NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

78 / 121
第75話 暁/木の葉隠れ/ブンブク

 暁 デイダラの暴走、あるいはブラコンの心情

 

 デイダラは憤っていた。

 未だうちはサスケに邂逅する事は出来ず、うずまきナルトを狩るのも失敗続き。

 どうやらサスケはナルトやデイダラの包囲を完全に抜け、うちはイタチに着実に近づいているらしい。

 ならば。

「トビ、イタチんとこにいくぞ、うん」

 イタチの近辺で待ち伏せするのが最も効率的であろう、デイダラはそう考えたのだ。

 …ついでに、何か状況が変わってイタチを殺しても良いと言う事になれば、それはそれで都合が良い。

 デイダラにとって、うちはの兄弟はどちらにせよ目障りな存在だ。

 そもそも「暁」にデイダラが所属する羽目になったのは、デイダラがイタチという存在に「芸術」を感じてしまったのが始まりだ。

 自身の爆破(げいじゅつ)に絶対の自信を持っていたデイダラが、初めて他者に芸術を感じた。

 その衝撃たるや如何に。

 そして「暁」の裏切り者である大蛇丸。

 アレはデイダラが殺す、と決めていた獲物であった。

 それを横から掠め取る様に仕留めたサスケ。

 どうしても許し難い。

 デイダラはイラつきながら、アジトを後にした。

 

 トビ、もしくはそう名乗っている男は仮面の裏で顔を顰めた。

 正直、今うちはの兄弟にちょっかいを掛けて欲しくない。

 さっさとうずまきナルトを仕留めてくれれば、そう考えて自由にさせていたのだが、予想以上に役に立たない。

 実際の所は木の葉隠れと音隠れの合同チームと言う結構な人数の、しかもかなりの手練れを相手にほぼ1人でここまでやりあえる者はそうそういない。

 さすがは「暁」の一員、という所なのであるが。

 とはいえ、これ以上トビの()()を邪魔させる訳にもいかない。

 トビの手駒達もそれぞれの役割を果たしている以上、大元のトビが監視しているデイダラに好き勝手をさせる訳にもいかない。

 そう、トビは不安要素であるデイダラを見張る為に2人1組(ツーマンセル)の片割れとしてデイダラに付き従っているのだ。

“そろそろ、デイダラ先輩にも退場してもらうべきかもしれん…”

 トビはデイダラに知られたら爆殺確実な、物騒な事を考えつつ、これからどうするか、を企んでいた。

 

「兄さん、これからどうする?」

 いつもの如く、無表情に、コテンと首を横に傾けながら「聖杯」のイリヤがトビに尋ねる。

 トビは、表情が見えるのであればかなり意地の悪い顔をしているであろう口調で、

「君はもうちょっと『触媒』にチャクラを込めててね。

 出来るだけ強力な『使徒』を召喚したいからねえ。

 デイダラ先輩はまあ、ほっといて良いよ。

 あの人はすでに計画の『障害』にしかすぎない。

 ちょっと『仕込み』をしてるからさあ」

 そう言った。

「そう、もう少し話をしていたかったけれど、残念」

 イリヤは珍しくもデイダラを気に掛けている様子だ。

 無表情だが。

「あれ、デイダラ先輩気に入っちゃった? 兄さんよりも?」

 トビは冗談なのであろうが、瞳を潤ませて手を組み、イリヤに詰め寄る。

「彼の爆破への情熱と発想は興味深かった。

 でも…」

「でも、なんだい?」

「兄さんの内包する『闇』の方がより気になる、だから大丈夫」

 その言葉に、トビの動きが止まる。

 その間にイリヤはトビの前から消えうせた。

 また、「聖杯の八使徒」の触媒に、尾獣からのチャクラを注ぎに行ったのであろう。

 トビは暫しその場に佇んでいた。

「…どういう事だ?

 アレは(ただ)の人形、人格を消し去った上にオレにとって都合のいい人格を植えつけた人形に過ぎない、はずだ。

 それがなぜ?

