NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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第5話

 どうも、茶釜ブンブクです。

 あの後、うずまき兄ちゃんから「オレたちも中忍試験出る事になった!」と大盛り上がりに発表されました。

 兄ちゃん、あの我愛羅さんとかと戦うのかあ。

 ちょっと心配。

 怪我とかしないといいけど。

 

 本日僕は絶賛口寄せの術の練習中です。

 こういうのは経験と効率化ですから。

 当座の目標は兵糧丸なしでカモくんを呼び出すことですね。

 まだ2回目ですし、そんなにうまくいくもんじゃあないですから。

 気張って印を結び、口寄せをを行ったのですが… あれ?

 先日と違ってえらい軽い?

 チャクラの消耗がかなり少ない感じなんです。

 前回が100点くらいだとすると、80点くらい?

 確かに消費は大きいんですが、残しておいた兵糧丸と合わせると、前回みたいにきつくない感じです。

 で、カモくんを呼んで、これから口寄せをどう使っていこうか話し合いをするのです。

 

「でさ、カモくんってどんなことができるの?」

「そっすね、実際に見てもらった方が早いってもんですんで」

 カモくんはそう言うなりさっと印を組み(そっか、オコジョも印を結んで術を使うのかあ)そしてぼぼん、と煙が上がり、

「おおっ!」

 そこには5体に分かれたカモくんが。

 なるほど、多重影分身ですね、影がある。

 へえ~、これって人間だと高等忍術なんだけど、やっぱり妖魔は凄いんだなあ。

「あ、ちょっと違いやす、こいつぁ影分身じゃありやせん、あれの劣化版みたいなもんでして」

 へ、どういうこと?

「こいつは確かに実体のある分身なんですが、意識が一つにつながってるんでさ。

 なんで、まあ妖魔としちゃ珍しくない分裂に近いんでして。

 あっしはそれほど力の強い方じゃありやせんので、5体くらいしか分裂できないんでさあ」

 いや、それだけできれば凄いでしょ。

 つまり視点が5か所あるってことなんだから。

 斥候としてはかなり優秀じゃないの。

「後はまあ、人間の言うところの瞬身の術っすかね。

 足さばきには自信あるんすよ、あっしは」

 おお、なおさら当てになる感じ。

 いいねいいね、分身と瞬身、非戦闘型の召喚動物としては最高じゃないか。

「それと、後は念話っすかね。

 兄貴とはチャンネルがつながってますんで、口寄せされなくても、どこにいても会話ができますぜ」

 さらに凄いじゃないか!

 つまり、複数の視点を共有して調査、捜索ができ、その情報をリアルタイムで僕に送信、いざという時は高速移動で他班に連絡できるわけだね。

 盛り上がってきましたよ!

 後は… 僕が強く… 強く… うみぅ。

「兄貴どうかしたんですかい? いきなりハイテンションからどつぼに落ちた匂いしてますぜ!?」

「いや、べつにね、うん、後は僕が強くなるだけって…? 匂いって何のこと?」

「ああ、だから、落ち込んだ匂いってことなんすけど?」

「いやいや、落ち込んだ匂いとかハイテンションな匂いとか、聞いたことないから!?

 なに、もしかして感情とか匂いでわかるわけ?

 それ凄いじゃない!」

「はあ、そういうもんすかね、あっしらだけじゃなく、化け犬の連中とかもふつーに分かりやすけどね。

 連中の場合はさらにチャクラも嗅ぎわけやすし」

「へえ~そうなんだ。

 学校でも習わなかったな、そのことは」

 うん、やっぱり知ることは楽しい。

 前世の記憶があったとしても、今使えるとは限らないし、今使えること、使えないことを知るのも楽しい。

 そう言えば、この前古本屋さんに三忍の一人、自来也さまの書いた「ド根性忍伝」ってあったな。

 中古で店頭に山積みになってて安かったし、お小遣いも溜まってるから買ってみようかな?

