今回はキバ、カブトに関する原作改変が入っております。
木の葉 木の葉と音
ナルト達の前に立つのは新生・音隠れの里の長代行を名乗る薬師カブト、そしてその後ろに立つのはカブトの股肱たる音隠れの若き精鋭達。
木の葉の忍としてこの場での最上位であるヤマトは警戒をしつつカブトに言った。
「薬師カブトか…。
木の葉の里じゃお前は手配中の重罪人だ。
確認次第拘束するように命令が出ている。
…自分から近づいてくるとは、いい度胸だな」
そうは言うものの、下手に動く訳にはいかない。
こちらはヤマトとうずまきナルト、日向ヒナタ、忍犬のブル、そして赤丸の影分身。
赤丸からキバにこの場の情報は伝わっているし、キバから他の赤丸の分身にも連絡が行っていよう。
しばらくすれば全員がこの場にやってくるはず。
それまで時間を稼げばいいのだが、問題はこちらにナルトとヒナタがいること。
ナルトは言うまでもなく九尾の人柱力だ。
下手に向こうの手に落ちるような事になればあまりにも厄介。
元々音隠れを創設した大蛇丸は「暁」の構成員でもあった。
ナルトが「暁」の手に落ちることは避けねばならない。
そしてヒナタ。
日向の直系でしかも日向の呪印を受けていない。
それは、ヒナタを殺して目を奪えば、白眼が入手できるという事。
この2人を守りつつ、音隠れの忍を排除してカブトを捕獲するのは至難の業であろう。
さて相手はどう出るか…。
ヤマトの声に答えて曰く。
「君たちと少し話がしたくてね…」
そうカブトは言った。
ヤマトはなんと返すか、それを考えていたが、話し始める前に、ナルトがカブトに噛みつくように言った。
「…サスケが大蛇丸を
フードの下で顔をしかめたカブトは、
「相変わらずサスケ君なんだねえ、キミは。
ああ、そうだよ、信じがたい事だけどね。
…おかげで今僕は音隠れの里の代表さ、忙しくてたまらないよ」
そう肩をすくめて見せた。
「…なるほど、で、僕たちの前に姿を見せたのはどういう了見かな? 音隠れの里長殿?」
「まあ、今回は君達にプレゼントと提案をもって来た、という所でね…」
カブトは懐から一冊の冊子を取りだした。
ヤマトが訝しげに言う。
「なんだそれは?」
「かつて
なんでもない事のようにカブトは言った。
きょとんとした顔で、
「なんでそんなもん…」
そうナルトが言うと、
「あげるよ、君達に」
カブトはそう言い、ナルトに冊子を投げ渡した。
「おっとっと…!」
カブトの不意の行為に、お手玉をするようにわたわたと冊子を受け取るナルト。
ナルト達の班の担当上忍であるヤマトは不信感を隠そうともせずに、
「それで木の葉と取引でもしようと言うのか?」
カブトは大蛇丸と共に先の「木の葉崩し」の主犯として木の葉隠れの里では重罪人の扱いだ。
それに関する免役の取引であるとしたら、そこに書かれている情報次第。
とはいえそれを馬鹿正直に言う必要もない訳で、ヤマトはカブトの出方を見ることとした。
「まあ、『取引』の一部、だね」
カブトは特に隠す事もなく、そう言った。
取引の一部。
ヤマトは納得した。
なるほど、どうやら秘密裏に上層部は音隠れの里との始めているぞ、というパフォーマンスか。
事実かどうかはともかく、下手に手を出せば秘密裏とはいえ協定に違反する。
そうなれば木の葉隠れの里は音隠れの里に対して何らかの譲歩をせざるを得なくなる、ということか。
ヤマトはカブトの交渉術に感心するものがあった。
「まあ実際、君たちとの上と秘密裏に交渉はしているし、もう暫くすれば下の方にも話が聞こえてくるだろうしね。
今回の『取引』は、サスケ君を追跡する際の相互協力の申し出、さ」
カブトはナルト達へ爆弾発言を投げかけた。
「え…、うん? つまり…どういう事だってばよ?」
ナルトが首を捻った。
理解できていないらしい。
「ええっとね、多分『音』の人達もサスケ君を追いかけてて、それで、同じくサスケ君を追ってる私達と共同で追跡しようっていう提案なんだと…思うんだけど…」
自信なさ気にヒナタがそう言う。
「そう言う事、で間違いないのか?」
ヤマトがそれに続けて言った。
「その通り。
こっちとしてもサスケ君には大蛇丸様殺害の経緯を聞いておかないといけないからね。
その後は…」
カブトがそう言いかけた時。
ナルトがぎろりと殺気を込めた目でカブトを見た。
「サスケを傷付けんなら、オレが相手になってやらあ!」
