NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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今回、いろいろと独自解釈が入っております。


第62話 ブンブク/暁

 ブンブク

 

 キシャアアーッ!!

 今現在、僕の目の前では怪獣大決戦が繰り広げられております。

 一方は巨大なガマガエル。

 その頭には自来也さまが印を結び、かなりの必死の形相で相手の火炎弾を術で弾いております。

 そのもう一方ですが、巨大な翼を備え、さっきから叩き込まれている水弾をものともしない頑強なうろこを持った巨大な蛇のような相手。

 なんだっけ、確かこんなのって、そう! 思い出した。

「ドラゴン」って奴だ!!

 なんでこんな事になってしまっているか、というと、1時間ほど前にさかのぼる訳です。

 

「あ、探しましたよ、自来也さま!」

 木の葉隠れの里の特別上忍であるみたらしアンコさんです。

 特別上忍は中忍と上忍の中間にあたる役職で、全体の能力としては中忍レベルなんですけど、特定の部分、例えば戦闘能力とか、探知能力とか、尋問能力とかが飛び抜けていて、中忍として扱うにはもったいない特異な才能を特化させた人を引き上げる為の地位ともいえるものです。

 みたらし特別上忍はまあ全体の能力としては上忍の規定を十分に超えているんですけど、なにせ師事していたのがあの大蛇丸さん。

 今、生きていらっしゃる大蛇丸さんの弟子としては一番年かさの方なはずですからして。

 本来ならばかなり肩身の狭いはずなんですけど、あの人ものすごく負けず嫌いなんでその重圧を弾き返して特別上忍まで昇進したんですよね。

 本当ならとうの昔に上忍になっていても不思議じゃないんですけど、その枷になっているのが体に刻まれた呪印なんです。

 どうやら大蛇丸さんによって刻まれたその呪印は最初期のもので、チャクラの制御とかがうまくいかない仕様らしいです。

 おかげで呪印の影響を受けた際のチャクラの増強の量が安定しないそうで、下手に呪印を発動してしまうと上下するチャクラ量に振り回されてしまうそうで、むしろトータルでは弱くなってしまうんだそうです。

 呪印そのものは3代目火影・猿飛ヒルゼン様の封印術で抑え込まれているのでそうそう簡単には暴走しませんが、その為に全力でチャクラを練る事が出来ない体質になってしまった為に、実力が発揮しきれない場合があるんだそうで。

 何とも気の毒なことだと思うのです。

 で、そのみたらし特別上忍だけれど、どうやら自来也さまを追いかけてきたようです。

 何があったんでしょうかね?

「…で、なんであんたがここにいるのかしら?」

 僕ですか?

「あ、お久し振りです、みたらし特別上忍」

 その言葉に、うっすらと眉をしかめるみたらし特別上忍。

「…しばらく前にあっているはずなんだけどね」

 ああ、分身の方にあってるんですね。

 …そう言えば僕の分身、どこ行ったんでしょうね、ええ、つい先日まで木の葉隠れの里においていったあの影分身ですよ、なんて言ってみたりして。

 未だに僕の影分身は戻らず、おかげで僕の保有チャクラ量は半減したままです。

 正直かなりきついんだけど…、なんとかチャクラの保有量を増やす手段って無いのかしらん。

「ここの所しばらく体力とチャクラの回復に努めてたんで、意識レベルが低かったんですよ。

 ハッキリ覚えておらず申し訳ありません」

「ふうん、まあ良いわ。

 自来也さま、里より緊急連絡です」

 みたらし特別上忍は自来也さまに向き直ると、特大の爆弾を炸裂させた。

「里に届いた情報によると、

 大蛇丸が、サスケによって、殺害されたとの事です」

 

 は?

