!」
「もう、全く駄々っ子モードに入っちゃって…」
はいどうも、茶釜ブンブクです。
今僕は自来也さまを説得している真っ最中です。
「嫌だ~っっっ!」
さて、こんな事になっているのは妙木山に着いた所から離さなければならないでしょう。
僕は自来也さまを毛布でくるみ、湯たんぽを抱いてもらってその上で八畳風呂敷くんにキャノピーを作ってもらってその中に入ってもらい、と、寒さ対策をできるだけがっちりしてから飛び立ちました。
まずは大蛇丸さんが「逆口寄せの術」で白蛇洞という「蛇仙人」のいらっしゃる妖蛇の里へと行きました。
まあ、その後で「大蛇丸さんに傀儡腕借りたらよかったんじゃないの?」という事に気が付いて自来也さま共々へこんだ訳ですが。
で、次にカモくんを呼んで状況を説明、卍丸さんを化け狸の里へと一緒に連れて行ってもらうことに。
最後に僕の分かっている事をできるだけ事細かに書き出したレポートをアンコさんに渡した後、アンコさんは木の葉隠れの里へと走って行きました。
ホントは飛んだ方が一直線に行けて早いんだけど、さすがに対暁の
いくらアンコさんとは言え、あの「ペイン六道」と1人で戦うのは無茶でしょうし。
ほんで最後は僕たち、と。
用心のために、こんな時の為に作っておいた
更に用心を重ねて、ちょっとだけ待っていると…、
ぎゅん!
ダミーバルーンがいきなり雨隠れの里の方へ引きつけられます!
やっぱり見ていたか…。
「自来也さま、ちょっと無茶しますよ。
チャクラでの身体強化、しといて下さいね」
「分かった…」
自来也さまも口数少なくそう言います。
低空で飛び立ち、足をジェットエンジンタイプに変化させます。
イメージとしては、足の裏、ふくらはぎに噴射口のある感じ。
そして、
ばうっ!
そこからジェットの炎を吐き出し、僕は加速による強い
「きゅう…」
蛙になった事によって、かなり弱体化した自来也さまを気絶させながら。
さて、丸1日滑空しながら僕たちは自来也さまの目指す忍蝦蟇の里である「妙木山」近郊までやってきました。
あ、なんで滑空かって?
あんな飛び方そうそうできませんて。
単純な話、燃料が足んないんです。
忍の使う油の類い、その特に揮発性の高い奴を使うんですけどね。
単純に値段が高いんですよ。
ただでさえ、僕の戦い方はちょっと特殊な忍具を大量に使いますから。
辛味錠剤とか、鼬の最後っ屁の抽出液とか。
正直言って経費で落とすのも一苦労で。
ダンゾウさまその辺り渋いから。
まあ、「
木の葉隠れの里の予算から練りだすのもあんまりやりすぎる訳にもいかないもんでね。
なにせ非合法活動って元々お金が掛かりますからして。
そう言う訳で脱出の際に使用した後は風を掴み、滑空して移動した訳ですね。
で、妙木山の近辺まで来たのは良いのですが、忍蝦蟇の里がどこにあるか全く分かりません。
ま、当然ですよね。
いくら上空からとはいえ、自分達の居場所をそう簡単に晒すものが居る訳がありません。
こと、妖魔・妖怪の類いは飛行できるものも少なくありません。
上空から狙われると言うのは、飛行できないものにとってかなりのプレッシャーになりますからね。
上空へも効果のある結界を張るのはそう珍しい事でもないでしょう。
そこいらへん、考えないのは人間くらいのもんです。
で、その近所に着陸して、手順を踏んでお山に入る事になった訳です。
「…んで、自来也さま、そろそろ降りてくれません?」
「嫌だ。
めんどい」
めんどいって…。
やれやれ、まあ修行と思って頑張りますか。
そう思った僕はとっても甘かったのですよ。
「この崖は途中でのォ…」
「うわっ! なにこのでっかいスズメバチ! 刺されたら死ぬってばよ!」
「この周囲には絵取るキノコはのォ…」
「らりらりほ~」
「このあたりの蔦はのォ…」
「ぐえっ! 首に絡んで、くえっ!!」
………
……
…
……
………
