NARUTO 狐狸忍法帖   作:黒羆屋

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これにてお盆で書き溜めたストックが切れます。
そして閑話集終了。
次回から新展開ですが、原作の見直しなどもしますので、1週間から2週間ほど間が開くかもしれません。

なお今回は伏線回です。


第60話 閑話集 そしてプロローグ

 閑話 木の葉隠れの里では

 

「…ごほっ、キヌタ君、君に木の葉流剣術免許皆伝の免状を出します、今まで良く励みました」

 こほこほと咳をしつつ、月光ハヤテ上忍は、己の弟子である元音隠れの下忍、ドス・キヌタにそう告げた。

 キヌタは元々音隠れの里の忍として、大蛇丸よりうちはサスケの実力、素養を調べる為の捨て駒として数年前の中忍試験に参加していた。

 その際、明らかに格上である「砂瀑(さばく)我愛羅(があら)」に手を出して、彼はそのまま殺されるはずだった。

 ぼろ雑巾のようになった彼を救ったのは今の剣の師匠でもあるハヤテであった。

 当時、「木の葉崩し」で精鋭の多くを傷付けられ、リタイヤに追い込まれた木の葉隠れの里では、戦力の増強が望まれていた。

 その為、大蛇丸の洗脳によって自我が大きく削られていたキヌタには木の葉隠れ拷問班謹製の洗脳術が施され、里への忠誠をすりこまれた状態で下忍として活用されることになったのである。

 当初、人形のようであったキヌタも、様々な人間、特に茶釜ブンブクとの接触によって、人としての人格が再形成され、今では洗脳の効果のみならず、己の意志で木の葉隠れの里の人々と生きていきたい、そう思うまでに成長した。

 その為には強くなる必要がある。

 キヌタは己の持つ「血継限界」である「響遁」以外の術を使いこなす事が出来ない。

 キヌタの右腕は大蛇丸によって改造され、音を増幅するアンプのような忍具となっている。

 つまりは右の腕一本、それが義手であるという事。

 忍術は両手で印を結べなければ発動できない。

 印を結ばずとも発動できる血継限界以外の忍術を、キヌタは使用できないということだ。

 故に、キヌタは戦いの起点を響遁と、体術に頼る必要があった。

 

