NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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今回は日向家、ペインに関しての独自解釈が入っております。


第67話 ブンブク/木の葉/暁

 ブンブク

 

 せんこぉ~ おまえはぁ~ うそつきいだあ~ なんにもぉ~できゃしねえぇ~♪

 なんて感じの僕、茶釜ブンブクです。

 え、何を黄昏(たそがれ)てるのかって?

 いや、実はですね、折角6代目さまとか、その片腕のシズネさんとかいるんで、医療忍術の基本とか教えていただいた訳ですよ。

 自来也さまはしばらくここを拠点にしてアンコさんを鍛える、とのことで、僕も布団でゆっくり寝られる訳ですが、綱手さまがやっぱり数日お休みを貰ってこの旅館でゆっくりするという事なんでして、それで僕は主にシズネさんに教えを請うた訳です。

 これでもチャクラのコントロールは得意な方なんで、綱手様がいらっしゃる数日間、医療忍術の訓練して貰えたのですが。

 トラブル発生です。

 医療忍術っていうのは忍術の内、治療に特化した技術の総合です。

 様々な忍術、幻術、体術の総合な訳ですね。

 こういった、「いろんな技術をつまみ食いして体系化」するのってのは、まあ、僕の得意分野なのですが、悪い意味で。

 器用貧乏の極みである僕が言うのもなんですが、あ、極みっていうのは良い意味じゃなく、何処まで行っても器用貧乏でしかないって意味ですね、何処まで行っても万能にはなれない。

 それはさておき、その技術の中に、体の中で悪さをしてるチャクラを吸収して取り除いたり、逆に損傷した体を治療者のチャクラをもって再生、回復したりするのがあるんです。

 そう、次郎丸さんの「チャクラ吸引術」の劣化技術ですね。

 で、その内、チャクラを使った回復技術に問題が発生しました。

 

 僕の再生術、狸にしか効果ありません。

 

 ふざけんな~っ!! と喚きたくなる気持ち、分かりませんか!?

 一体自分でも何を言ってるのか分からなくなりますが。

 ちなみに自来也さまとアンコさんにばれた時、大爆笑されました。

 ちくせう。

 まあいいです、多分我愛羅さんには効果あると思いますんで。

 さて、ただ僕も拗ねていた訳ではありません。

 綱手さまがお帰りになった後(また来るそうですが)、自来也さまの指令に従って、いろんなところの調査をしていたんですよ。

 で、ここで大きな成果がありました。

 ホントに偶然なんですけどね。

 なんと、「鬼子母一族の生き残り」を発見したんです。

 鬼童丸さんとこの一族で、大きな蜘蛛を口寄せするのと、蜘蛛にちなんだ血継限界を使う人たちです。

 前に聞いた所によると、雨隠れの里に元々は居たそうなんですけど、長の「山椒魚の半蔵」に目を付けられたらしく、その最初期の頃に逃げ出した数人のみが、山奥の隠れ里みたいな所で暮らしていた、と。

 とは言え、今ここにいるのもおじいさんと孫娘の2人だけだそうで、このまま朽ちていくのも良いか、とか思ってたらしいです。

 で、ボクが自来也さまに掛け合って、彼らを木の葉隠れの里で保護する事になりました。

 まあそれに至るまででにもう色々あったんですけどね。

 一旦木の葉隠れの里の避難所(セーフハウス)に移ってもらって、そこから一般人の振りをして里に移住、という形になりました。

 

 そしてここからが本番です。

 彼らから、「暁」という組織の話を聞く事が出来ました。

 まあ勿論、僕たちが敵対している「暁」とは別組織っぽいんですけど。

 元々は雨隠れの里の半蔵と言う人は、元々は武断派ではあったものの、その武力は忍界を統一し、必要以上に忍が争わないことで平和を実現しよう、ってコンセプトで動いていたらしいんです。

 それが、だんだんと続く戦乱に疲弊して、保身をメインに考え始めた、と。

 元々がえらい優秀な忍であったようで、伝説の三忍がという綽名(あだな)が初めてそう呼ばれたのが雨隠れとの戦いで、その際に半蔵さんからそう呼ばれたのが由来なんだそうで。

