NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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第1部 第1章 中忍試験、木の葉崩し編
第4話


 その日、僕はいつもの学校帰り、商店街を抜けてうちに帰ろうとしていた。

 その時、丁度里の入口あたりだろうか、何か騒ぎが起きているようだった。

 まさか…

 またうずまき兄ちゃんがやらかしたのかしらん。

 最近は任務が多くなった関係で、あんまりバカなことしなくなってたんだけどなあ。

 兄ちゃんってばあこがれのサクラ姉ちゃんと一緒の班だし、一方的ライバルのうちはサスケさんとも一緒だから「オレはもうくっだらねえイタズラなんかしないってばよ!」って言ってたんだけどなあ。

 まあうずまき兄ちゃんもそうなんだけど、もしかしたら木の葉丸くんかしら。

 自称兄ちゃんのライバル、猿飛木の葉丸くん。

 名字でわかるとは思うんだけど、あの三代目火影・猿飛ヒルゼン様の孫に当たる子だ。

 さすがは猿飛の家系というか、僕より3歳年下なんだけどすでに変化の術を使いこなす次代のホープである。

 なんだけどね、一時期兄ちゃんに感化されて火影様に「うずまきナルト謹製おいろけの術」をぶちかましたりしてたということで、学校でも要注意人物だったりしなかったり。

 一時期問題児の矯正ははイルカ先生に、とかいう話もあったらしく、イルカ先生は胃を抑えていた。

 もしかしたら、僕らが卒業した後はイルカ先生が彼の担当になるのかもね。

 そうなったらよく効く胃薬を先生にプレゼントしなくては。

 そういうのは油女シノさんの家が得意なんだよね。

 原料とか虫の胃液だったり分泌物だったりするけど。

 さてと、何があったのやら…。

 ちょっと言ってみましょうかね。

 

 その現場に行ってみると。

 なんというか修羅場? そんな感じ。

 うずまき兄ちゃん、サクラ姉ちゃん、それから多分その脇にいる美形がうちはサスケさん。

 サクラ姉ちゃんが盛り上がるの分かるね、なんか孤高の人って感じ。

 テレビの「超忍戦隊ホノレンジャー」だと、ブラックの役回りだよね、ほら、主役の三人がピンチになるとどこからともなく助けにやってくるクール系のお助け要員。

 サブストーリーとして別個のエピソードがあるやつね。

 忍者学校にいた頃からファンクラブ見たいのがあったしね。

 一時期、山中いのさんにファンクラブ会誌のまとめ手伝うようにお願い(きょうはく)されてたっけ。

 あれ大変だったんだから。

 ホントはサクラ姉ちゃんに頼むつもりだったのが、ライバル宣言されてまたそれを真っ向から受けて立っちゃったもんだから引っ込みがつかなくなって、そのしわ寄せが僕んとこに来た形。

 めんどくさがりのシカマルさんと付き合いのいいチョウジさん、いのさんと僕で一生懸命仕分けしたんだよね。

 ってか、ファンクラブ2号にサクラ姉ちゃんいたんだから、手伝ってもらえばよかったのにと思うのも今はいい(?)思い出である。

 彼らが、ちっこいの3人の前に立ちふさがり、って後ろのは件の木の葉丸くんおよび初等部の同級生の子たち。

 対峙しているのはなんというか強者(つわもの)オーラばりばりの3人組。

 里では見たことがない人たちだ。

 っていうかこんな濃い人たち一目見たら忘れないって。

 1人目、髪の毛を4か所でくくった気の強そうな女の子。

 これだけならともかく、どうも得物らしいでっかい扇子を構えている。

 でっかいったって限度があるでしょ、忍者刀位あるよ、あれ。

 明らかに特異な得物でしょ、あれ。

 なんか風遁使ってものすごい風を起こしそうだ、もしくはあの上に乗って風に乗る、とか。

 うわっ、いいなそれ、僕も空飛んでみたい!

 …空想に浸ってどうする、僕。 忍は現実を見ないとね、現実に縛られてもいけないけど。

 2人目、一言で言うと隈取黒子(くまどりくろこ)

 …いや、だからさ、ホントなんだって! 黒子の衣装を着て、顔に隈取したお兄さんなんだって。

 忍んでるんだか忍んでないんだかよくわかんない人。

 で、傍らには布を巻いたこれまたでっかい忍具。

 ずいぶん重そうなんだけど、なにが入ってるのか非常に気になる。

 木の葉隠れの忍は大きくても風魔手裏剣とかだし、大型の忍具を持ってる人って見たことないんだよねえ。

 うち? うちですか? 地味ぃなのばっかですよ、それがなにか?

