木の葉 自来也の死
「そうか、自来也が…」
綱手はどこか呆然と、フカサクの話を聞いていた。
全力で戦い、そしておそらく死体も残さず消滅したであろう自来也。
今の所ブンブクもアンコも戻ってきていない。
彼らの生存も絶望視されていた。
綱手は
今までまともに勝った事など何年も博打を打って2、3回と言ったところか。
『こんな時に勝たなくてもな…』
自来也との賭け。
結局勝ってしまったか。
嫌な予感という奴だけは当たるものだ。
「…6代目、大丈夫ですか?」
呼んでいたはたけカカシがさすがに心配そうに綱手を覗き込んだ。
「…問題無い、って事は無いんだけどねえ。
カカシ、すまないがナルトを呼んで来てくれないかい?」
綱手はカカシに命じると、俯いた。
「は?」
うずまきナルトは呆然としていた。
カカシに呼び出され、火影の執政室へと赴いたナルト。
着いてみれば第7班のサイと春野サクラ、そして、
「この子が自来也ちゃんの弟子か?」
蝦蟇仙人のフカサクがそこにいた。
そして、
「自来也ちゃんが戦死した」
そう、告げられた。
ナルトにとって、彼は師であり、友人であり、父の様な存在であった。
いつもフラフラしているように見せて、その実芯の通った所をナルトに見せつけ、忍とは、男とは、人とは何か、をナルトに教えてくれた存在であった。
ナルトの感じた衝撃は予想以上のものであった。
いつもなら他者への思いやりを忘れないナルトが、綱手に突っかかり、
「エロ仙人が火影になってたら、綱手の婆ちゃんにこんな無茶はさせなかった、ぜってーに…!」
そう吐き捨てるように言うと出て行ってしまったのだ。
俯く綱手を見て、何とも言えない7班の面々。
しばらくして、カカシを先頭に執政室を出ていった。
綱手はシズネにも指示を出し、自来也の残した資料の解析を行っている分析班へと行かせた。
綱手を案じるシズネを強引に外に出す綱手。
「大丈夫かい、綱手ちゃん?」
フカサクはそんな綱手を心配して声をかけた。
「大丈夫ですよ、フカサクさま。
それに、まだ謝らなければいけない人もいますから…」
綱手がそう言うと、
「それはワシの事か…」
壁からにじみ出る様に元5代目火影・志村ダンゾウが現れた。
「…5代目、相変わらず趣味が悪い」
「ぬかせ。
で、謝らねばならんというのワシの事か?」
「ええ。
こちらの失策でアナタの後継を死なせてしまった。
悔いても悔いきれませんよ…」
そう言って頭を下げようとする綱手。
しかし、
「アレが死んだと、誰が見てきたのか?」
そうダンゾウが言う。
「しかし…!」
「…6代目、忘れたか?
アレは化け狸共と遠話が可能だ。
アレが死んだとすれば狸共のどれかの耳に必ず入ろう。
そうすれば、里の中からはともかく、口寄せの契約をしている者が多々いる砂隠れの里の者達から何らかの連絡が入るというものだろう。
故に、ワシはアレが死んだとはまだ断定せん」
ダンゾウは綱手を宥めるようにそう言った。
「志村ダンゾウ殿、アレというのはブンブクちゃんの事かい?」
フカサクがそう聞く。
フカサクにとっても興味深い少年であった。
それに…。
「左様。
茶釜ブンブクはこの里の者です」
ダンゾウがそう言うと、
「なるほど。
ふうむ…」
フカサクは少し考え込むように唸った。
「蝦蟇仙人殿、どうかなされたか?」
ダンゾウの眉が心なしか顰められ、普段から深い眉間の皺がさらに一段深くなったように見えた。
「うむ…、大ジジさま、いや、大ガマ仙人さまの予言の中に、ブンブクちゃんらしいものに対するやつがあってのお…」
「ほお…」
フカサクの言葉に反応するダンゾウ。
それが事実なら、ブンブクにそれが告げられるまでは彼は生きているはず。