 僕は頭の中が一瞬真っ白になった。

 はっと自分を取り戻した時、自来也さまとみたらし特別上忍は情報の経路について話していた。

「…で、他にある施設からの脱走者がそのように」

「なるほどのォ、つまりはサスケがそいつらを使って大蛇丸の死亡を喧伝している、と」

 …奇妙な話です。

 うちは兄ちゃんにはわざわざ大蛇丸さんを殺したなんて事喧伝する必要が無いと思うんだけど。

 誰に入れ知恵されたのだろうか。

 

 更に話を聞いていくと、

「音隠れの状況に義憤を持ったサスケがその義を以って大蛇丸を仕留めた。

 今後サスケおよびその協力者は『蛇』を名乗り傭兵として活動する」

 ということらしい。

 傍から見れば一見筋が通ってるように見えるんだよね。

 大蛇丸さんが非道な人体実験を繰り返しているのはどこの忍里のでも把握してる事だし。

 それを傍から見ていたうちは兄ちゃんが義憤に駆られて大蛇丸さんを倒した、と。

 そして少数の精鋭のみを連れて今後は傭兵活動を行う。

 つまりは「暁」の商売敵になるってことですね。

 ここから読み取れるのは、と。

 どうやら今は兄ちゃんたちと音隠れの皆は一緒に行動してる訳じゃない。

 ってことは多分カブトさんも付いていっていない。

 ここを綺麗に撤退していくにはカブトさんの指揮が不可欠だろうし。

 じゃあ兄ちゃんにはカブトさん以外の知恵袋がついたってことなのかな?

 しかし、かなり話を盛ってるように聞こえるなあ。

 ここしばらくで音隠れの里では人体実験がほとんどなくなったし。

 なにせ基礎研究部分が大きく膨らんだためにそっち(じんたいじっけん)まで大蛇丸さんの手が足りなくなったためであります。

 大蛇丸さんってば嬉々として先生たちと話しこんでたしねえ。

 そして本当に兄ちゃんは大蛇丸さんを殺したのか。

 まあ確かに、あの中じゃあ大蛇丸さんを殺せる可能性があったのは、単独でうちは兄ちゃん、音隠れを軍隊としてまとめ上げたならカブトさん、ってところだろう。

 とはいえ、いきなり大蛇丸さんに挑む、というのもおかしな話。

 大蛇丸さんを殺せるとしたら、十分な時間を仕掛けに掛けて、その上でその仕掛けが大蛇丸さんに発覚しないようにしないといけないはず。

 そのくらい大蛇丸さんと言う人は凄いのだ。

 正直、徹底的に仕込みをしたとして、僕であれば片腕を貰いうけるとかそのレベルまで。

 倒すとか殺すとか無理だから。

 なので、そもそも大蛇丸さんが死んだっていうか殺されたというのが僕には信じがたい。

 飛段さんとか角都さんとかが手を貸したとか言うならともかく、大蛇丸さんと戦うなら周囲からの手は絶対借りないであろう兄ちゃんとが大蛇丸さんを仕留める事が出来たというのがねえ。

「…これは、そういう事、なのかのォ」

 不意に自来也さまがそう言いました。

 はて、どういう意味でしょうか。

 自来也さまは、僕とみたらし特別上忍に向かって言いました。

「サスケはおそらく『万華鏡写輪眼』を完全に開眼するために大蛇丸を殺したんではないか、ワシはそう思う」

 万華鏡写輪眼の事を知らないらしいみたらし特別上忍が小首をかしげて聞き返します。

「自来也さま、万華鏡写輪眼ってなんです?」

「うちは一族の秘儀中の秘儀だのォ。

 写輪眼の上位互換の能力と、ほかにも様々な瞳術が発現する可能性がある代物だのォ」

「…それって危険なんじゃないんですか?」

 みたらし特別上忍の目つきがつり上がっていきます。

 うちはの写輪眼はそれだけで強力な武器となります、その上位忍術となれば、危険度は跳ね上がるでしょう。

 それが特定の組織に所属せず野放しにされているという意味は、特に戦闘能力に優れたみたらし特別上忍にとっては空恐ろしく感じられるんだろうなあ、と。

 しかし、そうなると、兄ちゃんは僕をころ…殺しそびれた、と考えているってことなのかな?

 それとも、僕1人じゃ足りなかったとか?

 確かに、兄ちゃんにとって親しいとはっきり言えそうなのは大蛇丸さん位、なのかな?

