この章では、
「ブンブク」:ブンブクに関する話
「木の葉」 :木の葉隠れの里及びブンブク以外の木の葉の忍びに関する話
「暁」 :暁の忍を主とした話
「?」 :その他
という形で話を進めたいと思います。
いわゆる「~サイド」という感じでしょうか。
第61話 ブンブク/暁
ブンブク
今現在、僕は自来也さまと一緒に隠れ家の1つにいます。
音隠れの施設から歩いて半日ほど(忍なら30分て所でしょうかね)離れたところでして、田の国における木の葉隠れの
もっとも、施設が
もうちょっとすると、間違いなく他の里の忍が調査に来るでしょうし。
僕は自来也さまにお茶と茶菓子(施設に残ってた物の内、毒なんかが仕込んでない奴を厳選しました、さすがカブトさん、大蛇丸さんのお弟子さんです)を用意しつつ、
「で、どうして自来也さまはここに来たんですか?」
そう尋ねました。
「ああ、それはじゃのォ…」
…なるほど、自来也さまほどの忍なら、大概の連中は鎧袖一触で排除できるだろうね。
いくら音隠れの皆が強いと言っても、自来也さまとじゃまともに戦えるのは大蛇丸さんだけだったろう。
うちは兄ちゃんですら。
僕の見立てだと、大蛇丸さんは兄ちゃんと真っ向勝負をしてしまうだろうから、もしかしたら兄ちゃんが勝つ可能性もないとは言えない。
でも、うちは兄ちゃんはこう言ってはなんだけど、あまりにも真っ向勝負をしすぎる。
もちょっと小技を覚えてもいいと思うんだ。
別に小技を使え、という訳じゃないんだけど、相手が「小技を使う」って事が分かってれば対処も出来るだろうし、その手口を予測するためにも、「こんな小技があるよ」っていうのを把握してもらうために、大蛇丸さんは僕と兄ちゃんの試合をセッティングしていたんだろうし。
そして自来也さまは一般に伝わっている戦い方を聞く限り「曲者」だ。
大蛇丸さん、そして綱手さまがその才能を以って相手を術で、または力ずくで粉砕する戦い方であるのに対して、自来也さまは相手を分析、解析して的確に弱い所を責め、弱点が無いならば作り出し、かつ自分の実力を測らせない戦い方をする人だ。
かつて雨隠れの里の長「山椒魚の半蔵」と三忍が戦うのが1年遅ければ、勝っていたのは自来也さま達の方であったのではないかと僕は思う。
半蔵と言う人は実に忍らしい忍だ。
用心に用心を重ね、身内以外、もしかしたら身内にすらその正体を知られず、名前だけが広まる状態を作り出した人だ。
容姿、親族、使う術など、ほとんどが分からない状態。
辛うじて三人と戦った時の記録で毒を吐く妖怪山椒魚を使役する術が分かっているのみだ。
そんな人が自分の術を見た敵を殺しにかからないはずがない。
そう考えると半蔵対三忍の戦いは、実の所結構ぎりぎりの所だったんじゃないかなあ、と。
亀の甲より年の功っていうけど、経験による鉄面皮で半蔵は三忍を追い詰め過ぎないようにしたのではないかなあ、なんて考えてみたり。
なんせ自来也さまはうずまき兄ちゃんの師匠だ。
つまり、「ど根性」の人なんだよね。
こう言う人は追い詰められた時の爆発力が凄い。
半蔵は自来也さまと言う人をその経年から来る洞察力で理解し、追い詰め過ぎないよう丁寧に闘っていたのではないかと思うんだ。
その時代の大蛇丸さんと綱手さまなら結構簡単に底を見せるだろうし。
「名前を名乗れ」とか、正直半蔵と言う人には似合わないやり方だしね。
