NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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何やらものすごい勢いで筆がのりましたんで早速投稿。
ペイン戦、終了です。


第79話 ペイン戦 終結

 ペイン5人と自来也、ブンブクの戦いは予想外な事に一進一退の攻防戦となっていた。

 ペインの内、人間道、餓鬼道は本来ならば動く事も出来ないほどのダメージを負っていた。

 彼らが本体から指示を受けて動く死体で無ければとうの昔にリタイヤしていただろう。

 又、地獄道も先ほど自来也に投げ飛ばされて以来、関節に負担をかけたらしく動きに精彩がない。

 修羅道は身体にダメージは無いものの、チャクラによって作り出される兵器をかなり消費しており、いわゆる弾切れの状態が近くなっており、最前線に出て体術勝負を挑んでいた。

 ペイン天道のみは大きな怪我も無く、他のペインの後方から斥力を操る忍術で的確な攻撃を行っていた。

 一方自来也は満身創痍と言っていい。

 経絡に受けたダメージにより左腕が未だ軽く麻痺し、右肩に負傷を追い、得意とする忍術の切れがない。

 勢い体術に偏った戦い方にならざるを得なかった。

 自来也の穴を埋めるのは蝦蟇仙人のフカサクだ。

 仙人を名乗るだけあって彼の術は強力だった。

 フカサクが居らねば自来也は既に死んでいたであろう。

 そして、

 

「…どう言う事だ?」

 ペイン天道は呟いた。

 茶釜ブンブクの動きが良い。

 いや、良すぎるとすら言える。

 ペイン修羅道の一撃を自来也の代わりにあの小さな体で受け止め、ペイン畜生道の口寄せ動物に追いかけまわされ、地獄道の一撃を喰らい、それであの動きは異常と言っていい。

 本来ならばとうの昔にスタミナが尽きているはずなのだが。

 …確かにブンブクは隙や余裕を見つけては懐からポリポリと何かを取り出しては食べている。

 大方兵糧丸であろうが、そもそも兵糧丸は吸収の良い高カロリーな食品を練り合わせて固めたものでる。

 だからと言って食べてすぐにそれがカロリーやスタミナに変換される訳もない。

 食事は食べてから吸収されるまでに半日から1日はかかるものだ。

 それが食べてすぐ吸収できる訳が無いはずなのだが、ブンブクを見ている限りそうとしか思えない節がある。

 そしてブンブクはとてつもなく厄介だった。

 ブンブクの本領、それは支援能力。

 個対個の戦いにおいてもブンブクは強い、とは言えないまでも、厄介、という程度の強さはある。

 ある種の生き汚さ、とでも言おうか。

 とにかく死なない。

 致命傷を負わない。

 逃げに徹して深入りするとがぶりと噛みつく。

 死んだかと思えばむくりと起き上がって逃げる。

 念入りに潰したと思えば偽物。

 人の神経を逆なでしつつ本人は冗談で無く泣きながら逃げだすと言った具合。

 しかし、自来也の支援に回ったブンブクはそれ以上に厄介、というか(たち)が悪い。

 自来也の周囲をちょろちょろとし、決して離れない。

 離れるのは大体においてフェイント。

 自来也からブンブクへと目が離れる、それを隙として自来也が攻撃をする、と。

 自来也は左腕をうまく使えない関係で、忍術の印を結ぶ速度が低下している。

 無論自来也だ、並みの上忍程度の速度は維持している。

 しかし、ペイン六道は全てが並みの上忍を超える実力者で構成されている。

 本来であれば自来也はとうの昔に死んでいるはずだった。

 それが成功していないのは一重にブンブクのせいであろう。

 まず、先ほど地獄道が自来也に攻撃してからの一連の流れ。

 その後のにらみ合い、その短い時間の中で、ブンブクは自来也の左腕のマッサージをそのチャクラ糸で行い、腕の麻痺を軽減していた。

 更には並行して八畳風呂敷の糸を使って右肩の傷を縫い合わせ、治療していたのだ。

 その為自来也は疲労を最低限に抑える事が出来ていた。

 自来也の周囲には邪魔にならない程度にブンブクのチャクラ糸が張り巡らされており、自来也の認識外の攻撃はブンブクが邪魔し、その為自来也には若干なりとも余裕が持てるようになってきていた。

