原作における39巻のあたりの話です。
暁 デイダラの退屈
「じー…」
「……」
どぉん!
デイダラは非常に居心地が悪かった。
先ほどから「聖杯のイリヤ」が己の修行風景を見学しているからだ。
能面の様なイリヤの顔は、とにかくデイダラの癇に障る。
「じー…」
「………」
どごぉん!!
「じー…」
「…………」
どどどぉん!!
「じー…」
「……………」
どん! どどんんっ!!
「じー…」
いらっ
「だからっ、なんでっ、オレの訓練をっ、じっと見てんだっ、うん!?」
とうとうキレ気味に喚いたデイダラに、イリヤは、
「興味深い」
そう一言。
その一言で、
「…そうか? うん」
デイダラの気分が変わった。
デイダラは機嫌が良くなった。
「…この粘土細工の造形、前衛的。
どこかユーモラスで、造形元は有機的素材でありながら、しかし無機的でもあり、見る者によってがらりと印象が変わる…」
「そうか! この造形の妙が分かるか、うん!」
C1型起爆粘土の内、蜘蛛型、鳥型を見てのイリヤの感想を聞いた為である。
「だがこれだけじゃオイラの芸術は完成しねえ! うん! よくみてろよ、うん」
デイダラはC1入りのものの内、鳥型のものに起爆命令を出した。
喝!
その瞬間、鳥型の粘土は炸裂し、砕け、地に落ちる事無く消滅した。
「…おおー」
イリヤはその様子を瞬きする事無く魅入っていた。
「どうだ、うん」
デイダラは「破壊・崩壊の美学」を持っている。
今の破壊に何か思う所はあるのか、デイダラはそうイリヤに問いかけたのだ。
「消滅の美学。
歴とした形のあるものが消える時の変化し続けていく姿、永遠とは正反対の『動』の美。
これを録画すれば…、いや、それだと意味がないのか?
記録しない事による
この手の「芸術談義」はデイダラにとってこの上ない娯楽である。
その手の話の通じる「赤砂のサソリ」がいなくなってから、芸術談義にはとんと縁がない。
というか、「暁」において今いるのはくそ真面目とおちゃらけのみ。
高尚な芸術談義なぞ望むべくもなかったのに。
拙いながらもデイダラの芸術を理解する者がいた!
それは彼にとって、福音ともいえるのである。
芸術家は孤独だと言う。
しかし同時に、人は理解されたいものでもある。
意見をぶつけ合う、それもまた相互理解の形の1つ。
もしかしたら、デイダラは命をかけた極限の戦闘の中で、爆殺する相手との理解を求めているのやもしれない。
相手にとっては不幸なことであるが。
デイダラとイリヤは芸術談義に花を咲かせた。
さて、談義が盛り上がって来ると、当然と言えようか、意見のぶつかり合いが出てくる。
「だ・か・らっ
「しかし、異なる爆破のアプローチはすべき。
完成とはすなわち停滞。
停滞はすなわち後退。
後退は感性を殺す。
それはすなわち芸術家としての死」
「む、むぐううぅ…」
「芸術は感性、それは間違いない。
しかし、同時に感性を形にするのは技術。
確かにデイダラの芸術は他者を殺害するには圧倒的な強さを発揮する。
誰も手の届かない高所から起爆粘土を落としてある程度の高さで爆破すれば、まず生き残る者はいない」
「なら…」
「でもそれだけが芸術ではない」
「…それは認める、うん」
「ならば爆破もまた様々な
すっかりイリヤにやり込められてしまっているデイダラ。
それはすなわち、自分でも
「…ならば、たとえばどんな方向性があるってんだ、うん?」
デイダラの指摘にしばらく考え込むイリヤ。
「例えば、消滅、とか?
微細な起爆粘土で最小構造単位の破壊を行うなら、爆発の無い爆破が可能」
イリヤの言葉に内心驚くデイダラ。
イリヤの言はすなわちデイダラの「爆遁」の奥義であるC4を指している。
自分の生み出した奥義、その発想をイリヤは持っているのか。
更にイリヤの言葉は続く。
「それとは逆に、形を残したままの爆破、というのもあるのでは?
