ブンブク
やれやれ、どうしたもんでしょう。
頭の痛い事です。
いやね、しばらく前に「暁」っていう組織が雨隠れに在ったって話したじゃないですか。
どうやらビンゴだったようなんですよ。
それに合わせて自来也さまの様子が急激におかしくなってます。
まあ、絶対に不調を表に出すような人じゃないんですけどね。
僕だってそう疑ってかからないと奇妙なとこなんて見つけられない位しっかり隠してらっしゃいます。
だからこそ心配なんですが。
うずまき兄ちゃんだとまだまだそこいら辺の心の機微とか気がついたとしてもどうしていいのか分かんないだろうし、出来れば綱手さまが来てくれると良いんですけど。
元々
とにかく、少しでも情報を集めて自来也さまの判断材料を増やしておかないと、自来也さまがミスする事はないとしても、僕らが自来也さまの足を引っ張る事はありそうですからね。
そう言う訳で、
「今回、情報収集任務の臨時班を率いる事になった日向ネジだ。
よろしく頼む」
しばらく前に上忍に昇格したネジさんと、
「ご存じとは思いますが、ボクの名前はドス・キヌタと言います。
よろしくお願いします」
丁寧な紹介をしてくれるキヌタさん、
「…童多由也だ」
ぶっきらぼうなのは多由也さん、
「どうもっす、口寄せ動物の安部見加茂之輔、カモって呼んでくださいっす!」
僕の口寄せした化けオコジョのカモくん、で、
「十兵衛だ」
現在、大体180cm位の仮面の忍者に化けている僕、茶釜ブンブクなのでした。
「ぶふっ!」
噴出したのは多由也さん。
あ、ちょっとひどくないですか?
ネジさんも真面目な顔の口元が波打ってますよ!
ちょっと、キヌタさんその残念なモノを見る目はよしましょう!
「いや、だってね、その『渋い』おじさんの中身がブンブク君だと思うと、ね」
今、僕は20代後半の渋めの男性、の傀儡の中に準省エネモードで入っています。
感じとしては忍者型ロボを操縦する感じで。
「それはしょうがないっすよ、アニキぃ」
カモくんまで。
直接文句を言う為に、僕は外に顔を出します。
これの操縦席と言うべきモノは頭部の中に入っています。
僕が傀儡を操作すると、頭部が縦に2つに割れて、外界が見えました。
「皆さん、いくらなんでも笑いすぎ…、ってなんでそんな顔してるんです?」
皆さんなんですかその引いた顔は。
「いや、うむ、いきなり人の頭が真っ二つになっていくのを見るというのは、な」
あ、そういう事ですか、ネジさん。
「ブンブク、きめえ」
バッサリ切る多由也さん。
「はあ…、良いですから、さっさと姿を隠して下さい。
わざわざ変装してるんですから」
…そう、僕は一般には消息不明、一部には死んだ事になってますんで。
そう言う訳でしばらくこの姿で情報収集をする事になります。
この傀儡は顔の部分が取り換えられますし、ある程度であれば身長も変えられます。
情報収集にはうってつけなのですよ。
問題はネジさんはともかく、キヌタさん、多由也さんに情報収集が出来るかってことなんですが。
それに関しては、
「キヌタと多由也に関しては、情報収集の実習でもある。
ついでに言えば、オレの教育担当上忍としての適性を調査するものでもある。
お前の場合、キヌタと多由也に諜報活動のイロハを教えるのも任務の内だ」
了解です。
「今回の任務は、『暁』の情報を得る為の聞き取りがメインです。
もちろん正直に暁について聞いて回っても無駄です。
キヌタさんと多由也さんのお2方には今までに習った情報収集の技術をおさらいすするつもりでやってみてください。
で、多分これが本番なんですが、お2人と僕が聞き取りをやっているところで、『暁』関係の人たちが僕らを
正直言いまして、結構危険な任務ですし、どちらかというと外道働きの側面も強いお仕事です。
お2人なら大丈夫だと思いますが、心してかかって下さい」
僕は何故か監督官的な立ち位置に置かれていました。
それって本来はネジさんのやる役回りなんですけど、ネジさんも「担当上忍」の実習みたいなものなのだそうで、そのしわ寄せが普段雑用をやってる僕の所に来たという事でしょうか。
まあ良いんですけどね。
僕たちはちょっと大きめの宿場町に移動しました。
