NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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前回予告した通りの温泉回です。
今回は頑張って原作にあるようなギャグ調に挑戦。
うまくいっているといいのですが。


第65話 ブンブク

 ブンブク

 

 うーんエクセレント(すばらしい)!!

 今僕は至福の時を迎えていました。

 目の前には豪華な御膳。

 お刺身など海の幸、天麩羅や(しし)鍋などの山の幸、炊き込みご飯にぷるぷるの茶碗蒸し、もうたまりません。

「いっただっきまーす!!」

 うわぁ、このあさりの酒蒸し最っ高!!

 三つ葉が良いアクセントになってます。

「おい」

 猪鍋はもうちょっと火を通さないとですね、でも火であぶった石を放り込んで焼石鍋風ですか、これは面白い。

「ちょっと」

 あ、良いですね、サクラエビとそら豆の炊き込みご飯、うん、香りもいい感じについてます。

「お~いブンブクよォ」

 お刺身にはやっぱりワサビ、しかも生山葵ですよね、鮫皮のおろし器も付いてこう自分で()って頂くという贅沢。

 お蕎麦も付いてますからこちらにも入れちゃいましょう、おお! 山葵の香りが立ちこめてこれまたたまりません!

「ブンブクく~ん」

 …なんですか、人が折角()()()()してるっていうのに。

 

 現在僕は全身包帯まみれでお座敷に座ってお食事を頂いております。

 目の前に座っているのは自来也さまとみたらしアンコさん。

 御二方とも正座です。

 まあ何かあったと思って頂けるのでしたら幸い。

 というか、まあ予想された事だったりする訳ですが。

 これはほんの1時間前の事です。

 

 

 

「ふぅーい、あったまるのォ~…」

「ふへえぇぇ、そうですねえぇぇ~…」

 自来也とブンブク、2人のいるのはとある温泉宿の露天風呂。

 みたらしアンコの修行を始めてから一週間ほど経っている。

 自来也に見切りをつけられたブンブクは、その後自来也の命により、様々な場所での情報収集任務を請け負っていた。

 その内容は「『暁』の拠点の発見」。

 ブンブク1人では当然不可能である。

 しかしながら、そこに自来也のコネクションが加わる。

 自来也のみでは発見できなかったものの、茶釜ブンブクという多面的にものを見る事の出来る者が改めてそのコネクションに接触したなら、もしかすると自来也にはなかった視点より暁の拠点を見つける事が出来るのではないか。

