NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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第78話 ペイン戦その2/暁

 さすがにこれはきつい!

 今僕は「ペイン六道」の内、髭の人とアフロの人に襲われています!

 残りの人たちは自来也さまを倒すべく動いているようですが、さすがに僕相手に2人は多すぎじゃないんでしょうかね!?

「お前は確実に殺す。

 ペインはそれを確実なものにしなければならない。

 お前の知識はこれ以上広まってはならぬもの故に。

 ペイン(かみ)以外が持つ事は許されない」

 何かものすっごいセリフなんですけど!?

 何か前世の知識に「ジャイアニズム」とか言う言葉があるんですが。

 オレのモノはオレのモノ、お前のモノもオレのモノ、って感じですよ。

 アフロの人が「ぼっ!」という音と共に蹴りを放ちます。

 これは捌くのは無理、そう判断して回避に…、って回避位置に髭の人の振り下ろすクナイが!

 こんのおっ!

 僕は体を捻って、って更にアフロの人の連続蹴りが!

 なんのおっ!

 更に体を逸らして回避してってえ! 既に髭の人の蹴り、しかもスパイク付き!

 こなくそっ!

 更に体を波打たせてリンボーの如く回避! 秘技・「新島式回避術モドキ」っ!

 なんとかこれでってぇ! アフロの人からの手裏剣が10本以上!

「な」

 避けて、かわして、捻って、飛び越えて、

「ん」

 しゃがんで、這いずって、跳ね上がって、

「と」

 叩き落として、受け流して、

 駄目、間に合わない!

 

 

 

 ペイン人間道は必殺の手裏剣を放った。

 その数11。

 最後の手裏剣は二重になっており、死角から11本目が相手の顔を襲う手筈である。

 しかし、ブンブクは何とも珍妙な避け方をしていった。

 いっそ無様と言っていい。

 だからと言って、ペイン人間道の手裏剣が全て避けられる訳もなく。

 10本目を、その握りこんだ寸鉄で迎撃しきった時、

 カィン!

 そういう音がしてブンブクの頭が大きく後方に反り返った。

 あの状態なら、手裏剣は人体の急所である人中に突き立ったはず。

 これで任務完了…、

 いきなりブンブクが跳ね起きた。

ほへほ(これぞ)ほほしまひゅう(よこしまりゅう)ひんへん(しんけん)ひははほひ(しら“は”どり)

 ブンブクは人間道の投げたつや消しのクナイを「口」で食い止めていた。

 言葉通り、クナイを上下の歯でがっちりと噛みしめ、止めていた。

 ブンブクはクナイをぺっと吐き出し、

 いや、

 吐き出したのはクナイだけではない。

 小さな黒い塊、

 それが強烈な光を放った。

「閃光弾です!」

 眼つぶしの閃光弾。

 ブンブクは移動をしつつ敵2人が同時に自分を見るタイミングを作り、自分とクナイに人間道、地獄道の意識を向けさせ、その上で閃光弾で眼つぶしを行ったのだ。

 ペインの強みの1つとして視野の共有がある。

 監視カメラの様に、1人の視力を潰したとて他のペインの視力を使用してブンブクを見る事が出来る。

 ならば、2人同時に視力を奪うしかない。

 ブンブクはそのタイミングを計っていたのである。

 はたしてそれはある程度はうまく行ったと言っていい。

 他の4人は自来也に掛かりきりである。

 人間道達の援護に回る余裕がある訳ではない。

 ペイン達が相手にしているのは「山椒魚の半蔵」すら敬した「伝説の三忍」の1人なのである。

 本来ならば6人全てでかかり圧殺すべき所を、ブンブクという非力なれど確実に殺しておかねばならない存在があり、彼に逃げられる訳にはいかない為に人員を割り振った、そこに余裕などない。

 そして閃光弾は2人のペインの大きな隙を促した。

 