 …いや、気にする必要はないはずだ。

 今のだってあくまで『兄を心配する妹』の薄っぺらい演技に過ぎない、はずだ」

 トビは頭を振り、計画の支障となりかねない考えを頭の隅に追いやった。

 やるべきことをやってから考える事にし、トビはふい、と姿を消した。

 これから根回しが必要になる。

「さて、丁度木の葉の連中がサスケを探し回ってるからな、奴らと先輩をぶつけてみようか。

 うまく行けば、双方共倒れになってくれそうだしな」

 トビは仄暗い笑みを仮面の下で浮かべていた。

 

 

 

 その頃、うちはイタチはうずまきナルトに出会い、別れ、そして実の弟たるうちはサスケと邂逅し、うちはのアジトの1つまで来るよう告げて去っていた。

 イタチは珍しくも微笑んでいた。

 サスケの成長を感じる事が出来た。

 少なくとも体術の面ではサスケは僅かながらイタチを超えていた。

 その成長が嬉しかった。

 そしてうずまきナルト。

 彼はこちらの事情を何も知らない、だからこそ。

『少なくともお前なんかより…

 あいつ(サスケ)の事を()()だと思ってるからだ!!』

 言ってくれるものだ。

 だが、だからこそ。

 木の葉隠れの里においていまだサスケの味方である者がいてくれる。

 それが嬉しくてならない。

 サスケの性格をイタチはよく知っている。

 サスケを心配して、イタチはしばしば危険を冒して木の葉隠れの里に潜入していた。

 無論、これにはダンゾウの手引もあったのだが。

 イタチはダンゾウとパイプを持っていた。

 それを使ってである。

 無論、タダではない。

 ダンゾウと様々な取引をして、である。

 それでもそれだけの価値はあったのだ。

 サスケはあの一件以来、復讐にまい進しようとするあまり、周囲の事が見えず、その修行も独学でのものであり効率は良くなかった。

 それでも強くなれていたのは一重にサスケの才能ゆえであろう。

 そのままではまずかろう、そうイタチには見えていたのだが。

 まず、忍術学校を卒業してから、担当上忍がはたけカカシであった事が幸いした。

 カカシの戦い方はサスケにいい刺激になったようだ。

 また、カカシもサスケを可愛がり、己の秘技である「千鳥」を授けてくれた。

 同期のうずまきナルトと春野サクラも同様だ。

 こと、ナルトはサスケをライバル認定し、事あるごとに突っかかっていった。

 これがサスケにとって良いコミュニケーションになっていた様子がある。

 このままいけば、イタチにとって最良の結果になっていただろう。

 問題はこの後、だ。

 事もあろうにサスケが木の葉隠れの里を逐電し、大蛇丸率いる音隠れの里に所属してしまったからだ。

 おかげで一時期彼の情報が手に入らず、イタチは歯がゆい思いをしたものだ。

 まあそれも、サスケが定期的に「空区」に出入りしている事を知り、猫バアに情報を流してもらうようになったため少しは落ち着いたのだが。

 そして、成長したサスケを見て、イタチは安堵した。

 これでオレは「終わる」事が出来る。

 イタチはまだ21歳だと言うのに生に()んでいた。

 これはその人生においてあまりにも戦場へ身を置きすぎたために起きた一種の戦場神経症、とでもいうのだろうか。

 イタチは8歳で既に戦場働きを経験している。

 まだ心が出来あがっているとは言えない年齢での戦場の体験は彼の人格に大きな傷を残した可能性が高い。

 その彼が執着したものが弟たるサスケなのだろう。

 サスケの役に立つ形で己の生を終わらせたい、彼はそう考えていた。

 その彼にとって、サスケを気に掛けてくれるナルトという存在は、福音でもあったのだろう。

 イタチは微笑む。

 サスケが己の前に現れるのを。 

 

 

 

 木の葉 赤提灯、または小さな恋のお世話特厄迷惑

 

 そろそろ夕方、と言える時間帯であろう。

 木の葉隠れの里の繁華街、から一歩外れた辺り。

 安いが質の良い酒と素材は大したことはないが調理法で食わせるつまみを提供する、いわゆる大衆酒場のある一角だ。

 その中でもまあまあ旨いと評判の屋台。

 そろそろ客も増えてきて、そこここに出陣! とばかりに酔っ払い予備軍共が意気揚々としている、そんな場所。

 そこで。

「ップッハぁ~ッ!」

 一升瓶からグイッと直飲み喇叭(らっぱ)飲みでまずは一杯、とばかりになんとも(おとこ)らしい飲み方を披露しているのは、大輪のバラも斯くや、という美貌の現火影・千手綱手。

「お前…もう少し自分の言葉に責任を持った方が良いぞ。

 仮にも火影なんだしのォ」

 それを呆れたように見ているのは忍界にも名高き「伝説の三忍」が1人、自来也であった。

 

 しばし前。

 火影の執政室に入ってきた自来也は開口一番、

「『暁』のリーダーの場所を掴んだぞ」

 と、綱手と秘書のシズネの前で言った。

 驚き、自来也からの情報を急かす2人。

 自来也は綱手と2人で一杯やりながら話そう、との提案をした。

 その言葉に綱手が、

「馬鹿! ワタシは火影だぞ!