それってむしろ名誉を重んじる侍のやり方だ。
いかにも圧倒的な格上を演じつつ、自分の有利に交渉を進めるやり方はダンゾウさまに教わったけど、どうもそのやり方に近似してるんだよね、半蔵と言う人のやり方は。
もともと実力は高いのだろうけど、自分の底を見せないようにして実力を分析できないようにするやり方は、僕みたいなはったりを多用しなければならない程度の実力しかない者には重要な武器になりますんでね、きっちり勉強させていただきました。
それはさておき。
僕の方も自分の事情説明です。
「…ふむ、つまりは音隠れの里への潜入任務か、なかなかきっつい仕事じゃのォ。
よくもまあ大蛇丸の奴に取って喰われんかったもんだのォ…」
しみじみと自来也さまが言います。
そんな見た目通りの蛇じゃないんだから。
まあそれはさておき、
「とにかく、一度里の方に連絡を入れておきましょう。
レポートはまとめておきましたので」
僕はそう言うと、ここ何日かで書きだした報告書を自来也さまに提出した。
あ、もちろんこれは6代目さまに提出する用で、ダンゾウさまに提出するのはまた別にしているんですけどね。
ダンゾウさまと大蛇丸さんの繋がりは公にはできないものなので、そこいら辺に触れてるのはまた別にとってあります。
自来也さまは、書類に目を通している。
なんというか、えらい百面相だ。
にやりと笑ったり、眉をしかめたり、がっこんと顎が外れたような顔をしたり。
…誰かに似てる。
あ、うずまき兄ちゃんだ。
そう言えば、うちは兄ちゃんはどことなく大蛇丸さんに似ていたようなとこがあったっけ。
やっぱり師弟ってのはどっか似るのかな、それともどこか共通点があるから引き合って師弟の関係になるのかしらん。
そんな事を考えていると、
「ブンブクよぉ、ちいっと聞きたい事があるんじゃがのォ…」
自来也さまがそう言ってきた。
はい、了解です。
なんでも聞いてください、答えられるものであれば答えますんで。
「そいじゃあまずのォ…」
「呆れたもんだのォ、お前が里から出て高々数ヶ月だろうに、まあずいぶんといじりまわしたもんだのォ…」
そうですかね?
音隠れの里って薬師カブトさんがかなり制度を整えていたんですから、いずれはあの形にまとまっていたんじゃないかな、と。
「まあそれはそうだがの、これで大蛇丸の奴も表っ側に出て来ざるを得まいて。
あいつはもともと裏っ側に引っこんどる様な奴じゃないからのォ。
時代はあいつのような天才を求めとるんじゃからのォ。
性格はあれじゃがのォ。
これからは戦いだけが忍の活躍する場所ではなくなってくる、あいつの才能はそんな時代にこそ花咲く筈じゃあのォ」
自来也さまは悪態をつきつつ大蛇丸さんを褒めている。
多分本人は褒めてるつもりはないんだろうなあ。
でも、口調と表情が全く別の方向を指してるんですけど。
えっらい嬉しそうですよねえ。
やはり同期として御三方はいろいろ複雑な思いを持っているんでしょうねえ。
とか考えていたら、
「…ブンブク、なあに考えてるんかのォ?」
…あれ?
自来也さま、何か笑顔が怖いっすよ。
つい三下喋りになっちゃいましたけど。
何でしょうかね、その羽ホウキは?
…脱兎!
逃げ切れませんでした。
散々箒でくすぐられまくって、現在僕は息も絶え絶えですってばよ。
「ふん、大人をからかうからだのォ!