ナルトの気迫に、カブトの後ろに立っていた音隠れの忍達がその気迫に押されたように身構える。
カブトはナルトの気迫を柳に風とばかりに受け流し、言った。
「まさか、ボクとしては音隠れに戻ってほしいところだね。
大蛇丸様を倒した彼の実力は、里の大きな求心力になるだろうし、大蛇丸様最後の直系弟子だよ、それがいるっていう里の忍達への精神的な効果は大きいからねえ」
「っんだとおっ! サスケは木の葉に戻るに決まってんだ!!」
カブトとナルトだけでは平行線かな。
ヤマトはもう暫くしたならこの言い合いに介入することを決めた。
しかし、カブトは大分貫禄が付いているようだ。
こちらの予想では大蛇丸が失われた為に精神的に不安定になっているかと思ったのだが。
音隠れの里で、彼に何があったのか、聞いてみたいとろだ。
そう考えたヤマトは、カブトに尋ねてみる事にした。
「1つ聞きたい。
カブト、お前は大蛇丸と違って、『暁』に追われている訳でもないんだろ。
何故木の葉、というよりはナルトに肩入れしてわざわざ『暁』を敵に回そうとする?」
それに対し、カブトはだんだんと低俗化してきたナルトとの言い合いをやめ、ヤマトに向き合った。
「そうだね、これはある意味、ナルト君への感謝、とでも思ってくれれば良い」
「感謝?」
ナルトはカブトの言葉に首を捻った。
「ボクはね、親を知らず、国も知らず、敵に拾われ、幼いころからスパイとして国や里を転々としてきたんだ。
だから、自分が何者か知らないボクにとって、国や里と言ったものはあいまいなものでしかなかった」
彼は肩をひょいとすくめて見せた。
「自分がいったい何者なのか…。
ナルトには思い当たる事があった。
かつて、自分が里において迫害されていた時だ。
里の心ない人たちは自分を「九尾」と呼んで忌避し、蔑んできた。
その中で自分が「うずまきナルト」なのか、「九尾の妖狐」なのか…。
九尾の妖狐であると石を投げられる度、自分が分からなくなる感覚。
それをカブトも持っていたというのか。
カブトの言葉は続く。
「しかし君は、自分の力を信じ、自分は『うずまきナルト』なんだ、と『九尾』に対する視線を力強く乗り越えてきた。
だから自分のアイデンティティも良く知っているし、君を認める仲間も出来た」
カブトは定期的に木の葉隠れの里へ戻り、うずまきナルトの事も観察していた。
もっとも、それだけでなく、音隠れの里において茶釜ブンブクの「兄自慢大会」を辟易しながら聞いていたのも役に立っているのだが。
ブンブク君が混じると色々お笑いになるなあ、などと内心苦笑いしながらカブトは続ける。
「だがボクは、大蛇丸様を超えようとせずに、ただその力に縋りついていただけだ。
あまつさえ、大蛇丸様を超える機会をサスケ君に持っていかれちゃったしね。
今なら君の気持が分かるよ。
ボクはキミに気付かされた。
だからこそ、ボクは音隠れの里の長代理として、彼らを取りまとめた。
これが僕の仲間たちだ」
カブトは彼の背後に立つ者達を見た。
いずれも一騎当千と言える者達だ。
カブトの言葉にある者はにやりと笑って見せ、ある者は信頼のまなざしをカブトに送った。
そして、
「ボクは自身の力にも着手した。
これが…」
右手の袖をまくり上げ、
「今のボクの力だ」
その腕には、びっしりと鱗が生えていた。
息をのむナルト達。
「これは大蛇丸様の細胞を移植、取り込んだのさ。
元々大蛇丸様の体は自分の研究成果が山ほど転用されていたからね。
テン…今はヤマトか、キミの体に移植された柱間細胞も取り込まれていて、もはや別モノになってしまっているけれどね。
ボクはそれを制御する事で最強の力を得る!」
自信ありげにそう言うカブト。
それはどうなのだろうか。
疑問に思ったヒナタはカブトの体を「白眼で見た」。
彼の本来のチャクラの中に、細くまるで植物が根を張るように腕から体にかけて大蛇丸細胞のチャクラが伸びている。
しかし、その量は全体の1割ほど。
今の所、カブトが大蛇丸細胞とやらを制御している、というのが分かる。
もし、カブトが何も組織などのバックアップを受けていなかったのならこうはいかなかっただろう。
大蛇丸の細胞に、早晩体を食い漁られていたに違いない。
今のカブトの体は音隠れの里の研究班による徹底的な管理が行われ、不慮の事態が起きた時はカブトを失わない為に全力を注ぐ事の出来る体勢が整えられていた。
「…カブト、お前はその体を使って、何を望む?
