NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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第76話 ブンブク/?/?

 ブンブク

 

 今僕は蛙のお腹の中にいます。

 正確に言うと、自来也さまの口寄せ動物の1人である蝦蟇の腹の中、なんですよ。

 こうなったいきさつは数日前にさかのぼるんですが。

 

「で、なんでワタシは連れて行ってもらえないんですか!?」

 そうごねているのはみたらしアンコさん。

 まあ当然と言えば当然な訳ですが。

 アンコさんは仙人モードを不完全ながらも習得し、ことチャクラの量でいえば里にいる度の忍よりも上でしょう。

 チャクラでのごり押しならばあの「暁」の精鋭にも劣らない実力を持ってます。

 一緒に来てもらえるんならこれほど心強い人はいないんですけど…。

「そうは言われても、無理なものは無理でのォ…」

 自来也さまも困ってます。

 なんでこんな事になったかというと、雨隠れの里への潜入方法にありまして。

 

「げこげこっ」

 

 はい、目の前にいるのは結構大きめの蝦蟇蛙さんです。

 自来也さま曰く、此の蝦蟇さんは妙木山に住む「隠れ蝦蟇」さんだそうで、見た目に反して人間以上の大きさのものをその腹に収めれられるそうです。

 この蝦蟇さんの胃袋の中に隠れて侵入する、というのが当初の予定だったのですが。

「げこ~っ…」

 一言で言うと、アンコさんの体から発せられる「蛇の気」に当てられて萎縮しちゃってるんですね。

 僕の場合もどうやら「狸の気」に当てられるらしいんですけど、って狸の気って何だってばよ!?

 アンコさんはそりゃあの大蛇丸さんの愛弟子ですからね、そりゃ蛇っぽい気配があるでしょうさ!?

 でもですよ、僕の場合、前世が狸だったからってなんで気配まで狸になるんですか!?

 やり直しを要求する!!

 …すいません、変に激昂しました。

 それはさておき、僕の場合は一旦茶釜に変身しとけば問題なしだったのですが。

 全く不思議なもんです。

 そういう訳で、どうしてもアンコさんは現状待機、という事になってしまう訳です。

「むうぅ~、納得できなあ~いっ!」

 むくれてもしょうがありませんて。

 仕方ないので僕が用意した信号用の焙烙玉で合図したらばそこに全力で突っ込んできてもらう、という事で話を纏める事にしました。

 むう、アンコさんが居ると居ないとでは戦力が倍くらい違うんですけど。

 万一にも干柿鬼鮫さんとかいたら僕じゃどうにもなりませんからして。

 あの人の「大刀・鮫肌」とか、掠めただけで今の僕のチャクラは丸ごと持っていかれかねません。

 アンコさんの膨大で短期間ならほぼ無尽蔵のチャクラがあれば、鮫肌を抑え込みつつ鬼鮫さんをぶちのめすのも可能かもしれませんが。

 とは言えしょうがないです。

 今回に関してはあくまで「偵察任務」なのですからして。

 雨隠れの里の内情を探り、その情報を持ちかえるのがお仕事です、確かに威力偵察の側面は否めませんけども。

 …はあぁ、僕生きて帰れるかしらん。

 自信ないなあ…。

 

 さて、べろんと蝦蟇さんに飲み込まれてしばらく。

 僕は準省エネモードの体勢で自来也さまの懐にすぽっと入る形で持ち運ばれてます。

「ブンブク、お前は基本的には1人で動くでない。

 今のお前の強みは『死んでいるはず』って隠密性だからのォ」

「はい、承知です。

 この体勢で見聞きしろってことですよね。

 それは良いんですが…」

「言うでないのォ…。

 ワシだってちょっと問題があるかなあ、なんて思わなくはないからのォ…」

 大の男の胸元から、狸のぬいぐるみが顔を出している様なそんなビジュアルは自来也さまのイメージを大きく損ないそうな気がしないでもないですし。

 ま、気にしたら終わり、という事で。

「…大蛇丸や綱手に見られる訳ではないからのォ。

 それで良しとしとこうか。

 …む、そろそろ着く様子だのォ」

 自来也さまがそう言いました。

 つまりはここからが本番、と。

 

 蝦蟇さんの口からずるりと出てみると、外は雨でした。

 雨の向こうに町があります、って。

「なんだかずいぶんと近代的ですねえ…」

「うむ、昔はああではなかったのだがのォ…」

「昔っていつです?」

「30年は前だのォ…」

 …とは言え、妙に前衛的な街並みに見えますね。

 尖塔が多い、というか。

 ぱっと見、結構最近に造られたように見えますね。

 