 昼間っから酒とはなんだ!

 任務中の忍達に申し訳ないとは思わないのか!?」

 と激昂。

 そして今の有り様となる。

 

 ああ飲みたかっただけなのね。

 自来也は内心で呆れつつ、雨隠れの里に「暁」の首領と目されるペインがいる可能性が高い事、雨隠れの里ではずいぶん前から内紛が続いており、その一方の頭目がペインである可能性がある事、情報の真偽をただすために自分がまず雨隠れの里の潜入する事を綱手に伝えた。

「1人じゃ危険すぎる!」

 そう言い募る綱手に、

「…そこで、だ。

 綱手よ、茶釜ブンブクを借りたいんだがのォ…」

 自来也はそう切り出した。

「!? なぜ、ブンブク、なんだ?」

 綱手は疑問を感じた。

 確かにブンブクは色々と「便利」な忍だ。

 様々な任務をそつなくこなし、その万能さは上忍達にも匹敵するだろう。

 ブンブクは自分の技量やチャクラが上忍達に比べて足りていないことを自覚しており、それを埋めるために様々な工夫を凝らしている。

 綱手からしてみれば昨今のチャクラ至上の忍にはない使い勝手があるのだった。

 かつて正体不明で名をはせた「名張の四貫目」の如く、こと忍に対する隠密性を考えると非常に強力なのである。

 とはいえ、今回の任務は高い戦闘技術を持った相手との戦闘がある可能性が高い。

 有能ではあるものの、戦闘に置いて必ずしも優秀ではないブンブクを連れていくメリットとデメリットを考えると、

「むしろガイやカカシを連れていった方が良いんじゃないのかい?」

 経験豊富な上忍をサポートに付けるべきでは、そう綱手は思う。

 しかし、

「…そいつは実際に状況が確定した時にするべきだのォ。

 実際に戦いとなれば、カカシやガイはこちらの切り札になる戦力だからのォ。

 むしろ今回に関しては『逃げ足』の方が重要だな」

 逃げ足か。

 確かにブンブクは、逃げ足に関して言えばこの里のどの忍よりも優秀であると言えよう。

 今まで超人ともいえる上忍達と対峙して、生き残ってきた事はその生存能力の高さを示していると言える。

 だが、

「それだけじゃないんだろう?

 自来也、ブンブクの何を知った?

 お前が連れていく必要がある、そう思った根拠はなんだい?」 

 上忍の中にはブンブクに匹敵しうる生存能力を持つ者もいる。

 それを差し置いて未だ()()()()()下忍の立場であるブンブクを重用する意味を、綱手は測りかねていた。

「…やっぱりごまかしきれんか。

 綱手よ、ブンブクには異常な部分がある。

 それをはっきりとさせん事にはお前の傍に置いとく訳にはいかんのだのォ。

 人格的には、ちっと忍に向かん所もあるが、少なくとも今の若い世代と一緒なら問題はなかろうと思っとる。

 だがの、ワシだからこそ気づけた事もあってのォ。

 それがどうも引っかかるんだのォ」

「何だそれは…」

「それは…」

 

 自来也から話を聞かされた綱手は眉を顰めていた。

「それは本当かい?」

「間違いないのォ。

 とは言え、これが本当に『ブンブクが里に仇なす』可能性かというと違うしのォ」

「まあそうだね。

 あの子は里の皆が大好きだからねえ」

「ワシはこの任務の間にそれを見切るつもりだ」

「でもね、それならワタシだけじゃなく…」

「分かっとるのォ。

 とうの昔にダンゾウ殿()には話しをつけておるわい」

「へえぇ、 …ん? ダンゾウ『殿』?」

 にやりと笑う自来也。

「ふん、お主らだけで分かった振りをしおってからに、お前とダンゾウ殿の関係はお見通しだってのォ。

 一体何を企んどるか聞かせる気はないんかのォ?」

 綱手はため息をつき、頭をがりがりとひっかくと、

「…いつからだい?