忍界の覇権か、個の最強か?」
ヤマトがそう聞く。
返答如何によっては全力で彼を殺さねばなるまい。
そう覚悟したヤマトにカブトは、
「…そうですね、名声、なんてどうでしょうかね」
そう韜晦して見せた。
「は? わっけ分かんねぇ…、なあヒナタ、一体どういう事だってばよ?」
勘は良いが、察しの悪いナルトがヒナタを頼る。
「え? ええっと、強さとかそう言った方向で名声を得る訳じゃないみたいだから、ええっと、凄い研究を形にしたっていう事で有名になる事、かなぁ…」
ナルトの為に一生懸命答えを探し、考えて話すヒナタ。
その答えに満足気な顔のカブト。
「まあそう言う事だね。
ボクという音隠れの研究の成果を他の忍里に認めさせることで、音隠れの里を『忍術の研究機関』として認識させる。
そしてその研究成果を各忍里に購入してもらう事で里を成り立たせる、それが『忍術研究家』として生きた大蛇丸様の生きた証。
そしてボクがそれを発展させ、大蛇丸様を『忍術学者』として超える、それがボクなりの『新しいボク』だ」
カブトはそう言い切った。
かつて虚無的な雰囲気を漂わせていたカブトはそこにはいなかった。
しばらくすると連絡を受けた仲間達が戻ってきた。
ここの全員が一応はカブトと面識がある。
中忍試験時に行動を共にしていたナルト、サクラ。
そう接触はなかったものの、同じく中忍試験時にカブトを見た事がある元夕日紅班の3人。
はたけカカシはそもそもカブトと何度となく闘っている。
「先輩、どうしたもんでしょうか?」
ヤマトが先輩であるカカシに相談する。
「むーん、どうしたモンかねえ…」
さすがに判断に困るカカシ。
そこへカブトからの声が掛かる。
「カカシさんが来てから話そうと思っていたんですがね…」
「ん? 何かな?」
カカシとヤマトがカブトを見た。
そこでカブトは彼らにとっての爆弾を炸裂させたのだ。
「はあっ!? サスケのチームに
彼らが里を出た時点で、サスケの側に四貫目がいる事は木の葉隠れの里には伝わっていなかった。
この事は上忍達を困惑、動揺させる事となった。
「まずいですよ先輩…」
「ああ、今までうちの精鋭どころか、3代目ですら尻尾を掴ませなかったベテラン中のベテランだぞ」
「本物ですかね」
「分からん。
だが、カブトがああ言っている以上、それに近い技術のあるバケモノだと思った方が良い。
しっかしそっかあ、どーりでサスケが捉まんないと思ったら…」
カカシが面倒臭そうに頭をかく。
大分平和になり、忍の技術の研究が進んだ今でこそ、四貫目のやり方はある程度解析をされているものの、カカシ達が下忍、中忍として仕事をしていた20年ほど前、「名張の四貫目」と言えば全くの正体不明、どのような猛者であるのか、噂だけが広がっている、そんな忍であった。
現在の所、「術をほぼ使わず、既存の『技術』のみで任務をこなしていた」と推測が経つまでには四貫目の事は理解されている。
しかし、今上忍になっている者達、そういう者達ほど四貫目の思惑に嵌りやすい。
今までその実力に等しい努力を積んできた者達はそれまでの「成功体験」に縛られやすい。
己の感知忍術が万能、そういう認識を持ちやすいのだ。
そして、攻撃の忍術に比べて感知・追跡の為の忍術はそれほどバリエーションが多くないし、新しく開発される事も稀だ。
つまりは経験を積んで対処法を学ぶことはそう難しい訳でもない、という事。