「でさ、やっぱり僕とのコンビネーションだと、カモくんが斥候で僕が奇襲、って感じでいいよね」

「それで問題ないと思いやすが、兄貴はどんな忍術が使えるんですかい?」

「それはねえ…(説明中)」

「…う~ん、さすがにアカデミー生としちゃ大したもんなんでしょうが、やっぱり決め手に欠けやすねえ」

 ま、そらそうでしょうとも。

 11歳になにをもとめとるんですかい?

 そんなことを思っていると、カモくんは()()()()な雰囲気を醸そうとしながらこう言った。

「兄貴、兄貴は自分の価値を分かってないっすよ。

 兄貴の家系は火の国に茶釜あり、って優秀な一族なんす。

 今は忍界も落ち着いていやすが、いつまた乱れるか分かんない状態なんすよ。

 今のうちに少しでも力を付けとかなきゃいかんのっす。

 …という訳でっすね」

 …カモくん、そのなんというか、小悪党じみた「にやあっ」とした笑いってどうにかなんない?

 怖いよ、正直言って。

「ふっふっふっ、じゃあ~ん、化け狸謹製八畳風呂敷ぃ~!!」

 なにその「青狸」みたいなガラガラ声で、さらに「ぱ~っぱらぱぱぱぱ~っ」て感じのBGMが流れそうなノリは。

 ってかなにその八畳風呂敷って?

 たんたん狸のなんチャラとか、そういう話?

 なんか僕、子どものころにうずまき兄ちゃんとかキバさんとか経由ではやった替え歌にそんなの出てきたような気がするんだけど。

「こいつは忍具の一種と考えて下せえ。

 化け狸の里で長いこと使われていたもんでして、半ば妖物化した器物、ってもんなんでさ。

 若干なりとも意識がある代物(しろもん)でして、こいつにゃ幻術がかかるんでさ」

 はい? 幻術のかかる風呂敷?

 なんですかそれは!?

 そんなん国宝級の代物じゃないんですか!?

 そんなもの持ち出しちゃだめでしょ、カモくん!!

「それだけあっしは兄貴に期待してるんですよ、兄貴はすっげえ忍になるって!」

 …感動した。

 こんなに僕に期待してくれる(オコジョ)がいるなんて。

「分かったよ、僕強くなるから、カモくんの期待にこたえるようなすごい忍びになるから!」

「兄貴ぃ!」

「カモくん!」

 がっしい!

 僕とカモくんは熱い抱擁を交わした。

 なんかマイト・ガイ上忍みたいでかっこいい。

「じゃあ、先ずこの風呂敷で…、ってこれでどうやって高火力の攻撃したらいいんだろ?」

「さあ?」

 …だめじゃん。

 

 改めて、カモくんに八畳風呂敷の事を聞いてみた。

 八畳風呂敷は一見唐草模様の入った普通の風呂敷にしか見えない。

 大きさも大体それくらいだし。

 で、使用者の流すチャクラに応じて八畳どころではなく広がるし、強度もよほどの高火力の攻撃をくらっても破れない、また破れても使用者がチャクラを流してやれば自己修復する、と。

 なんでも布の素材と織り方に秘密があるらしく、当然そこは教えてもらえるはずもないのでパス。

 で、この風呂敷、人間におけるチャクラの通り道、経絡系があるそうで、その流れによって簡単な自我が形成されているのだそうです。

 そのチャクラの流れに干渉してやることで、風呂敷に幻術を仕掛ける、つまり風呂敷に自分はこうだ、と「思い込ませる」ことで、強度を上げたり、形を変えてやることができる、という訳なんだそうです。

「じゃあちょっとやってみようか」

 ということで、学校でもやっている変化の術をば風呂敷さんにかけてみます。

 印を組んで、自分に化けるって感じで…。

 むむむ、ちょっと自分に掛けるのとは感じが違うかな…。

 ちょっとの間試行錯誤をして、と。

 これでどうだ!