ダンゾウは希望を持っていいのか、そう考え顔色には出さぬが若干なりとも安堵していた。
「それはどのような?」
興味を持った綱手がそうフカサクに尋ねる。
「…うむ、詳しくは聞いておらんじゃがな、
『
誤れば全てがご破算になる』というような感じじゃった」
さすがにその言葉に眉を顰める綱手と更に眉間のしわが深くなるダンゾウ。
2つの力が何を示すのかは分からない。
その勝負がついた時に、ブンブクが選ばなければならないものとは。
綱手とダンゾウが思考の迷宮に陥りかけていた時、その時だ。
暗部の1人が執政室を訪れた。
「みたらしアンコが戻りました!」
執政室の中に緊張が戻ってきた。
暁 聖杯八使徒
雨隠れの里にて。
「…そうか、デイダラ、イタチが死んだか」
ペインがそう言った。
向かい合っている相手は、
「はい、直接確認はしていないんすけど、デイダラ先輩は爆死っす」
いつもと同じ、ぐたっとした雰囲気のトビ。
そして、
「イタチは死亡を確認してきたよ」
「アア、両ノ眼ダケヲ残シテさすけノ天照デ消滅ダ、死体ヲ確保デキナカッタノガ残念ダ」
白と黒、体の班分が別々の人格を持つ食虫植物のような意匠のゼツ。
「……」
黙り込んだままの干柿鬼鮫であった。
「干柿鬼鮫、どうかしたのか…」
ペインの問いに、
「ああ、イタチさんが死んでしまったのでね、ワタシを押さえる相手が居なくなったのが心配なんですよ。
無駄な殺しをしてしまいそうで、ね」
鬼鮫はそう答えた。
鬼鮫にとって、イタチは冷静さと鬼鮫を抑え込める実力を持つ安心のできる相棒であった。
鬼鮫は己の凶暴性をとてつもなく嫌悪していた。
故に、トビ、もしくはそう名乗る存在にとって、暁の中でも最も信頼されているのであるが。
暁の中で、トビと本当の意味において同士と言えるのは鬼鮫だけであろう。
そう、暁の首領と言われるペインですら、トビにとっては目的のために一時的に手を取り合い、利用しあっている関係に過ぎないのだ。
「あ、それなら鬼鮫先輩にはイリヤちゃんつけましょうか。
彼女なら冷静だし、理論的だから鬼鮫先輩とツーマンセルするには良いんじゃないですか?」
そう言われて鬼鮫は首を捻った。
確かに彼女は元がアレだし、冷静ではあるものの、自分を抑え切れるか、というと微妙だ。
というか…、
「彼女の本気を受けたら、ワタシといえどもシャレにならないと思うのは気のせいでしょうかねえ…」
イリヤの本気を一度見ている鬼鮫としては、さすがに受け止めたくない、と考えてしまう。
本気の殺し合いになってしまいそうで。
意外な事に、干柿鬼鮫は子どもや可愛いものが嫌いではない。
自分に無いものを人は求めると言うが、それは鬼鮫にも当てはまるのかもしれない。
イリヤに倒される、というよりは本気になってしまってイリヤを傷付けるのを忌避しているのだ。
「それは何とかなりますって。
大分こっちの手数も少なくなっちゃいましたしね。
イリヤ、そろそろ大丈夫かい?」
トビがそう話す。
「ん。
十分なチャクラを注ぎ終わった。
触媒は十分な力を得た。
これなら、
イリヤのその言葉に疑問を返す鬼鮫。
「彼ら、とは?
話の流れから口寄せの術の様ですが」
鬼鮫の問いに、トビが返した。
「はい、イリヤは膨大なチャクラを引き出す事が出来ますが、その制御に問題があります。
でもですよ、それならそれで『強大な術を使いこなす』奴を呼び出せばいいんですよ。
イリヤちゃんはある意味それに特化した存在ですから」
トビの答えに鬼鮫が唸る。
「なるほど…。
という事は、ここしばらくの膨大なチャクラの使用は…」
「そうっす。
イリヤちゃんの仕込み、ですね。
強力な口寄せを行うんで、その触媒にチャクラを喰わせていた、っと言う訳ですよ」
「あの量を、ですか?