 ここが攻め時。

 そう感じたブンブクは一気に間合いを詰めると人間道の体に立て続けに寸鉄を握りこんだ拳を打ち込んだ。

 ブンブクには考えがあった。

 もし彼らが口寄せ動物と似たようなものであるなら、チャクラの通り道である経絡が存在するはず。

 その方が人型を維持する上で都合がいいのである。

 変化をする口寄せ動物達。

 彼らが人へ変化する際には、外見のみを似せる方法と、経絡なども模倣してより精密な変化をする方法とがある。

 外見のみを似せる場合、どうしても人としての動きがぎごちなくなる。

 当然だろう、経絡はカロリーと並んで生物を動かす重要なエネルギーの1つだ。

 その輸送経路を適当にしてしまうならば、それは生物ではないからだ。

 ならば先ほどから人間としての動き、もしくはそれ以上に人という体を使いこなしているのであれば、間違いなく経絡系も存在する。

 ブンブクは柔拳使いではないものの、医療忍術をかじった経験から経絡への打撃が忍への攻撃に有効である事は把握していた。

 また、相手が人型をした実体をもつ者なら、同様に破壊しやすい場所、いわゆる急所は変わらないはず。

 故に、

「人体への急所は貴方(あなた)方にもある、でしょう!」

 杜門(鳩尾)、脇腹の下部肋骨、チャクラの溜まる景門(丹田)と、胴体にある経絡と急所を狙って寸鉄を叩きこむ。

 打ち込まれた人間道はぐらりと体勢を崩す。

 好機(チャンス)

 前のめりになった人間道の頭部は、背の低いブンブクでも十分狙える場所にあった。

 ブンブクは全力で、人体の急所の内の1つ、こめかみを右の寸鉄で振り抜き気味に打ち抜いた。

 ぐらりと崩れ落ちそうになる人間道。

 しかし、額当てを固定している布がこめかみを覆っており、その為に打撃が若干流れたようだ。

 人間道は大きく後方へ飛び、体勢を立て直した。

 その際額当ての布が破れ、額当てが地面に落ちた。

 ブンブクは固まった。

 人間道の顔に彼は見覚えがあったのである。

「え…、ゆ、由良さん…?」

 棒立ちになったブンブク、そこに、地獄道の蹴りが叩きこまれる。

「!?」

 まるで毬のように吹き飛び、水面を水切り石の如くぱしゃりぱしゃりと弾け飛んでいくブンブク。

 何とか空中で体勢を立て直し、2人に対峙しようとする、が。

「土遁・岩柱槍」

 地獄道の土遁により周囲から岩の柱が何本もせり出し、その尖った切っ先でブンブクを串刺しにしようとする。

「なんの!」

 ブンブクもさるもの、その直撃そのものは避ける事に成功する、が。

「風遁・連装カマイタチ」

「かっ!? ()っ!!」

 岩の柱に動きを邪魔され、人間道の繰り出した何本もの風の刃がブンブクを切り裂いていく。

 辛うじて致命傷だけは免れたブンブクだが、満身創痍、というのがふさわしい状態に追い込まれていた。

 ふらりと倒れかかるブンブク。

 そこへ、

「土遁・岩宿崩しの術…」

 地獄道の駄目押しとなる秘術、岩宿崩しで周囲の岩柱がガラガラとブンブクの頭上に降り注いできた。

「!? わあぁぁっ!!」

 降り注ぐ岩の雨になすすべもなく埋まっていくブンブク。

 全てが収まった時には、その場には押し潰されたブンブクの右の腕が力無く岩の間から見えるのみであった。

 それはずるりと岩の間から落ちてくると、押し潰された断面を下に雨隠れの里、その最下層の湖へと、ぽちゃんと落ちていった。

 

 

 