 近付いてみると、その近代的な造りがなおさらはっきりしてきます。

「これ、耐水コンクリートみたいですね、雨に強い素材を使ってるんでしょう」

「そうだのォ、かつての雨隠れはカビに強く風通しのいい木材が主だったもんだがのォ。

 すっかりかつての雨隠れはなくなってしまったんだのォ…」

 かつて自来也さまはここに来た事があるんでしょうね。

 その為の感慨なんでしょうけど。

「ここまで『雨隠れの里』を造りかえるって、まるでかつての雨隠れを消し去りたいって感じですね」

「…本当にそうなのかもしれんのォ」

 なんて言うか、もの凄く偏執的に見えます。

 よっぽど昔の雨隠れが憎いのか、嫌いなのか、そんな感じを受けたりして。

「ブンブク、お前完全な狸に変化して周囲を偵察して来てくれんかのォ?」

「あい、了解です」

 僕は自来也さまの懐で印を組み、茶釜でない狸に変化しました。

 さあ、偵察です。

 

 どうやら、雨隠れの里は巨大な階層都市、とでも言うべき代物の様です。

 下層は様々な処理施設、中層が一般人の区画でこのあたりに生活区画があるって感じかなあ。

 上層にはちょっと入れない様子。

 多分だけど上の方が忍たちが暮らしたり、政治を行う区画なんだろうと思われる。

 まあなんていうか、

「がっつり階層社会の様だのォ…」

 まあ、街中にいる人達、何かにつけて「神に感謝を」とか言ってたから、もしかしたら違うかもしんないんだけど。

「ん? どう違うんかのォ?」

 もしかしたら「神の元の平等」ってのかもしれないってことです。

「ふん、なるほどのォ、神に対する貢献度で上に住める、で、神への忠誠心から下層に居ても不満を持たん、と」

 そんな感じでしたね。

「…ずいぶん不機嫌だのォ」

 まあ、あの手の人たちはどうも、ね。

 まあ、一般の人たちはまあ良いんですよ。

 そんなに依存してる様子もないですし、もしその神様が居なくなったとしても多分他に頼るもの見つけてタフに生きてくと思うんで。

 問題は忍の人たちでしょうね。

「…そんなにか?」

 うーん、なんて言うか、軽めの幻術か何かでそういう風に持ってってるんじゃないかと思うんですよね。

 意識を自分に依存するような幻術を長期に渡って使用してる、とか。

「…それが事実ならば、おっそろしく強力な術使いってことになるのォ」

「最悪、侵入がばれてる可能性もありますね」

「急いだ方が良いみたいだのォ」

 

 それから、自来也さまは下層部分で大技を見せてくれた。

 口寄せした蝦蟇蛙をちょっとした一軒家サイズの建物に変化させてしまったんだ。

 で、中は洋風の飲み屋さん風。

 自来也さまはバーテンに、僕はウェイトレスに変化してお客さんを待った。

 で、入ってきたのは額に雨隠れの里、のエンブレムに横線を引いた忍2人組。

「いらっしゃいませ~」

 精一杯シナを作って歓待する。

 このままじゃさすがにお気の毒なので。

 その後にお店を(文字通り)畳んで彼らを捕獲、と。

 で、冒頭に戻る訳ですよ。

 

 うわああぁ、えげつない。

 自来也さま、さすがにえげつない。

「ぎゃははは!?」

 捕まえた(多分)下忍の1人をくすぐりまわす自来也さま。

 ただくすぐってるだけのように見えて、実の所ちまちまと幻術を仕掛けて相手の意志をちょっとずつ削ってます。

 たちの悪い事に、蛙の消化液のせいで皮膚が刺激に過敏になっている所を更にくすぐって意識を逸らし、その間にうまい事幻術を仕掛けているのです。

 本来ならもうとうの昔にぺらぺらと話し始めていてもおかしくないと思うのですけど、どうやら下っ端の彼らにまでかなり強力な耐幻術プログラムが施されているようです。

 一体ここの長はどんだけ用心深いんだろ、というかむしろ偏執的ですらある気がしますよ。

 とは言え、くすぐられている方はともかく、それを見せつけられている人はいい感じに幻術が掛かってきている様子。

 …でも自来也さま、相手の気を抜くためとはいえ、「蛙に変える」はないんじゃないかなあ、さすがに。

 それかました上に、中途半端に照れて赤くなるのはおやじギャグ使いとしてはアウトでしょう。

 ま、だからこそ下忍の人たちは幻術に引っ掛かってくれたんでしょうけど。

 