 ぼん! という音と共に煙が上がって。

 そこには僕そっくりになった風呂敷くんが。

「うわ、すごい! 僕そっくり」

 だけど動くわけでもなく、まあそこにあるだけなんですけど。

 でもすごい! 言ってしまえば擬似的に影分身ができたようなものだし!

 これならいろいろと細工ができる気がする。

 後は… そうだな、チャクラを流すと硬度とか変えられるらしいし、ちょっとやってみようかな。

 幻術をといて、風呂敷くんをただの布に戻す。

 そして、自分の体に巻きつけてチャクラを流すと…。

 おおっ、確かに鎧みたいになった!

 寸鉄で叩いても全くへこみもしない! これ面白い!!

 これならば、あれができそう!

「超忍戦隊ホノレンジャー」にでてくるお師匠さんみたいなやつ!

 風呂敷くんをこうくるくるっと螺旋を描いて振りだすように、鞭をまっすぐ撃ち出すように、ふりだしてみる。

 さすがに1回2回ではうまくいかないが、風呂敷くんが僕のやりたいことを覚えてくれているのか、何度も試しているうちに、パシンという音とともに風呂敷くんが1本の棒のように振りだされるようになった。

 さて、ここからが本番。

 風呂敷くんを振りだすと同時に、チャクラを流し、硬化させる。

 これぞ、ブンブク流布槍術(偽)!

 風呂敷くんの角を切っ先として、振り出した穂先が木に突き立つ!

 むうん、僕の腕力でもなかなかの威力。

 全力で投げた手裏剣よりも射程は短いものの、それでも2m以上先の標的に手裏剣以上の火力で突き立つのかあ、すごいよ、これ。

 手馴れれば、風呂敷くんをぐっと伸ばして、もっと遠くのものを狙ったり、鞭みたいにからめ捕る事も出来るようにもなるかも。

 使いこなせれば想像次第でいろんなことができそうだ。

 むーん、こういうのはやっぱりあの人だろう。

「という訳で、うずまき兄ちゃんに相談してみようとおもう」

「いやだめですって、他人に話しちゃ」

「え、だめなの?」

「そっすよ、一応これ化け狸謹製の代物なんすから。

 ほかの奴どころか、出来りゃあ親にも言ってほしくないっすよ。

 なんつっても化け狸の里の信頼の証みたいなもんなんすから。

 さっき自分でも国宝級って言ってたじゃないすか」

 それはそうなんだけどね。

「一人前の忍になるまではだまってた方がいいっすよ、兄貴」

 そういうものなのかな?

「そういうもんっす」

「了解、ほかの人には言わないことにするよ、しばらくは」

 つまりは僕がこれ(八畳風呂敷)にふさわしい忍になればいいわけだ。

 がんばろうっと。

 

 

 

 丁度中忍試験の予選が始まっているころ、僕はまた森に来ていた。

 中忍試験が始まって、里の忍の人たちは試験官や警備要員に忙しい。

 うちのおっとうやおっかあも、試験に伴う様々な事務作業に忙殺されているらしく、僕の修行に付き合ってくれなくなっていた。

 それでも毎朝晩の食事はみんなで一緒に食べることにしているし、家族の会話を欠かしたことはない。

 まあもちろん、任務の事なんかは話すわけにはいかないんだけどね。

 今日は夢の中で仲良くなった岩室兄弟の1人、五郎坊くんを呼ぶつもりだ。

 岩室兄弟は五遁のそれぞれに適性があり、五郎坊くんは風遁が得意なのだそうだ。

 彼にちょっとした相談をしようと思ってる。

 それでは、口寄せを行いましょう。

 

