NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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今回はみたらしアンコの呪印についての独自解釈が入っています。


第63話 ブンブク

 ブンブク

 

 強烈な火炎が周囲を舐めるように広がる。

 みたらしアンコの変じた龍、というより明らかにドラゴン、と言った方が良い代物は、その口から炎弾を吐き出した。

 既に炎弾どころか、豪火球と言ってもいい大きさのそれは、続けざまに吐き出されては自来也とブンブクを焼き尽くそうと飛来する。

「うわわあわわわわぁぁぁぁっ!!」

 奇声をあげながらこけつまろびつ無様に炎を避け、大仰に走り回るブンブク。

 ちゅどんちゅどんとまるでミサイルのように炸裂する火弾を吐き出し、ブンブクを追いかけるドラゴン。

 どうやらブンブクの様子がお気に召したらしい。

 このドラゴンはみたらしアンコが変じたもの。

 つまりはアンコの性格がこのドラゴンの行動に反映されている。

 さすがは大蛇丸の弟子だけあって、小動物がちょろちょろしているとちょっかいを掛けたくなるのであろうか。

 本人が楽しんでいるのなら幸い(じゃないよ! byブンブク)なのはともかく、ブンブクの動きも絶妙であった。

 ドラゴンの視界から一瞬隠れたと思いきや、隠れているはずの瓦礫の影から尻が見えている。

 頭隠して尻隠さずの格言通りの間抜けな隠れ方だ。

 ドラゴンはそれを見逃さず、気付かれないようにジワリジワリと近づいて、

「キシャアアッ!」

 その瓦礫を強力な尾で吹き飛ばす。

「うわぁあぁあああぁっ!」

 瓦礫ごと吹き飛ばされたブンブクはぽへん、と間抜けな音と共にいつもの間抜けな茶釜狸の姿に変じ、とててててっと逃げていき、またもや人型に戻ると脱兎のごとく走り始める。

 明らかにドラゴンの気を引くための行動なのだが、夢中になっている様子のドラゴンは気付かない。

 そして十分な時間稼ぎをした後に、

「口寄せ、大蝦蟇・ガマブン太!」

 自来也の口寄せにより、ドラゴン以上の巨体を持つ、大蝦蟇のガマブン太が召喚されたのである。

 

「ふむ、ブンブクの奴意外とやりよるのォ…」

 自来也はブンブクの動きを見てそう評した。

 ブンブクの逃げ方は、猟犬のような他者を追い詰める存在に対し、自己をアピールしつつ、ぎりぎりの所で捕まらないかなり細やかな動きをしている。

 どこか獣じみたその動きは、必死に逃げ回っている狸そのものだ。

 動物じみた動作をする事は自来也も知っていた。

 茶釜ブンブク。

 今、木の葉隠れの里の中、上忍、特に暗部の者達にとって最も注目されている存在。

 あるいはうずまきナルトよりも注目度は高いやもしれない。

 なにせ、「『根』の後継者」と目されている少年である。

 彼と直接接触する機会の少ない者達はそれだけで彼を敵視する。

 そもそも「根」とは何か。

 本来の目的は木の葉隠れの暗部養成部門であった。

 つまりはスパイ、カウンターテロの専門家を育てる部門である。

 暗部とは上忍の中から選別された特に腕の立つ者達で構成される暗殺戦術特殊部隊、つまりは木の葉隠れの里における忍としてのエリートである。

 無論その構成員の素性は秘され、構成員たちは任務中は面を付けて活動する。

 その暗部を養成するのが本来の「根」であった。

 それが変質したのはいつの頃か。

 3度の忍界大戦により里の戦力拡充が必須となった時期、忍の促成教育が行われた事があった。

 この時期に、使い潰しの出来る孤児などの人材を教育、里の戦力拡大に一役買ったのが志村ダンゾウであった。

 感情を抑え、木の葉隠れの里への帰属意識のみを強烈にその精神と心に焼きつけるやり方は、3代目火影・猿飛ヒルゼンによって停止させられたが、その効果は高く、里の上層部、有力一族もその後ダンゾウが内密に同じ処置を孤児たちに施すのを黙認せざるを得なかったのである。

 ダンゾウのやり方は苛烈ではあるもののある意味理にかなっていたし、2代目火影・千手扉間のやり方を踏襲したものでもあったため、扉間の手法に馴らされていた里のトップが飲み込み易かったという事もあるのだが。