 自来也はそう考えたのだ。

 …仙術の修行に見切りをつけられて拗ねるブンブクがうっとうしかったというのは内緒の話。

 その甲斐あって、暁との関わりのありそうな組織のいくつかに目星が付いていた。

 さすがにカウンターテロ(自らもテロを起こすが)の専門組織でもある「根」の一員であるブンブクは、そう言った組織の最新のやり方も学習、研究していたようだ。

 自来也は弟子ではなく、部下を持つことの必要性をこの所ひしひしと感じていた。

 伝説の三忍などと謳われても、個人で出来る事には限界がある。

 ナルトなどはそれを体験的、直感的に理解している節がある。

 環境に恵まれなかったが故、また、誰かに助けられる事が多かったが故かもしれない。

 自来也とは逆なのだろう。

 自来也は周囲、つまりは大蛇丸などと張り合う事を考えすぎ、己の持つ指導力、指揮能力を活かしきれなかった部分が多々あることを昔から度々悔いていた。

 こと、かつての弟子である弥彦、長門、小南達の事を思い出す時には。

 十五志学、三十而立、四十不惑、五十知命などと言うが、未だに自来也は己の道への自信を持ち、惑わず、天命を知る、などという境地に達していない。

 そう考えると自分はまだまだガキでしかない。

 己が育てた波風ミナトも、うずまきナルトも己からほんの少し学んだだけで、後は自分で何とかしおった。

 まだまだ未熟よ。

 そう考える自来也は理解していなかった。

 迷いながらも前を見据え、意地でも折れてやらん、そう言う根性、いわゆる「ど根性」故に彼の背中を見続けた弟子達が大成したということを。

 見続ける事が出来なかった者達が歪んでいったことを。

 自来也は内心を隣で蕩けそうな顔で湯に浸かっている茶釜ブンブクに気取られる事無く、頭に手拭いを乗せながら考えていた。

 実際の所は自来也は十分に優秀である。

「人遁」による人心掌握は自来也の得意とするところであり、短期間に個人や組織の短所、長所を見抜き、的確に人材を使う。

 本来であれば伝説の三忍の内、最も火影にふさわしいのは自来也であった。

 自来也の致命的な弱点、それは「情の深さ」であった。

 人として、自来也の最大の美点である他者への情が、組織の長、しかも非合法な活動も行う忍組織では致命的な弱点となる。

 ちなみに最大の汚点は中坊レベルのエロ。

 現火影・千手綱手にも同じような弱点はあるものの、彼女には「千手家」という忍界において大きな背景(バックボーン)がある。

 自来也には残念ながらそれがなかった。

 3代目火影・猿飛ヒルゼンもそれが理解できていたのであろう、自来也に火影就任を強く推すことはなかった。

 周囲の人間、うたたねコハルなど上層部の者達は弱点を除いたとしても十分に自来也には火影が務まる、そう考えている者も多かったのだが。

 その結果として自来也はここにいる。

 里の中でも遊撃隊、と言えば聞こえがいいが、大蛇丸を追う以外は結構好き勝手にやらせてもらっている。

 それが良い事なのか悪い事なのか。

 とはいえ、今の立場でなければナルトやアンコの修行を付けることは難しかったであろう。

 ならばまあ現状も悪くはないのか。

 自来也はとりあえずそう結論付けた。

 隣にいたブンブクはとりあえず体を覚ますためか、湯船の縁に胡坐をかいて座り込み、雨避けに置いてある陣傘の様なもので体を(あお)いでいる。

 少年らしい、とは言い難い、脂肪の薄い体だ。

 温泉に入り、体が温まっているからだろう、上気した体に白い線が走っている。

 戦いによって刻まれた傷だ。

 ブンブクが請け負っていた任務、それは本来ブンブクの技量で引き受けるべきものではなかったもの、または本来遭遇するべきではなかった相手と当たるような不幸があり、生きているのが不思議なほどの代物だ。

 確かにブンブクの年齢で、またはそれ以下の年齢で非常に危険でえげつない任務を受けていた者も存在する。

 うちはイタチがそうであるし、はたけカカシもそうであった。

 しかしそれは時代の流れが彼らを戦場へと連れて行ってしまった結果であり、今の時代、本来ならば自来也たち大人が年若い彼らの盾とならねばならないはず。

 屈託なく温泉を堪能して、デロンと溶けそうな顔をしている少年が、そんな過酷な戦場を潜り抜けてきた猛者だとは誰も思うまい。

 とはいえ自来也にできることは少ない。

 既に「根」のダンゾウに目を付けられている以上、いずれは彼も忍の世界、その裏側にある暗闘に身を投じざるを得まい。

 自来也は知らなかった。

 彼は既に根の一員として働き、「舌禍根絶の印」すら自発的に受けている、と自来也が知ったなら、どう思ったであろうか。

 今ここで自来也に大間抜けなあくびを見られている少年が、木の葉の闇にいてなお、この能天気さを維持していると知ったなら。

 

 自来也はザバリと立ち上がった。

 大分体が温まった、ならば。

 自来也が歩きだし、

「はい自来也さま、どこ行きますか?」

 ブンブクに腕を掴まれた。

 自来也は嫌そうな顔をして、

「ワシが何をしようとワシの勝手だのォ、なんでお主にそう問い正されなければならんのかのォ?」

 事の他威圧的に自来也はそう言い放った。

 自来也は木の葉隠れの里の最高ランクの実力者であり、その実力は忍の里においては権力とほぼ同義である。

 言ってしまえば自来也は日向など里の名家に並ぶ権力を所持していると言っても良い程だ。

 しかし、ブンブクは、

「やめて下さい、そっちには女湯しかないんですから」

 そうのたまった。

「なーにを言っとるかのォ!

 そこに女湯があるのだぞ、覗かんでどうする!!

 お主の股の間についとるモンは飾りかのォ!?

 男なら、そこに女湯があるなら覗こうとするのが当たり前だのォ!?

 それにそこにいい女がいるんならなおさら、のぞくのが礼儀、というもんだのォ?

 違うか!? 違うか!? なあブンブクよおォ!?」

 

 

 

 …あのですね、そんなに拳を握りしめて絶叫されてもですね。

 いや、男としてその理屈は分からない事はないですよ!?