 それもこれもブンブクが携帯できるサイズに変化しているせいである。

 先ほどまでシマの指定席であった左肩にブンブクはあのお間抜けな茶釜狸の姿で鎮座しましており、これがまた冗談のように自来也に似合っていた。

「…なにやら虚仮にされた様な気がするのォ…」

 …それはさておき、自来也は1つ博打を打ってみる事にした。

 このまま戦っていた場合、自来也の方が先にスタミナ切れを起こすであろう事は予想が付いた。

 それに、自来也とブンブクの想定が正しければ、今のペイン六道を倒しても意味があるのかどうか。

「…たぁ言え、こ奴らをどうにかせんと逃げるに逃げられんからのォォっ!」

 気合一閃。

 自来也はブンブクを()()()

 ご丁寧にしっかり溜めまで作った、完璧な野球の投球フォームで。

 ペイン天道めがけて。

「ぅにょらああぁぁぁぁっっっ!」

 奇声、まさしく奇声をあげてブンブクは奇矯な茶釜と狸の融合体のままペイン天道へと一直線。

 一方、ペインはすっ飛んで来るブンブクに困惑した。

「…一体先生は何をしたいんだ!?」

 とは言え、天道の元まで辿り着かれては都合が悪い。

 ペイン天道は、

「神羅天征」

 の術を以ってブンブクを弾き飛ばした。

 今のブンブクはその体の耐久力に比して体重が非常に軽い。

 かこーん!

 という軽妙な音と共に、

「ぅひょわぁぁぁっ!」

 ブンブクはそのまま綺麗に自来也に向かってかっ飛んでいった。

「…よしっ! 予定通りだのォ!」

 自来也はにやりと笑い、

「フカサクさま、お頼みしましたのォ!」

「承知じゃ自来也ちゃん! 風遁・大突破ぁ!」

 フカサクはそれに応じて風遁をぶちかました。

 こちらへ飛んでこようとするブンブクに向けて。

 そう、

「変化!」

 ブンブクは硬質の翼のついた奇妙な形態に変化した。

 頭はブンブク。

 しかしその胸元と背中には魚の鰭の様なものがあり、腹の脇には翼と大きく口を開けたノズルの様なものが見える。

 脚は両方とも筒状となり、足の裏に当たる部分にはぽっかりと穴が開いていた。

 そしてフカサクの風遁はブンブクの脇のノズルに叩き込まれていた。

「点火!」

 ブンブクの叫びと共にその体内に納められたジェットエンジンが点火、後方、つまりはペイン天道に向かって途轍もない熱と爆風が叩きつけられる。

「!」

 天道はその威力に耐えきれず、吹き飛ばされた。

 天道の「神羅天征」によって生み出された加速を更にジェットエンジンの加速に乗せて、ブンブクは自来也に掛かりきりになっていたペイン人間道、かつて「砂隠れの由良」と呼ばれていた個体に向かって突進した。

 上忍の瞬身も斯くや、という速さでペイン人間道に掴みかかったブンブクはそのまま急上昇、地表付近に作られたペインの雨雲をあっさり突き抜け、ペイン人間道を一瞬で1Km以上の上空まで持ち上げた。

 そこで手を離し、ペイン人間道を放り出す。

 無論ペイン人間道とて元上忍であり、ペインの1人だ。

 この高さから落ちたとしても風遁の使い手である彼は大きなダメージを負うかもしれないが倒れる事は無い。

 だが、放り出された時、ペイン人間道は気付かなかった。

 背中に焙烙玉が括りつけてあったのを。

 そして炸裂。

 空中に大きな炎の玉が生み出された。

 

 

 

「あそこか!」

 空中に大きな花火が上がった。

 アンコは合図があるのを今か今かと待っていた。

 もしかしたら2人とも死んでいるかもしれない、そう焦りのみが募る時間。

 しかし、それは唐突にやってきた。

 ブンブクはかなりの高度ではあるものの、焙烙玉による信号を発してくれたのだ。

「ならば行くだけよ! はああぁぁっ!!」

 アンコは自然のチャクラを取り込み始めた。

 それにより呪印が活性化、アンコの全身に煌めく鱗が現れる。

 その瞳は爬虫類の様相を示し。 

 舌が二つに割れ。

 手足の爪は凶暴な鋭さを得た。

「ふうぅ…」

 口からのぞく歯は牙の鋭さを持ち、その吐息には火炎の熱が籠る。

 そしてその背中に、

 ばりりっ!