 今の「根」とは「木ノ葉という大木を目に見えぬ地の中より支える」という目的で動く火影の直轄ではない秘密組織の様相を呈していた。

 木の葉隠れの里の頭目である火影の制御を受け付けない(ように見える)組織、その次期頭目と目される人物。

 うずまきナルト(トラブルメーカー)の弟分。

 死なずの狸寝入り。

 風狸(ふうり)

 天性の扇動者(アジテーター)

 焚き火を劫火で鎮火する馬鹿。

 火影の飛脚。

 様々な仇名が飛び交っている。

 茶釜ブンブクの評価は真っ二つに分かれる。

 今の所の大勢は「信ずるに値せず、疑ってかかるべし」というもの。

 これはブンブクとの接触が短い者が多い。

 元々、「根」と志村ダンゾウは大方の上忍から信用されていなかった。

 ダンゾウが5代目火影として確たる成果を上げた為、一時期はその不信感も和らいだ。

 しかし、それも6代目火影・千手綱手が権力を握り、ダンゾウとの不仲がささやかれるようになるとまたぞろ不信の目が芽吹きだしていた。

 もっとも、その不信感をあおっているのが誰であろう綱手とダンゾウであり、その目的がいるかどうかも分からない「介入者」のあぶり出しである事は本当に限られたものしか知らないのだが。

 そう、自来也にすらも。

 その為、彼を良く知る者達以外からは「信ずるに値するのか」と思われているのは仕方ないのだろう。

 そして彼を良く知る者からは「お調子者」のレッテルを貼られている。

 まあナルトの弟分であるし、その評価は正しい。

 しかも、ブンブクの場合、「豚もおだてりゃ木に登る」という言葉通り、という話もある。

 ナルトはその場の勢いとそのカリスマ性でなんとかしてしまうが、ブンブクの場合は情報収集と使えるものはすべて使っての作戦となる。

 その根底にあるのは「友人の為に何とかしたい」であり、行動の根幹が「おだてられてその気になる」もしくは「困っている友人を見て発奮する」。

 その為、自分の抱えられないレベルのものを抱えてひーこら言うのが常である。

 無論、そのまま潰れる様な事が無いのは周囲に何かあった時に支えてくれる人たちがいるからなのだが。

 そう言う彼であるからこそ、友人達も支えてくれるのだろう、自来也はそう感じている。

 自来也自身は、まあほっといても大丈夫であろうと思っている。

 己の盟友である綱手がそばに置いているのがその証だ。

 綱手は大蛇丸と正反対で、直感を重要視する。

 彼女が信を置いているのであれば、例えダンゾウの配下とて信じるに足るであろうと自来也は判断していた。

 なにか裏がある、そうとも感じていたのだが。

 それはさておき、ブンブクが体を張って時間を稼いでくれたおかげで十分に時間を稼げた。

 自来也は己の相棒であるガマブン太に声をかけた。

「さてと、それじゃあ『トカゲ狩り』としゃれこもうかのォ!!」

「ちいぃ、面倒事を押しつけよってからにいぃ!!」

 ガマブン太は、その巨大な刃物、どうみても「ドス」としか言えないようなそれを逆手に構え、ドラゴンを迎え撃った。

 

 ガマブン太が水の玉を幾つも口から噴き出す。

 ガマブン太の得意とする「水遁・鉄砲玉」の連打だ。

 一発一発が並みの中忍が全力で撃ちだす水弾以上の破壊力をもってドラゴンに迫る。

 しかし、ガインガインと硬質の音を立てて水弾はドラゴンの体表に叩きつけられるが、ドラゴンは若干空中で揺らぐ程度でダメージを受けた様子はない。

 それもそのはず、今自来也達の眼に映っているドラゴンの姿は膨大なチャクラによって形造られた一種の幻影だ。

 もしくはチャクラの壁とでも言うべきもの。

 直接アンコに衝撃を与えている訳ではない。

 この状況を何とかするためには、ドラゴンの姿をしたチャクラを撃ち抜き、中にいる呪印状態2のアンコを何とかする必要があるのだ。

 牽制ではあるがガマブン太の攻撃をものともせず弾き返す以上、それなり以上の攻撃を叩きつけなければあのドラゴン形態を崩すことは難しい。

 ガマブン太の頭上でそう考えていた自来也に向けて、ドラゴンが炎弾を放つ。

 その大きさたるや、自来也が使う火遁・豪火球の術とほぼ同じほど。

「ちいっ、火遁・連装炎弾の術!」

 自来也はドラゴンの炎弾に比べればよほど小さい炎を幾つも口から撃ちだした。

 この炎弾は通常のものとは違っていた。

 ドラゴンの炎弾にそれらがぶつかると、

 ごうんっ!!