 早速来てもらった五郎坊くんは兄弟の中でも特に小柄なんだそうで、実際、僕の両の掌に乗っかるくらいのサイズだ。

 それでも僕よりはずっと術が巧みなんだよね。

「そ、オレは風を扱わせれば、人間でいうところの中忍くらいの実力はあるんだぜ。敬うように」

 この前もそんなこと言ってお兄ちゃんに怒られてたよね、五郎坊くん。

 ま、それはさておき、風遁でどんなことができるかを見せてもらった。

 のだが。

 これは凄いよね。

 五郎坊くん、風に乗って飛んでおります。

 飛行系の忍術ってなかなかないんですよね。

 うちの里の忍でも、空を自由に飛ぶってのは見たことがない。

 まあ、かなりの高等忍術になるのだろうし、そういうのは忍の切り札なのだからおいそれとは見せられないのだろうけど。

「ね、ね、その術、僕も使えるかな、どうかな!」

 ついテンションが上がっちゃうね、ほんと。

 空を自由に飛んでみたい、なんて歌詞の歌もあったけど、やっぱり大空を自由自在に飛行するのは男の子の夢だとおもうんだよ。

 できればその先にも言ってみていね、あの無限の蒼穹の彼方まで、あの月の先まで。

 しかし、五郎坊くんの答えは

「お前重いから無理」だそうである。

 現実は厳しいね。

 なんでかって聞いたんだけど、航空力学とか、空力抵抗がどうの、という話で正直理解しかねる部分が多々あった。

 五郎坊くん意外なほどにインテリだったのね。

 人間の学者ですらそんなところまで行っていない気がするよ。

 どこで習ったのかしらん。

 まあそれはともかく、僕が飛行するには風を下から受けて体を持ち上げるほどの翼がないってことだけは分かった。

 どれだけ大きな凧でも体を持ち上げるにはチャクラが必要だしね。

 ん? チャクラ… それと凧か…。

「ねえ、五郎坊くん、こんなのはどうかな…」

 しばしの間、僕と五郎坊くんは僕の考えたアイデアについて議論し、可能性があるかどうかを検討し始めた。

 

 さて、んでは実験といきますか。

 使用いたしますのは八畳風呂敷。

 四方の端を両手、両足に固定し、ムササビのように体にまとわせる。

 その後、チャクラを流してやると…、体の横に大きな張り出しができる。

 まあ僕に大きな翼、五郎坊くんに言わせるとウィングバインダーとやら、がついた感じになる。

 で、これに五郎坊くんが「風遁・烈風」を使うことでこうふわっと浮きあが… ってえっ!!

 浮き上がったのはいいが、うわぁ落ちる落ちる!!

 1回目はなんというか風にあおられただけで終わった感じだ。

 でもまだだ、まだ終わらんよ!

 この空を手に入れるまで!

 

 むりでした。

 

 まあそうだよね、鳥だって一生懸命飛ぶ練習して飛べるようになるんだもの。

 元々飛べるように出来ていない人間じゃもっともっと練習しないとね。

 結局その日は全身擦り傷だらけになるだけで終わった。

 五郎坊くんにも心配をかけたけど、また特訓に付き合ってもらうことを約束して、その日はうちに帰ったのだった。

 ちなみに、おっかあにはしっかり怒られました。

 

 これから数日、僕は五郎坊くんと一緒に空を飛ぶ修行を続けることになった。

 もちろん連日おっかあには怒られる羽目になったが。

 

 さて、このように「風遁・飛翔の術(命名・僕)」の練習をしていた数日で、中忍試験の予選が終了した。

 これはうずまき兄ちゃんから聞いたんだけどね。

 うちの里からは、サスケさん 、シノさん 、シカマルさんに日向ネジさん、そして、

「このうずまきナルト様だってばよ!! 」

 兄ちゃんテンション上がりすぎ。

 でも凄いよね、まだ下忍になってから1年そこそこなんだし。

 推薦したはたけカカシ上忍も英断だったってことだよね。

 自分のチームから2人も予選通過したんだし。

 サクラ姉ちゃんは残念だったけど、あの人は戦闘以外のところで活躍できる人だとおもうんだ。

 中忍試験は戦いの強さ以外の部分も評価する、はず。

 でなければうちのおっとうやおっかあが中忍やってられるはずがないので。

 だから次回以降に十分可能性はあるとおもうんだ。

 しかし、砂隠れの里の人たち、3人とも予選突破かあ。

 只者ではない雰囲気の人たちだったけど、やっぱり通ったんだ。

 凄いなあ。

 そう言えば予選ってどんな内容だったのかな?