例えば先の鳥型、あれをその『形を残したまま』爆破するなら、鳥の形が維持されたまま膨れ上がり、霧のように消滅していく、というのもあるかと」
なるほど。
歪に膨れ上がり崩壊するのではなく、その形を維持したまま膨れ上がり、消えていくように見える起爆粘土か。
それもまた面白い。
デイダラとイリヤとの談義は更に続いていった。
暫くの後、デイダラは土遁によって、巨大な柱を作り上げていた。
「それじゃあ、やってみるぞ、うん」
柱の中心は空洞になっている。
デイダラはその根元に起爆粘土を仕掛けていた。
そして、
喝!
デイダラの指令によって起爆粘土が爆発する。
本来ならばこの時、柱は大きく吹き飛び、そして爆風が周囲に散っていただろう。
しかし、
「…おおぉーっ」
イリヤの感嘆の声(しかし無表情の能面)が響く。
柱はまるで地面に沈んでいくように垂直に倒壊していく。
舞い上がる砂塵も最低限。
今までこの世界になかった解体爆破、外に向かって吹き飛ぶ爆破ではなく、内側に向かって倒壊していく爆縮という概念がデイダラによって生まれた瞬間であった。
「…むぅ、これは、確かに芸術だ、うん」
満足げな表情を浮かべるデイダラ。
彼にイリヤは声をかける。
「ボクの引き出せる知識ではこのあたりが限界。
もっと知りたいのなら、『茶釜ブンブク』に接触してみると良い。
多分あれならもっと爆破に関する知識を持っているはず。
直接敵対するような事がなければ、組織同士が敵対していたとしてもあれとの交渉そのものは可能」
その言葉にデイダラは眉をひそめる。
ブンブクは死んだのではなかったか?
それともイリヤにはブンブクの生存を確信している何かがあるのか。
そもそもイリヤとブンブクの間にはもう少し感情的なものがあるかと感じていたのだが。
イリヤは言う。
「ボクはあくまで兄さんの目的を達成するための人形。
それあるべきなのだから。
しかし、その為にあれとは敵対するだろう、そう考えている」
全くの無表情で告げるイリヤに、デイダラはなんと声をかけるべきか分からなかった。
故に、デイダラは気付けなかった。
イリヤがブンブクを「彼」と言わずに「あれ」と言っていた事に。
木の葉 サスケ包囲網
木の葉隠れの里。
6代目火影・千手綱手に呼び出されたうずまきナルト。
そこで大蛇丸の死と、うちはサスケの動向について告げられていた。
サスケは木の葉隠れの里に戻ることはなかった。
そのまま少数の手勢を率いて消えたという。
自来也からの、サスケはそのままうちはイタチを追う為に「暁」に接触する線が濃厚である、との情報に、
「なら! オレ達も小隊組んでさっさと行くってばよ!!」
そう気合十分に言い切った。
「まだ『暁』狩りの任務は継続中なんだろ?」
ナルトはそう綱手に聞く。
綱手の肯定の返事に対し、
「オレ達が狙うのは、『うちはイタチ』だっ!」
そう宣言するナルト。
それからの彼は精力的だった。
とてもかつて「ここ一番以外は役立たず」などと言われていた時代があったとは思えない働きぶりであった。
自身の担当上忍であるヤマトと話しあい、ヤマト班に加えて元夕日紅班を率いる事になっているはたけカカシと話を付けた。
そして揃ったのが。
しとしとと降り続く雨。
木の葉隠れの里と外界を隔てる巨大な「あ」と「ん」の文字の書かれた門の下。
いまは開かれているそれの下にそろったのは男女4人の
いつも通りどこか緊張感のないはたけカカシが、
「出発だってーぇのに嫌ぁーな天気だな、どうも」
そうぼやく。
ナルトにはなんとなく分かっていた。
雨が降っているので「イチャイチャタクティクス」が読めないが故だということを。
まあある意味緊張感が削れなくて良いや。
そんな事を考えて、いやいや違う、ここは気合を入れないと、そう考え直したナルト。
そこへちゃちゃが入る。
「熱くなりすぎてる奴には、丁度良い日じゃないっすか」
皮肉気なセリフとは裏腹に、気合の十分に入った目をナルトに向ける、犬塚キバ、そして赤丸。
「…心は熱く、頭は
なぜならば、いや、いらんな、この後は…」