そして経験という点において、高齢という本来ならば忍として体力の衰えなど弱点となりうる点は利点ともなりうる。
今、うちはサスケという新進気鋭に名張の四貫目という老獪な参謀が付いた、という事になる訳だ。
戦略の転換が求められている状態だった。
年長者達が対応に苦慮くている時、ナルト達もこの件にどう対応するかで意見をぶつけていた。
「あんな奴らの力なんて借りる必要ないってばよ!」
仲間たちと成し遂げる事にこだわるナルトは否定派。
「…オレは賛成だ。
なぜなら相手に優秀な参謀がいる以上、サスケに時間を与えるとより対処されやすくなるからだ」
油女シノは肯定派だ。
「そもそもあいつらが信用できるか、ってのが問題よね」
サスケに手が届く確率が増えるのは歓迎だが、一度先輩であるシズネがカブトに倒されているサクラはどうしても音隠れの忍を信じる事が出来ない様子。
「う~ん…、どうなんだろう…」
判断がつきかねているヒナタ。
「ボクはナルト君に判断を任せるよ。
僕自身は別に音隠れと手を結んでも悪い事じゃないと思うけど」
音隠れの里の内情を若干なりとも知る事の出来ているサイ。
そして話を切りだしたのはキバだ。
「…オレとしちゃ向こうの話を受けても良いと思ってる」
「キバ!」
ナルトが抗議の声をあげるが、それを遮ってキバは続けた。
「ちょっと落ちつけってナルト。
俺だってそう気分の良い話じゃねえけどよ。
実際、前の任務の時だって、オレぁ音の奴にのされちまってんだから」
キバはかつての「サスケ奪還任務」の際、当時音隠れの所属であった右近・左近の兄弟にあわやというところまで追いつめられ、砂隠れのカンクロウに救われている。
「とは言え、連中はオレ達より今のサスケ、それから四貫目だっけ? あっちの参謀役の事を知ってんだ。
追跡の手が増える上にサスケ側の行動が予測しやすくなるんじゃねえか?」
「…お前本当にキバか!?
音隠れの誰かが変化してんじゃねえの?」
普段のキバとは到底比べ物にならないほどの的確なは発言に、ナルトが突っ込みを入れる。
「誰がだよ!?
…ったくよお」
ため息をつくキバに、シノがフォローを入れる。
「…ナルト、キバは自分に必要なのは咄嗟の時の判断力、と思ったのだ。
それを鍛える為にキバは努力した。
今ではうちの班の作戦立案はこいつの仕事だ」
ヒナタもそれに口添える。
「ナルト君、キバ君は一生懸命努力したんだよ。
時間がある時は、いっつもシカマル君とブンブク君の作った事例集を解いてたんだから」
その言葉に、ナルトの表情が胡散臭いものを見る眼から憐憫を含んだものに変わる。
戦術の天才奈良シカマルと、その直弟子の様な茶釜ブンブクの作った事例集。
ブンブクは頼まれごとをした際には断ることを基本的にしない。
そしてその目標に到達できる道をとにかく模索し、その結果としてとてつもない負荷を依頼者に賭ける事がある。
読みの天才であるシカマルは、相手の能力ぎりぎりを狙って課題を出してくるが、ブンブクの場合そこまでの鑑定眼がある訳でなく、往々にして能力以上を求めてしまう事がある。
まあ、ブンブクの周囲にいる者は良くも悪くも規格外の人物が多かったためであろう。
無論ナルトもとんでもない課題にひーこら言った経験がある。
自来也まで巻き込んでのものだったので、逃げようもなかった。
その体験がナルトをしてキバの苦労を察したのだろうか。
「…ナルト、その目やめえ。
よっけい気分が落ち込むわ! いたたまれなくなるわ!!