ここは前に「鬼子母一族」の生き残りの方々を見つけた所に程近い街です。
ここで情報収集をします。
なんでかってとかつて雨隠れの里にいた鬼子母一族の人たちが何か証拠になりそうなことを話していないか、何か残していないかっていうと、ここが一番当てになりそうだ、という事からなんです。
あとは、ね。
…情報収集に皆が散ってから、大体2時間ほど。
そろそろ胡散臭げな動きをする人たちがちらほらと。
さすが元・音の四人衆と謳われた多由也さんは何人かに気付いている様子。
キヌタさんは音を扱う能力が高く、どうやら変な緊張をしている人には気付いてますね。
ネジさんは論じるまでもなく全員に気付いてます。
…というか、僕はネジさんの様子を注視してたので、手練れの人たちに気付けたんですけどね。
でその人たちが無意識に注目しているあたりに一番腕の立つ人がいる、と。
もの凄い隠業の術ですが、配下の人たちへの心配りは駄目っぽいです。
失敗したらどうしよう、故に上司の顔色をいちいち窺ってるって感じですね。
さて、ネジさんの作戦通り、うまくやることとしましょう。
僕たちは建物の影で情報を交換し合いました。
というより、僕がキヌタさんと多由也さんからの報告を受けてそのやり方を採点する、という感じです。
2人とも問題なく、というか今までの経験からするとかなりうまくやっているみたいです。
少なくとも鬼童丸さんや左近さんたちよりは大分ましな感じ。
あの人たちは忍としては戦闘に特化してるんで、その他の方面は若干不得意なんですよね、戦闘時はシャレになんない強さを発揮するんですが。
さて作戦開始です。
僕の役回りは「この班の担当上忍」です。
一番命を狙われやすい立ち位置な訳です。
敵の司令塔からの襲撃の命令を出しやすいような、身内の3人からは見えにくく、ポジション的に相手からは攻撃を受けやすい位置に僕は移動しました。
さあ襲って来いって感じで。
向こうはどう出るかな?
僕を捕まえて情報を入手するか、それとも僕を殺してかれ下忍を捕えてにするのか。
どっちで来るか、と思った瞬間です!
何かが飛来してきます。
直感に従って避けると、僕の立っていたあたりに10本近くのクナイが突き刺さっています。
更にクナイが飛翔してきます!
地面を転がるように避けて、近くの木陰に隠れます。
ま、これも向こうの誘導でしょうが。
一息つく間もなく、頭上から配下の中忍らしき人が忍刀をもって襲撃してきます。
更にそれを回避して、僕は林の中に逃げ込みます。
“カモくん、ネジさんに『作戦通り』って伝えて”
“了解っすよ、アニキ”
相手の思惑通りに。
そしてネジさんの思惑通りに。
雨隠れの外部実働部隊を取りまとめる上忍は、余裕をもって十兵衛(ブンブク)を追い詰めていた。
現在の雨隠れの里の忍びの内、里の外に出て活動できる人間は限られている。
それを彼は雨隠れの長からの信頼の証、と考えていた。
里の外で活動する事は、同時に外部への情報の漏えいの可能性を意味する。
彼らの長は先代も今代も、外への情報漏えいを事の他嫌っていた。
まあ今代に関しては、先代の情報統制を継承することで先代である「山椒魚の半蔵」が未だ政権を押さえているのだと周囲に錯覚させる為であると推測が出来る。
中忍達は元々里の外にて修行をさせ、里の事は何も知らない状態としてある。
彼らは雨隠れの所属である事すら知らないのだ。
正式に雨隠れの里所属であるのは自分だけ。
それが彼に強烈な
長から信頼を得ている、それは神からの信頼を得るのに等しい。
強烈な恍惚感を感じつつも、その信頼にこたえる為に十兵衛を捕えんとする上忍。
林の中には罠を張る準備が整えられ、上忍の指示で十兵衛を捕縛する結界術が発動し、その身を封じる。
後は密かにその身を雨隠れの里の長に届けるだけ。
いざとなれば生きてさえいれば良い。
どれだけの状態になろうと、長なれば確実にこ奴の背後を突きとめるであろうからだ。
あの正体不明の「山椒魚の半蔵」ですら我らが長の追及を逃れる事が出来なかった。
この程度の木っ端なぞ赤子の手を捻るよりも容易かろう。
そう思いながら、十兵衛を封印術の発動範囲に追い詰めた。
ここだ!