 後はうずまき兄ちゃんとサクラ姉ちゃん、か。

 この2人は一緒に動いているし、その近くにははたけカカシ上忍とかもいるからうちは兄ちゃんとしても狙いづらかろう。

 でもなあ、大蛇丸さん狙うよりはよっぽど成功確率高いと思うんだけど。

 どうもなあ、うちは兄ちゃんってクールなキャラクターってわりには「理性(reason)」よりは「感性(passion)」の人だってのが分かってきた。

 このあたり、うずまき兄ちゃんと同じなんだよなあ。

 忍びとしてのうちは兄ちゃんは天賦の才と冷静な判断力で戦う人だったからうずまき兄ちゃんとの才が際立っていて、おかげで気が付かなかったけどね。

 奇妙に短絡的な所があるのがうちは兄ちゃんだからなあ。

 僕がそんな事を考えていると、

「…ちょっとあんた、何たそがれてんのよ?

 ここは木の葉隠れの里の忍として愕然としたり、憤慨するところじゃないの!?」

「あ、すいません、みたらし特別上忍…」

「それちょっとくどいわ、いい!? ワタシの事は『アンコさん』と呼ぶように!!」

「あ、はい、アンコさん」

 みたらし特別上忍改めアンコさんは、

「で、なんであんたこんなところにいんのよ?

 ガキの来るとこじゃないでしょうが!?」

 そう言う訳です。

 あれ、意外?

 それなりに僕って有名だと思ってたんだけど。

 暗部のお便利キャラとして、西に東に飛び回ってますよ、僕。

 とはいってもここは誤魔化させてもらおう。

 自来也さまにならともかく、アンコさんの立ち位置が僕には分からない。

 下手な事を言うと、アンコさんの首が(物理的に)斬られる可能性が無いとも限らない。

「僕だってお仕事ですよ。

 それよりは大蛇丸が死んだとの事ですけど、証言以外の証拠はないんですか?

 さすがに『伝説の三忍』の一角が、ああっと、うちは一族とはいえ、20才にもならない少年に殺されるとは思えないのですが?」

 僕がそう言うと、アンコさんはがばっと顔を近づけて、

「そうよね! あの大蛇丸がそんな簡単に殺される訳がないわよね!!」

 いやいや、アンコさん、なんでそんなに興奮して、ってそうか。

 そう言えばアンコさんのお師匠さんって大蛇丸さんだったんですよね。 

 大蛇丸さんの強さは実際に目にしているだろうし、一方うちは兄ちゃんの実力は3年くらい前の中忍試験の時だけだよね。

 そりゃ信じられるはずもないか。

「自来也さま、人でも増えた事ですし、ここの調査をアンコさんにも参加してもらって進めるのはどうでしょうか?

 もうしばらくすれば各里の忍達が来るのは間違いないでしょうし。

 アンコさんなら特別上忍としては戦闘能力に長けている人だから、自来也さまの邪魔にはならないでしょう。

 出来る限り資料を収集していく必要があると思いますから、人出が増えるのは良い事じゃないですかね」

 僕は自来也さまにそう提言する。

 この場のボスは自来也さまだ。

 自来也さまにこの場での方向性を決めてもらわないと僕も動けないし。

 自来也さまは、

「そうだのォ、もうちょいと探しておきたいからのォ。

 それにだ、アンコは大蛇丸の弟子だったからのォ。

 大蛇丸の部下の感覚も理解しとるかもしれんからのォ」

 あ、アンコさん嫌そうな顔してる。

 でもどっか嬉しそうだよね。

 かなり大蛇丸さんに対して複雑な思いがあるとみた。

 アンコさんは一見不満そうにしながら、

「分かりました、この場の指揮官は自来也さまです。

 ワタシは忍らしく上の指示に従う事にします」

 と殊勝な態度を取りながら言った。

 …なんか自来也さま意地わるそーな顔をしてますが。

「んん? なんじゃアンコよ、不満そうだのォ…。

 やりたくないんなら別に無理する必要はないんでのォ」

 なんて言ってる。

 あ、目つきがヤラシイ。

 アンコさんっていわゆるナイスバディな人なんで、ちまっと揺さぶってセクハラするつもりなんじゃ。

 …こう言うのはいけないよね。

 確かこのあたりに…。

 あ、あったあった。

 僕は時空間忍術で封印していた一般アイテムと言う奴を引っ張り出した。

 

 

 

 自来也はここが好機! とばかりにアンコを揺さぶっていった。

 アンコは男好きのする、いわゆるナイスバディである。

 ここでセクハラをせずしていつする!