…まあともかく、だ。
サスケ側の動向がある程度予測できる。
時間を与えると向こうの対処がきつくなる。
後は、向こうにいた間のサスケの様子を聞く事が出来るってのはどうよ?」
キバのその言葉にピクリと反応したのはサクラだ。
サスケが里を出奔して約3年。
初恋をこじら……秘めてきたサクラにとっては、音隠れでのサスケの様子というのはとても気になるものであろう。
そわそわし始めるサクラ。
そりゃねえよサクラちゃ~ん、といった情けない顔のナルト。
何やら緊張感が欠けてきたところで、上忍達から相談を受ける事になった。
結局、木の葉隠れの里の忍達は音隠れの里の支援を受ける事にした。
木の葉隠れの里側の一応の名目は「うちはイタチの捕縛」であるが、実質うちはサスケの追跡になる。
サスケがイタチを追う。
ならばイタチを追えば、その導線上でサスケと当たる事になる。
また、その同軸上で他の「暁」と当たるなら、それも捕えてしまえば良い。
その際には音隠れの忍の「協力」があったという事にすれば音隠れの側としても木の葉隠れの里に恩を売り、「木の葉崩し」以来の敵対意識を緩和する事も可能かもしれない。
そう言った諸所の事情により一時的な協力体制がとられる事となったのである。
長代理であるカブトはカカシ、ナルト達とは幻幽丸、サクラとは2人姉妹の少女達、シノとは赤髪の大男、キバは鞭使い、サイには甲冑の異形剣士が共に行動する事になった。
そして、サスケ捜索任務は、
混乱を極めた。
暁 デイダラの憤慨
「ふっざけんじゃねえぞぉっ!! うん!!」
デイダラは憤っていた。
事は暫し時間を遡る。
「行くぞ、トビ!」
鼻息も荒くデイダラはトビを呼びつけた。
ナルト達がサスケ追跡任務についている事、それを「暁」では把握していた。
それを知ったデイダラが、自分が殺すつもりであった大蛇丸を仕留めたサスケと、いつぞや右腕をちぎられ、更には殴りつけられたナルト達の班への意趣返しも含めた九尾の尾獣狩りに名乗りを上げたのだ。
今までに一尾、二尾、三尾、五尾、そして先ほど倒した四尾の人柱力から尾獣を外道魔像に封印したところだ。
「え~~~~~~っ!」
トビは不満そう、というよりは面倒くさそうにしていた。
今の所、自分達はノルマを達成しているのだし、多少はグータラしたい、という感じを振りまくトビ。
それを一睨みし、「暁」の集会場より分身を引き揚げさせたデイダラとトビ。
彼らはサスケとナルトへの襲撃を開始した。
…筈だった。
黒い外套を羽織った人物。
その前にトビは降り立った。
「キミがサスケ君…か、なあ?
…あれ?
…すいませ~ん、デイダラせんぱぁい!!」
トビは頭上に声を掛けた。
その途端、上を向いていたトビの顔面に、デイダラの右足が突き刺さった。
「ほげっ!?
…ちょっとひどいじゃないすかデイダラ先輩!
仮面付けてなかったら、鼻が折れてましたよ!」
トビの苦情は空中からダイビング、飛び蹴りを喰らわせてきたデイダラには届かない。
それどころか胸ぐらを掴まれて揺さぶられる。
「お前はっ、何をっ、考えてんだっ! うん!?」
「くっ、首がっ、しまっぐえっ…」
そこで、デイダラはやっと外套を羽織った人物が目的の「うちはサスケ」でない事に気がついた。
「なっ!?」
「げほっげほっ、だから、言ったでしょ!?
どう見てもただのおっさんですよ、これ」
髪型や背格好こそ似ているものの、それはサスケとはとても見えない虚ろな目の男性であった。
「一体、こりゃあ…、! おい、トビ見てみろ」
デイダラが男の髪をむんずと掴む。
それはずるりと落ち、胡麻塩頭が現れた。
「はっは~ん、これ、偽装ですね。
多分、木の葉隠れとか、音隠れの連中が動くのを見越してサスケが用意した偽者っすよ。
これなんか、サスケが羽織ってた外套じゃないっすかね?