 大きく炸裂し、周囲に衝撃をばら撒いた。

 その衝撃の連続によってドラゴンの炎弾は威力を大きく削がれ、ガマブン太に届く頃にはすっかりその威力を失って消滅した。

 しかし、

「ぬう、ちっくと熱っついのおぉ!!」

 ガマブン太はその大きさを除けば一応は蝦蟇蛙である。

 その体表は粘液に覆われており、熱風程度では体を痛めることはない。

 しかし、同時に熱風によって粘液は乾燥させられており、それがガマブン太のダメージになる事は免れない。

 高温にさらされ続ければガマブン太の体は水分を失い、最悪死に至りかねない。

 とはいえ、今の自来也には有効な手だてが1つしかない。

 すなわち呪印の封印術。

 3代目火影・猿飛ヒルゼンによってアンコに施された呪印の封印術は、うちはサスケに施された呪印の封印を行う際に改良され、非常に効果の高いものとなっている。

 師であるヒルゼンから、自来也もその封印術を学んでいた。

 それを使う事が出来ればアンコを正気に返す事も可能だろう。

 大空にいる、巨大なドラゴンの形のチャクラに包まれた、呪印状態2のアンコに接触する事が出来れば、の話だが。

 どれだけ自来也が優秀な忍びだったとしても、空を飛行する者に対してそれに接触する事はかなりの難度である。

 ましてやそれが分厚いチャクラの鎧を纏っているとなればなおさらだ。

 どうしたものか。

 ドラゴンの攻撃を何とか捌きつつ、水遁でガマブン太の体に水を補給しながら自来也は知恵を絞っていた。

 その時だ。

 大空の覇者たるドラゴンの前に、小さな影が纏いついたのは。

 

 ドラゴンの鼻先を優雅に掠めていったそれ。

 それは二等辺三角形、三角翼の形をしていた。

 その下には茶釜ブンブクがぶら下がっている。

 そう、これはブンブクのオリジナル忍術、「変化・飛翔の術」によるものだ。

 忍術学校時代から培ってきた、八畳風呂敷を翼として大空を自由自在に飛翔する為のノウハウを全て組み込んだ彼の忍術、体術の集大成である。

 ドラゴンの顔に纏いつき、その意識を自身に引き付ける。

 尾や脚での攻撃を受ければ、その強烈な攻撃によってできる乱気流に乗って回避し、変化の解除や什器変化まで使用して攻撃を避けまくる。

 そしてドラゴンが無視して自来也達を攻撃しようとすればまたもや顔に纏いつき、視界を遮るのだ。

 アンコの変じたドラゴンからすればうっとうしいこと極まりないだろう。

 前脚で顔の辺りを飛ぶブンブクを払いのけようとするが、それをのらりくらりと避け、それがまたドラゴンを苛立たせる。

 ドラゴンの火弾は撃ちだす時に大きなモーションがある。

 それを事前に察知し、ブンブクは火弾を空中に打ち出すよう誘導している。

 その為、ガマブン太には熱が届いていない。

 つまりは自来也には強力な術を練る時間があるということだ。

 自来也は己の切り札の1つを使うことを決めた。

 今まで自来也は己のスタミナをチャクラに変え、そして術を行使してきた。

 しかし、

「ふうぅー…」

 自来也は特殊な呼吸法を開始していた。

 それはこの世界に満ちる「自然のチャクラ」を取り込む呼吸法。

 自然のチャクラを己の体内に取り込むことで本来持つチャクラ量を超えた力をその身に蓄え、強大な術を行使する。

 それこそが自来也の切り札の1つである「仙人モード」。

 自来也はその札を切る事にした。

 仙人モードの弱点としては自然のチャクラを取りこんでいる最中に身動きが出来なくなること。

 致命的な弱点も、今ブンブクがドラゴンの気を引いていてくれるおかげで何とかなる。

 自来也の体内に、ドラゴンにも劣らない巨大なチャクラが集束していった。

 

 ぴくり。

 ドラゴンが眼下を見下ろす。

 己の力に匹敵する力が眼下にある。

 これは見過ごすわけにはいかない。

 今までドラゴンは絶対的な力を持ち、それに慢心していた。

 これは呪印がもたらす膨大なチャクラの量による絶対感から来るもので、呪印によって感性を鈍らされた者には振り払う事の出来ないものだ。

 その莫大なチャクラに匹敵する力が今、この下にいる敵から感知できる。

 思考が鈍った状況であろうとも、アンコは一級の忍だ。

 危機を感じた彼女は、己の出来る最大火力を自来也とガマブン太に叩き込もうとしていた。

 

 

 

 僕の目の前でドラゴンが巨大な口を開けます。

 口腔内に見える炎、それがどんどん色を失っていきます。

 これまずい!