 で、彼から聞く事の出来た情報、それは恐るべきものでした。

「ペイン」は彼らの神の様な存在である、それはまあ、周囲を調査して分かっていた事です。

 ペインさんはかなり巧妙にこの里を支配していました。

 まず恐怖。

 前の長である「山椒魚の半蔵」本人はもとより、家族から友人、顧客までを完全に抹殺、と。

 これを下忍さんは「強い刃の心」と称していましたけど、むしろ僕としては「巨大な力を持った普通の人の恐怖心」としか取る事ができませんでした。

 可能であるのならば不安要素をすべて排除しておきたくなるのが当然の反応でしょうし。

 実際それをしようとして出来なかったのが前の長の半蔵な訳ですからして。

 で、次に神秘性。

 ペインは神であり、下忍レベルどころか中忍、上忍レベルでもあった事がない、と。

 しかしその力は里全部を見守る(監視?)事が出来るとのことで。

 ペインの言葉は「天使」が伝えるんだそうです。

 神の言葉を伝える天使。

 どんな人か聞いてみたところ、女性らしい。

 イメージはガブリエル、ってところかしらん。

 女性だし、神の意志を伝える天使って訳だし。

 …容姿に関して聞いた見た所、妙に自来也さまが動揺していた。

 どうやら自来也さまはその「天使」に心当たりがある様子。

 …なんか妙な感じだ。

 僕はてっきり初代「暁」の名前を使っているだけか、組織が武断派に乗っ取られたんだと思っていたんだけど。

 今までにも上げた通り、半蔵さんのやり方は縮小・閉鎖・保守路線、武断派であった訳でして。

 多分、そのやり方では里の力は弱まるばかりだったはずです。

 そのやり方への反発から開放路線、対話路線の「暁」が生まれたはずなんだけどね。

 今のやり方はより強固になった半蔵さんの路線と一緒な訳で。

 まあ、そう考えるとペインさんて「前長の政治方針をそのまま受け継いだ」だけに過ぎないんですよね。

 そんなやり方の中に自来也さまの知り合い、しかも僕に焦りを読ませてしまうほど心を砕いている人が居る、と。

 おかしい。

 僕は直接自来也さまに聞いてみる事にした。

 

「自来也さま、お聞きしたい事があります」

「…なんじゃい」

 自来也さまは落ち着かない様子。

「自来也さまが今考えている人たちの話をしてくれませんか?」

 とにかく考える材料が欲しいんですよ。

 僕たちは下忍さんたちを完全隔離してこちらの声が聞こえない場所へと移動させました。

 そして、僕は自来也さまに情報公開を迫ってる訳ですね。

 じーっと自来也さまを見ます。

 自来也さまはなんというのかな、じわじわと汗をかいて、あれみたい、ほら、道の端で良く売ってるやつ、そう! 「蝦蟇の油売り」の口上みたいになってます。

 しばらく視線を逸らすとか色々抵抗をしてたんですけど、結局話す気になってくれたらしく、ぼつぼつと話し始めてくれました。

 

 

 

 自来也は話し始めた。

「アレはもう30年近く前の話しかのォ…」

 自来也は当時、任務で訪れた雨隠れの里近郊で、3人の少年とあった。

 それが初代「暁」の頭目である弥彦、その友人であり運命共同体である長門、小南であった。

 彼らを自来也は3年掛けて忍として鍛え上げた。

 自来也は彼、彼らを「運命の子」であると感じたからだ。

 

「運命の子? ですか?」

 ブンブクが首を傾げた。

 自来也はかつて己が迷い込んだ化け蛙の里である「妙木山」において、里の長である「大じじ様」より、

 

 自来也の弟子が「運命の子」として世界を改変する、そして自来也はいずれ大きな選択を迫られる。

 

 そう告げられていた。

 ブンブクにとって、その予言はうずまきナルトであろうと思えるのだが、自来也にとっては違ったようだ。

「その3人の内、長門には『輪廻眼』があったんだのォ…」

 輪廻眼。

 3大瞳術と言われる白眼、写輪眼を超える瞳術における最強の血継限界である。

 今現在それを持っているとされる忍は存在せず、言ってしまえば伝説級の存在。

 それを持っている者が居り、木の葉隠れの里の敵となっている可能性がある、これがどれだけ危険な状態か。

 自来也はその可能性を恐れているのだろう。

 いや、それだけか?