これからはきちっと分別をわきまえてだなあ…」
なんか自来也さまが言ってるけど、聞いてる余裕ないじゃん…。
…しばらくして、僕が復帰してから自来也さまの質問タイムが始まりました。
新生音隠れの里において僕がどのように関わったのか、とか。
大蛇丸さんと何を話したのとか。
カブトさんをどのようにサポートしたのか、とか。
後はやはり、
「うちはサスケの状況、だのォ…」
自来也さまは聞きにくそうにそう言います。
まあ確かに、兄ちゃんと戦ったのは僕にとってかなりの精神的負担になっているかと思います。
直視するとまだかなりしんどいので色々と間に挟んでオブラートに包んでの思考をしています。
まあここんとこ聞いておきたかったからさっきみたいな悪乗りをして、僕の精神状態を安定させとこうと思ったんでしょうけどね、自来也さまは。
こう言った所は以外と大蛇丸さんとそっくりだったり。
自来也さまも、大蛇丸さんも、どっちも空気読めないようでいて読める大人だからなあ。
…普段は読んでも無視するだけで。
それはさておき、兄ちゃんの事ですか。
「それでは、まずうちは兄ちゃんと僕との関わりから…」
僕は多分詳しい事を知らないであろう自来也さまに、うちは兄ちゃんの事を話し始めた。
「…なるほどのォ、そして奴はお前に手をかけた、と。
しかし、サスケほどの手錬れから良く逃げおおせたもんだのォ」
まあ、それには仕掛けがあるんですけどね。
今回の手口は傀儡の操演技術です。
最近開発された技の1つなんですが、「遅延操演」って言います。
僕、というか身に纏った八畳風呂敷くんにはそれが仕掛けられてました。
眼つぶしが暴発した時に、体を高速回転させるように仕掛けておいた訳です。
んで、兄ちゃんの剣に貫かれたのは僕のチャクラをたっぷり含ませた風呂敷くんを纏いつかせ、狸の手足のように偽装したただの茶釜。
本体である僕は回転する足のつま先の所に茶釜モードで気配を完全に断ち、回転で掘り返された土の中に埋まっていた訳です。
僕たち茶釜一族の特性として、什器に変化している時は達人と呼ばれるような人たちでもそのチャクラを感知することはできません。
そうして死んだふりを続けていたので、規定していた時間が過ぎるまで周囲の事は全く分かりませんでした。
あ、そうだ、自来也さまに聞いておかないといけない事があったんだ。
「自来也さま、1つお尋ねしたい事が」
「なんじゃのォ、分かる事なら、まあ答えん事もないのォ」
何やらおちょくる気満載なんですが。
まあいいや、それならそれでコミュニケーションがとれるというもの。
その会話から…
「なんの気ない会話から推測せんでも答えてやるわい、全くかわいげが無いのォ…」
ええっと、うずまき兄ちゃんと一緒にしないでください。
一応僕のお師匠様って志村のダンゾウおじいちゃんですからね。
そう言った事を視線に乗せてジト目で返すと、自来也さまはえへんと咳を1つ。
そして、僕にとっては重要な事を話し始めたのです。
「万華鏡写輪眼?」
又聞いた事のない言葉が出てきました。
「そうじゃ、万華鏡写輪眼。
うちは一族の中でもその歴史の中でほんの数人しか開眼した事のない、まあ言ってしまえば「写輪眼」の上位互換の血継限界じゃのォ。
ワシもうちはイタチに『消えない炎』の忍術を喰ろうてのォ、そこから調べてみて初めて知ったんだがのォ」
ふむ、兄ちゃんであればその秘術を手に入れたい、と思うのはおかしなことではありませんが…。
しかしそうなると…。
「自来也さま、その秘術の習得条件ってなんですか?
たしか写輪眼の場合、自分が死にそうな目に会うって感じのものだった気がしますが。
でもそれだと、うちはの中にも数人しか出てないっていうのが奇妙ですし。
写輪眼よりは条件が厳しいんでしょ?」
「そうじゃのォ。
条件に関しては、ワシも知らんかったんだがのォ…」
? それはどういう意味でしょうか?
「話しを聞く限りでは、お前はうちはサスケと友好的な関係を築いとるのォ。
なるほど『うちは兄ちゃん』か、あ奴にとってはまあ、間違いなく『身内』じゃろうのォ…
サスケは幼少期に一族をイタチ以外を失っておる。
その為に奴はちと人間関係の構築に不得手を抱えとるじゃろう。
その例外が、ナルトやサクラ、カカシ、そしてお前さんじゃ」
はて、「身内」である事が今回の話とどう関係が… !?