 棒手裏剣とか(十字手裏剣さえ使いませんがなにか?)寸鉄とか(地味忍具の代表ですが以下略)忍者刀も小太刀レベルまででこれが一番大きいかも。

 そんな感じなので、この人が予選突破したらぜひ本選は見に行きたいですね。

 ほいでもって3人目。

 この人が1番、…なんというか印象的。

 そっか、この人が…。

 ま、僕の印象はともかく、この人も得物がでっかい。

 背丈と変わらない位にバカでかいヒョウタンを持っている。

 名前呼ばれたら吸い込まれるのかしら、そんな話がどっかにあったような。

 あまり背が高くない人なので、ヒョウタンのでかさが際立っている。

 そしてその目。

 ろくに寝ていないのか、目元にひどいクマができている。

 その瞳は、なんて言うのかな、数年前のうずまき兄ちゃんがそのまま育ったらこんな感じじゃないだろうか、と思える…

 なんとも僕にとっては腹立たしい目をしていたのである。

 

 にらみ合っている6人+ちみっこ3人(おまえもちみっ子だと、余計な御世話だ!)のところに言って開口一番。

「うずまき兄ちゃん、何やらかしたの!? 外の人に迷惑かけちゃだめじゃない!」

「うぇっ、ブンブク!? 違うってばよ、こいつらが…」

「ほっほう、んじゃサクラ姉ちゃんに聞くね、なにしたの? うずまき兄ちゃん」

「えっとね、その…(事情説明中)」

「別にオレたち悪くねえってば、これ(補足という名のチャチャ入れ中)」

 ふむふむ、つまり姉ちゃんを怒らせた兄ちゃん+木の葉丸くんが、里の外の人にぶつかって、さらに罵声を浴びせた、それから睨みあいになった、ということですな、うんうん。

 僕は兄ちゃんと木の葉丸くんを指差して言った。

「ユーアーギルティ」

「どういう意味だってばよ?」

「有罪」

「なんでだってばよ!」

「分かんない方がおかしいでしょ! 明らかに喧嘩売ってるのこっち側じゃん!

 ただでさえぶつかって謝ってないのこっちなのに、さらに悪口で返しちゃだめでしょ!

 さらにそっちのお兄さん、サスケさんでいいのかな、お兄さんなんて完全に巻き添えじゃない!?

 ただでさえ中忍試験で里に来る人たちピリピリしてんだからもっと気持ちよく迎えてあげようって思わないわけ!?

 おもてなしの心を忘れちゃだめでしょ!!」

 ぜーぜー…。

 さて、ここは一気に押し切るべし!