音隠れには『擬獣忍法』の使い手とか、臭いを追跡する能力の高い奴がいますからね、そいつら対策でしょ」
自慢げに話すトビがうざったい。
そうデイダラの顔に出ているのに気付かずにトビはべらべらと話し続ける。
「でもデイダラ先輩もかわいいとこあるんすね。
C2ドラゴンで高度からサスケやナルトを発見しようとするのは良いんすが、間違っちゃって顔を赤らめてるとこなんかもう『萌え』って奴っすね、いやあ、先輩の新たな魅力って奴に気付く事が出来たっすよ、もう…」
トビは最後まで言い切る事が出来なかった。
デイダラの余りにも切れの良い
「くえっ、わ、わがじんせえ、ぜんぺんくいだらけ、がくっ」
それからもデイダラ達はサスケの偽者に悩まされた。
途中からは外見だけでなく、デイダラのスコープに内蔵されたチャクラの判別能力すら使用しての捜索を行ったにもかかわらず、である。
確かに、超遠距離からの判別は難しい。
外見にせよチャクラの質にせよ、遠距離から確認するには不明瞭すぎるのだ。
確認を取るにはある程度の距離に近付く必要がある。
そして近付いて確認すると別人なのだ。
衣服に付いたサスケの血液と、それに練り込まれたチャクラによってデイダラのスコープでの遠距離判別をかく乱していた。
とはいえこれは副次効果であろう。
本来の目的は木の葉隠れと音隠れの忍を巻く事。
デイダラ達が狙っている事をサスケ陣営は知らないはずだからだ。
実際、サスケの参謀となっていた四貫目はその事を知らなかった。
サスケがデイダラの不興を買っていた事など知りようもない。
デイダラの「オレが殺すはずだった大蛇丸を先に殺したから、サスケを殺す」という理屈は暁のデイダラを知らなければ出てこないものだろう。
とはいえ、チャクラを認識する白眼の様な相手が追手に来るのは四貫目にとって織り込み済みであった。
故に、音隠れからサスケが出奔する際、己の持つ貯金を切り崩し、金でおとり役を雇い、その際にサスケの幻術眼で催眠状態にして己がうちはサスケであると偽の記憶を植えつけた。
無論、簡単に解かれるような簡単な暗示だ。
とは言え、これで遠目から見た動きはサスケに見えなくもないレベルになっていた。
そしてサスケの血とこまめに交換させていた服を身につけさせて方々に送り出した、という訳である。
あくまで今回の偽者達は木の葉隠れの里の忍に対する対応策なのだ。
しかし、何度も偽者を掴まされた事がデイダラを疑心暗鬼に追い込んでいた。
何せサスケは優秀なルーキー、つまりは新人だ。
戦闘能力はともかく、こういった人の機微に漬け込んだ逃走術などは、戦闘能力が優れていればいるほど身につき辛いものだからだ。
そういうものは茶釜ブンブクなど、正面から戦いを挑むことのできない「持てざるものの技術」である。
デイダラは知らなかった。
サスケに名張の四貫目という厄介な参謀がついているのを。
そして。
“すいませんねえ、デイダラ先輩”
トビがその事を知っているのを。
しばらくすると、サスケ追跡はさらに困難になった。
短気を起こしたデイダラが、偽者の1人を爆殺するに至り、その爆発音に木の葉隠れと音隠れの忍が気付いたのである。
デイダラにとって、本来ならば都合が良い事態だった。
デイダラ達が追うのはサスケだけでなく、九尾の人柱力もその目標であったからである。
サスケがだめならばせめてナルトを生け捕りにし、カカシを爆殺しておきたい。
デイダラはナルトに標的を絞った。
それが間違いだった。
ナルトの近辺には木の葉隠れの忍だけでなく、音隠れの忍もいたのである。
そして、ナルト達にカブトから渡された冊子にはデイダラの事も書かれていた。