 屁理屈ですけどね。

 でもあくまでそれは男の理屈でして、万一にも覗きなんてばれたら僕は確実におっかあにシメられますんで。

 更に事あるごとに「あの時は…」っていじられますし。

 まあ、実際にそういう場面があるんですけどね、うちの場合。

 有り体にいえばおっとうがおっかあに説教喰らってる時に結構。

 もしですよ、万一そんな事をして、うちのフクちゃん(いもうと)に知れたりしたら…。

『お兄ちゃん不潔! もう近付かないで!!』とか言われた日には自殺ものですよ、ホントに…。

 そもそも自来也さまだって綱手さまに知れたらどんな目にあわされるか分かったもんじゃないでしょうに。

 その事を告げると自来也さまの顔色が変わった。

 いや、僕の人生で初めてでした。

 音を立てて血の気が引くってのを見るのは。

「い、いや、それ、そそそれは、のォ…」

 目が思いっきり泳いでます。

 いったい何やらかしたんですか自来也さま。

 …まあ大体、綱手さまの入浴を覗き見て、激怒した綱手さまにしこたまぶったたかれでもしたんでしょうが。

「違うわ!」

 あ、そうなんですか?

「しこたま、何ぞではないのォ!」

 はて、どういうこと?

「一撃、だったのォ…」

 は?

 たった一撃で自来也さまがそんなになる訳ないじゃないですか。

「ワシ、人生で2度死にかけた事があったんだがのォ…」

 …ああ、そういえば、綱手さまって春野サクラ姉ちゃんのお師匠様だっけ。

 修練場を破壊するあの威力をモロ食らいした、と…。

 なるほど、トラウマだ。

 なんて考えた僕が馬鹿でした。

 いきなり掴んでいた腕の抵抗を感じなくなりました。

 やられた!

 変わり身の術です。

 手元には自来也さまの使っていた手拭いのみ。

 変わり身の術は忍術学校でも習う、忍術の基本中の基本の術です。

 でも、だからこそ熟練の技を持つ人が使うと効果的だったりします。

 なんて言ってる場合じゃない!

 このまんまだと僕も覗き魔のレッテルをはられかねません。

 自来也さまはジャンプ一飛びで飛び越えられる高さの垣根を律儀に手をかけ、蜘蛛か何かのようにカサカサと這いあがっていきます。

 これもお約束というものなんでしょうか。

 このあたりはちょっと僕にはついていけません。

 さて、自来也さまは上まで登り切っちゃいました。

 かくなるうえは、僕は大人しく温泉に使って自来也さまが血祭りにされるのを待つしかありません。

 …ええ、僕は自分の身が可愛い!

 巻き添えはごめんなんです。

 そんな風に思っていると、おや、垣根の向こうから悲鳴が。

 こう乙女の…じゃなくて、なんというか、絞殺されそうな牛の声というか、「のォ~っ!!」という奇声が。

 …自来也さま。

 僕は女湯の方向に向かって合掌をしたのでした。

 …ほんとはとっとと逃げるべきだったのに。

 

 

 

 ブンブクの追及を振り切り、女湯への潜入に成功した自来也。

 無駄に鍛えこんだ隠密スキル、いやホントは忍として超重要なのだが、覗きと女の裸目当ての不法侵入の為には明らかに過剰な技術を駆使して、自来也は女湯に入りこんだ。

 なお、大概の場合、自来也は裸を除くのに夢中になって隠業が解けてしまうのが常だ。

 それでも己のリビドーを開放する機会を逃さない自来也はある意味不屈の、別の言葉を充てるなら「ど根性」の人なのだろう。

 …とっとと嫁取れ50代。

 木の葉隠れの里からならほぼ選り取り見取りだろうに。

 実際の所、自来也の人気は高い。

 火影に立候補すればまず間違いなくなれるだろうほどに。

 自来也の連れ合いになりたい者とて沢山いる。

 自来也の性癖を知っていたとしても、里における彼の名声と作家活動、忍びとしての働きによる十分な資産、それに直接彼に接している者は彼のあけっぴろげな性格に惚れこんでしまう女性もいるのだ。

 こう言う時にオープンスケベは得である、のかな?