 アンタは里にいなかったろうに、そこまで分かり易かったかねえ?」

「そりゃ、陰険漫才しながらも、そこにある空気、ちゅうかのォ、それが先生と居た時の感じにそっくりだったからのォ」

 あいたぁ。

 綱手は頭を抱えた。

 他の者はともかく、自来也は誤魔化せなかったようだ。

「それで、ダンゾウ殿に確認を取った、という訳だのォ」

 なるほど、外堀は埋めてある、と。

「そう言う訳で、『介入者』に関してはワシもこっち側だからのォ、心配する事はないぞ」

 綱手は実の所安堵していた。

 己の盟友である自来也にすら隠していた内容であるからだ。

 もうそれを隠す必要がない、それは自来也との友誼に反する必要がなくなったと言う事でもある。

 そして、綱手はやっと自来也に正直になれた。

「…自来也」

「何だのォ?」

「悪いな…、いつもそんな役回りを押しつけて」

 綱手は心の中に溜まっていた者を、自来也に吐き出した。

 

 うげぇ~

 自来也に己の心情を吐き出せるだけ吐き出した綱手はテンションが跳ね上がった。

 そして、まあ飲むわ飲むわ。

 清酒に濁り酒、ワインにビールにウィスキー、バーボンテキーラ焼酎マッコリ、終いにはスピリタスをカルーアミルクと泡盛で割って飲む始末。

 結果として、妙齢の女性が見せてはいけない醜態を晒している訳であった。

 介抱する自来也は苦笑いをしつつ、

「お前ワシより酒癖悪いのォ…。

 少し近くで休むか」

 そう言うと肩を貸し、近くの公園のベンチまで綱手を連れていった。

 

 

 

「ちょっと、どう? 聞こえる?」

「ちょっと待って下さいね、暗部の人たちすり抜けて盗聴するのって大変なんですから」

「これは里の一大事に直結するんですよ! 頑張ってください」

「ブヒッ」

 公園の端っこで何やらグダグダやってる集団があった。

 茶釜ブンブク、みたらしアンコ、シズネにトントンである。

 アンコがシズネに自来也がどこに行ったか、と尋ねたのが始まり。

 2人で出かけたと聞いて耳まで裂けそうな笑みを浮かべたアンコが「とうとう自来也様が綱手様に告白をっ」とか抜かしてシズネと一緒に暴走し、トントンとブンブクを巻き添えにして2人を探し回り、やっと見つけたのが此の夕方の公園であったのだ。

 公園デートって、学生さんじゃないんだしさすがに無いんじゃないかなあ、というブンブクの意見は封殺され、何を話しているかを盗聴せいとの命令に、ブンブクは従うしかなかったのである。

 さすがに結婚適齢期がどうの、というのはアンコとシズネに言い出しかねるブンブク。

 トントンがブンブクの肩をポン、と叩き、1人と1匹は苦笑いをした。

 とは言え、伝説の三忍の内2人の会話、となると機密事項も混じる話であるし、本来ブンブクやアンコが聞いて良い話ではない。

 どうしたもんかと悩んでいた所、

「大丈夫、話しはついてる」

「こちらも問題ない」

「人避けの結界は準備万端だ!」

「誰にも踏み込ませるなよ!」

「了解だ、任せろ」

「…何しとんですか皆さん」

 周囲から1人2人と面をつけた上忍、つまりは暗部の精鋭達が現れた。

「決まっているだろう、ここの人払いだ」

「そういうことだ。

 綱手様の幸せが我らの幸せに通じる、だろう?」

「は、はいっ! そうですね」

 暗部の者たちの言い分に妙に乗り気なのはシズネ。

 暗部の中でも年嵩な者達は、自来也と綱手の関係にやきもきしていたところだった。

 綱手はかつて意中の男性を戦の最中に失って以来、恋愛をしなかったようだ。

 で、それに猛烈なアプローチをしていたのが自来也。

 暗部の者たちの見解でも、綱手と釣り合うのは自来也しかいない、となっているようで暗部の者達で「綱手様の結婚を後押しし隊」が結成されるほど。

 無論、ここにいるメンツの全員がその部隊の隊員である。

 そして…、そのなかの適齢の男性によって「シズネさんを嫁にし隊」も結成されていたりする。

 忍は上忍、暗部となるほどその任務は激務であり、結婚年齢が高くなる傾向がある。

 しかも上忍になるくノ一はどうしても少なく、職場間の出会いがまあ非常に少ない。

 月光ハヤテと卯月夕顔の例などはそれこそ例外中の例外なのだ。

 そして忍として脂ののっている年齢の男たちのあこがれ、それがシズネである。

 今、シズネは綱手の秘書として忙しく働いている。

 このままではシズネにお付き合いすら申し込めない!