 ナルトとの修行中何ぞあれに変化させて何とかエロテンションを押さえつけていたというのに。

 木の葉隠れの里に戻ってさあがっつり小説の取材(のぞきほうだい)をと思っていたなら、綱手の手が四方八方に伸びており、とても覗いていられない状況。

 顔が売れてしまっている弊害か、エロ本の1冊も買えやしない。

 駄目な方向にリビドーが溜まり気味なのである。

 それだったら、歓楽街でお姉ちゃんたちと一杯ひっかけてくるとかすればいいじゃん、とか誰かから言われそうであるが。

 確かにそれで性欲は満たされるかもしれない。

 しかし、

 

 エロと性欲は違うものだ。

 

 いやその理屈はおかしい、そう誰かから言われそうであるが。

 実際、自来也にとってエロと性欲は別物なのである。

 何がどう違うと言われれば説明しづらいものなのだが、本人にとっては違うものらしい。

 性欲は満たすもの、エロは溢れるモノ、であろうか。

 自来也にとってエロとは「イチャイチャ」シリーズを見て分かる通り、己を表現する手段の1つである。

 性欲とは違うものなのだ!

 …まあ、性に関して中学生レベルである自来也にとって、恋愛から性交、結婚に繋がる道が生々しすぎる、というのもあるのだろうが。

 とにかく自来也にとってエロとは人生に欠くべからざる要素なのだろう。

 …50歳も過ぎて。

 それはさておき、美女の悶える姿を見て、あわよくばその二つの水蜜桃を思う存分もみしだかんとする野望を遂げんとする(おとこ)

 その耳に聞こえてきた音。

 

 シャッキーン!!

 

「…ブンブク、それは何なんだのォ…」

 自来也が不審そうに言う。

 微妙に声が震えているのは気のせい。

 ブンブクはにっこりと笑うと、

「ただの苅込ばさみですが何か?」

 そう言った。

「いやあのだのぉ、それで何を切る気なのか、と…」

 さあどうするのやら。

「いや、聞いてないんですか自来也さま?」

「ナ、なにオ、カノお…」

「アンコさんも聞いてますよね?」

「え? …ああ()()()?」

「あ? アンコも何を言ってるのかのォ?」

「いや、自来也さまの『エロ』が余りにもひどいようならって、6代目がですね…」

 そう言ってブンブクは手にした苅込ばさみを両手で、

 シャッキーン!!

 と鳴らした。

「!!!」

 …自来也の声にならない悲鳴が周囲に響いた。

 

 

 

 ありゃ?

 自来也さまがふるふると、まるで生まれたての小鹿のように震え始めました。

 自来也さまのセクハラがひどくなったらこれを出すと良いと6代目さまに言われていたんですが…。

 一体これを使って自来也さまにどんなひどい事をしたんでしょうね、6代目さま。

 結局自来也さまが落ち着くのにしばらく掛かりました。

 

「まあ、とにかくだのォ!

 3人で調査した方がより発見も多い、ということで早速調査再開したいと思うのォ!」

 自来也さまの号令で調査を再開します。

 しかし、アンコさんはさすが大蛇丸さんの弟子だけありますよね。

 カブトさんの考えを読んで、偽装して置いていった資料をいろいろ見つけてくれます。

 …考えたら、この人を早めに上忍とかにしておいたら「木の葉崩し」って未然に防げたんじゃないだろうか。

 まあ考えても仕方ない事はこの際放っておこう。

 まあこんな能天気な事を考えていたからなのか、この後の大惨事を僕は予見すらしていなかった。

 

 

 