ひっそりと、しかしこの時ばかりはその存在感を誇示する油女シノ。
「ボクはナルト君に救われた。
なら次はボクがサスケ君の力になろう、それがナルト君の力になるから」
かつての人形のような彼を知る者ならば驚くであろう言葉を放つサイ。
「ワ、ワタシも、頑張る…っ!」
相変わらず気弱そうに、しかしその目には凛とした意志をみなぎらせ、日向ヒナタが言う。
ふうっ、と吐息をついて、己の中の熱を抑え込もうとし、それが出来ずに苦笑しているのは春野サクラ。
そして、
「よっしゃぁーーっ! 行くってばよォ!!」
2班8人による「うちはサスケ捕獲任務班」が動き始めた。
「む、木の葉が動いたか…」
壮年の男性がぼそりと呟いた。
「どうしたん? 爺さん」
その声を聞きつけたのはうちはサスケの私兵である「蛇」所属の鬼灯水月。
いや、所属していると言えるのだろうか。
水月はただ強くなり、「忍刀七人衆」を再結成する事を目的としている。
当初サスケに従ったのも、七人衆の忍刀を己の手に納める為、まずはサスケが行方を知っている「断刀・首切り包丁」を入手するための交換条件に過ぎなかった。
その後、サスケの強さを実感した為に、その強さを己に取り込み、より高みを目指すという方向に変わった訳であるが。
彼は強さを求めている。
本来ならばサスケに従いつつその首を狙い、忍界に名を馳せる、といくのだろうが。
今、水月はよれた感じのいかにも冴えない壮年の忍と手合わせをしている真っ最中だった。
壮年の男性、名張の四貫目はサスケと行動を共にし、水月を初め、香燐や重吾の修行に手を貸していた。
彼から見ると水月は首切り包丁を使いこなす為の重心移動、香燐はいざという時の視界の狭さ、重吾は言わずと知れた呪印の元になった力、仙人化の時の暴走に難がある、と見ていた。
故に、四貫目は時間を取って彼ら、彼女らを鍛え上げていた。
元々素養は高い少年たちだ。
四貫目の築き上げてきた経験をもとに組み上げる修行を真綿が水を吸収する様に取り込んでいった。
四貫目曰く、「才能という奴が羨ましい、妬ましいと思う事があるな、この歳になって」と言わしめるほどであった。
こと、重吾においては四貫目に懐く事
なんとなれば、重吾の「暴走」を、四貫目は腕づくではなく止める事が出来るようになっていたのである。
四貫目はそう能力の高い忍ではない。
この場合の能力とは、チャクラに関わる能力の事である。
チャクラの保有量、錬気の量、コントロール、いずれをとっても彼は2級程度の力しか持たない。
何故彼が伝説に語られる忍となったか。
それは徹底的な人間観察からの「人遁」である。
どのような忍もつい息をつく瞬間がある。
力の抜けたその瞬間をねらってその急所に致命的な一撃を打ち込む。
ひたすらチャクラを使わない戦い方を模索した結果、「チャクラを使った痕跡が残らない」仕事結果となり、チャクラ重視の忍にとってはその痕跡を追い辛い相手となっていたのだ。
むしろ、忍術を使えない市井のベテラン岡っ引きの方が四貫目を追い詰める事が出来たであろう。
チャクラを使った行動が苦手な故に忍びの世界で生き残る事が出来たとなれば、随分な皮肉だ。
その鍛えに鍛えた人間観察によって、四貫目は重吾の暴走の起点を発見していた。
彼の暴走はいわば「生存本能」の発露である。
生命体ならば全てのものが持つ「存在し続けたい」という欲求。
大蛇丸が「呪印」として加工培養した重吾の血液から抽出されたもの、人間に寄生、もしくは共生する微小な生物は、重吾の体内ホルモンの濃度を感じ取り、重吾が肉体的、精神的ストレスが一定以上になった時に動きだし、重吾の生命を守るためにその身体を強化、そして強制的に凶暴な人格を起動させて、ストレスの原因を取り除こうとするのだ。
本来であれば重吾の一族にはこの暴走を抑える為に手立てがあったであろう。
しかし、一族は既になく、暴走を抑える術も失われた。
加えて言うなら、今までの生活環境も悪かったようだ。
己の力を恐れて大蛇丸の施設で監禁状態を望み、友は音隠れの君麻呂のみ。