 さらに僕は相手の3人組にも頭を下げた。

「すいません! うちの兄ちゃんたちが失礼をしました。

 ほんっとにごめんなさい、ゆるしてくださいっ!」

 相手の人たちは毒気を抜かれたように、

「え、いや、だいじょうぶよ、ほんとに」

「お、おうっ、問題ないじゃん」

 と言ってくれた。

 良し、これで問題解決ってことで…。

「ふん、五車の術か、小賢しいな…」

 寝不足さん(仮名)にずぱっと言われた。

 はい、その通りです。

 うわ、あっさりばれたよ、ちょっとショック。

「? ごしゃってなんだってばよ?」

 うずまき兄ちゃんェ…。

 確かに、最近の忍だとパワーファイトが中心だけどね。

 乱破(らっぱ)素破(すっぱ)なんて忍が呼ばれてた時代から、情報収集、情報操作は僕らの仕事なんだよ。

 そこで活躍するのが情報収集と撹乱をするための交渉術でしょ。

「五車の術」…これは会話などで相手の感情を操作する術である。

 相手を喜ばせ、精神的隙を誘う喜車、怒らせて冷静さを奪う怒車、相手の同情を誘う哀車、自慢話などでやる気を削ぐ楽車、恐怖心を利用する恐車、この会話術の総称である。

 ってイルカ先生に習ったでしょ、もう。

 サスケさんなんて「このウスラトンカチが」ってボソッて言ってるし、むしろ兄ちゃんより僕が傷つくわ、ほんと。

「同情を誘うように先ず味方を罵倒し、テマリたちの意識がそこのバカどもに移ったところでさらに謝罪を重ねて譲歩を引き出したわけか、歳の割には大したものだ」

 睨まれてるよ、睨まれてるよ、こわぁ。

「まあいい、おいお前、宿まで案内しろ、それで術を仕掛けたことの対価としてやる」

 ほっ、助かったようです。

 やっぱり名前とか最初に名乗らなくてよかったのかしらん。

 有無を言わさず瓢箪に吸い込まれそう、そして適度に溶かされて食べられちゃうのかしら。

「あい、了解でっす。 うずまき兄ちゃんたち、んじゃまた後でね」

 僕は、3人組(多分額当てから砂隠れの下忍)の案内をすることになった。

 

「んじゃお宿に案内しますね、指定されている宿とかあるんですか?」

「おう、あるじゃんよ。」

 隈取黒子さん(仮名)が今日から泊まる宿を教えてくれた。

「あ、ここならすぐ近くですよ、ええっと… 先ず僕から名乗りますね、僕は木の葉の里忍術学校5年生の茶釜ブンブクです」

「…ぶんぶく、だと?」

 …? 寝不足さん(仮名)がぼそっと言った。

 なんだろ、そんなに珍しい名前…だね、うん。

「そうか、俺は砂隠れのカンクロウじゃん、でこっちが…」

「姉のテマリよ、よろしくね、坊や」

 そんなに年が離れてるわけじゃないとおもうんだけど…。

 テマリさんって15、6歳くらいだよね、もしかして童顔?

 って、まさか!!

「あの、僕今言いましたよね、()()()()()()()って」

「ああそうね、って… え!? キミ11歳なの? てっきり8歳くらいかと…」

 それはいくらなんでもひどくない!?

 カンクロウさんも、さらには寝不足さん(仮名)すら驚きを顔に出している。

 そんなに僕は子どもっぽいでしょうかね。

 そろそろヤサグレてもいいとおもうんだ、僕。

「くっ」

 あ、寝不足さん(仮名)笑ったし。

 ? テマリさんとカンクロウさんはなにを愕然としてるのかな?

「そ、そんな…」

我愛羅(があら)が笑ったじゃん!?」

 そんなに珍しいことなんですか?

 笑ったことなどなかったかのようなポーカーフェイスの寝不足さん(仮名)。

「おい」

「は、はいっ」

 なに、俺の笑い顔を見たやつは生かしておけん、とか?

 そういうのじゃないよね、ね!

「…我愛羅、砂瀑(さばく)の我愛羅だ」

 へ? ああ、自己紹介か。

「あ、はい、よろしくお願いします」

 ボソボソ「あの我愛羅が、殺す気じゃない相手に名乗りをしてるじゃん」

 ボソボソ「信じらんない、実はあの子ものすごく強いとか?」

 聞こえてますよ、お二人さん。

 別に強くないですよ、うちは古いだけでショボイ一族ですから。

 自分で言ってて傷つくけれど、ま、事実だしなあ。

 少なくとも風の国が自身を持って送り出した砂隠れ期待のルーキーに気にされるほどではない。

 彼らはうちの里で言えば、うちはサスケさんや日向ネジさんに相当するのだろうから。

 中忍試験って試験とは付いているけれど、実質はお互いの里の実力を示すお披露目会みたいなものだから。

 本試験には各国の殿様や有力氏族の人も来るわけで、そのお歴々の前で「うちはこんなにすごいんですよ、だから補助金もっとちょうだい、お仕事もっとちょうだい」とアピールする場でもあるわけですよ、生臭いことに。

 うちの一族は火の国の殿様の肝いりで、定期的に召抱えが決まっているわけですが(既に僕の代は埋まっていますよ、残念なことに、永久就職の機会があぁ(涙))、この事で木の葉隠れの里は火の国から補助金をもらっている。

 ある意味うちの一族は火の国の殿様限定のブランド犬みたいなものですね。

 そういうのがない里の場合、どれだけ自分たちが有用なのかを国の内外、特に国外に知らしめる必要があるわけですよ。

 は? なんで()()に知らせる必要があるかって?