「どうやら気付いたようじゃのォ。
多分じゃが、万華鏡写輪眼の開眼条件は『親しい友か親族を殺すこと』ではないか、と思う。
少なくとも、うちは一族という身内に特に愛情を持つ連中ならば、万華鏡写輪眼がほとんど発現しなかった、というのも腑に落ちるというもんじゃろうのォ」
…えげつないなあ。
うちはって家族愛の強い忍の一族だったって話に聞いたけど、そんな人たちに身内を殺すと手に入る強力な血継限界が発現するなんて。
ままならないもんだなあ。
さて、そうなると、サスケさんは僕を殺した、と少なくとも思いこんでいる訳だ。
たぶんその「万華鏡写輪眼」とやらが少なくてもある程度は発現したんだろう。
発現していないのであれば、兄ちゃんは僕の生存を疑い、ボクの潜り込んでいた地面をほじくり返していたはず。
そこから推測するに、発現条件って「親しい人の死を見る」か何かだと思うんだよね。
僕は死んでないし。
親しい人が死んだっていうその想いが発現のキーになっているとか? そんな感じなんだろうか。
で、前に聞いた時は「写輪眼」も最初の発現時は中途半端だったとか。
目の中に浮かぶ勾玉みたいな模様が最初は1つ、で、最終的に3つと順を追って増えていったんだとか。
「…おい、ブンブク、大丈夫かのォ?」
自来也さまにそう言われて僕は思考の海から戻ってきた。
さすがに今回は考える事が多すぎる。
「…まずはなんで兄ちゃんが『僕を殺す』事に考えが至ったか、何ですよね」
僕がそうこぼすと、
「うん? あ奴は力を欲しておったんじゃろう?
ならば『万華鏡写輪眼』の習得を考えてもおかしくはなかろうて」
まあそうなんですけどね。
ただ、僕のいた間にうちは兄ちゃんの目的は「うちはイタチを殺す事」から「うちはイタチに勝つ事、何故に『うちは壊滅』を成したのかを知る事」に変わっていました。
それに、イタチさんに対抗するために同じ武器を以ってぶつかるのは経験という点から不利である事が分かっていましたし、
だからこそ「捩じり千鳥」っていう自分だけの武器を完成させて、イタチさんにもうずまき兄ちゃんにも負けないっていう自信を取り戻したはずだったんですけど。
そこで「万華鏡写輪眼」にこだわる意味が分からないんですよね。
僕が音隠れに来る前にも似たような事があったって大蛇丸さんが言ってたけど、あの時はうずまき兄ちゃんとサクラ姉ちゃんと戦った事が直接の原因だったみたいだしなあ、今回みたいに突発的に変わるっていうのはどうも奇妙だ。
それを自来也さまに話すと、
「…確かに、サスケは情緒が不安定な部分があったのォ。
一見落ち着いておるように見えるから見逃しておったが、『うちは』という
ナルトと関わるようになってから大分変わったと聞いとったんだが、もしかすると子どもの頃から変わっとらんかったのかのォ…」
自来也さまはそう言った。
…僕としてはそれならそれで、と思うけど、問題があるとすれば、それが人為的に作られた可能性を捨てきれない所なんだよねえ。
「…ブンブクよ、お主何を考えておる?」
ありゃ、顔に出てましたか。
さてどう言ったもんだか。
このあたりの話はダンゾウさまの指令にある「介入者」関係の話だからなあ。
はっきり言って荒唐無稽な内容で、ダンゾウさまが言ってるんじゃなきゃ僕だって一笑に伏す内容だ。
有史以来、人類の歴史に干渉して「忍術」を発展させようと企んでいる存在がある、なんて。
正直言ってダンゾウさまが言い出す内容じゃない。
これが3代目さまとかなら分からなくもないんだけど。
ダンゾウさまは
そのダンゾウさまがこんなけったいな事を言い出している訳で、その言葉には奇妙な説得力があった。
そもそもそう言った陰謀ってダンゾウさまの本領な訳で。
陰謀家であるダンゾウさまがあり得ない事を証明しなくてはならない「介入者」の存在。
僕だってうちは兄ちゃんがそんなんに介入を受けているとは信じがたい。
だって、木の葉隠れの里にいる間は周囲から「最後のうちは」って事でほぼ常時監視されているようなもんだし。
で、音隠れの里の場合はもっと狭い。
ほとんど大蛇丸さんの視界の中じゃない?