 …どうもイメージが違う。

 何か半蔵さんが一気に変わってしまう、少なくともそんなきっかけになったような、そんな出来事があったんではないかって気がします。

 それで、武断且つ保守派の半蔵さん一派が長く里を支配するために、少しでも内部の規律を乱し()()な異端は次々と惨殺していったようです。

 ようです、というのはその辺りから雨隠れの里の情報が本当に入ってこなくなった為。

 辛うじて「根」の情報網が細々と生きているかな、って感じです。

 輸出入も雨隠れの息のかかった業者しか使っていなくて、そこに間者として誰かが入るといつの間にか業者さんごと消滅している、と。

 そう言うのがここ10年以上続いているのです。

 まあ、そう言った情報は雨隠れの里そのものを調べなくても雨隠れの里に出入りしている業者、その取引相手の取引相手を調べれば大体今の雨隠れの里の戦力って概算だけど出せるんですけどね。

 今の雨隠れの里は、はっきり言ってしまえば大した規模じゃない。

 せいぜいが2万人規模という所。

 なので大体戦える忍ってその1割以下だろうと思われるんで上忍中忍下忍合わせて1000人いるかいないかでしょう。

 かつて忍5大国を平定しようとしていた忍里にしてはかなりお粗末な状態です。

 問題は、これが事実なのか、それともそう思い込まされているだけなのか、です。

 少なくとも半蔵さんがまだ支配しているのであれば、多分それは事実。

 鎖国した後どっかで思いっきり方向転換していなければ、有力一族を処分しまくった雨隠れはガッタガタになってるはずで、その状況であれば里の状態の隠匿工作なんてしてる余裕ないでしょうし。

 で、一方こちらの「暁」が主導権を取った、という事でもないと思われます。

 代表者は「弥彦」さん。

 その政治理念(スローガン)は「対話による平和」。

 この時代にどこかずれてる、と言われそうですが、それだけに成し遂げたら凄い事でしょう。

 とはいえ、この理念に沿うならば、雨隠れの里はもっと、というか今とは正反対の開かれた場所になっているはず。

 なのでこの人が政権を取ったというのは考えにくいですね。

 まあありそうなのはこの人が失脚した後に武断派のリーダーがその後釜に座った、て事でしょうかね。

 でもなあ、そう言う武断派(きんにくばか)って、こういう隠匿工作なんてうまくないのが大概だしなあ。

 そもそもそんな事するって発想がない。

 あるとすれば、創始したリーダーに何かあった後、その理念を追求するために参謀役がリーダーに付いたとか?

 で、創始者ほどのカリスマがないんで、無理に無理を重ねた結果、理念置いてけぼりになっちゃったとか?

 なんかちょっと違う。

 

 さて、それでちょっと気になる事があります。

 この話、自来也さまに報告した時なんだけど、

 

 ほんの一瞬だけ、顔色が変わってた

 

 んだよねえ。

 はっきり言っちゃえば、自来也さまってある意味僕の上位互換な訳ですよ。

 忍術幻術体術が高いレベルで完成されてて、それを縦横無尽の戦術と人間観察による最適な戦術の選択で使いこなす。

 そんな人が、僕ごときに表情を読ませる訳がない。

 その後に、

「ワシぁちょっと出かけてくるのォ」

 とか言って、数日の間出掛けていったんだから、なおさらだ。

 よっぽど動揺してらしたのかしらん。

 アンコさんもなんにも知らないらしいし。

 まあ、ともかく、「弥彦」と言う人に関しては僕ももうちょっと調べておこうかな。

 

 

 

 木の葉 日向は木の葉にて

 

 日向家次期当主と目される少女、日向ハナビは柔拳独特の深く腰を落とした状態で、相手と対峙していた。

「はあっ!」

 一息で相手の懐に入り、柔拳独特の二本貫手でチャクラの流れ、経絡を撃ち抜こうとするハナビ。

 しかし相手は鈍重な見てくれの体躯にもかかわらず、ハナビの攻撃をある時は避け、時にはその手首を払い、なかなか攻撃を当てる事が出来ない。

 それもそのはず、今ハナビが相手取っている相手とは、

「そこまでです、ハナビ様。

 一旦休憩を取りましょう」

 元・音隠れの忍である、現・比良山次郎坊であった。

 