 炎の温度は赤から青、無色に至る順に高くなります!

 こんなん喰らったら、自来也さまは何とかなるとしてもガマブン太さんが危ない。

 仕方ない!

 アンコさんが危なくなるかもしんなかったから控えていたけど、使うしか…。

 僕は封印術を解除して隠し持っていた炸裂弾を取りだしました。

 大口を開けているせいで僕を見失っているドラゴンの死角に入り込むのは難しい事じゃありません。

 僕は膨大なエネルギーの溜まっている口の中めがけて炸裂弾を放り込んだのです。

 そして次の瞬間、

 僕は衝撃で大きく吹き飛ばされました。

 どうやら目論見通り、炸裂弾を核として、火遁のエネルギーが暴走したみたいです。

 僕は準省エネモードに変化すると同時に八畳風呂敷くんを元の布に戻して茶釜の中に収納、くるくると回転しながらドラゴンの状況を見ていました。

 首から上が綺麗に吹き飛び、全体も薄ぼんやりと輪郭が崩れています。

 半透明になった胴体部分にはなんか「超忍戦隊ホノレンジャードライ」の悪の女幹部みたいになったアンコさんが頭を振っています。

 良かった、アンコさんには被害が無いみたいです、って!

 こっちを睨んだアンコさん、明らかに僕に目を付けてます!

 急速にドラゴンの輪郭が集束していきます。

 今までと違い、鱗の色が赤から黄金(こがね)色に、そして…、うえっ!!

 胸から頭の部分が今までと全く違います!

 胴についていた腕が消え去り、代わりに長い首に付いた頭部が、3つ!

 きしゃああぁぁっ!!

 アンコさんが変じた三首金色龍が吼えます。

 そして、僕の方へと口を開けました。 

 ゾクリとした感覚。

 まずい!

 僕は即座に八畳風呂敷くんを僕の翼に変化させると同時に足元にほんの少し残してあった炸裂弾を使って緊急回避の爆風を作りました。

 ぼん! という音ともに爆発する炸裂弾。

 さすがに僕もダメージを受けますが、消し飛ぶよりはましでしょう。

 そして次の瞬間、

 ジュン! という音と共に先ほどまで僕がいた空間を不可視の熱線が通過していきました。

 これはどうもさっきまでドラゴンが吐いていた火弾を更に集約して撃ち出しているようです!

 当たったら蒸発間違いなし。

 ぞっとした、それが僕の隙だったのでしょう。

 相手には3本首がある、つまりは、

 僕がはっと目をあげた時、そこには残り2本の首が口を開け、熱線を打ち出す準備をしていた。

 あ、これは死んだな。

 意外な事に僕の脳裏には走馬燈などは浮かばなかったのです。

 

 

 

 むう、ずいぶん苦戦してる。

 自来也もずいぶんと…いや、これは…相性、か。

 相手はもはや本能の身で動く天災の様なもの。

 人の機微を突く人遁の使い手である自来也には…。

 …それにしてもアンコは大したもの。

 あの力は確かに呪印から引き出されたもの。

 しかし、それを蓄えるにはそれなりの器が必要。

 大概のものはそれが出来ないから()()()

 おそらくアンコは初期型の呪印の影響から常に上下するチャクラを一定に保ち続ける、チャクラ制御を強いられていた。

 それがアンコの力の源。

 あれだけのチャクラが解放されればとうの昔にアンコは壊れていたはず、しかしあの異形はまだ形を取り続けている。

 とは言えそろそろ限界。

 しょうがない。

 

“少し手助けしてあげましょうか…”

 

 ()()は、かつての己自身であったモノのチャクラにジワリと干渉をした。

 

 

 

 三つ首の龍、その内2つの首の口から熱線が放たれようとした時、龍の動きが鈍りました。

 良く分かんないけど好機(チャンス)

 僕は体を捻って龍の攻撃からの射線から外れました。

 その瞬間、

 ジャッ!!