「兄ちゃん、試験ってどんな内容だったの?」

 今の家に傾向と対策は練っておいて損はないよね。

「一次がペーパーテストの根性を試す問題で、二次が死の森で巻物の奪い合いで任務をどうこなすかって心構えを試す試験でよ、たくさん残ったから三次で戦って数を減らしたんだってばよ!!」

 うん、何言ってるのかよく分かんない。

 相変わらず理論的な説明下手だよね。

 やっぱりうずまき兄ちゃんは感性、というか野生の人なんだなあと実感できる。

 困ったもんだ、参考になんない。

 そう考えていると、向こうから歩いてくるのは我らがオヤビン、犬塚キバさんである。

「お、負けヤロー発見!」

 ってうずまき兄ちゃん、死人に鞭打つような真似を…。

「うっせー! 油断さえしてなきゃお前みてーなドベに負けなんかしねーっての!」

 おや、キバさんうずまき兄ちゃんに負けたんですか?

 そっか、本来の二次試験までだったらチーム全体が残る筈だから、シノさんが生き残っているなら本来おんなじチームのキバさんと日向ヒナタさんも残ってるはずだしね。

 んで、キバさん兄ちゃんに負けたのかあ。

「キバさん慢心したっしょ」

「ギクッ!」

「兄ちゃんと当たるってわかった時、勝ったもどーぜーんとかって」

「ギクギクッ!!」

「んで兄ちゃん挑発していらんやる気を出させたとか」

「ギクギクギクッ!!」

「最後はこれで最後だ~とか言って獣遁で後ろに回り込んだは良いけど予想外のこと、そだな、獣遁って嗅覚も良くなってる筈だから、匂い玉でもぶつけられて動けなくなったとこでぶっ飛ばされて負けたって感じ?」

「なんでおめーはそんなに分かんだよ、見てきたみてーによ!!」

「なんていうか、兄ちゃんとキバさん見てると大体分かる感じ」

 あ、キバさんへこんだ。

「キバさんの場合、赤丸くんもいるんだから、キバさんのピンチは赤丸くんのピンチでもあるんだよ。

 2人分のピンチなんだから、もっと気をつけないと」

「… そうだな、オレの負けは赤丸の負けでもあるしな…」

 キバさんは真剣な顔で赤丸くんをなでるとそう言った。

 赤丸くんも心なしかきりっとした顔でキバさんを見つめ返している。

 キバさんはうずまき兄ちゃんを睨むように見ると、

「オレはもうおめーには負けねー! 次は必ず勝つ!!」

 そう宣言した。

「へん、次も返り討ちにしてやるってばよ!!」

 兄ちゃんもそう返し、2人はにやりと笑うと拳骨をぶつけ合った。

 うむ、男の友情だよね、いいよね。

 あ、そういえば。

「ねえ兄ちゃん、ロック・リーさんどうなったの?」

 日向ネジさんのチームだったし、てっきり残ってくると思ってたんだけど。

 やっぱり三次予選で誰か強敵と当たったのかな。

 おんなじチームの日向さんとか。

 僕がそう言うと、二人はなんか、視線をそらして話し辛そうにしている。

 これは、もしかして…

「ゲジマユの奴、砂隠れの我愛羅って奴にやられてよ、もしかしたら再起不能かもって…」

 …そっか、あんなに頑張ってたのに…。

 努力が必ず報われるわけじゃないことは僕も知っている。

 頑張って何とかなるなら、僕は前世で()()()死に方はしなかった。

 努力が報われるなら()()はまだ幸せにあそこで暮らしていたはずだ。

 …だからといって、努力を放棄する気にはなれないのだけど。

「そっか、残念だな。

 リーさんとガイ上忍の師弟って僕好きなんですけどね。

 うまく回復することを祈るのみです」

「あぁ、そう言えばお前、前っからゲジマユと激マユ好きだよな、なんであんなんがいいんだってばよ?」

「え、おかしい?