 この数年でかなり筋肉質になった首周りに汗を拭いた手拭いをかけ、麦茶を飲みながら、日向本家の一角に据えられた修練場にて次郎坊はハナビと訓練、というよりハナビに稽古を付けていた。

 体術に優れる次郎坊やロック・リーは近年このように日向家において次期当主であるハナビの稽古相手を任務として受ける事が多かった。

 危険も少なく、日向からの支払いも良い。

 日向家としても下手な相手に己の秘伝である「柔拳」を見せる訳にもいかず、そういう点では次郎坊とリーは技術、人格ともに信の置ける相手である、ということらしい。

 もっとも、最近は双方共に中忍となった為、本来であれば引き受けることはまずないランクの仕事ではある。

 しかし、次郎坊もリーも、時間を作っては日向家にやって来て、稽古を行っていた。

 結局の所、2人とも人が良く真面目である為、ハナビを妹弟子として認識し、その成長を喜んでいる、と言ったところか。

「ハナビ様はやはり筋が良い。

 前回よりも確実に体幹のブレが無くなりましたね」

 次郎坊がそう言うと、ハナビは生真面目な表情を向けた。

 とは言え、若干10かそこいらの子どもである、その表情に褒められたうれしさが滲むのは仕方のない事だろう。

「そうでしょうか?

 まだまだ姉上に届かぬ身、実戦も経験しておりませんのに…」

 嬉しさ一転、自分の力が次期当主から滑り落ちた姉に劣る事を思い出し、心なしか自信を失った顔を見せるハナビ。

「むむ…、ハナビ様はちょっと勘違いをしておられますね」

 そのハナビに次郎坊はそう声をかけた。

 その声に怪訝な顔をするハナビ。

 実際、一の実戦は百の訓練に勝るとはよく言ったものだ。

 実戦、こと命の掛かった戦いであるならば、その1戦から学ぶものも多いのだろう。

 しかし、

「実戦の体験を生かすには、やはり稽古を欠かす訳にはいかないのですよ」

 実戦での経験が、即座に形になることはない。

 経験はしょせん経験にしか過ぎず、その経験を自分なりに消化して、己の中に意識的にせよ無意識的にせよ汎用性のある体系に組み込まなければ役には立たないものだ。

 実戦に置いて全く同じ状況(シチュエーション)などある訳がないのだから。

「それに考えてごらんなさい。

 日向において最強のお父上、日向ヒアシ様。

 あの方の強さが実戦で培われたもの、そう思われますか?」

 何を当り前の事を。

 ハナビはそう思ったが、己の信頼する次郎坊の言葉だ、何かあるのだろうと考え、次の言葉を待った。

「良いですか、ヒアシさまは日向の御当主です。

 それだけの人が、常時前線に出ていられると思いますか?

 ましてや日向は『白眼』の家系。

 それが前線に出た場合、その目を狙って有象無象が押し寄せてくるのですよ」

 事実、優秀な忍の家系、特に血継限界を持つ一族の場合、その体は他の里にとって何よりの研究材料である。

 例をあげよう。

 血継限界である木遁、それを発現させることのできた一族の嫡男で()()()千手縄樹。

 彼は現火影である千手綱手の弟として生まれ、将来は千手一族の長となるべき人物だった。

 彼は12歳で死亡しているが、その死骸は、とても見られるものではなかったという。

 木の葉隠れの手練れが彼の救援に向かった時、彼の死体は様々な部位が欠損していた。

 死体そのものを運びつつ木の葉の忍の追跡を逃れるのが難しいと判断した者達が、縄樹の死体を切り刻み、ばらばらに持っていったためである。

 無論その者達は木の葉隠れの里の執拗な追及に全て捕えられ、無残な死に様を晒している。

 忍五大里に手を出すという事がどれだけ無謀であるかが忍界に晒された事件であったが、その後も秘伝、血継限界を持つ一族を狙う者は後を絶たない。

 その当主、当主候補ともなれば、下手に実戦などさせる訳にもいかないのだ。

 