 それは、びびってもらうため、かな。

 他国の殿さまに対して、うちの里には未熟なレベルでもこれだけの戦力があるぞ、うちの国に喧嘩を売るのは割が合わないぞ、と脅しをかけるわけですよ。

 そのために、中忍試験には、特に見栄えのする、ある意味イロモノーな人たちが集い、ド派手なバトルが繰り広げられるわけです。

 ジミーな人たちには機会はないのでしょうか… 大丈夫か、僕。

 一生下忍とかさすがに嫌なんだけど。

 そういえばおっとうとおっかあってどうやって中忍になったんだろ。

 とてもじゃないけど本試験とか勝てる気がしない。

 だってさ、この我愛羅さんとか、サスケさんとかが若かりし頃のうちのおっとうと当たったりしたら、おっとう瞬殺されてそうだし。

 絶対おんなじ世代にうちはとか日向とかいたよね、間違いなく。

 …ネガティブになっても仕方ないし、ここは忘れよう、棚上げだ棚上げ。

 あ、そうこうしてるうちに宿に着きそう。

「あそこんとこですよ、さっき言ってた宿って」

「そうか…、御苦労」

 我愛羅さん偉そうだな、やっぱりこの3人のリーダーなのかな、どっちかってと恐怖政治みたいだけど。

 テマリさんもカンクロウさんも我愛羅さんの一挙一投足にびくびくしてるし。

 格が違うって感じだろうか、うずまき兄ちゃんとサスケさんみたいな。

 どっちが格上かって、聞かないどこうよ、うずまき兄ちゃんの名誉のために。

 さて、宿に着いたし。

「それじゃあ僕はこれで。中忍試験頑張ってくださいね、っと僕が言うまでもないかもだけど」

 ぺこりと頭を下げて帰ろうとすると、

「おい」

 我愛羅さんが僕を呼びとめた。

「はい?」

 僕が振り向くと、目の前に柿が1個落ちてきた。

 僕はそれをキャッチした。

 もしかして我愛羅さんがくれたの?

「里の入口で買った。

 うまかったからやる」

「あ、どうもありがとうございます」

 入口のところだとゴヘイさんのところの奴かな?

 確かに甘くて美味しいんだよね。

 僕はも一度ぺこりと頭を下げるとうちへの帰路に着いたのだった。

 

 

 

「我愛羅が食べ物をあげるとか、おかしいわよ、私だってもらったことないのに」

「確かにそうじゃん、絶対あのガキなんかあるぜ」

 砂の三兄弟のうち、上二人は末子である我愛羅の異変を心配していた。

 これから音隠れの忍との連携による大作戦「木の葉崩し」を決行する、という段になって、砂隠れの主戦力である我愛羅に問題が発生したとなれば、里の面子にもかかわりかねない。

 そもそも今回の同盟相手である音隠れの里は忍界における特A級の危険人物である大蛇丸の支配下にある。

 下手を打って砂隠れの忍をなめられるようなことがあれば、奴は必ずこちらの喉元に食らいついてくるだろう。

 あれはそういう存在だ。

 そんな状況で「一尾の人柱力」に異常が起きたとなれば、大蛇丸が一尾の力を奪いに来るのは目に見えている。

 とはいえ我愛羅に直接問いただすのは恐ろしい。

 我愛羅の機嫌を損ねれば、命がない。

 我愛羅は他者の命を奪うことにためらいがない。

 我愛羅は他者を殺すことで自身の生を認識しているのだ。

 そう本人も言っているし、周囲の者も我愛羅の日ごろの行動によってそれを実感していた。

 そう、本人も周囲の者も()()()()()いるのである。

「おい」

「ひっ」「うおっ」

 2人は唐突に我愛羅から声を掛けられ、あらぬ声を挙げた。

「なにを動揺している、殺すぞ」

 いつもの我愛羅の受け答え、2人は恐怖を感じつつも我愛羅の様子が平常運転なことに安心する。

「里に連絡を出せ、調べたいことがある」

「なにかしら、我愛羅」

「茶釜という一族と、ブンブク、という名前だ」

「! やっぱりあの子に何かあるの?」

「…そうか、お前たちは知らないのか…」

「なんの事じゃん?」

「知らんならいい、これ以上は無駄だ…」

 我愛羅はそう言うと、これ以上の会話を拒否するように瓢箪を抱えたまま外の景色を見始めた。

 テマリ達は不安と不満を抱えたまま、砂隠れの里へと連絡を飛ばしたのであった。

 

 

 