 それで良いのか男として!

 …そういうなんと言おうか「下世話」な理由もあったりはするものの、大体において綱手の幸せを祈る者達がここぞとばかりに後押しをしている訳である。

 シズネはシズネでこのまま綱手が未婚でいるのは自身の結婚に大きな影響を与えるかねない、というか与えているのがはっきりしているので、ここはこの波に乗るべき、などと考えている。

 …周囲にいっぱいいるんだけどね。

 それはさておき、ブンブクお得意の「金遁・千里鏡」による盗聴によって聞こえてきた声。

『生きて、帰って来い。

 お前にまで死なれたら、…ワタシは』

「お、おおおおおぉぉぉぉっ!!」

 愁嘆場、という音声であった。

 1人げんなりした顔のブンブク、いや、トントンもそうか。

『じゃあお得意の賭け(ギャンブル)といこう…。

 お前はワシの死ぬ方に賭けろ。

 お前の賭けは必ず外れるからのォ』

『そん代わり、ワシが生きて帰って来た時は…』

「おおおおぉぉぉっ、自来也さま、(おとこ)だぜえっ!」

『なっ…』

『…ゲハハッ、冗談だ冗談!』

「ふざけんなあっっ!!」

 地団太を踏む暗部の男達。

「…トントンくん、これどう思う?」

「ブヒッ(だめだろ)」

 暗部の者達、そしてアンコとシズネが自来也の事をけちょんけちょんに()()ろしている間に、話しあいは終わったようだ。

『さて、もう行くかのォ』

 自来也が立ち上がった。

『おお、そうだ。

 最後に一つ…』

 

「お前ら、タダで済むとは思っとらんだろうのォ…」

 

 散々に自来也を()()ろしていた面子の動きがピタリと止まった。

 その後ろにいたのは、

 

 引きつった笑いを浮かべ、その手の指をゴキゴキと鳴らす自来也。

 般若の笑みを浮かべ、「フシュル~」と呼気を吐き出しつつ腕をぐるんぐるんと回している綱手だった。

 

 なお、しばらく暗部の一部が使い物にならなくなったのは言うまでもない。

 

 

 

 ブンブク

 

 危なく首とか捻じ切られる所でした。

「伝説の三忍」。

 あれほどのものだったなんて思いませんでしたよ。

 特に綱手さま。

 呪印状態2になったアンコさんを片手で叩きのめすとか、シズネさんがあんな高々と「高い高い」されるなんて…。

 火影の名前は伊達じゃないですよ。

 とっとと逃げだしたから良かったものの、あのまんまいたら僕も病院送りでしたね、ええ。

 結局あの場でスクラップにされなかったのはいち早く逃げだした僕とトントンくん、呪印の影響でやたらめったら頑丈になっていたアンコさんだけでしたね。

 まあその僕とトントンくんも後々しっかり怒られてお説教を受けた訳ですが。

 なんて言うか、不満です。

 僕とトントンくんは巻きこまれただけだってのに。

 僕らには拒否権がなかったのですよ。

 いわゆる「カルネアデスの板」ってやつです。

 …なんか違う。

 それはさておき、僕も出かける準備をしなくては。

 とは言え、自来也さまの伝手で回ってきた器材を纏めるだけなんだけどね。

 これはあっさり終わっちゃって、後は保存食を作るくらいなんだけど、昨日の時点でもう始めているからこれもそう時間をかけずにまとめる事が出来ちゃう。

 一通り終わってちょっと気を抜く時間が出来ました。

 …なんもする事がない。

 ホントだったら、うちに帰ってのんびりしたいところなんだけど、今の僕って対外的に死んだ事にしておいた方が都合が良いんだよね。

 そういう訳であんまり知り合いとか、家族とかに会う訳にいかないのが現状。

 ホントにどうしようか。

 あ。

 うちは兄ちゃんの「うちはイタチ攻略ノート」持って来てたんだっけ。

 これも一応確認しとこうかな。

 そう思って読み解いていった時です。

 …これは。

 むう、これ、報告しておいた方が良いみたいだ。

 僕は準省エネモードに変化して、僕の上司であるダンゾウさまの元へと急いだ。

 

 

 

 ダンゾウはその時、自室で「根」の事務作業を油女トルネと共に行っているところであった。

“ダンゾウ様”

 外で警備についていた山中フーからの連絡があった。

“どうした?”