 さて、木の葉隠れの里には「木の葉流剣術」という武術が存在する。

 いわゆる道場剣術の1つであり、また古流剣術でもある。

 木の葉隠れの里では一応なりとも護身術として忍以外の者も修練する武術であり、それなりに名の通った道場も存在する。

 とはいえ、いわゆる型稽古をしっかり学ばせる流派であり、即効性のある武術でもないのでそれほどはやっているとは言い難い。

 なにせこの世界には「忍術」「忍者」の存在がある。

 剣術に限らず、武術というものには「型」というものが存在する場合がほとんどだ。

 型稽古とは、言ってしまえば「シチュエーションバトル」である。

 相手が上段から打ち込んでくるから、それを剣で弾いていなし小手を斬る、などという状況を想定して、それに対応する型を飽きても練習する。

 そうすることで、才能がない人間でも、その状況になった時に、咄嗟に反応し切り返す事が出来る訳だ。

 ところが忍術のような出鱈目な威力、あまりにも異常な軌道を描く攻撃など、どう型を創れば良いのか。

 どれだけ型稽古を積んでも、結局は個人の資質に帰結するのだ。

 そうは言ってもその技術が忍にとって無駄か、というとそうでもない。

 剣を振る、捌く、受け流す、突くと言った技術の要諦は、それぞれの一族や学校で教えられるものよりは数段奥深い。

 それはそうだろう。

 剣を志した者達の技術の集大成だ。

 同時に、「剣術を教える事を生業とする」道場主という教師もいるのだ。

 どんなに無才であろうとも、ある程度の技術を習得させることのできる教授方法が確立している。

 例え教授する者が無才だとしても、学習方法さえしっかりしていれば技術は継承されていく。

 そうして継承された技術は新しい技術を加えて更にその錬度を増していくのだ。

 この武術を学んでいた者の中に、茶釜ブンブクがいた。

 彼は自分のチャクラの保有量の少なさを知っており、様々な技術を貪欲に取り込むことでチャクラの少なさをカバーしようとしていたのである。

 残念なことに彼の戦い方は木の葉流剣術とは合わなかったようだ。

 しかし、いくばくかの成果はあったようで、ブンブクは木の葉流剣術の事を良く覚えていた。

 キヌタが戦闘技術を磨きたい、と彼に相談した時、ブンブクはいくつかの戦闘術を羅列した。

 その中に木の葉流剣術もあったのである。

 キヌタはその当時、周囲とあまり関わらないよう動いていたのだが、その少ない人脈の1つとして、かつて彼を助けてくれたハヤテがいた。

 ハヤテとして見れば、まだまだ不安定であったキヌタの監視する、という名目でもあったのだが。

 キヌタはハヤテに弟子入りを志願した。

 ハヤテとしてもキヌタの監視がしやすくなる関係で了承、ここに彼らの師弟関係が構築されたのである。

 

 キヌタは当時、自我が薄かったせいもあるのだろうか、ハヤテとしては非常に指導しやすい弟子であった。

 言いつけはすべてきちんとこなし、その為に剣術の習得はまるで乾いたスポンジに水がしみ込むようにするするとキヌタの中に入っていき、その能力をあげていった。

 キヌタの精神状態が武術を学ぶのに適した状態であったのも幸いしたのだろう。

 ほとんどの者が根をあげる基礎的な修練の時には師に従順に従い、技術を習得した後の戦い方を自身で考えなければならない時期には、忍術学校のうみのイルカの尽力もありキヌタの人格は安定しており、自分で考えて戦術を組めるまでになっていた。

 己の弟子が順調に育っていく様を見て喜ばぬ師はいるまい。

 初めての弟子であり、また恋人との生活も順調であったハヤテは、キヌタの成長にその尽力を惜しまなかった。

 一定以上の実力を認められて、キヌタが下忍として活躍した時期、ハヤテはキヌタの洗脳を行った拷問班の者達からの餞別を受けて、キヌタにチャクラ刀を送った。

 このチャクラ刀はキヌタに最適化されたもので、彼の響遁を強化する働きを持っていた。

 キヌタが喜んだ事は言うまでもないだろう。

 彼は両親より捨てられた。

 彼の持つ血継限界の為である。

 彼は忍の家系ではなかった。

 それにも拘らず、突然変異の如く彼に血継限界は現れた。

 それが彼の周囲から見れば「悪魔憑き」と見えたであろう。

 そして住処を追われ、拾われた大蛇丸からも捨て駒として扱われたキヌタにとって、ハヤテの傍はそれは居心地の良いものだったのだろう。

 彼は木の葉隠れの里に対して大きな恩義を感じるようになっていた。

 彼は茶釜ブンブクとチームを組むようになり、更にそこからコミュニティは広がっていった。

 それはまるでナルトと関わってブンブクが変わっていったように。

 キヌタにとってのブンブクは、ブンブクにとってのナルトとの関係であったようだ。

 そしてしばらくして、かれはトレードマークのように身に着けていた顔の包帯を解き素顔を晒すようになった。

 彼にとって、顔の傷もまた、迫害を受けた事のマークであり、それを人に見られるのは恥であり、恐怖であったのだろう。

 それを公然とさらすことで、キヌタは「ここで生きていく」という覚悟を示したのだと、後に担当上忍であるメイキョウは語っている。

 

「師匠、今までありがとうございました」

 キヌタは半紙に書かれた綿状の文言を見ながら、感慨深げに言った。

「…ごほっ、まあ、ここで縁が切れる訳じゃありませんから。

 たまには顔を出しに来なさい。

 夕顔も楽しみにしていますし…こほっ」

 キヌタは苦笑いをしつつ、

「まずは師匠も体に気を付けてくださいね。

 夕顔さんも、『月光』姓になるのを楽しみにしているのですから…」

 そう言い、彼は師の前より退出した。

 

 

 