 砂瀑の我愛羅。

 砂隠れの里の下忍にして里の長である現風影の末子。

 そして上忍すら蹴散らす実質上砂隠れの里の最大戦力。

「尾獣一尾の守鶴」をその身に宿すこの世にたった九人しかいない人柱力の少年である。

 本人は自身に憑いているものを「里の老僧の悪霊」と認識しているようなのだが。

 彼は今、木の葉隠れの里の宿にて兄弟たちと休息を取っていた。

 といっても、彼には本当の意味での休みを取ることはできない。

 ここで睡眠を取ってしまうと己の中の怪物が自身を乗っ取ってしまう。

 ここで「砂の化身」が暴走しても我愛羅が困ることはない。

 木の葉隠れの里が更地になったとしても我愛羅が何か思うようなことはないのだ。

 しかし、己を乗っ取られるという恐怖は我愛羅に大きな精神的、肉体的負担を強いてきた。

 生まれてこのかた心安らぐ時は母の胎内にいた時間、そして母の弟である夜叉丸が生きており、共に暮らしていた時間であった。

 それも、夜叉丸の裏切りによって絶望の記憶となったのではあるが。

 結局、自身が周囲に望まれたような存在でないことがこの不幸、絶望の始まりであり、どうせその過去、現在は変えられない。

 なれば未来も変わるまい、変わらぬ世なら信じるのは自分だけ、愛するのは自分だけでいい。

 そう我愛羅は考えていた。

 しかし、そもそも、我愛羅が自身ののみ愛するような、そんな存在であるなら、このような虚無的なことは考えるまい。

 彼は自分しか見ていないのではなく、自分しか見ないように、目を閉じ、耳を塞ぎ、自身の殻に閉じこもることで周囲の悪意から身を守っているのだ。

 まるでかつてのうずまきナルトのように。

 ナルトと我愛羅は境遇も似ていた。

 どちらも親から尾獣をその身に憑依させられ。

 どちらも親から愛情を受けられず。

 どちらも周囲の悪意にさらされ。

 しかして双方はまるで光と影のごとく違う。

 もしナルトの周囲に彼を支えるものたちがいなければ。

 もし我愛羅に夜叉丸のような支えがもっとあれば。

 彼らは良くも悪くも同じ存在となっていたかもしれない。

 だから彼らは戦う運命にあった。

 尾獣の人柱力でなく、一個の人となるために。

 しかし我愛羅の視界にうずまきナルトはまだいない。

 その意識にあるのはうちはサスケ。

 あの目は自身の目と同じだ。

 真の意味での孤独を知る目。

 俺と同じで漆黒の孤独と憎悪の中にどっぷりと浸かった泥のような目だ。

 隣にいたばかばかしいほどきらめいた目を持った少年。

 あんな眼をした人間には絶対に分からない、人の心の奥底にあるでろでろとしたタールのような汚い感情は。

 かつてナルトがその感情しか持ちえない者であったことなど我愛羅には想像もできまい。

 今の彼は他者を理解することを拒否しているのだから。

 そしてもう1人。

 先ほどまで一緒にいた少年、茶釜ブンブク。

 彼と目を合わせた時、我愛羅の中の何かがぐずりと揺れた。

 まるで腹の中にたまった砂山が蠢いているかのように。

 そして我愛羅の古い記憶にも触れるものがあった。

 己の中に住まう砂の怪物、一尾。

 砂隠れの里にいた怪僧の名前であるがそれとは別にもう1つ名前が伝わっている。

 それが「分福」である。

 どちらが正しいのかは分からない。

 ただ、ブンブクを名乗る少年と、同じ名を持つ化けものを宿した自分。

 自分たちが出会ったのはただの偶然なのか。

 もしかしたら自分に着いた怪物を制御する一助になるやもしれない。

 本人は気付いていないだろうが、そう思ってしまうくらいには実のところ我愛羅は追い詰められていた。

 このままではそれほど時を置かず我愛羅は狂死し、尾獣は枷を外されるであろう。

 その時こそ、世界は終わりを迎えるかもしれない。

 我愛羅は意識していないが、彼の終わりは刻々と迫ってきている。

 そのことに気づかず、我愛羅はサスケとブンブク、2人のことを意識の端に留めながら晴れ渡った空を眺めていた。

 

 

 

 闇の底。

 なにもない「精神の檻」。

 そこに巨大な()()()が在った。

 大きく、それ以上に醜悪な力に満ち満ちた何か。

 久しく動くことのなかった()()が、何かを感じ取ったようにもぞりと蠢いた。

 揺れている。

 大きなものが揺れている。

「…しっ…ししっ…」

 これは、笑っているのだろうか。

 大きなものが揺れている。

「この…

 気配は…

 そうか…

 あれは…

 また会えるとはな…

 ししっしゃっしゃははは…」

 大きなものは闇の底で楽しそうに笑っていた。

 