 あんなに熱く青春するのってかっこよくない?

 自分にできないことをやってのける、そこにシビレるアコガレるっていうじゃない!?」

「言わねーよ!

 あんな濃いのに痺れねーし憧れねーよ!」

「あんなんになったらサクラちゃんから嫌われるってばよ!

 オレ、あんなおかっぱにしたまつ毛なんかになんねーってば!」

 二人掛かりで僕の意見は封殺されました、まる。

 しかし、砂瀑の我愛羅さんか、あのすさまじい体術のリーさんですら勝てない人だ。

 しかもそれが一介の下忍、と。

 世界は広いなあ。

 忍界なんてそんなに大きな世界ではないはずなのだけど、それでも表に出てこないだけで凄い人はいくらでもいるもんなんだなあ。

 兄ちゃんも気をつけてほしい。

 兄ちゃんは意外性の人だけど、それだけにムラッ気が大きいから。

 兄ちゃんが死んだり再起不能の重傷を受けるようなことがあれば少なくても「僕が」悲しむ。

 だから少しはそのことを気にかけてくれると嬉しいのだが。

 うずまき兄ちゃんだからなあ、その時がくれば、周りも見ずに突っ走るんだろうなあ。

 そういう兄ちゃんだからこそ、兄ちゃんを知る周囲の人はこの人を好きになるし、この人の力になりたい、と思うんだろうな。

 

「おっと、赤丸との散歩の途中だったんだ、じゃな。

 行くぞ、赤丸!」

「ワン!」

 キバさんは赤丸くんと散歩の続きをしに去っていた。

 で、それと入れ替わりのように、

「あ、カブトさん」

 どうやら兄ちゃんの知り合いの人らしい、眼鏡をかけた、20歳くらいの男の人がこっちに近づいてくる。

「兄ちゃん、知り合い?」

「おう、中忍試験でお世話になったカブトさん。

 カブトさん、けがは大丈夫なのかってばよ?」

「ああ、大丈夫だよ、ナルトくん。

 これでも医療忍者のはしくれだ、まだ痛むけど、動けないほどじゃない。

 ところでナルトくん、彼はどなただい?」

 なんか、非常に当たりの柔らかい、丁寧な人だ。

「カブトさん、こいつは茶釜ブンブク、オレの弟分なんだってばよ」

「どうも、ご紹介にあずかりました茶釜ブンブク、忍術学校5年生です。

 カブトさん、でいいんですよね。兄がお世話になっています。

 これからもご迷惑をおかけするとおもいますが、よろしくお願いします」

「はい、よろしくお願いします。

 それと、別にナルトくんに迷惑をかけられているわけじゃないよ。

 大丈夫だからね」

「おいこらブンブク、何ってこと言うんだってばよ!

 まるでオレが周りに迷惑かけっぱなしみたいじゃないかよ!

 もういたずら坊主は卒業したんだってば!」

「いやそういう話じゃなくてね。

 これから中忍試験本選じゃない?

 兄ちゃんの戦い方だと、生傷が絶えないような気がするんだ。

 兄ちゃんって被弾気にせずに突っ込むから。

 いくら『身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ』とか『虎口に入らずんば虎児を得ず』っていってもさ、心配なものは心配なんだよ、身内としては」

「? どういう意味だってばよ?」

「ナルトくん、このことわざは守っているだけでは何もできない、時には無謀ではなく勇気を持って危険に立ち向かうことで大きな成果を得ることができる、という意味だね。

 予選の時を考えてごらん。

 犬塚キバとの戦いの時、守っているだけでは彼に勝てなかったろう?