 という音と共に巨大な皮膜を持った「翼」と「蛇の尾」が現れた。

「行くわよ…」

 アンコはそういうと同時にふわりと浮きあがった。

 明らかに通常の生物の飛行法ではない。

 チャクラの力を以って、アンコは風を捉まえ、焙烙玉の輝きのあった地点へと飛翔した。

 

 

 

 ペイン人間道は予想外のダメージを負っていた。

 焙烙玉の衝撃により、一時的にではあるが機能を低下させていたのである。

 最も、機能の低下に関しては又別の要素もある。

 ペイン人間道は雨隠れの里の尖塔よりもはるかに高い位置に飛びだしてしまった。

 それはペインの想定外である。

 そして尖塔の更に上空にはペイン自身が張った雨雲による結界があった。

 尖塔、そして雨雲。

 これらはペインの()()からの命令をそれぞれのペインに正しく受信させる送信装置及び増幅装置であった。

 尖塔よりも高い位置に行くことでその命令の送信は非常に弱いものになった。

 更に、結界である雨雲を通り抜けた事によって送信された命令は一時的にせよペイン人間道に届かなくなっていたのである。

 故に、数100メートルの距離を、彼はただ空力によって翻弄されながら落ち続け、雨雲を通り抜けてから初めて動き始めたのである。

 その落下による加速は350kmを既に超えていた。

 地面に叩きつけられるまで数秒。

 そこでダメージを軽減すべく風遁の印を組んだ人間道は確かに優秀な忍であったのだろう。

 しかし、

「どっせい!」

 空中から更に加速して落下してきたブンブクに突き飛ばされ、結印に失敗する人間道。

 そのまま凄まじい勢いで水面に叩きつけられた。

 いくらペインとは言え、チャクラによる強化なしで亜音速で水面に叩きつけられてはたまらない。

 大きな水しぶきを上げ、人間道は原形も留めぬほどに損壊した。

「だああぁっ!」

 ブンブクはさらに真近にいたペインに突進する。

 それはがっちりとブンブクを押さえ、

「え!? 力が…!? 」

 その変化に使われていたチャクラを吸収し始めた。

 ペイン餓鬼道である。

 しかし、ブンブクの重量とほぼ音速の加速による勢いを止める事はできなかった。

 水しぶきが上がり、凄まじい勢いで後退していく餓鬼道。

 その隙を自来也は逃す事は無かった。

「ブンブク、すまん!

 ぬああぁぁぁっ!! 螺旋丸!!」

 今の自来也の両腕は本来螺旋丸を練る事が出来るほどの状態ではない。

 しかし、自来也はその集中力と、ナルトの如く両手を使う事で十分な威力を持つ螺旋丸を作り切ったのである。

 そして目の前にいたペイン、ペイン地獄道に、

「ずおりゃぁっ!!」

 その威力を遺憾なく叩きつけた。

 元よりナルトとはその錬度が違う。

 さらに言えば、先ほどのブンブクの行動が陽動となってペイン達の意識を逸らしてくれていた。

 正確にいえばペインの本体の意識を、だ。

 その結果として、

「!」

 十全に螺旋丸のエネルギーをその身に受けた地獄道は、

 だん!

 と弾け飛び、キリキリとまるで空中でヘリコプターの回転翼の如く回り、そして建物の壁に叩きつけられた。

 ごんごごんごごごごごっ!!

 何層もの壁が打ち貫かれる音がして、地獄道は消えていった。

 死体の修復もかなうまい。

 これでペイン地獄道、リタイヤ。

 

 しかし安心しても居られなかった。

 ブンブクの勢いを辛うじて受け止めた地獄道は、

「あ、ああ、ああぁぁぁ…」

 ブンブクの少ないチャクラを吸い取っていた。

 このままであればブンブクのチャクラは生命を維持している部分完全に吸い取られ、死に至るだろう。

 しかし、もしペイン餓鬼道に自意識があったとしたら、ブンブクを放り出していただろう。

 かつて元・音の四人衆の1人、次郎坊はブンブクのチャクラを吸い取ろうとして異質な気配を感じた。

 それを感じる事が出来ない、出来たとしても「気配」などというものをペイン本体に告げる事が出来なかった。

 それ故に。

 からん、ぱさり。

 ブンブクの体から力が抜け、餓鬼道の足下に手乗りサイズの茶釜が転がり、ブンブクが身に付けていた「八畳風呂敷」が茶釜のすぐ近くに(わだかま)った。

 ペイン餓鬼道がブンブクのチャクラを吸い取り切った、という事か。

 そして異変はその後起こった。

 

「かっ、かかがっがごがごがぁあぁっっ!!」

 めり。

 めりめり、めきめしゃめりめりっ!!