 予想外な事に、自来也と対峙したペイン達は苦戦していた。

 ペイン達は実力のある忍の集団である。

 輪廻眼による視角の共有、六道それぞれに特殊能力があり、また、相手のチャクラを乱す特殊な武器も使う事が可能だ。

 にもかかわらずなぜ押し切れない、それどころか互角以上に戦われてしまっているのか。

 単純な話だ。

 自来也が強い、それだけの事。

 一方自来也もそれほど余裕がある訳ではなかった。

 4対1という不利にも関わらず自来也は相手を押し返しつつあった。

 これが先ほどの戦いで腕の一本も持っていかれでもしたら、状況は詰んでいたかもしれない。

 しかし、ブンブクの捨て身の支援によって自来也はほぼ無傷でペイン4人と戦う事となり、残りの2人はブンブクを追っていった。

 問題は自来也の精神的なもの。

 このままでは自来也が4人のペインを倒すよりもブンブクが先に殺されてしまうのではなかろうか、それを自来也は危惧していた。

 同時に、何かあればブンブクを身捨てなければならないとも考えていたが。

 先ほど、ブンブクは自分の身を以って自来也をかばった。

 それは即ち、自来也の方が情報を里に持ち帰る可能性が高い、とブンブクが考えたと言う事。

 ブンブクはナルトと違いこういう場合は感情ではなく理屈で動く。

 この場合の理屈とは忍としての理屈だ。

 任務を果たす上でどちらを優先するか。

 それをとっさに判断し、ブンブクは自分の安全より自来也の無事を選択した。

 なれば自来也は上忍として己も木の葉隠れの里の忍として動かなければならない。

 そうブンブクに釘を刺された、という事だ。

「…しかしブンブクよォ、それならば、だ。

 ここにいるペイン共をぶちのめして、ワシらで大手を振って帰る、ってのも良いかのォ!!」

 自来也は壮絶な笑みを浮かべて4人のペインを睥睨した。

「さあてそれではここからは、木の葉の三忍改めて、妙木山の蝦蟇仙人、自来也さまがあ、あ、お相手仕るぅ!」

 見栄を切って一跳躍、ペイン達に頭上から襲いかかった。

「先生、神に対し推参である」

 そう言い返し、空中の自来也を迎撃すべくペイン達は己の体から抜きだした槍のような得物を突き出した。

 ざすっ! という音と共に自来也の体に武器が突き立つ…と思いきや、自来也の体が色を失い、白い塊、いや、これは髪だ。

 自来也の頭髪がまとまり、自来也の分身を作り上げていた。

 本物の自来也は元の場所を動かず、ペイン達の得物は自来也の神に絡め捕られていた。

 一瞬動きが止まったペイン達の隙をつき、シマが口から火遁の劫火を吐き出した。

 それは予想済みだったのだろう、ペイン餓鬼道が前に出て、その炎を吸収する。

 だが、

「!?」

 その彼が急によろめいた。

 その体には数本のクナイが突き立っていたのだ。

 シマの火遁に(まぎ)れて自来也がクナイを投擲していたのだ。

 先ほどの幻術のダメージが残っているのか、片膝をつく餓鬼道。

「さて、これでそいつは戦力外かのォ!」

 体の自由が利かない餓鬼道を仕留めるべく、前に出ようとする自来也。

 と、自来也が急に横に飛び退いた。

 どぅん!

 先ほどまで自来也が居た地面が大きく爆発した。

 見ると作り物じみた男、ペイン修羅道が奇妙な構えをしていた。

 腕をつきだした構え。

 そこからは筒状のモノが生えていた。

 ブンブクが見たなら、「マイクロミサイル」と看破していたであろう代物。

 自来也には見覚えの無いものであったが、

「あの中に焙烙玉までも仕込んどるようだのォ、厄介な」

 今までの経験によりそれがどれだけ物騒なものか、推測していた。

 その間に餓鬼道は下がり、代わりに最初に自来也と戦った男・ペイン畜生道と奇妙な飛び道具を使うペイン修羅道が前に出てきた。

 弥彦と思しき男、ペイン天道は後方より動いていない。

 自来也と畜生道、修羅道との戦いとなった。

 しかし、この2人は自来也にとってそう脅威ではなかった。

 余裕を持って、とは言い過ぎであるが、術比べではない、純粋な体術勝負ではこの2人は自来也の敵ではない。

 だからだろうか、自来也はふっと天童の動きから一瞬ではあるものの目を逸らした。

 その瞬間。

「天道・万象天引(ばんしょうてんいん)」 

 自来也の体が抵抗できないほど強烈な力で引っ張られた。

 ペイン2人を残し、ペイン天道の方へとまるで釣り上げられるかの様に引き寄せられる。

「うおぉっ! 何だのォ!!」

 しかし自来也もさるもの、引き寄せられる力を利用して、天道を串刺しにすべく髪を硬化させた。

 忍法・針地蔵の応用である。

 このまま突っ込めば天道とて無事では済まない。

 はずだった。

 引き寄せられる自来也に走り寄るものが居た。

 ペイン餓鬼道。

 先ほど大きな傷を負った相手である。

 彼は自来也の武器である髪に触れた。

 そこから術の要であるチャクラが抜け、ただの髪の毛に戻っていく。

「ならば、直接どつくまでだのォ…なに!?」

 そう咆えた自来也が見たもの、それは、餓鬼道がとった構え。

 人差し指、中指を突き出し、残りの指をたたんだ、いわゆる二本貫手。

 体勢を低く、二本貫手を突き出したその構え。

「柔拳、だと…!」

 なんの冗談か。

 木の葉隠れの里において秘伝忍術とされる柔拳をなぜ雨隠れの里の頭目が知っている!?