上忍は術の発動を手下の中忍に指示すべく手をあげ、
地面に倒れ込んだ。
一体自分に何が起きた!?
立ち上がろうとするが体がふらついて立ち上がる事が出来ない。
周囲では上忍配下の中忍と、標的の配下であろう忍が戦っていた。
時は若干戻る。
林の中で結界術を発動するために配備された雨隠れの中忍達。
その動きは事前にブンブクからの情報が口寄せ動物であるカモ経由で木の葉隠れ陣営には伝えられており、更には日向ネジの「白眼」によって完全に把握されていた。
木影にて隠業をし、中忍達の意識外にいるネジは、手招きでドス・キヌタに指示を出した。
キヌタの左の指がその右腕に付いた籠手型の忍具を弾く。
その中は中空となっており、本来ならば指で弾いたその音を増幅、とてつもない音量にはね上げるものであるが、音はしない。
いや、聞こえない。
キヌタの発生させた音は可聴帯域外の高音。
人の耳では聞く事のできない音である。
とは言え、音は音、空気を振動させるものには違いない。
そして、キヌタはその音を
キヌタの血継限界である「響遁」は、音の波を操る特殊な忍術である。
その響遁の術を以って、キヌタは籠手の中に発生させた高周波に、極度に高い指向性を持たせ、それを敵上忍の耳に向かって
人間の可聴域にないとはいえ、とてつもない音量の音が彼の耳を叩き、三半規管を大きく揺らした。
言ってしまえば上忍は頭を掴まれて思いきりシェイクされたような状態になってしまったのだ。
「響遁・集束響鳴穿」の術である。
なまじ訓練をされているだけに、三半規管への不意の攻撃は上忍にとって完全な不意打ちとなり、短期間ではあるが立ち上がる事が出来なくなった。
そして、ここで雨隠れの里の忍の弱点が露呈した。
余りにも上司に対する忠誠を植えつけてしまった為、命令が途切れた時、その動きが一瞬ではあるが止まるのだ。
上司である上忍が倒れ込んだ時、中忍達はその後の判断を仰ぐ為、彼を一瞬注視した。
その一瞬に、ネジ、キヌタ、多由也が襲いかかったのである。
ネジと対峙した中忍は実に気の毒であった。
たった1合。
ネジの奥義である「八卦掌・回天」を使わせる事無く、クナイを持った手首を軽く払われ、眉間を二本貫手で軽く撃ち抜かれて昏倒してしまったのだ。
余りにも大きな実力差であった。
多由也の相手はそれよりはましである。
多少の戦いにはなったのだから。
そもそも多由也はその得物である魔笛を使った幻術以外の戦い方を知らなかった。
しかし、木の葉隠れの里での訓練を通じて体術、忍術も並みの中忍以上の実力を持つに至った。
今手を合わせている中忍レベルでは多由也を捉える事は難しいであろう。
多由也は相手の攻撃をかわしつつ、その唇から口笛のような音を流していた。
多由也は音を使った幻術のエキスパートだ。
彼女に襲いかかっていた中忍は、ある時ぴたりと動きを止めてしまう。
完全に多由也の幻術に掛かった中忍は、己の心の迷宮に閉じ込められ、自律的な行動を封じられてしまっていた。
キヌタを切りつけた相手は呆然としていた。
切りつけたクナイがキヌタの持つ忍刀とぶつかると、甲高い音を立てて切断されてしまったからである。
キヌタの籠手からの振動が義手である右手を通じてチャクラ刀である忍刀に伝わり、その振動が忍刀に尋常でない切断力を持たせていた。
キヌタの血継限界忍術である「高周波振動剣」である。
キヌタは通常の忍術を未だ十全に使えるとは言い難い。
キヌタの右手は義手であるが、ブンブクからの技術供与もあって傀儡操術を応用したチャクラによる右腕への神経バイパスを訓練しているものの、忍術の印を高速で組む所までは行きかねている。