 元・音の四人衆は木の葉隠れの里において、受け入れられていた。

 彼らにとって幸いであったのは、封印されている呪印、そう大蛇丸より施された自己強化の術式である、を多用していた為に、膨大な量のチャクラを体に蓄える経験があった事である。

 その為に大容量のチャクラを扱う経験がある為に一般的な忍よりも術を()()()()()のが楽であったのだ。

 そう、彼らの人格が呪印の影響で破壊されていった時、大きな記憶の欠損も生じた。

 多くは幼少時の記憶であったが、その頃に体験した「基本的な術の記憶」も同時に壊れてしまっていた。

 その為、木の葉で教育を始めた時の彼らは「呪印を使うことを前提にする術」に関しては覚えていたものの、基本的な術、変わり身や分身、簡単な変化の術、およびそれを前提とした五遁の術の大半が使用できなくなっていた。

 その技術を改めて刷り込んだのは拷問班の面々である。

「いやあ、ありゃ一苦労だった」と言うのは拷問・尋問班の森乃イビキ。

 彼ら拷問班は文字通り「拷問・尋問」を行う、相手から情報を引き出すプロフェッショナルである。

 それと同時に、心理戦のプロでもあり、ある意味医療忍者よりも「人の心」に詳しい集団であった。

 故に、人として、ほぼ死んだも同然の状態になっていた音の四人集をなんとか人として成り立たせたのは彼らの実力が高い証左であった。

 一旦人として立たせる事が出来たなら、次に行われる教育は、忍術学校の対音の四人衆担当チームである。

 ドス・キヌタを教育したうみのイルカ率いる教師集団は、一度綺麗にトんでしまった彼らの常識を改めて教育する事に成功していた。

 また、教師集団は4人のカウンセリングを行い里への帰属を深めるとともに、彼らが里において受け入れられる下地を作り上げていた。

 これはブンブクが迫害されていたナルトを救うべく作り上げた社会資源を流用していた。

 木の葉隠れの里にて元・音の四人衆が受け入れられたのは彼ら4人の努力と、周囲の尽力のおかげであった。

 その努力は見事に実り。

 

「う…うぅっ…、ぜんぜぇ~…」

 半分、というか10割方泣きながら、かつて「北門」の2つ名を持っていた、現・童多由也は。

 黙って差し出されたハンカチで目元をぬぐい、ついでに乙女としては問題であろう鼻水を拭う。

 差し出したのは比良山次郎坊。

 四人衆のまとめ役、というかしりぬぐい役である。

 彼とて感慨が無い訳ではない、が。

「その、さ」

「オレら、さ」

 何やらいつもの倦怠感はどこに行ったのやら、何とも言いづらそうにしている宿儺右近と左近。

「先生達には本当に感謝してるぜよ…」

 教員たちを前に、そう謝辞を述べる葛城鬼童丸。

 そう、今日は彼ら元・音の四人衆の忍術学校卒業式なのである。

 木の葉隠れの上層部より、彼らは常識・情操面、忍としての必要な知識が十分であると認められ、ここ(にんじゅつがっこう)より巣立つ事になったのだ。

 卒業生は彼ら4人。

 式典には学校の教員、そして学校の長として6代目火影・千手綱手が出席していた。

 その他にも、日向や奈良、山中や秋道など主だった一族の長や、拷問・尋問班の強面など、何故にここにいるのか、という面々がそろっている。

 これは別に彼らを威嚇するつもりではなく、彼らに縁のある者達が「まあ誰も参加しないだろうからオレくらいは…」程度の気持で三々五々集まった結果であった。

 おかげで子どもたちはともかく、大人達はなんとも気まずい顔をしているが、まあ枯れ木も山のにぎわいである。

 式典は粛々? と進んだ。

 