 日向家当主・日向ヒアシ。

 彼は間違いなく日向の一族において最強の忍だ。

 各種戦闘技術もさることながら、彼を最強の位に置いている技、それが柔拳。

 ヒアシは最強の柔拳の使い手である。

 彼から天才と称された日向ネジ、彼ですらヒアシの足下には届いていない。

 柔拳八卦六十四掌と八卦掌回天、この奥義の使い手において、ヒアシを凌ぐ者は存在しなかった。

 八卦六十四掌はその手の届く者であれば確実に倒して見せた。

 八卦掌回天は未だそれを掻い潜り彼の体に致命を与えた者がいない。

 恐ろしい事に、彼の回天は強力なはずのうちはの豪火球すら弾き返したのだ。

 鉄壁の防御に必殺の攻撃。

 しかし、日向家当主として、彼は同世代の忍に比べて確実に実戦の機会が少なかった。

 その彼が何故に「日向は木の葉にて最強」と(うそぶ)く事が出来るのか。

「何故お父様はあれだけ強いのでしょう?」

 ハナビは率直な疑問を次郎丸にぶつけた。

「…ハナビ様は日向の『呪印術』をご存知ですね」

 次郎丸はいきなりそう切り出した。

「ええ」

 ハナビは短くそう告げた。

 日向の呪印術は日向の分家のものたちを縛る鎖だ。

 日向の血継限界である瞳術「白眼」の秘密を守る為のもので、宗家の命、もしくは受けた者の死により発動し、脳の記憶領域と視神経、眼球を破壊する。

 これによって日向本家は分家を支配していると言っていい。

 潔癖なハナビは率直にいえばこの術が嫌いであった。

 本家と分家を隔てる明確な主従関係の象徴であるからだ。

 これの所為(せい)でハナビは分家筋の子どもたちから隔意を持たれている。

 子どもとして周囲の子どもたちと無邪気に遊ぶ事が出来ないというストレスをハナビは稽古にぶつけていると言っていい。

 その元凶である呪印を話題にされて面白いはずがなかった。

 しかし、

「日向の呪印は確かに分家の人たちを『(かご)の鳥』にしているのかもしれません。

 しかしね、ハナビ様、その鳥籠は本当に『自由に逃げ出さない為』だけなんでしょうか?」

 次郎丸はそう言った。

 