 まあそれはともかく、自然庭園的なレイアウトをされている露天風呂の敷地を自来也は音も立てずに進んでいった。

 スニーキングミッションである。

 すでに敷地に関するある程度の知識は頭に叩き込んである。

 ここの露天風呂は覗き対策として大岩や樹木によって垣根に穴を開けて覗きをしようとする輩の視線を遮るようになっていた。

 故に、覗きを行おうとする出歯亀は自来也のようにわざわざ入り込まないと窃視行為に及べない訳である。

 無論の事ながら、垣根の周辺には鳴子など、防犯設備があるものの、そんなもので歴戦の忍である自来也をどうにかできる訳もない。

 自来也は無人の野を行くが如く、ターゲットに向かってにじり寄っていった。

 

 周囲の樹木に溶け込みながら、自来也は胸を高鳴らせていた。

“いざ征かん桃源郷! …ブンブクの奴め、己のふがいなさに無くが良いのォ、クックック…”

 本人は実にクールなつもりでいる。

 周りから見たら見事なまでに唯の変質者だ。

 これで意外なほどに女性人気はあるというのだから恐れ入る。

 自来也は湯気のたちのぼる湯船のある区画まで足を進める。

 ご丁寧に周囲の早落ちていた枝を体に纏いつけ、即席のギリースーツまで拵えている。

 相手は油断しているであろうが上忍に匹敵する実力を持つくノ一である。

 用心に用心を重ねてもしすぎるということはないだろう。

 …ならやめろ、そう言いくなる者は多いだろう。

 歴代火影とか木の葉隠れの里の名家とか。

 それはできない。

 それを止めるということは自来也の死を意味するのだから(大袈裟)。

 女体の神秘という高みを目指すのは男としての本懐!

 自来也は本気でそう考えている。

 まあ副次的な部分として、自来也の表の職業としての作家活動を進める為の動力源兼取材でもある訳なのだが。

 それはさておき。

 湯気の濛々と立ちこめる露天風呂。

 その中に明らかに人影と分かるものが浮かび上がっている。

 髪はどうやら手拭いにくるんで結び、エリア師が見える状態であろうか。

 背を向けているらしく、肩からうなじ、腰のくびれから湯に入っているであろう尻の上、そのまさに女体の神秘が自来也の眼前にもうすぐ公開されようとしていた。

 これぞまさに秘仏の公開!

 自来也は息が荒くなりそうになるのを長年の修行により無理やりに抑えて、一歩一歩近づいていった。

 そして!

 

 ごき! ごきり!!

 

 自来也の目の前には女性服用のマネキンが入浴していた。

 そして、自来也の背後からはまるで骨をすり合わせるような聞き覚えのない…、いや、自来也はこの音を知っている!!

 そして、彼の耳に世界の崩壊を告げる四騎士の喇叭(ラッパ)にも似た声が、黙示録の始まりを告げたのである。

 

「じ~ら~い~やぁ~っ!!」

 

 きりきりと音を立てて背後を振り向く自来也。

 そこには。

 ごきりごきりと指を鳴らし、般若の顔をした六代目火影・千手綱手の姿があった。

 

 

 

 ああ、始まっちゃったか、自来也さまの公開処刑。

 止めたんだけどなあ、僕はため息をつきつつそう思いました。

 え、なんで綱手さまがこっちに来てるのを知ってるかですか?

 僕はアンコさんの修行が始まった時に、カモくんを呼んで木の葉隠れの里まで報告を持っていってもらってるんです。

 なんで自分で行かないか、というと、出来るだけ僕の正確な状況を知っている人を少なくしたいもんで。

 もうこれ以上うちは兄ちゃんとかに命を狙われるのは避けたいし、こう言う生死不明な状態って情報収集やかく乱には都合が良いもので、利用させてもらおうかな、と。

 で、報告書は一通に、口頭での報告が一通。

 口頭でのものはもちろんダンゾウさまに。

 ちなみに、特定ポイントで山中フーさんに山中の秘伝忍術・心伝心の術でもって情報をやり取りしているので他に漏れる心配がないのですよ。

 戦闘以外でももの凄く優秀かつ厄介ですよね、山中一族。

 で、報告書の方はもちろん火影である綱手さまに。

 そう言う訳で、今日僕たちが温泉宿に泊まるのは綱手さまも知ってた訳ですね。

 で、里のご意見番の方々(ダンゾウさま含む)に掛け合って(おどして)数日間の休みを作って、で、この温泉に宿泊していた、と。

 とってもワクワクしてたみたいですよ、綱手さま、byカモくん情報。

 多分アンコさんとかと合流してゆったり温泉に使ってたんじゃないかと。

 そこに馬鹿でっかい声で自来也さまが覗き宣言なんてするから、まあ、少なく見積もっても般若確定でしょうねえ、綱手さま。

 あ、火の手が上がった。

 あれはアンコさんの紅龍吐息(ドラゴンブレス)かなあ?