 式は終了し、4人は忍術学校を卒業することとなった。

「よしみんな、卒業祝いだ、肉でも食おう!」

 イルカ先生が教員を代表して言う。

「!! 良いんですか!?」

 食欲で言うならチョウジと大して変わらない次郎坊が言う。

「な!? お前少しは遠慮しろよ! そんなんだから…」

「多由也」

「…はい、言いません」

 次郎坊の言葉に罵倒で突っ込みを入れようとしてイルカに止められている多由也。

「でもなあ…」

「オレ達も次郎坊ほどじゃねえけど食うしなあ…」

 チョウジとよく遊ぶせいか、それとも身体操作系の血継限界を持つせいか、右近・左近も良く食べる。

「…折角のタダ飯なんだし、祝い事だし奢ってもらってもいいんじゃねえの?」

 要領が良く、教師陣に奢ってもらい慣れている鬼童丸は後々仕事をして返していけば良いと思っていた。

「はっはっは、大丈夫だって。

 ほら、あそこを見てみな」

 イルカは校庭を指差した。

 そこには、

 

「お~い! 早く来ねえと始めちまうってばよお!!」

「ナルトぉ! 今日はあいつらのお祝いなの! 主役とばしてどうすんのよ!」

「あ~めんどくせぇ、なんでオレが…」

「とか言って仕切りはあんたじゃない?」

「バーベキューコンロはうちからだよ! はやくおいでよぉ、待ちきれないよ!!」

「ほれ、シノはそっちのコンロに火ぃ付けてくれ、赤丸は盗み食いする奴がいないか警戒な、ってナルトォ!! つまみ食いすんな!」

「いーじゃん別に…」

「ワン! ワン!」

「うぉっ! 怒んなって赤丸… ちぇっ」

「あの、ナルト君、もうちょっと待とうね」

「…キバ、こちらのコンロも準備出来たぞ」

「こちらもだ。 …何か言いたそうだな、リー」

「いえ。 しかし、ネジ君がこういった催しに参加するとは思いませんでした。

 これも青春ですね!」

「リーもネジもそこで睨みあいしない!

 さっさと準備してよね!!」

「鬼童丸くーん、早く来るっすよー!!」

「そうだねえ、みんな食べたいんだもんねえ」

 

 うずまきナルトをはじめとした彼らの友人達が、何台ものバーベキューコンロを持ち出して、バーベキューパーティーの準備をしていた。

 企画・ブンブク及び奈良シカマル、機材提供・秋道一族、資金提供・日向をはじめとした各有力一族、準備手配仕切り・犬飼キバ、その他雑用全員と言う陣営である。

 元々が音隠れの忍であった彼らへの風当たりは当初厳しかった。

 それを抑え込み、彼らへの好意的な見方に変えていったのはイルカ達忍術学校の教師であった。

 それと同時に、彼らを里へと取り込むことのメリットを説いていったのはブンブク及び彼らと戦ったシカマル達である。

 次郎丸とはチョウジ、日向ネジとは鬼童丸、キバとは左近・右近、シカマルとは多由也が戦った。

 彼らが元・音の四人衆の強さを証明し、彼らを取り込むべしと語ったのである。

 実際、元・音の四人衆の能力を考えてみると、里にとって有用な力ばかりではないだろうか。

 次郎坊のチャクラ吸収術、鬼童丸の副腕術と大蜘蛛の口寄せ、右近左近の双魔の攻、多由也の魔笛、どれをとっても強力な血継限界、秘伝忍術である。

 下賤な言い方だが、彼らを取り込むことで、一族の幅が広がる可能性すらあるのだ。

 よくもまあ大蛇丸はこれだけの逸材を簡単に切り捨てたものだと3代目火影・猿飛ヒルゼンは呆れつつも驚いていたものだ。

 それだけ大蛇丸がうちはサスケに執着していた(あかし)なのだろうが、何とももったいない。

 それを拾い上げたのが5代目火影・志村ダンゾウだった訳であるが。

 里の利益、友情、全部をひっくるめて元・音の四人衆は里に溶け込んだのだ。

 

 さて、これだけのメンバーがいて、なにもおきないと言い切れるか。

 答えは否、であろう。

 

「次郎坊、しっかり食べて帰ろう!」

「応!!」

「兄貴、食うぞお!」

「だな、食いだめておこうぜ…」

「兄ちゃん! キバさん! 食材なくなった!?」

「ああん? とっくに追加注文だしてんだけどなあ!