少なく見積もっても私が普段保有している量と同じ程度であると思うのですが」
鬼鮫は元々膨大な量のチャクラを保有している。
戦いにおいてはそれを湯水の如く使用して戦うのであるが、それに加えて「大刀・鮫肌」からのチャクラの供給がある。
大刀・鮫肌は「刀」と呼ぶには実際使用法が違う。
鮫肌は刀身にまるで颪がねのような鱗が生えており、これによって相手を「削る」のがその使用法だ。
その際に、相手のチャクラをすり下ろし、蓄える。
鬼鮫は鮫肌の蓄えたチャクラを吸収する事で戦い続ける限り尽きる事の無いチャクラを手に入れている。
勿論の事ながらそれを保有する事の出来る鬼鮫のチャクラ保有量も凄まじいものである。
その彼と同程度のチャクラが注がれた触媒。
どれほどの以上存在を呼ぶ事になるのか。
そもそもそれを制御できるのか。
鬼鮫は不安を感じた。
しかし、それを払しょくするようにイリヤが言う。
「大丈夫。
ボクはその為の存在。
こと、「聖杯之使徒召喚」に関して言えば、ボクの失敗は絶対に無い」
いつもの通り淡々と、しかし、自身を窺わせるイリヤの言葉。
本来ならば不安しか感じられないはずのその声に、鬼鮫は何故か安堵していた。
彼女なれば問題ない、と。
それはイリヤの自身が伝わったためなのか、それとも別の要因があったのか。
鬼鮫には判断が付かなかった。
ペインが言う。
「こちらの手札もかなり少なくなった。
そろそろ口寄せは可能か?」
「ん。
問題無いほどにはチャクラが溜まった。
いつでも口寄せが可能」
「ではやれ。
『第二次木の葉崩し』、失敗する訳にはいかん」
ペインの言葉が始まりを告げた。
この世ならざる存在をこの世に呼び出す邪法、
「口寄せ・聖杯八使徒」の。
そこには「祭壇」とでも言うべきものが用意されていた。
中央には巨大な椅子。
その周囲には口寄せの触媒である剣、槍、弓、指輪、車輪、三日月、
「あれ? イリヤ、1つ多いと思うんだけど…」
そう、そこには8つではなく、9つの触媒が置かれていた。
天秤の形をしたアイテム。
「これは召喚には使わない。
いざという時のチャクラのタンクとして用意したもの。
口寄せの際にチャクラのバランスが崩れた時、足りなければここから補充、多ければここに保存する為のモノ」
「なるほどね、さっすがイリヤちゃん!」
「ん。
もっと褒めても良い」
「はいはい、じゃ早速始めましょー!!」
「兄さんつれない。
でもそこに痺れる憧れる」
「…だ」
「冗談はこれくらいにして始める。
兄さんは所定の位置に付いて」
「…じ、じゃあ始めよっか~!!」
若干やけくそ気味のトビが、祭壇の前、イリヤが祭壇に据え付けられた椅子に座ることで、準備は完了した。
トビ、いやそう呼ばれている者が暗闇に声を放つ。
「素に銀と鉄。
礎に石と契約の大守。
祖には我等が始祖六道仙人。
降り立つ
四方の門は閉じ、天守より出で、月に至る三叉路は循環せよ」
風が渦を巻き、祭壇の炎が燃え上がる。
器に満たされた水が唸りをあげ、水晶石が共鳴する。
周囲に稲光が混じり、力が循環し始める。
「
繰り返す都度に五度。
ただ、満たされる刻を破却する」
風が止まり、炎が消え、水が干上がり、水晶が砕け、稲光が止む。
そこにあるのは純粋な
「始まりを…告げる」
力が渦を巻く。
「……告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
力が1つの方向にまとまり始める。
「誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者」
触媒の周囲にとてつもない力が噴き出す。
「汝三大の言霊を纏う七天、外道たる一泥、
抑止の輪より来たれ、聖杯の守り手よ!!」
噴出した力が触媒を中心に凝縮し、そして。
「口寄せ・聖杯八使徒」
その瞬間、イリヤを中心に莫大な力が生まれた。
轟々と音を立ててうずまく膨大なチャクラ。