その環境ゆえに、「外界への恐怖」がストレスとなり、「他者を傷付けることへの恐怖」がそれを助長した。
本来の人がましい生活を切り捨てた為により暴走の傾向が強まったのは皮肉と言えよう。
それがサスケによって強制的に外へ連れ出され、そのサスケの強さに触れて「君麻呂と同じく重吾に倒すことのできない人物」が増えた。
また、水月は重吾の攻撃では死なない。
打撃では「水化の術」を使う水月にはよほどタイミングを見計らって出ないと有効打破与えられない。
そう言った「自分が誰かを潰してしまう」、「他者の生存の可能性を潰してしまう」恐怖を軽減させてくれる強い存在。
君麻呂は「血継限界・屍骨脈」の圧倒的防御力により、重吾の攻撃を跳ね返した。
その為に、「君麻呂は重吾の近くにいても死ぬことはない」という安心感が君麻呂をして重吾の暴走を抑えることに成功していた。
その位置に、うちはサスケと鬼灯水月という2人が入ってきた。
それは重吾の人としての繋がりを増やすことにも繋がった。
そうして重吾の精神に余裕が出来た時期に四貫目の修行が入ったのだ。
正確には修行ではないだろう。
一種のカウンセリングと言って良い。
自己に否定的であった重吾への肯定、これは四貫目のみならず、サスケが重吾を必要としているという事が重要でもあった。
マズローの欲求階層説というものがある。
これはより低位の欲求が満たされてくると、行為の欲求を満たしたくなる、簡単にいえばそう言うことだ。
むろんこれは「説」であり、必ずしも個人に完全に当てはまらない場合もある、が、重吾にとっては正しかったようだ。
第一階層の生物の基本的な欲求である「生理的欲求」、そして第二階層の身の安全、十分な衣食住を確保できる「安全の欲求」。
で、第三階層の欲求は仲間がほしい、人間としてどこかに所属していたいという「社会的欲求」。
重吾はここで躓いていた、と言って良い。
重吾の能力の暴走は、自分が誰かといて良い、という思いを自身で封印させていた。
その結果、ストレスが溜り周囲に危害を加え、そして集団から排斥されるという負のスパイラル。
しかし今、重吾は「蛇」の一員だ。
その次に来るのが「承認欲求」、誰かに認められたいという欲求。
これを満たすために必要な暴走の抑制を四貫目は担っていた。
重吾の話を聞き、彼を受け入れつつ、何故暴走するのか、を四貫目は根気強く話し合った。
そうすることで、重吾にとって暴走は「なぜか分からないもの」から「自分がどうなれば暴走するのか」が理解できるものへとなっていた。
まだまだ最終的な欲求である自分の意志での創造的活動を行いたい、という「自己実現欲求」までは手が伸びてはいないものの、実際大概の人間はそれを望むところまでなかなかいかないものだ。
しかし、四貫目は彼が己の制御という試練を乗り越えるなら、そこまで行くのではないか、と考えていた。
この世界にそこまでの哲学的思索は存在していないはずだが。
水月の問いに、四貫目は「木の葉が動いた。2班8名の捜索隊が出ている」
と、簡潔に伝えた。
「…なんだ、たった8人じゃん?
叩っ潰しちまえば良くねえ?」
軽く水月は言うが、それは自信過剰というものだ。
情報は四貫目が懇意にしている情報屋からの連絡であった。
といっても彼
彼らが送ってくる情報は、里の誰でもが知っているようなものでしかない。
しかし、四貫目にとってはそれで十分。
一般の社会に流れている情報を統合することで、裏側の情報の流れを理解する、これもまた情報戦。
四貫目は香燐にこのやり方を学ばせていた。
そして動いているのがうずまきナルトとなれば、一般への周知は十分。
彼が動いている、里人達が話している噂を総合すれば今サスケの追っ手となったであろう人員を把握するのは難しくなかった。
「それが出来れば苦労はせんよ。
うずまきナルトに春野サクラ、ここいらはサスケが良く知っているだろう。
もう1人との連係ミスがなければしばらく前のサスケなら落とされていた可能性すらある逸材共だ」
「え!? マジ…」
元々薄い水月の顔から血の気が引いた。
サスケと紙一重とかどんだけ強いんだ!?