 次郎丸は話を続けた。

「呪印は日向の人達を縛る鎖であると共に世界の悪意から身を守るための鎧でもある」と。

 先にあげた千手の例を取っても分かるように、血継限界の者は常にその命を狙われていると言って良い。

 ならば命を狙われたとして、相手がその労に比して得るものが少なければどうか。

 具体的に言うなれば「白眼目当てで日向を殺したものの、その者の死と共に白眼が廃棄されてしまう」という状況で日向の者を狙う輩がどれだけいるか、ということだ。

 日向はこの呪印を刻まれている、そのことを周知させることでその他の血継限界の者達よりも個人的な襲撃を押さえ、より前線に出る事が出来るようになっているのだ。

「そしてこの前線に出る、というのが重要なんですよ」

 日向の者たちの戦い方は「白眼」で経絡を見切り、「柔拳」でその経絡を断ち切ることで相手を倒す。

 その戦い方は他の名家の者たちと比べてより画一的だ。

 武術の流派に近いやもしれない。

 そして戦い方が近いということは、生き残って戻ってきた日向の者達から、戦いの経験が収集できるということ。

 彼がどう戦い、どう倒したか。

 どのように苦戦し、どのように傷ついたのか。

 その経験を一族で共有し、柔拳における戦い方に帰還(フィードバック)する。

 日向の忍は通常の忍とは違い、武術の流派の如く己の技術に過去の日向の者たちの技術を取り込む事が出来る。

 忍の世界での常識は、術は師匠より覚えるものだが、その使い方、戦術は己の秘匿事項である。

 忍はその一生をかけて戦い方を模索する訳だ。

 一方日向は基本の戦い方が一緒であり、武術の如く日向の家が続く限り戦いの経験が蓄積されていく。

 そしてその蓄積を一身に背負っているのが、

「…お父様、という訳ですね」

「その通りです」

 次郎坊はハナビの言葉に大きく頷いた。

 ヒアシは稽古を欠かさない。

 同時に研鑽も欠かさない。

 ヒアシは実戦に出た日向の者達が帰還すると、必ず一度本家に呼ぶ。

 そしてどのように戦ったのか、それを守秘義務の範囲内で語らせ、場合によっては実際に手合わせをするるのだ。

 ある意味、実戦に出る事のできない本家の者は分家の者に負けず劣らす籠の鳥なのかもしれない。

 それでも「最強」の言葉を具現すべく、ヒアシは研鑽するのだ。

 その結果の1つが、茶釜ブンブクを巻き込んで完成させた「八卦掌回天・梅花」「八卦双掌・桜花」である。

 ヒアシは己、ではなく、日向という一族を強くすることを望んだ。

 自分の子どもたちにきつく当たるのもそう。

 彼女らに死んでほしくない、その思いから。

 彼の人生に置いて、大事な何かを失い続けた経験は彼を強くした。

 彼の強さは後世に引き継がれるべきものであった。

「…休憩が長くなりました、次郎丸、手合わせの続きを」

 何かを感じ取ったようなハナビの表情を、ふっと温かい目で見てから次郎坊は立ち上がった。

 

 

 

 暁 ペイン始動

 

 ペイン、正確にいえばペイン天道は雨隠れの里にあるひと際高い塔、その中でも特に小南以外が入ることを許されていない隠し部屋にいた。

 ペインとは、人間の死体を元にして、チャクラを以って動かす一種の傀儡(くぐつ)である。

 彼の体に突き刺さった黒い杭は、操り主である忍の意を受ける為の受信装置であり、操り主以外のチャクラをかく乱する妨害装置でもあった。

 ペイン天道は隠し部屋に目をやる。

 そこにはずらりと異様な器物が安置されていた。

 ガラス張りの棺桶、とでも言うべきもの、それが数十。

 透けて見える中には、老若男女、性別も年齢もバラバラな者達が入っていた。

 これらはすべて死体。

 この死体は操り主の意を受けて、ペイン六道として活動する。

 そう、ペインとは6体の死体傀儡の総称でもあるのだ。

 これらは操り主の忍術により瞳術の最高峰である「輪廻眼」を所持し、また六道の名の通り、餓鬼・人間・畜生・地獄・修羅・天の6種類の世界を模した名を持ち、それぞれに特殊な術を操り主より付加される。

 ()()()()()