 目に見えない熱が僕のすぐ傍を通り抜け、周囲の空気を押し上げました。

 周囲の空気が滅茶苦茶な動きをして、僕を翻弄します。

 とは言え、こういうのは飛行をしていると日常茶飯事。

 先ほど死を覚悟したせいでしょうか、心が非常にフラットです。

 地上に目を向けてみると自来也さまがまだ印を組んでいます。

 もうほんのちょっと時間を稼がないといけない様子。

 さてどうしたものか、そう考えていた時です。

 ん?

 なんか龍の姿が薄くなってます。

 もしかして。

 僕は一両硬貨を取り出すと、龍に向けて放ります。

 硬貨は、すかっと龍を通り抜けて地上に落っこちていきました。

 これなら!

 僕はどこかためらいながらも一撃必倒の忍具を取りだしました。

 そして、

「セット、持続時間30秒、ロック! アンコさん、ごめん!」

 忍具を投げつけ、

「風遁・風牢結界の術!」

 即座に忍術を使用したのです。

 

 

 

 風牢結界の術。

 名前は大仰だが、風遁で起こした空気の流れを相手に絡みつかせる術である。

 上忍になるとそれこそ風で出来た牢屋の如く、相手を動けなくさせる事も可能だ。

 しかしブンブク程度の力では周囲に風が流れている程度の圧力しか生み出すことはできない。

 ほんのちょっと不快、程度のものだ。

 無論、呪印によって強化されたアンコの動きを封じるなど、それこそ髪の毛一本程度のものだろう。

 そもそもブンブクの使う風遁は飛行時の気流の安定に特化している。

 そのブンブクが拘束忍術を使える訳がなかったのである。

 しかし、

「がっ! グゲエエェェエェェッ!!」

 とても乙女とは思えない絶叫を上げているのは龍の中に鎮座していたみたらしアンコだ。

 腕を振り回し、喉を押さえ、涙を流しながら苦悶している。

 その周囲には何やら汚らしい様な、卑猥な様な黄色みがかった空気が纏いついている。

 既にアンコはブンブクや自来也にかまっている暇はなかった。

 体に纏いつく風を、己のチャクラを使って吹き飛ばそうとするが、その為の集中すらできない。

 そして、

「ブンブクぅ、もう良いぞ、後は任せえのォ!」

 自来也の「仙人モード」が発動した。

 強烈な存在感が周囲を圧倒する。

「ぬおおぉ! 乱獅子髪の術ぅっ!」

 途端に、自来也の髪の毛がうねりをあげ、数100メートル上空のアンコに向かって増殖しながら伸びていく。

 その頃には何とか周囲の空気を弾き飛ばしたアンコであったが、絡みつく自来也の髪の毛を振りほどく事が出来ず、髪の毛に埋もれていく。

「ぐがあぁっっ!」

 みしみしと髪の毛はアンコを締めあげ、

「これでぇ! しまいだのォッ!」

 空中で大きく振り回された後、

 どおんっ!

 地面に叩きつけられた。

 大きく土ぼこりが上がり、それが晴れた時、

「ぐうぅ…」

 ふらつきながらも立ちあがってくるアンコの姿があった。

 それはかつて大蛇丸に挑んだうちはサスケの姿にも似て、

 背後に立った自来也が、既に印を結び終えた両の手をその首筋に当てた。

 すると3代目火影の刻んだ封印術が赤く光を放った。

「があ、あぁぁ…」

 赤い光はその光量を増し、それと共に、アンコの体が元のものへと戻り始める。

 体のうろこが無くなり、背中の肩甲骨は縮小、人の背中の形に収まっていく。

 アンコが脱力し、膝をつく頃には、呪印化状態は完全に解除されていた。

 アンコはそのまま気絶したようだ。

 自来也はアンコに羽織をかけ、両の手に抱えるように抱きあげた。

 そして、

「おおいブンブクよぉ、いったん隠れ家に戻ろうかのォ!」

 そう声をかけたのである。

 

 

 

「で、ブンブクよ、お前は何をしたんだのォ?