 確かに他の里においてチャクラの流れである経絡への攻撃を行う術は無い訳ではない。

 しかし、柔拳ほど経絡攻撃に特化した体術は他に存在しない。

 日向の白眼がそれを可能にしているのだから。

 他の里が白眼を欲するのも、それがチャクラへの直接攻撃を可能にしている故である。

 ともかく、これを直撃される訳にはいかない。

 食らってしまえば術の行使が大きく阻害される為である。

 幸い、柔拳は見よう見まねで習得できる体術ではない。

「柔拳の真似事なんぞ、生兵法は怪我の元ってなあ!!」

 自来也は迎撃に拳を握った。

 餓鬼道の二本貫手が自来也の急所を的確にえぐりに来る。

 これは!?

 自来也は一転、焦りを禁じ得なかった。

 敵の柔拳はけっして付け焼刃ではなかった。

 そもそも柔拳は格闘術としても非常に高い完成度を持っている。

 経絡を突く事をその目的とした拳法。

 その為に日向家は絶え間なく研鑚を続けてきた。

 その中には複数の経絡を狙い、相手にどこに打ち込んで来るかを迷わせ、防御を薄くさせる「柔拳を知っている者との戦い方」の技術も含まれている。

 餓鬼道が使ってきたのはそう言った技術。

 つまりペイン餓鬼道とは、自来也が木の葉隠れの里の者で日向の者と手合わせをした事を知っている者、なのである。

 木の葉隠れの日向家の者がペインの一員。

 それは自来也をして動揺を禁じ得なかった。

 それを見逃さず、餓鬼道は二本貫手を自来也の左の肩口に叩き込んだ。

 自来也の左腕から先の経絡がその一撃で断ち切られる。

 しかし、自来也も只者ではない。

 餓鬼道の一撃を受けることを覚悟し、代わりに右の蹴りを餓鬼道の頭に叩き込んだのである。

 大きく弾き飛ばされる餓鬼道。

 更に一撃を加えようとした自来也に、

「天道・神羅天征(しんらてんせい)

 今度は強烈な圧力が押し寄せ、弾き飛ばされる。

 弾き飛ばされた自来也は信じられないものを見た。

 しかしそれを整理する間もなく、自来也はペイン畜生道と修羅道の方へと弾き飛ばされた。

 畜生道と修羅道はそれぞれの得物を構え、自来也を舞っている。

「ええい! 舐めるでないのォ!!」

 自来也はフカサクの風遁・大突破を地面に向け、大きく上方へ跳ね跳びながら乱獅子髪の術で畜生道を絡め取った。

 そのまま自来也は湖の中へと畜生道を引きずりこみ、

「結界・蝦蟇瓢牢の術だのォ!」

 自分ごと、湖の中に待機させておいた「瓢箪蝦蟇」の異界の中にペイン畜生道を引きずりこんだ。

 

「げふっ…」

 自来也は右の肩口に付きこまれたペイン畜生道の武器を引きぬいていた。

 ペイン畜生道は半身をデロデロと溶かされ、無残な死に様を晒している。

 瓢箪蝦蟇の中の壷中天、異世界の湖は酸で満たされている。

 その中に叩き込んで原形を留めているのが凄まじい。

 そして問題なのがペイン畜生道の額に刻まれたその傷。

 それに自来也は見覚えがあった。

 なんとなればその傷は己が刻んだものだからだ。

 間違いない、此の男はかつて己が戦った風魔一族の男。

 断じて長門ではない。

 そしてもう1つ。

「あのチャクラを喰らう男の額の文様、アレは…」

 そして、大蝦蟇さまの予言が正しいならば…、

「ワシはもう一度、奴らの前に出て確かめたい事があります…。

 お2人はお帰り下され」

 フカサクとシマには止められた、が。

「今なれば、敵の正体を掴めるかもしれません。

 この機をを逃がせば、もうここまでペインに近付けるものは多分おらんでしょう…。

 正体を見抜くチャンスは今しかない」

 その言葉に何かを感じたフカサク。

 訝しげなフカサクに自来也は、

「今こそが大蝦蟇仙人が予言された選択の時!」

 自来也はそう言い切った。

 