 

 

 砂隠れの里にて。

「ふうん、ブンブク、ねえ」

 里の最も警戒厳重な建物、つまり風影の居城であるところ、その更に最も奥まったところにその者はいた。

 全身を包む砂漠の民独特の服装、そして「風」の文字の入った陣傘。

 その姿こそ現風影、我愛羅たち三兄弟の父親である。

 少なくとも、その外見だけは。

 しばし前より、その中身はとある人物により乗っ取られていた。

 大蛇丸。

 木の葉隠れの里にて三忍と謳われし忍界の猛者にして里抜けの大罪人、そして忍術を極めんとするあまり永久不滅を求める狂忍学者(マッドシノビスト)である。

 彼は風影なれば決して浮かべぬようなサディスティックな笑みをたたえ、一人思案していた。

()()茶釜一族の、ねえ」

 忍術を極めんとする彼は血継限界についても造詣が深い。

 木の葉隠れの里の者のみならず、さまざまな血継限界を持つものを捕え、調べ、解剖してきた。

 その興味はもちろん茶釜の一族の血継限界にも及んでいた。

 里にいたころから、大蛇丸は茶釜一族の住居に侵入し、その遺品? 遺体である什器を数個盗みだしていた。

 なにせ、墓を暴いたとしても、この一族、墓には何も入っていないのだ。

 大蛇丸の秘儀、口寄せ・穢土転生にしても、遺体が残らないのであれば術の前提そのものが満たせない。

 なればということで本来遺体であるはずのものを盗み出してみたところ、これが何の変哲もない器にすぎなかった。

 そう、せめて人の亡骸であるならその人を構成していたチャクラを感知できるというのに、盗み出してきた什器からは、ただの金属の器であるという以上の調査結果が出てこなかったのである。

 さすがに腹が立ったので器を叩き壊そうと考えていたところ、器を安置していたはずのところには、別のものが置いてあった。

 

 信楽焼の狸の置物。

 

 あれを見た時、一瞬大蛇丸の視界は真っ白になった。

 次の瞬間、自身でも信じられないほどの怒り、激怒が大蛇丸を襲った。

 あの時は自来也に八つ当たりをして鬱憤を晴らしたが。

 謎の力を使いこなす茶釜一族。

 しかし、その力は忍術の巧みさ、強さとは関係ない部分で発揮されているものらしく、すぐに大蛇丸の興味は別の血継限界へと移っていた。

 なにせ茶釜一族のセキュリティはざるだった。

 彼ら独自の忍術なども、大蛇丸ほどの実力があれば、簡単に覗き見ることができたのである。

 その結果、大蛇丸にとって、彼らの術、血継限界はなんら役に立たないことが分かったからである。

 単純に忍としての能力を見るなら中の中。

 連携に優れ、他者の援護に回ることでスリーマンセルを組むのが常識となっている現代の忍としては優秀と言えるかもしれない。

 しかし同時に、忍の常識として質は量を凌駕する、というのがある。

 どれだけ連携に優れていようと、強烈な力を持った一人の忍には勝てない。

 それが現在の忍界の現実だ。

 そうであるが故に、大蛇丸は強さを求め、外道へと足を踏み入れたのである。

 そういった、興味を失った血継限界の一族の名前が、今更になって自身の目に留まることになるとは。

 とはいえ茶釜一族に興味が移ったわけではない。

 少年の名前だという「ブンブク」。

 大蛇丸は尾獣に関しても調査をしており、里の大概の者よりはその事情に詳しかった。

 ブンブクという名前。

 これは尾獣一尾の人柱力、我愛羅の先代の人柱力の名前であった。

 とくに大きな力を持つ人物ではなく、生まれてから後、死するまで砂隠れの里の監禁場所においてそこから出ることなく生涯を終えた人物であると記録にはあった。

 その人物と同じ名を持つ子どもが木の葉隠れの里に存在すること。

「おもしろいわね、浚ってきちゃおうかしら」

 大蛇丸はそういうと、蛇のごとく長い舌をぜろりと唇に這わせたのである。

 

 

 

 同時刻。

 1人の少年が、まるで背中を蛇になめまわされたかのようにぶるりと震わせた。


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