「ぜ~っ、ぜ~っ」
「うむ、よっく生き残ったのォ!」
「……自来也さま、知ってます?」
「? なんじゃい?」
「蛙って食えるんですよね…」
「な、何を言って…」
「僕は狸の気を持ってるそうですから、もしかしたら本質は狸なのかもしれないですよね…」
「お、おい…」
「狸って、雑食、なんですよね…」
「ブンブクよォ…」
「知ってます? 狸って油も大好きなんですよお…、蛙の腿肉なんかもねえ…」
「分かった! 悪かった! 謝るでのォ少し落ち着いてくれい!」
少しはこうやって仕返ししとかないと、この人ホントに手加減抜きで弄って来るからなあ。
まあこういうのも一種のじゃれあいとして楽しんでんだろうけどね。
巻き添え食うこっちとしては時々しんどい事もあるもんで。
ぜひともこう言うのはうずまき兄ちゃんと楽しんでいただきたい。
もしくは綱手さまと。
それからは自来也さまも自分の足で歩いてくれている。
とは言え、
加えて、ほぼ死んだ状態になっていたんだから、疲れやすくても仕方がないのだ。
そう言う訳で、適度に休息をとりつつ忍蝦蟇の里に向けて歩き、そして。
「…ここですかぁ。
なんか、すっごいですね…」
巨大な滝からの水が里全てに行きわたり、まるで里が湖の上にあるような錯覚を起こす作り。
ねじ曲がった尖塔がどうやら蛙さんたちの住処らしい。
そこかしこに
なかなかのどかな光景。
なんだけど。
「狸の襲撃だぁ~!!」
「戦闘準備!! 急げい!!」
「出入りかあぁ!!」
「ぶっちらばしちゃるけんのおぉ!!」
ああそうですか、どこまでも僕は「狸」ですか。
「…いやその、わざわざ連れてきてもらって、その、正直すまんかった」
自来也さまのせいじゃないんですよ。
僕が「狸の気」なんて持ってるから…。
うなだれ、膝をついて落ち込みましたorz。
「あ~、すまんかったのお、お前さんたちとは思ってもみんかったけえのお」
忍蝦蟇の里の切り込み隊長であるガマヒロさんが皆さんを代表して謝ってきます。
自来也さまは大ガマさま、つまりは里の長老格の方と会見したり、シマさんに泣かれたりと大忙しです。
僕と言えば大物(いろんな意味で)に頭を下げられてはこれ以上落ち込んでいる訳にもいきませんし、無理やりではありますが気持ちを持ち直しました。
「それにしても、よういきてかえったんじゃあ。
われたちは死んだゆぅて聞かされとったけえ、生きて帰ってくれてうれしぃんじゃあ」
ガマヒロさんさんは本当にうれしそうです。
忍蝦蟇の一族は昔何かあって、人間とは一線を引いていたらしい。
それが自来也さまとの契約によってまた人と関わり始めたのだから、忍界における自来也さまの功績はそれだけでも絶大なものだ。
「…あ~、そりゃぁわれにも適応されることをわかっとるか?」
はい?
「わりゃぁ人と関わりをやめた狸の里との口寄せの契約をしたんじゃあ。
ちゅうことは、自来也と同じ、っちゅう事じゃあ」
いやいや、そんな事は無いっすよ。
僕の場合むしろ向こうが人との関わりを始めようとしていた、そのきっかけになったにすぎません。
「…知らんちゅう事は幸せじゃのぉ」
…? なにか?
まあそれはさておき、
「おおい、ブンブクよお、大蝦蟇仙人様がお呼びだのォ」
おや、僕ですか?
なんだろ、僕が呼ばれるような事、自来也さまがしたのかしらん。
「お前のォ、いつからお前がワシの保護者になったんだのォ?」
…なるほど。
「え~っ! 自来也さまはぁっ!! 過日露天風呂にてぇっ!! 綱手さまのォっ!!」
「やめれえっ!
何を言い出すんだのォ! お前はぁ!」
「いやここしばらく自来也さまのエロ活動の尻拭いしてたの僕ですよね。
保護者みたいなもんでしたよ?」
「…」
「…」
「はあ…。
まあ良いわい。
大蝦蟇仙人様が『お前を』お呼びだ。
早いとこ行ってくるのォ」
はて、大蝦蟇仙人様が僕に用事とは?