そんな所で兄ちゃんにちょちょいっと介入するなんてどんだけの実力者なのか。
かつての英雄であるうちはマダラとか、初代火影である千手柱間さまとかそう言う超人でも、1、2度ならともかく、十分な暗示を与えられる回数兄ちゃんに接触するのなら、絶対に大蛇丸さんに気取られるだろう。
かといってその1回2回で兄ちゃんに十分な暗示をかけられるとも思えない。
そうなると、神代の怪物らしく凄まじい実力、またはチャクラによらない特殊能力を持っているか、よほど巨大で、忍各里に気取られないだけの隠密性を備えた組織であるのか、さもなくば…。
「…サスケの生まれたあたり、もしくはそもそもうちは一族が千手一族と共に木の葉隠れの里を創った辺りから既に何らかの操作をされていたとか、かのォ」
自来也さまは僕の考えていた事をどうやら兄ちゃんが人為的な影響を受けていた場合の事を考えていた、そう取ってくれたらしい。
「さすがに荒唐無稽、とは思うがのォ、少なくともサスケが何らかの人為的な影響を受け取る、と考えるのが自然ではあるのォ」
さて、それがいったい何なのか、もしくは誰なのか。
もしかしたらサクラ姉ちゃんみたいに、「内なるサスケ」とかあるかも知んないし。
一族を虐殺され、それをしたのが自分の兄だった、というストレスから
「? か、かいりせいえどういつせーしょうがい? ブンブクよ、また面倒くさい専門用語じゃのォ…。
まあお前は病院にも出入りしとったし、そつなく必要な知識は勉強しとったろうがのお、ワシは医療忍術が専門じゃないんでの、もうちっと優しい言葉で頼むのォ」
「まあ早い話が親族が死んじゃって、そのストレスで二重人格になったんじゃないかって話なんですが」
「…それはないのォ、うみのイルカやはたけカカシから聞いてもそれらしいけいこうはなかったんでの。
こう言っちゃなんだがのォ、お前さんの言うところの解離性同一性障害だったかの、それは忍の世界ではままあることでのォ。
忍は時に外道を以って外道と相対す事がある。
外道とはそれを好まぬものにとっては非常に負荷がでかいんじゃのォ。
その為に、心の中にもう1つの人格を作ってしまう事がある。
じゃからの…」
「なるほど、二重人格の判断って忍の世界では経験則的に可能、ってことですね!」
「そう言う事じゃのォ」
自来也さまはそう頷いた。
そうなると兄ちゃんのあの変貌は外部からの影響な可能性が高いってことか…。
これは報告書にあげておかないとまずい気がする。
ここ何日かで色々と音隠れの里の廃墟から手掛かりになりそうなものを
あ、そうだ、折角自来也さまもいるのだから、音隠れの廃墟でもうちょっと情報収集するのがいいかも。
「自来也さま、もう一度現場に戻って調査してみませんか?