 みたらしアンコは見た目以上に動揺していた。

 音隠れの里の施設、その廃墟を探れば探るほど、大蛇丸が死亡したのではないか、その思いが強くなっていくのである。

 事前にブンブクの行っていたという調査の結果を聞くと、手のひらより大きな白い鱗が周囲に散っていたとの事。

 また、周囲の破壊痕は巨大なうろこを持った長物、つまりは蛇の類いが暴れた可能性が高い事を示していた。

 巨大な蛇といえば、大蛇丸の口寄せ動物である「マンダ」が頭に浮かぶが、破壊された後の形状を空から俯瞰すると、マンダの動きとも違うようにも思えるとの事。

 まるで、胴体が何本にも分かれた異形の蛇がのたくったようである、と。 

 それを聞いて、アンコは1つ思い出す事があった。

 大蛇丸の奥義である。

 たしか、その術は…。

「八岐の術…」

 その術を、アンコは巨大な八頭の蛇に変化するものであろうと推測していた。

 その推測が正しければ、ここで大蛇丸は八岐大蛇に変化し、サスケと戦ったはずだ。

 そして、サスケが生きているとすれば…。

 アンコはそこまで考えて、頭を振るった。

 まだ確定した訳ではない。

 まだ大蛇丸が…死んだ、と限った訳ではない。

 そう言い聞かせ、アンコは調査を進めた。

 

 しばらく調査を進めていくと、奇妙に気になる個所があった。

 多分修練場跡と思わしき場所。

 どうやら室内修練場だったらしく、天井を覆っていた資材が瓦礫になり、埋もれた場所なのだろう。

 しかし、なにか気になる。

 そう、瓦礫の配置が完璧すぎるような気がするのだ。

「どうかしたんですか? アンコさん」

 ブンブクが声をかけてくる。

「うん、ここの所なんだけどさ、ちょっと嘘くさいのよねえ…」

 アンコが腕を組み、首を捻っていると、

「んじゃ自来也さま呼んで来ましょう。

 あの方ならその違和感解消して下さるでしょうし。

 あ、多分セクハラひどくなると思いますから、胸の下で腕組むのやめた方がいいですよ」

「やっかましい! とっとと自来也さま、呼んできな!」

 自爆子狸はぴゅうっとアンコの前から姿を消した。

「しっかし、やっぱり気になるのよねえ…」

 アンコは腰のポーチからクナイを取り出し、地面を掘り始めた。

 忍にとってクナイは万能ツールだ。

 ナイフとしての性能はもちろん、、壁を登るための鉤爪の代わり、後ろにある環状の部分に紐をひっかけて投げ縄の重り代わりなど、万能道具として使えるのである。

 そして幅広のその形状は地面を掘る為のスコップとしての役割を十分に果たす。

「やっぱり…」

 アンコはそうつぶやいた。

 ここは一度掘り返された形跡がある。

 修練場とは、人の足で地面が踏み固められているものだ。

 それがこんな簡単に掘り返される訳がない。

 ここにはそれなりのものが眠っているはず。

 アンコはなにかに急かされるかのように地面を掘り返していった。

 

 しばらく掘り返すと、そこには…、

「これ…、これって」

 そこにはかなりの量の鱗に埋もれた何かが埋められていた。

 これは、

「八岐の、大蛇…」

 そう言う事なのか。

 ここで、あの、大蛇丸は、死んだ、というのか。

 これは師であり、仇敵であった者の残骸なのか。

 心が千々に乱れる中、アンコはそれに手を伸ばした。

 余りの動揺に、首筋にある呪印の異常に気付かないまま。

 

 

 

 僕は自来也さまの所まで来て、アンコさんが自来也さまを呼んでいる旨を伝えた。

「なるほど、さすがはアンコだのォ。

 里のごたごたさえなけりゃとうの昔に上忍だった逸材だからのォ」

 やっぱりそうなんだ。

 もったいないなあ。

 かと言って「根」に引き込むのも無理。

 元々ダンゾウさまのお考えとしては、「根」の後継は大蛇丸さんだったとか。

 その状況じゃお弟子のアンコさん引っ張りこむのは周囲から警戒されるよね。

 しかし、そうなると大蛇丸さんも「根」の方針とか叩き込まれたんだろうなあ。

 もしかしたら、それで心の「枷」が壊れちゃったのかもしれない。

 暗部、特に対暗部部門(秘密裏なんだけどね)である「根」はかなりえげつない事もする。

 それが当たり前だ、と思っちゃうとその人の人格がねじ曲がったり壊れちゃったりすることも珍しくない。

 だからこそ、ダンゾウさまは「感情は要らない、全ては木の葉の為に」っていう教育をしてきた訳だけど。

 まあそこいらは僕はまた違う考えがあったりするんだけどね。

 それはさておき、

「アンコさんが呼んでますんで、自来也さま、行ってみましょう」

 僕がそう言った時のことだ。

 

 ずずん!!