 それはつまり、元の死体の能力が高ければより強いペインになる、ということ。

 故に、ペインは金に糸目をつけず、優秀な忍の死体を闇市場より買い取っていた。

 その際、損傷が無ければないほど良い。

 死体の損傷が激しければチャクラによりその部位を再生、復元する必要があるからだ。

 とは言え優秀な忍ほどその戦いは苛烈になり、損傷はひどくなる。

 その為、優秀な忍ほど復元に時間がかかり、その為あまり使用する事が出来ないという状態に陥るのだ。

 今、操り主の手元にある死体で使えるのは天道を含めて10体。

 その確認が終わった時、ペインの感覚に不快な反応が感知された。

「…とうとう、来たか」

 その感覚は、雨の降り続く雨隠れの里に張り巡らされた術によるもの。

 ペインたちの排除した旧雨隠れの残党。

「山椒魚の半蔵」配下の生き残りだ。

 そのほとんどは血縁、友誼の関係を含めてペインが殲滅したが、それですらまだ目の届かない所にその勢力は残っている。

 どうやらその全てをかき集めてペインを殺しに来たのか。

 ペインは何も感じない。

 感じているのは操り主だ。

 操り主の不快を感じ取り、ペインは彼らの殲滅を決定した。

 とは言え、雨隠れの忍を使うつもりはない。

 人数として上忍28名、中忍196名。

 中には雨隠れ随一と言われた猛者もいる。

 しかし、今ペイン達は大きな作戦の準備中だ。

 ペインを全部出撃させる訳にもいかない。

 死体は自己修復などしない。

 戦闘で破損すれば、この修復槽で再生をしなければならない。

 むやみに使う事が出来ないのであれば…。

「手錬れを、ぶつけて速やかに()()すべき…」

 ペインはペイン六道の内、餓鬼道、人間道、地獄道として3体の死体に術を施した。

 修復槽がバクン、と開き、3人の男が立ち上がった。

 

 かつて己達が統べていた筈の雨隠れの里。

 それを取り戻すべく、動き出した「半蔵一派」の残党たち。

 ここで押し切る事が出来なければ破滅だ。 

 その為にできる事は全てやってきた。

 効果は高いものの、副作用がひどく、後々まで後遺症の出るような丸薬を中忍全員に飲ませてある。

 無論上忍達の内、戦闘力の弱い者にも同様のものが処方されている。

 必勝を期して潜入した中央にある広場。

 そこで彼らは妨害者と鉢合わせする事になる。

 その数わずか3名。

 戦闘にいた男が彼ら・半蔵一派の残党に宣言した。

「神の裁きを受けよ、汝ら死すべし」

 戦いが、始まら()()()()

 

 それは戦いと呼べるものではなかった。

 まさしく一方的な殲滅。

 秘伝の丸薬により、この時だけは上忍に匹敵するチャクラと身体能力を引き出されている196名と、上忍の中でも暗部に抜擢される実力を持った12人、そして丸薬によって死と引き換えにそれらと互角の力を引き出した16名が鎧袖一触という言葉がふさわしい扱いをされていた。