僕が見落としていたものも、自来也さまならいろいろ見つけられるかも知れませんし」
なにせ廃棄、偽装していったのが大蛇丸さんの右腕である薬師カブトさんだ。
僕に見つかる程度の痕跡ではまだ情報が不十分。
万能忍者の自来也さまなら、もっとしっかりした資料が見つかるかもしれない。
僕はそう考えたんだ。
木の葉の隠れ家から音隠れの廃墟まで移動する間、自来也は茶釜狸の姿に変化した茶釜ブンブクをその肩に乗せながら深く思考していた。
茶釜ブンブク。
こ奴はいったい何者なのか。
自来也は当代きっての忍であることを自負している。
自身に政治に関わる能力はなく、木の葉隠れの里の上層部のような位置にいるべきではないと考えているが、実働、指導双方に多大な貢献をしてきた。
実働としては当然、伝説の三忍と謳われるほどの成果を上げてきた。
また、指導に関しても、4代目火影・波風ミナトを育て上げるなど、十分な功績であろう。
単純な体術で綱手、忍術、幻術で大蛇丸に劣るが、それを補うほどの戦闘センスと経験を以って最強の忍を争うにふさわしい実力を持っている。
当然知識としても非常に多くの事を知っている。
本来であれば、ブンブクの持っている知識などは全て自来也の頭に入っているはず。
しかし、さきほどブンブクが口に出した「解離性同一性障害」という言葉。
あれは自来也が聞いた事のない言葉だった。
拷問班の連中が使う「心に関しての用語」であるのは分かるが、医療忍術の記述の中に、「多重人格」という言葉は出てきても、解離性同一性障害という専門用語はない。
それに、医療に関して一番進んでいるのは忍界であろう。
チャクラを使用した医療技術は既存の医術を大幅に凌駕している。
その中で、この子狸は「二重人格の判断って
まるで医術の世界で医療忍術に勝る知識、技術が存在している事を知っているかのように。
“こ奴に関しても、もちっと目を配っとくべきかもしれんのォ…”
自来也はこのナルトの弟分にしばらく注視しておくことを決めていた。
さて、自来也さまと廃墟の探索です。
さすが自来也さま、僕なんかが探すより的確に資料になりそうなものを見つけていきます。
自分でも捜査をしつつ、自来也さまがどう言った所に着目しているかを盗まないといけませんね、ってか、自来也さま盗ませる気満々ですね。
「まあのォ、ナルトの奴はこう言った小技を覚えようとせんからのォ。
その割に直感で重要な事は見逃さんし、師匠泣かせな奴よ…」
ああ、まあ兄ちゃんならそうでしょうねえ。
兄ちゃんの様な直感の無い僕は、先達のやり方を学ばせてもらう以外にないもんだからして。
自来也さまのやり方を取り入れて改めて周囲を見てみると、乱雑にとっちらかった戦いによって壊れた個所と、「完璧に」乱雑にとっちらかった箇所がはっきりと見えてきます。
なるほど、ここがカブトさんが偽装したところか。
こりゃ最初に僕が見つけたのは「見せ札」の部分かな。
分かりやすい偽装部分を用意して、本当に隠しておきたい所に手を掛けさせないようにする。
カブトさんの几帳面さが見える仕掛けです。
とはいえ、やっぱりカブトさん、それでもその几帳面さゆえに偽装が「完璧」過ぎて微妙に浮いて見えました。
このあたりの地面をほっ繰り返せば…と。
あ、兄ちゃんの攻略ノート見っけ。
これは重要かも、何か追加で書き込みされてるかもだし。
そんな感じで数時間捜索を続けていると。
「…! ブンブク、誰か来おるぞ!?」
まずいですね、それ。
僕たちは
そのまま待つ事しばし。
そこにやってきたのは…。
「ハァ…、自来也さま、どこ行ったのかしら?」
木の葉隠れの里のくノ一、みたらしアンコ特別上忍でした。
暁 大は小を兼ねない
どぉん!!
「暁」の所有する修練場の1つが吹っ飛んだ。
「…おい、どうなってんだ、うん?」
デイダラがトビを睨みつける。
ペインはいつのも無表情を貫いているが、己の所持する修練場が破壊されて面白いはずもない。
トビは冷や汗をかきつつ、その元凶たる存在に声をかけた。
「いやあ、あのさあ、ちょっと壊し過ぎじゃない?