 

 周囲に地響きがとどろいた。

 なに!?

 周囲を見回すと、丁度アンコさんがいたあたりから土煙が上がっている。

「なんじゃ!?

 異様なチャクラの高まりを感じるのォ!?」

 自来也さまがそう言う。

 異様なチャクラって…。

 僕たちはアンコさんの元へと急いだ。

 

「うわああぁあぁぁぁぁ~っ!!」

 アンコさんの悲鳴が聞こえてきた。

 何が起きて…!!

「これは!」

 自来也さまも絶句している。

 アンコさんの足下から、半透明な触手…いや、あれ蛇だ!

 半透明が蛇がアンコさんの体に纏いつき、…なんか、首元に吸い込まれて言っているようにも見える。

 そして、アンコさんの体表には奇妙な文様、まるで長く伸ばした黒い矢印みたいなの、が増殖し、アンコさんを真っ黒に染めていっているように見える!

「ちっ、ありゃあ『呪印』の暴走か!?」

 あれが呪印!?

 強制的にチャクラを修練させ、爆発的な力を得るってあれか!

 んじゃなんで…。

「そうか! 呪印は大蛇丸の刻んだもの、それに大蛇丸の残骸に残ったチャクラが反応しとるのか!?」

 は!?

 んじゃアンコさんは…。

 手出しをしかねているうちにアンコさんの体が呪印の文様で真っ黒に染まりました。

 そして、

「うう、う、うおああああ~っっっ!!」

 アンコさんの背中から、バリッと服を突き破り、恐竜の手みたいなの、もしくはコウモリの羽みたいなのが生えてきました。

 ばしん! と地面をたたいたのは、どう見ても尻尾、しかも鱗におおわれたトカゲか蛇のような奴。

 全身に煌めく鱗のようなものが生え、ぎざぎざの牙の生えた口からのぞく舌は細く、二股に分かれているようにも見えます。

「シャーッ!!」

 アンコさんはこちらを威嚇しているようにしか見えません。

「むう、これがアンコの呪印の状態2ってやつかのぉ!

 なんちゅうチャクラの奔流だ、今まで見た中でもピカ1だのォ!!」

 そんな悠長な!!

 なんて言ってる余裕はなかった。

 アンコさんはさらなる変異を遂げていったのだ。

 

 

 

 翼を広げ、空へと舞い上がったアンコ。

 その周りにブンブクにすら見えるほどの濃厚なチャクラが纏いつく。

 纏いついたチャクラは形を成していく。

 アンコを中心にし、その周りに真っ赤な色をした鱗を持った胴体が現れる。

 がっしりとした下肢、大木すらなぎ倒さんとする強靭で長い尾。

 下肢に比べれば細いものの、人をひきさくのに十分な膂力と鋭い爪を持った上肢。

 長く伸びた首に、まるで冠でもかぶっているかのように伸びた角を持つ、爬虫類独特の顔立ちをした頭部。

 口の中にはチロチロと炎が見える。

 そこにはこの世界に存在しない、爬虫類の王、神を滅ぼす災厄の獣、ドラゴンが顕現していた。

 もしもここにうちはマダラが存在していたならば愕然としたであろう。

 なぜなら、それはまるでうちは一族の中でもマダラしか使う事が出来なかった秘術、須佐能乎(スサノオ)に酷似していたからだ。

 ブンブク達は危機に瀕していた。

 

 

 

 暁 ほくそ笑む男

 

「じゃあ準備を始める」

 そこにいたモノ、「聖杯のイリヤ」を名乗る存在は、無表情ながらもムン! とばかりに気合を入れて、胡坐のような座り方をした。

 結跡朕座(けつかふざ)と呼ばれるその座り方は、忍や忍僧が精神を集中する時に使われるものだ。

 更にイリヤは腹の下のあたりで左の掌を右の掌の上におく形で組んだ。

 左右の親指会わせ、手の中に卵でも包むようにゆったりと落ち着かせる。

 この形を法界定印(ほっかいじょういん)と言う。

 イリヤの前には墨で紋様の書かれた札。

 その上には茶色と乳白色のマーブル模様の器具が置かれていた。

 数は8つ。

 ミニチュアサイズの剣、槍、弓、指輪、車輪、三日月、苦無(くない)、そして匕首。

 これらのミニチュアはトビが外道魔像の破片より削り出した「酒杯」、その削りかすを加工して作りだされている。

 深く瞑想していくイリヤ。

 すると、

 