「もう1人も木の葉忍軍の外道働き専門部署の出の奴だ。
更には担当上忍は暗部の精鋭だな。
『音』の資料には元大蛇丸の実験体で、木遁使いとの事だ」
「げっ! 木遁って『千手』の血継限界じゃん!?」
「2班目も厄介だぞ。
追跡能力に長けた忍犬使いと白眼使い、蟲使いだ。
そして…」
まだあんのかよ。
水月とて1対1の殴り合いならそうそう劣るつもりはない。
とは言え、相手の陣容を聞く限り、大人しくタイマンを張ってくれない可能性もある。
蟲使いなどその最たるもので、水月お得意の「水化の術」では大量の蟲に喰いつくされてしまう可能性があった。
水化の術は物理打撃には強いものの、搦め手には結構あっさりと破れてしまう可能性を持つ術であった。
特に蟲使いと白眼は極力当たらないようにしよう。
水月はそう考えるのであった。
「その担当上忍は
訂正、写輪眼使いも追加で。
その頃、もう1つの忍班が木の葉隠れの里を立とうとしていた。
「…行くぞ」
短く号令をかけるのは木の葉隠れの上忍にして「根」の工作員たるメイキョウ。
それに従うは、
がっちりとした体形の比良山次郎坊。
すらりとした手足の葛城鬼童丸。
まるで頭が2つあるように見える異形、宿儺左近・右近兄弟。
彼らはナルト達とは別ルートでうちはイタチを追う事になっており、出来るだけ里人にも知られぬよう、里の山門を使わぬルートで外に出ていた。
彼らはナルト達とは違う、寒々しい雰囲気を纏いながら、ナルト達とは違う方向へ駆け出していった。
雨避けの合羽が翻る。
「…今行くぞ、イタチ」
ぼそりと、メイキョウがそう呟いた。
ナルト達の作戦は難航していた。
彼らの作戦は簡単だ。
サスケがいると目される周辺を虱潰しに調査する。
言うは易し、行うは難しの典型、とは実の所言えなかった。
はたけカカシ、日向ヒナタ、犬塚キバ及び赤丸の存在である。
カカシは口寄せによって忍犬の集団を呼び出す。
追跡という任務において人間の1000倍以上は敏感な犬の嗅覚は強力な武器になるのは当然だろう。
その集団を呼び出す事が出来る、それがこの状況においてどれだけ有利になるか。
日向の白眼はチャクラの流れを見る。
通常視角に重なって見る場合もあるが、より集中すると、色覚を無視し、チャクラの動きとその距離をまるで物質を透視するように、しかもほぼ360度の角度にわたってみる事が出来るのだ。
ヒナタはネジほど白眼を使いこなしている訳ではない。
ネジなれば2.5km程度の距離ならば十分に見てとれるかもしれない、が、さすがにヒナタには無理だ。
とはいえ、数100m程度、人間大のモノであれば十分にヒナタも可能。
彼女なれば木々の葉なども無視して相手を見つけて見せるだろう。
そしてキバ。
彼が鍛えたのは速度、そして自身の速度に対応するための感覚器の強化、そして判断力。
キバは元々擬獣忍法が持つ速さを突き詰め、様々な「瞬身」を身に付けた。
それに並行して、ブンブクの助言により嗅覚は元より、視覚、聴覚、そして動体視力をもキバは鍛え上げた。
元々、キバと赤丸の必殺技である「牙狼牙」はあまりの回転に視力が付いていけず、嗅覚で相手の位置を判断していた。
それが、視覚と動体視力を鍛えこむことで視覚、嗅覚で相手を追い詰める事が出来るようになったのだ。
また、キバは熟考が苦手であるが、同時にとっさの判断力はなかなかのものだ。
それを鍛える為、キバは様々な方法を試した。
結果、武道の型稽古の如く、今まで木の葉隠れの忍が遭遇した事例を纏め、それをとっさに判断することで一種のシミュレーションを行うこととしたのだ。
これを考案したのは例によって例の如く茶釜ブンブク、そしてうみのイルカであった。