“ブンブクが面会を求めております。

 気になる情報を得た、との事です”

 ダンゾウは暫し考慮し、

“通せ”

 そうフーに告げた。

 

 

 

 僕はダンゾウ様のお宅にお邪魔していました。

 フーさんが僕を中に通すと、丁度ダンゾウさまの書斎ではトルネさんとダンゾウさまが事務作業の真っ最中であったようでした。

 僕はダンゾウ様に頭を垂れようと…。

「無用だ。

 報告を」

 して、ダンゾウ様に止められました。

 さっさと情報を出せ、との事ですね。

 では。

「はい。

 今日持って来たのはこれです」

 僕は先ほどまで読んでいた、うちはイタチさんの攻略ノートをダンゾウ様に差し出しました。

「これは?」

「は。

 これは3年ほど前に、う、うちはサスケさんが里抜けする前、僕と一緒に作っていた『うちはイタチ』さんと戦う際に必要と思われる情報を書き出したノートです。

 これは音隠れの里の崩壊した施設より掘り出したものです。

 これで見るべきは、その栞を挟んだ所なのですが…」

 僕がそういうと、ダンゾウさまはそのページを開いた。

 ダンゾウさまは暫しそのページを眺めると、

「このページに可笑(おか)しな所がある、そういうのだな?」

 そう言った。

 そう、そのページにはおかしな所があった。

「そのページは僕が書いたものです。

 しかし、僕の記憶にない情報が書き込まれていたのです」

 ダンゾウさまは更にじっくりとそのページを見ていました。

 そして、

「…万華鏡写輪眼、か」

 はい、そうです。

 僕は当時、万華鏡写輪眼の事は知りませんでした。

 それなのにも関わらず、その文字は僕のものそっくりな筆跡で書かれているのです。

 つまりは、

「誰かがここにお前の字を真似て、お前の知らぬ情報を書き込んだ、という訳か。

 ふむ、確かに、疑ってかかればこの文字配置は可笑しい…。

 それに、万華鏡写輪眼についての記述、里の文献を漁った程度ではここまでの情報は出てくるまい。

 そもそも万華鏡写輪眼はうちはの秘儀中の秘儀だ。

 あの当時お前が調べられる程度の情報の中には触れられもせんであろうて」

 ダンゾウさまはそう言い切った。

 …やれやれ、どうやら僕の予想は悪い方向で当たったみたいだ。

 万華鏡写輪眼は「最も親しい者の死」によって開眼すると書かれてあった。

 ということは、だ。

「ふん、どうやらこれを書いた相手は、お前をサスケに殺させる事で『万華鏡写輪眼』を開眼させる計画を立てておったのだな」

 そういう事なんでしょうね。

 さて、これがどこから仕組まれていたのか。

「ブンブク、お前が音隠れに入ってから組まれていたのか、それとも…」

 大蛇丸さんが僕を音隠れに寄越すように誘導した誰かが居たかも、ってことですか?

 そこまでだと、かなり迂遠な方法をとらないと大蛇丸さん気付いたと思いますよ。

 でも、

「少なくとも、サスケを動かすためにブンブク、お前を利用する、そう言った回りくどいが気付かれにくい方法をとる輩がサスケの近くにいる、という事だ。

 …『介入者』のやり方に近似しているようだな」

 ダンゾウさまは、もし介入者なんぞという者がいるのであれば、直接介入ではなく、遠間からかなり回りくどい方法で手を打ち、気付かれずに世界を動かすだろう、と考えておられます。

 そのやり方に近いと感じられているのですね。

 確かに本来ならばこのノートは戦いの最中に消えている者だし、僕が死んでいれば万一見つかっても誰も違和感を持たなかったでしょうしね。

「ブンブクよ」

「はっ!」

 僕は片膝をつき、ダンゾウさまの命を待った。

「自来也に付き、『暁』の動向を探れ。

 もし『介入者』がいるのなら、奴らにも必ずその痕跡があるはずだ。

 それを探れ。

 そして」

 ダンゾウさまはそこで一呼吸置き、

「必ず戻れ。

 いいな」

 そう言った。

 僕は深く頷き、そしてその場を辞した。

 自分の所の長にそんだけ言わせるんだから、意地でも帰んないとね。

 僕は気合を入れ直し、自来也さまと合流すべく木の葉隠れの門まで急いだ。




次回は大体1週間後。
そろそろ自来也+ブンブク対ペインが近づいてきています。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。