 彼の攻撃をかいくぐって、傷を負いながらも君は彼に勝利した。

 勝ちを得るには時に傷ついても前進しなくてはいけない時がある、という故事だね」

「おおっ、なんかカッコいいってばよ!

 ブンブク、もいっぺん言ってみろって!」

「兄ちゃん、そんな気張るのは『身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ』ってのとは違うからね。

 気張ってがちがちになってたらキバさんにも勝てなかったでしょ。

 木の葉って落ちてきたときに掴もうとするとふわってよけて体にくっついたりするでしょ。

 あんなふうに、自然体で危機に挑む姿勢の事を言うんだよ。

 何とかしなければならない、ってがっちがちになって挑むんじゃなく、危険なことを木の葉みたいに無駄な力を入れずに成し遂げるって考えるのが大事、なのかな?

 どうでしょ、カブトさん?」

「そうだね、いつものナルトくんらしくいけばきっと勝利への道筋が見えるとおもうよ、いつものきみらしく、これを忘れないことだね」

「むうん、いつものオレらしく、かあ… それで勝てっかな?」

 おや、結構弱気。

 今回の事で上には上がいることを実感したのかしらん。

 普段サスケさんとか、はたけカカシ上忍とか見てる割には兄ちゃんそこいらへん甘かったんだけど。

 きっと忍務でも凄い人とかと戦った経験があるんだろうな。

 兄ちゃんは知識として知っていても、それを実感する知性はない(失礼)。

 代わりに、もの凄く感性が鋭い、もう野生動物のごとく。

 まるで芸術的ともいえる勘の鋭さを持っているのだ。

 まあ、まるで役に立たない時も多々あるけれど…。

 その感性が、何か危険を訴えているのだろう。

 ならば…。

「兄ちゃん、それなら修行するしかないんじゃない?

 たった1日で影分身覚えた兄ちゃんなら、効率的な修行をすればいいとこまで行くと思うんだけど」

 まあ、これは気休めに近い。

 ここから本選まで大体1ヶ月位なはず。

 正直言ってこの程度の時間で兄ちゃんが新しい術を編み出すのは難しいと思う。

 何らかのきっかけ、指導者がいるのであればともかく、理論的な組立ての苦手な兄ちゃんでは、効果的な術とかを覚えるのは、不可能に近いのではないだろうか。

 とはいえ、修行をすることで、自分の基礎能力を伸ばし、それを自身につなげることができれば十分に意味がある。

 兄ちゃんは単純なところがあるし、もとより身体能力はずば抜けている。

 その身体能力を伸ばしてやることで、だれよりも強くなる可能性を秘めているのだ。

 …あ、そういうことか。

 兄ちゃんが自信を失っているのは、多分、リーさんが我愛羅さんに敗北したからだろう。

 確か、リーさんは体術において無双を誇るマイト・ガイ上忍のお弟子さんであり、体術においてリーさんは兄ちゃんをはるかに上回る。

 そのリーさんが敗北したことで、忍術に不安のある兄ちゃんは身体能力と多重影分身の術だけでは本選では勝てない、と感じてしまったのだろう。

 先ほども言ったように、兄ちゃんは感性の人だ。

 その動物的な直感が、今のままでは我愛羅さんたち砂隠れの3人や日向ネジさんに勝てないことを兄ちゃんに理解させてしまったのだろう。

 そうなると、今まで忍術学校でも疎かにしてきた忍術の理論の不勉強が新しい術の習得の壁となっている可能性がある。

 これを是正するにはどうしたものか…。

 そう考えていると、

「あ、カカシ先生に会いに行くところだったんだってばよ!

 あの人なら上忍だし、なんかすっげえ忍術とか、教えてくれるかもよ!

 わりい、ブンブク、先行くってばよ!」

 なんだ、もう対策は考えてたのか。

 さすがにいろんな忍務をこなして兄ちゃんも成長してるんだねえ。

 うずまき兄ちゃんはすっ飛んで行く、というのがぴったりな感じで去って行った。

 …時に兄ちゃん、カカシ上忍がどこにいるのか分かってるんだろうか?