デイダラが特殊な粘土に己のチャクラを練り込み、指令と共に大爆発を起こす起爆粘土の使い手である事も記載されているのである。
更にはそう言った情報を取りまとめていたカブトにより、起爆粘土が土遁を基本とした禁術である事を突き止め、雷遁が弱点である事を推測していた。
そして雷遁を主体とする使い手は木の葉にカカシ、そして音隠れにも2人の少女がいた。
デイダラがナルトを襲撃するたびに彼らの内誰かが雷遁での防御を行う為に、なかなか攻撃しきれない状態に陥るのだ。
そうしている内にぞろぞろとナルトの仲間達が集まり、デイダラを絡め取ろうとする。
事厄介なのは白眼使いの少女と蟲使いの少年。
白眼の使い手は、デイダラの起爆粘土をどこに設置しようとも発見し、蟲使いの寄壊蟲によってチャクラを貪り食われ、無力化させられる。
数度の戦いの後、デイダラ達は撤退を余儀なくされる事になる。
最も、デイダラ達と木の葉と音の連合の戦いが泥沼化した事によって、サスケ達が追跡を一時的にせよ振り切ったのはサスケの幸運、ナルト達とデイダラの不幸であっただろう。
? ゼツ
そこでは絶望的、と言って良い戦いが繰り広げられていた。
土の国の片田舎にある、なんの変哲もない集落。
特に忍術を使う一族でもなく、ただ鉄器を作る技術が引き継がれてきた鍛冶の一族。
そこを白塗りの怪人達の集団が襲撃していた。
対峙するのはどう見ても60は過ぎていると見える高齢者の集団。
だが意外なほどに強い。
手に持った鉄棒などで白塗りの怪人・ゼツを殴りつけ、叩き潰していく。
無論ゼツ達もただやられはしない。
各々手に持った忍刀などの得物や忍術などで年寄り達を排除していく。
しばらく後に、年寄り達は地に伏して…いなかった。
彼らは倒されると同時にまるで霞に溶けるかの如く消えていったのである。
里の中を見回していたゼツ達。
すると、そこへゼツ達に輪を掛けて奇矯な装束をしたものが現れた。
黒地に赤い雲の意匠の外套を身に纏った、ハエトリソウの様な人物。
肩から生えたハエトリソウの捕虫器のような器官、その間から白と黒の半分に塗り分けられた人の顔が見えている。
彼もまたゼツと呼ばれる怪人。
彼はまるで自分が2人いるかのように話し始めた。
「でさ、これでこのあたりの連中は掃除終わり?」
「アア、コレデコノ付近ノ『チノカマノ一族』ノ拠点ハ潰シタハズダ」
「でも生きてる連中はかなり逃げられちゃったよ、良かったの?」
「構ワン。
重要ナノハチカラノアル年寄リドモヲ根絶ヤスコトニアッタカラナ」
ここで白塗りのゼツから報告が入る。
「ヤハリ、カ。『チノカマ』ヘノあくせす権限ハこぴーデキナイカ」
「しょうがないんじゃない?
こればっかりはボクたちじゃどうしようもないもん。
こと、これが忍術に関わらない能力なんだからさ」
幾分落ち込んだ様子の片割れに、もう1つの片割れが慰めるように言った。
「でもまあこれで『ファーストムーン』の力は大分削がれたってわけだね」
「アア、コレデ後顧ノ憂イハ絶ッタトイウモノ、コレデ『母さん』ヲ迎エル準備ガ出来ツツアル」
「楽しみだねえ、ホントに、さあ」
「サテ次二行クゾ、後3ヶ所ダ」
その日、土の国にある集落が4つ壊滅した。
不思議な事に、死体などはほとんど残っていなかったという。
No.18AE、1B1E、8DF、11D、3ADヨリノ信号途絶。
No.26AE、10A6、9BA、1CA、30Aヨリノ信号途絶。
アクセス権限ヲ301C二移行。
繰リ返ス。
No.18AE、1B1E、8DF、11D、3ADヨリノ信号途絶。
No.26AE、10A6、9BA、1CA、30Aヨリノ信号途絶。
アクセス権限ヲ301C二移行。
繰リ返ス……
カブトさんが「暁」との共闘をしない形になりました。
次回投稿は1週間前後の予定。