 ブンブク、お前赤丸と一緒にちょっと肉屋まで行ってくれ!」

「うっす、承知です! 赤丸くん、行こう!」

「うぉん!」

 

「…まず食え」

「…おう」

「…次もオレが勝つ」

「…次は負けねえぜよ」

「ネジも鬼童丸君も青春ですね!」

「リーは茶化さない。

 ほら野菜も焼いて焼いて」

「あ、リーさん、お肉焼けましたよ、はいどうぞ」

「うぁ、サ、サクラさん、ああ、ありがとうご…」

「リー! キチンと火の通ったのあげるわ!!」

「サクラちゃぁん…」

「…なんかマジになんのが馬鹿らしくなるぜよ」

「フッ、このメンツでは仕方あるまい、食ってまぎらわせ」

 

「ちょっとサクラ」

「ん? なによ、いの」

「あれあれ…」

「ん? …! ほっほう…」

「ね?」

「ん!」

「…おめえらやめとけっての」

「? どうかしたっすか?」

「あ、フウ、ちょっとこっちに来なさい」

「何があるんすか?

 …うみのイルカさんと多由也さんっすか?」

 

「あ、あのさ、せ、先生…」

「ん? どうした多由也?」

「ウチ、もう卒業するけど、さ、その、せ、先生にまた…会いに来てもいいのかな?」

「? …! ああ、そう言うことか!」

「駄目…かな…」

「あっはっは、そんな訳ないだろう?

 いつだって大歓迎だよ。

 実際、もう卒業したナルトとは良く一緒に飯を食いに行ってるぞ」

「え? ああそうだなあ、先生とは『一楽』で飯食うぞ?」

「え…」

 

「あんの鈍感バカがあ!!」

「サクラ! あの馬鹿シメルわよ!!」

「ええっと、サクラさん、いのさん、もうちょっと落ち着くっすよ!

 ちょっと、シカマルさん見てないで止めるっす!!」

「…いや無理だから、めんどくせぇとか言う前に無理だから」

 

 ワイワイと和気あいあい(一部殺気混じり)と和やかに(一部血の雨)バーベキューパーティーが進む。

 それを見ながらブンブクはこう思うのだ。

「ねえ赤丸くん、こんな日が続くと良いねえ…」

「わんっ!」

 

 これより2日後、茶釜ブンブクは木の葉隠れの里より失踪する。

 その事を知っているのは上層部の一部だけであった。

 

 

 

 閑話 新メンバー登場?

 

「暁」の拠点の1つ。

 そこには、ペイン、小南、うちはイタチ、干柿鬼鮫、そしてデイダラ。

 今現在残っている暁のメンバーが勢ぞろいしていた。

 彼らの前にいるのは、奇妙な、まるで渦を巻いているような意匠の仮面を付けた男、トビ。

「で、トビ。

 ナンパしてきたっていうメンバーってのはどいつなんだ、うん?