 分かってないでかっ飛んで行ったとしても僕は不思議に思わない、それがうずまき兄ちゃんクオリティ。

「ほんと、元気ですよねえ」

「ほんとに」

 二人してうずまき兄ちゃんのすっ飛びっぷりにほっこりしてみたり。

「あ、僕も用事があるんでした。

 じゃあこれで」

 そういうと、カブトさんはひょいと手を挙げて、去って行った。

「はい、そのうちにまた」

 僕はそう言ってカブトさんと別れたのである。

 

 カブトさんと別れてすぐに。

「茶釜ブンブク君だね」

 僕はお面の人に声をかけられた。

 !? 暗部の人だ!

 この木の葉隠れの里の秘密諜報部門に所属する超上級の忍。

 火影さまの直轄の部下である一騎当千の人たちである。

「はい、そうです。

 なんの御用でしょうか?」

 出来るだけ冷静に聞こえるように僕は返事をした。

「今さっき、君は薬師カブトと会話をしていたね、何を話していたんだい?」

 カブトさん!?

 あの人に何かあるのか?

 確かに、カカシ上忍の名前が出た時、普通じゃ気がつかないくらい、体が揺れていたけど。

 とにかく下手を打つと僕だけじゃなく、うずまき兄ちゃんにまで被害が及ぶ。

 僕は出来るだけ正確に、かつ詳しく、暗部の人にカブトさんとの会話、その時の状況を伝えることにした。

 

「協力感謝する。

 このことは一切の事他言無用だ。」

 暗部の人はそう言うとこちらに返答を求めた。

「分かりました、親兄弟にも一切の事、口を噤みます」

 僕がそう答えると、暗部の人は、

「いや、今から病院に行きたまえ。

 そこにはたけカカシ上忍がいる。

 彼に今の内容を話したまえ」

 あら、読まれていましたか。

 この暗部の人が本物かどうか僕には確認のしようがない。

 なので、カブトさんが反応していたはたけカカシ上忍に確認を取ってみようと思っていたのだが。

 どうやらこの暗部の人は偽物ではない様子である。

 僕は暗部の人に頭を下げると病院へと足を向けたのである。

 

 

 

「ふん、あれが茶釜の天才児か。

 危険、だな」

 暗部に所属する忍、テンゾウは少年の去って行った方向を見てそうつぶやいた。

 はっきり言ってしまえば、茶釜ブンブクは天才忍者とは言い難い。

 例えば、うちはイタチやはたけカカシは11歳の頃には既に中忍として天才の名をほしいままにしていた。

 忍術の能力で言うなら同年代の子どもたちとどっこいどっこい。

 体術はかなりのもので、下忍と戦わせても勝負になるだろう。

 こと、変化に関しては中忍も驚くほどの完成度を見せる。

 とはいえ、所詮はアカデミー生としてである。

 かつて天才と言われた者達と比べるのもおこがましいレベルといえよう。

 彼を天才と呼ばしめているのはその思考にある。

 かつてのうちはイタチを彷彿とさせる忍に向いた理論的な思考回路。

 柔軟かつあらゆる手段を使用し、万難を排除して目的を達成するその考え。

 一般人への質問から里の状況を把握した分析能力と、うずまきナルトの環境を向上させたその手腕。

 本人に言わせるなら、最も活躍したのは奈良シカマルと、自分の両親だと言うだろう。

 しかし、木の葉隠れの里随一の頭脳と、木の葉隠れの忍組織の基盤を担う事務職を束ねる一族を動かしたのは若干3歳の子どもだったのである。

 天性のアジテーターとも考えられるその子どもが、危険人物・大蛇丸の一味と目される薬師カブトと接触した。

 このことをどう考えるべきか。

「いや、ボクが考えることではない、か。

 このことは火影様に報告の後に指示を仰げばいい事だ」

 彼はこのことを報告すべく、姿を消した。


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