 ペイン地獄道がひしゃげていく。

『おい、自来也ちゃん…』

『ええ、分かっとります…』

 自来也とフカサクはペイン達に聞き取れないよう、体内にのみ響く特殊な呼吸法を使用して会話をしていた。

 今、自来也達の目の前で起きている事、それは。

 自然のチャクラを取り込んだ時の弊害。

 自然のチャクラを取り込んだ際、身体のチャクラ、精神のチャクラ、自然のチャクラのバランスが取れない場合、チャクラの錬気が無駄になったり、自然のチャクラが暴走する事がある。

 今起きているのは取り込みすぎた自然のチャクラによって、身体が動物から無機物に変化していく過程なのである。

 ところで。

 ペイン達は言ってしまえば死体、本来の生物ではない。

 生きていないものをチャクラによって動かしている傀儡に過ぎない。

 ならば「死体」という「物」が自然のチャクラの暴走によって変質するとなるとどうなるのか。

 物であったペイン餓鬼道という死体は、まず無機物となる前に生物へと変換された。

 その生物は「狸の気」を持つブンブクのチャクラに従って形を変える。

 体は全体に小さくなり、全身にこげ茶色の毛皮を纏った。

 本来であれば人間には無いはずのものが尾てい骨から生え、フルンと振られた。

 茶色の毛をもつ尻尾である。

 顔はツンと尖って黒く濡れた鼻、どこかユーモラスな顔立ちに変化していた。

 額には卍型の白い毛が生え、四足歩行を始めた。

 どう見ても、

「狸、だのォ…」

「ブンブクちゃんの内包するチャクラが中途半端じゃったんじゃなあ…」

 さしものペイン達ですら、というか、ペインの本体ですらあっけにとられていた。

『どういうこっちゃ!?

 ブンブクちゃんは仙人じゃったんかい?

 どうなんじゃ自来也ちゃん!?』

『まさかとは思っとりましたが、その傾向はありました。

 あいつにちょっと前、仙人モードの修行と付けた時があったんですがのォ…』

 

 自来也はその時の事を思い出す。

 アンコと共に禅を組むブンブク。

 そのチャクラの流れを感じ取った自来也は愕然とした。

 彼はまるで息をするように自然のチャクラを取り込んでいたのだ。

 人間には不可能な、というよりも、自分自身でチャクラを練る事の出来る者には不可能な事。

 むしろ木石で無ければ不可能な事。

 ブンブクが自来也にとって異常存在として認識された瞬間であった。

 

『なんと…』

『フカサク様でも知りませなんだか…。

 これは里に伝えねばなりません。

 フカサク様、先に里へ行ってはもらえねぇですかのォ?』

『自来也ちゃん、今ワシが抜けたらそれこそ…』

 その瞬間、魔法が解けたようにペインが動き出した。

 自来也がはっとした時、目の前には()()のペインが一斉に襲いかかって来るところだった。

 

 ブンブクが倒れ、餓鬼道が狸化した。

 これでショックを受けたのは双方としても、どちらの衝撃が大きかったのか。

「…弐番、四番、伍番、陸番起動。

 やれやれ、ここまで、『ペイン六道』が倒される、とは、な…」

 闇の中でそういう者が1人。

「しかし、ペインは()()()()

 後6人、仕留め切れますか、先生…」 

 