 自来也は1人で事に当たる気であった。

 しかし、シマが情報を持って帰る事となり、フカサクは自来也と共に行く、そう決めた。

 自来也は、

「これでますますお2人には頭が上がりませんなあ…」

 そう苦笑していた。

 シマは、

「晩飯には帰りんさい」

 そうことさら普通に言い、

「ああ、終わったら、自来也ちゃんと一緒に飯を食いに帰る」

 フカサクは決意を秘めた言葉をシマにかえした。

“やれやれ、本当に頭が上がらんのォ…”

 自来也は内心彼らに頭を下げつつ、瓢箪蝦蟇の中から抜け出した。

 

 自来也が湖の中より顔を出すと、戦いで崩壊し、湖面に落ちた建造物の破片に乗ったペイン修羅道を発見した。

 そのまま水中を移動し、近付く。

 周囲にはペイン六道の内、自来也が仕留めた畜生道を除く4人が揃っていた。

 ブンブクを追っていた人間道もそこにいた。

 すまんのォ、ブンブク。

 自来也はそれでブンブクの死を悟った。

 1人足りないのはブンブクが倒したためなのか。

 無念を感じつつ4人の顔を眺め、記憶を掘り出していく。

「!」

 やはりそうか!

「こいつら全員ワシの会った事がある忍だ…!」

 ペイン天道。

 彼は明らかに雨隠れの里の忍びにして自来也の弟子である弥彦。

 ペイン修羅道。

 確かどこぞの里の抜け忍で、その技術の粋である絡操傀儡を買い取ってくれるものを探していたはず。

 ペイン人間道。

 しばらく前に死んだという話だった、砂隠れの里の有力者、確か名前は、「由良」といったか。

 そしてペイン餓鬼道。

「アレは…」

「自来也ちゃん、知っとるのか?」

 フカサクが声を潜めて聞いた。

「フカサク様、アレの額、見えますかいのォ?」

 フカサクには餓鬼道の額に文様が見えた。

 まるで(まんじ)のようにも見えるその文様。

「ありゃ、日向の呪印です。

 そしてあの男は、13年前に死んどる男です。

 名は、

 …日向ヒザシ。

 現当主日向ヒアシの実弟ですな」

「なんでそんな奴がペインに…」

「分かりません。

 しかし、確かあ奴が死んだ時、死体は雲隠れに引き渡されたはずですがの。

 いや、確か…、引き渡した後に何処ぞで強奪された、そういう噂がありましたのォ…」

 2人は話に意識を向けすぎた。

 故に、水中から近づく人影に気づくのが遅れた。

「…! 何奴!」

 水中から自来也が飛び出すのと同時に、人影・ペイン地獄道が自来也に掴みかかった。

 その顔を見て、17、8年前に死んだ筈の岩隠れの忍びである事を見てとる自来也。

 確かカッコウとか言ったか…。

 そう考える自来也の喉笛に地獄道の腕が伸び、がっちりと捉え…。

 その前に、地獄道の動きが止まった。

 良く見ると、半透明のテグス糸の様なものが網状に地獄道を捕えている。

 自来也はそれを確認すると地獄道を捉えている糸をむんずと掴み、チャクラで強化された右腕で思いきり振りまわした。

 振り回され、更に自来也に飛びかかって来ていた4人のペインを巻き込んで、地獄道は大きく弾き飛ばされた。

「ぅぅぅううわああああぁぁぁぁっ!!」

 その糸の端っこにくっ付いていた茶釜狸ごと。

 

 

 

 空中に放り出された僕ですが、空中こそは僕のテリトリー。

 ふわりと八畳風呂敷くんで滑空用の翼を作って空中で反転、自来也さまの左肩へと飛び乗りました。

 え、何で死んでないんだって?

 正直、前に(おんな)じ様なシチュエーションがあったものでね、その時の焼き直しをしました。

 準省エネモードになりつつ風呂敷くんでシェルターを作って岩に押し潰されるのを防御、偽者の腕を同じく風呂敷くんで作成。

 それはそのまま水中に落としてから糸をばらして水中用のセンサー代わりにしました。

 で、僕の本体は瓦礫の中に隠れつつ、周囲の状況を探っていた訳ですよ。

 そこで、自来也さまに水中から近づくアフロさんを見つけまして、いざという時のために水中に伸ばしていた風呂敷くんの糸を自来也さまの周囲に網状に張って配置したんです。

 それにアフロさんが引っ掛かる様に突進していったのでチャクラを流して強度を上げたんですね。

 八畳風呂敷はチャクラをただ流すだけだと鉄の様に強度が上がるんです。

 それを応用して糸の強度を上げたんですね。

 そしたら糸を自来也さまが掴んで振り回すもんだから、いっちゃん端っこにいた僕まで釣りあげられてしまった、という訳。

 本当はもうちょっと瓦礫の中で大人しくしておきたいところだったんだけど…、て、アレなに?