 自来也が本当に恐れているのは己の判断の間違いにより弟子達が間違った方向へと進んでいる可能性であろう。

 自来也は3年間で彼らを鍛え上げた。

 その後、彼らと別れて里に戻り(そして猿飛ヒルゼンにしこたま怒られた訳だが)、この日まで彼らの消息を知る事は出来なかった。

 雨隠れの情報はとにかく入手し難い。

 あのダンゾウですら半蔵の死を知らなかったほどである。

「…あの日、ワシはあいつらを木の葉に連れ帰るべきじゃったんかのォ…」

 自来也はそうぽつりと呟いた。

 

 

 

 ん、何かしんどそうだなあ。

 僕からすると、自来也さまは3人の子どもたちに選択肢を出してる分かなりまっとうだと思うんだけど。

 かなり乱暴な言い方だけど、大蛇丸さんが「殺す?」というのもまた選択肢だ。

 本来だとなんの力もない子どもがあの時代の更に貧しい雨隠れ近郊で生きていくのは無茶だろう。

 第3次忍界大戦はどこからどう始まったか分からない、いわゆる泥沼の局地戦が大量におきた戦争で、とにかく各里共にひたすら疲弊するだけのものだったみたいだ。

 戦闘要員である忍すら食べるのに事欠く状況、ならば非戦闘員からの略奪なんて普通におきる事だろう。

 その中で、保護者なしの状況で子どもが生き延びるのはほぼ不可能。

 かと言って彼らを引き取り育てる余裕なんてどこの里にもない。

 ならば…っていうのも分からなくもない。

 このあたり、自来也さまが火影にならなかった理由でもあるんだろうな。

 あんまりにも忍びに似合わない情の深さ。

 僕は大好きだけど。

 ヒルゼンさまにもおんなじことが言えるんだけど、ヒルゼンさまにはダンゾウさまが居たからなあ。

 自来也さまが火影になるなら、多分大蛇丸さんが傍でサポートに入っていれば、と思う。

 そうなるとうずまき兄ちゃんの場合は…、なんぼでもいるなあ、シカマルさんとか、サイさんとか、勿論僕も。

 そう考えると今の世代は人材に恵まれている気がするよ。

 自来也さまの時代もそうだったかも知れないけど、優秀な人材ほど戦争ですり潰されちゃってる様だしなあ。  

 そういう点ではその3人を木の葉隠れに引っ張ってきても良かったかとは思う。

 でも、

「その弥彦さんって人は、自来也さまが来いって言っても雨隠れに残ったでしょうね」

 僕はそう思う。

 弥彦さんは「暁」を立ち上げた。

 組織を立ち上げた、という事は、だ。

 弥彦さんには賛同した者達が居た、という事。

 それだけ彼は信頼されていたと言う事になる。

 自来也さまの薫陶を受け、実力をつけた彼らは自分の生まれ育った所へ自来也さまから受け継いだものを更に成長させたいと考えていたのではないだろうか。

 そういう点では自来也さまのやった事は無駄じゃなかったんだと思う。

 問題はどこでそれが大きく変質したかだろう。

「今の暁になる起点ってなんだったんでしょうね、それが分かれば自来也さまの悩みも解けるんじゃないでしょうか?」

 なんて事を言ってみる。

「…そうだのォ、悩んどってもしょうがないかのォ!

 まず出会うんは『小南』じゃろうからのォ、あいつに聞いてみるかのォ!」

 お、空元気でも出たみたいだ、よかったよかった。

 とか思っていたなら。

 わしっ!

「ブンブクよォ、お前、今何考えとった?」

 え?

「ちいっと生意気じゃのォ」

 え? ちょっと自来也さま!?