 意外に自来也さま相手の実践なら自然のチャクラの制御ってうまくいったりして。

 おお、なんかぶっとい木が空飛んで行きましたよ!

 破壊力とは握力×スピード×体重なんて言う人もいたそうですが、僕が思うに、握力=集中力、力の集中ってことだと思うんですよね。

 で、綱手さまはサクラ姉ちゃんのお師匠様だけあって、打撃(インパクト)の瞬間に力を開放するのがむっちゃ上手なんですよ。

 で、その結果が木を破壊せずに吹き飛ばすあの威力、と。

 活殺自在とはこのことでしょう。

 実際、その気になったら全力で防御している自来也さまですらミンチなんだろうなあ。

 僕なら加減してもらってそのままミンチなんだろうけど。

 さて、そろそろ十分にあったまりましたし、上がりましょうか。

 僕は立ち上がり、腰に手ぬぐいを巻きつけて脱衣所に戻ろうかと…。

 

 どごおおん!!

 

 した時に、いきなり垣根の部分が見事に吹き飛びました。

 男湯の方に転がり出てくるのは自来也さま。

「お、落ちつけ綱手! ここは天下の露天風呂だのォ!

 たまたま間違って女湯に転がり落ちる事もあるでのォ!」

「やっかましいわ!! この万年エロ仙人があぁっ!!

 今日こそは許さん! ここでその全身ミンチにしてぶっちらばす!」

「…自来也様、今日まで修行ありがとうございました。

 後は自分で何とかしますから、しっかり成仏させますねえ…」

「アンコォ! その舌なめずりはなんだのォ!?」

「自来也様ぁ…、色気が足りなくて悪るうごぜいましたねぇ…。

 どおせこのまんまワタシはいき遅れるんですぅ…」

「シ、シズネ!? 落ちつけ、あれは言葉の綾でのォ!?」

 うわ、自来也さま焦って色々やらかしてる感じです。

 しかし、タオルを巻いているとはいえ、ダイナマイトボディと言うのがぴったりの綱手さま、引き締まった体と不釣り合いな胸が魅力的なアンコさん、スレンダーだけれどもそれがまた魅力的なシズネさんとまさに眼福…って、うわあぁっ!?

 いろんな意味で危険な三人を視線に捉えていた僕は、それ以外のものに目がいってなかった。

 僕が視線をどうするか、慌てているうちに、綱手さまの一撃がとうとう自来也さまを捉えた。

「だっしゃぁっ!!」

 見事なほどの右フックが、自来也さまのどてっ腹に叩き込まれ、

「ぶぇふぇっ!?!?!?」

 見事なほどに「く」の字に曲がった自来也さまが、尻を突き出して真横にすっ飛んできた。

 僕の方に。

 やばっ!

 あんなんに当たったら僕もただじゃ済まない!

 そう思って回避行動をしようとしたその時だ。

 

 膝が横から何かに払われた。

 

 視線をずらしてみると、

 あ、やっちゃった、という顔の、シズネさんのペットであるトントンくん。

 彼、とある事情から、僕の顔を見るとこうやってタックルしてくるんだよね。

 ほとんど反射行動になってるみたいなんだけど。

 この一瞬の出来事が僕の運命を決めた。

 視線を戻すと、目の前には肌色の何か。

 ぶっちゃけ自来也さまの尻。

 慌てて顔を捻じる僕。

 冗談じゃない。

 男の尻を顔の正面で受け止める趣味は僕には無い!

 しかし、

 避けきれずにその尻が僕の頬にぶつかる。

 やたら硬い筋肉質の尻はその質量を以って、僕の頬を押し、そして首がねじれる。

 首が引っ張られて体が浮き上がる。

 なんというか、でっかい象とかにはねられて吹っ飛ばされた感じだ。

 最後に見たのが自来也さまの尻のアップ。

 こんな死に方は嫌だ! やり直しを要求すっ…。

 僕は体が何度か何かに激突する感触、それを最後に意識を手放しました。

 

 

 