イルカは忍術学校に赴任した当初から、子どもたちとの授業の中で起きた事例を纏め、そしてそれを授業に生かしてきた。
真面目でやる気にあふれたイルカらしいやり方であった。
無論、事例集のかなりの割合がかつての問題児・うずまきナルトに関するモノであった事は言うまでもないだろう。
キバが鍛錬を積む間、相棒である赤丸も、忍犬の里で<
そしてキバと赤丸はその修行を通じて信頼を強め、お互いを念話で繋ぐ事に成功している。
それがどういうことか。
「おっし、赤丸、やるぜ!」
「ウォン!!」
キバをその背に乗せられるほどに、すっかり巨大に育った赤丸がキバの言葉に答える。
キバは印を組むと、
「犬塚流・獣人混合変化!」
を発動した。
本来ならばキバと赤丸は一体化し、強力な技を繰り出す事の出来る相当の狼に変化する。
しかし、今回は融合した様子はない。
キバは赤丸とチャクラを融合し、そうする事で赤丸のチャクラを自分のモノとして使う事が出来るようになったのだ。
これは元々犬塚に伝わる「秘伝・擬獣忍法」と、里に編入された元・音隠れの左近・右近の「双魔の攻」を調査した研究成果である。
元々、獣と人のチャクラは違いすぎる。
下手に取り込むと、人は動物化してしまう事がある。
里の記録にも、虎のチャクラを取りこんで、虎になってしまった男の逸話が残っていた。
それを制御しきって、キバは膨大な量になった赤丸のチャクラを使いこなすことに成功したのだ。
そしてその膨大のチャクラで、
「多重影分身!」
キバはナルトの得意技である多重影分身の術を使ってのけた。
ナルトには劣るものの、その数16。
17匹の赤丸がそこにずらりと揃って居た。
大型犬以上の大きさを誇る今の赤丸が16+1匹。
かなり壮観な光景だ。
初めて見るナルト、サクラは顔をひきつらせている。
これでもチャクラの余裕をもっての数である。
そしてキバと赤丸は念話で繋がっている。
数こそナルトに圧倒的に劣るものの、相互に情報交換のできるキバ達は、追跡任務にうってつけの人材だった。
これら分身の赤丸とカカシの忍犬軍団を、ナルトと護衛の大和、日向の1組に1匹、他の5人に1匹づつ、残りの赤丸の影分身は遊撃として単独行動10匹、に分けて調査追跡を行うのだ。
これだけの陣容を揃えて何故難航しているのか。
相手方であるサスケ達のかく乱が功を奏しているからだ。
忍犬達とキバはサスケの匂いが方々にある事を告げた。
どうやらサスケの匂いの付いたモノを方々に残しているか、何か、もしくは誰かに持たせて移動させているようだ。
その為、忍犬達は連絡係に徹し、視覚強化のされたキバが赤丸の視覚を借りる形での視覚による追跡と、ヒナタの白眼が重要になっていた。
とは言え、ヒナタの白眼も、複数の影分身の赤丸の視覚を借りるキバも、その負担が大きくなっていた。
一旦休みを取らざるを得ないか、今回のリーダーであるヤマトそう考えた時である。
巨大なブルドッグの様な見てくれの忍犬、ブルがナルトの警護に付いていたヤマトに声をかけた。
「おい、ヤマトさんよぉ、気付いとるか?」
「ああ、…ナルト、ヒナタ、分かってるね」
ヤマトは一緒に行動していたナルト、ヒナタに声をかけた。
彼らからの返事を受けてすぐ、
ヤマトは後方に十字手裏剣を幾つも投擲する!
様々な軌跡を描き、手裏剣が飛来していく、が、
それは全て叩き落とされた。
そこには深くマントを被った人物が佇んでいた。
ナルトが声を掛ける。
「お前
それに答えて曰く。
「やはりばれてましたか…」
薬師カブト。
そして、
新生・音隠れの里の精鋭達。
話的に続いた内容なので2日連続投稿となります。