目の前にいるのは老いた巨大な蛙。
大蝦蟇仙人さまです。
とてつもなく歳月を経た木石なんかが醸し出す雰囲気を持った方です。
「…おーお、よう来たのおー。
でえ、だーれだったかのー」
これはネタなんだろうか、それとも本気なんだろうか。
まあこういう場合はきちんとしないとね。
「はい、木の葉隠れの里の下忍で茶釜ブンブクと言います。
自来也さまには一方ならぬお世話をいただいております!」
挨拶は大事だよね。
「そーかーそーかー。
げーんきでええのー。
こーどもは元気がいーちばんじゃからのー」
「はい! ありがとうございます!」
そう言えばなんで呼ばれたんだっけ?
「大蝦蟇仙人さま、そろそろ本題に入られた方が…」
「そーじゃのー。
…そう言えばー、お前はー誰じゃったかのー?」
まあ、自来也さまは大分見てくれが変わっちゃったからしょうがない様ねえ。
「妙木山にて修行を積まれた木の葉隠れ随一の忍、自来也さまです」
「ブンブク…」
え? なに? 実際そうでしょ?
自来也さまはなんか感動してらっしゃいますけど。
「おーおー、そーじゃった。
エロ坊主じゃったのおー」
…あう。
「それでじゃのー、ブンブクよー、お主の夢を見たんじゃー」
? はあ?
自来也さまは驚いている。
「なんと!?
大蝦蟇仙人さまの予言が!?」
予言ですか?
「そーじゃー。
ワシの見たものはのー、
とてつもない力と力がぶつかるところじゃったー。
お主と桃色の髪の少女が一緒にいる所が見えたのぉー。
その力同士のぶつかり合いはいずれ終結するんじゃー。
その時、お主はおーきな分岐点に差し掛かるじゃろ―。
その時、判断を誤ればー…」
それまで積み重ねてきた全ては最初に戻り、次にはただ虚無が広がるであろう。
大蝦蟇仙人さまの前から退出して、僕は考え込んでい…なかった。
その時になってみないと分からないよね。
重要なのは大ガマさまの言葉を覚えておくことだと思う。
その時、重要な岐路に立っていることを理解できれば、その時動けるだろう。
多分、一番やってやいけないのは「選択しない事」だと思うんだよね。
その場で選択する事が重要な気がする。
「…お前は強いのォ」
自来也さまがそう言う。
それは違う。
僕には先達がいたから。
それは貴方ですよ、自来也さま。
とにかく一度ご飯にしましょう。
御飯が終ってしばらくしていると、です。
外が若干騒がしくなりました。
どうも、誰かが帰って来たらしいです。
そうすると、自来也さまが、
「…ブンブク、一旦出るぞ」
そう言って僕を連れ出しました。
遠目から見てると、あ、
「うずまき兄ちゃん」
そう、我らがうずまきナルト兄ちゃんがこの妙木山へとやって来たのでした。
さて、
「自来也さま、兄ちゃんに会ってきたら?」
僕が自来也さまに同行していた事は兄ちゃんたちは知らないはず。
なので、僕が姿を見せて説明するのはまずいでしょう。
下手すると兄ちゃんの6代目さまへの不信感とか助長しかねませんし。
兄ちゃんは今、自来也さまを失った状態な訳で、その感性が妙な方向に暴走しかねないのですよ。
…そうだ!
「自来也さまが生きてる事を兄ちゃんに教えれば良いじゃん!」
そうだよ!
なんでこんな簡単な事を僕は忘れてたんだろう。
んでは早速…。
…。
…。
自来也さま、何故に止めるのですか?