「お・し・お・き が必要かのォ? うん!?」

 ちょ、その羽箒はやめ…

 

 

 

 ブンブクを笑い死ぬ寸前まで追い詰め、しばらく動けないようにしつつ自来也は自身の体に「蔵入り」している巻物蝦蟇「ゲロ寅」を吐き出した。

 彼には様々な封印術や契約印などを保管しておく能力があり、何か自身にあった時のために彼をナルトに引き継がせる必要を自来也は感じていた為である。

 ゲロ寅に言い含めた後、まだ引きつりを起こしているブンブクを叩き起こし、自来也はブンブクと戦いの準備を行った。

 

「お前は木の葉に戻っていろのォ。

 帰ったらイビキの所へ行け。

 話しは通してある」

「げこ!」

 自来也は 蝦蟇平影操りの術で雨隠れの下忍に憑り付き、隠れ蝦蟇の腹から出てきた。

 懐には茶釜狸に化けたブンブクを収納してある。

 蝦蟇に木の葉隠れにいくよう言い含め、そして自来也は雨隠れに潜入した。

「うまくだませると良いがのォ」

 …それを見ている者が居るとも知らずに。

 

 

 

 暁 デイダラの驚愕

 

「何だてめえらは、うん」

 イタチの元へと急いでいたデイダラ達であったが、飛行形態のC2ドラゴン、これが空中にて迎撃された。

 いきなり動きが止まり、地面へと引きずり落とされたのである。

 そこに居たのは忍の1チーム(フォーマンセル)

 鬼の様な面頬をつけた上忍と、少年忍者3人。

 言わずと知れた木の葉隠れのメイキョウと、右近左近、次郎坊、鬼童丸である。

 比較的低空を滑空していたデイダラ達を見つけた彼らは、鬼童丸の「蜘蛛粘金」によりドラゴンを絡め取り、次郎坊の怪力で引きずり落としたのである。

 この時、トビは地面に激突してまだ呻いている。

「…『暁』のデイダラ殿とお見受けする、大人しくこちらの縛に付いて頂きたい」

 仮面の忍、メイキョウがそう言うが、

「ふざけてんじゃねえぞ、うん!

 こちとらお前ら何ぞお呼びじゃねえってのに。

 …トビ! とっとと起きろ、うん!」

 げしげしとトビに蹴りを入れるデイダラ。

「痛い痛い痛いって!

 先輩痛いっす!?」

「いいから起きろっての、うん!

 とっととこいつら潰さねえといけねえんだからよ、うん!」

 やっとのことで起き上がるトビ。

「まあ確かに、サスケ君がイタチさんの所に向かってますからね、さっさと助けにいかないと…」

 その言葉にぴくりと眉をひそめるメイキョウ。

「…ここで彼らを殲滅し、イタチ捕獲に向かう、良いな」

 目を(すが)め、睨みつけるように言い放つメイキョウ。

「…ああん?

 ここで殲滅するって言ったか? オレ達を、うん?

 なかなか楽しい冗談だな、うん。

 おいトビ」

 デイダラが危険な目つきをしながらトビに言った。

「お前、先行ってろ、うん」

「は?」

「こいつらはオレが爆殺する。

 先行って、サスケの足止めしとけ、うん」

「え?」

 話の展開に付いていけないトビ。

 デイダラはトビに蹴りをくれると、

「さっさと行け、うん!」

 そう追い払った。

 

 さてうまく行った。

 先ほどの場所から木々の枝を渡り飛びながらトビはそう嗤っていた。

 これで少なくともデイダラが勝つか負けるかしない内は木の葉の忍はサスケを追う事ができない。

 デイダラが勝てば木の葉の力を削ぐ事が出来る。

 もし万一にも負けたとしても、そろそろ目障りな動きをしてくれるデイダラを処分できたと思えば十分だろう。

 そう思いながら移動して居た為であろうか。

 

 ざんっ!

 

「え?」

 トビの胴がなぎ払われた。

 空中で動きを止め、そして森の下へと落下していくトビ。

 それに目もくれず、忍刀を鞘にしまいつつ凄まじい速度で移動していく忍、メイキョウ。

 

 それは暫し時を遡る。

 トビがサスケの元へと移動したそのすぐ後。

「メイキョウさん、先、行ってください…」

 だらりとしたやる気のない声で宿儺右近が言った。

「あ!?」

 その言葉に反応するデイダラ。

「オレ達の任務において、『暁』の他のメンバーは余禄にしかすぎない。

 んだからよ…」

「兄貴の言う通りだな、別にここは足止めでも良い訳だし」

「時間稼ぎ程度なら可能だろうしなあ」

「お前ら…」

 殊更気楽に右近と左近、次郎坊が言う。

「…なんだ手前ら、お前ら半人前だけでオレを止める気か、うん!?」

 デイダラの怒りは今にも限界を突破しそうだ。

「でもさ、メイキョウさん。

 倒せるんなら…倒せるなら、倒しちまって良いっすよねえ。

 オレ達には、そんだけの力があるぜよ!!」

 にやりと笑って見せるのは鬼童丸。

 などと言いつつ、メイキョウに見えている彼の背中には、蜘蛛粘金で、

“時間を稼ぐ。

 その間にイタチの確保を”