 誰もいないみたいに見えるんだがよ、うん」

 トビの現在の相方であるデイダラがそう言う。

 デイダラとしては己の分のノルマ(びじゅうほかくにんむ)をさっさとこなしてしまいたい所であった。

 暁の優秀な情報網が、デイダラの分のノルマである「三尾」の居場所を掴んできた。

 その為、ツーマンセルと基本とする暁のチームとしてはトビをサポートに置いておき、確実に三尾を捕えなければならない。

 面倒な仕事ではあるが、暁という組織に所属する以上、その組織の求める仕事はしっかりこなしておきたい、そうデイダラは考える。

 岩隠れの里において、デイダラは異端であった。

 忍の社会において、芸術という比較的軽視されがちなものを重視する姿勢を持ち、その為か周囲からは変わり者として敬して遠ざけられる。

 別に礼儀に欠けていたりするわけでもなく、むしろ義理堅く、約束事はきちんと守る。

 しかし忍の社会に生きる者としてはどうか。

 確かに忍にとって信用は重要だ。

 しかし、それは「いつ裏切ったら最も効果的か」という要素の1つに過ぎず、忍の忠誠心は忍里に帰属すべきもの、という事になっている。 

 そしてダンゾウの例を見れば分かる通り、忍は実利主義だ。

 まずは自分と所属組織に利があるか、それを考える。

 その忍界の中でデイダラは息苦しさを覚えていたはずだ。

 それが、デイダラを禁呪である「物質にチャクラを練りこむ術」への道へと駆り立て、岩隠れの里から逐電させたものであったのだろうか。

 その後も岩隠れの里は執拗にデイダラを追い詰める。

 己の芸術を認めず、己を追い詰める組織に苛立ちを持ったであろうデイダラ。

 それが収まったのは暁にスカウトされた時だろうか。

 あの時、自慢の起爆粘土がイタチに通じず、彼ともう一度闘う為に暁に入った後。

 方向性は全く違うが芸術を解する男、「赤砂のサソリ」と出会い、忍界のはみ出し者達と罵倒し合ったり、馬鹿を言ったり。

 デイダラにとって意外なほどに「暁」は居心地が良かったのかもしれない。

 その暁の任務である。

 出来ればさくりと終わらせて、義理は果たしておきたいところだ。

 その任務を置いてまで連れてきているはずの新メンバーとやらはどこにいると言うのか。

 デイダラは一度イタチの写輪眼による幻術で痛い目にあっている。

 その為、幻術対策に大きな比重をもって日々の修練をしている。

 そのデイダラに幻術を以って隠密を仕掛けているとしたら、とうの昔に発見していておかしくはないはずだ。

 しかし、

「ほら、恥ずかしがらずに出ておいでって、ここにいる人達が今から君の同僚になるんだからね」

 いかにもお気楽なトビの、そのフード付きのコートの下から、小柄な人物が出てきた。

 その姿は、

「…」

「!」

「むう(本物か、いや…)」

「なんと!」

「おいトビ、それって…」

 

 目の前には白髪の、多分少年であろう人物が立っていた。

 その目はまるで血のように赤く。

 そして「暁」の面々には彼に見覚えがあった。

 デイダラが言った。

「それって、『茶釜ブンブク』じゃねえか、うん」

 

 トビが白髪になった茶釜ブンブク?に言う。

「ほら、皆さん混乱しちゃってるでしょ?

 ちゃあんとあいさつしないと、さ」

 その人物はこっくりとどこか幼さを感じさせるしぐさでトビに頷き、

「ボクはイリヤ。

『聖杯』のイリヤ。

 コンゴトモヨロシク」

 そう言った。

 

 

 

 閑話 闇の中

 

 ()()は闇の中にて目を覚ました。

「…あれ?

 ここは、一体、どこ?

 ええっと、ちょっと頭がはっきりしない…」

 彼がいるのは周囲の状況も分からないほどの黒い世界。

 霧のようなものがあるようにも思えるが、視界がはっきりせず、先も見通せない。

 にもかかわらず、自分の体はくっきりと見えるのだ。

「うーむ、ここって一体どこじゃん!?

 誰かいないのかってばよおーッ!」

 彼の声は闇に溶けていった。

 

 

 

 そしてプロローグ

 

 急速に意識が覚醒する。

 ああ、目が覚めたって感じだ。

 うちは兄ちゃんに、その、殺されかけ、いや、襲撃されてから、3日ほど経っているはずだ。

 あれから僕は一時的に全てのチャクラを封じて、ただの茶釜になり済ましていた。

 そうでもしないと兄ちゃんに確実に捕捉されていたはずだから。

 で、狸寝入り(しんだふり)を続けて設定した時間が来た為に目を覚ました、という事なんだけど。

 なんだろ?

 なんかこう、体が圧迫される感じがあるんだけど。

 周囲真っ暗だし、ってまあ地中に逃げたんだから当たり前か。

 さて、んでは出よう、か?

 あれ? 体がやたらと重い。

 なに? どうしたの?