「ちょっと待て。
良いか、ブンブクよ。
これはチャンスなのだ。
ナルトの成長する、な」
…分かります。
それは分かりますけど。
「…で、あろうな、お前の立場なら。
今、ナルトはかなり苦しんでおるだろう。
アレの両親と違い、ワシはあいつが物心ついてから初めて失った『親』じゃからのォ…」
そう、ナルトは己が試練の如く辛い体験をする事は多くとも、親しい人と死別した経験は多くなかった。
その中でも自来也は特別だろう。
もう1人の「親族」とも言える猿飛ヒルゼンは死別がはっきり分かっていた。
数年掛けて急速においていったヒルゼンは、誰の目にも死がはっきりと見えていた。
その為、「死ぬためのプロセス」をしっかり踏んでいったと言っていい。
ヒルゼン自身も、そして周囲の者達もヒルゼンの死を「受容」できる状態になっていた。
無論ナルトも。
自来也の場合は突然だった。
ナルトはその喪失をまだ受け入れる事が出来ていない。
そして周囲もそのフォローが出来なかった。
何となれば彼らは忍だ。
忍の世界では「死」は少なくとも一世代前までは日常茶飯事であった。
はたけカカシもそうであるし、みたらしアンコもそうだ。
誰かしら親しい人を失っている。
それが当たり前であった世代と、ナルト達失う事がなかった世代。
これもまた世代間のギャップであろう。
失う事が当たり前で、それを自分自身で乗り越える。
それが周囲にも当たり前であった為に、「失ったのは自分だけではない」と孤独感を埋める事もできた。
ナルトにはそれが居ない。
自来也を失って苦しんでいるのはナルト以外では綱手がそうだろう。
しかし、彼女は「失うのが当たり前の世代」である。
ナルトに効果的なアドバイスなどできはしない。
もしできるものが居たのなら、それは、
トビ。
そう呼ばれている彼なのかもしれなかった。
今後ナルトには様々な苦難が待ち構えているだろう、そう自来也は考えていた。
故に、だ。
「ワシの死をあいつには乗り越えてもらわねばならん。
それが出来た時にこそ、ワシはあいつの前に出る事が出来るだろうのォ。
今すぐにあいつの前に出た所で、あいつのワシに対する依存がでかくなるだけだからのォ…」
自来也はナルトの今の精神状態を正確に把握していた。
それ故に今この場で出ていく訳にはいかないと考えていた。
その辺りは「失うのが当たり前だった世代」と「失う事がいまだ無い世代」の感性の違いなのかもしれない。
そしてこの場合は自来也が正しかったのであった。
…なるほど。
確かにそうですよね。
今、自来也さまが出ていったら、もうこれ以上大事なものを失いたくない兄ちゃんは動く事すらできなくなるかもしれません。
「すいません、自来也さま。
僕が軽率だったようです」
僕は自来也さまに謝った。
「む、まあ、分かればいいのォ。
とにかくしばらくはナルトの目に付かん所に身を隠すとしようかのォ」
僕たちは周囲の蛙さんたちに状況を説明し、兄ちゃんから身を隠す事にしたのでした。
その夜です。
「自来也よお、よういきてったんじゃあ。
われは死んだゆぅて聞かされとったけえのお」
ブン太さんは本当にうれしそうです。
そうだよね、自来也さまとは子蝦蟇だった頃からの付き合いだそうだし、はっきりと戦友、って立場みたいだしね。
そもそもは自来也さまが大蛇丸さん以上に力を求めてこの「妙木山」に迷い込んだ時、始めて契約したのがブン太さんだったらしい。
フカサクさまは無言でがっちりと自来也さまを抱きしめていた。
フカサクさまも言ってみればヒルゼンさまとおんなじで自来也さまの第2のお師匠さまだしねえ。
「自来也ちゃん、良く生きとってくれた。
良く…」
「すいませんのォ、フカサク様。
本当に心配をおかけしました」
シマさまの時もこんな感じだった、というか、もっと凄かったけどね。
で、
「さて、自来也ちゃん、ちょっとここに座りんさい」
「…へい」
お説教2回目ですね。
なんで無理するか、大事な人がいるのに帰れないとはどういうことか、そもそも作戦がザルすぎるとか、いい加減落ち着いて嫁貰えとか、エロはいい加減にしておけとかETCETC…。
シマさまから貰ったお小言よりかは大分ましじゃないかと思うんですけど。
「いや、これはこれで心に来るんだがのォ…」
「自来也ちゃん聞いとるか!?」
お説教はしばらく続きました。
成仏してください自来也さま、南無~。
そういや成仏ってなんだっけ?
「自来也ちゃん、お前さん、ナルトちゃんに仙術の基礎、教えて上げんさい」
シマさまが自来也さまにそう言いました。
「は? いや、ワシはですのォ…」
「分かっとる。
確かに今、ナルトちゃんは自来也ちゃんの死を乗り越えようとあがいとる。
ここで自来也ちゃんが出ていったとしたら、その気持ちが変な方向に行くかもしれんのお。
それこそ自来也ちゃんべったりになっちまうかもしれん」
「それが分かっとるんでしたら…」
「でも自来也ちゃん、忘れとりゃせんかい?」
「は?」
「いま…アンタぁ蛙なんよ」
ぴしり。
自来也さまが凍りつきました。
「今のアンタぁ見ても、自来也ちゃんだたぁ思わんじゃろう」
…まあ正論ですよね。
自来也さまのコスプレした蛙としか見られないんじゃないかと。
「…だのォ」
はい?