その代わり、響遁を使いこなす事に関しては血のにじむ努力の結果、様々な応用が出来るようになっていた。
超振動剣もそうであるし、集束響鳴穿もそうだ。
そして当然のことながら…。
中忍が振り下ろしたもう片方のクナイは見事にキヌタの右腕を捉えた。
キイン! という音と共に弾かれてしまいはするものの。
その音は右手の籠手に反響しそして、
キヌタの右の拳がそっと中忍の脇腹に添えられ、
轟ッ!!
とてつもない音が中忍の体の中
本来音は空気中に拡散するのが常だ。
それが空気中に洩れずにその振動が体の中だけに残ったなら。
…全身を程よくシェイクされた中忍が地面に倒れ伏した。
やっと立ち上がった上忍の周りには既に味方はいなかった。
相手方の中忍達が上忍に迫ってくる。
任務失敗を上忍は認めざるを得なかった。
しかし、せめて相手方の上忍、十兵衛とやらは確実に仕留めておく。
彼は己の使える地から全てを集約すると、十兵衛とやらの背後に一気に回りこんだ。
この「瞬身」に対応できる忍びはほとんどいないと言って良い程の見事な体術。
そして彼は十兵衛の背中から胸板まで一気にその忍刀で貫き、そのまま「瞬身」を以ってこの場から離だ…………。
雨隠れの上忍は処分されることを覚悟で己の里の長、その名代である「天使」の前に額づいていた。
「今回の事は不問と致しましょう。
神はアナタに期待をしております」
上忍はその言葉に打ち震える。
「おお、おおおぉ! なんと慈悲深きお言葉…」
そして長に対する忠誠心を高める上忍であった。
「よいですか、『神』が降臨なされます。
心してお迎えなさい」
天使が神の降臨を告げる。
己の忠誠心に神が答えて下さったのか。
上忍の額づくその先に、圧倒的な存在感の何かが現れた。
そう、それこそがこの雨隠れの里の指導者、「神」たる、
「おお、おおお! 我らが神、『ペイン』よ…」
彼は多幸感に包まれ、そして…………。
「おお、おおお! 我らが神、『ペイン』よ…」
はい、言質取れました。
固まった粘土みたいなものに包まれて、襲撃犯のリーダーさんはえらいうっとりした顔でそう言いました。
みなさん嫌なモノを見た、って感じの顔をしてます。
…僕としては妙にいらりとする気分です。
なんて言うんだろうか。
こう「考える事を放棄した」様に見えるんですよね。
自分で考えるのをやめて、偉い人に思考と責任全部押し付けて、っていう。
これが自分でしっかり考えた結果として上役に自分の力を任せるっていうのはありだと思うんですよ。
最近はサイさんも自分で考えてうずまき兄ちゃんの傍にいるようですしね。
まあそれはともかく。
彼が僕、というよりは僕が使っていた絡操傀儡を彼がざっくりと忍刀で貫いた訳ですが、傀儡ですからね、僕には何のダメージにもなりません。
で、その胴体部分にはチャクラに反応してその対象に絡みつき、そして硬化するゲル状の忍具が入っていたんです。
それでリーダーさんを拘束、後はネジさんの柔拳でチャクラを分断して昏倒させた、と。
今リーダーさんが陥っているのは多由也さんの幻術です。
多由也さんの魔笛の音をキヌタさんの響遁で増幅集束化して、周囲に音が漏れないようにしつつリーダーさんに幻影を見せている訳です。
とはいえ、これは試行錯誤をした結果です。
いやあやたらめったら幻術に対するプロテクトが固くって。
変質的どころかこれ、人格にすら異常がでかねない代物で、しかもかなり古いもの。