 衝撃が自来也の体を貫いた。

 チャクラの動きを阻害する黒い槍。

 6本のそれが自来也の体を地面に縫い止めていた。

「自来也ちゃん!」

 悲鳴の様なフカサクの声が響いた。

 まだ6人いたのか。

 自来也は簡単に吹き飛びそうなほどの意識を何とか繋ぎ、ペイン六道を見た。

 ああ、あの肥った男は草隠れの忍だったはず。

 長髪の男は同じく滝隠れの忍で、2人で酒場で一杯ひっかけているのを見た記憶がある。

 あちらの大柄な男は廃村で村人に演説を行っていたのを見た記憶がある。

 小柄な娘は確か雨隠れの下忍であったか。

 そうか、ワシはこれを見る為に予言を受けたのか。

 ならば、この情報は是が非でも持ち帰って()()()()()

 全身を苛むチャクラの妨害を跳ねのけ、自来也は右肩に手をやった。

「フカサク様、後を、御頼み申します!」

 そういうと、自来也はフカサクとの合身を解き、フカサクを湖に投げ込んだ。

 フカサクが何か言っていたようだが、既に自来也の耳には届かなかった。

 

 ペインはこの時、自来也とフカサクに全ての意識払っていた。

 故に見ず、知らなかった。

 ブンブクの茶釜、その蓋が開き、中から何か白く、長いモノが水中へとするりと落ちていった事。

 そして、餓鬼道の変じた狸、その中にそれにふさわしいチャクラが宿った事。

 狸がすぐ傍に落ちていた風呂敷でブンブクの変じた茶釜を包み、背負った事を。

 

 ペイン達は自来也をそのままにし、フカサクを追おうとしていた。

 既に自来也は死んだ。

 後はペインの秘密を知ったあの蛙を始末すればいい。

 早急に動かなければ、そうペインが考えた時だ。

 

 

 

 自来也の心に走馬燈が瞬いていた。

 生まれてから死ぬこの瞬間まで。

 忍びは生き様ではなく死に様の世界…。

 (ワシ)の人生はどう生きたか、ではなく死ぬまでに何を成したかでその価値が決まる…。

 思い返せばワシの人生は…、失敗ばかりだったのォ…。

 自来也は苦笑いをしながら走馬燈を眺めていた。

 綱手の事、大蛇丸の事、猿飛ヒルゼン(ししょう)の事、波風ミナト(でし)の事、先達たちが残した事に比べれば、自来也《ワシ》の残した事など取るに足らぬくだらぬ事ばかり。

 忍達が知れば「そんな事は無い!」と泣きながら、怒りながら言ったであろう事を自来也は考えた。

 ワシも歴代火影(かれら)の様に死にたかった。

 

 物語は最後の“結び”の出来でその価値が決まりおる。

 失敗も一興!

 その試練が己を磨いてくれたと信じ生きてきた。

 その代わり、今までの失敗をチャラにするような大きな偉業を成して遂げ、立派な忍びとして死ぬ…。

 そのはずだった…。

 自来也は苦笑する。

 自分の死、それは明らかに失敗ではないか。

 大蝦蟇仙人より予言を受けたにもかかわらず、ここでペインを倒し、「暁」を止め、忍界を破滅より救う。

 それも結局失敗してしまった。

 

 情けないのォ。

 これが自来也豪傑譚(ワシのはなし)の結びとはのォ…。

 

 くだらぬ物語だった…。

 

 自来也がそう纏めようとした時だ。

 場面が切り替わった。

 それはかつてあった日常の一コマ。

 弟子であり、当時既に4代目火影となっていた「波風ミナト」とその妻で旧姓「うずまきクシナ」との会話。

 丁度あれは自分の処女作で自伝的小説、「ド根性忍伝」を呼んでの感想だった。

 今思うとあれはあまりにも自分の自伝を盛り込みすぎて恥ずかしいシロモンだったのォ…。

 そういやブンブクからはやけに高評価じゃったっけ。

 そんな事を思い出しながら自来也は走馬燈を眺めていた。

 そうして思い出した。

 ナルト。

 うずまきナルトの命名は、ワシじゃったっけのォ。

 今の今まですっかり忘れとったわい。

 ふっとナルトの事を思い出した。

 

「オレってば火影になる!!」

「そんでもってどの火影をも超える火影になるんだ」

「まっすぐ…、自分の言葉は曲げねえ…」

「それがオレの忍道だ!」

 

 ああ、そうだった。

 あいつ(ナルト)はまさに、あの小説の主人公通りだ…。

 それなのにワシは…。

 