「い~や~だ~の~ぉ~っ!!」
自来也は吠えた。
「嫌じゃ~っ!!
こーんなみっともない姿をナルトに見せられーんっ!!」
ここで冒頭に戻る、訳ですね。
「なんじゃとぉ、自来也ちゃん、蛙のどこがみっともない!?」
「フカサクさまみたいに威厳もなーい! ブン太みたいにでかくもなーい!
半端に前通りで、こんなん見られたら笑われるに決まっとるのぉー!!」
そうかなあ。
僕は頭の中でシミュレートしてみると…。
『ぶっは! なんだこの蛙、エロ仙人みてーなカッコしてよ!
だっせー!!』
…うん、まずいね。
今兄ちゃんは自来也さまの影を払しょくしようとしている所だ。
このまんまの自来也さまを出すのはさすがに…、あ!
「んじゃあ変装しましょうよ、変装!」
「ん?」
「変装?」
「そりゃぁどがぁな意味じゃろぉか?」
自来也さまだけでなく、フカサクさま、シマさまも疑問をぶつけてくる。
「いや、確かにこのまんまだと、自来也さまのコスプレか偽物扱いでしょうから」
「コスプレとはなんだのォ!」
「兄ちゃんからしたらそんなもんかと。
ですので、服装を変えて、髪型を変えれば良いんじゃないですかね」
「…ふむ、良い考えかもしれんぞ。
自来也ちゃん、良いんじゃないかの?」
「変装、ですかのォ…。
このワシのスタイルを変える、っちゅうのはのォ…」
いや、今兄ちゃんに見せらんないとか言っておいてそれはどうかと思うけど。
っていうか、
「元に戻った時にかっこいい元の姿を見せれば良いんでは?
それに変装しておけば…」
「なんじゃのォ、ブンブク?」
「兄ちゃんの成長、すぐ近くで見られるんですよ?
今まで自来也さまが鍛えこんできた基礎が結実する姿、見たくありません?」
「む…、う~む…」
自来也さまとて兄ちゃんの修行が嫌な訳じゃない。
兄ちゃんの精神状態、お師匠様としてのプライド、いろんなものが邪魔してるんだと思う。
でもそれで離れちゃうのはもったいないと思うんだ。
自来也さまは師匠としてはピカ一だろうと僕は思うんだ。
仙術の修行も兄ちゃんの事を良く知っている自来也さまが関わるなら、効果は高いと思うんだよね。
「それでブンブクちゃん、自来也ちゃんをどんな感じに変装させようかねえ」
「そうですね、折角の長髪なんですから、櫛を入れて梳かしてから、茶筅髷風に結ってみましょうか…」
「それじゃあ服装は旅の武芸者風で…」
そして出来上がったのが、
「それじゃあワシは武芸者蝦蟇のシュウマ、という事で良いかのォ」
和装に羽織、という自来也の基本スタイルは変わっていないものの、
「うむ、雰囲気が大分変ったのお、これならば自来也ちゃんとはナルトちゃんも思うまい」
そう思えるほどには感じが変わっていた。
まずはその特徴的な長い髪は、シマの手により丁寧に整えられてまとめられ、茶筅髷、というよりは
服装は木の葉隠れの里の制服調の渋い色から上は白を基本とした紫のかすり模様、袴は灰色がかった色のもの。
羽織は自来也が常日頃身に付けているような陣羽織ではなく袴の色に合わせた灰色みがかった通常の袖のある羽織。
そして自来也の体格に合わせた大小の日本刀を携え、足には足袋と草履、と言った風体。
蛙ではあるものの、落ち着いた雰囲気の和装蛙が出来あがっていた。
「なかなかにあっとるよ、自来也ちゃん」
フカサクも自来也を褒めている。
「…そうですかのォ」
自来也は疑問を投げながらもまんざらではなさそうであった。
「これで大丈夫でしょう。
…多分」
「何ぞ言ったかのォ、ブンブク」
「いえ別に!」
ブンブクは自来也の変装には十分な手ごたえを感じながらも、ナルトの直感に一抹の不安を感じてはいた。
とは言え、自来也がナルトの仙術の修行に入る事はナルトの実力を高める為には有効であった。
まあ始まってみないと分かんないか。
彼はそう能天気に考えるのだった。