 そう書いてあった。

 彼らの任務は「うちはイタチの確保」。

 それに全力を注ぐ為に彼らは厄介な能力を持つデイダラの足止めを買って出たのだ。

 もしこのままデイダラを先に行かせたとして、サスケ、イタチ、デイダラ、トビの入り乱れる乱戦においてイタチのみを確保するのは難しい。

 故に、デイダラをここで抑え込みつつ移動するトビを仕留め、サスケと合流する前にイタチと接触するのが最上、そう元・音の四人衆の下忍達はそう考えたのである。

「…承知。

 良いか、貴様ら…」

 だからメイキョウは、

「死ぬな、命令だ」

 そう言ってトビを追った。

 

 

 

 ? トビ対木の葉

 

「…まずった。

 全くオレとした事が…」

 移動しながらトビはぼやいていた。

 切りつけられた瞬間に術を発動した為に傷を受ける事はなかったものの、その瞬間に足を滑らせ地上に落下。

 その間に相手、多分メイキョウと名乗った上忍だろう。

 それは先に進んでしまっていた。

 単純な速度であればトビはメイキョウに追い付けない。

 さてどうしたものかと考えたが、

「ま、彼が『うちはの隠しアジト』を見つけられる筈もない、か。

 気負いだったな」

 そう考えた。

 そう、イタチは「うちはのアジトに来い」とサスケに言っているのだ。

 うちはのアジトを知らなければ何の意味もなかろう。

 故に、トビは油断していた。

 うちはのアジト、それをメイキョウが知っている可能性を考慮しなかったのだ。

 その為だろうか。

「ありゃ?

 どうやらサスケの奴、ナルトに見つかっちゃったか…」

 その瞳術でサスケがナルトに発見されたらしい事を理解したトビは、ナルト達を食い止めるべく動き始めた。

 サスケとイタチの戦いに介入しないまま。

 

 

 

 

 ? 水月対鬼鮫

 

 サスケはかつてあったうちは一族の秘密のアジトの1つに来ていた。

 木の葉隠れの里にも内密で用意されている、いざという時に砦として使えるようにしてあるアジト。

 一族が絶えてしまった為にもはや人に使われる事無く朽ちていくだけだったその場所には、門番の様に1人の男が居た。

 干柿鬼鮫。

「尾の無い尾獣」とも言われるチャクラの化け物だ。

 彼は巨体の重量が無いかのように柱の上に佇み、

「ここからはサスケ君1人で行ってください。

 イタチさんの命令でしてね…、他の方々はここで待っていてもらいましょうか」

 そう言った。

 それだけでサスケ以外の面々はその内包するチャクラに威圧されたかのように一歩下がった。

 サスケはここで待つように「蛇」の面々に命じ、そのまま鬼鮫の横をすり抜け、奥へと走っていった。

 

 サスケが奥に行くのを見つつ、鬼灯水月は鬼鮫に、

「ここでただサスケの帰りを待つのもなんだから、

 暇つぶしに楽しく遊んでもらえないかな…、鬼鮫先輩!」

 そう言いつつ、断刀・首切り包丁に手をかけた。

 彼には野望がある。

 かつて霧隠れの里にあった戦闘集団「忍刀七人衆」の完全復活させ、その頭目に収まる事である。

 彼の兄であった鬼灯満月は忍刀七人衆の使う特殊な武器である「七刀」を全て使いこなす事が出来たが、志半ばで死んだ。

 ならば、それはオレが継ぐ、と考えたのだろうか。

 その野望のためには鬼鮫の持つ大刀・鮫肌が必要だ。

 水月は既に鮫肌しか見えていなかった。

 が、

「水月、相手をきちんと見なければ、勝負にすらならんぞ」

 その一言ではっとした。

「悪りぃじぃさん、ちょっと(はや)っちゃった。

 鬼鮫先輩、仕切り直しね!」

 そういう水月の目に侮りや慢心は最早なかった。

 鬼鮫は少しだけ目を見開いた。

 なかなか楽しい戦いができそうですねぇ、と。

 鬼鮫は己の得物である「大刀・鮫肌」を構えた。




デイダラ対元音隠れ四人衆、サスケ対イタチの戦いに関しては、後日閑話として書きます。
この次は自来也&ブンブク対ペインです。

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