それらは忍として卓越した力を持つトビをして、制御に全身全霊をかけねばならないほどのじゃじゃ馬だった。
…どれだけ時間が経過したのか。
闇の中に何かが
数は、7か。
いや、1つ、あまりにも巨大なものがある。
総じて8つの力の塊。
「何ですか、これは…」
呆然とするしかない小南。
「ほう…」
力の塊に、つい殺気を籠った笑みを送る鬼鮫。
「…」
無言のペイン。
「ふう…、一仕事っと!」
あくまで能天気に言ってのけるトビ。
「…」
無言・無表情なれど、どこかドヤ顔のイリヤ。
そして8つの塊が起動する。
「我ら聖杯八使徒、主にして枷たる『聖杯のイリヤ』様の
我が名は『復讐者』
「そして、『剣聖』タロス」
巨大な何かが、"ウオォオォーム"と、唸り声とも、身じろぎした音ともつかない音を放つ。
それは闇にまぎれて見え辛いが、まるで緑青の吹いたような青緑色の巨大な足を持っていた。
「『竜槍』
それに答えたのは長大な長柄の得物を持つ男。
幾重にも金属板を重ねたまるで鱗のようにも見える甲冑を纏い、深紅の毛並みの馬を従えていた。
「戦か、我を戦場へ返せ、我は戦場の支配者なり」
彼はそう言い放った。
その目には「戦い」それしか映っていなかった。
「『弓聖』シモ・ヘイへ」
現れたのは手に2本の得物、背中に1本の長柄の得物を担いだ男だった。
古傷だろうか、左のあごに負傷があるようだ。
これでは会話をするにも不便であろう。
得物はこの世界においては存在しないはずのライフル、そしてドラムマガジン式のSMG。
彼は鋭い眼光でトビを見た後、男はなにも声を返さず闇に引いていった。
「『輝騎』ソロモン」
だぼりとした長衣に身を包んだ男がその言葉に応じて前に出た。
目につくのは指にはめた指輪。
本人もそうだが、その指輪にはとてつもない力が封じられているのが傍目からでも感じ取れた。
「我は王。
悪魔の王、そして天の王を狙わんとした者。
我が覇道の前に敵は無し。
我が力、存分に振るうが良い」
長衣の者はそう言い放った。
「『唱手』
そこにいるのは1人の老人。
どこにでもいそうな顔立ちの、品の良さそうな羽織袴の商家のご隠居、といった装いだ。
されど、その目に宿るのは戦いへの渇望。
呂布とはまた別の煌めきを持ち、老人はこの世界に現れた。
「ほっほっほ、さて、
老人はあまりにも邪悪な笑みをその顔に浮かべ、そう言った。
「『狂狼』ドラキュラ伯爵」
ここにいるのは洋装の男性。
髪をオールバックに固め、タキシードを隙なく着こなしている。
それだけならばいい。
三日月形に裂けた口からだらだらとよだれを垂らし、その目には破壊衝動しか映っていない。
彼は天に吠えた。
「『影潜』
そう呼ばれてしゃなりしゃなりと前に出たのは豪奢な服装の人物。
美しい布を何枚も重ねた美姫の装束。
高く結いあげた髪は見事な宝玉の簪にて飾られていた。
しかしながらそれを纏うのは、
「ワラワが全ての障害を排除してやろうほどにの、ほ、ほ、ほ」
50代と思わしき精悍な造りの男性である。
肩幅広く、鍛え上げられたヘラクレスも斯くやと言わんばかりの筋肉は、姫装束を纏ってすら見て取れる。
精悍な、男の顔には目にはアイライン、深紅の口紅がその薄い唇に刺されていた。
そう、男しか感じられない精悍な男性が女にしか似合う事の無い姫の装束を着てそこにいた。
違和感の上に違和感を重ねたような人物がそこにいた。
最後に時貞が皆を纏めて言う。
「主にして枷たる『聖杯のイリヤ』の命を十全に果たすべく、我らいかなるご要望にもお答えいたしましょう。
それが我ら、聖杯八使徒の至上でございますれば」
時貞はそう言って、白磁のような肌の顔に朱を引いたような唇で微笑んで見せた。
茶番哉。
トビはその仮面の向こうでそう嘲笑していた。
彼らは本当の意味で存在していた訳ではない。
イリヤの持つこの世界に存在しない知識、その中から情報量の多い英雄を選び出し、イリヤの力で無理やりにチャクラへの焼き付けを行う。