 自来也が綱手の一撃で吹き飛ばされた直後、女性陣は見た。

 吹っ飛んだ自来也の軌道の先にはポカンとした顔の茶釜ブンブクがいた。

 自来也はブンブクに激突し、上方に吹き飛んだ。

「はぶうっ!」

 そして自来也の移動エネルギーを体、というか顔に受けたブンブクは、体を錐揉み状に旋回させながら、地面に激突し、バウンドした後に木にぶつかった。

「ぶげっ! だわっっ!!」

 その木はブンブクの体重と速度で大きく(たわ)み、そしてブンブクを空中に吹き飛ばした。

「おろろろろっっ! だあっっ!!」

 吹き飛ばされたブンブクは旅館の二階の屋根をガランガランと瓦を破壊しながら転がり、そのままポーンと空中に投げだされた。

 そして旅館の塀の上をバウンドしたブンブクは、そして旅館の外にある木の枝に引っかかり、逆さ張り付けのようにぶら下がる羽目になった。

 全裸で。

 まるで降参を示すかのようにブンブクの腰に巻きついていたはずの手拭いが木のてっぺんに引っかかってたなびいている。

 外から観光客のものらしい悲鳴が上がった。

 微妙に黄色い悲鳴、という奴が聞こえたのは気のせいだろうか。

 女性陣は顔を見合わせた。

「…やっぱり、まずい、よな…」

「当り前ですっ! 綱手さま! ああ早く助けにいかないと!!」

「ああ、悪いことしちゃったなあ、ブンブク君、大丈夫かな、主に精神的に…」

 大慌てで女性陣は着替え、ブンブクを回収しに行くのであった。

 

 

 

 という訳で僕はこのあたり一帯にがっつり恥をまき散らして気絶していた訳ですね。

 かーぜもないのにぶーらぶらー。

 で、ふてくされていた僕をご機嫌取りのつもりか2人が食事に誘って、というか、お外行きたくないので部屋に御膳を持って来てもらってる訳です。

 ちなみに御膳は5人分。

 後々綱手さまとシズネさんも来る予定だとか。

 御2人(主にシズネさん)は破壊された旅館の施設の修復を行っているとか。

 当然のことながら、綱手さまは6代目火影、シズネさんと2人のみで旅行とかできる訳がない。

 お付きの暗部の人たちが結構いるんだけど、綱手さまはその人たちを指揮しつつ旅館の修復、シズネさんは事務方として動かせる予算からどれくらい宿に支払えば良いか交渉中だそうで。

 …だからって待つ必要ないよね。

 どうせあの人たちここに来たらドンチャン騒ぎする気なんだし。

 ふてくされている僕は、そんな感じで皆さんの揃う前にちょびちょびと食事を食べ始めちゃっていたのです。

 

「あっはっはっ、まあ気にするんじゃないよ、男の子だろ!!」

 うーむ、酔っ払いうっとうしい…。

 僕は助けを求めて自来也さまを見ますが、

 ふいっ

 あ、目を逸らされました。

 いやね、なんというか、首根っこを綱手さまにがっちり掴まれてまして、そのですね、あの、胸がですね…。

「おやあ、ブンブク君、顔が赤いぞお~」

 アンコさん、助けて…。

「楽しめ楽しめ青少年、あ、仲居さん熱燗お代わり~」

 綱手さま、まだ飲むんですか!?

「ああなっちゃもう止まらんのォ…」

 自来也さま、達観してないで助けて…。

「すいませんブンブク君、ここの所綱手様、大分ストレス抱えてて…」

 シズネさん!? それ僕に生贄になれって言ってるのと同義ですが!?

「ブヒッ」

 諸行無常、ってトントンくん!?

 こうして僕は混沌の宴会へと引きずり込まれてしまうのでした。

 

 

 

 夜。

 天空には月が掛かり、下界を照らしている。

 丁度今は「団子月」の時期か。

 瘤月ともいわれる月で、満月のときに真円の月に半円の瘤のような部分が少しだけつく、まあ珍しい景色である。

 その珍しい月を見ながら、アンコは旅館の屋根の上で1人、静かに冷や酒を傾けていた。

 1人になり、こうも静かであると、つい考えてしまう。

 どれくらいそうしていただろうか。

 ふと気付くと、傍らには自来也がいた。

 自分と同じく、浴衣を着ている。

 上背が人よりかなり高い自来也は、宿にある最も大きな浴衣を着ている。

 それでも裾が高い位置にあり、それが自来也を更に大きく見せていた。

 自来也は、アンコに言った。

「どうじゃ、月でも見ながら、昔語りでもしてみようと思うんだがのォ、付き会わんか?」




本来なら5000字くらいで纏めるつもりがどうしてこうなった。
次回は自来也たちによる大蛇丸に関する語りと閑話。
なお、作中にある「団子月」ですが、こんな自然現象はありません、たぶん。
後の伏線です。

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