多分これを施術したのは「山椒魚の半蔵」さんですね。
それを「ペイン」さんが流用してるのか。
この分だと本当に使える
で、使い潰しても良い人たちだけをこうやって外部の荒事や情報収集に出している、と。
…ペインさんは実の所、身内に対しては異常なくらい保護欲があるのかもしれない。
まあそう言う事で、普通に幻術を仕掛けるとあっさりと弾かれる様子。
これを打ち破るにはかなり強力な術者が時間をかけてやらないと無理っぽい。
しかもその場合、かなりの確率で情報を引き出す前にリーダーさん狂死する仕様です。
なんで、かなり回りくどい方法で情報を聞き出す事にしました。
手口としては幻術のごく初歩の方法で、軽く意識を誘導してやる術を使います。
意識レベルを低下させる薬を使い、ぼんやりとさせた上で、自分が任務を果たして雨隠れに帰還した、という状況であると錯覚させるのです。
で、里の上層部と接触し、報告をしているのが現在、っていう風に思いこませ、そこで誰かの名前が出れば大当たり、まあ結構当てにならない方法です。
とはいえ、これ以上は今の僕たちでは無理な状態で、後は木の葉隠れの拷問班に引き渡すくらいしかないと思っていたのですが。
ラッキーな事に「暁」の頭目と目される「ペイン」さんの名前がここで出てきました。
この人の年齢は大体30代後半から40代前半。
第3次忍界大戦で活躍していた可能性がある年代です。
もしかしたら木の葉隠れの里の中に知っている人がいるかもしれません。
十中八九雨隠れの里の忍でしょうが、はっきりとした証拠があるとないとでは今後の動き方に変化がありますし。
さて、この人を封印術の巻物に封印して、一旦木の葉隠れの里に持ち帰ってもらいましょう。
ネジさん、後はお願いしていいでしょうかね。
日向ネジは疑問に思っていた。
茶釜ブンブク。
未だ下忍の身分であるが、何故こいつは上忍ではないのか。
ネジは今回の作戦立案を行っている。
自慢ではないがネジは忍としては万能の天才だ。
忍術、幻術、体術とそつなくこなし、その上で日向の柔拳を使いこなす。
調査能力にも長け、忍としての任務ならば単独、チーム全てに対応できる自信があるし、実際対応してきた。
しかし、忍としては優秀である分、視点の広さ、という点においてネジはブンブクに劣る、そう自覚していた。
不思議なものだ。
うずまきナルト。
あいつは当初、なにも考えていないせいぜいが下忍止まりの男だと思っていた。
それが今は同年代の者たちの信頼を得るまでになっている。
自分の世代はてっきり奈良シカマルがまとめるものだと思っていたのだが。
…忍界は澱んでいる。
かつて己の父が伯父である日向ヒアシの身代わりとして殺された時、ネジはこの世界に絶望した。
ずっと引きずってきた無力感と焦燥感。
それを吹き飛ばした風はあの中忍試験の時のうずまきナルトの一撃。
それからネジはナルトを注視していた。
彼ははっきり言えば頭が悪い。
直感には優れているがその直感を活かすだけの知識がない。
だが、必要な時に声をかける事の出来る行動力がある。
その行動力はネジを救い、ヒナタを引きつけた。
引っ込み思案で己の存在意義すら疑っていたヒナタをナルトは見事に輝かせている。
ネジはその事につい笑みを浮かべてしまうのだ。
ネジは茶釜ブンブクにも同じものを感じる。
違うのはやり方か。
ナルトは無意識に、そして直感に従って動く、その結果として誰かを助け、そして皆を引きつけていく。
ブンブクはそれが意識的に近い。
彼は「誰か」を救うための道筋を論理的に描き、そして行動する。