 また場面が変わる。

 数年前の「三竦みの戦い」の時、本当に久しぶりに大蛇丸と対面した時の事。

 大蛇丸は確か、

「忍者とは、その名の通り、忍術を扱う者を指す」

 故に、大蛇丸は全ての忍術を極める事が出来るか否かが忍の才であると断じた。

 その時、自来也(ワシ)は何と言ったのだったか。

 そう、

「忍びの才能はそんな所にありゃしねえ。

 忍者とは、『忍び堪える者』の事なんだよ…」

 そう言ったのだったか。

 そして、

「忍の才能で、一番大事なのは…」

 

「諦めねェ、『ど根性』だ」

 自来也は走馬燈から目覚めた。

 自来也の目に光が戻ったのを見たペイン達が一瞬身構える。

 自来也の思考が動き出した。

「まっすぐ自分の言葉は曲げない。

 そしてどんな時も諦めない。

 それがお前(ナルト)の忍道なら―――」

 自来也(じぶん)が弱音を吐く訳にはいかない。

 なぜなら、

「弟子の忍道は師匠譲りと相場は決まっとる!!」

 …なあ、そうだろう、ナルトよ!

 ペインが不可思議な顔をする。

「心の臓は止まっていた筈だ…」

 それに対し、自来也はにやりと笑った。

「良いんかのォ、そんな余裕で…」

 その不敵さに、眉を顰めるペイン達。

「足元を見てみぃ、既にお前らはワシの術中だのォ…」

 足元には断ち切られた自来也の髪が散らばるばかり。

 いや、更にその下。

「巻物?」

 髪の毛の下には開かれた巻物がいくつか。

 自来也は戦いながら巻物を開いて設置、それを誤魔化すために髪の毛を使って隠ぺいしていたのだ。

 複数の視点を持つペインの目を誤魔化しながら罠を設置したのはさすが自来也と言えよう。

 しかし、

「既に先生のチャクラは封じさせてもらいました。

 罠を起動するためのチャクラとて今の先生は捻出できない。

 はったりは無駄です」

 そう言い、自来也を捨ておいてフカサクを追おうとするペイン達。

「そうでも、無いんじゃよ。

 見てみい…」

 自来也が懐から取り出したのは。

「それは…、! 封火法印」

 そう、それは封印術である封火法印の巻物、つまりは、

「これには火遁が封じてあるからのォ、つまりはこいつを解くだけで中の火遁が解放されるって訳だのォ」

 そしてペイン達が止める間もなく封印が解除された。

 轟っ!

 とてつもない量の炎、しかし、

「…それではペインに傷をつける事は…」

 そう、巻物に封じてあったのは「豪火球の術」。

 確かに高等忍術ではあるが、ペインを一撃で倒すには至らない。

 しかし、

「んじゃ、足元の奴は何なんかのォ…」

 自来也がそういうと、事態は急変した。

 豪火球の炎が自来也の足下の巻物に燃え移る。

 そこから強烈な水が湧きだした。

「封水法印の巻物だのォ…」

 炎が急速に衰え、巻物から湧く水の量が倍増した。

 更にその水が別の巻物に浸透すると、

「封土法印」水を吸い込み、そこから巨大な石柱が付きだす。

「封雷法印」土を喰らい、雷が周囲を満たす。

「封風法印」雷を巻き込み、風が渦を巻く。

 そしてその風が消えかかっていた豪火球の炎を蘇えらせた。

「! これは…」

 五行相克を逆に応用した五遁チャクラの暴走を誘発する法陣。

 周囲のチャクラをも取り込み、莫大なエネルギーをばら撒く、自来也の習得している最大の設置型殲滅用忍術であった。

「ほれほれ、ほっとくと里ごと消し飛ぶぞ、それでも良いんかのォ?」

 既に周囲には強烈な五遁のチャクラの渦が出来あがりつつある。

「長門、さすがにワシを甘く見たのォ。

 お前は自分を『神』だと言った。

 だがのォ、神は究極、神は限界、ならばお前はお前の限界に達しちまったと言う事だのォ。

 それじゃあ、お前の弟弟子(うずまきナルト)には勝てんぞ?