そうすることで彼らはこの世界に存在した人の様に、精神のチャクラを保有する事になる。
後は肉体の代わりとなるものを用意すればいい。
触媒を核として、チャクラで構成した肉体。
精神のチャクラと肉体のチャクラ。
それが揃う事で疑似的とはいえ人間が誕生する。
そう、誕生だ。
彼らはもともとこの世界に存在せず、イリヤ、もしくはその大元存在の中に知識として有った者達だ。
「…つまりは物語の中の登場人物、なんだよね」
それが、忍術を行使することで現実世界、と自分達が呼ぶ世界に存在し得る。
やはりイリヤの中にあった知識、それから模倣されただけの儀式によってそれが生み出された、などと。
これが茶番と呼ばずに何と呼ぶ。
自分達が生まれ、経験して、死んでいく事。
それはただチャクラに記録として残されるだけの代物だ。
そんな現実にどれほどの価値があると言うのか。
全てはチャクラ、膨大なチャクラさえあれば、人間すら創り得るのだ。
ならば生など、死など、現実などいらないではないか。
ならばオレは現実を切り捨てよう。
いらないモノの無い、大事なものだけの世界を作ろう。
それこそがトビの真の目的。
「そうだろう、なあ、……リン、カカシ」
ブンブク 闇の中にて
んん? ここどこだろう?
僕が目を覚ますと周囲は墨を流したような真っ暗な空間だった。
耳を澄ますとどこからかお囃子の音が。
何だろうか?
僕ははふらりと立ち上がり、その音のする方向へと歩き出しました。
なにこれ。
なんといっていいのだろう、このカオスな空間。
目の前にはでっかい生き物がいち、にい、さん、…5体。
ってかどう見ても…。
「じゃはははぁっ、んん? またバラけたパーツが来たんかあ?」
「いえ、これは、本体の方のチャクラの様ですよ、守鶴」
その言葉に驚いたのか、尾獣さんたちが張った綱の上で傘を持っておどけていた僕そっくりの茶釜狸、…って影分身じゃん!?
「え、ええぇ~っ、ちょっと影分身! 今までどこ行ってたのさ!?
今までどんだけ大変だったか!?」
「あれ? 本体、死んじゃったの?」
ずいぶん能天気だよね、キミ。
「そら本体と同じもんですからして」
自分から言われるのってかなりへこむね。
「うん、自分で言っててへこんだ…」
…じゃなくて!
「分身、なんでここにいんの、ってかここどこ?」
「ありゃ? 本体ここどこだか分かんなくて来たん?
ここって…『外道魔像』の中なんよ!?」
はあっ!?
さすがに驚きましたね。
どうやら僕はペインさんの1つにチャクラを吸いだされた。
その際、ボク自身を構成しているチャクラも丸ごと吸い出されたみたいで、記憶や人格を持ったまんま取り出されてしまったみたいなんだ。
で、ここが外道魔像の中って事は…。
「どうやらペインさんって外道魔像と繋がってるのか」
「そういう事になるねえ」
分身と頭を捻ってみたり。
そうしたら、
「おい豆狸よォ、こっちも相手してくれやあ」
って、
「あ、守鶴さん、お久し振りです」
声をかけてきたのは「一尾の守鶴」さんだ。
ホントに久し振り、っていってもまだ1年たってないんだよね、あれから。
「…ああ、オメエは本体の方か。
なんだよ、本体の方も死んじまったか」
いやまだ死んでないっす。
「いやいや、本体、普通肉体とチャクラが引っぺがされたら死んじゃうから」
まあそうなんだけどね。
この状態になって理解した事がある。
それは…。
「本体、僕ってやっぱりどっかおかしい存在だったんだねえ」
まあそうだねえ。
色々普通の人間としては異常な所がいろいろあったからね。
「? どうかしたのですか?」
そう尋ねてくるのは二尾の又旅さん。
「キキッ、そうだな、なんかおかしいのか?」
こちらは四尾の孫悟空さん。
「そうですね、アナタは『知の釜』の一族なのでしょう?」
そういうのは五尾の穆王さん。
はて? チノカマとは何ぞや?