どちらかというとシカマルのやり方に近い。
行動理念がナルト、そして行動規範がシカマル、ということか。
かつては彼らの模倣だったのかもしれない。
それを己のものとしたのは、彼らの様にそうありたい、そう考えたブンブクの想いからなのだろう。
ネジはナルトに救われた。
ならば、ナルトと、ナルトを大事に思うこの弟分の為にオレは命を張ろう。
それが木の葉隠れの里にある「世代を継ぐための意志」、すなわち火の意志というものであろう。
ネジは己の中に父より受け継ぐ脈々としたその意志を、やっと感じる事が出来るようになった、そう感じていた。
さて、ネジさんたちに雨隠れの忍(仮)の方々を預けてから、僕はアンコさんの修行の場に行きました。
大きな滝のある山中です。
滝しぶきの上がる滝壺、そこに一本の倒木が浮いています。
滝つぼに落ちる水と、沢に流れている水、その2つの流れが丁度拮抗している絶妙のスポット。
その倒木の上に、アンコさんはまるで仏像のように立っていました。
右のつま先で倒木の上に立ち、左足は胡坐を組むかのように持ちあげられてる。
両の手は胸元で印を組んでいます。
忍術の印に近い、丁度「子」の印ですかね、あれは右手で左手の人差し指と中指を包むように組むんですけど、今アンコさんが組んでいるのは人差し指を抱える様な印です。
僕の記憶から引っ張り出したのは「智拳印」ですかね。
悟りの境地に入る、みたいな意味だったかと。
仙人の術を身につけるには「自然と一体化し、生物としての動きを止める」のが必要なんだとか。
そこさえできるようになれば、呪印から自然のチャクラを取り込む事に慣れてしまったアンコさんなら誰よりも、そう自来也さまよりも仙人への道が近いであろう、誰あろう自来也さまの弁です。
と、アンコさんが動きました。
とん、と倒木を蹴り、中に跳び上がります。
倒木は全く揺れる事もありません。
軽く飛びあがったはずのアンコさんはまるで空を舞うかの如くふわりと滝の上にいる自来也さまの前に降り立ちました。
いや、凄いです!
アレはチャクラの操作だけじゃ出来ませんて。
体の中心に一本芯の入ったような、あまりにも自然な立ち姿でした。
魅了される位美しいのに、ちょっと視線を外すと周囲の景色に溶け込んでしまうようにも見えました。
自然のチャクラを取り込むっていうのはこう言う事なんですかね。
いやあ、素晴らしいものを見せてもらいました。
おっと、感動してる場合でもありませんでしたね、自来也さまに報告報告っと。
「自来也さま、証拠取れそうです」
あ、今自来也さまの眉がピクリと動いた。
「そうか、これで『暁』の本拠地が絞れたわけだ」
「そうなりますね。
ただ、雨隠れでしょ、あの中どうなってるか分かりませんよ?
内紛とやらも未だに続いてるんだかどうだか。
あれだけ徹底的に内情を隠し通せるんだから、どっちかの勝利に落ち着いてるんだと思うんですけどね…」
「それも分からんのォ。
未だに『山椒魚の半蔵』が生きとるんなら、それくらいはやってのけるかもしれんしのォ…」
里に流通しているであろう物資を読み解くと、そんなに大勢忍がいるとは思えないんですけどね。
それだけ半蔵とういう人は優秀だったのでしょう。
それをもちょっと別方向に向ければ、本人の代では無理でも、次の代、その次の代では平和って維持出来ていたかも知んないのに。
正直もったいないと思う。
そんな事を考えていた僕は、自来也さまの顔を見ていなかった。
そうすれば、悲劇は食い止められたかもしれないのに。