 最初の一手、右にいた忍が印を組み地面に手を当てると広場に亀裂が入った。

 残党連の足場が崩れ、動きが鈍る。

 土遁・裂土転掌の術であるが、その範囲は広場を丸々飲み込むほどのものだ。

 更にそこから岩の柱、いや、切っ先がとがった岩の槍だ、が無数に飛び出し、中忍達を貫いていく。

 土遁・土流槍の連打だ。

 つきだした岩はそれ自体が障害物となり、数で勝るはずの半蔵一派の動きを封じる。

 それで終わりではない。

 更に印を結んだ男の手が再度地面を叩いた時、天高く向かって伸びていた巨岩が、あまりにもあっさりと倒壊した。

 それになすすべなく圧殺されていく中忍達。

 土遁・岩宿崩しの術により、ほぼ全ての中忍が惨殺された。

 戦闘が始まってわずか20秒ほどの間の事である。

 いくら性質変化の相克で雨隠れの忍が得意とする水遁が土遁に弱いとはいえ、あまりの実力差。

 この世界において数は絶対ではないことの現れであった。

 しかし、戦いはこれからが本番。

 上忍同士のぶつかり合いで劣るつもりは半蔵一派にはなかった。

 中忍達は上忍達の壁。

 そう割り切って戦闘に臨んでいる。

 故に、ここを突破して現在の支配者であると目されているペイン、正確にはペイン天道を仕留めればこちらの勝ちだ。

 彼らはそう考えている。

 それが見当違いもはなはだしい事に気付かずに。

 死にゆく中忍達を無視し、上忍達は3人の男たちに迫る。

 と、

 戦闘を行く上忍の1人の首が、ころりと落ちた。

 左にいた忍がいつの間にか印を組んでいた。

 風遁・風切りの術だ。

 不可視の刃が空を切り、相手を切り裂く。

 しかしそれを上忍にすら気取られぬまま発動させるとは。

 一瞬、上忍達の意識が落ちた首に向く。

 それで十分。

 中央の男が上忍達に向かって走り出した。

 今度は意識が中央の男に向いた。

 その瞬間である。

 最後尾にいた上忍の首が異様な角度にねじ曲がった。

 いつの間にか左にいた忍びが上忍の一団の最後尾に回り込み、最後尾の上忍の首をつかみ、捻ったのである。

 無論その状態で生きている者などいない。

 更に忍は背後から1人、2人と音も立てずに始末していく。

 戦闘にいたこの集団を率いている手練れの上忍はその事に気づいていた。

 しかし、まずはここを突破し、ペインの首を取る、その事だけを念頭にした彼は、

「正面を突破する! 援護せよ!!」

 己の使える全ての力を以って正面の敵を粉砕すべく全力での瞬身を行い、そして正面の忍に風車手裏剣の一撃を加えようとした。

 周囲にいる上忍達も各々手裏剣やクナイなどの飛び道具で総攻撃を援護する。

 その時、

 突風が吹いた。

 その風に押されるように巨大な風車手裏剣が弾かれる。

 手練れの忍は辛うじて見えていた。

 中央の忍が全く挙動を見せずに凄まじい勢いで回転し、己の得物と、20を超す飛び道具とを叩き落としたのを。

 さすがに驚き、動きの止まる一団。

 それを見逃す左側にいた忍ではなかった。

 一団の後ろから首の後ろ、ぼんのくぼと呼ばれる部分へ一撃必殺のクナイが飛び、脳幹を破壊する。

 ここまでが高々1分程だ。

 そう、1分程で200名を超える忍が、しかもその実力は丸薬によって全て上忍クラスまではね上げられた者達が手練れの上忍1人だけになってしまっていたのだ。

 しかし、ここで止まる訳にはいかない。

 必ずやペインを仕留め、半蔵の無念を晴らす。

 その為にも、

「貴様はここで死ねい!」

 動きの止まった中央にいた忍に、彼は致命の忍術、水遁・水牙連襲弾を放ち、

「何!?」

 その全てが忍びの掌の中に消えた。

「馬鹿な!」

 上忍は驚愕した。

 確かに、忍術を吸い取る忍がペインの側近にいる事は知っていた。

 上忍とて、かつては半蔵の傍に使え、ペインたちの戦いぶりもその目で見ている。

 しかし、その時にこの術吸収の術を使っていたのはこの男と似ても似つかぬものであった。

 このような特異な術、そうそう誰でも使えるものとは思えぬが…。

 そう考えたのも半瞬、咄嗟に忍び刀での抜き打ちに切り替えた上忍の必殺の一撃、それが男に当たらんとする…その時、上忍は、

 

 倒れた。

 

 いったい何が起こった!?

 手練れの上忍はその前に起こったことを思い出そうとする。

 そうだ、斬りつけようとしたその瞬間、深く沈みこんだ標的が、二本貫手を叩き込んできたのだった。

 その数、63打。

 撃ち込まれる度に体を衝撃が走りぬけ、止めの掌打を胸に受けたとき、一気に力が抜けた。

 まるでチャクラがなくなったかのように。

 地面に倒れ込んだ手練れの上忍。

 そこに、土遁で中忍達を壊滅に追い込んだ忍が近付いてきた。

 指一本動かす事も出来ない、その彼の頭を、忍がむんずと掴んだ。

 何かが体から抜けていく感覚。

 だんだんと冷え込んでいく体を感じながら、彼は永遠の眠りに就いた。

 

 (しば)しの後。

「…これで『山椒魚の半蔵』の一派は完全に駆逐されました。

 皆は今後もペインを裏切らぬように。

 ペインは常に貴方方を見ています」

 小南はペイン人間道からの情報を以って半蔵一派の最後の拠点を殲滅する指揮を取り、全ての命を刈り取った後に配下の雨忍達に伝えた。

 さあ、ここからが本番だ。

 後顧の憂いは完全に絶った。

 ここからだ。

 さあ、「第二次木の葉崩し」を始めよう。

 雨隠れの里はこれより木の葉隠れの里への侵攻の準備を始めることとなる。

 全ては七尾と九尾、2体の尾獣を捕える為に。




次回、茶釜ブンブク出番なし。
「なんでさあっ!!」

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