「自来也さま、あの人、額に『日向の呪印』あるように見えるんですけど?」

「おう、ありゃ『日向ヒザシ』、ネジの親父よ」

 は?

 いや、その方死んでるんじゃ…! そういう事か!!

「気付いたのォ」

「はい」

 ペイン六道のカラクリに。

 ちっ、このままだと逃がしてもらえなさそうだ。

 向こうさんのカラクリに、気付いてしまったからね。

 自来也さまもぼろぼろだし、何とかアンコさんに加勢してもらわないと逃げ切れなさそうだ。

 そして僕と自来也さまの、対ペイン戦は終盤に突入するのです。

 

  

 

 暁 傍観する者

 

「聖杯のイリヤ」を名乗る存在は雨隠れの里の一角、戦いとは全く関係の無い所で、1人チャクラを繰り、触媒に力を注いでいた。

「…貴方は、戦いに関わらないでいいの?」

 いや、1人ではなかった。

 いつの間には周囲に飛び交う折り紙の蝶。

 それが集まり、女の形をとっていた。

 小南。

 それが彼女の名前だった。

「ボクでは戦いの足枷にしかならない。

 出ていかないのが最良」

「茶釜ブンブクは戦っているわよ?」

「アレとボクは違う。

 アレは自分の能力を十全に使いこなしている。

 ボクはまだ使いこなせていない。

 ペインを巻き込んで吹き飛ばしても良いのなら参加するけど、それは本意ではないはず」

 小南の挑発的な物言いにも、イリヤの冷静、というより感情を感じられない言い方は崩せない。

「…確かに、アレを羨ましいと思う事はある」

 と、イリヤがぽつりと言った。

「…何故?」

「アレは己の思うままうずまきナルトに助力する。

 それは自分の能力を使いこなしている為。

 自分の能力を不明な所、未熟な所も理解しきっている為。

 そうすることで自分が行いたい事が出来ている。

 ボクは違う。

 ボクはまだ自分を理解しきれていない。

 だからこそ兄さんの役に立てていない。

 ボクは兄さんの役に立ちたい。

 だからこそあれを羨ましいと思う」

 イリヤは小南を見つめた。

貴女(あなた)はどう?

 貴女は貴女の思うように彼の役に立っている?

 最初から自我のある貴方の言葉を聞きたい」

 そう言われて、小南は答える事が出来なかった。

 小南には迷いがある。

 今自分達がやっている事は本当に間違っていないのか。

 確かにここまでペイン達と進んできた事は正しいのだと思うようにしてきた。

 しかし、自来也に会って、それに疑問を感じてしまっていた。

 疑問を疑念を呼ぶ。

 それに輪をかけたのがブンブクの「プレゼンテーション」である。

 自分達と感覚の違う「執政者」、政治を行う者達が、自分達の想定した動きをしてくれるのか。

 実際に尾獣兵器が発動したとして、ブンブクの言うようにただ世界を破滅させるだけにならないか。

 自分たちと違う意見があり、そちらの方が正しかったとしたら自分達のやっている事はただの殺戮に過ぎないものなのでは。

 ()を始めとした彼女にとって大切な思い出となってしまった人たちの死、それが無駄になってしまうのが彼女にとって一番恐ろしい事であった。

 もしも、今自分達がやっている事が間違いで、弥彦の目指したものこそが正しいとしたら。

 だが。

「少なくとも、ボクにとっては『正しいか間違っているか』は意味がない。

 ボクは『兄さん』の為に生きている。

 その為の人形でもあるし、この短い生の中でそうありたい、とボク自身が思ったからでもある。

 もし迷っているのならば『自分がどうありたいか』それを基準にするのを勧める。

 少なくとも、未だ1年もたっていないボクよりも判断基準は多いはず」

 イリヤは小南に「己で考えろ、考えることを止めるな」そう言う。

 この作り物の少女が。

 作り物が人に成り、人であった者が考えるのをやめて人形になる。

 今の自分はどちらか。

 小南は戦いを見守りつつ、自分自身がどうありたいのか、思考を巡らせていた。




これで連休中に書き溜めたストックが尽きました。
次回は大体7日以内に。

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