 師匠(ワシ)が保証するんでのォ!」

 そういうと同時に、とてつもない力が周囲を支配した。

 力という暴虐が天に向けて突き上げる。

 それはペインと自来也を巻き込んだ。

 自来也にそれを耐える力は残っていなかった。

 大きく吹き飛ばされ、そのまま湖の中に叩き込まれる。

 最早泳ぐ力は残されていなかった。

 

 ペイン達はその全力を以って力の本流をねじ伏せていた。

 6人の全ての力を以って、である。

 チャクラの流れをせき止め、この場所から唯一力を逃がす事の出来る上方へと誘導する。

 ペイン天道の「神羅天征」「万象天引」によって、それは比較的速やかに成された。

「…先生、これすらも読んでいたか」

 ペイン天道がそう言った。

 自来也は分析能力が高い。

 先ほどまでの戦闘によってペイン達の能力を見定めていたであろう事は想像に難くない。

 完全に自来也の手の上で転がされた、そういう事だ。

 ペインは湖の水に手をかざした。

「蛙には…、逃げられたか…」

 ペインは完全に後手に回ったことを知った。

 

 

 

 自来也豪傑物語…。

 これでちったあマシになったかのォ…。

 最終章…、井の中の蛙、大海で散る、か…。

 フフ…。

 ほどほどに、あっぱれあっぱれ…。

 

 さて…。

 そろそろペンを置くとしよう…。

 

 おお! そうだ…。

 続編のタイトルは…、何がいいかのォ…。

 

 そおだのォ…。 

 

 うずまきナルト物語…。

 うむ…、

 それがいい…

 

 沈みゆく自来也は、微笑んだ。

 周囲に纏いつく白い影、それを自来也は、

 すまんのォ…、綱手よぉ…、

 そう薄れゆく意識の中で、考えていた。

 

 

 

 暫しの後。

「伝説の三忍、自来也もついに死す、か…」

 ペイン六道は湖の湖畔に佇んでいた。

「我らにこの秘密が無ければ、勝てはしなかっただろうな…」

 それは後悔なのか、感慨なのか。

「む!」

 ペイン天道は空を仰いだ。

 そこには、

「…ちょっと聞きたい事があるんだけど、そこの奴…」

 異形が空に浮かんでいた。

 エメラルドグリーンに輝く肢体を持った多分女性。

 言わずと知れたみたらしアンコである。

 ペインに、いや、長門にとっては彼女もまた妹弟子であると言えよう。

 しかし、そのような気配はおくびにも出さず、

「なんの用だ、異形」

 ペイン天道はそう言った。

「自来也さまと茶釜ブンブクはどうしたの?」

 そう言いながら、アンコは周囲を見回していた。

 激しい戦闘の後。

 自来也は見当たらず、ブンブクは…。

 厳しい目つきで周囲を睥睨するアンコ。

「先生は、死んだよ」

 アンコに並々ならぬ力を感じ、警戒を強めたペインは、アンコに向かってそう言った。。

 こと、戦闘において上空を取る強みは言うまでもない。

 ペインはその視覚の共有で広い視野を得ているが、上空を取っているアンコは既にペイン達全員をその視野に収めている。

 そこから忍術を撃ち下ろされでもしたら、完全に避けるのは至難の業であろう。

 しかし、いざとなればペイン天道には「万象天引」の秘術がある。

 地上に引きずり落としてしまえばなんという事はあるまい。

「そう…」

 甘かった。

 ペイン天道はアンコが印を組もうとした時、術の発動に合わせて万象天引を発動しようとしていた。

 しかし、

 アンコの口の中から吐き出された「ブラストブレス(轟熱の吐息)」はその速さが想定を超えていた。

 ペイン達は湖面にある足場としていた建材から飛びのくので精いっぱいだった。

 轟っ!

 不可視の、しかし確実に膨大な熱気の籠った火球は一瞬で足場を溶かしつくし。

 そして、

 とてつもない衝撃を伴う水蒸気の爆発を引き起こした。

 ペイン達の視界が水上で気完全にふさがれる。

「む! 神羅天征!」

 ペイン天道の術により、水蒸気が無理やりに吹き散らされる。

 しかし、既にアンコは急降下から急上昇、ペイン達の射程から逃れていた。

「きゅん!」

 その腕に風呂敷包みを担いだ狸を抱えて。

「覚えておきなさい! アンタ達は必ず叩き潰す!」

 そう捨て台詞を残して。




さすがに次の投稿は5日~7日ほどかかります。

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