 パニックを起こしそうになる気持ちを押さえつけ、大きく深呼吸、を、したつもりになって落ち着いてみよう。

 …どうやら僕が潜り込んだ地面の上に何かがのっかってる様子です。

 一体上で何が起きたんだろうか。

 まずは少しでも動ける方向に行くしかないよね。

 僕は準省エネモードになって、土を掻きわけつつ移動していくのでした。

 こういう時は動物の体って便利だよね。

 

 しばらくほっくり返していくと、かなり硬いものにぶつかりました。

 多分壁か屋根の資材だね。

 さすがに今のサイズだと、これを除けて動くのは無理だね。

 仕方がないので資材の縁にしたがって地面を掘っていく。

 なんかモグラにでもなった気分だなあ。

「山のトンネルゥ海のトンネルゥもぐらトンネルゥ みいんなでぇ渡りぃ」

 とか歌いながら、お、出口っぽい。

 いっせえのおでっと!!

 僕の頭上にあった土と瓦礫がごそっとなくなって。

「ぷはっ、死ぬかと思った」

 やっと日の光を浴びる事が出来ました。

 …ん?

 日の光?

 …おかしい。

 だって僕のいた音隠れの里の施設って、大蛇丸さんの趣味もあるんだろうけど、中に囚われている人たちに場所とか時間帯を特定させないために、ほとんどの所が地下になっていたはず。

 僕が兄ちゃんと戦った修練場も、上に天蓋のある地下修練場だったんですから。

 それなのに、今僕は陽の光を浴びている。

 …周囲を見回します。

 …瓦礫の山です。

「…ってあれ? みんなは? 施設の屋根はどこ行ったの?

 いったい何が起きたんだってばよ!?」

 もう何が起きているか分かりません!?

 …もちつき、じゃなくて落ち着きましょう。

 さて、今の状態だとまずは…。

「逃げだして落ち着ける場所を探そう、何かまずい気がするし」

 ちょろちょろと施設跡を移動しつつ、ボクはそう呟きました。

 

 元々みんなの暮らしていた生活区画に僕は隠れ家を見つけました。

 僕1人くらいなら入れるんですが、出入り口が非常に狭く、準省エネモードくらいでないと通れません。

 まあ、忍の中には蛇とか鼠とかを口寄せ動物で使う人もいますから、絶対安全とは言い切れませんが。

 そんなのに見つかったら茶釜に化けてやり過ごしましょう。

 そう言う訳で人が来ないうちにここでなにがあったのか、調査くらいはしといて損はないよね。

 

 数時間見て回った結果、どうもここは大規模な破壊痕があり、また、施設を意図的に破壊、廃棄した跡がある事が分かりました。

 研究棟は資料が軒並み持ち出され、火遁や土遁を使って廃棄されていました。

 かなり巧妙にやってあるんで、ちょっとした癖を見つけられなければ分からなかったでしょう。

 …これ指揮してたの薬師カブトさんです。

 そう、大蛇丸さんじゃない。

 大蛇丸さんならもうちょっと雑然とするはず。

 あんまりにも丁寧に偽装しすぎてるんです。

 この細やかさはカブトさんです。

 火事に見せかけた破壊とか、丁寧過ぎるんだってば。

 前に、大蛇丸さんがカブトさんを叱ってた時の事を思い出しますねえ。

 …いやいや、逃避してどうする僕。

 で、多分一番最初に破壊されたのが修練場のあたり。

 見ると、斬撃の跡とか、多分踏み込みで割れた石畳とか、うちは兄ちゃんの戦った痕跡があるんだよね。

 で、なにか巨大なものが暴れた痕跡もあるから、多分口寄せ系を使った感じだ。

 僕の掌よりでっかい鱗とかもところどころ落ちてるし、これは巨大な蛇、かな、が暴れたんだろうと予想できる。

 そんな事を考えていたからだろうか。

 僕は周囲の警戒を怠っていたんだと思う。

 ふわっとした浮遊感。

 僕は茶釜のふたをつままれて、持ちあげられていた。

「…なあんでお前がここにいるんじゃのォ、え、茶釜ブンブクよ」

 …自来也さまこそなんでこんなところにいるんですか?


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