 ぼう

 

 イリヤの胸に淡く光がともり、そして、その光の中から、トビの削り出したはずの酒杯がせり上がってくる。

「ふう…」

 1つ息をして止める。

 

 とぷん

 

 イリヤの胸の前の酒杯に「(チャクラ)」が満たされる。

 1つ息をして止め、息をして止め、計5度。

 その都度チャクラが酒杯に満たされていく、いや、酒杯から湧き出してくる。

 5度の呼吸と息止め、その行為によって、酒杯からはチャクラが泉の如く湧き出し、零れてきた。

 

 それを見ながらトビと呼ばれる男は仮面の奥で厭な笑みを浮かべていた。

 それは全てを否定する笑い。

 己自身を含めたすべてを嘲笑し、その不幸を、死を、滅びを笑う。

 そんな笑みだった。

 オレはなんと素晴らしい道具を得たのだろうか。

 道具を得た優越感、ではない。

 その道具によってどれだけ己の計画が進むのか。

 それを考えただけですっかり擦り切れた感情に火がともる。

 この感情は久しく忘れていた。

 ()()()の提言に乗り、計画を引きついでからまるで機械のように計画の遂行だけを見据えて生きてきた。

 1つ、1つ、牛歩の如くゆっくりと。

 それがここにきて最高の道具を手に入れたのだ。

 外道魔像より、無限ともいえるチャクラを引き出す事の出来る最強の人形。

 そう、外道魔像という尾獣の封印具から削り出したものを気まぐれに酒杯とした、これがトビにとっての運命だったのだと感じる。

 すべてはオレの思うがままに進むことを運命づけられているのだ、そう、世界はオレを肯定しているのだ、と。

 酒杯を核として作り出した人形、それに封じたモノの人格を破壊する際、その記憶を垣間見る事が出来た。

 膨大な情報の海、その中にトビの気を引くものがあった。

 1つの物語。

 無限の力を有する願望器とそれを取りあう術者達、そしてそれに突き従う超常の力を持つ従者達の物語。

 その中で、願望器はこう呼ばれていた。

「聖杯」と。

 聖杯というものについての記述も記憶の中にあった。

 聖なる存在、それを殺した時、その血を受けた杯。

 そう、杯だ。

 無限の力を持つ杯。

 己の彫り出した酒杯にふさわしい名前。

 忍術の中には「言霊」という概念がある。

 名を付ける事によってその存在を定義し、縛る。

 口寄せの術の中には、形の無い不定形の悪霊に名を付け、そうすることで使役できる形を与えるものがある。

 多由也の口寄せは、形の無いチャクラの塊に物質化霊という名を付けて鬼のような存在を使役するが、あれは正に「言霊」であろう。

 トビは外道魔像から掘り出した酒杯に「聖杯」と名付け、記憶を消し、自身の都合のいい存在に「洗脳」した存在に「聖杯のイリヤ」という名を付け縛った。

 そして自身の都合のいい人格をその存在に植えつけたのである。

 そうすることで、膨大なチャクラと限定的ながらも異質な記憶、情報を自身のものとする事が出来たのである。

 その情報はたかが1人から得られる情報とは量、質が違いすぎた。

 まるでどこからか引き出されているような…。

 その情報のおかげで、変則的な「穢土転生」の術すらイリヤは使用する事が出来る。

 本来必要な「本人の体の一部」すら必要なく、イリヤの記憶情報の中の内、情報量の多い個体ならば呼び出すことが可能だ。

 死者の魂を留めるための「生きた人間の生け贄」も必要ない。

 イリヤの膨大なチャクラがその肩替りをする。

 さすがに呼び出す個体は8体と多くはない。

 が、情報が多ければ多いほど強力な個体を口寄せできる。

 情報の中には強大な力を持つ者も多々ある。

 これらを呼び出す事が出来れば間違いなく一騎当千、しかもその一騎は上忍1人に相当するだろう。

 それだけのものを己の駒と出来る。

 トビは仮面の下でほくそ笑んでいた。


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