うちの一族の昔の呼び名かな?
尾獣さんたちは長い事生きてるから、色々昔の事を知ってるしね。
「う~ん、知の釜、茶釜の一族だと100年位に1人くらいは君みたいなのが出るからね、気にしない方が良いよ」
そう気にかけてくれるのは三尾の
結構穏やかそうないい
まあそれはさておき。
「でさ、なんでこんなとこにいるのさ? 分身」
「いやあ、それがさあ、里にいる時に捕まっちゃってさあ」
「誰に?」
「良く分かんないけど、『ぐるぐるのお面』をつけた奴に」
「ぐるぐるのお面、ねえ」
覚えておこう。
「んでさ、多分幻術だと思うんだけど、人格破壊受けちゃったんだよね、僕」
「は?」
いや、そんなん受けたら普通分身って壊れるよね。
なんで戻ってきてないのさ?
「どうも、『チャクラを保存する容器』みたいなのに捕まってるみたいで、そっから逃げだせなかったんよ」
…なるほど。
この「外道魔像」みたいなの、もしくは…。
「そ、多分その器には『外道魔像』関係のもの、多分欠片とかが使われてんじゃないか、とね」
多分そうなんだろう。
で、人格破壊、多分洗脳技術だろうなあ、それを受けた際に、壊れた人格の欠片がこっちに流れ着いた、と。
「しかし分身、良く人格復元できたねえ」
「あ、それは…」
「オレらがやった。
反省も後悔もしていねえ」
…愉快犯は守鶴さんでしたか。
なるほど。
ん? んじゃあ…。
「あ、残ったチャクラとか、そういった部分の事?
あれ、新しい人格埋め込まれて『暁』側に寝返ったよ」
は? 僕程度のチャクラの持ち主なんて何の役にも…!
その時僕は思い出した。
ペインさんは何と言っていた?
「その知識は他に与えるにはあまりに危険。確実にここで仕留める」
アレはそういう事か!?
僕の持つ知識、それを限定的とはいえ引き出せる方法があるとすれば、僕は邪魔でしかない、そういう事だったんだ!
厄介だなあ…。
「ついでに言うと、もっと厄介だったりして」
どう言う意味、分身?
「いや、捕まってる僕の一部だけど、ってか僕が一部だけど、あっちって『外道魔像』をその核にしてるじゃない?
だからさ…」
ああ、尾獣さんたちのチャクラ引き出して使うのね。
それは厄介だなあ。
「んでさ、ここんとこちょくちょく膨大な量のチャクラが引き出されてんだよね。
これがどういう事か…」
なるほど。
何か碌でもない事を企んでる可能性がある、と。
「さすがに里の方に伝えないとまずいと思うんだよねえ」
確かに。
…およよ?
「どうしたん? 本体?」
どうやら肉体の方が再起動したみたい。
何か呼ばれてる。
「そっか、んじゃあね」
どうする?
一遍僕に合流して戻る?
「うんにゃ。
尾獣さんたちほったらかすのも寂しいし、こっちにいた方が何かと有利じゃないかなあって」
ん、わかった。
じゃあとよろしくね。
「ほおい」
「あ、ちょっと待てや」
あい、守鶴さんどうしました?
「ワリイけどよ、我愛羅と砂隠れ、化け狸の里に伝言頼むわ」
…了解です。
「そのにやにや笑いやめえ。
…うぉっほん!
出来るだけ早く
よッぴいて馬鹿騒ぎだぜ!!」
…はい!
「さてと、本体と接触できたから、追加の記憶も用意出来たし。
んじゃあ皆さんお待ちかね!
本体との接触で入手できた、『機動武闘伝』の続きが見れますよ!」
「よっしゃあ!」
「ウキキッ! なあ、『七竜玉奇譚』の完全版はないか!?」
「さて…、あ! ありました!!」
「ウッキャーッ!」
「ワタシはもうちょっと浪漫あふれるものの方がいいのですけど…」
「あ、『大正ロマン・ハイカラ様之ヲ通リ』の後半もありますよ~」
「まあっ!」
やっと出てきました、「聖杯八使徒」。
できるだけ元ネタのイメージを出さないタイプの人たちを用意したつもりです。