 アンコのあの苦しみよう、尋常ではなかったんだがのォ…」

 自来也さまがアンコさんを抱きかかえて移動しながらそう聞きます。

 …僕としては正直不本意だったんですが、聞かれた以上答えない訳にもいきませんし。

 しょうがないです。

「ええっとですねえ…」

 僕は話し始めました。

 今回僕が使ったのは、前に「空区」の職人さんたちに作って頂いた忍具です。

 その時に一緒に作ってもらったのが「辛味抽出錠剤」だったんですけどね。

 で、その忍具と言うのが…。

 

「ブンブクよぉ、いくらなんでもそれは非道じゃないんかのォ…」

 自来也さまがそう言います。

「いや、だって使わなかったら僕らもアンコさんもどうなっていたか分かりませんって。

 呪印って使えば使うほど影響が大きくなるんでしょ?

 出来るだけ早く、効果的に制圧する必要があったんですって」

「しかしのォ…」

 僕たちがそんな事を言っていると、

「…その話、ワタシにも聞かせなさいよ」

 アンコさんが起きてきちゃいました。

 今のアンコさんの格好は、体に隠れ家にあった毛布を巻きつけている状態です。

 アンコさんナイスバディーだからそんな恰好をしてると、

「ぶっ」

 ほら、自来也さま鼻血吹いた。

 アンコさんは自来也さまに見向きもせず、

「言いなさい、ブンブク。

 ワタシに何したのかしら…」

 なんか大蛇丸さんそっくりの、両目と口で3つの三日月を作るような笑いを見せてそう言います。

 …脱兎!

 

 無理でした。

 ええ無理でしたともさ。

 現在僕は準省エネモードでアンコさんに襟首を掴まれて吊り下げられてます。

 こう、ぷらーんと。

「んで、アンタはワタシに何をしたのかしら…」

 お願いですからその舌なめずりを止めてください。

 物理的に取って食われるような気がしますんで。

「んじゃとっとと話しなさい」

「話したら離してくれます?」

「話次第」

 ほんとにひどい話です。

 

 僕の使った忍具、それは、

「…妖怪鼬の臭腺の分泌物?」

 そうです。

 いわゆる「鼬のさいごっ屁」というやつですね。

 あれの成分を解析して濃縮、還元した奴です。

「…それって、確か『木の葉ケミカルハザード』騒動の時のアレよねえ」

 ええまあアレですねえ。

「ってか、あの騒動の原因ってあんただったのかあっ!」

 僕じゃないです!

 何度も「取扱注意」っていったのに聞いてくんなかった分析班の人たちが悪いんですっ!!

「じゃあなに! アタシって『このはのさいしゅうへいき』喰らったってわけ!?」

 仕方ないでしょうが! 暴走したアンコさんが悪い!!

 僕だって使いたくなかったんですよ!

 女性にあんなレベルの最臭兵器なんて!

「あったり前じゃない!

 あんなきちゃないのぶつけるなんてひどいじゃないの!?」

 何言ってんですか!?

 あれって最高級香水の原料なんですよ!?

 やろうと思えばあれでひと財産だったのにアンコさんのおかげでパーになっちゃったんですからね!

「…それっていくらくらい?」

 大体…位です。

「なにそれ、アタシの年収よりよっぽど高いじゃない!?」

 はあ…、だから言ったでしょ?

 最後の手だって。

 ホントは使いたくなかったっていうのも分かってもらえました?

「う、う~ん…」

 アンコさんは首を捻ってます。

 まあこれでこの一件は終わり、ということで。

「…何か釈然としなーい…」

 アンコさんが首を捻ってますが、僕の知った事ではないんですよ。

 

 

 

 自来也はブンブクとアンコの言い合いを、苦笑いをしながら見物しているように見せて、頭の中で先ほどまでの光景を分析していた。

 茶釜ブンブクは異常だ。

 忍にしろなんにしろ、人間は飛行できる訳ではない。

 あくまで疑似的なもので、ジャンプの延長がいいところだ。

 中にはブンブクのように忍具を使って飛行する者もいるかもしれない。

 しかし、先ほどの光景。

 相手が巨大な龍とはいえ、その攻撃を風をつかむだけですいすいと避けられる、それは異常だ。

 まるで元から飛行する事が当り前である鳥のように。

 本来地上を二足歩行で移動する事に長けた人の脳は、いくら忍具を使っているとはいえ、鳥のように空と地上を知覚することなど出来はしない。

 元々不可能なのだ。

 この異常性はどこから来るのか。

 危険な存在なのかどうか見極めなければならない。

 自来也はなおさらブンブクから目が離せなくなっていた。


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