手加減してっていったよね、オレ…」
その声に首をかしげるのは茶釜ブンブクに酷似した、「聖杯のイリヤ」を名乗る存在。
こてん、と首をかしげるその姿は年齢以上にそれを幼く見せていた。
「さっきは全然だめ、もうちょっと力を入れて、って言ってた」
「それでこれかよ、うん」
修練場にあった的、ちょっとした丘ほどの土の塊はイリヤの放った「火遁・豪炎球の術」で消し飛んでいた。
事の始まりは、デイダラが、
「暁の一員になるんなら、それだけの実力を見せるべきだな、うん」
と言った事による。
ペインが修練場を用意し、イリヤが放った1撃目。
ぽよん、へろへろ、ぺちん。
とても「火遁・豪火球の術」とは呼べないような、ちんまい火種が時々ふらふらと揺れながら丘まで辛うじて飛び、雑草に焦げ跡作って消えた。
デイダラの笑い声のみが周囲にこだました。
苦笑いをしているのが仮面越しにも分かる様なトビが、
「ねえ、イリヤ。
もうちょっと力を入れて使ってごらん。
お兄ちゃんにちょっといいとこ見せてほしいなあ」
などと言った途端だ。
「ん、頑張る」
それのその言葉に嫌な予感がしたトビ。
「ちょっとで良いんだよ、手加減してね、お願いだから…」
そう言い含めてイリヤに2撃目を繰り出すよう指示した。
そうしてイリヤが印を組み、
「な!? なんだこの桁外れのチャクラはよ、うん!?」
息を吸い込み、
「ちょ、ちょっとイリヤ!?」
その口から「青みがかった炎」を噴き出した。
通常、豪火球の術は直径数メートルの火球を吐き出す忍術だ。
その色は大体が「火」のイメージそのままの鮮やかなオレンジ色、というところだ。
それがイリヤの噴出した炎は暗青色。
通常のイメージとは違い、炎は青みがかるほうが温度は高い。
そしてその直径は10メートルを優に超える。
炎は直進して、
じゅっ!!
という音と共に標的である丘を蒸発、急速に温度が上昇した周囲の空気と気体化した土によって、
どぱん!!
と爆発した。
「もうちょっと加減とか、コントロールとか出来ねえのか、うん?」
吹き飛ばされてきた泥まみれになったデイダラがそう言う。
この威力では、尾獣狩りにすら使えるかどうか分からない。
ついでに言えば、実戦で使うには結印の速度が少し遅い。
溢れるばかりのチャクラがあるのは結構だが、それだけでは戦闘集団である暁の一員としては足りない。
体術はそれなりのものであるようだが、その程度ならその辺りにはいて捨てるほどいるのが今の忍界だ。
だが、
「問題ない」
ペインがそう言う。
「どこがどうなれば問題がないってんだ、うん?
どうみても問題だらけだろうが、うん」
さすがに呆れてデイダラがそう言う。
ペインとて役立たずをメンバーに加えようとはしないだろうから、何らかの使い道はあるのだろう。
しかし、直接戦闘能力がない、というのは致命的だ。
暁は傭兵集団でもあるのだから。
自分の実力を十分に理解しているデイダラはそうであるが故にイリヤの力が不安定で危険なものに見えていた。
高確率で暴発するであろう巨大な力なぞ、近くに置いてほしくはない。
それが自分の今の相方であるトビの関係者ならば尚更だ。
自分自身がすっ飛ぶならばともかく、デイダラとトビを巻き添えにされてはたまらない。
そいうことなのだが。
「それには直接戦闘能力以上の価値がある」
ペインの言葉にデイダラは引っ掛かりを覚える。
ならば、それは…。
ペインはトビを見ながら言った。
「トビ、計画通り口寄せを行え」
「は~い、了解了解。
デイダラ先輩、大丈夫ですって。
この『聖杯のイリヤ』は特に口寄せに特化した存在なんすから」
なるほど。
自分自身では戦わず、召喚動物によって戦うスタイルなのか。
デイダラは納得した。
この膨大なチャクラで強力、または大量の召喚動物を呼び出して戦わせるならば、多少結印が遅かろうがコントロールが悪かろうが構わないだろう。
「んじゃイリヤ、君の頼もしい護衛団を呼んじゃおうか。
そう、『聖杯の八使徒』を、さ」